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Winter Song

SIDE A REI

















TIME
24th December 1998




















その雪は夜半から降り始めた。

始めは、雨交じりに。

そして、雪だけに。

辺り一面、白一色に塗り替えられていく。

家々の屋根も、

車が通らなくなった道路も、

そして、街灯のクリスマスツリーも、

白い結晶が積もっていく。

それは静かに、しかし確実に広がっていく。

そして、翌日。

街は白く雪化粧していた。

ずっと、我慢してた…

友達以上の関係を求めていたけど…

好きだった…

誰よりも…

でも、告白できなかった…

今の関係を壊したくなかったから…

アナタの側にいることができれば、それでいいと思っていた…

でも…

アタシは…

告白してしまった…

これ以上は胸にしまっておけなかった…

今の関係が壊れてもいい…

彼の本心を知りたかった…

どんな結果になろうとも…

そう、ずっと前から感じていた…

僕が彼女を好きだってこと…

そして、彼女も僕のことを…

でも、それは望んではいけないことだと思っていた…

ずっと、一緒にいた二人…

友達以上の関係…

でも恋人ではない…

この関係で終わってしまうと思っていた…

気づかずに二人が引いていた線…

彼女はそれを超えてきた…

それがどんなに勇気が要ることだったか…

彼女のその気持ち…

とても嬉しかった…

だから、僕は…

雪は翌日も降り続けた。
クリスマスイブのその日、
彼はあるクリスマスツリーの前に立っていた。
駅前のそれは高さが10Mもある巨大なツリーだった。
彼、碇シンジはそのツリーを見上げる。
ツリーの大きさに合わせて、飾りも大きなものがついている。
イルミネーションはついていない。
その代わりにガラスボールの中に立てられたキャンドルが飾られている。
他には、金色に輝くボールや銀色の鐘、
サンタクロースに赤いリンゴ。
ほうきに乗った魔女や毛糸の靴下。
その他、同じ物がまず見あたらないほど
さまざまのものが飾られている。
そして、その全てを白い雪が包んでいる。
シンジはふうとため息をつく。
白い息がふわっと広がる。
シンジはそれを見て、何年か前のことを思い出す。
あの頃は、吐く息が白いのが面白くて、二人で遊んだよな。
視線を駅の入り口に向けるシンジ。
時間が時間だけに、大勢の人達でごった返している。
雪は少し、小さい目の固まりで降り続けている。
強くもなく、かといって弱くもなく降るというよりも、
舞い降りるといった表現が一番あっている。
ホワイトクリスマスを楽しむには十分な降りかただった。
シンジはしばらく舞っている雪を見ていた。

「シンちゃん!」

その声を聞き、声の方に振り向くシンジ。
誰の声かは分かっていた。
ずっと、一緒にいた彼女の声だったから。
その人影に向かって、手を上げるシンジ。
グレーのコートをまとって、
彼女、綾波レイは小走りにやってくる。
シンジの前まで来て、にっこり微笑むレイ。
その笑みはずっと前からシンジが見ていたものと同じ笑顔だった。
ずっと、見ていたくなるような、華やかな笑顔。

「待った?」

レイは頬を上気させ、白い息を吐きながら尋ねる。
頬が少し赤い。
そして、胸に手を当てて、ゆっくりと、深呼吸する。
シンジはにっこり微笑んで答える。

「ううん。そんなに待ってないよ。」

シンジはレイの頬に手を当てる。
レイの頬は冷たいかった。
目を閉じて、自分の手を重ねるレイ。
その手も少し冷たかった。
レイはシンジをおかしそうに睨む。
知らない振りをしようとしてそっぽを向くシンジ。
しかし、レイはシンジの顔をきゅっと両手で捕まえ、
自分の方に向かせる。
そして、シンジの肩を睨むレイ。
シンジも自分の肩に積もっている雪を見て苦笑する。
気にしてはいたのだが、雪が降るのに見とれているうちに積もってしまったらしい。

「積もってるよ。雪が。」

慌てて、肩を払って雪を落とすシンジ。
レイはおかしそうにくすくす笑っている。
シンジもつられて、微笑む。
笑っていたレイがふと、ツリーを見上げる。

「すごいね。こんな大きなツリー、始めて見た。」

シンジももう一度見上げる。
舞い降りてくる雪が目に入らないよう瞬きする二人。

「そうだね、僕も始めて見たよ。」

レイはうなずき、ツリーを見上げている。
シンジはそのまま黙ってレイを見つめる。
そう。いつもこうして君は僕の隣に一緒にいたよね。
たぶん…これからもずっと…

「同じ飾りがないみたいね。」

「そうだね。」

飽きることなくツリーを見上げるレイ。
雪がそんなレイの肩や髪に舞い降り、白く染め上げていく。
その様子をシンジは興味深そうに見ていた。
シンジの様子に気づき、視線をシンジに戻し、首をかしげるレイ。

「どうかした?」

「なんでもないよ…」

シンジは微笑み、すっとレイの右手を握る。
驚いたように目を見開くレイ。
二人は幼なじみだが、最後に手をつないだのは小学校の頃だ。
それなのに…
レイはシンジの瞳を見る。
その瞳はいつものように暖かかった。
そして、こっくり肯いて見せるシンジ。
レイも肯きかえし、そっとその手を握りかえす。
シンジは首を横に向けて道路の方を差し、たずねる。

「そろそろ行こうか。」

レイはうつむき、はにかむ。
恥ずかしい。
手をつないでるだけなのに。
やっぱり少し意識しているのかな。
すごく恥ずかしい。
街のイルミネーションがその顔を照らし出す。
そして、シンジの手をぎゅっと握りかえす。

「…うん。」

二人は大通りに沿って歩き出す。
その通りの街路樹にはツリーと同様にキャンドルが灯されている。
レンガの歩道。
舞い降りる雪。
そして、銀色の光を放つ街灯。
その全てが二人には新鮮に映る。
二人は人込みに紛れ、しかしゆっくりと歩いていく。

シンジの手って暖かい。
包み込まれる感じがする。
最後に手をつないだ時…
そう…
アタシのお母さんが…
交通事故で…
アタシ…
家に帰りたくなくて…
だって、帰ってしまうと、お母さんがいないっていう現実に…
向き合わないといけないから…
アタシはそれが恐くて…
ずっと、公園のブランコに座っていて…
でも、シンちゃんは黙ってアタシの側にいてくれて…
そして、約束してくれたんだ…
ずっと、アタシの側にいてくれるって…
ずっと、アタシを守ってくれるって…
すごく嬉しかった…
ふとシンジの顔を見詰めるレイ。

「シンちゃん。」

何気なくシンジ名前を呼んでしまうレイ。
シンジはにっこり微笑んでレイの顔を見る。

「なに?」

あのころから、全然変わってない。
その瞳も。
髪も。
笑顔も。
アタシの名前を呼ぶ呼び方も。
ずっと、このままで。
そう、ずっとこのままでいたい…

「ううん。なんでもないの。」

レイは首を振り微笑む。

通りはとある公園で終わっていた。
その公園は高台の上にあった。
街を一望できる場所にやってくる二人。
そこでは立ち並ぶビルのイルミネーションが見えた。
それぞれのビルがツリーを模していた。
吹き上げる風が少し冷たい。
レイはコートの前を合わせる。

「きれいね…」

レイはそれっきり黙って巨大なビルのツリー群を見つめる。
その横顔を見つめるシンジ。
今日のレイはいつもと違うように見える。
二人の関係が変わったからだろうか。
今まで気が付かなかった表情がいくつもある。
気のせいだろうか?
それとも…

「ね、シンジ。」

レイが恥ずかしそうに微笑みながらシンジを見る。
雪は降り続いていた。
今も雪の結晶がレイの髪に舞い下りてくる。
初めて、名前で呼んじゃった。
物心ついた頃からシンちゃんって呼んでた。
でも…

「なに?」

シンジは驚きながらも、いつもの笑みで答える。
レイはうつむき、頬を真っ赤にさせる。
急に恥ずかしくなっちゃった。
どうしてだろ?
不思議そうにその様子を見つめるシンジ。
レイはちらりと顔を上げ、シンジを見るが視線が合ったとたんに目を伏せる。

「あ、あのね…」

レイは言いづらそうにもじもじしていたが、小さな声でささやく。
しかし、シンジにははっきりと聞き取れる声で。

「こうやって、手をつないだのってすごく久しぶりだよね…」

「そう…だね。」

ゆっくりとうなづくシンジ。
公園の中の木々も、イルミネーションで輝いている。
吹きつける風が心持ち弱くなった気がした。

「ちょっと、びっくりしたけど…」

レイは顔を上げてシンジを見る。
つないだ手を少し強く握るレイ。
シンジの存在を確かめるかのように。
瞳が街の街灯を映してきらきら輝いている。
シンジはその瞳に見入ってしまう。

「嬉しかった…」

「うん…」

そんなシンジを見てレイは首をふるふる振った。

「少し不安だったの…」

レイは少し声を落とす。
視線を雪の結晶たちが舞い降りていく。
雪の降る勢いが少しだけ、弱くなってきていた。
シンジの手に重ねられた自分の手を見て、
ほっとため息をつくレイ。

「夢なんじゃないかって…昨日のことは全部夢で、
今日待ち合わせの場所に来てもいないんじゃないかって…」

レイの瞳が暗く翳る。
その表情にシンジは胸締め付けられる。
安心するようにきゅっとレイの手を握る。
それを感じて、レイはシンジを見て笑みを浮かべる。

「でも、シンちゃんはちゃんと待っていてくれて、
こうして手をつないでくれてる。すごく嬉しい…」

その表情はシンジの知らないレイの表情だった。
いつものような、無邪気な笑顔ではなく…
その笑顔は、違う何かを含んでいた。
シンジは首を振って、自分の思いを打ち明ける。
レイと同じ事を考えた自分の思いを。

「僕もそうだよ…すごく不安だった…だから確かめたかったんだ…」

そして、次の瞬間シンジは思いがけない行動に出た。
レイの方を向くシンジ。

「シンちゃん?」

レイはシンジに抱きすくめられていた。
驚いたように声を上げる。
シンジはレイを抱きしめる。
髪のいい香りがシンジの鼻をくすぐる。
そして、その耳元に囁く。

「ずっと、こうしたかった…」

レイは身体の力を抜く。
シンジの心音が聞こえる。
その音に包まれる感じがする。
ずっとこうしていて欲しい。

「嬉しい…」

顔を上げるレイ。
見詰め合う二人。
瞳にお互いの姿を認める二人。
初めてあった時から、こうなることを望んでいた二人。

「ずっと離さない…ずっと…」

瞳を閉じて、唇を重ねる。
何も聞こえない。
ただ感じるのは唇の感触。

「約束だよ。」

囁くレイに、うなずくシンジ。
二人にとって今年のクリスマスはいつもと違ったクリスマスになった。

Fin.



NEXT
ver.-1.00 1998+12/24公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

ども、TIMEです。

クリスマス記念SS「Winter Song」SIDE A REIはいかがでしたか。
去年に引き続き今年もクリスマス記念です。
REI編はお互いの気持ちを確かめたばかりの2人のお話です。

ちなみに、今年のクリスマス記念は3本です。
それを一挙公開ということにしました。
このSIDE Aはレイ編、SIDE Bはアスカ編で、SIDE Cはマナ編です。
#SIDE Cは連載のTime-Capsuleのサイドストーリーだったりします。

この3本をまとめて公開して今年は終わるつもりだったんですが、
もしかすると、まだあるかもしれません。(^^;;
#間に合えばの話ですが。

では他の連載もしくはSSでお会いしましょう。
まだの方はSIDE B,SIDE Cもお楽しみください。






  ここっここっっ





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