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彼女は目の前にある「ソレ」から視線を外し、大きな欠伸を漏らした。
続けて大きく背伸びをする。
そして最後に、ふうと小さくため息をつく。
うーん。
すっごく、眠いよぉ。
もう寝たいよぉ。
どーして、こんなに大変なのかなぁ?
今、何時なの?
彼女はかすむ瞳を凝らし、壁にかかっている時計に向ける。
すでに時計の針は二時過ぎを指していた。
もうこんな時間なの?
そろそろ寝ないと…
どうしようかな?
今日はここまでにして、休んだ方がいいのかな?



でも、ノルマはあと少しだし。
彼女は手の中にあるものをじっと覗き込んだ。
しばらく考え込む。
うーん。
やっぱりもう少しだけ…
せめてこれを越えるまで…
そして彼女は続きを始めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Time Capsule
Written by TIME/01
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

もう暦は十二月を指していた。
いつの間にか、冬服の上にコートを着ないと朝の登校が辛い季節になった。
確実に季節は秋から冬に移ろっている。
マナの体調は特に変化はなく、今のところは小康状態のようだった。
実際に同じ病に冒された者達は、すべからく亡くなる三ヶ月ほど前から、免疫力が低下していく。
しかし、彼女の免疫力は通常の一割減ほどだった。
このままいけば、なんとかなるかもしれない。
誰も口には出さないが、そう考え、希望を持ち始めていた。
完治はともかく、まずは年を越えて、春を迎えることができるかもしれないと。
そんな冬の始まりの季節。
 
 
 
 
 
 
 

しかし、誰もこれからの彼女の身に起こることを予測し得なかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第50話
終わりの始まり
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ありがとうございました。」

シンジは客に袋を渡し、元気良く挨拶をする。
お金をレジに片付け、店内の清掃に戻る。
その彼に隣でレジの清算をやっていた店長が、ふと顔を上げ告げた。

「シンジ君、そろそろ上がりの時間だよ。」

その言葉にシンジは時計を見て答える。

「そうですね…じゃ、僕はこれで…」

エプロンを外して、シンジは店長に答える。

「はい、おつかれさん。」

シンジはカウンターから奥の部屋の入ろうとする。
と、部屋から一人の青年が出てきた。
にこやかにその青年はシンジに声を掛ける。

「おつかれさん。」

「青葉さん。お疲れ様です。」

シンジはぺこりと頭を下げる。

「悪いね。皐月の代わりに入ってもらって。」

皐月は近所に住んでいる大学生だ。
シンジは彼に頼まれこのバイトを一週間だけ引き受けていた。

「いいえ。僕もアルバイト探してたんで、助かりました。」

「そうか。ま、一週間だけど、頑張って。」

ぽんぽんとシンジの肩をたたく青葉。
シンジはこくこくと頷いた。
 
 
 
 
 
 
 
 

「おふぁよ…」

いつものように、欠伸をしながらシンジが現れる。
最近は誰が起こしに行かなくても、自発的に起きるようになっていた。
ユイはキッチンから顔を出して、返事をする。

「あら、今日は少し早いわね。どうしたの?」

シンジは椅子を引き寄せ、座りながら答える。
まだ頭の中はぼうっとしているらしい。

「いや、なんとなくね…そーいえばマナは?」

いつもなら、とうに起きているはずのマナが、ダイニングにいない。
ユイは味噌汁の具を入れてかき混ぜつつ、首をかしげてつつ答える。

「そうね、いつもなら、もう起きてきてるはずだけど…
でも、最近夜遅くまで何かしてるようだから。」

「ふーん。そういえば、昨日僕が帰ってきた時に、まだ起きてたみたいだね。」

シンジは昨日の夜のことを思い返す。
別に部屋を覗いた訳ではないが、部屋から光が漏れていたのを見ている。
最近は体の調子も良いようだが、だからといって無理ができるわけではない。

「シンジに起こしてきてもらう…わけにはいかないわね。
ちょっとこのお味噌汁見ててくれる?」

エプロンで手をぬぐって、シンジにおたまを渡すユイ。
受け取って、キッチンに立つシンジ。

「うん。わかった。」
 
 
 
 
 

ユイはマナの部屋のドアをノックする。
しかし、返事が無い。
ドアをゆっくりと開けて、部屋の中を覗くユイ。
マナはまだ寝ているようだ。
と、彼女はテーブルの上に置いてあるものを見る。
それでユイは納得したように小さく頷く。
一緒に広げられている本を見て、彼女はにっこりと微笑む。
ユイはすうすうと眠っているマナ軽く揺さぶって声を掛ける。

「ほら、マナちゃん。朝よ。起きなさい。」

「えー?もう朝なのぉ。」

寝ぼけた声を出すマナ。
しかし、すぐぱっと目を覚ます。

「ユイおばさま?」

がばっと起き上がって時計を見る。
その様子を見てユイは慌てて答える。
どうやらマナは寝過ごして、遅刻寸前だと思ったらしい。

「まだ、時間は大丈夫よ。」

それを聞き、安心してふうとため息をつくマナ。

「ねぇ、ちょっといいかしら?」

にっこり微笑むユイ。
そして、ベッドの端に座る。

「いいですけど。朝食の準備は?」

「シンジに任せてるから。」

ユイは首をかしげて見せて告げた。

「違っていたのなら、いいけど。」

「はい。」

「もしかして、誰かさんへのプレゼントを作っているのかしら。」

そして、テーブルの上のものを指差す。
そこには編みかけのセーターが置かれている。

「…は、はい。」

真っ赤になってうつむくマナ。
そんなマナにユイは安心させるように微笑みかける。

「大変じゃない?私も覚えがあるけど、結構時間かかるのよね。」

「そうなんです。思ったより時間がかかって…」

ふう、と大きくため息を付くマナ。

「本当は手伝ってあげたいんだけど…
そういうものは自分で編まないといけないし…
そうね、何か分からないところがあったら、遠慮しないで聞いてね。
少しは時間の短縮になると思うから。」

「いいんですか?」

「もちろん。」

ユイも嬉しそうに微笑む。

「でも、体には気をつけてね。
最近は調子が良いとは言え、まだ完全に治ったわけではないのだから。」

「はい、わかっています。でも…」

そういって、うつむくマナ。
これだけは、やりたかったから。
シンジへのプレゼント。
どうしても自分で…
そんなマナの内心を知ってか、ユイは小さく微笑んだ。

「とにかくあまり無理はしないで、それでシンジが悲しむことになったら本末転倒よ。」

その言葉にはっと顔を上げてユイを見る。
そして、小さく肯いた。

「…はい。」
 
 
 
 
 
 

「もう、二人とも遅いよ。朝ご飯作っちゃったよ。」

二人が戻ってくると、シンジがエプロンをつけて、おたまを握り立っていた。
テーブルではゲンドウがコーヒーを飲みながら、新聞に目を通している。

「あら、アナタ。ご飯は?」

ユイが不思議そうに声をかける。
ゲンドウは朝食後にコーヒーを飲むからだ。
その問いに新聞に目を通したまま答えるゲンドウ。
一度新聞を読み出すと、読み終わるまで新聞から目を離さないのだ。

「あぁ、もう食べたよ。
君の目玉焼きも良いが、シンジの目玉焼きもなかなか良いぞ。」

「そりゃ、母さん仕込みですから。」

シンジが苦笑する。
これからの男性は、家事一般をこなせなければ駄目というユイの方針に従って教育されたため、
シンジは家事一般は普通にこなしてしまう。
彼は目玉焼きをマナと自分が座るテーブルの前に置く。
そして、マナににっこり微笑みかける。

「おはよう。マナ。」

マナも微笑みかえす。
その挨拶はいつも二人の間で交わされるもので、珍しくはない。
しかし、なぜかマナは頬を染める。

「おはよ。シンジのエプロン姿似合ってるよ。」

「なんか、別に意味がありそうだね。」

シンジは苦笑気味にそう答える。
慌てて、手を振るマナ。
特に深い意味があった訳ではなかったし、寝起きから、そんなに頭が回る訳でもない。

「ううん。そのひよこエプロンがかなり似合ってるって思ってから。」

その言葉に、シンジは自分が身に付けているエプロンを見下ろす。
確かに胸の辺りに三匹のひよこの絵が書かれていた。

「うーん…まぁいいや。母さんが来たんだったら、僕もご飯食べるね。」

シンジはエプロンを脱ぎマナの隣に座る。

「はいはい。」

ユイが代わりにエプロンをつける。
そして、ゲンドウがコーヒーを飲み終わったのを見て尋ねる。

「まだ、コーヒー飲みます?」

やはり、新聞から目をそらさずに答えるゲンドウ。

「あぁ、問題無い。」

ユイはカップにコーヒーを注ぐ。

「いただきまーす。」

「いただきます。」

シンジ、マナの二人は朝食に取りかかった。
 
 
 
 
 

「今日も寒いね。」

「そうね」

玄関から外に出たシンジは首をすぼめて呟く。
それに頷いて答えるマナ。
いつもの光景。
毎日、同じ会話を繰り返しているが、二人はそのことに気付いていない。
二人は歩道を学校に向かって歩いていく。
歩道にはかなりの人達が歩いていた。
寒さは厳しいが、太陽は出ているので、日が当たっている所はほんの少しだけ暖かかった。

「人が多いね。」

マナが辺りを見回して話す。
車道にも自動車の列が出来ている。

「そうだね。でも、ここも来年、遷都されて首都になるし、人や物が増えてくるんだろうね。」

「そうね。」

二人は、いつものように並木道を抜けて歩いていく。
シンジはふと思い付いたようにマナに告げる。

「そういえば、昨日遅くまで起きてたようだけど、何かしてたの?」

「え?何か聞こえた?」

マナは慌てて答える。
どうしよ。
ばれちゃってるのかな?

「ううん。僕が帰ってきた時に部屋から明かりが漏れてたから。」

「そう…ちょっとね。気になることがあって。」

「そうか。」

シンジは納得したように頷く。
マナはほっとしたようにため息をつく。
こういうのはナイショにしておかないと。
マナは少しだけ動揺していた。
しかし、そんなマナの内心はどうやらシンジにはわからなかったようだ。
 
 
 
 
 
 
 

当然ながらマナは授業中も編み物と格闘していた。
今の彼女にはなによりも編み物が最優先課題だった。
と、彼女は編むのをやめて、何やらセーターを凝視する。
あーん。
もう、編み目の数、数え間違えたよ。
えーっと。
いくつだっけ?
参考にしている編み物の本を取り出し、とあるページを開く。
ひとつ、ふたつ…
やっぱり、編みすぎちゃった。
…もう。
ほどかないといけないよ。
マナは慎重に編み目をいくつかほどいていく。
そして、もう一度、編み目を数える。
ひとつ、ふたつ…
あれ?
今度は編み目が足りないよ。
どうして?
ほどきすぎちゃったのかな?
マナはため息をつく。
まぁ、いいや。
足りなくなった分はまた編めば…
と、後ろの女の子が背中をつつく。
マナはびくりと身体を震わせて、ゆっくりと後ろを見る。

「…ど、どうかした?」

その女の子は小さく前を指して答える。

「多分、次の次ぐらいにマナちゃん当たっちゃうよ。」

マナは慌てて、教科書を取り上げる。

「えー?、今どこやってるの?」

その子は教科書のとある位置をさす。
今は英語のリーディングの時間で、一人一パラグラフづつ英訳をしていた。

「ここだよ。」

教科書のある部分を指差した彼女にマナは感謝する。

「さんきゅ。ありがと。」

「どういたしまして。がんばってね。」

その女の子はぱちりとウィンクをする。
マナはそれにVサインで答える。

「うん。頑張る。」

振り返り、マナは教科書を読んで、自分の当たるであろう個所をさっと和訳する。

「えっと…街灯がまたたく歩道を…私は…一人で歩いています…
あなたは…いま…誰と過ごしているのでしょうか?…」

その時、シンジは机に突っ伏して、爆睡していた。
別に睡眠不足という訳でもないが、
やはりバイトをしているせいで、いろいろと疲れが溜まっていたようである。
しかも、昼食後、午後一番目の授業である。
寝てしまったのも、無理はなかった。
英語の教師がシンジの隣にやってきて、頭を教科書でぽんと叩く。
しかし、シンジは全く起きない。
クラスの数名がくすくす笑う。
さらにぽんぽんと頭を叩かれると、シンジが小さな声で答える。

「うーん。もうちょっと寝かせてよ。」

クラス全員が爆笑する。
教師も苦笑してマナを見る。

「霧島君。彼は朝もこんな感じなのかい?」

教師としては冗談のつもりだった。
いきなり名前を呼ばれて、慌てて編みかけのセーターを隠すマナ。
そして、教師の冗談についそのまま真面目に答えてしまう。

「えぇ、いつもなかなか起きなくて、苦労してます。」

そのセリフにクラス中に歓声が上がる。

「おいおい、まさか本当じゃないよね。」

そう言われて、マナはきょとんとするが、慌てて答える。

「ええ、も、もちろんです。」

しかし、クラス中はどよめきに包まれていた。
その中でシンジはまだ眠りこけていた。
 
 
 
 
 

「ふあぁ、眠いなぁ。」

休憩時間になって、クラスの中が騒がしくなる。
その中でシンジが大きく伸びをする様子を見て、あきれたようにケンスケが告げる。

「お前、最近寝すぎじゃないか?」

シンジは眠そうに目をこすりながら、ケンスケに答える。

「最近、バイトで夜遅くて。」

そのシンジの答えに、ケンスケは顔を寄せ小さくシンジに囁く。

「いいのか?今はそれどころじゃないだろ?」

マナの体のことを知っているのは、クラスでもケンスケ、トウジ、ヒカリだけだった。
だから、聞かれたところで意味が理解できないとわかっていても、
ついその話題を口に出すときには、声が小さくなってしまう。
シンジは小さく首を横に振る。

「それはそうなんだけど、ちょっと、はずせなくてね。」

いぶかしげにシンジの顔を見るケンスケ。

「なんだ?彼女よりも大切なものがあるのか?」

シンジは笑顔で首を横に振った。

「そんなものはないけど。今じゃないと駄目なことなんだ。」
 
 
 
 
 
 

「ふぁ…」

マナが小さくあくびをして、背伸びをする。
そんな彼女の様子を見て、シンジが声を掛ける。

「最近、眠そうにしてるけど…」

「え?」

「ちゃんと寝てる?」

真剣なシンジの表情に、マナははにかんで肯く。

「う、うん、大丈夫よ。体の方は変化無しだし。」

しかし、シンジは首を振って、告げる。
夕日に彼の顔がオレンジに染まる。

「でも、気をつけないと。」

「うん。分かってる。」

マナはにっこりと微笑んで頷いてみせる。
それでシンジも納得したのか、頷き返す。

「でも、最近シンジの方こそ、帰り遅いじゃない。
バイトなんて急にどうしたの?
今日だって、授業中眠りこけてるし。」

「え?ちょっとね。近所の皐月さんに頼まれて。」

今度はシンジが少し慌てたように答える。

「ふうん。シンジも体、気をつけないと駄目よ。」

「う、うん。」

心配するつもりが心配されちゃったな。
ふと、そんな思いが浮かび、苦笑を浮かべながらシンジは頷く。
 
 
 
 
 
 

マナはリビングでユイに分からないところの編み方を教わっていた。
女性二人で盛り上がっているため、蚊帳の外のゲンドウ。
なんとなく、居場所が無い。
それでぼんやりと専門誌を読みふけっていた。
マナはユイの手元を見て、必至に編み方をマスターしようとしていた。

「ね、ここは…こうして。」

ユイは手首をかえす。
マナは自分でもやってみる。

「あ、なるほど。こうやればいいんですね。」

「そうそう…で、今度は…こう。」

「はい。できました。」

こくこく頷くマナ。
それを見て、ユイはにっこり微笑む。

「で、後はこれの繰り返し。編み目の数だけ気を付けてね。」

「はい。わかりました。」

マナはぺこりとお辞儀をして、ぱたぱたと部屋に戻っていく。
ユイはそれを見送る。

「嬉しそうだな。」

ゲンドウが持っている専門誌ごしにユイを見る。
ユイは嬉しそうに微笑む。

「そうですよ。だって、シンジに編み物教えるわけにはいかないですし。」

「なるほど。」

「なんか、違う意味でお母さんの気分を味わわせてもらいました。」

そう答えるユイの表情を見て、ゲンドウは軽く肯く。

「そうだな、子供も、男か女で違うからな。」

「でも、マナちゃんがうちの子になってくれれば。」

「おいおい、それは早計だ。」

苦笑ぎみに口許を歪めるゲンドウ。
しかし、慣れないものが見れば、先程の発言をあざ笑っているようにも見える。
もちろん彼との付き合いの長いユイにはその違いは楽に読み取れる。
平然とした態度でゲンドウの言葉に答える。

「あら、そうですか?」

「そうだ。決めるのは二人だからな。」

「でも、アナタもマナちゃんを気に入ってるんでしょ。」

「い、いや、ワタシは…」

表面上は何も変わらないように見えるが、内心はかなり動揺している。
もちろん、それもユイにはお見通しだった。

「何、照れてるんですか。」

「別に照れてはいないぞ。」

ゲンドウは咳払いをして専門誌に視線を落とす。
ユイはおかしそうにその様子を見ていたが、表情を改める。

「でも、本当にそうなってくれれば、どんなに良いことか。」

それが実現するということは、少なくともマナには未来が与えられるということだ。
ゲンドウも表情を改め小さく肯いてみせる。

「我々には切り札がある。
それに赤木博士からアレの使用も取り付けた。
あとは準備が間に合うことを祈るだけだ。」

「そして、私達の予想通りに機能してくれることを。」

神妙な表情でユイはゲンドウの言葉に付け加える。

「そうだな。」
 
 
 
 
 
 

マナは自分の部屋でセーターの袖と格闘していた。
両袖とも編んでみたのだが、長さが違う。
同じ数だけ編んだのに、びみょーに違うよ。
どうしよ。
おんなじ数だけ編んだのに。
うーん。
困った。
やっぱりおばさまに…
時計を見ると、もう夜中の三時を指していた。
あれれ?
もうこんな時間なんだ。
まさか、こんな時間に聞く訳にもいかないし。
どうしよ。
しばらく考えるマナ。
そして、ふうとため息をつく。
ま、いいや。
予定より、少しだけ進んでるし。
今日はこれまでにして寝ようっと。
マナはテーブルの上を片づける。
でも、最近シンジってバイトばっかりね。
確か、二十四日で終わりって聞いてたけど。
そんな事を考えている間に片づけは終わり、ベッドに横になるマナ。
そして、照明を落とす。
すぐに睡魔が訪れ、マナはすうすうと寝息を立て始めた。
 
 
 
 
 
 

彼女は一人でそこにいた。
どこまでも広がる草原。
そして、その中にぽつりと立つ一本の木。
真っ青な空にぽつりぽつりと浮かぶ雲。
その大きな木の幹に右手をおき、彼女は瞳を閉じて立っていた。
まるで、何かに耳を澄ますかのように。
いや、彼女には何か聞こえているのかもしれない。
しばらくしてから、彼女は目を開けて、小さく首を振る。
肩まで伸びた髪がふわりと小さく舞った。

「賛成一、反対一、条件付き賛成一…ね。」

そして、彼女は満面の笑みを浮かべて、頭上を見上げる。
そこには、彼女が手を置いている木が枝を伸ばしている。

「じゃあ、決まり。私は手伝う。そして、彼女を助けるの。」

そして、彼女の身体は光に包まれる。
彼女の身体が消え、小さな発光体だけになる。

「私の意思の力。
それを捨てればこの子は開放される。
本来の力を発揮できる。
でも、それは私という存在が消えるということ。
だからこれは切り札だけど、でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないの。」

その発光体を中心として、それまで色をもっていていた全てが真っ白に染まってゆく。
そして、その形を消滅させる。
まずは一本の大きな木がその輪郭を消してゆき存在しなくなった。
それから草原の草が続いて消えてゆく。
空では、青が白に代わり、雲と空の境界がなくなり、全てが真っ白に変わっていく。
そして、白い空間の中で、唯一その発光体だけが輝きを放っていた。

「その時のために、私は存在してきたのかもしれない…だから。」
 
 
 
 
 
 

「どうしたの?」

彼のその問いに彼女は物憂げに小さく囁いた。
その言葉を聞いて、彼の口元に柔らかな微笑が浮かぶ。

「やっぱり気になるの?」

彼女はこくこくと頷き、訴えるような瞳で彼を見る。
その瞳を向けられ、彼は少しだけ困ったような表情を浮かべる。

「会い…に行きたいんだね。」

もう一度彼女はこくこくと頷く。
その返事に彼はやはり困ったように頭を掻いた。

「今、僕が彼に会い行くのはまずい気がするんだけど。」

その言葉を聞き、彼女がやっと口を開いて告げる。

「どうして?」

まじまじと顔を覗き込まれて、彼は居心地が悪そうに、咳払いをする。

「それは…」

「それは?」

くいっと首をかしげてみせて、彼女はじっと彼を見る。
しばらく彼は彼女の視線を無視しようとあらぬ方を見ていたが、
諦めたようにため息をつく。

「わかったよ。会いに行こう。」

「やったー。だからカヲルのこと大好きだよ。」

カヲルと呼ばれた彼はため息混じりに告げる。

「はいはい、レイはそういう時だけだよね。」

レイと呼ばれた彼女は首をふるふると振って、
彼の胸に飛び込む。

「そんなことないよ。言わなくても分かってるでしょ?」

レイを抱きとめ、その耳元に小さく囁くカヲル。

「分かってるよ。でも、やっぱり僕がシンジくんに会うと、
彼に余計な負担を強いるような気がするんだけどな。」

「そんなことないわ。大丈夫。私に任せてよ。」

レイの自身ありげな返事にカヲルは頷いて見せた。
 
 
 
 
 
 

「ふう、今日も疲れた〜。」

彼女は大きく背伸びをして、ベッドに横になる。
瞳を閉じたまま、もう一度、ふうとため息をついて、
ふと彼女は遠い地にいる彼等のことに思いをはせた。

「まだ悲劇は始まってない…でもそれは必ずやってくる…」

彼女はごろりと仰向けからうつぶせになると、顔を右に向けて瞳を開ける。
視線の先にはカレンダーがかかっている。

「今年も後少し…なんとか年は越せるのかしら?」

その言葉と共に、彼女は起き上がる。
そしてうつむき、小さく呟く。

「間に合えば良いのだけれども…」

そこで彼女は我に返ったように、
自分の着ている服を見て、もう一度ため息をつく。

「はぁ、やっぱりちゃんと着替えないとね。
このままで寝るわけにはいかないか…」

そう告げると彼女は着ていた服を脱ぎ始めた。
 
 
 
 
 

シンジは保健室に駆け込むと、ベッドに駆け寄った。
養護教員の女性が、指差した方のベッドを見て、ほっと息を付く。
そこにはマナがベッドに横になってすうすうと安らかな寝息を立てていた。
顔色も悪くなく、呼吸も苦しくなさそうでとりあえず安心するシンジ。

「彼女、貧血で倒れたんだけど、どーやら睡眠不足が原因らしいわね。」

「そうなんですか…
最近夜遅くまで何かやっているみたいなんですが、僕にはさっぱり何をしているのか。」

心配そうなシンジの様子を見て、彼女はくすりと笑みを漏らす。
もちろん、彼女はマナが何をしているのかはお見通しだった。
この時期、同様な理由で保健室にくる女子生徒はかなりの人数になる。
実はその半分は彼女にあることを教わりに来ているのだが。

「ま、シンジくんも幸せ者ってことでいいんじゃない?」

「何がですか?」

さっぱり分からないといった、困った表情でシンジは彼女を見る。
その顔を見て、笑顔を浮かべると彼女はシンジの顔をぺちぺちと軽く叩いた。

「ま、世の中、わからないことばかりだけど、
彼女に関してはもう少し待てば、ちゃんとわかるようになるから。」

「はぁ、そんなものですかね?」

首をかしげるシンジに、彼女は満面の笑みで頷いて見せた。

「とりあえず、彼女は放課後までこうして寝かしておくから、あなたはクラスに戻って。」
 
 
 
 
 
 
 

「ねぇ、母さん?」

シンジはふと顔を上げて、向かいに座ってTVに視線を向けていたユイに話し掛ける。
ユイは視線をシンジの方に向けて、答える。

「何?どうかしたの?」

「いや、ちょっと聞きたいんだけど…」

「うん?」

「マナだけど…」

そら来た。
とユイは思ったが、ユイはそ知らぬ振りで答える。

「マナちゃんがどうしたの?」

大方、最近彼女が遅くまで起きて、何かしていることが気になるのだろう。
まぁ、ある意味当然といえば当然なのだが、どうやってごまかそうか、彼女は一瞬思案した。

「最近、遅くまで起きてるみたいだけど。
そのせいか何かで、今日貧血で倒れて、午後はずっと保健室で寝てたんだ。」

「そうなの?」

一応驚いてみせるユイ。
実はすでにマナのことは連絡が入っているが、それをシンジに言うつもりはなかった。
彼が知る必要のないことだったからだ。
しかし、マナちゃんが何をしているのかさっぱり分からないって感じね。
この子ってば、自分のこととなると全然、気が回らなくなるんだから。
内心、そんなことを考えるユイだが、それを口には出さない。
それが自分の息子の性格であり、長所でもあるのだから。
なぜか短所に思えることが多いが。

「何してるか、母さんは知ってる?
僕が聞いても笑ってごまかすんだ。」

それは当然ね。
あなたのために編み物してるの。
なんて、言ったらあなたはやめさせようとするから。

さて、なんて答えよう。
しかし、すぐにはいい考えが浮かばない。
そこで、とりあえずはこの場を切り抜けるべく、なだめておくことにした。

「そのうちわかると思うわよ。
その時が来たら必ずマナちゃんは話してくれるから。」

少しかしこまった言い方になったせいか、一瞬シンジの顔が心配そうな表情になる。
ユイは慌てて首を振って、そのシンジの思いを否定する。

「悪いことじゃないから、大丈夫よ。心配しないで。」

「でも、いくら調子がいいからって、あまり無茶すると。」

「それはマナちゃんが一番わかっているはずよ。」

その言葉にシンジはしぶしぶ納得したように肯く。

「そうだね。もう少しだけ待ってみるよ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

数日後、マナのセーターは無事編みあがり、
シンジのバイトも最終日を迎えていた。
店の前の掃除をして、掃除があらかた終わった時に、ふと、シンジは顔を上げた。
空から、白い結晶がゆっくりと舞い降りてくる。
それはみるみるうちに数を増やしてゆく。

「雪…か。」

そう呟き、シンジが店の中に入ろうとした時、背後から声がかかる。

「シンジ。」

その声に振り返るシンジ。
そこにはマナが立っていた。
白のロングコートを着て、少し大きめなかばんを持って、
手を振って、白い息を吐き駆け寄ってくる。

「どうしたの?マナ。」

シンジは笑みを浮かべて、マナが駆け寄るのを待つ。

「ちょっと、用事があって…
ねぇ、バイトってあと少しで終わるんだよね。」

「うん。今日はこの掃除で終わりだよ。」

「じゃ、待ってていい?一緒に帰ろ?」

マナは嬉しそうに首をかしげて見せて、そう尋ねる。

「わかった。じゃ、急いで着替えてくるね。」

そう告げるとシンジはいそいそとお店に入っていく。
マナは店の前に立ち、雪が降ってくる様子をしげしげと眺める。
と、目の前をクリスマス用に飾られたバスが走っていく。
口許に笑みを浮かべたまま、そのバスを見つめるマナ。
バスが走り去り、彼女は視線を舞い落ちる雪に戻す。
白い結晶はゆっくりと踊るように降ってきていた。
結晶はレンガの歩道に降り積もっていく。
大半は溶けていってしまうが、そのまま残っているものもある。
ふと、手を出してみる。
その手に雪の結晶が舞い落ちるが、彼女の体温ですぐに溶けてしまう。

「ホワイトクリスマス…か。」

マナは微笑むとシンジがやってくるのを瞳を閉じ静かに待った。
 
 
 
 
 
 
 

「お待たせ。」

シンジがお店から出てきて、マナの方に歩み寄る。
マナはいつもの笑顔を彼に向ける。
そして、二人は並んで歩き出す。
ここから自宅までは歩いて10分もかからない。
歩道には人の姿は見当たらなかった。
クリスマスイブの夜ともなれば、それなりの人出はあるだろうが、
それは街の中心部に限られてしまう。
彼らが住んでいる街の構造上、中心部を離れると娯楽施設等が極端に少なくなり、
完全に住宅地の様相を呈すからだった。
降り始めた雪もいつのまにかやんでしまい、うっすらと歩道や街路樹に積もる程度だった。

「雪、やんじゃったね。」

白い息と共に、マナがそう言った。
小さく肯くシンジ。
さすがに雪が降るほどの気温なため、コートを着ていても身体が冷えてゆく。

「寒くない?」

思わず、シンジはマナにそう声をかける。

「寒いって言ったら?」

にこにこ笑いつつそう答えるマナ。
その答えにシンジはすっとマナの左手を取り、自分のコートのポケットに入れる。
二人とも手袋をしているが、それでお互いの距離が少しだけ近くなった。

「こうする。」

はにかみながらシンジがそう答える。

「風除けになってくれるんだね。」

にこにこ微笑むマナ。
シンジは苦笑を浮かべて答える。

「はいはい、お姫様のために僕が壁になります。」

「よろしい。」

笑顔で肯き合う二人。
そのまま手を繋いでゆっくりと歩いてゆく。
ふと、マナはシンジの横顔を見る。
最近、シンジって私と一緒に歩くときは、こうしてゆっくりと歩いてくれる。
以前はもう少し早く歩いていたような気がけど。
私を気遣ってくれてるのかな?
だったら、すごく嬉しいな。
シンジってどうして、そういうところによく気が付くのかな?
やっぱり私って愛されてる?


なんて、自分で考えてて恥ずかしくなっちゃった。
でも…
間に合ってよかった。
喜んでくれるかな?
だいじょうぶだよね。


そうして二人はしばらく歩いたが、ふいにマナがくいっとシンジを引っ張る。

「どしたの?」

「ちょっとお話したいことがあるの。寄ってかない?」

彼女は小さな公園を指差す。
シンジは公園を見て、マナの顔を見てから小さく肯いた。
もしかしたら、これまでのことを話してくれるのかもしれない。
二人は歩道から公園に入ってゆく。
中には小さなブランコなどの遊具が少しとベンチがいくつかあった。
と、先程までやんでいた雪がまた降ってきたようだ。

「また、降って来たね。」

「うん。」

そして、繋いでいた手を離して、マナは鞄から包みを取り出した。

「これ、シンジに受け取って欲しいの。」

「え?これを僕に?」

驚いて、シンジはその包みを見る。
マナは頬を染め、小さく肯く。
彼は包みを開け、その中にたたまれていたセーターを取り出す。

「これ…編んでくれたの?」

それはシンジの好きなアースカラー系の色を数色使って編まれていた。
そして、ずっとマナのことで感じていた疑問がシンジの中で解決した。
これを編むために?
毎日遅くまで。
そうだったんだ。
全然気付かなかった。

「ありがと。嬉しいよ。」

嬉しい。
まさか自分のためだったなんて。
そのシンジの言葉にマナも嬉しそうに頷いてみせる。

「ちょっと着てみるね。」

シンジがそのセーターを着ようとしている間に、
マナはてってと公園の中を噴水の方に向かって歩き出す。
はぁ、胸が一杯になった。
シンジのありがとう。って言葉。
すごく嬉しい。
どうして、その一言だけでこんなに嬉しくなるのだろう。



なんだろ。
ほっとしちゃった。
これで…





シンジはそのセーターを身につけ、マナの方を見る。
マナは少し離れたところでシンジに背を向けたまま、後ろ手を組んで立っていた。
そして、彼が声を掛けようとした瞬間。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

彼女の肩がふわりと揺れ。
 
 
 
 
 
 
 
 

そして、その場にくず折れる。
シンジの瞳にスローモーションでその光景が焼きついた。
しかし、一瞬後にはマナの元に向かって駆け出す。
そして、マナの傍まで来て、ゆっくりとその身体を抱き上げる。

「マナ!!」

降り始めた雪があっという間に積もり始め、辺りが白一色に染まってゆく。
シンジは続けてマナの名前を呼ぶ。
何回目かでやっとマナが気付き、うっすらと瞳を開ける。
そして、まだほのかに赤い唇が薄く開く。

「シンジ…」

それは風の囁きのような声。
耳を澄まさなければ、言葉を聞き漏らしてしまうほどの小さな声。

「マナ、大丈夫かい?」

「えぇ…」

そう答えるマナだが、顔色がかなり悪い。
まるで雪のように蒼白になっていた。
シンジはその様子を見て、かなりまずい状況になっているのではないかと感じる。
しかし、マナはゆっくりと頭をあげて起き上がろうとする。
慌てて、マナを制止するシンジ。

「マナ、無理しないで、すぐ救急車呼ぶから。」

マナはそのシンジの言葉に驚いたように首を振る。

「ううん、大丈夫だよ。起きられるから…」

そして、ゆっくりと体を起こす。
恐る恐るシンジはそのマナの体を支える。
マナはにっこりと笑みを浮かべてシンジに告げる。

「ほらね…」

しかし、次の言葉は突然の咳によって妨げられた。
ひとしきり咳き込み口元を抑えていた手をマナが離すと、
その手にはべっとりと赤い染みが広がっていた。

「マナ…」

シンジはそう言ったきり絶句した。
告げる言葉が見つからない。
マナもその事実を信じられないといったように首をゆっくりと振る。
しかし、それはまぎれもなくマナ自身の吐血だった。
すうっとマナの口から顎に血が地面に落ち、
真っ白な雪の中に小さな赤い染みをつくる。

「どうして?」

マナがそう呟いた直後、またしても咳の発作が彼女を襲う。
手からあふれるように血が漏れ、雪で白く染まり始めた地面に赤い染みを広げてゆく。
シンジは見かねて、ゲンドウから渡されていた端末のスイッチを入れた。
小さな赤いランプが明滅し始める。
何かあった時の連絡手段の一つ。
この発信機で、ゲンドウ達がシンジの場所を見つけてくれるはずだった。
シンジはまだ咳を続けるマナをきつく抱きしめる。
そんな…
どうして、こんなことになるの?
まるで、この日、この時を待ち構えていたみたいじゃないか?
もしかして、このまま…
マナは…


その考えに、シンジの鼓動が止まりそうになり、全身に戦慄が走る
そんな…
それは絶対に嫌だ。
このままお別れなんて絶対に納得できない。
これからなんだ。
まだ僕たちは、これからなんだ。
何ものにもそれを奪わせるわけにはいかない。
僕達の未来を奪わせるわけにはいかない。
やっと咳が止まったマナは小さく息を吐く。
そして、マナを抱きしめているシンジの腕に手を掛ける。
その手は真っ赤になっていた。

「シンジ…」

かすかに囁くような声。
今にも消え入りそうな声。
そう、もう彼女の命の灯火が消えかかっているかのような。
シンジはその声を聞き、そう感じた心にどきりとしながらも、彼女の耳元に顔を寄せる。

「大丈夫だよ。すぐに父さんたちが来るから。
そしたらすぐに病院に行けるから。だから、頑張って。」

頑張って。
シンジは今、告げたこの言葉に、愕然とした。
なんて他人任せの言葉なんだろう。
こんなにマナは苦しんでいるのに。
辛い思いをしているのに。
今の自分には何もできない。
彼女の苦しみを和らげることもできない。
なんて僕は無力なんだろう?
何もできないんだろう?
シンジは初めて、自分の置かれた立場を理解した。
ただ一人。
たった一人。
自分の大切な人さえも守れないなんて。
僕は…
余りにも力が無い。
何もマナにしてあげられない。
どうして…
僕はこんなに無力なんだ。
こんなに…
こんなに、大切に思っているのに。
君のことを想っているのに。
一番大切な君を守りたいと思っているのに。
どうして、僕は…

「シンジ…このまま抱いていて…お願い…」

そう告げ荒く息をついて、マナはがくりと首を落とす。
慌ててシンジは左手でマナの頭を抱く。
どうやら、一瞬だけ意識が飛んだらしい。
マナはまた荒く息をつく。
そして、シンジを見る。
その瞳にはまだ命の輝きがあった。
シンジはその輝きが消えないように祈った。
父さん!
早く来て!
僕には何もできないんだ。
このままだと…
マナ…は。

「ごめん…いま…」

そこまで言って、また荒く息を付くマナに、シンジは首を振って告げる。
無理に話をさせて、マナの体力を消耗させるわけにはいかなかったから。

「いいから。無理して話さなくていいから。」

その言葉に、マナが少し笑ったようにシンジには感じられた。
その証拠に少しだけシンジの腕を掴む、マナの手に力がこもった。
ゆっくりと顔をあげるマナ。
まだ、マナはあきらめていない。
そうシンジには見えた。
苦しいそうに何度も息をつき、マナは口元にかすかな笑みを浮かべて、何度も言葉を切って告げた。

「や…っぱり、その…色…シン…ジに…よく…似合って…る。」

「うん。そうだね。良い感じだと思うよ。」

何度も肯いてみせるシンジ。
その時、マナがすっと、手を上げシンジの頬に触れる。
シンジはそれで自分が泣いていることに気付いた。
マナが触れた頬に赤い線が入る。

「泣かないで…私は…だいじょ…ぶだ…ら。」

そして、マナの手から力が抜け、すっと手が落ちる。
同時にマナの体から力が抜けた。

「マナ…マナぁ!!」

シンジの叫びが公園内に響き渡った。
その中で雪はしんしんと降って、周りのもの全てを白く染めていた。
 
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 2001!12/25公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!



 

あとがき

どもTIMEです。
Time-Capsule第50話「終わりの始まり」です。

クリスマスプレゼントを作るマナ。
それに気付かずに彼女の身の心配をするシンジ。
イブにその理由を知るシンジですが、その時にはマナの身体に異変が現れてしまいます。
シンジはなす術もなく自分の無力さに気づいてしまいます。
彼はこのままマナを失ってしまうのでしょうか…

この50話は以前公開したWinterSongのマナ編を元に書いてますが、
かなり追加が入っています。
もともとマナがこの話の中で倒れてしまうのは、
WinterSongを公開した時にはすでに考えていたのですが、
本編の進行を鑑みてWinterSongでは削っていました。

さて、次回ですが、
自分の無力さを思い知ったシンジはどうするのでしょうか?
そしてマナの時は遂に止まってしまうのでしょうか?

では次回TimeCapsule第51話「死と転生」でお会いしましょう。
 





 TIMEさんの『Time Capsule』第51話、公開です。





 ついに50話!
 物語も佳境!


 シンジは?
 マナは?

 クライマックスに向かう緊張感!!



 「終わりの始まり」
 タイトルが不安を煽ります・・・


 この通り「終わって」しまうのでしょうか。
 それとも・・・・


 ドキドキが止まらないです。




 さあ、訪問者のみなさん。
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