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ゆっくりと屈み込むシンジ。
そして、アスカを抱き上げる。
アスカの唇から、一筋の血が流れていた。
アスカの表情は穏やかだ。
まるで眠っているみたいに。
どうして…
どうして僕は…
アスカを抱きしめるシンジ。
アスカを守れなかったんだ…
シンジの涙が、アスカの頬に落ちる。
その涙は頬を伝い、アスカの血と交じる。
どうして…
アスカがこんな目に…
僕が守るって…
約束したのに…

許せない…

どこからか声が聞こえてくる。

誰が許しても…

頭の中に誰かの声が聞こえてくる。

僕は許さない…

誰だ?僕の名前を呼ぶのは?

絶対に僕は許さない…

その時が来たのか?

僕は僕自信を許せない…

汝は、何を望むか?

この世をすべて無に戻すも、現状を維持するも、全て汝次第。

選択の時は満たねど、汝が望むなら、決定を委ねよう。

望むなら汝に与えよう。

全てを焼き尽くす、禁忌の炎を。

その力を使い、全てを滅ぼすも自由。

その力を癒しの力に変えて、

全てを守るも自由。

それが汝に与えられたの運命の光であれば。

声は消えた。
シンジの背後にゆっくり歩み寄るタケシ。
屈んだままのシンジに顔を寄せ
そして、シンジに囁く。

「君も死ぬか?」

その瞬間、シンジは絶叫した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Love-Passion
第七章 「エヴァ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

どこからか遠くで声がする。

「ごめんなさい。こうするしかなかったの。」

何を?
彼はふわふわと揺れる意識の中でそう考えた。

「こうするしか、アナタを助けるには…」

さらに遠くから聞こえてくる声は続く。

「でも…アナタは…もう、人ではなくなってしまった…」

そして、鳴咽だけが聞こえる。
先ほどとまでは違う声が聞こえる。

「これは運命なのか?」

その声は低く、疲れたような声だった。

「お前が、適合者になるのは決められていたことなのか?」

適合者?
何に適合したのだろうか。

「私達はこれを受け入れなければならないのか?」

しかし、意識が遠ざかっていき、彼の意識は闇に飲み込まれた。
 
 
 
 
 
 

きこえるかい?

どこかとおくでこえがする。

きみはのぞむかい?

なにを?

きみにはひとにはないちからがある。

ちから?

そう、エヴァというちからだ。

エヴァ…

きみがのぞむなら、そのちからをつかえるようにしてもいい。

どうして?

きみはちからがほしいんだろ?

アスカをまもれなかったじぶんをゆるせない。
そうおもっていたじゃないか。

アスカ…

そう、かれにはエヴァのちからなしではかなわない。

だから?

きみにはエヴァのちからがひつようだ。

ちから…

そう、ちからだ。

ぼくは…

アスカ…

ぼくは…

ぼくは…

どうすればいい?

ぼくは…
 
 
 
 

衝撃波と光が辺りを包み込む。
激しい閃光が発生し、その場にいた全員は何も見えなくなる。
続いて襲ってきた衝撃波は全員を地面に打ち据える。
風が渦巻く。
光がほとばしる。
ただの一瞬。
永遠とも思える一瞬が過ぎても、閃光はまだ放たれていた。
しかし、先ほどまでの強さではなく、
少しづつ光度は落ちてきていた。
伏せていた顔を上げて、光の正体を確認しようとするカヲル。
光に霞む目でなんとか正体を確認しようとする。
凝らした瞳に写ったもの。
その光の中心にはシンジが立っていた。

「シンジ…くん。」

カヲルは呟く。
そして、その声に反応するようにシンジが呟く。
いや、先ほどからずっと呟いていた言葉。
その言葉が、カヲルの脳裏に直接響く。

「この…声は…まさか…シンジ…くん…」

「許せないよ…どうして…僕…は…」

アスカを横たえ、屈んでいた姿勢から、ふらりと弱々しく立ち上がる。
まるで何かに操られているようだ。
カヲルの脳裏にそんな考えが浮かんだ。
顔は伏せたままなので、シンジの表情が見えない。
しかし、そんなことは今はどうでもよかった。
もっと重大な事がシンジの身体に発生していた。
カヲルはそれは何か知っていた。
しかし、まさかシンジにまで。
驚きの中、しかし、冷静に彼は感じていた。
彼も仲間だったのだ。と。
それはシンジの背にあった。

「翼…か。」

その場にいた誰もが、シンジの背の翼に目を奪われる。

「それも左右違う翼…」

漆黒の闇の翼、そして、きらめく光を放つ翼。
まるでシンジの体を包み込むように、それはあった。

「シンジ君…適合者…だったのか?」

シンジが顔を上げる。
その瞳は右は真紅、左は碧玉だった。

「そうか…碇の奴、自分の息子に受肉させたのか…適合者の資格を…」

感嘆するように囁くタケシ。

「なるほど、適合者はレイではなく、碇シンジだったわけだ。
これは碇にしてやられたな…まさか、そこまでするとはな。」

タケシの口元が歪む。

「しかし、逆にこれで、舞台は整った訳だな…」

シンジはそんなタケシにかまわず、囁き続けている。

「僕はどうすればいい?彼女を守れなかった…約束を守れなかった。
許せない…誰よりも僕自身が…」

不意にシンジの漆黒の翼が光に包まれる。
まるで、少しずつ光が漆黒の翼を侵食している様だった。

「そうか…そうだったのか…」

カヲルはその様子を見て悟った。
レイは適合者ではない。
ロンギヌスの正当な後継者はシンジ君の…
しかし、今はそれを考えている時ではない。
もし、シンジ君が適合者ならば、
ここでその力を使わせる訳にはいかない。
覚醒はすなわち審判の時を意味するからだ。
今はまだその時ではない。
まだ、選択条件が十分に整っていない。
それに、シンジ自身では血の浄化が間に合わない。
しかし、彼自身の力でも優にこの世界は…
カヲルは意を決して立ち上がり、シンジに駆け寄り、その肩を掴む。
そして、激しく揺さぶる。

「シンジ君、しっかりして。君は…」

その瞬間、カヲルの腕をはじくように閃光が走る。
一瞬、青とも赤ともいえない、不思議な光を放つそれは。

「ATフィールド?」

しかし、シンジにはそんなカヲルに注意を払っていなかった。

「僕は許せない…アスカを死なせた奴も自分も…この世のもの全て…」

その言葉に合わせるように、
漆黒の翼がさらに脈打つように光を放つ。
そして、左目も赤が青を侵食していく。
まるで炎が全てのものを焼き尽くすように。

「そうだ、怒りに身を任せるんだ、そして、全てを開放しろ。
それこそが、この星の望みなんだ。」

タケシは喜び、そう叫び続ける。

「お前はその力を使って全てを滅ぼすんだ。
使え、その全てを焼き尽くす禁忌の炎を。」

「違う、シンジくん。落ち着くんだ。そのままだと君は全てを失ってしまう。」

カヲルは必死にシンジの正気を取り戻そうと叫ぶ。
しかし、その声はシンジには届かない。

「許せない…全て…存在するもの全て…許せない…」

シンジの瞳の焦点が合いはじめた。
それはカヲルにとっては望ましくない事だった。
つまり、彼がどちらの側に立つのか決めかけている事を示すからだ。
このままでは、シンジくんは…
カヲルは必死に叫ぶ。

「駄目だ。落ち着くんだ。」

立ち上がり、シンジに向かって一歩踏み出したその時、
さらにシンジの周りに衝撃波が発生する。
そして、シンジが光球に包まれる。

「まずい、シンジくんの霊質が…変わる…」

そして、全てが光に包まれる。
うすれゆく意識の中でカヲルは考えた。
もう、駄目だ…シンジくんは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

しんじ…
 
 
 
 

あすか?
 
 
 
 
 

あなたののぞみはそんなことなの?
 
 
 
 
 

ぼくは…ゆるせないんだ…
 
 
 
 
 

ほんとにそれでいいの?
 
 
 
 
 

だって、ぼくはやくそくしたのに…
 
 
 
 
 

そんなにかんたんにきめてしまっていいの?
 
 
 
 
 

でも…ぼくは…ばくは…
 
 
 
 

あなたにかせられたうんめいはあたしもきょうゆうしているのよ。
 
 
 
 

あすかも?
 
 
 
 

そう、だから、おちついて…ほら、あたしはここにいるよ。
 
 
 
 

どこにいるの?
 
 
 
 

あいにきて…
 
 
 
 

どこへ?
 
 
 
 

ここよ、やくそくしたでしょ?
 
 
 
 

やくそく?
 
 
 
 

そう…そこで…
 
 
 
 

そして、アスカの笑顔が浮かぶ。

「待ってるから。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

全てが閃光に包まれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「僕は…どうなったんだ?」

カヲルははっと目を覚まし、起き上がろうとする。
ところが、誰かが肩を押さえつける。
カヲルは顔をまわして、その人物の顔を見る。
彼を見下ろしていたのは一人の少女だった。

「まだ、寝ていてください。もう少しで癒せますから。」

カヲルは自分の胸を見る。
胸の傷がふさがっている?

「君は?」

カヲルは厳しい視線でその少女を見る。
その少女はにこりと微笑む。
見かけは十歳にも満たないようにみえるが、
その声は落ち着いた女性のものだった。
そして、この場にはふさわしくない安らかな笑み。
カヲルは何故かその笑みに見覚えがあるような気がした。

「人間が自分の手で時を進めるのはよろしい事ではありません。
私はそれを正しに来ました。」

その言葉を聞いて、カヲルの脳裏に一つの言葉がひらめく。
それを口に出して尋ねる。

「君は…管理者なのか?」

その少女はかすかに首を振って答える。

「それには…答えられません。」

しかし、それは肯定を意味するもののようになぜかカヲルはそう感じた。
とりあえず、危害を加えようとしているわけじゃなさそうだ。
カヲルはふうとため息をつく。
そして、あたりを見回す。
どうやらカヲルは大きなクレーターの底にいるようだ。

「シンジくんは?」

その少女の瞳が憂いで曇る。
小さくカヲルにささやく。

「彼には別の所に行ってもらっています。
もちろん覚醒はしてません。エヴァは封印しました。」

カヲルは不思議そうな表情を浮かべる。
少なくとも、シンジ君は覚醒を止めたようだ。
さもなくば自分自身の散在など消えていただろう。
いくらエヴァとはいえ彼の力は別格だ。
しかし、その別格の力を持つシンジの、
いや適合者のエヴァを封印できるのは管理者だけのはず。
そうするとやはりこの少女は管理者なのか?
この世に生を受けてはいると聞いていが、こんな年齢とは。
カヲルは首を振って、さしあたってシンジの居所を突き止めようとした。

「別のところ?」

「アスカさんとお話をしているはずです。」

その名を聞いてカヲルは驚く。
どうしてアスカちゃんとシンジ君が?
アスカちゃんは…

「アスカちゃんは?」

その少女は首を振って答える。
やはりこの子とどこかで…
カヲルは必死に思い出そうとする。
何処で会ったのだろう?
何処か出会っているはずだ。
いや、会っているというよりも、彼女は誰かの面影を宿している。
誰だ?

「詳しくは話せませんが、もうすぐ戻ってくるはずです。」

「アスカちゃんは…助かったのか?」

少女はあいまいな笑みを浮かべる。

「すべてはシンジさん次第です。私たちは信じて待つしかありません。」
 
 
 

「まさか、彼が適合者とはな…」

タケシは鉄塔の柱のひとつにもたれて、一人ごちた。
彼の右手は肘から先がなくなっている。

「それも、管理者まで登場とは、予想外だ。」

しかも、まだ生を受けたばかりのはずなのに、
すくなくとも10歳には見える。
管理者の特殊能力か。
それにしても、こうも役者がそろうとは。
彼は右手をかばいながら立ち上がる。

「さて、もう見るべきものは何もないか。
時計の針は確実に進んでいる。
それがわかっただけでもよしとするか。」
 
 
 
 

「これで、いいでしょう。」

その言葉とともに、カヲルは立ち上がる。
少しふらついたが何とか立つことができた。

「大丈夫ですか?」

「うん、少しふらつくけど大丈夫。」

それを見てにっこりと微笑む少女。
ちらりと倒れているレイの方を見る少女。

「彼女の記憶は消していません。
彼女は自分を知らなければなりません。
そして、選ばなければなりません。
それがエヴァとしての彼女の運命ですから。」

「彼女は最初の使徒なのか?」

タケシからその話を聞いてからずっと持っていた疑問。
この子ならば何か知っているとかとカヲルは尋ねた。
もちろん彼女が管理者であれば、すべてのことを知っているはずだ。

「それを聞いてどうするのですか?」

警戒するような表情を受かべる少女。

「ただ、知りたいだけだ。特に意味はないんだ。」

あいまいな笑みを浮かべるカヲル。
自分は一人だと思っていた。
でも、それは違うらしい。
だから、本当の事を知りたいと思った。

「彼女は最初の使徒ではありません。最初の使徒は封印されました。
本人もそのことは忘れています。」

「それはいったい?」

「これ以上は因果律への影響が大きすぎます。答えられません。」

「やはり、君、いや、あなたは管理者なのですね。」

カヲルはその少女をじっと見つめる。
少女は悲しそうな表情を浮かべて、カヲルを見る。

「先ほども言ったように、それには返事を返すことはできません。」

「…」

その少女の表情を見て、カヲルははっと思い出す。
そうか。
そうだったのか。
何処かで会ったと思った。
誰かの面影があると思った。
そうだったんだ。
この子は…
少女は少しはにかんでカヲル見つめる。

「…お気づきになられたんですね…カヲル叔父様。」

カヲルは金縛りに会ったように動かずじっと少女を見つめる。
信じたくない。
今目の前にいる少女が自分の予想している子であるはずがない。
でも、この子は、あまりにも両親に似ている。
その瞳、鼻、あごの形。すべて両親の面影を感じさせる。
何処か違和感があったのは二人の面影を残していて、
しかし、本人ではないからだ。

「でも…どうして君が…」

カヲルは信じられないというように首を振る。
少なくとも、彼と彼女は無関係なはずだ。
なのにどうしてこの子が?

「父様は候補者の一人だったのです。」

「候補者…彼が…」

カヲルはため息をつく。
それなりにこの計画のことを知っているつもりだったが、それは間違いだったようだ。
僕が知っているのは氷山の一角なのか。

「そう、父様自身は気づいてないですが、
父様もその資格を持っていらっしゃいました。」

「そうか…候補者から、適合者、管理者が選ばれ、
それぞれ血の浄化を行った後、覚醒する。
君の血の浄化は終わったのかい?」

少女はゆっくりと頭を振る。

「まだです。完全に浄化するためには10年は必要です。
そのため、契約、つまり審判の日は10年後にされているのです。」

「それまでに裁定が下されるとどうなるか知っているのかい?」

どうも口調がやさしくなってしまう。
彼女の素性がわかってしまったことにより、
彼女への警戒心は薄れてしまった。

「わかりません。今の私の知識ではどうなるかはわからないのです。
だから、10年後に契約を交わせるように、私は見守らなければなりません。」

「そうか…」

カヲルはうなずくと、その場に座り込んだ。
なぜか妙に疲れてしまった。
すべてが自分の予測を超えている。
僕はどうすればいいのだろう?
そう思い、カヲルは自嘲気味に笑みを浮かべる。
何もするも、僕がすることは決まっている。
シンジ君を守り、そして、審判の日に彼の子供、
恐らくは息子を守って死ぬこと。
それが、僕に与えられた運命なんだ。
この星に生きるものすべてのため、
そして、エデンと呼ばれる、この約束の星のために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あすか…
 
 
 
 

ぼくはどこにいけばいいの?
 
 
 
 

どうやって、あすかをさがせばいいの?
 
 
 
 

わかんないよ…
 
 
 
 
 

やくそくしたばしょ…
 
 
 
 

どこ?
 
 
 
 

わからないよ…
 
 
 
 

あすか…
 
 
 
 
 


NEXT
ver.-1.00 1998_03/21公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!

あとがき
 

どもTIMEです。
Love-Passion第7章「エヴァ」です。

うーん。設定がややこしくなってきた。(^^;;
書いてる本人もわからなくなってきたぞ。

管理者、適合者の役割は今回少し書きましたが補足すると、
適合者の子供が契約者と呼ばれ審判の日に契約することになっています。
管理者はその契約者の行動を監視し、
また契約が公平に行われるように管理しなければなりません。
ちなみに、管理者、契約者は血の浄化が行われていることが条件となります。
#って、まだ曖昧ですねぇ。

カヲルの役割も本人の言った以外の役割はありません。
加えて、レイも同じ道を選べは、カヲルと同じ役割を担うことになります。
管理者の父親の彼も実は候補者だったということで同じ力を持っていますが、
彼が今後その力を使うかは微妙です。

死んだはずのアスカですが、とりあえずはまだ存在はしてるようですね。
生き返るのかはシンジ君次第です。

さて、次回は今回のお話の後半です。
まだレイは目覚めてませんし、シンジは何処かに行っていて、
アスカにいたっては存在はしてるけどどうなってるのかまったくわからないですし。
結局、その後どうなったかですね。

次回Love-Passion第8章「残った選択肢」でお会いしましょう。
 
 





 TIMEさんの『Love Passion』第七章、公開です。





 一気一気に出てくる〜


 適合者に
 管理者に
 契約者に

 いっぱい出てきた(^^)



 カヲルも
 レイも
 アスカも
 シンジも

 もう、もう、一気だよね。



 これだけいっぺんに沢山出てきたのに
 まだまだ見えない事が多いってものも凄いっす〜




 さあ、訪問者の皆さん。
 止まらないっTIMEさんに感想メールを送りましょう!





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