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教室の窓から外の風景を眺めるシンジ。
しとしと降る雨がグラウンドにいくつもの水溜まりを作っている。
窓にも水滴がつき、外の風景がにじんで見える。

「はぁ、降ってきちゃったよ。」

憂うつそうに窓の外から教室の中に視線を移す。
前の席のケンスケはいつものとおりにカメラの整備に余念がない、
あと2週間もすればプール開きだ。
今年もケンスケの写真に男子生徒達が群がるのだろう。
シンジは苦笑して、視線を移す。
その視線の先にはトウジとヒカリの姿があった。
二人は何か相談しているようだったが、
シンジの席からは二人が何を話しているかは聞こえない。
と、シンジの視線にマナが現われる。
マナは嬉しそうにシンジに話かける。

「やっぱり降ってきたね。」

シンジはため息交じりに答える。

「そうだね…予報では降らないって話だったのに。」

「ね、私の予想が当たってでしょ。」

「うん、これからはマナの言うことをきくよ。」
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第11話
さみしい?
 
 
 
 
「雨、まだ止まないね。」

「…そうだね。」

二人はゆっくりと歩調を合わせて、歩いていく。

「肩濡れてない?」

「だいじょうぶ。」

雨はしとしとと傘に降ってきている。
ぽつり。ぽつり。
その音に二人は耳を澄ませる。

「ね…」

「うん?」

何か言いかけて、首を振るマナ。
湿気を含んだ髪がゆらゆらを重そうに揺れる。

「ううん。なんでもない。」

「そう…」

坂を下っていく二人。
ちいさな流れが歩道を横切っていく。
その流れに足を踏み入れると小さく雨水が跳ねる音がする。

「今日って車少ないね。」

「そう…だね。」

確かに車道を走っている車は少ないようだ。
先ほどからこの道を車は通っていない。
頭上の電線から落ちた雨粒が傘に当たって大きな音を立てる。
雨はいっこうに止む気配がない。
ただ、しとしとと降り続けていた。
二人がある家の庭先を通り過ぎる時、
どこからかカエルの泣き声が聞こえてくる。

「カエルが泣いてるね。」

「どこだろ?」

二人はあたりを見回すが、それらしきカエルは見つからなかった。

「声は聞こえるのにね。」

「いないね。」

なんとなく二人は顔を見合わせて笑う。

「いこっか?」

「そうだね。」

歩道にできた大きな水溜まりを迂回する二人。

「小学校の時、長靴で水溜まりに入らなかった?」

「うん。で、はしゃいでる間に、靴の中に雨水が入って。」

「家に帰って、長靴脱ぐと雨水がいっぱい出てきて。」

「で、お母さんに怒られるの。」

くすくす笑う二人。
ふと、シンジはマナの髪が雨で湿っているのを見てとる。
そして、少しだけ傘を傾ける。
街路樹が並ぶ歩道に入る二人。
大きな雨粒が当たり、不規則に傘が鳴る。

「面白いね。」

「何が。」

「雨粒が降ってきて傘が鳴るの…ほら。」

雨粒が立て続けに傘に落ち、音がする。

「そう?」

首をかしげるシンジ。
そんなシンジに微笑みかけるマナ。

「子供の頃って、なんでも面白く感じるのよね。」

「うん。そうだった。」

そして、家まで後少しの距離まで歩いてきた時に、
不意にマナが立ち止まって、シンジの腕を取る。

「どうかした?」

シンジは不思議そうにマナを見る。
マナはうつむいたまま答える。

「あのね…シンジに話しておきたいことが…」

「どうしたの?」

マナはゆっくりと顔を上げシンジを見る。

「私…ね。夏休みに両親に会いに行くことにしたの。」

シンジがその言葉を理解するのにしばらくかかった。

「両親って、アメリカへ?」

こっくり肯くマナ。

「お父さんがね、会いたいって。
それで、夏休みに入ったら2週間ほど会いに行こうと思って。」

「そうか…」

2週間。
たった、2週間だけど。
僕は…

「いいんじゃないかな、御両親も心配してるだろうし、行っておいでよ。」

シンジはマナを安心させようとにっこりと微笑みかける。
マナもにっこりと微笑んで肯く。

「うん。それで、出発は25日を考えてるの。」

「そうか、じゃ、見送りに行かないとね。」

再び歩きはじめる二人。
雨は強く降り始めていた。
 
 

「あれ?まだ帰ってきていないんだ?」

シンジは玄関からリビングを覗き込んで呟く。
二人は強く降り始めた雨のせいで制服が濡れていた。

「とりあえず、先にシャワー使ってよ。」

シンジはタオルを頭からかぶって、もう一枚をマナに渡す。
マナはそのタオルを受け取ってうなずく。

「ありがと。なるべく早く出るね。」

バスルームに消えるマナ。
その後ろ姿を見送って、シンジは大きくため息をつく。

「とりあえず、服代えておくか。」

自分の部屋に行き、体を拭いて、服を替えるシンジ。
そしてリビングに戻ってくる。
壁にかかっている時計を見て時間を確かめる。

「もう、6時なのに二人とも帰ってこないということは…
またしても残業か。」

そう呟き、ソファに座るシンジ。
そして、両手を頭の後ろで組んで、ぼんやりと窓に視線を移す。
外は相変わらずの雨だ。
もうじき7月なのに雨が冷たかった。
いつもなら、蒸し暑いぐらいなのに、今日はかなり涼しかったな。
そう考え視線をバスルームに向けるシンジ。
マナは出てきてないね。
自然とため息が出る。
2週間か。
短いようで長いよ。
でも、マナがいなくなるって思っただけで僕は…
この気持ちは何だろう。
別に、もう二度とあえなくなる訳じゃないのに。
寂しい?
寂しいのかな?
どうしてだろう。
僕はマナが側にいてくれないのが寂しいのかな?
マナと再会して3ヶ月。
いろいろあった。
ずっと、一緒にいたから僕はマナが一緒にいるのが
当然と思うようになったのかな?
でも、マナはいずれはこの家からいなくなってしまう。
その考えはシンジの胸にちくちくと痛みを与えた。
まるで、初めてそのことを知ったかのように愕然とするシンジ。
マナがいなくなってしまう。
それは彼女がこの家に来た日から知っていたことだった。
でも、その時のことをいままで考えたこともなかった。
いや、考えたくなかった。
今のこの状況が僕にとっては一番だったから。
でも、マナは行ってしまう。
帰っては来るけど、その間の2週間。
僕は、どうなるのだろう?
僕は、僕でいられるのだろうか?
もしかして、僕は…

「ふう。シンジ、お待たせ。」

髪の毛をタオルで包んだマナが現われる。
シンジは顔を上げて、マナをじっと見つめる。
僕は、マナを…
マナは不思議そうに首をかしげてシンジを見る。

「どうかしたの?」

シンジははっと我に帰り、慌てて首を振って答える。

「ううん。なんでもないよ。じゃ、僕もシャワー使うね。」

「うん。」

シンジはマナの顔を見ないで、バスルームに入っていく。
その様子をマナは見送って、更に首をかしげる。
何かシンジの様子変だった。
どうかしたのかな?
もしかして私がアメリカに行くことが関係あるのかな?
もしかして、離れるのが寂しいとか?
くすりと微笑むマナ。
ううん。違うよね。
まさか、シンジがそんなこと考えるなんて。
マナは先ほどシンジが座っていたソファに座る。
髪がどれくらい乾いたかを調べる。
そして、顔を伏せる。
寂しい…か。
寂しいのはシンジじゃなくて私。
さっき、シンジに話をした時、私、すごく期待してた。
シンジが行くなって言ってくれるんじゃないかって。
でも、普通に考えたら、そんなこと言うわけないよね。
だって、まだ私、シンジに好きだって告白されたわけじゃないし。
私も好きだって告白したわけじゃないし。
どうなるのかな?
シンジは私のこと思い出してくれた。
それだけで十分だって思ってた。
でも今の私はそれ以上を求めてる。
シンジから…
駄目よね、女の子って…
 
 
 

シンジは頭からシャワーを浴びていた。
うつむき髪からお湯が落ちていくのを見つめながら、
シンジは考えていた。
あの時、行くなって言えばよかったのかな?
でも、僕にはマナにそんな事を言う権利はない。
御両親に会いに行きたいっていうマナの気持ちはもっともだし。
僕のエゴでそれを止めさせるわけにはいかない。
そして、大きくため息をついて顔を上げる。
暖かいお湯が顔全体に当たる。
僕が我慢するしかないんだ。
2週間だけだ。
夏休みの最初の2週間だけ我慢すれば、マナは帰ってきてくれる。
そうだ、トウジとケンスケに誘われたバイトをしよう。
そうすれば、マナのこと考える時間が減るかもしれないし。
マナが帰ってきた時に遊びに行くための軍資金もできるし。
そうするか。
シンジはシャワーを止める。
明日、二人に話をしてみよう。
 
 

「はい…わかりました。そのようにしておきます。」

リビングではマナが電話をしていた。
たぶん、母さんからだな。
シンジはそう考え、マナの邪魔をしないように、ソファまで歩いていく。

「はい、それじゃ。」

電話を切ってマナがシンジに話かける。

「今日は、おじさまと、おばさまは残業ですって。帰りは9時くらいになるそうよ。」

シンジは顔を上げて、マナの方を見る。

「そうか、じゃ、晩御飯は勝手に作れってことだね。」

「うん。」

シンジは立ち上がり、冷蔵庫の前まで行き、中を覗き込む。
マナも一緒に覗き込んだ。

「さぁ、何にしよう?」

「そうね。」

二人はいろいろ相談した結果、
ぶりの照焼き、和風サラダ、ほうれん草のお浸し、冷やっこそして、お味噌汁
を作ることにした。

「さて、じゃあ、ちゃっちゃと作りますか。」

「うん。」
 
 
 

夕食後、二人はソファに座って、テレビを見ていた。
そこに電話のベルが鳴る。
立ち上がろうとするシンジを制するマナ。

「いいよ。私が出るから。多分、おばさまだと思うし。」

それだけ言うと、マナは電話機の方へ歩いていく。

「はい、碇です…はい、そうです、碇です。」

母さんじゃなかったのかな?
シンジはマナの受け答えを聞いて、テレビからマナの方に視線を移す。

「はい、シンジ…くんですか?あの、失礼ですがどちら様で…はい、惣流…さま…」

アスカ?
シンジは思わず立ち上がる。
それを見たマナが手を合わせてごめんなさいのポーズを取る。
まいったな。
よりによって、マナが出た時にアスカからだなんて。
大きくため息をつき、マナの元へ歩いていくシンジ。

「はい、ただいま代わります、お待ちください。」

そして、受話器の口を押さえてシンジに謝る。

「ごめんなさい。惣流さんから。」

シンジは受話器を受け取ると、ため息をついて受話器から耳を放して答える。

「はい、代わりました。シンジです。」

「ちょっと、どういうことよ!シンジ!
アンタの家にどうしてアタシの知らない女がいるのよ!!」

予想通りのアスカの大きな声に顔を顰めるシンジ。
ふう、受話器に耳をつけてなくてよかった。
マナもその声に驚いたような表情をしている。
さらにアスカは何かまくしたてている。
シンジは受話器を下に向けて声が収まるのを待つ。
ドイツ語交じりでなにかまくしたてていたが、
数分後、遂に息切れしたのか受話器からの怒鳴り声がやんだ。
やれやれとばかりにため息をつき、話かけるシンジ。

「お久しぶりアスカ。元気?」

「アンタ、アタシのいない間に何やってんのよ。」

「何って、別に今まで通りだよ。何も変わっていないよ。」

シンジは落ち着いて答える。
実際、マナがいること以外は何も変わっていないから。

「…」

黙ってしまうアスカ。
シンジはくすりと微笑み話を続ける。

「彼女は今、とある理由で一緒に暮らしているんだ。」

「一緒に?」

耳を受話器から放すのが遅れて、頭の中にアスカの声がこだまする。

「…うん。いろいろとあってね…で、今日は何の用事だい?
アスカが僕の家に電話してくるなんて明日は嵐かもね。」

実際、ドイツに行ってからアスカから電話がかかってきたのはこれで二回目だ。
ヒカリのところには2ヶ月に一回ほど近況報告の電話がかかってくるらしいが。

「もういい。用件は果たしたから」

「へ?」

あっけに取られるシンジ。
アスカはかまわず続ける。

「じゃあね。」

電話は切れてしまった。

「何だったんだろ?」

発信音を聞きながらシンジは首をかしげる。
 
 

受話器を置いて、アスカはため息をつく。
まさか、ヒカリの話が本当だったなんて。
シンジにそんな甲斐性はないと思っていたけど、本当だなんて。
どうしよ?
アタシはシンジに…
ううん。
今更弱気になってどうするの?
もう決めたことなんだから、実行するしかないの。
アスカは窓から外の風景を眺める。
しとしとと振る雨が庭を濡らしていた。
 

 


NEXT
ver.-1.00 1998_02/25公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき

ども作者のTIMEです。

TimeCapsule第11話「雨」です。

今回帰り道でマナが話したアメリカに行く話が
八話で夜マナが迷っていた理由です。

少しずつ進展してきた二人ですが、マナがアメリカに行っている間
少しだけお休みになります。
その代わりに強敵が二人現われます。
#シンジ、最大のピンチ。わらい。

今回アスカが顔見せしてますが、何かアスカらしい登場ですね。
作者も書いてて笑ってしまいました。

次回は遂にレイが登場です。
と同時に夏休みに突入です。

では次回第12話「会いたかった…」でお会いしましょう。






 TIMEさんの『Time Capsule』第11話、公開です。





 こういう時期に2週間は辛いよね。


 つきあい始めてしばらくたっての時期で
 初めての長期休暇で

 楽しいこといっぱい期待してたろうに〜


 シンジ君かわいそう(;;)


 でもでも
 それはマナちゃんも一緒なんだし、
 男は黙って我慢の子なのだ。



 浮気しちゃダメなのだ。

 ケンスケの写真を確保しておくのだ。



 え?
 まだきちんとした形で”つきあって”はいなかったっけ・・・・

 波乱の予感〜〜




 さあ、訪問者のみなさん。
 風でダウン中のTIMEさんを感想メールで力づけましょう!





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