ハダカのマナが立っていた…
慌てて、バスタオルで体を隠すマナ。
「ご、ごめん。」
シンジは慌てて謝って、ドアを閉めようとする。
その瞬間。
ガツン!!
頭に強い衝撃を受けてシンジは気を失った。
Time Capsule
TIME/98
第2話
「名前で呼んで」
「だいじょーぶ?マナちゃん。」
ユイは持っていた土鍋をおろしてマナの方を振り向く。
マナはタオルを体に巻き付けてほっとため息を付いて答える。
「…ええ…でも、シンジ君が…」
マナは足元でのびているシンジにかがみ込んだ。
打ち所が悪かったのだろうか、シンジはぴくりとも動かない。
マナはうろたえてユイの顔を見上げる。
「いいのよ。まさかこんな事する子だったなんて・・・お仕置きが必要ね。」
小さくため息をつき、足元に転がっているシンジを見下ろしてユイは答える。
しかし、マナはシンジが意図的に覗いたわけじゃないと思い、尋ねかえす。
「あの…シンジ君、私が入っているの知らなかったんじゃ?」
ユイはまじまじとマナの顔を見る。
まるでそんな事は考えていなかったようだ。
しばらく見詰め合ったまま沈黙する二人。
ふう、とため息をつくユイ。
「…まぁいいわ。とりあえず、連行しましょ。」
とユイは伸びているシンジをずるずる引っ張っていった。
シンジは目を覚ました。
身体を動かそうとするが、腕が動かない。
シンジは椅子に座らされ、両手は後ろで何かの紐で結ばれていた。
まわりは薄暗い。
何がどうしたんだろう?
シンジは頭を振って思い出そうとする。
と、いきなり僕の顔に光が当てられる。
「おまえには失望した。シンジ。」
光の向こう側にゲンドウが立っているらしい。
シンジは目をしばたかせ、ゲンドウを見詰めようとする。
「失望って何が?」
「マナ君のハダカを覗いたそうだな。」
その口調には、まったく感情がこもっていない。
シンジは慌てて答える。
「そ、それは、誤解だよ。彼女が入っているなんて知らなかったんだ。」
「言い訳はそれだけか?」
ゲンドウは切り捨てるように言う。
取りつくしまがないとはこのことだ。
「ほんとなんだってば。」
「…男らしく自分のした事を認めないのか?」
ゲンドウの声が更に低くなる。
機嫌が悪くなった証拠だ。
シンジの頭の中で警報が鳴り響く。
「だから、ほんとに霧島が入ってるのは知らなかったんだってば。」
それには返事が帰って来ない。
しかし、ひそひそと話す声が聞こえてくる。
しばらくの沈黙の後、ゲンドウが口を開く。
「…わかった。今回はマナ君に免じて許してやろう。運のいい奴だ。」
「だから、誤解なんだよ…」
もう、どうして信じてもらえないのかな?
やはり、父さんの会社のかばんに、
イタズラしたのがまずかったかな?
シンジがそんな事を考えていると、
急に明かりが点き周りが明るくなる。
なんだ、ここリビングだったんだ。
あれ、母さんに霧島までいたんだ。
ゲンドウの後ろにユイとマナが立っていた。
マナがシンジの側に来て、紐で結ばれていた両手を自由にする。
「ごめんなさい。私がカギ掛けておけば、こうならなかったのに。」
「いや、僕も何も考えないで、ドアを開けてごめん。」
「そうだ、シンジ。おまえが悪い。マナ君にしかっり謝っておくんだぞ。」
ゲンドウはそれだけ言うと、リビングから出て行く。
ユイは二人ににっこりと微笑みかけながら話す。
「後は、二人でちゃんと話し合ってね。」
ユイは、やけににこにこ嬉しそうにしながらそう言った。
急に二人きりになって緊張したのか、
マナが頬を染め、小さな声で言う。
「ねぇ、シンジ君…」
「なに?」
シンジは自由になった手をさすりながら答える。
マナはうつむいたままシンジの耳元に囁く。
「後で、お部屋に行っていいかな?」
シンジは思わず、マナの顔をまじまじと見詰める。
マナは頬を真っ赤にして続ける。
「会ったばかりだし、少しお話したいの。」
シンジは少し考えたが、肯いて答える。
「じゃあ、一時間経ったら部屋に来てくれるかな。」
「うん。一時間後にシンジ君のお部屋に行くね。」
マナは少し微笑んで、そう答える。
そして、二人は別れた。
僕はドアをノックする音で起き上がった。
服はどうしようか迷った挙げ句、紺のパジャマを着ていた。
お風呂に入ったのに、普段着を着ているのも変だと思ったからである。
「はい。」
シンジは起き上がって返事をする。
「アタシです。」
時間も遅くなっていたせいか、マナの声は少し小さかった。
「いいよ。入って。カギは開いてるから。」
ドアにはカギがついてるけど、かけたことはなかった。
朝、ユイが起こしに来れるようにカギはかけていない。
「おじゃまします。」
ドアががちゃりと開き、クリーム色のパジャマを着て、
紺のカーディガンをはおったマナが入ってきた。
・・・パジャマ姿にどきりとしてしまった。
マナは恥ずかしそうに目を伏せドアのところで立っている。
「まぁ、適当に座ってよ。」
雰囲気を和らげようと、軽い口調でそう言ってみる。
と、マナはベッドに座っていた、シンジの隣にちょこんと座った。
そして恥ずかしそうにうつむく。
シンジはまさか自分の隣に座るとは思わなかったので、
少し身を引いてしまう。
マナの髪からシャンプーのいい香りがした。
「えーっと。霧島ってどこに住んでたの?」
僕は霧島の方を見ないで、そう聞いた。
なるべく意識しないようにしていたが、少し声が上ずる。
「第二新東京市に住でたの。」
「そうなんだ。」
「うん。」
「えーっと・・・」
いろいろ聞きたいことがあったのに、何から聞こうか迷ってしまう。
そう考えているシンジにマナが話しかける。
「あの・・シンジ君。」
「な、何?」
声が少し上ずってしまうシンジ。
「あのね・・・」
そこで、言葉を区切り、ちらりとシンジを見る。
「もう一度聞いておきたいんだけど。」
「うん。」
「アタシがここにいて迷惑じゃない?本当に迷惑じゃない?」
マナはシンジの方に乗り出してくる。
両手を握り締めて、真剣な表情だ。
シンジはにっこり微笑んでうなずく。
「全然。本当に迷惑じゃないよ。」
「ごめんね。」
慌てて、手を振るシンジ。
でも、どうして、ここに来る事になったのか聞いてなかったけ?
シンジはそう思い尋ねる事にした。
「いや、霧島は謝らなくてもいいよ。でも、お父さんにはどう言われたの?」
マナは少し考え込むように首をかしげる。
「うーんとね。一週間ほど前にお父さんにアメリカに赴任する事になったから、
ついていくか、そのまま残るか決めろって言われて。」
「うん。」
「で、一緒に行きたくないって言ったの。
でも、お父さんは独りで生活させるのは不安だからって、
お父さんの知り合いのところで一緒に住むように頼んだって言われて。」
納得したようにうなずくシンジ。
「それが、僕んちだったわけだ。」
「うん。」
「でも、うちの父さんは知らなかったと。」
「ううん。知らせたのが、今日アタシが家を発ってからなの。」
「なるほど。」
「それで、おじさまやおばさまに迷惑かけちゃった。」
「そうか、災難だったね。」
苦笑するシンジ。
「ううん。そうでもないよ。」
少し、嬉しそうに首を振るマナ。
髪がふわりと揺れる。
そして、シンジを見る。
「そうなんだ。」
マナはにっこり微笑む。
なんか、この子の笑いかたって可愛いんだよな。
こっちまでつられて笑っちゃうような微笑み。
花が咲くってこういうの言うのかな?
ふと、シンジはそんな事を考えた。
マナは顔を上げてシンジを見る。
一瞬、そのしぐさを見てシンジの記憶に何かが触れる。
しかし、それは一瞬の事だった。
見詰め合う二人。
「ねぇ、シンジ君にお願いがあるの。」
「なに?」
「あのね…」
首を少しかしげて、シンジを見るマナ。
そのしぐさが、何ともいえずかわいい。
「アタシのことマナって呼んで欲しいの。
さっきから霧島って呼んでくれてるけど、
なんか他人行儀みたいで少しイヤなの。
アタシもシンジくんのことシンジ…って呼べるようにするから…
ね、お願い。」
確かに、僕は霧島にシンジでいいよって言ったのだから、
霧島のこともマナって呼ばないと。
そう考え、答えるシンジ。
「うん。わかったよ。マナでいいんだね。
少し恥ずかしいけど、そう呼ぶようにするよ。」
マナは嬉しそうにシンジを見つめる。
「うん。ありがと。シンジ…」
そして、シンジの頬に顔を寄せる。
ちゅっ。
マナはシンジの頬に軽くキスをする。
頬を染めてうつむくマナ。
僕も頬が熱くなるのを感じていた。
そして、ぱっとマナは立ち上がる。
ドアの方まで歩いていき、くるりと振り返る。
「じゃあ、アタシ寝るね。」
ひらひらと手を振って見せるマナ。
シンジも手を振って答える。
「う、うん。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
マナが出ていったドアをシンジは見つめながら考えていた。
さっきの感触…どこかで?
あとがき
ども、作者のTIMEです。
Time-Capsule第2話「名前で呼んで」公開です。
お約束の展開ですね。
自分でもなんだかなー。と思いながら書いてます。
でも、これからもお約束の予定ですので。わらい。
結構な勢いで更新してますが、
次の3話で年内の更新は終了です。
#その代わりクリスマス記念がありますので。
では第3話「事情があるんです」でお会いしましょう。