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実験室に面した、観測室に警報が鳴り響く。
実験室には、球状の物体が固定されており、
その物体から激しく振動し、まばゆい光が漏れていた。
観測室では3、4名のスタッフがそれぞれに与えられた
職務を懸命にこなしていた。
一番奥の籍に座っている男の隣に立っていた彼、
秋月は隣に座っている男、ゲンドウに囁きかける。

「おい、碇、このままではミユキ君の命が危ないぞ。」

その男の表情は冷静にみえたが、内心は焦りと迷いを感じていた。
このまま実験を続けるべきか、否かを。

「わかっている。マギ、現状の判断を仰ぐ。」

声は冷静だ。
しかし、普段より話すテンポが幾分早い。
それに答えて、マシンボイスが部屋の中に響く。
実験の監視を行っている、MAGIシステムのテストタイプが解答を出した。

「シンクログラフ反転、被験者の境界喪失の危険あり。
実験の中止を勧告します。エヴァへの転移は90%不可能です。」

ゲンドウがそれを聞いて指示をすばやく出す。

「実験中止。すべての回路を切断。ミユキ君の人命保護を最優先。」

オペレータの一人が復唱して、コンソールに操作を打ち込む。

「了解。すべての接続を遮断。人命保護を最優先。
コマンドセットアルファ1、コード22を実行。」

秋月が焦れるように尋ねる。

「間に合うか?」

操作コマンドを入力しながら、オペレータが返事をする。

「ぎりぎりです。」
 

と、激しい振動が観測室を揺るがす。
そして、実験室内に激しい青い閃光が発生する。

「実験室内に新しいパターン発生。」

「何?」

手を翳し、実験室内の様子を確かめようとする、冬月。
しかし、閃光で何も見えない。

「見たこともないパターンです。さらに増幅中。」

「まさか…碇。」

うなずき、立ち上がるゲンドウ。

「こんな時に…ユイ、これは例のパターンか?」

「はい、そのようです。」

「どうするんだ碇。」

「ミユキ君は?」

「実験室内の様子はモニター出来ません。」

さらに閃光が大きくなる。
そして、全てが光に包まれた。
 
 
 
 
 

Love-Passion
第六章 「覚醒
 
 
 
 
 
 

 -----------AD 2021 2 Feb-----------

「そうか・・やはり彼のしわざか。」
「委員会からの警告でしょうか?」

「いいや、違うな。彼個人の計画だろう。」
「補完計画の阻止ですか。」

「あぁ、彼女を失った原因がそれである限り、
彼は補完計画を阻止しようとするだろう。
それが委員会、いや私への復讐になるのであれば。」
「…」

「彼女には?」
「何も話してません。」

「そうか。」
「お聞きしたい事がひとつだけあります。」

「なんだ?」
「十年前のあの事故はしくまれたものなのですか?あなたたちの。」

「…」
「あの人はそう信じているようでした。」

「あの時、あの場所にいた全て者が騙されていたのだ。私を含めてな。」
「そうですか…」

「多分、彼は…」
「?」

「いや、何でもない。」
「…」

「時計の針を進めたくはないが、そうはさせてくれないようだな。」
「十年は長いですよ。人間にとっては…」

「そうだな…それが理由か…彼が動いた…」
「そうですね…」
 
 

-----------AD 2021 16 Feb-----------

「実行機関名もNervだなんて、ちょっとまずいんじゃないんですか?」

日向はコンソールに向かって、コマンドを入力して、
テストが正常に処理されている事を確認する。
結果が次から次へとモニターに表示されていく。
日向は大きく背伸びをする。

「何、あの店も閉めたし、いちいちそんな細かいこと覚えてる人もいないだろ。」

日向の後ろから、腕を組んでモニターに映し出される結果を見ながら、加持は答える。

「でも、結構楽しかったですね。喫茶店で働くのって。」

青葉がコーヒーを持ってきて、二人に渡す。
もう一つを自分の席に置いて、自分の席に座る。

「あぁ、おかげで、作戦課はみんなコーヒーを入れるのがうまくなったな。」

軽くコーヒーに口をつけて、加持は答える。
ふいに女性の声が割ってはいる。

「はいはい、無駄話はそれくらいにして、
MAGIのLEVEL1のセキュリティチェックお願いね。」

リツコがはしごを上って指揮所に上がってくる。
加持はにやりと微笑み、声をかける。

「どうだい。お母さんの調子は?」

青葉がやってきて、リツコにコーヒーが入ったカップを渡す。

「そうね、本当なら姉さんの方がこういった調整はうまいんだけどね。」

そう答え、コーヒーを一口飲むリツコ。
そして、驚いたように、加持に言う。

「あら、これおいしいわ。誰がいれたの?」

「青葉くんだよ。なかなかのものだろ?
これで、作戦課はいつNervがなくなっても職にあぶれることはないね。」

その場にいたみんなが笑い出す。

「確かにこれなら、十分やっていけるわ。」

「だろ?」

と、加持はリツコの隣にやってきて、
小声でリツコに尋ねる。

「で、例の騒ぎは?」

「やはり、姉さんのしわざみたいね。」

リツコは小さくため息を吐いて、
手すりに体を預けて、下を見つめる。
自分の姉が敵に回る。
予想はしていたが、ショックは大きかった。

「そうか、じゃあ。綾波さんと一緒か?」

リツコの隣に来て腕を手すりにつき、下を覗き込む加持。
そこには赤いヘッドカバーを付けられた大型のコンピュータが三台設置されていた。
母さんが今のアタシ達を見たらどう言うかしら。
ふと、そんな考えが浮かび、苦笑を浮かべるリツコ。

「そうね。」

リツコは手すりに背中を向け宙をにらむ。
綾波タケシ…
あの人はアタシの姉さんを…

「こりゃ、MAGIの防御が大変になったな。」

「そうね。根本から考え直さないと。自立防御もいいけど、
MAGI自体が使えなくなってしまうから。」

「Kerberousはもう使えない?」

加持はちらりとリツコの方に顔を向ける。
首を振って答えるリツコ。

「ええ、かなり改良しないと、無理でしょうね。
でも、姉さん相手にどこまでやれるか。」

「なるほど、彼女は君の癖を知っている。」

「それはこっちも同じだから。」

くすり、と微笑むリツコ。

「そうだな。」

加持もにやりと笑う。
しばらく沈黙する二人。
そして、加持の口から出た言葉。

「しかし、あの子が純血種だとはな…」

あの子。
誰をさすのかリツコにはすぐ分かった。
しかし、その事はごく一部の関係者しか知らないはず。

「その話は極秘よ、場所をわきまえて。」

鋭く制止するリツコ。
そして、加持を睨む。
しかし、加持は笑みを絶やさずに肩を竦める。

「でも、彼女は違う…そうだな?」

その加持の問いに、驚いたように目を見開くリツコ。
確かにそうだが、そのことは加持には知らされていないはずだ。

「あなた…メインデータバンクに無許可で入ったわね。」

リツコの方を見ずに話を続ける加持。

「な、お互い隠し事は無しにしようぜ。一体誰が適合者なんだ?
管理者は誰なんだ?使徒はどうするつもりなんだ?」

リツコは首を振って、うつむく。
さきほどまでのリツコの声とも思えない、弱々しい声で答える。

「私にも断片的にしか分からないわ。
でも、もう適合者は見つかっているし、
管理者もこの世に生を受けているわ。
確かにレイは純血種だけど、適合者ではないわ。」

「彼女を巻き込む必要があるのか?」

少し、強い口調で尋ねる加持、
それに答えるリツコの口調は重かった。

「遅かれ早かれ解るわ。自分がエヴァであることに。
そして巻き込まれる…それが運命だから。」

二人は黙って眼下のコンピュータを見下ろした。
 
 
 
 

-----------AD 2021 12 Mar-----------
 
「ね、最近思っていたんだけど。」

レイはゆっくりと顔を上げて隣のカヲルを見る。
並んで歩道を歩く二人。
日差しは暖かく、風もさほど冷たくなく、春を感じさせる日だった。

「うん。なにかな?」

いつも通りに微笑むカヲル。
カヲルの顔を覗き込むようにしてレイはたずねる。

「カヲルって最近、アタシと一緒にいる事が多くない?」

カヲルは考え込むように首をかしげ、そして、答える。
その表情は少し戸惑っているようだった。

「そうかな?」

レイは確信しているかのように強くうなずく。

「そうよ。」

「うーん。特に意識はしてないよ。」

さらに首をかしげるカヲル。

「…そう。」
納得したのか、レイはそれきり黙って歩く。
しばらく歩く二人。

「もう三月ね。」

ふと、歩道脇に植えられている、桜に視線を向けるレイ。
まだ、花は咲いていない。が、つぼみは膨らんでいるようだ。

「そうだね。」

眩しそうにそのつぼみに視線を向けるカヲル。
立ち止まった二人。

「なんか、いろいろあった一年だったね。」

レイはつぼみに視線を向けたままカヲルに話す。

「そうだね。」

「トウジとヒカリは結婚したし。」

「そうだね。」

「シンちゃんとアスカもくっついちゃうし。」

レイの表情が少しだけ曇る。

「そうだね。」

不意にレイはカヲルの顔に視線を移す。
カヲルはつぼみを見たまま、レイの方は見ていない。

「ね、さっきから「そうだね。」ばっかりだよ。ちゃんと話聞いてるの?」

「聞いてるよ。」

カヲルはレイに顔を向ける。

「どしたの?」

カヲルは軽く首を振る。

「いや、なんでもないよ。」

「…そう?」

不思議そうにレイは首をかしげる。

「あぁ、本当になんでもないよ。」

カヲルはレイに微笑みかける。
高校、大学と、見る女性を引き付ける微笑み。

「どうかした?」

今度はカヲルがレイにたずねる。

「ううん。なんか…ね。」

ふるふると首を振ってレイは歩きはじめた。
 
 

「お楽しみ中お邪魔するよ。」

その男性は歩いている二人をふさぐように立った。
黒いスーツにサングラス。
その容姿何か不吉なものを感じさせた。

「あなたは…」

レイは怪訝そうにその男性を見つめる。
そして、カヲルを見て尋ねる。

「カヲルの知ってる人?」

カヲルはレイをかばうように立つ。

「僕の後ろにいて。」

低いその声の調子にレイは驚く。
先ほどまでのカヲルの声とは全く違う。

「…どうしたの?」

「おやおや、親子の対面の邪魔をするとはね。」

レイはカヲルの背中越しに声を上げる。

「親子?」

タケシはサングラスを取り、レイの瞳をじっと見詰める。

「そうだよ。レイ。私は君の父親だよ。忘れたかい?」

彼、タケシはレイの瞳をじっと見詰める。
レイは吸い込まれるように、その瞳に見入る。
しかし、レイは首を振って答える。

「父さんは死んだって聞いたわ。
それなのにアナタは私の父だと言う。
アナタが父だっていう証拠は?」

にっこりと微笑むタケシ。

「遺伝子鑑定でもなんでも。君が気に入る方法で確認すればいい。」

「だめだ、レイ。」

二人の間に割ってはいるカヲル。

「なるほど、カヲル君はあくまで邪魔をする訳だ。」

タケシの瞳がすっと細くなる。
まるで、カミソリを思わせるような鋭い眼光。

「だが、君一人で三人も守れるかな。」

タケシは二人の背後を指差す。
振り返るレイ、しかし、カヲルは振り向かない。
いや、振り向けなかった。
そうする事で相手に好きを与えるのが恐かったから。
しかし、相手は何もする気はないようだった。
振り向いたレイの瞳に映ったのは…

「あ、レイ、カヲル。そこにいたの。」

シンジと並んで歩いていたアスカはレイに向かって手を振る。
そして、二人はゆっくりと歩いてくる。

「シンちゃん。アスカ…」

その声を聞いてカヲルはまなざしはさらに鋭くなる。

「あなたの差し金ですか。」

タケシは口元の笑みを大きくする事で答える。

「さぁ、役者はそろった。あとは君次第だ。
おとなしく、レイを渡すか。それとも、友人達を見捨てるか。」

カヲルは苦笑を浮かべる。

「よりによって、あの二人ですか。よほど復讐したいようですね。」

「復讐?」

レイが不思議そうに尋ねる。

「そうだよ、レイ。君のお母さんの復讐だ。」

「お母さんの?」

「対象が違うでしょう。復讐は彼らにではなく、
補完委員会に向けられるべきものでは?」

レイと一緒にゆっくりと距離を開けるカヲル。
タケシは少し思案するが、何かを思い出したかのように首を振る。

「ほう、面白い事を言うね。後でゆっくり考えてみよう…」

まるで、物分かりの悪い子供にどうやって、
説教しようかと思案しているようににこりと微笑むタケシ。

「しかし、君たちに逃げられると困るんでね。
逃げ場をなくしておくとするよ。」

タケシは胸の前で手のひらを上にする。
水色に透き通る立方体が現れる。
その立方体はあっと言う間に大きくなり辺りを包み込む。

「結界だよ。私が自分の意志で解除するか、
私が死ぬまでこの結界は解けないよ。」

カヲルは辺りを見回して、感心したように答える。

「なるほど、これが使徒と呼ばれるものだけが持っている力ですか。
始めて見ましたが見事なものですね。」

「余裕じゃないか。これで君はどちらかを選択しなければならなくなったのに。」

と、シンジとアスカがカヲル達の側にかけ寄ってくる。

「ねぇ、今、何か変なものが通り過ぎた気がするんだけど。」

カヲルの代わりにタケシが答える。

「そうだよ。君たちの逃げ場は無くなった。」

そして、タケシの口元の笑みがゆがむ。

「君達は死ぬんだ。」
 
 

「この人誰?何おかしなこと言ってるの?」

少し、薄気味悪そうにタケシを見つめるアスカ。
しかし、タケシは笑みを浮かべたまま答える。

「いや、私はいたって正気だよ。カヲル君の返事次第では、
君たちはここで死ぬ事になるからね。」

「カヲル君?」

シンジはカヲルを見る。
カヲルは首を振り、三人をかばうように前に出る。

「僕の答えは変わりませんよ。
レイは渡さないし、二人も殺させはしない。」

ゆっくりうなずくタケシ。

「なるほど、なら、容赦はしない。
そこの二人には死んでもらうよ。」

右手をあげ、シンジ達に向ける。
その手から、光の矢がほとばしる。
しかし、カヲルのATフィールドがそれら全てを遮る。

「ほう、まだ無理か。あれから力を上げたのにな。」

「カヲル君、今のは?」

シンジが声を上げる。

「ごめん。説明してる暇はないんだ。」

タケシが肩を竦める。

「代わりに僕が説明してあげよう。
今のはATフィールド。エヴァだけが持つ力の一つだ。」

「エヴァ?」

シンジは聞き返す。
どこかで、その言葉を聞いた気がする。
どこでだろ。
僕はよく知っている…
とても大事なもののような気がする…
そのシンジの様子を気にもとめず話を続けるタケシ。

「そう、人を滅ぼす禁忌の炎。または、
人を導く癒しの光。どちらとも呼ばれるがね。」

「それじゃあ、カヲル君は?」

「純血種のエヴァの一人、君たち人間とは根本的に違うものだ。」

その言葉を聞いたカヲルの表情が一瞬曇る。
驚いたようにカヲルを見るアスカとレイ。
しかし、シンジは更に問いただす。

「純血種?」

「そう。無から作り出されたもの。その精神は人ならざるもの。」

「カヲル君が?」

視線をカヲルからレイに移すタケシ。

「そう、そして、そこにいるレイがファースト…
最初の純血種のエヴァだ。そして、唯一の適合者だ。」

「…アタシが…?」
 
呆然としているレイに囁くように話しかけるタケシ。

「レイ。君はお母さんの仇を取りたくないかい?」

「仇ってどういう事?」

「そこにいる碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレーは
君のお母さんの殺した奴等の子供なのだよ。」

何も答えないレイにかわって、シンジが口を開く。
この人は僕たちの事をよく知っているようだ。
それも僕たちが知らない事を。
でも、僕たちはこの人の事を全く知らない。
シンジはその答えを引き出そうとしていた。

「それはいったい?」

「知らないようだな。どうやら、
ゲンドウは自分のした悪事は息子には伝えなかった訳だ。」

シンジの表情の変化にアスカが慌てて割ってはいる。
そうでなくとも、自分の親が侮辱されているのだ、
我慢できる事ではない。

「ちょっといいかげんにしなさいよ!
アンタ何様のつもりよ!」

しかし、その言葉にもタケシは笑みを浮かべるだけだった。
くびるの端を歪める、そんな笑い。

「そうか。二人とも十分に親の血を引いてるようだな。」

その瞬間、タケシの姿がぼやける。
四人は何が起こったのかわからずお互いの顔を見詰める。
しかし、タケシがアスカの背後に現れる。

「きゃ!!」

叫び声をあげるアスカ。
アスカをみるシンジ、レイ、カヲル。
そこには、タケシに羽交い締めにされているアスカがいた。

「ちょ、ちょっと放してよ。」

アスカが暴れるが、タケシから逃れることができない。

「さて、カヲル君にもう一度だけ選択のチャンスをやろう。
レイを渡すか、それとも、彼女を見殺しにするか。」

カヲルは一歩踏み出すが、そこで思いとどまる。

「くっ…」

「ほう、迷っている暇はあるのかな。」

タケシはぱちんと指を鳴らす。
と、光の環がアスカの両手両足に現れる。
アスカは逃れようともがくが身体を動かすことができない。

「さて、これで、彼女は動けない。」

「アスカ!」

シンジは声を上げ駆け寄ろうとする。
手を挙げて、それを制止するカヲル。

「カヲル君。アスカが、アスカが。」

ちらりと、シンジを見るカヲル。
しかし、すぐに視線をタケシに戻す。

「シンジ君。僕に力を貸してくれ。」

カヲルの瞳をじっと見詰めるシンジ。

「僕は何をすればいい?」
 
カヲルはそれに答えずに、レイの名前を呼ぶ。

「レイ。君にもお願いがある。」

レイは面食らったように尋ねる。

「アタシに?」

「そう、君の助けが必要だ。」

「アタシがエヴァだから?」

カヲルは表情を変えずにうなずく。

「そう、詳しい話は必ず後でするから。
今は、アスカちゃんを助け出すのに力を貸して欲しい。」

しかし、レイはうろたえたように首を振る。

「…でも、アタシはどうすればいいか。」

カヲルがシンジの右手を取ってレイの前に出す。
不思議そうにその手を見つめるレイ。

「シンジ君の手を握って。」

レイはシンジの右手に自分の左手を重ねる。

「レイ。君はただ一つのことだけを考えて。
自分を守りたいって。」

「それだけ?」

「そう、それでいい。」

何か言いたそうな顔をするレイ。
しかし、首を振って答える。
聞きたいことはたくさんあったが、
今はその時ではないことを理解していた。

「…そう。わかった。」

「さて、シンジ君。」

カヲルはシンジを見る。

「うん。」

「君はアスカを助け出すんだ。」

「でも、どうやって?」

「僕が何とか拘束を解くから、その時にアスカを連れ出して欲しい。
レイと手をつないでいる間はレイのATフィールドが君を守る。」

シンジも何か言いたそうな顔をしたが、うなずいた。

「…わかった。」

「僕がどんな目に会っても、君たちは動かないで。僕を信じて。」

こくりとうなづく二人。

「とりあえず、これが終わったら、全てを話してくれるよね。」

シンジはいつもの笑みを浮かべ、カヲルを見る。
その笑みにほっと息をつき、微笑みを帰すカヲル。

「あぁ、僕が知っていること全てを話すよ。」

その笑みは、シンジがいつも見ている笑みだった。
シンジもこっくりとうなづく。

「何か、作戦を考えたみたいだが…悪いね…タイムアップだよ。」

タケシは三人の方に一歩づつ歩いてくる。
身構える三人。
カヲルはレイの方をむく。

「レイ。頼んだよ。」

その言葉とともに、カヲルも飛び出す。

「ほう。二人を残してくるとはな?」

「残念ながら、僕も全力を出さないと駄目そうですから。」

「そうだね、いい判断だ。」

タケシは右手をカヲルに向ける。

「しかし、無謀な判断でもある。」

カケシの右手の平から赤い火球が膨れ上がる。
そして、火球をカヲルに打ち出す。
間一髪それをよけるカヲル。
あの火急は狙いをはずさず、シンジとレイのもとに飛ぶ。
思わず目を閉じる二人。
しかし、赤とも青ともつかない光が発生して
火球ははじかれる。そして、爆発音。
しかし、カヲルはそれを確かめている余裕はなかった。
カヲルの頭上にタケシが現れる。
タケシの蹴りがカヲルの頭に触れる寸前、赤い閃光が走る。
その一瞬後。
カヲルの姿は消えていた。
振り向くタケシ。
10Mほど先にカヲルが現れる。

「ほう、やはり素手ではかなわないか…」

タケシは呟く。
次の瞬間、タケシの左手に閃光が発生する。
そして、閃光の中から物質化した一振りの剣を握る。

「さて、これで少しは面白くなるかな?」

カヲルは顔を顰める。

「アナタは持っている能力が多すぎる。
もしかして、複数のエヴァを受肉させているのですか?」

「そうだよ。6体受肉させている。」

「そうですか…」

カヲルの心は痛んだ。
それぞれが、意志を持った一つの生命体だ。
それをまるで道具のように。

「見たいかい?」

タケシはシャツの前をはだける。
そこには、苦しそうに顔をしかめた幼児の顔が半分まで胸に埋まっている。
見えるだけでは3つあった。

「…むごいですね。」

カヲルの表情が歪む。
それを見たレイとシンジも顔を背ける。

「そうでもしないと、君たちには勝てないからね。」

「そうですか…」

カヲルも右手を掲げる。
先ほどのタケシの時と同様に黒い閃光が走る。
そしてカヲルの背中から…

「なるほど、戦闘形態に移行という訳か。」

カヲルの背中には黒い翼があった。
その翼は全ての光を飲み込むように漆黒だった。
おもわず息をつくシンジとレイ。
そして、カヲルの右手には黒い剣。
その剣は黒曜石のように輝いていた。

「あくまで、守護者として動くか。アダムよ。」

「それが、僕の望みですから。」

剣を振ると、カヲルはうっすらと微笑む。
剣を上段に構えるタケシ。
カヲルは切っ先をそのまま下げている。
にらみ合う二人。
シンジとリエは息をのみその光景を見つめる。
そして、次の瞬間。

閃光が走る。

そして、両者の位置が入れ替わる。
ゆっくりと振り向くタケシ。
しかし、カヲルはそのまま動かない。

「君も若いね。」

その一言に合わせるかのようにカヲルは吐血する。
そしてがっくりと膝をつく。

「そのようですね…」

カヲルは座り込み、吐血する。

「僕はアナタの罠にはまった訳だ…」

その瞬間。
閃光がカヲルを中心に走る。
その閃光にカヲルは地面に打ち据えられる。
そんなカヲルには興味を失ったように、
ゆっくりと、拘束されたアスカの側に歩いていく。

「さて…待たせたね。アスカ君。」

アスカはタケシの顔を見る。
そして視線をシンジに移す。
シンジ…
アスカの瞳を見たシンジは駆け出す。
一気に詰め寄るシンジ。
距離は10Mもない。
アスカ!
もう少しだ。
シンジに向かって手を伸ばそうとするアスカ。
シンジも手を伸ばす。
あと、もう少し…で…
アスカを…
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

「さよなら。アスカ君。」

タケシの剣がアスカの胸に埋まる。
そして、赤い血がはじける。
アスカの口から血が滴る。
そして、がっくりと頭をうなだれる。
ゆっくりとタケシが剣を抜く。
と、アスカの体の拘束が解けてゆっくりと、地面にくず折れる。
倒れたまま全く動かないアスカ。
地面に赤い血が広がる。
アスカ…
シンジはふらふらとアスカに向かって歩き出す。
一歩…
あと一歩だったのに…
嘘だろ…
 

アスカ…
 

アスカがシンジの頭を殴る。
「痛っ!」
にっこりと微笑むアスカ。
そして腕を組んでシンジを見つめる。
「今日はこれくらいで勘弁してあげるわ。」
「もう…いつもそうなんだから…」
シンジは頭をさすって小さな声で呟く。
「なんですって?」
アスカがじろりとシンジを睨む。
「ううん。なんでもないよ。」
シンジは慌てて首を振る。
 

アスカ…
 

「誕生日、おめでと。」
アスカは驚いたように包みを見つめる。
そして、シンジを見る。
「え?アタシに?」
シンジはにっこり微笑んでうなずく。
「うん。そうだよ。今日誕生日でしょ。」
アスカは少し頬を染める。
そしてその包みをじっと見つめる。
「そう…ね。アタシてっきり…」
アスカは顔を上げてシンジの瞳を見つめる。
その瞳がきらきらと輝く。
「どうしたの?」
いつもとは違うアスカを見たようで
シンジの胸は高鳴っていた。
にっこり微笑むアスカ。
「ううん。ありがと。」
顔を寄せるアスカ。
そして、アスカはシンジのおでこにキスをした。
 

アスカ…
 

「もう、どうして傘忘れてくるのかな?」
二人は一つの傘に入っていた。
シンジはしゅんとなって答える。
「ごめん。今日は朝忙しくって、天気予報見なかったから。」
「いつものシンジらしくないわね。」
アスカはそういったきり黙って歩く。
怒ってるのかな?
シンジはちらりとアスカの顔を見上げる。
しかし、アスカは少しおかしそうに微笑んでいた。
どうしたのかな?
シンジは考えてみる。
しかし、納得できるような答えはでなかった。
 

アスカ…
 

「シンジ…おきてぇ。」
シンジはゆさゆさを揺さぶられ、目を覚ました。
「どうしたの?」
「あのね、ひとりで寝れないの。」
シンジはむっくり起き上がってアスカの方を見る。
「こわいの…」
「そう…」
シンジは布団をめくって、とんとんと叩く。
「じゃ、ここにおいで。」
「うん。」
嬉しそうにアスカはうなずく。
そして、シンジの隣にちょこんと座る。
二人は手をつなぐ。
「これで、いい?」
「うん。」
二人は眠りについた。
 

アスカ…
 

シンジは手のひらに暖かい感触を感じた。
ゆっくりと瞼をあける。
少し身体がだるい。
どうしたんだっけ?
手の方を見るシンジ。
そこにはベッドの端に突っ伏して
シンジの手を握っているアスカがいた。
どうやら、アスカは眠っているようだ。
シンジはくすりと微笑み、小さく声をかける。
「アスカ…」
その声にぴくりと反応し、顔を上げるアスカ。
寝ぼけた顔でシンジを見るアスカ。
「…シンジ?」
アスカの目の焦点が合う。
シンジは微笑んで見せる。
「シンジ。大丈夫?」
アスカが心配そうに訪ねてくる。
「…どうかな?よくわかんないや。」
アスカはシンジの額に手を当てる。
「でも、熱は下がったみたいね。」
「もしかし、看病してくれてたの?」
アスカはそっぽを向いて答える。
「だって、電話かけてきたでしょ。」
「そうだっけ?」
シンジは思い出そうとするが、よく思い出せない。
「でも、嬉しかった…」
 

アスカ…
 

「せっかくの夏休みなのに。」
アスカがシンジの部屋のベッドに座って
ぶーぶー文句を言っている。
「しょうがないでしょ。バイトなんだから。」
シンジは時計を身につけ、部屋を見回す。
「じゃあ、僕は行くけど。」
「つまんなーい。一緒に遊ぼうよ。」
アスカは口を尖らせる。
「またね。また。」
「ぶー。ほんとだな。」
シンジは苦笑いする。
そう、こんな会話、小学校の時にしてなかったっけ?
「あぁ、約束だよ。」

 
アスカ…
 

「ねぇ、この指輪。こっちにはめていい?」
アスカは右手の薬指の指輪をシンジに見せる。
「アスカはそうしたいの?」
「うん。」
あっさりと返事をするアスカ。
「困ったな…みんなに誤解されちゃうよ。」
「アタシは別にいいけど。」
アスカはシンジの顔に覗き込む。
「シンジは…イヤ?」
「嫌ではないけどね…少し恥ずかしいかな?」
シンジは照れくさそうに微笑む。
「そう…」

 
アスカ…
 

アスカはシンジの胸に飛び込む。
「シンジ。シンジだよね。」
優しく抱き留めるシンジ。
「そうだよ。他の誰かに見える?」
ふるふる首を振るアスカ。
「ううん。シンジだ。この匂いシンジだ。」
くすりと笑うシンジ。
「もう、みんなが見てるよ。ちょっと恥ずかしいな。」
「いいの。みんなには見せ付けてやるんだから。」
ぎゅっとしがみつくアスカ。
二人は黙ってお互いの存在を確めていた。
 

アスカ…
 

「へぇ、アスカは今回は浴衣なんだ。」
シンジは少し驚いたように目を見開いて、
浴衣姿のアスカをまじまじと見詰める。
「いいじゃない。今年はそういう気分だったの!」
「でも、いい感じだよ。似合ってる。」
アスカは照れ隠しにぷいとそっぽを向く。
「当たり前でしょ。アタシは何でも似合うのよ。」
「そうだったね。」
苦笑するシンジ。
「さ、行こうか。」
シンジが催促すると。
「そうね。」
すっと、シンジの腕を取るアスカ。
そして、シンジの顔を見てにっこりと微笑む。
「さ、いきましょ。」
 

アスカ…
 

「シンジ。」
アスカがシンジの名前を呼ぶ。
「なに?」
「今、すっごく幸せだよ。」
アスカはとろんとした瞳でシンジを見る。
「そう?」
シンジはアスカの髪をなでながら答える。
「うん。だって、シンジとずっと一緒にいられるんですもの。
朝も一番最初にシンジの顔を見れるし。」
アスカは手を伸ばして、シンジの頬に触れる。
その手は暖かかった。
「僕も幸せだよ。」
「どこがぁ?」
「そうだね…」
からかうような笑みを浮かべて、言葉を続ける。
「アスカの甘えんぼな所が見れるし。」
アスカの口元に笑みが浮かぶ。
「もう、イジワルなんだから。」
「そうだよ。僕はイジワルなんだ。知らなかったの?」
「知らなかった。」
アスカは顔を寄せ、シンジにキスする。
「シンジはずっと優しかったからね。」
 

アスカ…
 

ゆっくりと屈み込むシンジ。
そして、アスカを抱き上げる。
アスカの唇から、一筋の血が流れていた。
アスカの表情は穏やかだ。
まるで眠っているみたいに。
どうして…
どうして僕は…
アスカを抱きしめるシンジ。
アスカを守れなかったんだ…
シンジの涙が、アスカの頬に落ちる。
その涙は頬を伝い、アスカの血と交じる。
どうして…
アスカがこんな目に…
僕が守るって…
約束したのに…

許せない…

どこからか声が聞こえてくる。

誰が許しても…

頭の中に誰かの声が聞こえてくる。

僕は許さない…

誰だ?僕の名前を呼ぶのは?

絶対に僕は許さない…

その時が来たのか?

僕は僕自身を許せない…

汝は、何を望むか?

この世をすべて無に戻すも、現状を維持するも、全て汝次第。

選択の時は満たねど、汝が望むなら、決定を委ねよう。

望むなら汝に与えよう。

全てを焼き尽くす、禁忌の炎を。

その力を使い、全てを滅ぼすも自由。

その力を癒しの力に変えて、

全てを守るも自由。

それが汝に与えられたの運命の定めであれば。

声は消えた。
シンジの背後にゆっくり歩み寄るタケシ。
屈んだままのシンジに顔を寄せ
そして、シンジに囁く。

「君も死ぬか?」

その瞬間、シンジは絶叫した。
 
 


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ver.-1.00 1998_01/07公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!

あとがき

どもTIMEです。

Love-Passion第六章「覚醒」はいかがでしたか。

今回、いろいろ話を進めていますが、
それでもまだ書いてないことは多かったりします。
例えば、守護者、適合者、使徒、管理者といった単語が出てきますが、
これらの定義も書かないといけませんね。
エヴァ自体の定義もまだ曖昧ですが、これもおいおい書いていく予定です。

次回は、今回の後半になります。
目覚めたシンジはどうなるのか、
アスカは生き返るのか、お楽しみに。

では第七章「エヴァ」でお会いしましょう。





 TIMEさんの『Love Passion』第六章、公開です。





 動くっ

 動くぅぅ

 動きまくっています〜



 アスカが死んだことで、

  死んではいない?
  死んだのかな??

 シンジに何かが起こったみたいだし、、



 一気に、
 大きく、

 ストーリがっっ


 先を見なくては!!




 さあ、訪問者のみなさん。
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