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そして、一人の女の子の声が聞こえた。その声はシンジの心にはっきりと聞こえた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「私?私は霧島アヤ。マナとは双子の姉妹なの。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

霧島アヤ。
 
 
 
 
 
 
 
 

そう…
 
 
 
 
 
 

何もかも思い出した。
 
 
 
 
 
 

彼女のこと全て、あの夏に起こったこと全て…
 
 
 
 
 
 

そして…
 
 
 
 
 
 

僕の過ちも全て。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/2000
 
 

第34話

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

全てはあの時、あの瞬間に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

駅の改札で手を振っている女の子を見たとき、シンジは一瞬マナかと思った。
しかし、その女の子の言葉でシンジはマナでないことを悟った。
真夏の差すような陽射しの中の彼女の笑顔はそれに負けないくらいに輝いていた。

「シンジちゃん。お久しぶり。」

アヤのその言葉にシンジは彼女に向かって恥ずかしそうにこっくりと頷いた。
誰かが迎えに来るとは聞いていなかったので、シンジはその疑問を素直に口にした。

「迎えに来てくれたの?」

シンジのその問いにアヤはにっこりと微笑んでうなずいた。

「うん。父さんが行って来なさいって。 ここから病院までちょっとややこしいから。」

アヤはシンジが持っているちいさな鉢植えの花を見て微笑む。

「ありがとうね。お見舞いに来てくれて。」

「マナちゃん、最近よく入院してるからって聞いたから、心配で…」

「そうね。最近ちょっと身体の調子が良くないみたいで。」

駅から出て、正面のロータリーを迂回して、二人は歩道を歩き始めた。
その日は何ら変わらない真夏の暑い日だった。
その日差しを避けるため、アヤは麦藁帽子を、シンジは野球帽をかぶっていた。

「一年ぶりよね?」

その問いにシンジは少し考えてから答えた。

「うん、そうだね。前来たときも夏休みだったから。」

「レイちゃんは?」

「最初は一緒に来るはずだったんだけど、親戚に不幸があったから、これなくなったんだ。」

シンジは申し訳なさそうに答えた。
そんなシンジの様子を見たアヤは首を振って答える。

「それなら、仕方ないよ…」

そして、何か思い出したように微笑む。

「そうそう、シンジくんが来ること、まだ、マナには内緒にしてあるからね。」

「そうなの?」

「うん、だって、驚かせたいじゃない?」

アヤはにっこり微笑む。
まるで、どんないたずらをしようか迷っているかのような笑み。
シンジもつられてにこにこ笑う。

「そうだね…その方が面白いかも。」

シンジはふと、マナと交わした約束を思い出した。

「僕が大人になったら必ず、会いに行くから。」

そう約束したけど、ちょっと早いよね。
でも…
でも、すごく心配だったから。
だから…
 

そう…
全てはこの瞬間。
僕はこの時起きたことを許容できなかった。
幼かった僕の心は壊れてしまいそうになった。
 

シンジは考え事をしていたので、それに気がつかなかった。
信号が赤になった横断歩道を渡り始めた自分に。
その様子を見て慌てて声をかけるアヤ。
自動車が動き出す。
手前側の自動車は止まっている。
しかし、向こう側からやってくる車は止まらない。
アヤは自身をさらす様にシンジの前に出る。

「あぶない!」

その声を聞いて。
シンジは我に返った。
そして次の瞬間。
彼の目に入ったものは、目の前から消えるアヤの姿だった。
激しい、ブレーキ音。
道路上に何かが落ちる音。
音のしたほうを見つめるシンジ。
そこには道路上に横たわったアヤの姿が…
シンジには何が起こったのかわからない。
視線をあげるとそこには、赤いランプが輝いている横断者用の信号があった。
シンジの視界から全てのものが色を失った。
ゆっくりとシンジはアヤに歩み寄るシンジ。
そして、彼女のそばにひざをついて座った。
ひざに何かの液体がついたが、シンジは気づかない。
アヤがうめき、ゆっくりと瞳を開ける。
シンジを見て、いつものように微笑む。

「よかった…ケガはない…よね?」

こくこくと頷くシンジ。

「ごめん。僕のせい…で…」

シンジの瞳に涙が浮かぶ。
それを見てアヤはゆっくり首を振る。

「だい…じょうぶ…シンジちゃん…は、わるく…ない…から…だから…泣か…ないで…」

シンジは首を振る。

「でも…でも。」

しかし、どこからかやってきた大人が彼と彼女を引き離す。
そしてそれがシンジとアヤの最後の会話になった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その光景が何度も脳裏で繰り返される。

どうして、僕はあの時、ちゃんと信号を見なかったんだ。

どうして、立ち止まらなかったんだ。

渡ってしまったんだ。

そうすれば、何も起こらなかったのに。

あんなことは起こらなかったのに。

僕はなんて事をしてしまったのだろう?

僕のせいで、一人の女の子の命が失われてしまった。

それも…

僕が好きな女の子のお姉さん。

僕はどうすればいいの?

どうすれば、許してもらえるの?

誰か…

誰か、教えてよ…

僕は、どうすればいいのか、教えてよ…

ねぇ…

誰か…

お願いだから…

僕に教えてよ…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「臓器移植?」

その言葉に白衣を来た男性が黙ったままうなづく。
彼は隣に座っていた彼女と顔を見合わせる。

「そうです、この機会を逃すわけにはいけません。これはまれに見る好機なのですよ。」

彼はうつむき首を振る。

「しかし…」

彼女は白衣の男に問い掛ける。

「でも、それでは、あの子は…」

「最善を尽くしましたが、もう奇跡でも起こらない限り…」

「そんな…」

白衣の男は視線を窓の外に移す。
真っ赤に染まった空の一部が窓に切り取られていた。

「できれば、こんなことを勧めるのは本位ではないのですが…」

「…」

「もう、時間がないのです。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

沈んでいく。
 

さっきから自分の体がどこか深いところに沈んでいくのを感じる。
 

二人の仲の良い姉妹。
 

病弱で体の弱い妹、
 

それを気遣っていつも妹のそばにいた姉。
 

双子の二人は本当に仲の良い姉妹だった。
 

でも、その関係を壊したのは僕。
 

信号を無視して車道に入った僕をかばってアヤちゃんは…
 

車に…
 

駆け寄った僕にアヤちゃんは微笑んでくれた。
 
 

「だい…じょうぶ…シンジちゃん…は、わるく…ない…から…だから…泣か…ないで…」
 
 

僕が聞いた、彼女の最後の言葉。
 

病院に運ばれたけど、アヤちゃんは助からなかった。
 

でも、そのアヤちゃんの体の一部はマナに移植された。
 

アヤちゃんのおかげでマナは助かった。
 

でも、アヤちゃんはこの世界からいなくなってしまった。
 

僕はアヤちゃんを殺してしまった。
 

僕の心はその事実を許容できなかった。
 

しかし、アヤちゃんの両親は運命だったのだと思っているらしかった。
 

アヤがいなくなるのは悲しい。
 

でも、そのおかげでマナは元気になれるのだから。
 

もともと、アヤはその為に生まれてきたのだと。
 

そう思うことにしようと。
 

二人はそう話していた。
 

でも、僕には納得ができなかった。
 

じゃあ、アヤちゃんはどうなのだろう?
 

本当にそれで良いのか?
 

マナが元気になるためにアヤちゃんが犠牲になるなんておかしいと思った。
 

二人共元気でいられる選択肢があるはずだった。
 

僕がそれを壊してしまった。
 

なにより、誰より、自分自身がどうしても許せなかった。
 

どうしてあの時もっと注意して周りを見ていなかったのか?
 

信号が赤に変わったのに気づかなかったのか。
 

僕がそれにさえ気づいていれば、何も起こらなかった。
 

そうすればアヤちゃんは死なずにすんだ。
 

すんだんだ。
 

僕の心はその事実を受け止められなかった。
 

そして…
 

僕の心は全てを忘れることを選んだ。
 

逃げ出してしまったんだ。
 

全ての事実から。
 

そして、自分自身からも。
 

マナ。
 

君はどうして僕の前に現れたの?
 

そして、急に僕の前からいなくなったの?
 

やっぱり、僕に対する復讐?
 

あの時マナのお姉さんを奪った僕に対する復讐なの?
 

過去を忘れ、自分の罪を忘れた僕を許せなかったの?
 

君は僕に向けた笑顔の下でそんなことを考えていたの。


 

僕のことを好きって言ってくれたときもそんな事考えていたの?
 


 


 


 

当然だよ…ね。
 

僕のせいでお姉さんが…
 

なのに、僕はそのことを忘れていたんだから。
 

そもそも僕が生きてる価値なんてあるのかな?
 

このまま消えてしまった方が良いのかな?
 

一人の人を殺してしまって。
 

それでも、僕は生きていて良いのだろうか?
 

生きている価値なんて…
 

ないんじゃないかな?
 


 

だったら、いっそのこと消えてしまおうか?
 

この世界から消えてしまおうか?
 

そうすれば、アヤちゃんに会えるかな?
 

会って、あの時のこと謝れるかな?
 

許してもらえるかな?
 

許してもらえないのなら、その世界からも消えるしかないな。
 


 


 

そうだね…
 

消えてしまおう。
 

そうすれば、マナも許してくれるかな?
 

そうすれば…
 

全てから開放される。
 

誰も僕を責めない。
 

だから…
 

僕は、消えてしまおう…
 

この世界から消えてしまおう…
 

そうすれば…
 

そうすれば…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この海の底に沈んでいこう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

深く
 
 
 

深く
 
 
 
 
 
 

深く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

深く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

深く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そして、消えてしまおう…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

日が落ちた直後の薄暗い空。
目の前に広がっているのはオレンジに輝く海。
海自体が淡く輝いているようだった。
足元の砂は真紅に染まっている。
まるで血を吸っているようだとシンジは思った。
ここはどこだろう?
シンジはきょろきょろと辺りを見まわした。
わからない。
見たことも聞いたこともない世界。

ここよ…

シンジの頭の中に誰かの声が響く。
その声に誘われるようにシンジは砂丘を登って行った。
なんとか砂丘を登りきりその砂丘の頂上にたどり着く。
そして、登りきった先には、一面花々で埋め尽くされた花園が広がっていた。
シンジは後ろを振り返る。
背後はまるで常識からかけ離れた光景。
目の前には心が安らぐような光景。
まるで、天国と地獄だな。

こっち…

また声が頭の中に響く。
今後は背後から呼んでいるようだった。
シンジは首をかしげてもう一度後ろに振りかえる。
視界の中に先ほどまでなかったものが映った。
砂浜のずっと先にではあるが、何かが立っている。
傾いた十字架が砂浜に刺さっているように見える。
シンジは何か心臓をつかまれたように感じた。
あの十字架のところに行かなくてはならない。
彼はその思いに突き動かされ砂丘を下り始めた。
転げ落ちるように砂丘を駆け下り、その十字架を目指す。
砂浜の細かな砂が彼の足にまとわりつく。
つまづき、よろけながらもシンジは駆け続ける。
かなりの距離を走ってシンジはその十字架の近くまで来た。
その十字架にかけられていたものを見た瞬間。
シンジは心臓が何かに鷲づかみされたように締め付けられた。
その十字架には、一人の女の子がかけられていた。
両手、両足を太い釘で止められ、その部分からは赤い血が流れている。
まとっている白い布もどす黒い赤に染まっている部分がある。

まさか…

シンジの呟きに、その女の子はゆっくりと顔を上げる。
その女の子とシンジの視線が交わる。

アヤ…ちゃん…

震える唇からそれだけの言葉を吐き、シンジはその場にくず折れる。

やっと、私のことを思い出したようね。

その声はマナの声とよく似ていた。
しかし、その口調にはシンジを蔑む調子が感じられた。
シンジはこくこうとうなずく。

忘れていた…
僕のせいでアヤちゃんが…

そう、あなたのせいで私はこの世界に閉じ込められたまま、あの世界に行けない。

彼女の視線は砂丘の丘の向こうに見ていた。
さきほど、シンジが見た花園はその先にあった。

どうして?

それはあなたのせいよ。

僕の?

あなたは自分の犯した罪を忘れた。
だから私があなたの代わりに、あなたに与えられるはずだった罰を受けているの。
この世界にとどめられて、私は夕陽が沈むと私はここに縛り付けられる。
そして、夜通しずっと私には罰が与え続けられる。

僕は…僕は…

いまさら、謝られたって私にはあなた許すことなんてできない。
あなたは全てから目を逸らして逃げ出した。
もう、その過ちは二度と拭い切れない。
あなたはその過ちから逃げられない。
そして、その過ちに気づいた今、あなたにも罰が与えられる。

罰…

そう、あなたは今から心の安らぎを得ることはできない。
常にあなたが犯した過ちにさいなまれ、苦しめられながら生きていかなければならなくなる。
それがあなたに与えられる罰。
もう逃げることはできない。
あなたは忘れることもできない。
死でさえ、あなたを開放してくれない。
ずっと、あなたはこの罪を背負っていかなくてはならない。
 
 
 
 
 

ずっと…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

そうずっと…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あなたはこの罪の意識を背負って生きていくのよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誰もあなたを許してくれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誰もあなたを理解してくれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誰もあなたに同情しない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

なぜなら、それがあなたに与えられるべき罪なのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 2000/03/18公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

おまたせしましたTime-Capsule第34話「罪」です。
今話から数話かけてシンジの精神世界のお話を書いていきます。
記憶を取り戻したシンジですが、記憶の重大さにやはり彼の心は壊れていきます。
彼の心の中に現れたアヤは彼を責めつづけます。
シンジは乗り越えることができるのでしょうか?

では、次回TimeCapsule35話「罰」でお会いしましょう。






 TIMEさんの『Time Capsule』第34話、公開です。







 シンジがはまっていく〜

 深みに

 どんどん

 ずぶずぶ


 これは大変・・・・



 一回逃げちゃっているから、
 間が空いちゃっているから、

 な〜んか大変。



 時間がかかりそうだね。


 ゆっくり今度は乗り越えてくださいです・・・・






 さあ、訪問者のみなさん。
 ここからどうするTIMEさんに感想メールを送りましょう!














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