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「オーナメント…ですか?」

シンジは首をかしげてミサトに問いただす。
その問いにミサトはにっこり微笑んで頷く。
テーブルを挟んで座っている二人。
アスカは今日は朝早くからネルフ本部の方に行っている。

「そう、クリスマスツリーに飾る飾りのこと。」

「はい、それはわかっているんですが。」

ミサトは怪訝そうに尋ねる。

「あれ?シンちゃん聞いてなかった?
Nervでクリスマスパーティやることになってるんだけど。」

シンジは思い出したようにこくこく頷く。

「そう言えば昨日アスカがそう言ってましたね。」

「そう、それでシンちゃんに、オーナメントの買い出しに行って欲しいんだけど。」

納得したように答えるシンジ。

「はい、それなら。」

「買い出しは今日、学校が終わってからでいい?」

「そうですね、特に問題はないです。」

「で、レイと一緒に行ってくれる?」

少し首をかしげてシンジは答える。

「綾波…とですか?」

「えぇ、結構な量になると思うから、二人で行ってきて欲しいのよ。」

「分かりました。このことは綾波には伝えてあるんですか?」

「リツコが話しているはずだから。」

「分かりました。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Christmas Carol

SIDE A REI
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

TIME/1999
24th December 1999
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その放課後、シンジは大きく背伸びをする。
クラスメート達は既に席を立ったり、何人かで集まったりとばらばらになっている。
立ちあがって斜め後ろの窓際にあるレイの席を見る。
しかし、そこにはレイの姿は無かった。
あれ?どこに行ったんだろ?
首をかしげながら、レイの机の前に歩いていくシンジ。
鞄はあるみたいだから、まだ校内にいるみたいだけど。
きょろきょろ教室内を見まわしてレイの姿を探すシンジ。
まいったな。
どこいったんだろ?
シンジが途方にくれていると、いきなり背後から声がかかる。

「碇くん?」

少し驚きながらもシンジが振り向くと、そこにはレイが立っていた。

「良かった…どこに行ったのか探してたんだよ。」

「そう…私に何か用?」

その問いかけにシンジは面食らって尋ねる。

「用ってリツコさんから何も聞いてないの?」

「何を?」

シンジはふうと軽くため息をついて答える。

「僕と綾波でツリーのオーナメントの買い出しに行ってくれって。」

レイは小首をかしげて答える。

「聞いてないわ。」

「…そうか。」

シンジはため息をついて、そう告げた。
まぁ、いいや。
とりあえず、買い出しは僕一人で行こうか。
と、レイが鞄を持ってシンジに言った。

「じゃあ、行きましょ。」

シンジはレイが言った言葉を理解できずに、きょとんとした表情を浮かべる。

「へ?」

「買い出し。行くんでしょ?」

「綾波も来るの?」

その言葉にまっすぐシンジの瞳を見つめて尋ねるレイ。
シンジはまるで燃えるように輝く真紅の瞳に見とれてしまう。

「私が一緒に行くのは嫌?」

シンジは慌てて首を振る。

「ううん。とんでもないよ。一緒に来てくれる?」

「いいわ。行きましょ。」

そう告げてすたすたと歩き出すレイ。
シンジも慌ててその背中を追いながら、先ほどのレイの表情を思い返していた。
嫌?って聞いたとき、一瞬だけレイの表情が変わった気がする。


思い過ごしかな?
 
 
 
 
 
 

二人は電車に乗って三駅離れたあるお店に向かっていた。
夕方の帰宅ラッシュの影響か、車両の中はかなり混んでいた。
二人は車両のドアの傍の壁側で、シンジの胸の中に収まるようにレイが立っている。
レイの耳元に顔を寄せて囁くシンジ。

「大丈夫?」

シンジのその問いにこっくりうなずくレイ。
しかし、かなり辛そうだ。
シンジはなんとか場所を作ろうとするが、ぎゅうぎゅう詰めになっているので、身動きが取れない。
と、車両が揺れ、二人は抱き合うような形になってしまう。
レイを抱きかかえるようにシンジ立つ。
シンジの胸に手を置きレイはうつむく。
おでこもシンジの胸にくっついている。
しばらく立った後で、レイは小さく息をつく。
この感じは何?
碇くんの鼓動が聞こえてくる。
すごく安心できる気がする。
このままこうしていたいと感じている。
どうして?
こんな感覚は始めて。

「綾波?」

シンジが怪訝そうにレイに囁いた。

「何?」

そう答える声が少しだけ震えた。
何だろう?
レイは自分の声を聞いて不思議に思った。
どうして、こんなに。

動揺しているの?
シンジは何かに見とれるようにレイを見ている。

「どうかしたの?」

そう尋ねるレイに、シンジは慌てて首を振って答える。

「い、いや、何でも無いんだ。」

「そう。」

レイは顔をまた伏せる。
シンジは視線を中にさまよわせる。
綾波が僕の胸の中にいると思うと何かすごく意識しちゃうよ。
綾波の体…
華奢で、壊れちゃいそうだよ。
女の子ってみんなこんな感じなんだろうか?
それとも綾波だからなんだろうか?
綾波の手が僕の胸に添えられている。
こんなに綾波を近くで感じるのは始めてだ。
どうしよう?
すごくどきどきしてる。
バレてるかな?
レイの背中に回している左手がかすかに揺れる。
綾波も少しだけどきどきしてる?
少しだけ、ほんの少しだけ呼吸が早い気がするよ。
綾波の髪がそらそら揺れるたびにかすかにいい匂いがする。
シャンプーの匂いだろうか?
レイが少し身じろぎする。
綾波も恥ずかしいのかな?
さっき僕の顔を見上げた時、瞳がすこし潤んでいたかも。
気のせいかもしれないけど。
二人は黙ったまま寄り添って立っていた。
 
 
 
 
 
 

「え〜と、ミサトさんに教えてもらった店は…」

かばんからメモを取り出して、お店の位置を確かめる。
そして、シンジは大通りの方を指差す。

「こっちだね…行こうか?」

「うん。」

レイは素直に頷いて、シンジに従う。
夕方と言うこともあって通りは大勢の人が歩いている。
人ごみを歩くのに慣れていないレイはシンジに遅れがちになる。
その様子を見てシンジは立ち止まる。

「もしかして、綾波って、こういうところ歩くの苦手?」

レイはこくりとうなずく。

「じゃあ…」

シンジは少しだけ思案して、手袋をはめた右手を差し出す。

「?」

レイは不思議そうにシンジの右手を見つめる。
シンジは少し恥ずかしそうに頬を染めて告げた。

「手をつなごうよ。」

「手を?」

シンジははにかみながら頷く。

「はぐれちゃ大変でしょ。」

レイは恐る恐る自分の左手をシンジの右手に重ねる。

「じゃあ、行くよ。」

「…」

二人は歩き始めた。
シンジはレイが歩きやすいように二歩ほど前を歩く。
レイはそのシンジに引っ張ってもらう形になる。
なんだろう?
この気持ち。
今まで感じたこともない気持ち。
レイは心に沸いたある感情に戸惑っていた。
さっき、碇くんに触れていた時も感じたこの気持ち。
心の奥に何かが。
そう、空白だった部分に何かが収まったような。

私は今までこれを探していたの?
それとも、ただの思い過ごし?
でも、はっきり感じる。
すごく暖かい。
ずっと感じていたい。
そう思える気持ち。
 
 
 
 
 
 
 
 

二人は数々のオーナメントを前にしていた。
シンジは首をかしげてレイに尋ねる。

「せっかくだからオーナメントはある程度統一しておきたいよね?」

「統一?」

こくこくうなずくシンジ。

「いろいろなオーナメントを飾るのもいいんだけど…
例えば、オーナメントの色合いをそろえるとか、ジャンルを揃えるとか。」

レイはそれには答えを返さず、さまざまなオーナメントに視線を移す。

「碇くんの好きにして。私はこういうもの良く分からないから。」

「そう?」

シンジはしばらく考えていたが、レイに告げる。

「じゃあ、綾波には色を何にするか決めてもらおうかな?」

「色?」

「そう、例えば赤系統で揃えるとか。」

レイはそっけなく答える。

「赤…は嫌。」

だって、赤は血の色だから。
そして、それはLCLを思い起こさせるから。

「じゃあ、綾波は何色がいい?」

その問いにレイは視線をさまよわせる。
色…

「私が選ぶの?」

こっくりうなずくシンジ。

「そう…綾波が選んで。綾波の好きな色って何?」

私の好きな色。
でも、好きな色なんて…


レイは一つのブルーのボールを手にとってシンジに見せる。

「この色…がいい。」

「ブルーだね。やっぱりそうじゃないかと思ったよ。」

レイはその言葉に疑問を感じたのか首をかしげて尋ねる。

「なぜ、そう思ったの?」

「だって、なんとなくブルーってイメージだから。
綾波の髪の色って淡いプラチナ色だけどブルーが入っているからかな?
それに今日着ているコートも濃いブルーだし。」

レイは自分が着ているコートを見る。

「おかしい?」

シンジは慌てて首を振る。

「そんなことないよ…すごく似合ってて…」

はにかむように微笑むシンジ。

「かわいいと思うよ。」

その言葉に少しだけ頬を赤く染めるレイ。

「そう…」

レイは少し戸惑ったようにそう答えた。
少しいつもの反応と違うことに驚いたシンジだったが、微笑み返してシンジは告げた。

「じゃあ、青系のオーナメントを集めようか?」
 
 
 
 
 

そして二人で買い出したオーナメントでツリーの飾り付けが行われ、
ネルフでのクリスマスパーティが始まった。
シンジはふと会場内にレイがいないことに気がつく。
アスカは加持にまとわりついて、ミサトと何か言い合いをしている。
ケンカというよりはふざけあっているといった感じなので、シンジは止めに入っていない。
リツコはマヤにつかまっている。
マヤは既に酔っ払いモード前回でリツコに激しく何かを主張している。
リツコは軽く受け流しながらワインを飲んでいる。
オペレータ二人組は他の部署の女性達を盛り上がっている。
ゲンドウと冬月の姿は無い。
まぁ、こっそり抜け出して帰ってしまったのかもしれないけどね。
苦笑を浮かべて、シンジは部屋を出て通路をゆっくりと歩く。
通路の奥にちょっとしたベランダがあるので、そこにいるのではないかと思ったからだ。
ドアを空けてベランダに出てみると、そこには確かにレイがいた。
ぼんやりと空を見上げていた。
自分の予想が当たったことに半ば驚きながら、シンジはレイに呼びかけた。

「綾波…」

レイはゆっくりとシンジの方を振り向く。

「碇くん?」

レイは視線を元に戻してつぶやくように尋ねる。

「どうしてここに?」

シンジは軽く肩をすくめて答える。

「いや、なんとなくここじゃないかって。」

レイがコートを身に着けないで立っているのを見てシンジは尋ねる。

「寒くない?風邪ひいちゃうよ。」

「大丈夫、すぐ戻るから。」

「そう…」

シンジはレイの横に並んで空を見つめる。
薄く雲が張っているのか、星空は見えなかった。
月も淡く輝いているだけだ。
二人は黙ったまま立っていた。
シンジはそのレイの横顔を眺める。
と、月の光が強くなり、二人の周りに降り注いだ。
レイの髪が月の光を受けてきらきらと輝く。
シンジは無意識につぶやいた。

「こうしてみると…」

「?」

レイがシンジの方を見る。
シンジはにっこり微笑んで言葉を続ける。

「綾波の髪ってすごく綺麗だなって。」

普段なら口にできないような言葉。
しかし、この場の雰囲気が言わせたのだろうか?
シンジはそう告げて、恥ずかしそうにはにかんだ。

「ご、ごめん。何か変なこと言ったね。」

しかし、レイの反応はシンジの予想していたものとは違った。

「嬉しい。」

そう答えシンジの方を見るレイ。
その口元には笑みが浮かんでいる。
そう、あの時のように。
シンジがレイに告げたあの時のように。

「笑えばいいと思うよ。」

その答えを受けて微笑んだ微笑と今のレイの笑みは同じだった。
シンジはにっこり微笑んで頷いた。
いつのまにか月はまた雲に隠れてしまったようだ。
淡く輝いていたレイの髪は元に戻っていた。

「碇くん…」

「何?」

レイは何も告げずにシンジに視線を向ける。

「…」

じっとシンジを見つめるレイ。
そして…

「私、碇くんと…」

そこまで言って言葉を切るレイ。
シンジは不思議そうに首をかしげる。

「僕と…何?」

レイは軽く首を振って答えた。

「何でもない。忘れて。」

視線を逸らすレイ。
しかし、何かに気がついたのか手を上げる。
そのレイの手に舞い降りてきたものは。

「雪?」

「そう。雪だね。ホワイトクリスマスか。」

そう話をしている間に舞い降りてくる雪は数を増やしていた。

「これが雪。」

そのレイのちいさなつぶやきはシンジには聞こえなかった。
そして、ふと空を見上げているシンジの横顔に視線を向ける。
どうしてだろう?
私はこの人と一緒にいると変わっていくような気がする。
今までの私と違う私に。
それはいいことなのだろうか?
それとも悪いことなのだろうか?
シンジと視線が合う。
少し照れくさそうにはにかむシンジ。
それを見てレイの心に何かが沸き起こる。
いいことだと信じたい。
私が私であるために。
この暖かい思いを忘れたくないから。
そして、そのまま二人は肩を並べて舞い降りる雪を眺めていた。
 
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_12/24公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

クリスマス記念SS「Christmas Carol」レイ編です。

いや、クリスマス記念も3回目ですねぇ。
年々ネタがきつくなってきますが、今年も何とか3本書きました。

このお話はTV版のサイドストーリ的に書いてみたんですが、
やはり本編レイは書きにくいです。私にとっては。
まぁ、少なくとも連載には使えないですね。私の技量が低くて。

さて、クリスマス記念は他にアスカ編、マナ編があります。
アスカ編はオーストラリアに行くことになったアスカ、シンジのお話です。
マナ編はイブの帰り道でのシンジ、マナのお話です。

これで今年の更新はこれで終了予定です。
来年も早いうちに更新再開したいですね。

それではみなさん良いお年を。

でわ〜。






  ここっここっっ





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