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その日、診察後マナを待合室に待たせて、二人は診察室にいた。

「どう?」

医師は険しい表情で、ユイに視線を向ける。
その医師はゲンドウ、マナの父とは高校の同期で今も親交がある。
そのせいか、ユイに話しかける口調は友人に話しかけるそれだった。

「詳しくは検査結果が出ないと分からないが、予想よりは進行しているかもしれない。」

「そうなの…」

「これは霧島くんを一度呼んだ方が良いかもしれないよ。」

ユイは息を呑む。
そして小さな声で答える。

「そう…じゃあ、私のほうから連絡を…」

「いや、僕から連絡するよ。いろいろ打ち合わせもしたいしね。」

悲しげな視線をドアの方に向けて、ユイは尋ねた。

「マナちゃんは何か言ってた?」

「身体がだるいとだけ。ただ、少しは気づき始めてるんじゃないかな?
ただ、10年近く前の話だからね、今更とは思っているかもしれない。」

大きくため息をついてその医師は言葉を続ける。

「なんにしても霧島にはつらいことだろうな。
もう10年になるか、あの事故から…」

「そうね…」

カルテから視線をはずしユイに向け、医師は尋ねる。

「君のところのシンジくんは思い出してないのか?」

「マナちゃんのことだけ…でも、彼女の事は全然。」

「そうか…アレは辛い出来事だったからな。誰にとっても…」

そう言って、医師は視線を窓の外に向けた。
ブラインド越しに夏の強い日差しが差し込んできていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第30話
嵐が来る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「今日から2学期かぁ。」

自転車をこいでいるシンジにつかまりながら、マナはため息混じりにそうつぶやく。
シンジにはマナのその声は聞こえなかったようだ。
何も答えを返さずにシンジは自転車を漕ぎつづける。
ふと、マナは空を見上げた。
雲一つ無い空を見上げてマナはまた息をつく。
今日から2学期。
また学校が始まる。
本当に夏休みはいろいろあった。
最初の2週間は親元に行っていた。
その間にシンジの所には幼馴染のレイちゃんがやってきて、
さらにお隣に住んでいたアスカさんが来ていた。
そして、レイちゃんとすれ違いに私が帰ってきて、アスカさんも帰った。
レイちゃんとシンジには私の知らない秘密があるみたいだ。
何があったかはわからない。
でも、シンジは少しだけ変わった気がする。
それはアスカさんも関係があるかもしれない。
アスカさんはシンジのことを…。
私にとってもそうだけど、シンジにとっても長い夏休みだったのだろうな。
マナは風で額にかかった髪を頭を振ることで落ち着かせ、小さく息をつく。
そして、私は告白してしまった。
本当は告白などするつもりはなかった。
シンジが思い出して、そのことに結論を出してからにするつもりだった。
でも…
私は耐えられなかった。
その後、別に何かが変わったわけでない。
いつも通りの二人だと思う。
でも…
何かが変わったような気がしないでもない。
それはただの思い過ごしなのか、それとも…

「今日から2学期だね。」

シンジがマナの方をちらりと見て、そう告げる。
マナ先ほどまでの考えを忘れて、くすくす笑いながら頷く。

「そうだね。」

「また、勉強三昧になるね。」

「それをいわないでよ。」

マナの嫌そうな表情を見て、シンジは苦笑をその口元に浮かべる。

「確かに憂鬱だね。」

大きなため息をつくマナ。

「あ〜あ、なんで学校なんてあるんだろうね。」

「でも、友達が作れるし、クラブとかあるし。」

「帰宅部のシンジがそれを言っても、全然納得できないよ。」

シンジは肩をすくめて答える。

「そう?」

マナはシンジの肩につかまって、耳元で囁いた。

「そうよ〜。」

「でも、しばらくは文化祭とか、体育祭で授業もつぶれるしね。」

「そうか…しばらくはマシってことね…」

「そうだね。」

9月になったとはいえ、まだまだ強い日差しを投げる太陽が雲から現れる。
二人はその日差しの中を学校に向かっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 

「おはよ〜。」

玄関ですれ違ったクラスの女の子が声を掛けてくる。

「おはよ。」

マナはそう答えるが、その女の子はマナをじっと見詰めてにっこりと微笑むと、顔を寄せて囁く。

「おめでと。って言ったほうが良いんだよね?」

「へ?」

マナは何の事かわからずに不思議そうな顔をする。

「だから、おめでと。」

「う、うん、ありがと。」

その女の子は勝手に頷きながら、話を続ける。

「まさかとは思っていたけど、霧島さんがねぇ。大胆よねぇ。」

「何が?」

「何が?って子供できたんでしょ?シンジくんの。」

きっちり一秒マナは黙ったままその女の子の顔を見つめる。
そして大きな声で叫んだ。

「えぇ〜?」

当然、辺りにマナの絶叫が響く。

「どうしたの?そんな大声出して?」

シンジが不思議そうにマナの傍にやって来る。
女の子がそのシンジに告げる。

「シンジくん、ちゃんと責任は取るんでしょうね。」

「責任って?」

女の子は怒ったようにシンジに言い放つ。

「ひどい、シンジくんの子供なんでしょ?」

それを聞いたシンジが真っ青になる。
こちらもきっちり一秒その女の子の顔を見つめた後、ゆっくりと頭を動かしてマナを見る。

「シンジ…もしかして…」

こっくりとうなずくシンジ。

「あぁ、これは…」

その二人を見て女の子は不思議そうな顔をする。

「ちょっと、どうしたの?」

二人は大きくため息をつく。

「実はね…」
 
 
 
 
 
 
 
 

やはり、シンジの予想していた通り、クラスは大混乱だった。
おりしも、ケンスケが女の子、しかも女性誌のモデルをやっているような美少女と付き合い始めたという噂が飛び交っていた。
それに加えて、マナが妊娠したという情報が飛び込んだから、混乱に拍車がかかっていた。
その中にクラスに到着したシンジは教室に入るなり、当然クラスメートに取り囲まれる。

「シンジ!お前ってヤツは〜。」

「よくも、よくも霧島さんを〜。」

と言う男子生徒の声や、

「シンジくんちゃんと責任取るんでしょうねぇ〜。」

「そうよ、霧島さんが可哀想だよ〜。」

という女子生徒の声に囲まれる。

「トウジ〜!」

マナも同様にクラスメートに取り囲まれている。
気の早い女子生徒はマナのお腹に触れたりしている。

「ちょっとなんとかして〜。」

「みんなちょっと話を聞いてあげて〜。」

ヒカリがそう声を掛けているが、収まる気配がない。
それどころか、いっそうエスカレートしていった。
と、突然質問攻めに会っていたマナの姿がふっとその場から消えた。
そpして、マナのいた辺りからざわめきが広がる。

「どうしたの?」

ヒカリが人の波をかき分けて、マナのいた辺りに向かう。
シンジもそれに続いた。

「マナ!」

シンジは倒れているマナを抱きかかえる。
ヒカリが道を明けるように叫ぶ。
トウジがやって来て、どかない生徒を蹴り飛ばす。
シンジはマナを抱えて教室から出る。

「また、貧血か?」

トウジがシンジに先行して廊下の道を歩く。
シンジはマナの様子を見て、首を振る。

「どうかな?それだったら、まだ安心だけど。最近身体の調子が悪そうなときがあったし。」

「私、先生に知らせてくる。」

ヒカリは途中で職員室に向かった。
シンジとトウジは保健室にマナを連れて行き、空いていたベッドに寝かせる。
保健の先生がマナの様子を見る。

「どうですか?」

二人は心配そうに先生を見る。

「う〜ん。やっぱり貧血かな…それにしては…」

「何なんですか?」

シンジの問いに先生は首を振る。

「ううん。貧血だと思うわ。安静にしていれば、じき意識も戻るでしょう。」

「そうですか。」

ほっと息をつくシンジ。
トウジはそんなシンジの肩を軽く叩く。

「シンジ、お前はここにおれや。ミサトせんせにはいっとくさかい。」

「ごめん。トウジ。」

トウジはすまなさそうな表情でシンジに詫びる。

「いや、謝るんはワシや、ワシが勘違いしたせいで…」

「それは関係ないよ。」

シンジはそう言って、にっこり微笑んだ。
トウジが出て行った後、シンジは保健の先生が用意した椅子に座って、じっとマナを見つめていた。
カーテンで仕切られた部屋に二人きりになる。
どうしたんだろ?
身体は大丈夫じゃないのか?
何かマナの身体に起こっているのか?
ここ数日は調子がよさそうだったのに。
そういえば、図書館に行った日も調子が悪そうなときがあった。
でも、帰りは普通にしていて…
その帰り道での事を思い出して、シンジの胸は痛む。
僕のこと好きだって言ってくれた。
レースのカーテン越しに太陽の日差しが差し込んでくる。
その光はマナの髪をきらきらと輝かせていた。
胸のあたりがゆっくりと上下している。
もし…
マナが何かの病気になっていたら…
シンジはそっとマナの頬に触れる。
僕は…
と、空気がゆれる
シンジははっと我に返る。

「どぉ、調子は?」

カーテンから顔を出したのは担任のミサトだった。
シンジの隣に立つとマナの顔を覗きこむ。

「顔色はそんなに悪くないわね。」

「そうですね…」

そして、ミサトはシンジの肩に手を置いて尋ねる。

「で、この貧血は妊娠初期のアレなのかな?」

シンジはそのミサトの言葉に頭を抱える。

「あの…冗談はやめてくれませんか?」

「そうなの?でもクラスの皆がそう噂してるわよ。」

シンジは大きくため息をつく。
まいったな。
トウジ達はちゃんと説明してくれなかったのかな?

「でも、洞木さんの説明で納得したみたいだけど。」

「そうですか…それなら。」

ほっと息をついたシンジを見て、ミサトはニヤリと笑って告げる。

「でも、まだ信用していないのが何人かいるみたいだけど。」

「はぁ…」

シンジはがっくりと肩を落とす。
そんなシンジを見てミサトはシンジの肩をぽんぽんと叩いた。

「ま、霧島さんの目がさめるまで、付き添っていなさい。
起きたときにだんなさんがいれば元気が出るでしょ。」

「って、なんで旦那なんですか?」

「まぁまぁ、硬いこと言わずに…」

ミサトは手をひらひらと振って、カーテンを開けて出て行った。
シンジはまたため息をついて、自分が先ほどからため息ばかりついていることに気がついた。
苦笑を浮かべて、軽く肩をすくめるシンジ。
まだ目を覚ましそうもないマナに小さく話しかける。

「旦那さんだなんてね…誤解だよね?」

誤解…か。


シンジはそのまま黙ってマナの横顔を見つめていた。
 
 
 
 
 
 

「どうしたの?」

駅前の待ち合わせの場所の近くのベンチに座っていた紀伊ミカは、声をかけられて顔を上げた。
その時に発した台詞がこれだった。
声をかけてきたケンスケの顔は青痣が出来ていた。
ケンスケはミカの隣に腰を下ろして苦笑した。

「シメられた。」

「クラスの人達に?」

こっくりうなずくケンスケ。

「最初は良かったんだけど。相手が君と知って…」

「ふうん。私って人気あるんだぁ。」

「って、感心してる場合じゃないだろ。おかげでこのありさまだよ。」

ミカは顔に軽く触れるが、ケンスケは顔をしかめる。

「まぁ、いいじゃない。やっかみは男の勲章よ。」

「って、君は関係ないからいいけど。」

そっぽをむくケンスケを見て、ミカは頬を膨らませる。
ケンスケの顔を掴んでミカの方に向けると鼻が触れそうな距離でケンスケを見つめる。

「ちょっと…誰かに見られたら…」

「別に私はいいも〜ん。」

そう言って、ケンスケにキスをする。
慌てて顔を離すケンスケ。
そして、周りをきょろきょろ見まわす。

「こんな明るいところで…」

「暗かったらいいの?」

「いや、そういう意味じゃなくて…」

満面の笑みを浮かべてミカは言った。

「じゃあ、いいじゃないの…」

そして、ケンスケの手を取って立ちあがる。

「ほら、行きましょ。今日は私の新作を食べてくれるんでしょ?」

二人は駅の入り口でエスカレータに乗った。
前にミカが立ち、その後ろにケンスケが立つ。

「まぁ…犠牲者は僕一人で十分だからね。」

にやにやしながらケンスケは答えた。
それを聞いたミカはまた頬を膨らませる。

「ひっど〜い。本当に毒でも入れてやろうかしら。」

「その方がおいしかったりして。」

すました顔でケンスケが答える。

「なに〜。」

二人は顔を見合わせて微笑みあった。
 
 
 
 
 
 
 
 

マナは何かの物音を聞いて、意識を取り戻した。
小さく息をついて、目を開ける。
瞳に映ったのは白い天井。
視線を右に逸らす。
そこにはシンジが腕を組んで眠りこけていた。

「シンジ…」

小さい声で呼びかける。
思ったよりも声が小さくなってしまった。
しかし、シンジは少し身じろぎしてから、目を覚ました。
そして、マナを見て微笑む。

「どう?気分は?」

「私…」

マナは記憶をさぐるように瞳を閉じて、そして答える。

「倒れたの?」

うなずくシンジ。

「そう…また貧血だって。」

「…」

マナは起きあがる。
シンジは一瞬手を伸ばすが、マナは危なげなく起きあがった。
そして大きく深呼吸してみる。

「どう?」

「うん、もう平気だよ。」

そう言って微笑むと、ベットから降りて上履きをはく。
保健の先生がやって来てマナの顔色を見る。

「もう大丈夫だと思うけど、今日はすぐに帰りなさい。」

「はい、そうします。」

先生はシンジに告げる。

「碇くん、すぐに送ってあげて。帰ったらしばらく横にさせて安静にね。」

「はい。」

二人は先生に見送られて保健室を出る。
もう既に昼を過ぎているので、校舎内に生徒は少なかった。

「ごめんね。」

マナのその言葉にシンジは首を振って答える。

「気にしなくて良いよ。」

二人は黙ったまま廊下を歩く。
ふとマナはある事に気づきシンジを見る。

「どうしたの?」

「ううん…なんでもない。」

にっこりと微笑むマナ。
ありがと。
私がついて来れるように、いつもより少しゆっくり歩いてくれてるよね。
すごく大切にされてるようで、嬉しいな。
マナはにこにこ微笑みながらシンジを見る。

「どうしたの?何か嬉しそうだね。」

「うん、ちょっとね。」

そして、すっと右手を伸ばし、シンジの左手を取る。
驚いたシンジをみて、微笑みかける。

「いいでしょ?」

「でも、学校の中だし…」

「じゃあ、その廊下の突き当りまで。」

シンジは苦笑してうなずく。
手を繋いだまま歩き始める二人。
やっぱり…
いつもよりゆっくりだ。
どうしてそんなに自然にこんなこと出来ちゃうのだろう?
やっぱり、私のこと大切に思っていてくれるからかな?
それとも女の子にはみんなこんな風なのかな?

私にだけだったら良いのに…



シンジ…
私…

私ね…


もう…
一緒にいられないかも…

シンジのそばにいることができないかも…


最近の身体の不調。
心当たりが無いわけじゃないけど…
今更って思ってた。
もう10年以上も前のことだし…
それでも、ちょっと気になって、大丈夫なことを知りたくて、病院に行ったのに…

それで確信してしまった自分がいる。

おばさまも、おじさまも気づいている。
私の身体のこと…

だから、あんな病院で検査を…

ねぇ…

嘘じゃなく、シンジと離れないといけないかもしれないよ…
どうする?
私と離れてしまったら…
シンジはどうする?
私は…
私は堪えられないよ…
もう、シンジから離れたくないの。
ずっと傍にいたいの…
シンジだけを見ていたいの…
それは望んではいけないことなの?
私はそれさえも許されないの?
そして廊下の最後に来てしまう二人。
シンジはマナを見る。
マナはシンジを見る。
シンジは少し迷っていたが、結局手を放すのをあきらめた。
どうしてだろ?
今のマナの瞳。
ひどく、おびえていたように見えた。
手を放されるのが怖かったのか?
いや、そんなことじゃない。
もっと、何か別な何かにおびえていた。
マナの瞳を見てシンジはそう感じた。
だから、手を放したくなかった。
今、感じている子のマナのぬくもり。
まるで、手を放してしまうと、消えてしまいそうに感じたから。
 
 

家に帰ってきて、マナの部屋の前まで来る二人。
マナは部屋の前でくるりと振りかえり、うつむきながらそう言った。

「お願いがあるの。」

シンジはこっくりとうなずき返す。

「少しだけ私のそばにいて欲しいの…」

その言葉に少し驚いた表情を浮かべるシンジだったが、うなずいた。

「じゃあ、服を着替えてから、そっちにいくよ。とりあえず10分後ぐらいでいいかな?」

「うん。」

マナの部屋の前で別れてシンジは自分の部屋に入る。
そして、服を着替え始める。
まだ暑いので半そでのシャツを着る。
クーラーをかけようかとも思ったが、すぐマナの部屋に行くのだからと思いなおす。
当然まだ10分も過ぎていないので、ベッドに寝転がるシンジ。
クリーム色の天井を見上げて小さく息をつく。
マナがもし、何かの病気だったら…
僕は何をしてあげられるのだろう…
次の瞬間、シンジの耳に誰かの声が聞こえる。

「シンジくんはマナのこと好きなんでしょ?しっかりしなさい!」

シンジは起きあがり、周りを見渡す。
当然部屋の中にはシンジしかいない。

「誰…だ?」

返事はない。
今、聞こえたのはなんだ?
空耳なのか?
それとも…
シンジは頭を振る。
しかし、何も答えは出てこない。
前も同じ事が合った。
考え込むシンジ。
やっぱり最近良くある昔の記憶の断片なのか?
ふと時計を見ると、10分以上経過していた。

「マナのところに行かないと…」

シンジはベッドから降りて、部屋から出て行く。
そして、マナの部屋のドアを軽くノックする。

「はい…開いてます。」

シンジはドアを開けて部屋の中に入る。
ベッドの端に腰掛けていたマナは、
肩で紐を結んである、白地にうすいピンクのチェック模様が入っているワンピースを着ていた。

「横になったら?」

シンジはどうしようか迷ったが、ベッドに座らずに、マナの前に立った。
マナは少し迷ったが、シンジの言うことに従うことにした。
シンジはマナの邪魔にならないようにベッドの端に腰掛けた。
ブランケットを顔のところまで引き上げて、マナはじっとシンジの顔を見る。

「どうしたの?」

マナははにかんで、首を振る。

「なんでもない。」

「で、僕はどうすれば良いの?」

「このままそばにいて欲しいの。」

「と、言われても…」

苦笑するシンジ。
午後の陽射しがレースのケーテン越しに差し込んで来る。
まだセミが鳴く声も聞こえてくる。
マナは視線を違うところに向けている。
シンジはそんなマナの顔を見つめている。
そして、マナはシンジを見る。

「じゃあ…一緒に…寝てくれる?」

「へ?」

マナはにこにこ微笑みながら、シンジを引っ張る。
シンジは姿勢を崩してしまう。

「ちょ、ちょっと…」

マナに覆い被さってしまうシンジ。
二人は鼻が触れそうな距離で見つめ合う。
マナはシンジの背中に手を回して抱きしめる。

「もう、放さないから…」

じっとシンジの瞳を見つめる。
この瞳は私を虜にした瞳。
垂れたシンジの髪が頬をくすぐる。
この距離になって始めて感じるシンジの匂い。
ずっと感じていたい。
離れたくない。

「マナ…」

シンジが真剣な表情でマナの顔を見て囁きかける。

「何?」

マナは少しどきどきしながら答える。

「腕…しんどいんだけど…」

マナはきょとんとした表情でシンジを見る。
そしておかしそうに微笑んで手を放してシンジを自由にする。
シンジはマナを腕枕するように手を回して、寄り添う。

「はぁ…これでよし…と。」

そして、何気なくマナの髪に手を伸ばす。
くるくると髪を指に絡ませるシンジ。
それを見たマナは不思議そうに尋ねる。

「面白い?」

「え?」

シンジは我に返り、髪から手を放す。

「ごめん、何か無意識に…」

マナはじっとシンジを見つめる。

「もしかして、他の女の子にこういうことしてたの?」

「いや、そう言うわけでは…」

「何か、私に隠し事してない?」

シンジはふるふる首を振る。

「え?そんなことはないけど…」

「けど?」

苦笑してシンジはマナを見る。

「いやに突っかかるよね。」

「だって…」

マナはぷいっと顔をそむけ、口を尖らせる。
シンジはそれを見て、肩をすくめるようなしぐさをした。

「昔…ずっと昔だけど、こんな風に髪の毛を触らせてくれた子がいるんだ。」

ふいにシンジはそう言った。

「すごくきれいな髪でじぃっと見ていたら、触ってみる?って言われて。」

「それがどうしたの?」

シンジは苦笑を浮かべて首を振る。

「なんだろうね…急に思い出して…」

突然シンジの脳裏にある光景が思い浮かぶ。
 
 

「どうして、そんなにじっと私の髪を見てるの?」

シンジはにこにこ笑って答える。

「だって、すごくきれいだから、お日様の光が当たって、きらきら輝いてるよ。」

「そうなの?」

少女は首をかしげる。
そのしぐさに合わせて髪が揺れ、太陽の光できらきら輝いた。

「うん。すごくきれいだよ。」

「ふうん…ね、触ってみる?」

シンジは少し驚いた表情を浮かべる。

「え?」

にっこり笑って、その女の子はシンジに近づいた。

「ほら、触っても良いよ。」
 
 

「どうしたの?シンジ?」

マナにそう声をかけて、シンジは我に返った。

「あ…うん。」

「何か、いきなり黙っちゃって…」

軽く頭を振るシンジ。
頭の中のもやもやしていたものが、すっと抜けて行ったような気がした。

「ごめん、ちょっと昔のことを思い出したんだ。」

「昔?」

「さっき言ってた女の子のこと、どこだったか、いつだったか思い出せないんだけど。」

シンジは考え込むように言葉を続ける。

「何かすごく仲が良かった気がするよ。」

「そうなんだ…」

マナはじっとシンジを見つめる。
少しづつ記憶が戻ってきているのかな?
それとも、他の誰かのことなのかな?

「まぁ、いいや。」

シンジはそう言うと、首を振って笑う。
マナはそのシンジの顔をじっと見つめていた。
ねぇ…シンジ。
私は、一人じゃないんだよ。
もう一人ここにいるんだよ。
マナは自分のお腹に手を当てる。
そのもう一人がね。
泣いてるんだよ。
シンジに思い出して欲しいって。
だから、私の身体は…
そう考えるのって間違いなのかな?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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ver.-1.00 1999_11/16公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。

TimeCapsule第30話「嵐が来る」です。

しかし、できちゃった女の子が倒れたら
そりゃ、みんな納得しちゃいますよね。
まだ、しばらくシンジくんは大変そうですねぇ。

ちなみに最後の方でマナがお腹に手を当てて「ここにいる」って
言ってるのはそういう意味じゃないので、間違えないで下さいね。
#って、何を指すかはもうバレバレか。

現在「3人目の思い出」編と「マナの真実」編が平行してますが、
次回はその両方にとって重要なイベントが発生します。
その次回ですが、マナの両親が急遽日本に来日します。
そしてマナの身体についてあることを語ります。
それは以前から彼らが隠していた真実。
マナはそれを聞いてどうするのでしょうか?

では次回TimeCapsule第31話「私の選択は…」でお会いしましょう。
 






 TIMEさんの『Time Capsule』第30話、公開です。







 ケンスケが幸せだよね(^^)


 やっかまれ、
 妬まれ、

 傷だらけにされて・・・・



 それでも幸せ☆

  ってか、

 それが幸せの印☆

  ってね。





 あっちこっちでやられているケンスケだし、
 すこしくらい、このくらい、どんどん幸せで良いよね〜








 さあ、訪問者の皆さん。
 ついに30話TIMEさんに感想メールを送りましょう!








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