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「…ね、アタシの引越し先の住所教えて欲しい?」

「聞いてないね。そう言えば。」

そう…
全然聞いてなかったよね。
アスカがいなくなると知って僕は、何も聞かないことにしたんだね。
でも、僕はそれを公開していないよ。
それに僕がどう答えようと、アスカは…

「いいよ。教えたくなかったら。」

嘘だよ。
知りたかったんだ。
アスカのこと気にならないわけはないよ。
だって、三年だったけど、僕に一番近い存在だったし、
でも、だからこそ、このことに関しては中立に立ちたかったんだ。

「何か言いたいことがあるみたいだね…」

こんな顔をしたアスカは始めて見た。
アスカが僕の態度を気にしていたのは知っている。
だって、いつもの僕なら、アスカにいろいる話を聞いたと思うから。
でも、僕は決めていたんだ。
これはアスカが自分で決めたことだからって。
分かっていたんだ。
アスカは僕の傍にずっと一緒にいるわけじゃないって。

「…」

多分、僕はこの時のアスカの表情を忘れないだろう。
僕が見た中で、一番印象に残っているアスカの表情。
それが何を意味しているのか、僕にはわかった。
でも、僕はそれをわからないふりをした。
そんなわけないのにね。
アスカも気付いてただろうな。
だって、いつも一緒にいたから。
声の調子や、ちょっとした表情の変化で、お互いの感情の機微を感じられるから。

「なんにもないわよ!シンジに話すことなんてね。」

やっぱりこう答えたね。
分かっていた。
アスカだからね。
でも、アスカらしい返事で、僕は安心したよ。
だから、僕は…

「そう…」
 
 
 
 
 
 
 
 

眼窩に広がる雲の波をかき分けて富士山の山頂が見える。
彼女はまじまじと見つめて、小さく息を吐く。
帰ってきたんだ。
みんながいる、そして、アイツがいる日本へ。
視線を機内に移す。
隣の席は空いていた。
機内は空席が目立つ。
まだしばらく時間あるはず。
アスカは手持ち無沙汰に伸びをして、
先ほどまで読んでいた雑誌に注意を戻そうとした。
しかし、すぐその雑誌から目をそらし、窓の外を眺める。
うーん。
なんか落ち着かない。
どうしてかな?
首をかしげる。

本当のところ少し不安なんだ。
みんなアタシの事を受け入れてくれるか。
もうアタシのことなんか忘れちゃってるんじゃないかって。
そして…
アイツがアタシのことを…
アスカを顔を伏せる。
ふと、何かの反射光がアスカの目を差す。
それは左手にはめられている銀色の時計。
時計のベルトがブレスレット状になっていて、それが太陽の光を反射していた。
その時計をまじまじと見つめて、にっこりと微笑むアスカ。
そうよね…
そんなはずないよね。
だってシンジは…
 
 
 
 
 
 

あれ?

これは?

シンジは首をかしげる。

ここは僕が通っていた中学だ。

でもどうして?

首をかしげるシンジの肩が掴まれる。

誰?

シンジは驚いて振り向く。

そこには一人の少女が息を切らせながら立っていた。

アスカ?

どうしたの?そんなに息を切らせて。

え?

僕が待ってくれなかった?

そんな事無いよ。

アスカ、呼んでくれなかったじゃない?

呼んでたって?

ごめん。聞こえなかった。

病気じゃないのって?

そんな事無いよ。今はちゃんと話できるもの。

え?

わからない?どうして?

僕は本当のことを言ってくれないから?

そんなことないよ。

僕はいつでも…

そうかもね。

僕は…

それは臆病なだけ?

そうかもね。

多分。

でも、僕はそれでも…

それじゃ困る?

もっといっぱい考えてること話して欲しい?

でも。

でもじゃないって?

アスカってば、いつもそう言うね。

アンタがぼけぼけっとしてるからって?

はは。

確かにそうかもね。

でもね。

僕は、僕でいろいろ考えてるんだよ。

アスカのことも、

レイのことも、

そして…

マナのことも。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

電話が鳴る。
シンジは寝ぼけた表情で顔を上げる。
となりに寝ているレイはすうすうと寝息を立てている。
シンジはベッドから降りると、リビングに歩いていく。

「ふぁい、碇です。」

「シンジ?私よ。」

「どうかしたの?母さん。」

「やっと仕事が終わったから、今から帰るね。」

「うん。じゃあ、僕が朝食作っとこうか?母さん帰ってきてからご飯作るの面倒でしょ?」

「そうね、そうしてもらえると嬉しいわ。」

「わかった。じゃあ。」

電話を切って、大きく伸びをする。
うーん。
少し寝不足だな。
時計を見るシンジ。
まだ9時か。
ということは6時間も寝ていない計算になるな。
まぁ、まだマシといえばそうだけど。
夏休みくらいゆっくり寝ていたいよ。
さて…
とりあえず、みんなの朝食を作らないとな…
シンジは自分の部屋に戻っていく。
 
 
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第15話
アスカ、来日
 
 
 
 
 
 
 

レイは何かの音で目を覚ました。
それに何かいい匂いがする。
レイはそろそろと手を伸ばす。
そこにはシンジはいなかった。
あれ?
レイはゆっくりと目を開ける。
うーん。
シンちゃんがいない…
寝返りを打って、部屋のドアを見る。
ドアは薄く開いている。
ということは…
このいいにおいはシンちゃんが料理してるってことかな?
レイはそんなことを考えながら、また眠りに落ちた。
 
 

「ふう…これでよし…と。」

シンジは味噌汁を味見して、うなずくと火を止める。
これで準備は終わり。
椅子に座って、大きく背伸びをする。
そして、テーブルの上に置かれている朝刊を広げる。
ふーん。
しばらくは天気いいんだな。
でも毎日35度近くまで気温が上がるのには参るよなぁ。
なんとかならないのかな?

「…おはよ…ふぁ。」

その声に新聞から視線をはずすシンジ。
そこにはレイが眠そうに目をこすりながら立っている。

「おはよ…今日は早起きだね。」

ぼーっとした表情で椅子にすとん座るレイ。

「何か、眠気ざましに飲む?」

レイはこっくりうなずいて答える。

「ホットミルク。」

「了解。」

シンジは立ちあがり、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出す。
そして、ミルクを小さな鍋に注いで、火にかける。
と、チャイムが部屋に鳴り響く。

「あれ?父さん達が帰ってきたのかな?」

「アタシがでる…ね」

まだ、意識がはっきりしないのか、ぼんやりした表情で
レイは立ちあがって、玄関のほうに向かう。
シンジはその後姿を見て、くすりと笑みをもらす。
髪の毛はねてるのに。
いいのかな?
ま、いいか。
どうせうちの親だしね。
レイは、ドアを開ける。
そして…

「あの…どちらさまでしょうか?」

あれ?
父さん達じゃなかったのかな?
シンジは顔を出して、玄関のほうを覗きこむが、誰が来たのかはわからない。
とりあえず、火を止めて玄関のほうに歩いていく。
玄関では二人の女の子がにらみ合っていた。
一人はレイ。
もう一人は…

「アスカ?」

シンジは素っ頓狂な声をあげる。
どうして?
アスカがここにいるの?
アスカはゆっくりと視線をシンジに向ける。
その視線。
まずい。
かなり怒ってるぞ。
というか、どうしてここにアスカがいてレイとにらみ合ってるんだ?

「シンちゃん、知り合い?」

レイが妙ににっこりとシンジに微笑む。
いつもと変わらない笑みだが、何故か怖い。
レイはシンジにそう尋ねながら、目の前に立っている女の子のことを考えていた。
この子シンちゃんの何なのかしら?
さっき私を見たときの目。
すごく驚いてた。
まるで、ここに女の子がいるのはおかしいって。
少なくともここしばらくはマナちゃんがいたはずだし。
この人、シンちゃんとしばらく会っていなかったのかな?

「シンジ…この子だあれ?」

アスカもにっこり微笑みながら、シンジに話しかける。
もちろん、アスカも目の前の女の子の事を考えていた。
この子ってマナって子じゃないよね。
ヒカリから聞いてたのとは雰囲気が違うし。
でも、どうして寝起きのままなのかしら。
確かに早い時間だけど、パジャマのままでいるには
遅い時間だけど。
それに…
シンジに視線を移す。
シンジはエプソン姿だ。
朝食を作ってたのかな?
叔父さまと叔母さまはどうしたのかな?
その二人の視線に寒気を感じるシンジ。
どうしよ。
なんか非常にまずい気がする
どっちに答えるかも問題だぞ。
落ち着け。
とりあえず、お互いが誤解しないように。
シンジはまずレイを紹介することにした。

「アスカ…この子は綾波レイって言って僕の母方の親戚なんだ。」

レイはまたもにっこりと微笑みアスカに挨拶する。

「綾波レイです。よろしく。」

「で、こちらは惣流・アスカ・ラングレーさん、中学時代の同級生で、
お隣に住んでたんだ。高校はドイツに行ってるからしばらく会ってなかったんだ。」

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく綾波さん。」

アスカが手を差し伸べる。
その手をレイが握る。
そして、一瞬の間。

「ところで、どうしてアスカがここにいるの?
ドイツじゃなかったの?」

アスカはてをひらひら振って答える。
もう、この子ったらなんてバカ力なの。
手がしびれちゃったじゃない。
もちろん、レイに握られた手のことだ。

「あぁ、パパがたまには顔を見せなさいっていうから、戻ってきただけ。
手紙にも書いてたでしょ?」

その言葉を聞いてシンジは絶句する。

「う…そういえば、手紙まだ読んでない…」

あれからいろいろあってアスカの手紙のこと忘れてた。
それを聞いたアスカの表情が硬くなる。
内心は叫び出したがったがぐっとこらえるアスカ。
この子の前だし。
とりあえず、落ち着いて。
小さく息を吐き出して、にっこりと微笑んで見せる。
しかし、シンジには背筋が凍る笑み。

「ふうん。なんかいろいろと忙しそうですものねぇ…」

視線が痛い。
まいったな。忘れてたわけじゃなかったんだけどな。
シンジは苦笑浮かべてごまかそうとする。

「いや、そんなわけじゃないけどね。」

あの時、マナの前で開けるのは怖かったから、
あとで一人で読もうと思ってたのにな。
まいったな。
こんなことになるんだったら、あの時読んでおけば良かった。

「それで、こんな時間に何の用でしょうか?」

にこやかにアスカに尋ねるレイ。
やはりにこやかに微笑み返し答えるアスカ。
それを見守るシンジ。
どうしたんだろ?
なんか、空気が変だよ。

「いえ、シンジくんの顔を見たくて来ただけです。」

「そうなんですか。」

シンジの額を汗が流れる。
まずい、このままだと何かよからぬ事が起きそうな気が。

「あの、叔父さまと叔母さまは?」

「昨日から徹夜でお仕事なんですよ。」

「え…」

そのまま絶句するアスカ。
ということはもしかして、この子、ずっとシンジを二人きりで?
もしかして、こんな時間にまだパジャマだってことは…
もしかして?
シンジとこの子は…
アスカは慌ててその考えを否定する。
ううん。
そんなことないよね。
視線をシンジに移す。
シンジは何故か苦笑いを浮かべている。
どうして、アンタはそんなにへらへら笑ってるのよ。

「どうかされました?」

レイがにっこり微笑む。

「い、いえ、なんでも…」

そして沈黙。
三人は黙ってしまった。
 
 
 
 
 

レイはふうを大きなため息をついた。
ベンチに座りぼんやりし始めてどれくらい時間が経ったのかな?
暑いことは暑いが、うす曇のせいか日差しはたいしたことは無い。
ただし、湿度が高くて蒸すような陽気には閉口する。
だったら、何処か涼しいところに行けば良いのにね。
そうひとりごちる。
でも…
何か…
そういう気分じゃないんだよね。
そう考え、ふとレイは朝のことを思い出す。
彼女。
隣の惣流さんだっけ?
彼女の瞳。
恋してる瞳だった。
シンちゃんのこと好きなのかな?
多分そうなんだろうな。
なんとなく分かるもの。
でも、シンジは…
はぁ、大変だなシンちゃんも。
そう考えていたとき、ふいに背後から声がかかる。

「綾波さん?」

その声のした方に視線を向けるレイ。
そこには…

「惣流さん?」

アスカが笑みを浮かべて立っていた。

「どうしたの?こんなところで暑いのに。」

レイの隣にやってきて腰を下ろすアスカ。

「いろいろ考え事をしてて。」

レイは不思議そうな表情でアスカを見る。
アスカはうなずき、視線を空に向ける。
薄曇りであまり良い天気ではない。
もしかすると、通り雨が降るかもしれない。

「そう…アタシもちょっとね…」

アスカはなんとも言えない表情でそう呟く。
そのアスカの表情を見て、レイはくすりと笑みをもらす。

「どうかしたの?」

「ううん…なんでもない…」

そしてレイはアスカの方を向いて尋ねた。

「アタシとシンちゃんの関係が気になる?」

アスカはまじまじとレイの顔を見つめる。
そして、アスカが何か答える前に言葉を続ける。

「好きなんでしょ?シンちゃんのこと。」

面食らったように黙り込むアスカ。
しばらくの沈黙。
そして、アスカは何かを答えようとするが、
深く息をつき、首を振る。

「好きかどうかはわからないわ…でも気になるの…」

消え入りそうな声でそう答えるアスカ。
そう、今回わざわざ日本に戻ってきたのも…

「そう…」

アスカはくすりを笑う。
でも、どうしてアタシこんなことこの子に言ってるのかしら。
この子ももしかするとシンジの事…

「変ね、まだ会ったばかりのアナタにこんな話するなんて。」

「そうね…」

二人はそのまま黙ってベンチに座っていた。
 
 
 
 
 
 

「はぁ、今日はみんなでアスカの家に集まるってさ…」

受話器を置いて、シンジは肩をすくめる。
アスカが帰ってきたことを知り、クラスメイトが数人集まることになった。
とりあえず、連絡のついた10人ほどが集まることになった。
もちろん、ヒカリ、トウジ、ケンスケも出席する。
ソファに座って時計を見るシンジ。
その隣にレイが座る。
そのレイにシンジは話し掛ける。

「今日、会ったんだって?公園で。」

こっくりうなずくレイ。

「惣流さんに聞いたの?」

「ばったり、公園で会ったって。」

レイはやわらかな笑みを浮かべる。

「別に変なことは言ってないわよ。
それにアタシがここにいるのもあと二日だし。」

シンジははっとする。
レイはこっちには一週間だけの滞在なんだ。
もう、あと二日しか残ってないんだ。

「そうか…あと二日なんだ。」

レイはじっとシンジを見つめる。
髪が日差しを浴びて淡く光る。
レイはどうするつもりなのかな?
本当の事を知ってしまって…

「だから…」

レイはにっこり微笑む。

「…全部忘れて欲しいの。」

シンジは不思議そうな表情をする。
レイが言っていることの意味を理解できていないようだった。

「忘れるって…」

シンジははっと思い当たり、
レイの顔をまじまじと見つめる。
忘れるって、あの時のこと?

「どうして?」

それはシンジが予期していなかったレイの反応だった。

「それは言わなくてもわかるでしょ?」

レイは上目使いでシンジを見上げて、かすかに笑みを浮かべる。
その笑みが昔見たレイの笑みに重なる。
そう、もう何年も前、レイの部屋でこうして話していた時、
レイはこんな風に笑ったよね。

「僕には…わかんないよ。」

レイが何を考えているのか、わからない。
だって…
レイはあの時…
僕のこと…
それに僕は…

「ごめんね…でもそのほうが二人のためだから。」

「二人の?」

少しだけ躊躇してシンジを見つめるレイ。
その瞳にはシンジが映っている。

「…シンジはやさしすぎるのよ…だから、これ以上は…」

レイは顔を伏せる。
そして小さく息をつく。

「お願い…また同じ間違いを繰り返したくないの…」

間違い。
シンジはちいさくうなずく。
レイと僕が一緒にいると、同じ事が起こるって言うの?
でも、なぜ?

「シンジには…マナちゃんがいるんでしょ?」

その名前を聞いて、シンジははっとする。
マナ…
その名前と共に浮かぶのは、いつも傍にいてくれる女の子
そして、その女の子はいつも、とびきりの笑顔で僕に笑いかけてくれる。
僕は…
マナのこと…

「それにアタシもマナちゃんと約束したから…」

「マナと?」

「うん…でも約束の内容は秘密よ。」

マナとレイが約束?
僕の知らないところで二人に何かあったのだろうか?
そりゃ、四六時中三人でいたわけではないし。
二人の間で何かの約束が交わされていてもおかしくない。
僕がマナと約束したように。
でも、その約束の内容って…

「だから…全部忘れることにしたの…
これ以上、シンちゃんに迷惑かけたくないし。」

「僕は…」

僕は迷惑じゃないんだ。
レイのことが心配なだけだ。
そこまで考えてシンジはどきりとする。
本当にそうなのか?
僕はレイのことが心配なだけなのか。
シンジは顔を伏せてしばらく考えると、ゆっくり首を振って答える。
もうこれ以上考えるのはよそう。
僕自身もこれ以上はレイのことに踏み込まないほうが良い。
それに、考えたところでレイが自分で決めたことだ。
僕が何を言っても無駄だろう。
でも、レイはそれで良いのだろうか?
一人で大丈夫なんだろうか?
いや。
考えるのはやめよう。
レイには何か考えがあるんだ。
そう、アスカの時もそうだったじゃないか。
僕は…
まだ、子供なんだな…

「…わかった…」

シンジはしぶしぶ承知した。

「でも僕は忘れないよ。
あの日のことは僕が望んだことだからね。
それを後悔はしていないから。」

「…バカ…」

レイはうつむいて小さな声で答えた。

「バカはお互い様だよ…」

見詰め合う二人。
レイはくすりと微笑む。
そしていつものやさしい笑みを浮かべた。

「ありがと、アタシのわがままに付き合ってくれて。」
 
 
 
 
 

「おじゃましまーす。」

シンジはそう言いながら、部屋の中に入っていく。
部屋には参加する同級生がみんなやってきていた。
そして、すでに部屋に一角を陣取っていたケンスケとトウジがシンジに話し掛ける。

「遅いぞ!シンジ…」

「そうや、なにやっとるん…」

二人とも言葉の途中でシンジの後ろに立っている女の子を見て黙ってしまう。
他の同級生達も顔を見合わせる。

「あ…この子は僕のいとこで…」

シンジは彼女を方を向いて紹介する。

「綾波レイです。」

ぺこりとお辞儀をするレイ。
ケンスケは早速カメラを構え出す。
同級生の一人がシンジに不思議そうに尋ねる。

「同い年なの?」

「うん。住んでるところは遠いんだけど。たまたまこっちに来てて。」

ケンスケが開けたスペースに座る二人。
シャッターを切って写真を撮り始めたケンスケに戸惑いの視線を向けるレイ。

「ケンスケは女の子の写真を撮るのが趣味なんだ。」

同級生の一人がからかうようにレイに説明する。
こっくりとうなずくレイ。
でも、理由がわかったところで恥ずかしくなくなるわけでもない。
その様子を見て苦笑するシンジ。

「ケンスケ。少し遠慮してよ。恥ずかしがってるよ。」

ケンスケはカメラをおろして残念そうに言う。
そして、レイに軽く頭を下げる。

「そうか…ごめん。つい癖で。」

「ううん。いいけど…」

レイは右手をふるふる振ってそう答える。

「で、どうしてここに連れて来たんや?」

トウジが顔を寄せ、小声でシンジに尋ねる。
シンジは苦笑してレイを見る。
レイはシンジ達の同級生の女の子の一人と何か話をしている。

「いや、アスカがせひレイもっていうから…」

「知り合いなのか?」

大きくため息をつくシンジ。

「うん。今日知り合ったばかりだけどね。」

その表情を見て、トウジはシンジの肩をぽんぽんとたたく。

「お前も大変そうやな。よりによって惣流が帰ってくるタイミングで
いとこといちゃついてるからやで。」

「なんだよ、それ?いちゃついてなかいないよ。」

薄く目を細めるケンスケ。

「ほう。彼女はただのいとこなのか?」

「うん。そうだよ。」

「それにしては、彼女のシンジを見る目つきが違うんだけどな…」

シンジはぎくりとしてレイに視線を向ける。
ふとレイもシンジの視線に気付き、小さく首をかしげるしぐさをする。
どうかしたの?
しぐさからレイの言いたいことを判断し、首を振るシンジ。
レイはにっこり微笑んで、また隣の女の子を話を始める。

「なるほど…あれがただのいとこの取る態度なんだ…」

その声をと共に突き刺さるような視線を感じるシンジ。
ゆっくりと視線をケンスケに移すと、そこには氷のような冷たい目をしたケンスケがいた。

「ケ、ケンスケ。何か誤解してない。」

「いや、誤解じゃないと思うぞ。たぶんな。」

「あぁ、わいもそう思うわ。」

トウジも指を鳴らしながらシンジをにらむ。

「いやだな。まるで、レイが僕と付き合ってるみたいな言いかたじゃない。」

シンジはなんとかその場を取り繕うと笑顔を浮かべる。

「そうじゃないのか?」

「ま、まさか。彼女はいとこなんだよ。」

ケンスケはゆっくりとシンジに近づく。

「いとこでも結婚はできるよな…」

「何言ってるんだよ…そんなはず…うわっ!」

トウジにヘッドロックされるシンジ。

「さぁ、吐け。洗いざらい吐くんや。」

「そ、そんな…何も無いよ。」

その二人に不思議そうな視線を送る同級生達とレイ。
とそこに、この集まりの主人公が現れる。

「あんた達何やってんの?ってまぁ三馬鹿トリオだからしかたいないか…」

その言葉にトウジがすかさずやり返す。

「相変わらずの減らず口やな。その性格の悪さは少しも直ってへんみたいやな。」

「アンタもね。」

にやりと笑うアスカ。
この二人にとっては再会の挨拶みたいなものだ。
その場にいたレイ以外の人間はそれを知っていたが、
レイははらはらしてシンジの方をみる。
レイの視線を感じて、シンジは安心させるように肩をすくめる。
案の定、すぐさま、ヒカリがトウジを叱る。

「鈴原、久しぶりに帰ってきたアスカにそんな事言うなんて。」

「いや、ワシは…」

誰かが、野次を飛ばす。

「鈴原も、相変わらず委員長の尻に引かれてるみたいだな。」

笑いが起こる。
当の二人はというと、ヒカリは顔を真っ赤にしてうつむき、
トウジはそっぽを向いている。
そんな様子を見てアスカはくすくす笑い。
みんな変わってないな。
良かった…

「綾波さん来てくれたのね。」

アスカはレイを見て嬉しそうに微笑む。

「うん。あつかましいかなと思ったんだけど。」

「ううん。そんなことない。いろいろお話聞きたかったから。」

いろいろの所を強調し、シンジの方をちらりと見るアスカ。

「おい、まずいんじゃないか?」

ケンスケが右からシンジの囁く。

「おう、わいもそう思うぞ。」

先ほどのことはすっかり忘れたように、トウジが左から囁く。

「そ、そんなこと言われたって…」

シンジは半ばあきらめたようにため息をつく。
そうだよ。
もうなるようにしかならないよ。
あとは全てを神様に任せるしか。
責任を神様に押し付けて、シンジはうつむく。

「それでは、まずは本日の主役のアスカから何かお話して。」

ヒカリにそう薦められてアスカは少しだけ考えてから話し出した。

「えーと、一年半ぶりですが、帰ってきました。
急だったのにこんなにアタシのために集まってくれて、すごく嬉しいです。
それにみんな全然変わってないようで、みんなと別れてから一年半たったの気がしません。
今日は久しぶりにみんなといろいろお話できるといいなって思ってます。」

そういうとアスカはぺこりとお辞儀をした。

「なんか、惣流らしくないぞ。」

ケンスケの一言にアスカはぴしゃりと言い返す。

「うるさいわね。せっかくまじめに話してるのに。」

「それより、はよ食べようや。せっかくの料理が冷めてまう。」

トウジは先ほどから並べ始められた料理が気になって仕方が無いようだ。
それもそのはず、ヒカリからお誘いの電話があったのが午前中で、
それから何も食べないで来たからだ。
そのトウジの言葉にまたも笑いが沸く。

「そうね。固いことは抜きにして、食べましょ。」

そのアスカの一言でそれぞれが料理に手を出す。
 
 

「誰だよ。お酒なんて入れたのは?」

シンジはそう呟いた。
となりに座っていたケンスケが嬉しそうに答える。

「何言ってんだよ。こういう場では無礼講だろ?」

「って、またケンスケなの?例の花見で懲りたんじゃないの?」

「まさか、そんなわけないだろ?」

ケンスケはにへらと笑い。
隣においてあった日本酒をコップに注ぐ。

「はぁ…またなの?僕は面倒見きれないよ?」

シンジはそうため息をつき、部屋の中を見渡す。
幸いというかアスカの両親は気を利かせて今日は家には帰ってこないそうだ。
とはいえ、このままでは非常にまずい事態になるのは分かりきっていた。
すでに何人かは酔いつぶれて眠ってしまっている。
ヒカリはトウジは仲良く並んで寝ている。
まぁ、とりあえず、委員長は寝てるからいいとして…
問題は…
シンジは首をかしげる。
あれ?
レイとアスカがいないぞ。
シンジは一気に酔いがさめる。
まずい。
非常にまずい。
酔ったアスカはともかく、レイはまずいぞ。
立ちあがったシンジをケンスケが見上げる。

「シンジ、どうかしたのか?トイレなら部屋を出て右だぞ。」

シンジは慌てて部屋から出て行く。
たぶん、ベランダかどこかだろうな。
早くレイを保護しないと…
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_04/05公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

どもTIMEです。
TimeCapsule第15話「アスカ、来日」です。

ついに週一更新が途切れてしまいました。
やっぱり社会人はキツイっすね。
土日出勤では書いてる暇が無い。(^^;;

15話目にしてやっとアスカが登場ですが、あまりぱっとしません。
まぁレイの方をメインに書いてるんで、
仕方がないといえばそれまでなんですが。
本格的にアスカ編に入るのは次回からですかね。

次回はこの続きでベランダでのアスカとレイの会話から始まります。
では第16話「好きなんだから仕方がないよ」でお会いしましょう。






 TIMEさんの『Time Capsule』第15話、公開です。






 ただでさえゴチャゴチャで
 今までで十分からややこい状態で

 このままだと禿げちゃうんじゃないか?!

 って状況だった・・・


 ・・シンジが更にしんどいことになっていく〜



 運が悪いのかな?
 運が良すぎる?

 どちらにしても、
 たぶんに自業自得的なところもありーの(爆)


 そのうち何とか・・・多分なる・・・・かな(^^;





 さあ、訪問者の皆さん。
 仕事にがんばるTIMEさんに感想メールを送りましょう!









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