「さてと…そろそろ始めますか。」
ケンスケがそう告げて、トウジも軽く頷く。
「それじゃ、女子は昨日の続きで…」
ヒカリが女子生徒達に指示を出し始める。
「ほな、わしらはカウンターを作ってくるで。」
数人の男子生徒たちを引き連れて、トウジはヒカリにそう声をかけて教室から出て行く。
学園祭の準備が始まってもう1週間が経とうとしていた。
出し物を何かにするかかなりモメた結果、カフェレストランに決まりその準備を男女別々に行っている。
女子はカーテンやテーブルにかけるシートを担当し、男子はテーブルやカウンターなどを担当している。
メニューは男女の料理好きによって構成されたグループが試作中である。
委員長であるヒカリは全てを見て回っているので、かなり忙しそうだった。
ケンスケは何人かと机の上に広げられた図面を覗きこむ。
教室内のレイアウトは彼らが決める事になっていた。
いろいろな案が出ては消えて行って、最終的に残ったレイアウトが今ケンスケ達が見ている図面だった。
「まぁ、おおまかにはこれで良いと思うけど…」
「あぁ、実際に配置してみないと分からない部分もあるしな。」
ケンスケの隣にいた男子生徒が呟く。
「そうだな。とりあえず、あと2,3日で大きなテーブル等はできてくるから、
そのタイミングで仮配置してみよう。」
他のメンバーがトウジ達を手伝いに行くのを見送って、ケンスケはふと窓の外に視線を向けた。
「シンジ…あいつ元気かな?」
ふとそんな言葉が口を突いて出る。
「大丈夫、帰ってくるわよ。」
その声にケンスケは苦笑を浮かべて頷いた。
「そうだな…ところで、俺はサボってるわけじゃないよ。
料理チームが買い出しに行っているから戻ってこないと何もできないしな…」
ヒカリはくすりと笑みをもらし答える。
「別にそんなつもりで声をかけたわけじゃないわ…」
ケンスケの隣に来て、窓から真っ青な空を見上げるヒカリ。
「霧島…のことか?」
「一緒に帰ってくれば良いのだけど…」
「そうだな…じゃないとクラス全員が揃わないからな。」
そう告げて、ケンスケも視線を空に向けた。
シンジ…
早く帰ってこいよ。
俺達は待ってるからな…
Time Capsule
TIME/2000
第41話
「告げられた言葉」
彼女は病室を出て、ゆっくりと歩き出した。
こらえていたのだが、つい大きなため息が出てしまう。
そして、自重気味にくすりと笑った。
どうして、アタシってばこんなにお節介なのかな?
二人が決めること。とか言いながらこうして…ね?
…
…
ふと視線をあげると、廊下の先のロビーには彼女の父親が待っていた。
彼はアスカが目の前まで歩いてくるのを待ってからたずねた。
「どうだった?」
アスカは残念そうに首をふる。
それで彼には全て伝わったようだった。
「そうか…」
そう答え、大きくため息をつく。
「あと半年だそうよ…」
彼は軽く肩をすくめて首を振った。
「半年…か。短いとも長いとも言えないな。」
二人は並んでロビーから外にでる。
彼はうつむき、懐からタバコを取りだし火をつける。
大きく吸込み、そして煙を吐き出しながら彼は告げた。
「で、彼女と話をして少しはすっきりしたかい?」
その言葉にアスカは少し首を傾げてから答えた。
「う〜ん。ちょっとは気が晴れたかな。
でも、これからの二人のこと考えるとね…」
父親はにやりと笑みを浮かべてアスカに告げる。
「で、どうするか決めたのかい?」
その問いにアスカはにっこりと微笑むと父親に向かって微笑んだ。
「やっぱりお願いするわ。パパ。」
彼はその答えを聞いて小さく頷いて答えた。
「分かっているよ、かわいい私の娘の頼みだ。
何とかしてあげるよ。」
「ありがと。」
彼女はそう答え、小さく息をついた。
「だって、シンジはもうあなたを選んだのだから。」
マナはアスカの最後の言葉を思い返す。
彼女は部屋に一人きりだった。
それって…
私のことを選んでくれたってこと?
…
…
もしそうだとすると…
私は…
…
マナは自分の肩を抱いて、きゅっと瞳を閉じる。
午後の陽射しが窓から差しこむが部屋の中は冷房がきいていて、程よく涼しい。
…
…
どうして?
どうして、こんなに嬉しいのかな?
もう、会わない…
忘れるようって思っているのに。
もう、関係無いはずなのに…
それなのに…
私はすごく嬉しいと感じている。
…
…
…
やっぱり、私…
無理なのかな?
シンジを忘れるなんて…
この思いを忘れるなんて…
無理なのかな…
…
でも、忘れなければ、シンジも私ももっと辛くなっちゃうのに…
一緒にいられる時間は限られているのに…
それでも、私は…
…
…
それを望むのかな?
シンジと一緒にいることを望むのかな?
…
…
…
…
…
そうなのかな…
忘れられるはず無いのかな?
私の話を聞いてくれているときの笑顔も。
紺色の瞳の輝きも。
抱かれた時に感じるあなたの鼓動も。
いつまでも聞いていたいと思うような声も。
髪を撫でるときのやさしいしぐさも。
見つめるときの真っ直ぐな瞳も。
全て、大好きだから…
誰でもなく、私だけに向けて欲しいから…
まだそう思っている私は…
やっぱり、駄目なのかな?
ねぇ…シンジ…
…
…
ねぇ、マナ…
何?お姉ちゃん…
マナはシンジくんのこと好き?
え…何言ってるのよ…
くすくす。
何、一人で笑ってるのよ?
だって、マナの頬、真っ赤だよ…
え…もう、お姉ちゃんのイジワル。
くすくす。
ごめんね…でも、シンジくんもマナを好きみたいだし。
え…
ほら、やっぱりシンジくんのこと好きなんでしょ?
さっきよりも頬が赤いよ。
…うん。
やっぱり…マナは顔に出やすいから。
そんなに簡単にわかっちゃう?
うん。もう完璧に。
え〜。どうしよ…
別にいいじゃない。
素直に好きだって言っちゃえば。
だって、だって…
大丈夫。マナなら大丈夫よ。
…
ほら…勇気出して。
…
シンジくんも待ってるよ。
…
お姉ちゃん…
私…
…
…
…
わたし…
…
…
…
マナはベッドから降りると、病室から抜け出した。
シンジは海を見に来ていた。
午後の差すような陽射しの中、波打ち際に立って海を見つめていた。
その場所は昨日、マナと会った場所。
砂浜は夜のうちに整備されていたようで、昨日二人が付けた足跡は何処にも見つからない。
ゆっくりと視線を水平線から足元に向ける。
白い砂に混じって珊瑚や貝の欠片がいくつか転がっている。
そして、澄んだ透明な波が打ち寄せてそれらを運んでいる。
波打ち際では、海は青くなく砂の色している。
それが少しづつ遠ざかって行くと、少しづつ青くなっていく。
青というよりもまさしく水色だった。
シンジは瞳を閉じる。
昨日のマナの言葉。
まるで、マナじゃないみたいだった。
あんな話し方をするマナは始めて見た。
あれが本心なのだろうか?
やはり、僕を許せなかったのだろうか?
そんなことはないと信じたい。
マナはそんな子じゃないと信じたい。
…
…
でも、あの言葉、態度…
…
…
もし、そうだとするとこれ以上は…
やっと自分の気持ちに確信が持てるようになったのに。
この思いは忘れなければならないのだろうか?
…
…
でも…
…
…
忘れられるのかな?
…
…
この思いを…
…
…
彼女のこと全てを…
…
…
…
シンジはぎゅっと瞳を閉じる。
手は固く握り締められた。
忘れられないよ。
忘れられるわけないよ。
君のこと全て。
花が咲いたような暖かな笑顔も。
僕の名前を呼ぶときの少し恥ずかしそうな表情も。
つないだ手のぬくもりも。
ちょっと首をかしげるしぐさも。
考え込んでいるときの大人びた横顔も。
怒ったときに頬を膨らませてすねるしぐさも。
抱いた身体の感触も。
髪の匂いも。
瞳の輝きも。
そして、交わした会話の全ても。
忘れたくない。
君との思い出全てを。
忘れたくないよ。
ずっと、覚えていたい。
君のこと全てを。
この数ヶ月のこと、全て忘れるなんてできるわけないよ。
忘れられるんだったら、もうとっくに忘れてるよ。
それができないから…
マナのことが…
好きだから。
だから、こうして会いに来てるんじゃないか?
…
…
…
だったら…
…
…
僕がどうすればいいかなんて分かっているじゃないか?
…
…
…
…
ふと、シンジはあることを思い出した。
…
あの時…
マナが気を失って倒れたとき…
マナは泣いていた?
そう、涙が…
あれは、どうしてだったのだろう?
…
どうして、泣いていたの?
アヤちゃんのこと思い出したから?
それとも…
…
…
…
あの言葉は本心じゃなかったから?
…
…
…
もし、そうだとすると…
…
…
…
でも、どうして?
…
…
…
シンジは小さく息をついた。
その理由に思い当たったからだった。
そうか…
やっぱりマナの身体に何かあったのか?
だから、僕のことを…
…
シンジはその考えに身震いする。
ということは…
…
…
好きだと言っていた僕を遠ざけるなんて…
そうしなければならないような…
…
まさか。
まさか。
そんなことは…
だって…
…
…
…
…
「シンジ…」
その声にシンジは驚いて振りかえる。
「マナ…」
マナはにっこりと微笑んでそこに立っていた。
シンジはじっとマナを見つめる。
先ほど浮かんだ自分の考えに捕われ、
まるでマナが消えてそうに感じたから、思わず腕を伸ばしそうになる。
嘘だよね?
そんなこと…ないよね。
君が…
僕の傍から…
「バカね…こんなところまで追っかけてくるなんて。」
そうマナはシンジの顔をじっと見つめて告げた。
しかし、その声、口調には昨日のような冷たさは無かった。
それはシンジの知っているマナのものだった。
だから、シンジはいつも通りに答えることができた。
小さな苦笑を浮かべ、マナを見て答える。
「だって、あれだけじゃ納得できないよ。
ちゃんと説明してくれなきゃね…
それに全部思い出したから…」
マナはこっくり頷く。
少しだけ表情が硬くなる。
「そう…思い出したのね。全部。」
その問いにシンジはうなずく。
大きな波が二人の元に押し寄せるが、それは二人の足元まで届かなかった。
「あぁ、思い出した。いろいろあったけど、なんとか今ここに居るよ。
僕は僕だ。いつまでも自分の犯した過ちを悔やんでいても仕方ないよ。
大切なのはこれからなんだから。」
そのシンジの言葉にマナは表情をやわらげて微笑む。
レイから話は聞いているが、実際に会って話をしないと、
シンジがシンジのままでいられるのかは分からなかったから。
目の前に立っているシンジはまぎれもなくマナの好きなシンジだった。
シンジ…
やっと、お姉ちゃんのこと思い出してくれたんだね。
嬉しいよ。
すごく嬉しい。
それに、少しだけ強くなったんだね。
もう、シンジは大丈夫だよね。
逃げ出したりはしないよね。
全部受け入れて、それでも前を見ることができるよね?
…
…
「ね…シンジはお姉ちゃんのこともう忘れないよね。
ずっと、覚えていてくれるよね?」
「もちろんだよ。
ずっと忘れない。
ずっとここに一緒にいるよ。」
シンジは自分の胸を指して微笑んだ。
「楽しかったこと、悲しかったこと全て覚えているよ。もう、絶対に忘れないから。」
マナの瞳が潤む。
よかった。
お姉ちゃん、良かったね。
やっと…
シンジが思い出してくれたよ。
これでもう…
…
…
…
そして、マナは小さく息をついてシンジを見つめる。
もう、いいよね…
これ以上、自分の心を偽るのは嫌なの。
辛いの。
心が壊れそうなの…
待ちうけるのが悲劇でも。
残るのが悲しみだけでも。
私は望んでしまったから。
シンジの傍にいることを。
望んでしまったから。
もう、この思いを隠しておくのは辛いから。
押さえておくは辛いから。
だから、言っても良いよね、お姉ちゃん。
私の本当の気持ち。
伝えても良いよね?
「ね、指輪ちゃんとしてくれてるの?」
マナのその問いに、シンジは少しはにかみながら自分の左手に視線を向ける。
「まぁ…ね。」
そう…
答えはいつもそこにあったんだ。
でも、私はそれを見ないふりをしていた。
怖かったから。
それを認めてしまうと。
もう、どうしようもなくなるって分かっていたから。
だから、逃げようとした。
知らないふりをしてその事実から逃げていた。
シンジには逃げて欲しくないって思っていたのにね。
それなのに、自分は逃げていたなんて…
…
…
でも、もう逃げない。
それに、本当は私は最初から分かっていた。
シンジを忘れることなど出来ないと。
この思いを忘れることなんてできないということを。
「ありがと。
でも、私はね…
シンジのこと忘れるつもりだったの…
あの時、言ったでしょ?
忘れてください、なかったことにしてくださいって。」
「うん。」
マナは微笑みながら自分の左手を見せる。
そこには、シンジのものと同じ指輪が光っていた。
「これも、捨てなきゃって思っていたんだ。
だって、こんなものあったら、忘れられないじゃない?
だから捨てなきゃって…」
マナはうつむき小さく息をついて首を振った。
「でも、どうしても捨てられなかった。」
マナの声がかすれて震えた。
「だって、捨てられるわけないよ。
大切な、本当に大切な二人の思い出なんだから…」
二人を包む音は波の打ち寄せる音だけになった。
周りの雑踏の音もカモメ達の鳴き声も聞こえない。
「私、すごく頑張ったんだよ。
でも、それでもね…
忘れられなかった…」
そう、忘れるつもりだった。
全て忘れられれば、忘れることができれば。
そう思っていた。
忘れてしまえば、二人にとって一番の悲劇は避けられるから。
でも…
そして、マナはシンジを見つめながら言葉を続けた。
「シンジ…ごめんなさい。
私、やっぱりあなたのこと忘れられません。」
そこで息をつきマナはじっとシンジの瞳を見た。
シンジ。
ごめんね。
これを告げてしまえば、さらにシンジを苦しませることになるの。
私はそれを避けたかった。
でも、今の私にはもうどうにもできない。
ごめんね。
でも、これは紛れもない私の本当の思いだから。
「あなたを好きです。」
囁くように、マナはそう告げる。
しかし、視線は逸らさずにじっとシンジを見つめる。
その震えるマナの瞳を見つめ、シンジはにっこり微笑むと頷いた。
「ずっと待たせてごめんね。
僕もマナを好きだよ。」
待ちうけるものが何であれ、僕のこの思いに偽りはないよ。
真っ直ぐ素直にそう思えるから。
何があっても僕のこの思いは変わらないから。
だから、もう苦しまないで。
その言葉を聞いたマナの瞳から涙がこぼれる。
ゆっくりと頬を伝って、砂浜に小さな染みを作る。
「シンジ!」
駆け出して、シンジの胸に飛び込むマナ。
「マナ…」
シンジはぎゅっとマナを抱きしめる。
そんなに何度も抱いたわけではないのに、すごく懐かしい感じがする。
すごく落ち着く感じがする。
どうしてだろ?
どうしてこんなに落ち着くのだろう?
シンジの胸に飛び込んだマナも懐かしさを感じていた。
どうしてだろうね。
こうしてると、シンジに包まれている感じがする。
シンジの私への思いがすごく伝わってくる。
暖かくて、すごく安らぐの。
私の好きってこの思いもシンジに伝わってるのかな。
そうだったら、すごくいいな。
「やっと、捕まえた。」
マナの耳元に顔を寄せ、シンジはそう呟いた。
その口調が、本当に大変そうに聞こえたため、くすりとマナは微笑んで、答える。
「何よ、まるで私が逃げたしたみたいじゃない?」
そう答えて、少しだけ胸が痛んだ。
確かに、シンジからしてみれば私は突然いなくなって、
逃げ出したみたいに見えたかもしれない。
それに、まだ重要なことを話していない。
どうしよう、告げないといけないのに。
これからの二人にとって一番大切なことなのに。
「そうだよ。こんなところまで逃げてくるし。」
そう、まだマナがどうしてここに来たのか聞いてない。
もし、さっきの僕の考えが正しいとすれば、また僕達は…
思わず、腕に力をこめてしまったのか、マナが囁く。
「もう少し、優しくして。そんなにきつく抱きしめなくても逃げないから。」
くすりと笑ってマナはシンジの耳元に顔を寄せ。そう囁いた。
「ごめん。」
抱きしめる力を少し弱くするとマナは小さく息をつく。
「ありがと。」
二人とも何とも言えない表情でお互いを見つめる。
そう、マナには告げなければならないことがあり、
シンジには尋ねなければならないことがあった。
そして、それが二人の脳裏から離れなかったせいだ。
「あの…ね…」
マナが意を決して話そうとした時に、シャッター音が二人の傍でした。
一人の男性カメラマンがカメラを構えてシャッターを切っている。
「あの…何してるんですか?」
怪訝そうに尋ねるシンジにそのカメラマンはにやりと笑って答える。
「いや、すまん。あまりに良い感じだったから…
俺にはかまわずに続けてくれ。」
その言葉にシンジとマナはくすりと微笑み合って、身体を離す。
「お、なんだ、もっと続けてくれていてもいいんだぞ。」
カメラマンは残念そうにそう呟いてカメラを下ろす。
何か、ケンスケみたいだな。
シンジはそう思ったが、マナもそう思ったのか、シンジだけに聞こえる等に呟いた。
「何か、相田くんみたい。」
その時、遠く離れてた日本でケンスケがクシャミをしていたのは言うまでも無い。
「あなたは?」
シンジのその問いにその男性は名刺を二人に渡す。
「まぁ、基本はフリーのカメラマンなんだが、
とある教会の結婚式等の専属カメラマンをしているんだ。
まぁ、バイトみたいなものだがね。」
名前は「加古ハジメ」というらしいそのカメラマンはにやりと笑って話を続ける。
「ところで、お二人にちょっとしたお願いが有るんだが…」
マナはベッドに座って窓から外を眺めていた。
今夜はこの病室には自分しかいない。
シンジはホテルの自分の部屋に戻っている。
あれから、二人は話を聞いて、ある申し出を受ける事にした。
その後はその準備で忙しかった。
でも、そのせいで結局シンジには…
私の体のことを告げられなかった。
どうして?
それを告げなければシンジをさらに深く傷つける事になる。
早く告げなければならない。
できれば、明日のそれが終わってからでも…すぐに。
…
…
雲に隠れていた月が現れ、ベッドの上を銀色の光で照らし出す。
でも…
ちょっと楽しみだな。
だって、やっぱり夢じゃない?
それも自分の一番大切な人が相手なんだから。
マナは苦笑気味に首を振ってうつむく。
一日でこんなに変わるなんてね。
昨日、シンジを見て、どうしてこんなに辛いのだろうって思っていたのに。
もう、今日は素直に、本当に素直にシンジを好きな自分を認めている。
そして、明日は一緒に…
…
…
でも、それが終わったら告げなければいけない。
私の体のことを。
そして私の命のことを。
胸がきりきり痛む。
やっぱりこの痛みからは逃げられないよね。
わかってはいた。
私がシンジを受け入れても、拒んでも。
たぶん、私の心は痛みつづけるだろうって。
でも…
それでも、私はシンジのそばにいることを選んだんだ。
私の残された時間全てシンジと過ごすために。
シンジは部屋のラナイから外の景色を眺めていた。
月の光で海の波涛の白い輝きが見える。
気温もそれほど高くなく、風も少し湿っているが気になるほどではない。
シンジは雲から現れた月を見て小さくため息をつく。
どうしたんだろ?
嬉しいはずなのに。
マナに自分の思いを告げて。
そして、マナも僕のこと思っていてくれて。
本当は嬉しいはずなのに。
いや、嬉しいことは嬉しい。
でも、それを素直に喜べない自分がいる。
理由はわかっている。
まだ、マナがこのハワイにやってきた理由を聞いていない。
彼女の体のことを聞いていない。
今日見た限りでは特に何か変ってことはなかった。
いつものマナのように見えた。
そこまで考えて苦笑するシンジ。
しかし、すごく時間がかかったよな。
ただの撮影モデルなのに。
砂浜で声をかけてきたカメラマンに依頼され、二人は撮影モデルをする事になっていた。
今日の午後はその準備に二人とも追われていた。
でも、変な感じだよね。
だって、昨日までまだお互いの思いを確かめていなかったのに。
それなのに、もう明日…
そりゃ、ただのモデルだけど。
でも、変な感じだよね。
…
…
明日…か。
シンジは振り返って部屋の中に入りながら考えた。
長くなりそうだね、明日は…
あとがき
どもTIMEです。
Time-Capsule第41話「告げられた言葉」です。
遂にマナは自分の思いに素直になってシンジに告白します。
#しかしまぁ、ここまで本当に長かったですねぇ。
そして、その告白を受けて自分の思いを告げるシンジ。
しかし、マナは自身の体のことは話せないままになってしまいます。
たまたま出会ったカメラマンに誘われ、撮影モデルになる二人ですが…
次こそマナはそのことを告げられるのでしょうか?
次回はめぞん150万ヒット記念SS「誓いますか」のリメイクになります。
この時、書かなかったこと、書けなかったことと追加して再構成します。
では次回TimeCapsule第42話「今日のこと忘れないから」でお会いしましょう。