彼女の涙が、風に乗って飛ぶ。
その雫はきらきらと輝いて砂浜へと落ちて行く。
彼女のはにっこり微笑む。
これまで彼に投げかけてきた笑みと同じ。
見ていると、心の奥が温かくなるような、ずっと、この笑みを自分に向けていて欲しい、
そう思うような微笑みかた。
「さよなら。」
彼女の口から出た言葉。
その言葉の意味はもちろん知っている。
でも、どうして、僕に向けられるのか。
どうして、彼女は僕の問いに答えてくれないのか。
わからなかった。
最後まで、彼女は僕の言葉に耳を貸さなかった。
一方的に別れを告げて、僕の前から消えて行った。
シンジは目を覚ました。
ぜいぜいと荒い息をついている。
…
全身汗をかいているようだ。
シンジはゆっくりと起きあがる。
少し頭痛がする。
しかし、それを無視してベッドから下りて、クローゼットの方に歩いていき、
着替えを出して着替える。
そしてベッドに戻って横になる。
月光が薄く部屋を照らしでしている。
銀色に染まった天井を見つめ、シンジはため息をつく。
どうしてなんだろ?
マナが行ってしまったのは、身体の調子がおかしくなったせいだと言うのは分かる。
でも、それなら、僕に話してくれても良さそうなものなのに。
父さんも母さんもそれに関しては何も教えてくれなかった。
ただ、母さんの言葉。
「シンジ、これはあなた自身の問題なの。
私達が何かするわけにはいかないの。」
僕自身の問題。
…
それが何を意味するのかわからない。
どうしてマナのことなのに僕の問題なのだろう?
それがわからない。
…
…
…
それに、レイ。
まるで、マナがいなくなるのを知っていたようだった。
どうしてだろう?
マナから何かを聞いていたのか?
それとも…
…
…
…
Time Capsule
TIME/2000
第33話
「記憶の海から」
朝がやってきた。
陽射しがカーテン越しに部屋の中を明るく照らす。
起きないといけない。
そして学校に行かないと。
でも、身体が言うことを聞かない。
どうすればいいのかな?
まるで、僕の身体じゃないみたいだ。
僕はゆっくりと壁にかかっている時計に視線を向ける。
遅刻しちゃうよ。
…
…
…
やっぱり起きられない…
…
…
いや、起きられないのではなくて、起きたくないのだろうな。
言うことを聞かないと思っているだけで、本当は…
…
…
…
そう、このままこうしていたい。
何もしたくない。
する必要も感じない。
まるで心が凍ったようだ。
穏やかとは違うこの感覚。
そう、まるで何も無いような感じ。
心の中に見とおせない闇があるような。
小さくドアをノックする音が聞こえる。
「シンジ、朝よ。起きなさい。」
シンジは布団を頭までかぶった。
がちゃりと音を立ててドアが開き、人が歩いてくる気配を感じる。
「シンジ、起きないの?学校遅刻するわよ。」
シンジはため息をついて答えた。
「今日は休みたい…」
その答えにユイは小さくため息をついた。
何か言おうとするが、首を振って答える。
「わかったわ。学校には風邪で休むって行っておくから。」
そして、ユイは部屋を出て行く。
シンジは顔を出して、息をつく。
ぼんやりと天井を見つめる。
そして、またため息をついた。
リビングに入ってきたユイに不安そうに声をかけるレイ。
「どうでした?」
そう尋ねるレイにユイは首を振って答える。
「駄目ね。今日は休ませるわ。」
「そう…ですか…」
レイはため息をつく。
ユイが電話で学校に連絡する様子をぼんやりとレイは見つめる。
どうしよう…
このままじゃシンちゃんは…
受話器を置いて、ユイはレイに話しかける。
「レイちゃんは学校いいの?」
レイはこともなげに首を振った。
「今週一杯はお休みなんです。ウチの学校何故か休みが多くて。
先生たちにやる気が無いんだって、みんなで噂してます。」
その返事にユイは笑みをもらす。
しかし、すぐに表情を引き締める。
「シンジ…思い出すと思う?」
「わかりません…でも、思い出して欲しいです。マナちゃんのためにも…」
「マナちゃんと、アヤちゃんのためにも…」
レイは少しだけ声を落として告げる。
「でも、正直言うと怖いんです。あの時のシンちゃんを見てるから…
今度は本当に壊れちゃうんじゃないかって…」
「そうね…」
ユイはため息をついて軽く首を振る。
「さぁ、私もそろそろ出かけるわね。悪いけど、シンジのことよろしくね。」
「はい。」
「シンちゃん、入るね〜。」
軽い口調でそう告げると、レイは部屋の中に入る。
カーテンが張られているので、室内はまだ暗い。
レイは窓辺まで歩いて行きカーテンを開ける。
秋の陽射しが部屋の中に降り注ぐ。
「レイ、学校はいいの?」
ぼおっとした表情を浮かべてベッドに座っていたシンジがレイを見て尋ねる。
「まだ、休みなの。始まるのは来週から。」
「そうなの?」
レイは苦笑を浮かべて、シンジの隣にやってくる。
「そうよ…みんな先生たちがやる気がないんだって言ってるわ。」
「なるほど…」
シンジは頷いて答える。
しかし、そのしぐさはどこかぎこちない。
まるで、プログラムされたロボットみたい。
レイはふとそんな事を感じた。
「座って良い?」
「いいよ。」
シンジの隣に座り、レイは身体を寄せる。
シンジは何も言わずにじっと座っている。
レイはちいさくため息をつく。
指しこんでくる陽射しのおかげか少しだけ部屋が温かくなった気がした。
「どうしてなんだろう?何も感じなくなったような気がするよ…」
シンジがそう呟く。
レイは黙ったまま頷いた。
「そのせいか悲しくなくなった気がする。
それに心の奥に闇があるんだ。何も見えない。
僕の心なのにそこに何があるのかわからない。」
シンジは苦笑を浮かべる。
「そうなの…」
「だから、しばらくはその闇を見つめようと思う。
そこに何があるのか。」
なぜ彼女は行ってしまったのだろう?
僕には理由を教えてくれなかった。
でも、少し考えれば僕にだって分かる。
そう、僕は信じたくなかっただけ…
それを認めたくなかっただけ。
彼女が行ってしまったのは…
そして、なんとなく僕は分かっている。
彼女が僕に理由を告げなかった訳を。
そう…
たぶん、僕の…
レイは小さくため息をついた。
シンジは部屋を出ようとしない。
ずっと、自分の部屋に閉じこもったままだった。
あれから、もう3日が経過した。
学校は風邪で休んでいることにしていたので、
シンジの友人が数人、心配してお見舞いに来てくれたけど、
彼らにも会わなかった。
マナの方は休学ということでクラスでも突然のことでみんな驚いているらしい。
どうすればいいのだろう?
シンジが思い出さない限り、私の方から何かを話すわけにはいかない。
思い出さないのなら、このまま忘れてしまった方が…
…
…
でも、マナちゃんは…
マナちゃんの気持ちはどうなるのだろう?
…
…
あんなにシンジのこと思っていたのに…
それなのに本当のことは何も告げないで…
…
「おはよ。」
その声に驚いてレイは声のした方を見つめる。
「シンちゃん!」
シンジはにっこりと微笑んでうなずく。
「レイにお願いがあるんだけど…」
「何?」
レイはじっとシンジを見つめる。
しかし、シンジの瞳はいつもの輝きを取り戻しているようだった。
「ちょっと付き合ってくれないかな?」
「学校は?」
「ここまで来ればあと1日でも変わらないよ。」
シンジは肩をすくめてそう答える。
レイはどう答えようか迷ったが、結局頷いて付き合うことにした。
「ここは…?」
レイは目の前に広がる海を見つめてシンジに尋ねた。
「ここは、マナと二人できた海なんだ。」
そう告げるとシンジは海に視線を向ける。
真っ青な空の下で海の負けないぐらいに青く輝いていた。
「そしてマナが僕にさよならを言った場所。」
「どうして、ここに来たの?」
シンジは軽く首を振って、答える。
「考えたい事があって。」
「そう…」
シンジは視線をレイに向けて告げる。
「砂浜の方に降りようか?」
二人は堤防から砂浜の方に歩いていく。
そして、適当な影を探す。
数本の松の木が立っている場所があった。
そこに座るシンジ。
レイもその隣に座る。
「どうして私を誘ったの?」
レイの質問にシンジは首を振って答える。
「ただ、なんとなくレイに見せたかったんだ。」
シンジはそう告げると視線を海に向ける。
レイのそのシンジの横顔を見つめる。
ここ数日では一番生き生きした表情を浮かべている。
これで少しは良くなってくれれば。
レイは視線を海に向ける。
打ち寄せてくる波音が思いのほか大きく聞こえてくる。
水平線のあたりにかすかに船らしき影が見える。
ふとレイは視線をシンジに向ける。
シンジは瞳を閉じて波の音を聞いているようだった。
レイもそれにならって瞳を閉じる。
打ち寄せてくる波の音。
短調でいて果てしなく複雑なその音。
その音に誘われてレイは自分の心の中に入っていく。
まるで自分の心の中に潜っていく感じね。
そんな感想を漏らし、そのままレイは深く深く自分の心の中へ潜り始めた。
ある夏の夜。
空には満月の月が銀色の光を投げている。
風で草原の草達がざわめく。
舗装されていない田舎道。
道の脇には、小さな小川が流れている。
その田舎道に一つの影が。
「ごめんね。」
シンジの背中におぶさりマナは小さな声で囁く。
軽く首を振ってシンジは答える。
「大丈夫だよ。」
マナはシンジの耳元に顔を寄せ囁いた。
「重くない?」
その問いにシンジはくすりと笑みをもらして答える。
「大丈夫だよ。」
「ホントに?」
「本当だよ。」
虫達の鳴き声が二人を包んでいる。
しばらく黙ったまま二人。
顔を寄せてマナが小さな声で囁く。
「あと3日だね…」
その言葉にシンジはちいさく頷く。
一緒にいられるのはあと3日。
二人が出会ってからの日々はまるで矢のようにあっという間に過ぎて行った。
何なのかな?
この胸に沸き起こる感じは?
何なのかな?
シンジは自分の足元に視線を下ろす。
月が投げかける光で薄く影が浮かび上がっている。
この道を歩くのもあと数日。
…
…
シンジは目を覚ました。
いつのまにか眠っていたらしい。
ここ数日、夜はあまり眠れなかったし…
ふと後頭部に柔らかい感触を感じた。
「起きた?」
その言葉にシンジは目を開ける。
視界に一人の女の子の顔が入る。
そして、彼女の越しに輝いている太陽の陽射しが瞳を焼く。
慌ててシンジは瞳を閉じる。
ゆっくりとシンジは身体を起こして告げる。
「ごめん。いつのまにか寝ちゃったんだね。」
「最近眠れなかった?」
柔らかい笑みを浮かべながらレイがそう答える。
「そうだね、色々考えてたから。」
「そう…で、何か分かったの?」
「そうだね…なんとなくだけどね…」
「話してくれる?」
少し首を傾げて見せてレイは告げた。
「そうだね…」
シンジはそう答えたきり視線を海に向ける。
レイもそのシンジの視線を追って視線を目の前に広がっている水平線に向けた。
しばらく黙ったまま海を眺める二人。
波が打ち寄せる音がなぜかもの悲しく聞こえる。
砂浜には誰もいなかった。
9月の午後。
気温は少し高い目だが、海から吹いてくる風のおかげで暑いとは思わない。
二人の頭上を低く泣きながら海鳥が飛んで行く。
「不思議だった…」
シンジは口を開いた。
「なぜ、マナは僕の質問に答えてくれなかったのか…」
「そう…」
「でも、僕自身、心の何処かでは分かっていたんだ。ただ、それを認めたくなかっただけ。」
視線を伏せシンジは呟く。
「全部、僕自身が覚えていない昔の記憶が関係するんだね。」
「…」
レイは視線を海に向けたまま黙っていた。
ひときわ大きな波が打ち寄せる。
「その記憶との関わりで、マナは僕に何も教えてくれなかったんじゃないかって思う。」
レイは小さくため息をつく。
そう…
その通り、シンちゃんにはその記憶がないから。
だから、マナちゃんは何も言えなかったの…
それを思い出してくれれば、マナちゃんが行かなくてはいけない理由を話せたの。
…
「だから、僕はその記憶を追いかけないといけない。」
シンジはそう呟いた。
二人は黙ったまま、座っていた。
波の音だけが繰り返し聞こえてくる。
頭上には青い空、目の前には青い海。
午後の海と空は穏やかだった。
遠く水平線を行く船がゆっくりと視界を横切っていく。
どれくらいたったのだろうか、シンジは小さくため息をつきレイを見る。
「帰ろうか?」
その言葉にレイもうなずく。
「そうね…」
二人は立ちあがった。
そしてその浜辺を後にした。
シンジは駅に向かって歩きながらぼんやりと考え事をしていた。
でも、どうして僕にはそんな記憶の欠損があるのだろう?
あの時の記憶をさぐると確かに良く思い出せない部分がある。
それはあまりに昔のことでただ忘れているだけだと…
そう思っていた。
でも、その思い出せない部分に何かの真実が隠されているのは間違いなさそうだ。
その部分には何があるのだろう?
そう、こういう時良く言われるのが、本人が無意識のうちのその記憶を思い出すことを拒んでいるということ。
つまり、その記憶を引き出すことによってその本人の精神が著しく傷つく時に
自衛作用によってその記憶を封印してしまうことがあるという。
もし、そうであるならば、僕はその記憶を思い出せば、
自分自身を失ってしまうほど、傷ついてしまうような出来事を体験しているということになる。
一体それは何なのだろう?
マナが、そして、周りのみんなはそんなそぶりを僕には見せなかった。
それ自体がその記憶が僕を傷つけることを恐れている証にも考えられる。
僕はその記憶を思い出すべきなのだろうか?
もし、僕自身が壊れてしまうほどのものだとすれば…
思い出すということはすなわち僕自身の精神が壊れてしまうということを指しているのじゃないのか?
だから、マナは僕には何も告げずに行ってしまったんじゃないのか?
だとすれば、僕はその記憶を思い出すべきじゃないのだろうか?
忘れていた方が僕自身のためにいいのではないか?
マナはそれを知っていたからこそ…
…
…
シンジは立ち止まった。
それを見てレイも不思議そうな表情を浮かべて立ち止まった。
しかし、シンジには声をかけない。
…
でも、それはこのままマナのことを忘れないといけないことを指している。
この記憶を取り戻さなければ、僕は今の生活を続けられる。
マナのことを忘れれば、これまで通りの生活を送ることができる。
マナのことさえ忘れられれば…
そして、マナとの半年のことを忘れられれば…
…
僕は…
…
…
シンジの表情を見てか、レイがにっこりと微笑んで話しかける。
「誰もシンちゃんを責めないよ。シンちゃん自身が決めたことだから。」
シンジはその言葉を聞いて、何かに納得したようにくすりと笑う。
そう…
僕が自分で決めたことなら…
それは僕の責任になるのだから。
誰も悪くない、悪いのは自分なのだから…
このまま思い出さないで過ごすのも自分の判断。
記憶を取り戻して真実を知るのも自分の判断。
全て、僕次第。
…
そうか…
…
母さんの言葉…
…
やっと分かったよ。
以前から言っていた言葉。
「全てはシンジ次第よ。」
そうだね。
僕が決めることだから。
誰も指図はできない。
僕の心の針の触れる方向に向かって歩けばいい。
マナもそれを分かってくれる。
…
僕は…
もう一度だけでもいい。
マナに会いたい。
マナが言いたかったことを聞きたい。
だから、全ての真実を知りたい。
シンジは小さく息をついた。
そして笑顔を浮かべてレイを見る。
「ありがと…」
そう告げた。
そのシンジの笑みは彼を知っている人ならば、誰でも知っている普段の彼の笑みだった。
二人はある交差点の前にやって来た。
歩行者用の信号は赤だった。
シンジはぼんやりとその信号を見つめる。
でも、どうすれば…
僕はその記憶を思い出せるのだろう?
その記憶はどうすれば、甦るのだろうか?
まるで、広い海の中に落としてしまったコインを探すような感じ。
途方に暮れてしまう。
どうしよう?
僕は…
と、どこからか小さな声が聞こえてくる。
自分を信じて。
そして、願うの。
私に会いたいって願って。
そうすればその願いはかなうから。
私は…
いつも一緒だよ。
あなたが願えばすぐに会えるよ。
私はいつもそばに居るから。
ちょっと住む世界が変わってしまっただけ。
この世界じゃなく、あなたの心の中の世界に引っ越しただけ。
だから、いつでも会えるよ。
だから、私に会いたいと願って。
願う…
会いたいと…
でも…
それは、いったい誰なのだろう?
会いたいと…
と、シンジの脳裏に一人の女の子の笑顔が浮かぶ。
そう…
僕はこの子を知っている。
マナにそっくりで…
でも、違うんだ。
そう…
この子は…
その瞬間、いきなりの頭痛がシンジの頭に押し寄せて来る。
まるで波が打ち寄せるように痛みが頭を締め付ける。
何だ?
どうして、いきなり…
シンジは落ち着こうと息をつくが、頭痛は一段と酷くなる。
どうして??
こんなの始めてだ…
どこかに吹き飛ばされそうになる…
嵐の中にいるような感じだ…
…
…
シンジはふらりと身体を揺らす。
レイはそのシンジを見て、不思議そうに声をかける。
「シンちゃん?」
しかし、その声はシンジには届かなかった。
頭痛は酷くなる一方でだんだん方向感覚がなくなってくる。
頭痛にまじって、誰かの声が聞こえてくる。
それは一人ずつ増えて行き、最後はまるで怒号の中にいるように感じる。
誰?
僕に話しかけてくるのは?
誰なの?
何?
何が言いたいの?
僕に何を伝えたいの?
僕をどこに連れて行きたいの?
…
…
そして、シンジはふらりと一歩前に踏み出そうとする。
まるで何かに呼ばれたように、車道に踏み出そうとする。
「危ない!」
その声と共に、レイはシンジに抱きつく。
シンジはぼんやりと歩行者用の信号を見つめる。
その信号は赤を示していた。
「シンちゃん!信号赤だよ!」
レイのその言葉にシンジはゆっくりとレイを見る。
「信号…」
その声はまるで夢を見ているような表情。
「赤…」
「シンちゃん?」
レイはシンジの顔を覗きこむ。
シンジはゆっくりとつぶやく
そう…
僕はあの時…
信号に気づかないで…
そのまま車道に…
それで彼女が…
僕をかばって…
大勢の人の声の中から一人の女の子の声が聞こえてきた。
雑踏の中にいるような状態なのに、なぜか彼女の声だけが鮮明に聞こえる。
そして、彼女に関わる人たちの声も聞こえてくる。
あ…ホタル…ほら、あそこにホタルがいるよ…
何、すごく不思議そうな顔してるよ。
ううん。これは夢じゃないよ。
シンジちゃんはマナのこと好き?
おはよ。シンジちゃん。
花火?うん、いいよ。一緒にやろう。
もう、マナったら、一度飛び出すとどこに行ったかわからないんだから…
そう…そうだったんだ…
おはよう。シンジちゃん。
双子だけど、結構性格とかは似ないものよ。
気になる人ならいるよ。
どうしたのそんなに息を切らせて。
もう、そんなだから、お医者様に外であそばせないようにって言われるのよ。
だって、お姉さんだから。
もう、そばにはいられないかも…
約束、ちゃんと守ってね。破ったら許さないから。
あの夏、僕が出会ったのは…
本当に手間のかかる子なんだから。
本当のことなんて誰にも分からないよ。
おばさんがそろそろお薬の時間だからって。
もしかして、私と間違えたの?
アヤちゃんってお姉さんって感じがするよ。
教えてあげない。それはシンジちゃんが自分で見つけるものだよ。
私のこと呼んだ?
だって、マナが寂しがるでしょ?
マナだけじゃなかったんだ…
私、一度でいいからスイカ割りしてみたかったの。
双子であれば、適合する確立も高いのです。
でも、それではあの子は、あの子は…
しかし、今を逃せば、もう機会は来ないかもしれない。
皮肉なものだよね、一人の命によってもう一人が助かるなんて。
もう一人いたんだ…
私ね、いつかマナと旅行に行きたいな。
その時はシンジちゃんも一緒に来てくれる?
お姉ちゃんが私の中にいてくれるの。
だから、私は寂しくないよ…
約束。守ってくれたね。
ありがとう。
その子の名前は…
だから、自分のこと責めないで。
このワンピース、お母さんとアヤお姉ちゃんとおそろいなんだ。
お父さん、私の体、マナのために使ってね。
さて、私は誰でしょう?
ふふふ、シンジちゃんって面白い。
私にもシンジちゃんみたいな弟が欲しかったな。
全てはシンジちゃん次第よ。
決めるのはあなた。
そして、一人の女の子の声が聞こえた。その声はシンジの心にはっきりと聞こえた。
「私?私は霧島アヤ。マナとは双子の姉妹なの。」
霧島アヤ。
そう…
何もかも思い出した。
彼女のこと全て、あの夏に起こったこと全て…
そして…
僕の過ちも全て。
あとがき
どもTIMEです。
Time-Capsule第33話「記憶の海から」です。
大分遅くなってしまいましたが、今年最初の更新です。
一人で部屋にこもっていろいろ考えた結果だした結論。
そして、それを裏付けるように、シンジは記憶を取り戻すわけですが、
その記憶は本人にとってかなりつらいものです。
よみがえったのは彼女のやさしさに触れる記憶と彼女を失う記憶です。
今後は、マナの双子の姉アヤの記憶。
そしてマナの体の異変との関わりがポイントになっていきます。
さて、次回は全ての記憶を取り戻したシンジの葛藤と、シンジを呼び戻そうとするレイのお話です。
では次回TimeCapsule第34話「存在価値」でお会いしましょう。