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どうして、彼と出会ってしまったのだろう。

会わなければ、こんな思いしなくてよかったのに。

どうして、彼と話をしてしまったのだろう。

話をしなければ、こんな思いしなくてよかったのに。

どうして、彼を好きになってしまったのだろう。

好きにならなければ、こんな思いしなくてよかったのに。

彼を見ていたい。

彼に私を見ていて欲しい。
 
ずっと側にいたい。

ずっと側にいて欲しい。

私が私でいるために。

だから私は…
 
 
 
 
 
部屋60000HIT記念

Time/99
 
 
 
 
 
 
「あれ、綾波?どうしたのここで?」

ふとレイは背後から声をかけられて驚く。
この声はシンジ?
振り向かなくても分かる。
彼の声だけは何があっても間違えない。
それは私が…
ふうと小さくため息をついてくるりと振り返る。
白銀の髪とスカートの裾がふわりと広がる。
そこには予想通りにシンジが立っている。
レイは制服姿だったが、シンジも制服のままだった。
シンジはにっこり微笑んでレイを見る。
その笑みはレイの鼓動を早くさせた。
どうしよ。
何かどきどきしてきちゃった。
あーん。碇くんにばれてないかな?
何か言わなきゃ。

「碇くん…どうしてここに?」

かろうじてそれだけ言う。
少しだけ声が震えてしまった。
碇くん気づいたかな?
上目使いでシンジを見つめるレイ。
しかし、シンジはどうやら気づかなかったようだ。

「いや、塾の帰りなんだ。けど、ここを通りかかったら綾波がいたんで。」

「そうなんだ。」

こっくりとうなづくレイ。
外見はいつも通りだったが、内心はかなり動揺していた。
どうしてこんな所であっちゃうんだろ?
嬉しいけど、かなりびっくり。
そんなレイを見てシンジはにっこり微笑んで尋ねる。
あーん。
どうして、そんな笑い方するの?
どきどきしちゃうじゃない。

「何か買い物?」

「うん。もう買っちゃたけど。」

「そうなんだ。」

なんとなく黙ってしまう二人。
どうしよ。
どうしよ。
とにかく、何か話さなきゃ。

うーん。
うーん。
と、シンジがくすくす笑い出す。
レイは不思議そうにシンジをみつめる。

「…ごめん。なんかこんな所で黙って立ってても仕方ないよね。帰ろっか?」

その言葉にレイも表情を崩しにっこりと微笑みこくりと肯く。
 

 

お店から外に出る二人。
店内とは違って、外はかなり冷え込んでいた。
思わず首を竦める二人。
吐き出す息が白い。

「寒いね。」

「うん。」

二人は並んで歩き出す。
車道側にシンジが立ち、その隣をレイが歩く。
水銀灯が、歩道に銀色の光を放っている。
その下を通るたびに二人の髪がきらきらと輝く。
レイはちらりとシンジの顔を見る。
その視線に気づいてシンジはレイの方を向く。

「どうしたの?」

「碇くんの家ってこっちじゃないよね?」

シンジは首をふるふる振って答える。

「うん。違うけど。」

レイはシンジの顔を覗き込むようにして尋ねる。

「じゃあ、どうして?」

「だって…こんな時間に女の子一人で帰るのは危ないよ?」

その言葉に驚いたように、目を見開くレイ。
もしかして…
アタシのため?
レイは頬が火照るの感じてうつむいてしまう。
また、どきどきしてきちゃった。
碇くんが私を送ってくれるの?
嬉しい。

「…ありがと。」

ありがと…
すごく嬉しい…
泣きちゃいそうなぐらいに…
二人は歩道をゆっくり歩いていく。
雲に隠れていた月が現われ、あたりの景色が薄く浮かび上がる。
ねぇ…碇くん。
レイは心の中でシンジに問いかける。
ずっとこのままでいて欲しい…
このまま時が止まったらいいのに…
…でも…
碇くんには彼女が…
知りたい。
碇くんは私のことどう思ってるの?
私のこと少しでも意識してくれてる?
彼女よりも私のことを思っていてくれる?
私は…
碇くんのこと…
胸が痛い。
私はこんなに…
どうすればいい?
碇くんは彼女がいつも側にいる…
私はどうすれば…
どうすればいいの?
この思いはどうすればいいの?
私を見ていて欲しい。
いつも側にいたい。
でも、それは望んではいけないことなの?
彼女は良くて、私はいけないの?
急に立ち止まったレイを不思議そうにシンジ振り返りは見つめる。

「どうかしたの?」

そう、もうこの思いを胸に留めておきたくない。
知って欲しい…
シンジに私の気持ちを…
もし彼女のことを思っていても…
顔を上げて、シンジを見つめる。
月明かりにシンジがぼんやりと浮かび上がっている。
夜の空色の瞳はじっとレイを見つめている。
ずっと、その瞳で私を見ていて欲しい。
私もずっと、この瞳を見ていたい。
言うのよ。
言ってしまえば、私は…
でも…
でも、私は…
永遠とも感じられる数秒が過ぎ去る。
レイは小さくため息をつき肩の力を抜く。

「ごめんなさい…」

レイはそれだけ言って、微笑むとまた歩き出す。
その様子にシンジは何か聞こうとするが、肩をすくめる。
私は…
恐いんだ…
私がこの気持ちを打ち明けて、
シンジが受け入れてくれなかったら…
二人は今の関係を続けられない…
私よりも彼女のことを思っていると知ってしまうのが…
私はそれがすごく恐い…
どうすればいいの?
私は…
このままじゃ、私…
壊れちゃうよ…
耐えられないよ…
碇…くん…
たす…けて…

「綾波?」

そのシンジの声にはっと我に帰るレイ。
瞳から涙が溢れ頬を伝っている。
一滴の涙が頬を伝い顎から落ちる。
それはレンガの歩道に小さな染みを作る。
しかし、すぐに染み込み見分けが付かなくなってしまう。

「…ごめんなさい…」

レイはそれだけ言うと、うつむく。
シンジはハンカチを出しやさしくレイの涙をぬぐう。
そして、レイの顔を覗き込む。
どうして?
碇くん…
そんなことしないで…
嬉しい…でも、それは私だから?
それとも、碇くんはやさしいから…
どっちなの?
教えて…

「…いか…り…くん。」

レイは途切れ途切れにシンジの名前を呼ぶ。
シンジはレイの顔を覗き込むようにして答える。

「なんだい?」

動揺しているのだろうが、それを見せないように、
いつものように答えるシンジ。

「あの…ね。ずっと前から…いいたいことが…あったんだ…」

「言いたいこと?」

「わた…し…ね…」

顔を上げてシンジを見るレイ。
瞳に涙を溜め、じっとシンジの瞳を見つめる。
きれいだ…
ふと、シンジはそう感じ、レイに見入ってしまう。
レイはシンジの両腕にしがみつく。

「わたし…いかり…くんのことが…」

レイはちいさく囁く。
今のレイには精一杯の声だったが、シンジにははっきり聞こえた。

「すきなの…」

そして、がっくりとうなだれるレイ。
言ってしまった…
とうとう私の気持ちを…
でも…
恐い…
碇くんがどう答えてくれるのか…
もし、碇君が…
急に寒気を感じレイは肩を抱く。
寒い…
どうしてだろ。
そんなレイを見てシンジは首を振り、レイの手を取った。
レイははっとしてシンジの顔を見詰める。
シンジはレイを見ないで答える。

「行こう。風邪ひいちゃうよ。」

その口調が心なしか堅い。
レイはうつむくとこっくりとうなずく。
やっぱり…
私の想いは…
そうよね…
シンちゃんには彼女が…
分かってたことだよね…
でも…
後悔はしたくない。
それに、何か少しだけすっきりした。
胸は痛むけど…
ふと顔を上げるレイ。
シンジが一歩先を歩いている。
その背中をじっと見詰める。
そして、つないだ手を見る。
つないだ手が暖かい…
ずっと、このままだったらいいのにな。
せめて、今は私のこと思っていて欲しい。
 
 
 
 

レイはドアの前でシンジの方を振り返る。
恐くて顔が見れない。
顔を伏せたままレイは話かける。

「ありがと…」

「うん…」

ごめんね…
碇君…
私…
思い切って顔を上げるレイ。
そしてにっこりと微笑みかける。

「じゃあ、気をつけて帰ってね…」

あの人のところに…
帰って…
シンジはじっとレイの瞳を見つめる。
お願い、そんなに見つめないで…
私…
わたし…
レイの瞳が潤む。
そして、ひとしずくの涙が頬を伝う。
シンジにこんな顔見せたくなかったのに…
お願い…
これ以上私を苦しめないで…
私のこと彼女よりも思っていてくれないのなら…
お願い…

「ごめん…」

シンジはそういうとレイを抱きしめる。
いきなりのことでレイは抗えなかった。
レイはシンジの胸に抱きすくめられて何が起こったのか理解しようとする。
シンジが私を抱きしめてくれている。
どうして?
碇君はアタシのこと?
そうなの?
そう思ってもいいの?
アタシ信じちゃうよ。
瞳を閉じるレイ。
気持ちいい。
このまま抱きしめていて欲しい。
シンジの鼓動を感じる。
でも…
でも。

「…帰らなきゃ。」

レイはかろうじてシンジに囁く。
シンジの体が一瞬強張る。
そして、レイから体を離す。

「…そうだね…」

レイはにっこりと微笑む。

「おやすみなさい。」

シンジもにっこりと微笑む。

「おやすみ。」

くるりときびすを返すシンジ。
一歩、二歩そして、立ち止まる。
そしてレイの方を振り返らないでシンジは話す。

「…少しだけ待ってて欲しい。」

それだけ言うと、シンジは階段に消えていった。

「少しだけ…」

レイはそう呟く。
涙が頬を伝い、顎から床に落ちる。
その涙は月の光を映して、一瞬まばゆく輝いた。
 
 





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ver.-1.00 1999_03/01公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!





あとがき

どもTIMEです。

部屋60000ヒット記念「涙」はいかがでしたか。

前回50000ヒットがアスカだったので今回はレイのお話です。
何も考えずに書いたらこんなお話になってしまいました。
#ま、最近の作者の傾向が出てますねぇ。

さて、時事ネタですが、めぞんも150万ヒットいってますねぇ。
つーことで、当然この作者はヒット記念を書くわけですが、
今回も3本です。しかも全てTimeCapsuleのサイドストーリです。
#ただし、マナ編はかなり引っかけてありますが。

予定としてはまずTimeCapsuleの12話を公開し、
次に150万ヒット記念3本を公開、
最後に前から出すと予告していたTimeCapsuleの登場人物の設定を公開します。
で、TimeCapsule13話に続いていくわけです。
つーわけで、今週はまたとんでもない更新頻度ですので、
みなさん遅れずについてきてくださいね。

では、次はTimeCapsuleでお会いしましょう。
 




 TIMEさんの『お願いごと』 、公開です。






 伝えて良かったかな?

 良かったにみたい(^^)


 勇気を出せて良かった。


 うーんっとで、
 むーんっとで、


 言葉に出来て、
 良かった〜



 言葉に出す前からシンジ君には通じていたでしょうけど、
 やっぱり、きっちり、
 言葉にして。


 ♪





 さあ、訪問者の皆さん。
 TIMEさんに部屋6万おめでとうメールを送りましょう!






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