Time Capsule
TIME/98
第1話
「同居ですか?」
前のドアから一人の女の子が入ってくる。
それをみた男子生徒からは、先程とは比べ物にならないほどのどよめきが起こる。
少女は教卓の右隣に立つ。
栗色の髪、薄い透明な青の瞳、全体的に華奢な感じがする少女。
彼女はミサトの方を向く。
「じゃ、みんなに挨拶してね。」
その少女はにっこり微笑むとおじぎをして挨拶をする。
「霧島マナです。よろしくお願いします。」
そして、教室の中を見回す。
特に男子生徒達から歓声が上がる。
「おぉー、奇麗系というよりも可愛い系だなぁー。」
ケンスケが夢中になってシャッターを切っている隣で、
シンジは何かを彼女から感じた。
なんだろ?
この感じ。
胸の底に何かがくすぶっているよう感じ。
懐かしい?
懐かしいのかな?
シンジの方をむいたマナ。
視線を合わせたとたんにシンジの胸が苦しくなる。
シンジは確信した。
僕は…
シンジを見て、マナが嬉しそうにはにかむ。
そのしぐさ、すごく昔に僕は…
彼女を…
マナの瞳が潤んできらきら輝いている。
そう、この瞳…
知ってる…
そこにミサトの声が割り込む。
しかし、ふたりにはその声は届かない。
じっと視線を絡ませるふたり。
「じゃ、席は…洞木さんの隣で。」
「……」
マナは返事をしない。
そのままシンジを見つめている。
シンジもマナを見つめ続ける。
「霧島さん?」
「…は、はい。」
はっと我に帰り返事をするマナ。
恥ずかしそうにうつむき頬を染め、
慌てて、ヒカリの隣の席に座る。
その様子にみとれる男子生徒達。
その後、ミサトは二、三連絡事項を告げて、
朝のホームルームは終了した。
ホームルーム終了後、マナの周りに人だかりが出来た。
みな我先にとマナに質問をぶつける。
委員長である洞木ヒカリが止めに入るが、それも大して効果はないようだ。
その光景をぼんやりと見詰めるシンジにケンスケが声をかける。
「彼女、すごい人気だよ。」
シンジはケンスケに微笑みかける。
もちろん、手にはカメラを持っている。
「写真は売れてる?」
ケンスケはにんまり微笑む。
そして、ノートを取り出して覗き込む。
「あぁ、他のクラスからも引き合いがきてる。
こりゃ、ひさびさのヒットだな。」
「ふうん。」
シンジは興味なさげに答えた。
内心ではそうでもなかったのだが。
さっきマナに大して感じたものが本当であるのか、
シンジは確かめたかった。
しかし、今更あの阿鼻叫喚の渦に入りたいとは思わない。
「な、シンジ。」
「うん?」
「さっき、彼女ずっと俺達の方むいてた気がするんだけど。」
シンジはどきりとしてケンスケを見る。
ケンスケは何か考え込むように首をかしげる。
「そう?」
シンジはそっけなく答える。
まさか、僕と見詰め合っていたからと答えられないし、
もしかすると、僕と見詰め合っていたというのも僕自身の勘違いかもしれないし。
「気の性かな?」
シンジは少し考えて、無難な答えを引き出す。
「夢中になってシャッター切ってたから、そう感じたんじゃないの?」
「そうか。そうだな。」
納得して、またカメラを構えるケンスケを見て、苦笑するシンジ。
その日の午後。
マナは引越しの荷物の受け取りがあるということで早退した。
「ちぇっ、昼からはDVDも撮ろうと思ってたのに…」
ケンスケは心底悔しがっている。
シンジも自分のことを知っているのか聞こうか迷っていただけに、
ほっとしたような、がっかりしたような気分を味わっていた。
午後の授業はクラスの中に倦怠感が漂う。
昼食をとってすぐの授業はつい眠くなってしまう。
シンジもついうとうととしていた。
見渡す限りトウモロコシ畑で埋め尽くされている畑の
真ん中にシンジは一人立っていた。
太陽はじりじりと強い日差しで、僕の肌を焼いていた。
僕は周りを見渡す。
どちらをむいても、トウモロコシばかりだ。
「ねぇ、どこいったの?返事してよ。」
僕はここに一緒に来た子の名前を呼んだ。
「ここだよー。」
その子はトウモロコシをいくつか抱えて、顔を出した。
きれいな髪、そして瞳。
僕はにっこり微笑んで・・・
がくりと頭が落ちてシンジははっと目を覚ます。
そして、ゆっくりと周りを見まわす。
クラスの生徒の半分ぐらいは熟睡してるようだ。
シンジはふうと小さくため息をつき、窓から校庭を見る。
そして、今見ていた夢について考える。
なんだろ。
僕が子供の頃の事みたいだったけど。
場所もどこかわからない。
トウモロコシ畑。
そんな所、この辺りにあるのだろうか?
一緒にいた女の子の顔も思い出せない。
女の子?
女の子だったんだろうか?
駄目だ、分からない。
考え込むシンジ。
とその時、授業終了のチャイムが鳴る。
そのまま、シンジは夢の事は忘れてしまった。
放課後、帰り支度をしているシンジに
トウジとケンスケが声をかける。
教科書をかばんにつめながら、シンジは二人に答える。
「どうしたの?」
「いや、今日来た霧島さんの歓迎会をどうしようかと思って。」
「歓迎会?」
「そや、シンジはなにかアイデアはないか?」
トウジは腕を組んで考え込みながら尋ねる。
シンジは少し考えてから、何か思い付いたように答える。
「うーん。じゃ、例のキャンプにさそったら?
あれだったら、クラス全員が参加するし。」
「そうか…そうやな。もう来週にせまっとるし。」
トウジはうんうんうなずく。
「じゃ、彼女もキャンプに誘うってことで。」
ケンスケはそれをヒカリに伝える。
話を聞いて、ヒカリも納得したようだ。
「いいわよ。じゃ、みんなにはそう言っておくね。」
寄り道をして書店で雑誌を買って、いつもより少し遅く
シンジは帰ってきた。
「ただいまー。」
シンジは勢いよく玄関のドアを開ける。
「おかえり、シンジ…ちょっとあなたに話したいことがあるんだけど。」
ユイは何やら慌てた様子でシンジを迎える。
「何?母さん。」
なんだろ、話したいことって。
シンジはそれを聞こうとしたが、
部屋の奥のリビングに一人の少女がいるのに気が付いた。
その少女はシンジの方を見ると、少し顔を赤らめてシンジに会釈した。
「あれっ?霧島さん…どうして?」
それを聞いてマナは少し困ったように笑みを受かべる。
とマナの向かい側に座っていた父さんがシンジを呼ぶ。
「シンジ。いいところに帰ってきた。こちらに来なさい。」
シンジは言われるままにマナの隣に座る。
ちらりと隣を見るマナ。
マナは学校の制服を着たままだった。
たしか、荷物の引き取りがあるって…
ゲンドウがひとつ咳払いをして話はじめる。
「シンジ。この子は私の知人の娘さんでな。霧島マナ君だ。」
シンジはこっくりうなづき答える。
「うん。今日、僕のクラスに転校してきたんだ。」
マナもうつむいたままこっくりとうなずく。
「…そうなんです、一緒のクラスです。」
シンジはそんなマナの表情を見る。
彼女の頬が赤い。
どうしたんだろ。
「それでな…実はマナ君は…」
ゲンドウは何か言いづらそうにしていたが、
ユイにひじで突つかれてあきらめたようにしぶしぶ話しを続ける。
「今日から、家で一緒に暮らすことになった。」
へ?
今なんて言ったんだ。
一緒に暮らす?
シンジは今聞いた言葉を理解しようとする
一緒に…
暮らす。
!!
なんだってーーーーーーーー!!
シンジは立ち上がって、ゲンドウを見る。
「どうして?」
思わず聞き返すシンジ。
それを聞いてマナはびくりと肩を震わせる。
「いや、彼女の両親が海外赴任することになって、
うちで預かって欲しいと言われたのだ。」
ゲンドウが腕を組んで答える。
その隣でユイがにこにこ微笑みながらうなづく。
「って、前もってそーいう話はなかったの。」
「いや、急な話でな。私も今日、ユイから電話で聞いて初めて知ったんだ。」
ゲンドウとユイは顔を合わせる。
マナが小さな声で申し訳なさそうに答える。
「・・・・すいません。いきなり押しかけて。
てっきり、お父さんから話は聞いていると思っていました。」
「いいのよ。アナタは悪くないのよ。」
ユイの言葉に頷き、ゲンドウはシンジを見る。
「で、とにかく、両親が戻ってくるまでの一年間、
彼女をあずかることにした。もう両親はアメリカだからな」
「はぁ・・・」
シンジは何も言えなかった。
しかし、いいかげんな親だな。
「ごめんなさい。シンジくん。
私、てっきり知っているものだと思っていたの。」
マナは伏せていた顔を上げて、シンジに謝る。
「・・・・いや、いいんだよ。」
シンジはなんとか微笑む。
いきなりでどうも頭がついていけない。
この子と一緒に暮らすの?
なんかの間違いじゃないの?
じっと、マナを見つめるシンジ。
と、マナがちらりとシンジを見る。
二人の視線が合ってしまう。
どちらともなく顔を伏せる二人。
「じゃあ、マナちゃんはシンジの隣の部屋だから。
簡単に片づけては置いたけど、
プライベートなものには触れてないから。」
「はい。ありがとうございます。」
マナは軽く頭を下げて立ち上がる。
「じゃ、シンジ、案内してあげて。」
「うん。わかったよ。」
シンジは苦笑する。
でも、案内なんてリビング出ればすぐなのに。
シンジとマナはリビングを出た。
「ねぇ…女の子っていいわね。」
部屋から出ていく二人を見て、
ユイは嬉しそうにゲンドウに言う。
「そうだな。でも、今からでも遅くはないか?」
耳たぶを赤く染めゲンドウが答える。
「まぁ、アナタったら。」
ユイはにっこり微笑んだ。
「それにしても、シンジの方は覚えていないようだな。」
「いえ、そうとも限りませんよ。」
「そうか?」
「そうです。」
二人は顔を上げ微笑みあった。
「ここが、君の部屋だよ。」
シンジはドアを開ける。
すでに部屋の中は整理されていて、
ベッドや勉強机などが置かれていた。
シンジはマナに微笑んだ。
マナはそれを見て、少し頬を染めてうつむく。
なんか、すごく恥ずかしがってるみたいだな。
こっちも意識しちゃうよ。
「あの…シンジくん?」
ためらいがちにマナは口を開く。
「シンジでいいよ。」
くん付けで呼ばれるのには慣れてないし、それに同い年なんだから、
そう気を使わなくてもいいとシンジは思ってそう答えた。
「じゃあ……シンジ…くん…」
彼女は耳まで赤くなりながら、
両手で頬を押さえて、恥ずかしそうにうつむく。
「ごめん。やっぱり恥ずかしい…」
シンジはまるで自分が、 マナに何か悪いことでも
させようとしている気分になってしまう。
「そうか、じゃあ慣れるまでくんづけでもいいよ。」
「はい、なるべく早く慣れるように頑張るから。」
マナは顔をあげてにっこりと微笑む。
か、かわいい。
結構、どころかすごく可愛いかも。
思わずマナに見とれてしまうシンジ。
「で、シンジくんに質問があるの…本当に私のこと迷惑じゃない?」
マナは瞳をうるうるさせながら、シンジの顔を見詰める。
「いや、僕は迷惑じゃないよ。」
シンジはそっけなく答える。
こういう時に、気のきたセリフの一つでも言えればいいんだけど。
そんな才能はシンジにはなかった。
「本当?」
マナは不安そうにシンジを見る。
そうだよね。
ただでさえ会ったこともない人の家に来るのは不安なのに、
そこで何も聞いてないって言われたんだから。
「本当だよ。驚いてはいるけどね。」
シンジはマナを安心させようと、微笑んだ。
「ありがと。私ね…」
と、急にマナはまたもや真っ赤になってうつむく。
「うん?」
「シンジ…くんと…」
それだけ言うと、シンジの方を上目使いで見つめる。
「えっ…」
シンジは固まってしまう。
マナがシンジの瞳をじっとみつめる。
シンジもマナの瞳をじっとみつめる。
といきなりドアが開く。
「シンジ、マナちゃん。二人ともごはんまだよね。いらっしゃい。」
「う、うん。わかった。」
シンジたち二人は真っ赤になって部屋を出た。
それをユイが不思議そうに見つめていた。
シンジはベッドの横になりクラシックを聞いていた。
霧島マナ…か。
さっきから、シンジはマナの事ばかり考えていた。
いきなりシンジの前に現れた、同い年の女の子。
気にするなっていう方が無理かもしれないな。
シンジはそうひとりごちた。
さらさらの栗色の髪。
きらきら輝いていた瞳。
すごく可愛い子だなって思う。
でも、最初に会った時、確かにどこかであった気がした。
…なんだろこの気持ち。
なんだろ?
よくわかんないや。
シンジは勢いよく起き上がる。
まぁ、いいや。
とりあえず、お風呂に入ろっと。
風呂は心の洗濯ってね。
シンジは着替えを持って、部屋を出る。
何も考えずに、脱衣所のドアを開けると、
そこには…
「きゃあ!!」
ハダカのマナが立っていた…
慌てて、バスタオルで体を隠すマナ。
「ご、ごめん。」
シンジは慌てて謝って、ドアを閉めようとする。
その瞬間。
ガツン!!
頭に強い衝撃を受けてシンジは気を失った。
あとがき
どもTIMEです。
Time-Capsule第1話「同居ですか?」はいかがでしたか。
実はマナでしたね。わらい。
ま、部屋30000ヒットの時にマナを書いてるんで、
もしやと思われた方はいらしたでしょうね。
さて、こうなると、アスカ、レイがいつ出てくるかですが、いつでしょうねぇ。
作者にもはっきり分かっていません。
今回はあんまり先の展開とか考えてないんで、
実はアスカ(レイかも)が後から出てきて略奪なんて展開もあるかもしれませんね。
では次の第2話「名前で呼んで」でお会いしましょう。