「ね、一緒に行って欲しいところがあるんだけど。」
「うん…どうかしたの?」
シンジは大きな欠伸をする。
昨日、あんまり寝てないのが響いたな。
そして、背伸びをして、顔を振る。
マナはそんなシンジににっこり微笑む。
「あのね、今日洞木さんから教えてもらったお店に行きたいの。」
彼女は雑誌を僕の机の前に広げた。
それは、女の子に人気があるタウン誌だった。
そして、とあるページに載っているお店と地図を指差す。
「このお店なんだけど。」
その店は電車で三駅離れたところにあるお店だった。
「うん。いいよ。このお店だったら、だいたい40分で行けるから。」
別に断る理由も無いし、一緒に帰るのだから、とシンジは承諾した。
マナは人差し指を唇に当てて、首をかしげる。
「じゃあ、学校終わってからすぐ行ってもいい?」
学校が終わってから行っても、夕飯には間に合うだろうし。
シンジはにっこり微笑んで答えた。
「うん。うちに帰るのは遠回りになるからね。」
Time Capsule
TIME/99
第5話
「二人でおでかけ」
「すごく込んでるよ。」
マナは車両に乗り込み、奥のドアの前でシンジの方を振り返る。
シンジはマナと向き合うように立ち、車両の中を見まわす。
車両は大勢の人達で混み合っていた。
シンジは頭一つ分マナより背が高い。
うつむくようにマナを見て答える。
マナは顔を上げて、シンジを見る。
「うん。ちょっと凄いね。」
と、シンジは後ろから押される。
なんとか、ドアに手をついて、こらえるシンジ。
ちょうど、シンジの腕の中にマナが入り込む形になる。
マナは首を少しだけ傾けてシンジに尋ねる。
髪がさらさらと揺れ、何ともいえない香りがシンジの鼻をくすぐる。
「シンジ、だいじょうぶ?」
シンジはにっこり微笑む。
いつものシンジの笑み。だが、その距離が近い。
マナは恥ずかしくなって思わずうつむいてしまう。
自分にだけ向けられた笑み。
そう思うと、なぜか恥ずかしくなってしまう。
ゆっくりと走り出す電車。
シンジはうまく体を動かして、揺れをやり過ごす。
マナがうつむいたまま、ため息をつく。
シンジは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうかした?」
マナは慌てて顔を上げて、手を振る。
その頬は少し赤くなっているが、車両内の暖房のせいだろうか?
「ううん。なんでもない…」
「そうならいいけど。」
マナはまたうつむいてしまう。
恥ずかしい。
シンジの顔がすごく近くにある。
意識しちゃうよ。
どうしよ?
ちらりとシンジを見てみる。
シンジは窓の外の景色を見ているようだ。
シンジの方はあまり意識してないみたいだけど。
やっぱり、これって恥ずかしいよね。
と、車両が急にガクンと揺れる。
車内の人々がよろける。
「うわ!」
シンジはマナの方によろける。
都合、マナとの距離がさらに縮む。
マナの耳元にシンジの息がかかる。
シンジの胸に添えていた手からシンジの鼓動が伝わってくる。
「ごめん。」
シンジは謝るが、耳元に囁かれる声にマナの胸は高鳴る。
息が髪にかかる。
何か答えようとするが、どきどきして声にならない。
マナは少し首を振ることで答えとした。
シンジはなんとか体勢を立て直し、マナから離れる。
マナはほっと息をつく。
動悸を押さえようとするかのように胸に手を当てる。
すっごく、どきどきしちゃってる。
シンジとこんなに接近するなんて始めてだし。
でも、シンジってすごく暖かい。
ずっと、このままでも良かったかな?
…
ううん。やっぱり恥ずかしい。
でも、シンジって…
「ふう、やっと着いたね。」
シンジのその声で我に帰るマナ。
慌てて、窓の外を見る。
確かに降りる駅に着いたようだ。
「うん。そうだね…」
マナはほっとため息をつく。
そして、ドアから跳ねるように飛び出した。
「えっと…確か、この通りにあるはず…」
マナはきょろきょろと通りを見渡す。
赤いレンガの歩道がまっすぐ北に伸びている。
人通りはかなり多い方で、立ち止まっている二人を避けるように大勢の人が歩いていく。
時間が時間だけに、会社帰りのサラリーマンや、学校帰りの学生等が歩いていた。
シンジもあたりを見回して、方向を確認する。
「とりあえず、歩いてみようよ。」
それだけ言うと、シンジはすっとマナの手を握る。
「えっ?」
マナは固まってしまう。
いきなり手を握られたので、思わずつないだ手を凝視してしまう。
シンジは不思議そうに固まったマナの視線を追う。
そして、つないだ手を見て、納得したように微笑んで答える。
「人が多いから、はぐちゃうと大変だよ?」
「う、うん。それはそうなんだけど。」
マナは頬を真っ赤にして、うつむく。
電車の中で抱きしめられ、今度は手を握られてしまった。
マナは頭の中がパニック状態である。
シンジに手をつながれたまま、てくてくと歩くマナ。
まだ頬が熱いよ。
いきなりだったから、どうすればいいかわかんなかった。
あーん、どうしよう。
恥ずかしくて、シンジの顔が見れないよ。
シンジはアタシに気を使ってくれたんだよね。
でも、せめて手をつなごうか?ぐらい聞いて欲しかった。
もちろん、嫌だなんて答えないけど、
気持ちの準備をさせて欲しかったな。
ちらりと顔を上げてシンジを見てみる。
シンジはきょろきょろと辺りを見回し、目的のお店を捜している。
ごめんね。
ほんとはアタシが探さないといけないんだけど。
今、それどころじゃないの。
とにかく落着かないと。
シンジ、ほんとにごめんね。
しばらく歩いて、とある交差点にやってくると、
シンジが声を上げて、ある方を指差す。
「あ、ここじゃない?」
その声にマナは顔を上げ、シンジの指差す方を見る。
確かに、そこには探していたお店の名前が書かれていた。
「うん。ここだよ。」
シンジは店の中を覗き込んで、首を振る。
とても男性が入れるようなお店ではない。
「僕は、ここで待ってるよ、ちょっと入りづらいしね。」
マナもお店の中を覗き込み、納得したようにうなづく。
店の中には若い女性しかいないようだった。
「そうよね。じゃ、どうする?」
シンジは時計を見て答える。
「うーん。じゃあ、一時間後にここに来るね。」
「いいの?」
「僕も行きたいところがあるし。」
「うん。じゃあ、後でね。」
二人は手を振って別れた。
「帰りは何とか座れたね。」
マナは座席に座ると、右隣に座ったシンジに微笑みかける。
シンジは苦笑を浮かべて答える。
窓からは夕日の光が車内に差し込んでくる。
シンジの方を向いているマナの瞳がオレンジに輝く。
「そうだね。ゆっくりできるね。」
ドアが閉じ、電車は走り出す。
電車はガタン、ゴトンと揺れだす。
歩き回った二人には心地よい揺れだった。
がくんと首が落ち、シンジは目を覚ました。
あれ?
何時の間にか寝てたのかな?
ふと、シンジは肩に何かの感触を感じる。
「あれ?マナ。」
マナがシンジの肩にもたれかかっていた。
すうすうと寝息を立てるマナ。
髪がシンジの頬にかかりくすぐったい。
うーん。
どうしよ?
起こした方がいいのかな?
シンジはマナの様子を見る。
マナはぐっすり眠っているようだ。
ま、いいか。
シンジは視線をマナから移そうとした。
「うーん…シ…ンジ…」
シンジは驚いたようにマナを見つめる。
が、マナはまたすうすうと寝息を立てはじめる。
なんだ、寝言かな?
でも、僕の名前を呼ぶなんて、何の夢見てるんだろ?
と、またマナが小さな声で囁く。
「…シンジ…行かない…で…」
うーん。
なんだろ?
そして、マナの瞳から涙が。
シンジはどきりとする。
涙は、頬を伝い、顎からシンジの胸に落ちる。
シンジ頬の涙をぬぐい、手を優しく握り、マナの耳元に囁く。
「だいじょうぶ。僕はここいにるよ。」
と、マナが安堵のため息をつき、シンジの手をぎゅっと握りかえす。
降りる駅に着くまでシンジはマナの手を握り続けた。
あとがき
どもTIMEです。
TimeCapsule第5話「二人でお出かけ」はいかがでしたか。
本当は第5話からキャンプ編だったのですが、
予定変更で、こーゆう話になりました。
次回への伏線にしたかったんですが、あんまり伏線になってないですね。
買い物に行く二人ですが、込むんですよねこういう時に限って。
#あぁ、お約束。わらい。
次回からですが、そろそろお話を進めようかなと思っています。
では第6話「約束」でお会いしましょう。