ゲンドウは現れた一人の男性をじっと見据えた。
霧島と呼ばれた男性はテーブルの向かいに座った。
彼は霧島コウイチ。マナの父親であった。
「しかし、ハワイと日本も近くなったな。昔はかなり時間がかかったものだが。」
「そうだな…」
ゲンドウは手を目の前に組んで尋ねる。
「で、検査結果は読んだか?」
「あぁ、目を通した…思っていたよりも進行が早そうだな。」
「やはり無理をさせすぎたせいか?」
コウイチは首を振って答える。
「なんとも言えない。しかし、ベッドに縛り付けて安静にさせたところで良くなるとは限らんしな。」
「それはそうだが。」
大きくため息をついてゲンドウを見つめる。
「確かに、これからしばらくはそうなるだろうが。」
しばらくの沈黙。
そしてコウイチは息をついた。
「マナに全部話そうと思うのだが。」
コウイチの言葉にゲンドウが少しだけ眉を動かした。
「そうか…確かにこれ以上隠しておくのは得策ではないかもしれないな。」
「あぁ、話した上で決めさせることにする。ついてくるか、ここに残るか。」
ゆっくりと頷いてゲンドウは同意した。
「わかった。ユイにもそう話しておこう。」
会話が途切れる。
お互い、何かを考えているようだった。
そして、どれくらい時間がたったか、コウイチの方が口を開く。
「シンジくんは思い出したそうだな。」
「一部分だけだがな。」
「しかし、シンジくんには耐えられないのではないか?」
コウイチの問いにゲンドウはうつむいて考えていたようだ。
そして、ゲンドウは口を開く。
「思い出さなければならない。マナくんのためにも、君達のためにも、シンジのためにも。」
Time Capsule
TIME/99
第31話
「私の選択は…」
「ここが、マナの部屋なのね…」
その女性はその部屋に入ると部屋の中を見まわした。
彼女は霧島カオリ、マナの母親だった。
「やっぱりこんな感じにしちゃうのね…」
カオリは机の元に歩いていき、
机の上に置かれていた写真立ての写真を見つめる。
にっこり微笑むと、振りかえってユイの方を見る。
「シンジくんは思い出したんですってね。」
入り口に立っていたユイが小さく頷いて答える。
「えぇ、かなり苦労したみたいだけど、思い出したわ。でも…」
カオリはユイに頷いて見せる。
「あの子のことは思い出していない…」
「えぇ…」
「それは仕方ないわ。それだけシンジくんにとってはショックなことだったのだから。」
カオリはベッドにゆっくりと座る。
ユイのその女性の隣に座る。
「あの子は…すごくやさしくて、いつもマナのことを心配していた。
何をするにもマナを気遣って。自分がお姉さんだからって。
本当に…いい子だった…」
「ごめんなさいね…あんなことがなかったら…」
その言葉に首を振って答えるカオリ。
「ううん。そんなことないわ。あの子はそういう運命だったのよ。
そのおかげでマナは今生きているのだから…」
しかし、カオリは小さくため息をつく。
「これでマナまでいなくなってしまったら、私達はどうなるのかしら?」
「じゃあ、今日はここまで。」
ミサトのその言葉にクラスの生徒たちが一斉に立ちあがる。
その日も午前中授業だった。
週末まではずっと午前中で終わり、翌週からは平常の時間帯で授業が行われる。
しかし、さらにその週からは学園祭の準備等が始まるので、
結局はいくつかの授業は学園祭の準備のため休みになってしまう。
と、ミサトがマナの元にやって来て何かを告げる。
マナは少し驚いた表情を浮かべてこくこく頷いている。
そして、ミサトに挨拶をして、マナはかばんをもってシンジの席にやってきた。
「ねぇ、シンジ。」
「どうかしたの?」
「今日、すぐに帰りたいんだけど。何かウチの親が来てるらしくて。」
シンジは驚いたように聞き返す。
マナの両親が?
「おじさんとおばさんが?」
こっくりうなずくマナ。
「だから、すぐに帰りなさいってミサト先生が。」
かばんを持ってシンジは答える。
「わかった。じゃあ、帰ろうか?」
「でも、シンジは別に呼ばれてないけど。」
「自転車で帰れば早いでしょ。」
シンジはそう言ってかばんを持って立ちあがる。
「なんや、シンジ、もう帰るんか?」
トウジがやって来てシンジに声をかけてくる。
「うん。ちょっと用事があって、すぐに帰らないといけないんだ。」
「そうか、今からケンスケを締め上げるところやったんやけどな。」
シンジは意地悪く微笑んだ。
「そう?じゃあ、僕の分までやっておいてよ。」
「わかった。」
教室を出て廊下を歩き始めた二人の耳にケンスケの絶叫が聞こえた。
「相田君、かわいそう。」
マナが後ろを振り返ってそう言った。
「まぁ、しようがないよ。しばらくは大変そうだけど、そのうちみんな忘れるだろうし。」
「写真も買えなくなるし?」
シンジはくすくす笑いながらうなずく。
「そうだね。」
「でも、マナは何も聞いてなかったの?」
帰り道坂を結構なスピードで下りながらシンジはマナに尋ねていた。
「うん。全然、そんな話無かったよ。」
「最後に連絡したのはいつ?」
マナは少し考え込んでから答える。
「4日前…だったと思う。向こうから電話がかかってきて。」
「その時は何も?」
「うん。別にこっちに来るなんて話しなかったし。」
軽くペダルをこぎながらシンジは坂道を下り、住宅街に入った。
他の学校も午前中で終わりなのか、歩道には中学生や小学生の姿も見える。
「なんだろうね?」
「わかんない。」
しかし、マナは何か意味のない不安が心に広がるのを感じていた。
どうして来たのだろう?
まるで私の身体のことを聞いたみたいに…
やっぱり、私の身体は…
マナはシンジにつかまる腕に力を入れる。
怖い。
何かが起こりそうで…
シンジはマナがぎゅっと抱き着いてきたことを感じた。
不安なのかな?
やっぱり叔父さん達が来たのって、マナの身体のことなのかな?
もしそうなら、マナはどうするんだろうか?
叔父さんたちと行ってしまうのだろうか?
それとも、どこかの病院とかに入院してしまうのだろうか?
どちらにしろ、今までのようには一緒には…
シンジは内心の不安を押し殺してペダルをこぐ力をさらに入れた。
「ただいま〜。」
ドアを開けて、声をかけてマナが先に玄関に入って行く。
その後ろからシンジが玄関に入る。
「おかえり。」
二人を迎えたのはマナの母親だった。
にっこりとマナを見つめてやさしく微笑む。
「お母さん、いきなりだね。どうしたの?」
そのマナの質問には答えず母親はシンジを見る。
「ご無沙汰しています。おばさん。」
ぺこりとお辞儀をするシンジ。
にっこりと微笑んでカオリは答えた。
「お久しぶり。大きくなったわね。」
じっくりとシンジの全身を見てため息をつくカオリ。
そして、マナの方を向いて先ほどのマナの質問に答える。
「お父さんが、いきなり日本出張になってね。それにくっついて来たの。」
「じゃあ、お父さんは仕事なんだ。」
シンジとマナは靴を脱いで部屋に上がる。
ダイニングのテーブルに二人はカバンを置いて、椅子に腰掛ける。
マナの母親も腰掛ける。
「まぁ、明日で終わるんだけどね。」
「じゃあ、すぐ帰っちゃうの?」
少し残念な口調でマナが尋ねる。
「ううん。今週いっぱいはこっちにいる予定よ。」
そして数時間後、ゲンドウとマナの父親が帰ってきた。
シンジは話を聞いて驚いたのだが、マナの父親もゲンドウと同じ会社に勤めているのだった。
「おかえりなさい〜。」
マナはぱたぱたと父親に駆け寄って抱きついた。
「ただいま。マナ。」
そして、シンジを見て声をかける。
「シンジくん、久しぶりだね。」
「はい、ご無沙汰しています。」
頷きながらシンジを見るマナの父親。
「なるほど、確かにユイさん似だな。碇に似なくて良かったよ。」
「余計なお世話だ。」
マナの父親の背後でゲンドウが不機嫌そうにつぶやく。
そして、その日の夕食はいつにもましてにぎやかなものになった。
シンジはベッドに横になって雑誌を広げていた。
どうやら、今夜も熱帯夜らしく、シンジは部屋の冷房を入れている。
エアコンの動作する低い音が聞こえる。
虫達の合唱も聞こえてくる。
と、ドアがノックされる。
「はい、開いてます。」
ドアを開けて顔を出したのはマナだった。
「いい?」
「うん。」
シンジはベッドの上に置きあがる。
マナはそのベッドの端に腰掛ける。
髪はタオルで包まれている。
「ちょっと寒くない?この部屋。」
「そう、じゃあもう少し温度上げるか。」
シンジはリモコンを操作して設定温度を上げた。
「涼しい夜もあれば、暑い夜もあるし、辛いよね。」
「マナは身体だいじょうぶ?」
こくこく頷いて見せるマナ。
「なんとか。気をつけてるし。」
シンジは思い出したように尋ねる。
「父さんたちは?」
ゲンドウ達4人はずっとダイニングで昔話をつまみにして酒を飲んでいるようだ。
ゲンドウが酒を飲む光景をシンジは始めて見た。
「まだ盛り上がってるみたいね。」
お風呂あがりのため、マナの頬が上気している。
タオルからはみ出した前髪がぺったりと額に貼りついている。
「お互い顔を合わせるの久しぶりなんだって?」
「うん。なかなか機会がなかったらしくって。」
「ふうん。」
なんとなく黙り込む二人。
エアコンが動作する音が妙に大きく聞こえる気がした。
マナはちらりとシンジの顔を見る。
シンジも何気なくマナの顔を見る。
見詰め合う二人。
視線がからまる。
どうしたの?
何が?
すごく不安そうな顔をしてるよ?
そう見える?
うん。僕には…
気のせいよ。
そうなのかな?
そう、私はいつもの私だよ。
本当に?
本当に。
だったら良いけど…
納得してないの?
いや、べつにそうじゃなくて。
…
マナは視線を逸らす。
「あのね…もしかすると…」
マナはそう声を出してシンジに視線を向ける。
その瞳は真剣な輝きを発していた。
「私…」
そして、マナが何かを言おうとした時、ドアがノックされた。
「はい、開いてます。」
シンジはそう答える。
ドアから顔を出したのはコウイチだった。
「やっぱりここにいたか。」
「もう、昔話は済んだの?」
「あぁ、ちょっと話したいことがあるんだが、いいかな?」
「うん。」
マナは立ちあがり、シンジにお休みの挨拶をする。
それに答えるシンジ。
マナが部屋を出ていき、シンジは部屋に一人きりになる。
なんだろ?
今、すごく嫌な予感がした。
これまでの生活が無くなるようなそんな感じが…
少しの間シンジは考えていたが、あきらめたように首を振る。
気のせいだな。
今日はいろいろあったから、そう感じるだけで。
シンジはそう結論付けた。
でも言いようのない不安がシンジの心に広がって行った。
二人はベランダに出た。
まだ、外は蒸し暑い。
虫達の合唱が聞こえてくる。
頬に感じる風も少し湿っているような気がする。
コウイチはベランダの手すりに手を置き、周りの風景を眺める。
「ここも変わったな…昔はもっと緑が多かったのに…」
「そうなの?」
マナは父親の隣に並んで、同じように風景を見渡す。
ちらほらと明かりが灯っている窓が見える。
月は銀色の光を二人に投げかけていた。
マナはコウイチの横顔をじっと見つめる。
何か、大切なことを言おうとしている。
やはり、そうなのだろうか?
自分に連絡もせず、いきなり日本にやって来た。
いくら出張だからと言っても、少しおかしい。
父が今から話をしようとしていることは、私の予想と同じなのだろうか?
しばらくの沈黙の後、コウイチは口を開いた。
「言っておかないといけないことがある。」
そして、マナの方を見る。
マナはそのコウイチの瞳を見て、息を呑む。
その瞳をマナは何回か見たことがある。
それはあまりいい思い出とはなっていない。
辛いとき、それを我慢しているときの父親の瞳だったから。
「私の…身体のこと?」
マナはかすれ気味の小さな声でそう尋ねた。
ここ数週間で、身体の調子が悪いときが何度もあった。
別にただの夏バテだと思っていた。
ただ、一つだけ気にかかることがあった。
もう10年以上前の話のことで、今更気にするようなことではないと思っていた。
でも、そう自分に言い聞かせていることに気がついた時、疑問が確信に変わった。
自分は確信的にこう思っているのだと。
これはあの時の手術が原因ではないかと。
それが今、はっきりとする。
長い沈黙。
コウイチはじっとマナの瞳を見つめる。
そして、囁くように告げた。
「…そうだ。」
マナは大きくため息をついた。
いつのまにか息を止めていたようだ。
その時にマナの顔に浮かんだ表情は悲しみではなく、安堵だった。
「そうなんだ…やっぱり、そんな気がしてた。」
その言葉にコウイチは少しだけ眉を動かした。
「でも…どうして今なの?」
そう。どうして今なのか?
十年も経った今なのか?
それがわからない。
じっと自分を見つめる視線を感じながらコウイチは視線を夜空に向けた。
そしてコウイチは話を始める。
マナは身じろぎもせずその話を聞いた。
話が終わった後、マナは小さくため息をついて尋ねた。
「じゃあ、もう、シンジのそばにはいられない?」
「それは自分で決めることだ、あの時と同じように。」
もう、シンジのそばにはいられない。
自分で決めること。
父はそう言った。
今まで父は私に命令をしたことはない。
だから、いつも私自身で考えて、自分で決めてきた。
どんな答えを返しても父はやさしく微笑んでくれた。
たぶん、私が残るといっても微笑んでうなずいてくれるだろう。
でも…
私はそれを選ぶことが出来ない。
私の身体は私一人のものではない。
だから、私の選択肢は一つ。
シンジから離れることを。
今、両親が住んでいるハワイに行くことを。
そう決心した時。
私は泣いていた。
自然と涙がこぼれた。
私は何に対して泣いたのだろう?
シンジと離れてしまうこと?
両親が今まで私に内緒にして自分達だけで悩んでいたこと?
それとも…
…
私は結局、シンジにとって一番つらいことをしてしまう。
こうなるんだったら、会うべきじゃなかった。
今まで何度かそんな事を考えた。
でも、今ほど痛切にそう思ったことはない。
私はシンジを苦しめるだけ。
苦しみと悲しみ。
結局、私はシンジにそれだけしか与えられなかった。
これでシンジが全てを思い出したら、私のとった行動を復讐だと思うだろうか?
姉を奪い取った復讐だと。
…
そう結論付けたら、シンジはどうするだろう?
もう私には会ってくれないだろうか?
私のことを蔑んで、もう二度と会いたくないと思うだろうか?
…
…
それとも…
…
どうして、こんな行動をしたのか、ちゃんと知ろうとしてくれるだろうか?
…
そうであって欲しい。
私はシンジのことを恨んではいない。
確かにあの事件は、歓迎できることではなかった。
そのせいで私の大切な姉は…
でも、今の私がいるのはそれがあったおかげ。
だから…
だから…
シンジ…
私は誰よりもシンジのこと好きだよ。
こんな思いは他の誰にも抱けない。
あなただけにしか抱けない。
覚えていますか?
あの夏のこと。
初めて会った時のこと。
私にやさしく微笑みかけてくれたこと。
そして、お母さんの後ろに隠れていた私に
手を差し伸べてくれたこと。
私は覚えています。
あの時のあなたの手の温かさ。
そして、その笑顔。
覚えていますか?
ふたりで遊んだ、あの小川。
いっぱい小魚をとって、
でも、あなたはみんな川に返した。
「おうちに帰りたいだろうから。」
その時の横顔、今も覚えています。
夜、その小川のほとり見たホタル。
ふたりの浴衣にとまったホタル。
とっても奇麗だった。
あなたと一緒に歩いた道。
「暗くてこわい。」と言った私のために
手をつないでくれた。
その優しさ。
忘れないでいてくれますか。
あなたは、私を覚えていますか?
私は覚えています。
そして、あの夏のことも。
あなたが、私に約束してくれたから。
ずっと、一緒にいてくれる。
そう約束してくれたから。
全てあなたは忘れているはず。
そう思っていました。
でもほんの少しだけの期待を持っていました。
だから、あなたに会うことにしました。
そしてあなたと再会しました。
あなたと最初に会ったとき、私をじっと見つめてくれました。
その瞳。
私が知っているあなたの瞳でした。
あの一瞬。
永遠に感じた一瞬。
その時に私はあなたに恋をしたのかもしれません。
そして、私と一緒に暮らすと知ったとき。
あなたはすごく驚きました。
でも、私のことを受け入れてくれた。
あなたは私のことを忘れているのにやさしく受け入れてくれた。
そのやさしさ、忘れないでいてくれたことが嬉しかった。
名前で呼んでいいよって言ってくれたとき。
すごく嬉しかった。
だってあの時も名前で呼んでいたから。
でも、私は恥ずかしくて、ちゃんと名前を呼べなかった。
それでも、シンジは私のわがままを聞いてくれて、私を名前で呼んでくれた。
そうして名前で呼び合っているとあのなつかしい昔のようでした。
眠れなくて、一人でベランダで星を見つめていたとき。
あなたは私を励ましてくれました。
まるで、私が寂しがっているのを知っていたように現れて。
あなたは私の心を全て知っているようで。
すこし恥ずかしかった。
でも、私のことすごく気にかけていてくれるってわかった夜でした。
二人で始めて出かけたとき。
あんなに近くであなたを見たのは始めてでした。
すごくどきどきして。
でも、すごく心地よくて。
そして始めて手を繋ぎました。
はぐれないようにって。
やっぱりどきどきして。
でもすごく嬉しかった。
あの日のことはずっと忘れません。
私の心の中でずっと輝いています。
そして…
あなたは思い出してくれました。
私のことを…
そして交わした約束を…
全部ではなかったけど、それでも嬉しかった。
やっと再会できた。
でも、私はそれで満足すれば良かったのかもしれません。
今となってはそう思います。
私はそれができなかった。
もうすでに私はあなたのことを…
二人きりの夜。
私の誘惑にどぎまぎしていたあなた。
すごくかわいかった。
そして地震が起こったとき。
ぎゅっと抱きしめてくれた。
恥ずかしかったけど。
私のこと大切に思っていてくれるんだと感じました。
そしてアスカさんからの手紙。
あなたはなんでもないって答えたけど。
私はすごく不安だった。
でも、あなたの言葉を信じたいと思いました。
だから…
二人で行った海。
季節はずれだったけど、楽しかった。
手を繋いで堤防に立ったとき。
このまま時が止まればと思いました。
七夕に二人でお話したとき。
離れ離れになったらどうする?って聞いた私に。
そうならないうようにするって答えてくれました。
離れないように…
二人がいつまでも一緒にいられるように…
そう願ったのを今でも覚えています。
…
…
…
…
…
…
でも、私は…
もう、あなたの傍にはいられない。
あなたがいくら一緒にいようと努力しても。
それはもう無駄になってしまう。
私は…
…
…
…
…
あなたのそばにはいられない。
どうしてなの?
私はずっとあなたのそばにいたかった。
誰よりも大切に思って、大切に思われたかった。
ずっとあなたの横顔を見ていたかった。
あなたが何をするときにはそばにいて見守っていたかった。
それなのに…
私は…
私は…
あなたの前から消えてしまう。
あなたに悲しみだけを残して。
「帰ります…」
彼女はそう言うとにっこりと微笑んだ。
「それでいいのか?」
彼は少しだけ意外そうな口調でそう尋ねた。
二人がいるのは彼女の部屋だった。
彼はじっと彼女の瞳を覗きこむ。
「だって、まだ死にたくないし。」
さらりといった感じで彼女はそう告げる。
「まだそうとは決まったわけでは…」
しかし、そう言いかけた彼は彼女の瞳をみて、言葉を止める。
それほど、彼女の瞳は彼がいままで見たことがないほどの光を放っていた。
「そうだな…そうかもしれない。」
彼は自分の娘が一人の女の表情を浮かべているのに、少なからず驚きながらうなずいた。
いつのまにか子は成長するものだな…
ふと、そんな考えが浮かぶ。
「だから、行きます。」
「わかった。それで彼にはどう説明する?」
彼女は悲しそうな表情を浮かべて答えた。
「何も。シンジは思い出していないのだから、何も言えないよ。」
「そうか…」
マナは父親の顔をじっと見る。
「でも、私から言うから。もう一緒にはいられないって。」
「…わかった。」
あとがき
どもTIMEです。
Time-Capsule第31話「私の選択は…」です。
いよいよマナの身体の異変が本人に知らされました。
そして、マナはシンジと別れることを決意します。
シンジの記憶は戻らず、そのせいでマナは自分で考えるしかありませんでした。
そして3人目の彼女はマナの姉でした。
ちなみに補足すると、姉ですが、双子の姉です。
ある事件でこの世を去っています。
#って、バレバレでしたね。
次回は別れを決心したマナは最後にシンジと二人で出かけます。
ではTime-Capsule第32話「さよなら」でお会いしましょう。