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「シンジ…」

マナはシンジの顔をじっと見つめる。
空港のロビーで二人は向き合った。
シンジは何か言おうとしたが首を振り、マナの手を握る。

「気をつけて。向こうについたら電話してね。」

「…うん。そうする。」

マナはいつもの微笑みを浮かべる。
その笑顔を見つめ、シンジは胸を締め付けられる。
まるで、二度と会えないみたいだな。
シンジはそう心の中で呟く。
そんなはずはない、マナは帰ってきてくれる。
シンジはそう考えることにしたが、
彼女を失うのではないかという思いが消えない。
空港内のアナウンスがマナが乗る飛行機の搭乗手続きが始まったことを知らせる。

「じゃ…行くね。」

「あぁ…」

シンジを見つめるマナの瞳が潤み、涙が頬を伝う。
シンジは安心させるように微笑むと、マナの涙をぬぐう。
そして、マナの頬に手を当てる。

「待ってるからね。御両親によろしく言っておいて。」

「うん…」

マナはなんとか微笑んで肯く。
シンジも肯きかえす。
そして、マナは空港の奥に歩いていった。
その後ろ姿を見送る。
マナが見えなくなってもしばらくシンジは立っていた。
 
 
 
 
 

Time Capsule
TIME/99
 
 

第12話
会いたかった…
 
 
 

マナが乗った飛行機を見送って、シンジは大きなため息をついた。
行っちゃった。
帰ってくるって分かってるのに、この気持ちは何だろ?
僕の心に大きな穴があいたようだ。
僕はどうしたんだろ?
シンジが首を振って、その場から離れようとした時、
その声はシンジに降りかかった。

 「シンちゃん!!」

声のした方を振り向くシンジ。
この声は…?
振り向いた方には一人の女の子が立っていた。
腰まで伸びた髪を奇麗に編んで、バンダナでくくっていた。
ショートパンツから伸びた足がものすごく白い。
そして、彼女の髪の色、瞳。
それはシンジに懐かしい思い出を呼び起こした。
彼女は…
シンジが声を上げる前に、彼女はシンジにかけよってその胸に飛び込む。

「レイ?」

胸に飛び込んできた彼女を抱きとめ、確かめるようにシンジは尋ねる。
こっくりとうなずいたレイは顔を上げにっこり微笑む。
その微笑みかたはシンジが覚えているレイの微笑みと変わっていなかった。

「シンちゃんだ…会いたかった…会いたかったよ…」

レイの瞳がきらきら輝いている。
シンジは思わず息を呑む。
きれいになった。
あの頃よりもずっと…
レイは不思議そうに首をかしげる。

「どうかした?」

「い、いやなんでもない。」

慌てて首を振るシンジ。
レイもはっと思い出したように体を離してシンジに微笑む。

「ごめんね。つい、嬉しくて。」

「う、うん。」

シンジはふうと小さくため息をつき、改めてレイを見る。
まだ幼さを残しているが、その笑顔はシンジの目をひく。
ふと、シンジは腰までの伸びたレイの髪を見る。

「髪、伸びたね。」

レイははにかんでうつむいた。

「ずっと、伸ばしてるの。」

「そうなんだ。」

「そう…最後にシンジに会った時から。」

そういうと恥ずかしそうにレイはうつむいた。
 
 

「でも、まさかこんな所で会えるなんて。」

二人は出口に向かって歩き出していた。
空港の中は出迎えの人や、帰国者でごった返していた。
その中を縫うように歩く二人。

「いや、ちょっと見送りに来てて。」

「誰の?」

不思議そうな顔をするレイ。
シンジは少し首をかしげて考えた。

「レイってマナのこと覚えてる?」

レイは少し驚いたように尋ね返す。
二人は空港から出た。
夏の陽射しが二人を照らし出す。
気温はかなり上昇していた。

「マナ…ってあのマナちゃんだよね?」

レイは手を翳して太陽を見上げた。
シンジは視線をレイに移して、答える。

「うん。僕たちが小学校のとき泊りで遊びに行った時に出会った女の子。」

「うん、覚えてるよ。」

レイはそれがどうしたの?っていう表情を浮かべてシンジを見る。
シンジは肩をすくめて、なるべく何でもないことのように軽く発言した。

「今、一緒に暮らしてるんだ。」

「え?」

レイはシンジを見つめたまま固まってしまう。

「シンちゃん、同棲してるの?」

シンジは自分の言ったことの意味を考えて慌てて手を振る。

「い、いや、そうじゃなくって…」

「ひどい…アタシ信じてたのに…アタシだけ好きだって言ってくれたのに…」

レイが信じられないといった表情でふるふると首を振る。
そして、両手で顔を覆う。
シンジは慌ててレイの肩を掴む。

「違うんだ。誤解だよ。」

まるで、側から見ると破局寸前の恋人同士だが、
シンジはかまわずに言葉を続ける。

「もちろん、二人だけじゃないよ。父さんも、母さんも一緒に住んでるんだ。」

「マナちゃんのお父さんとお母さんと一緒に住んでるの?」

「ちがーう!!」

シンジはそこまで言って、レイの様子がおかしいのに気が付く。
肩が小刻みに震えているのは泣いているためと思ったが、
その震えが大きくなる。
そして、笑い声がはじける。
レイが涙をぬぐいながら、笑っている。

「え?」

「もう、そんな事くらいわかるよ。うちのお母さんから聞いてるしぃ。」

レイの母親と、シンジの母親は双子の姉妹だった。
つまりシンジとレイはいとこの関係になる。
当然レイは若い頃のユイとそっくりだそうだ。

「はぁ…」

シンジはがっくりと肩をおろす。
マナといい、レイといい。
どうして、僕はこんなに簡単に騙されるんだろう?
そして、シンジは思い付いたようにレイに尋ねる。

「じゃ、今日、この時間に来たのは、僕がここにいるって知ってたから?」

それには首を横に振るレイ。
束ねられている髪の先がゆっくりと揺れる。
それを見てシンジはまるで魚の尻尾みたいだと思った。

「ううん。アタシはおばさまからこの時間に着くように
飛行機乗ってきてねって言われただけ。」

「そうか…」

シンジはうなずく。
母さんか。
いったい何考えてるんだろ?
僕とマナには何も言わないで。

「で、マナちゃんは何処か行ったの?」

シンジは肯き一部始終を話す。
レイは話を聞いてため息をつく。

「なんだ、マナちゃんに会えるの楽しみにしてたのに。」

残念そうな表情を浮かべるレイ。
それを見て、シンジは聞こうと思っていたことを尋ねる。

「レイはいつまでこっちにいるの?」

「1週間。」

「そうか、じゃあ、会えないね。」

「うん。でも、仕方ないよ。今度の機会だね。」

レイはにっこり微笑む。

「ところで、何処に泊まるの?」

答えは予想できたが、一応聞いてみる。

「そりゃ、シンちゃん家だよ。」

当たり前のように答えるレイ。
それを聞いたシンジは首を振る。

「やっぱり…ね。」
 
 

「ただいま。」

シンジは玄関から声をかける。
もちろん後ろにはレイがいて、きょろきょろと部屋の中を見まわしている。

「お帰りなさい…あら、レイちゃんいらっしゃい、待ってたわよ。」

ユイがキッチンから顔を出して、二人を迎える。
そのユイを見てレイは挨拶する。

「こんにちは。お世話になります。」

ユイはレイの全身を見て、ため息をつく。

「奇麗になったわね。髪も伸ばしたのね。似合ってるわよ。」

「そうですか?」

はにかむレイ。
ユイもにっこり微笑む。

「おかあさんも言ってたけど、
ほんとに私たちの若い頃にそっくりになってきたわね。」

シンジは突然何か思い付いたように話し出す。

「そうか、だから、ここ2、3日部屋の掃除してたんだ。」

ユイはそんなシンジを見てくすくす笑いだす。

「そうよ。いくらなんでもマナちゃんの部屋を
使わせるわけにはいかないでしょ。」

「しかし、うちって空き部屋多いなぁ。」

どうして、こんなに広いマンション借りてるんだろ?
シンジは腕を組んで考え込む。

「それはそれ、お約束ってことよ。」

ユイは指を左右に振って答える。

「何が?」

「さあ?」

意味の通じない答えを返し、レイに微笑みかけるユイ。

「じゃ、部屋の方に案内するわね…シンジ。」

「はいはい。」

シンジはため息をついて、レイに言う。

「こっちだよ。」

二人がいなくなってからため息をつくユイ。

「やっぱり、女の子欲しいな。」
 
 
 

「ここだよ。」

シンジはドアを開けて、中にはいる。
部屋の中には一通りの家具が置かれていた?
どうして、家具とかあるんだろ?
しかも、エアコンまでついてるし。
部屋の中はそのエアコンで快適だった。
とりあえず、シンジはあまり深く考えないことにした。

「奇麗な部屋ね。」

壁紙はうすいクリーム色で、カーテンも薄いベージュで統一されいる。
床はフローリングで窓際にベッドが、
そして奥の壁際にクローゼットが一つ置かれている。
なぜか、TVや小さなテーブルが置かれていたが、
シンジはやはり気にしないことにした。
レイはベッドの上に座って、大きく伸びをした。
まとめられている髪がゆらゆら揺れる。

「うーん。遠かったぁ。」

そして、伸びをしたまま後ろに倒れる。

「気持ちいいー。」

シンジはレイの隣に座る。
レイは寝転んだまま、シンジを見つめる。
長く、そして編み込まれた髪に触れるシンジ。

「ほんとなの?」

シンジのその問いにレイはくすりと微笑む。

「ほんとだよ。あれからずっと伸ばしてるの。」

「…そうか。」

シンジはそれだけ答える。
あの日、最後に二人であった時。
僕は…
そしてレイは…
そのシンジの手にレイの手が触れる。

「…会いたかった…シンちゃんの顔を見て初めて気がついたの…」

その言葉にレイを見るシンジ。

「ずっと会いたかったんだって…」

シンジはやさしく微笑み、そして小さく呟く。

「そうなんだ…」

二人はしばらく黙って、手を握ってお互いの存在を感じていた。
 
 
 

「おかえりなさい。」

帰ってきたゲンドウは迎えに来たレイを見て言葉を失った。

「おひさしぶりです、おじさま。」

にっこり微笑んでレイが挨拶する。
その言葉に我に帰るゲンドウ。

「…あぁ、ひさしぶりだな。レイちゃん。」

こっくりとうなずいて、ゲンドウのかばんを受け取るレイ。
そして、かばんをソファに置く。
その様子をぼんやり見つめているゲンドウにユイは思わず吹き出してしまう。

「あなた、いい加減に部屋にあがったら?」

ゲンドウは慌てて、答える。

「そ、そうだな。」

そして、奥の部屋に入っていく。

「おじさま、どうしたのかしら。」

そっと、シンジに耳打ちするレイ。
しかしシンジは首をかしげる。

「さぁ、いつもの父さんらしくはないけど。」

キッチンで料理を作りながらくすくすと笑うユイ。
それをシンジとレイの二人は不思議そうに見つめるのだった。
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_03/03公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!


あとがき
 

ども作者のTIMEです。

TimeCapsule第12話「会いたかった…」はいかがでしたか?

1回で終わらせる予定が、2回になってしまいました。
ほんとに予定は未定ですねぇ。
ま、こうなったら開き直るしかないですね。

今回からしばらくマナはお休みになります。
で、代わりに登場するのがレイとなります。
やっぱり書き慣れているキャラはいいですね。
勝手に動いてくれますから。

で、次回ですが今回の続きです。
では第13話「あの人のこと」でお会いしましょう。






 TIMEさんの『Time Capsule』第12話、公開です。





 奥さ〜ん

 あんたの留守に
 留守にしたとたんに

 旦那さんはふらふらしてますよ〜




 ・・・まだしてない?(^^;

 ・・・でも、時間の問題っぽいかも(爆)




 髪の長いレイちゃんは強力なんだもん。
 ゲンドウを一発でアウトにするほどなんだもん。



 遠い空から念を送り続けてください、マナさん・・・


 大変だよね。
 しかも、まだ、アスカちゃんもいるんだし。
 大変〜




 さあ、訪問者の皆さん。
 今年になって週一以上をキープしているTIMEさんに感想メールを送りましょう!







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