ねぇ・・・どうして・・つばさ・・生えてるの・・・
それも・・・色違いで・・形まで・・・違うんだよ・・・
彼は光り輝く翼と、全ての光を飲み込む漆黒の翼を持っていた。
・・・・どうして?
・・・・・どう・・・してなの? ・・・・・
教えてよ・・・・
彼の唇が言葉を紡ぐ。しかし、彼女にはよく聞こえなかった。
えっ?・・・・AT・・フィールドが・・・何?よく聞こえないよ。
フィールドが・・・あ・・ん・て・・・・・い・・安定していないから?
・・・・なんなのそれ?
さっぱり・・・訳わかんないよ・・・・
突然、まばゆい光とともに一人の男性が現れた。
・・・あれ・・・あなたは両方とも・・黒い翼・・・なんだね・・・・
えっ、あなたは・・・
望まないから?
守りたいから?
・・・・・どーいうこと?
何を望まないの?何を守りたいの?
突然起こる爆発。
轟音。
ここは・・・どこなんだろ?
暗い・・・何も見えない。
・・・・誰?僕を呼ぶのは・・・・・・
・・・君は?
会えるのを楽しみにしていたよ・・・
君はいったい・・・・
僕は君と命を共にするもの。
君という存在を、この世界に留めておくための足枷。
僕が存在する限り、君はこの世界から開放されない。
どうして?
それが定めだからさ。
誰かのいたずらだよ。
君がこの運命を担うことになったのは。
運命って?
その時が来れば分かるよ。嫌でもね。
待って。ねぇ、待ってよ。
また会えるよ。
Love-Passion
第四章「甘い夢」
発令所に非常警報が鳴り響く。
ホログラフ表示された画面には、
このNerfのネットワークの構成が表示されている。
「現在全サーバの約25%がダウン、そのため経路情報が混乱し、
約30%パフォーマンス低下。」
日向は、コンソールに表示された情報を、リツコに報告する。
発令所のスタッフは、持ち場で慌ただしく作業をしているが、空席も目立つ。
まだ人数が足りないのだ。
リツコは、コーヒーが入っているカップを持ち、一口飲んで答える。
「mode Cで対応して。CASPERを経路処理のバックアップにまわして。」
日向はコンソールに向かう。
「了解。」
そして、日向の指がキーボード上を、慌ただしく駆け巡る。
「・・・・まったく、自動管理プロトコルもこんなんじゃ約立たず・・・ね。」
小さくため息を吐いて、ホログラフ画面を見上げる。
「しょうがないじゃない、だいたいケルベロスが突破されるなんて予想外よ。」
ミサトはリツコの隣で、同じように 腕を組んで、ホログラフ画面を見つめる。
「でも、それじゃ、セキュリティの意味がないわよ。万が一の時も考えておかないと。」
小さく首を振ってリツコは答える。 二人の会話を中断するように、日向が報告する。
「現在、目標は第三実験セグメントに進入。ファイルサーバ YAMATO に侵入中。
ケルベロスは約12秒しか持ちません。」
「YAMATOには?」
「特には何も。」
「・・・・そう・・・顔見せってわけね。 遂にやってきたわけね・・・・」
何かを悟ったように、リツコは小さくつぶやく。
「リツコ?」
ミサトは怪訝そうにリツコを見る。
「・・・・・姉さんらしいわね。ケルベロスに真っ向から立ち向かうなんて・・・・
まぁ、姉さんなら、私が組んだアルゴリズムも簡単に予測するから・・・・」
リツコはミサトの方を見て答える。
それを聞いたミサトは蒼白になる。
姉さんってまさか・・・あの・・・・
そうだとしたら、いくらリツコがプログラムしたケルベロスでも防ぎきれないのは当然だ。
「どーするの?」
リツコはコーヒーカップを置いて日向に指示を出す。
「大丈夫よ。mode Cからmode A plusに変更して。」
ためらいがちに日向は答える。
「・・・・しかし、そのモードは指揮官クラス三人の承認コードがないと・・・・・」
「・・・かまわない、やりたまえ・・・・・」
突然彼女たちの背後のドアが開き、このNerfの司令である碇ゲンドウが入ってくる。
そして、リツコとミサトの隣に立ち、承認コードを告げる。
「マスター、mode A plusで対応。碇特例。承認コード”アルファ-052”」
そして、ミサトとリツコを見る。
ミサトはうなずいて、承認コードを告げる。
「マスター、mode A plusで対応して。葛城特例。承認コード”イプシロン-109”」
「マスター、同じくmode A plusで対応。赤木特例。
承認コード”デルタ-130”」
Nerfのネットワーク全てを管理するマスターが答える。
「mode A plus承認コード受理。」
マスターが報告する。
「・・・・・始めろ。」
ゲンドウはメガネを押し上げ、そう言った。
「mode A plus 起動します。今後、すべての命令の実行はスーパバイザ特権が必要です。
また、パスワードはDES-K160でロックされ、解除にはコード272の手続きが必要です。
なお・・・・・・」
-----------AD 2020 12 Jan-----------
「ねぇ、シンジ。」
アスカはシンジに腕枕をしてもらいながら、天井を見つめ話しかけた。
窓のカーテンは開けられており、銀の月の放つ光が、部屋の中に差し込んでいる。
「・・・・何?」
シンジは眠っているように目を閉じていたが、囁くような声で答える。
部屋は静かだった。
アスカは腕枕をしてくれている左手を、自分の左手で軽く握っていた。
「アタシのこと好き?」
そして、シンジの横顔を見る。
シンジは目を開け、アスカを見つめ軽く微笑む。
「どうしたの?」
アスカはシンジから視線を外す。
口元が少しすねていた。
「だってあれ以来、あまりアタシのこと好きだって、言ってくれないんだもの。」
それだけ言うと、また、シンジの方を見る。
遠くで、車が発進する音が聞こえる。
そして、近くで、木々がざわめく。
街はつかの間の休息に入っているようだった。
「そうかな?」
シンジは微笑んだまま尋ねる。
そして、アスカの顔を見る。
「そうよ。もしかして、浮気してるんじゃないでしょうね!!」
いきなり、アスカは起き上がりシンジに覆い被さる。
言葉だけ聞くと、怒っているようだが、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「あのねぇ・・いつも一緒にいるのに、どうやって浮気するの?」
少しあきれたように答えるシンジ。
アスカの耳元に、自由になった左手をあて髪の毛をすく。
「そんなの、二、三時間あればできるわよ。」
シンジの手の感触にどきりとしながら、 アスカは答える。
月の光に照らし出された、シンジの瞳は夜色で星のようにまたたいていた。
「すごいこと言われてる気が。」
口元の笑みを大きくして、シンジは答える。
髪を触るのやめて、あらためてアスカを見つめる。
「そんなことないわよ。」
シンジに顔を近づけながら、アスカは不敵に笑う。
両手でシンジの頭を抱え、シンジを見つめる。
二人の唇は触れそうに近づいていた。
「そう?」
シンジは両手で、アスカの腰を軽く抱いた。
そして、瞳を閉じる。
二人は唇にやわらかい感触を感じ、まるで時が止まったかのように、しばらく動かなかった。
「・・・・そうよ。」
唇を離し、シンジの耳元に囁く。
「・・・・・そんなに不安?」
少し、くすぐったそうに身じろぎして、シンジは答える。
「・・うん。一緒にいると、すごく幸せなの。でも同時にすごく不安になることがあるの。
この幸せがいつまで続くんだろうって。」
アスカは顔を上げてシンジの顔を見つめる。
「そうか・・・・」
「ほら、シンジ、起きてよ。」
アスカはシンジをゆさゆさと揺さぶる。
「うーん。あと五分。むにゃ。」
そう言うと、布団に潜ろうとするシンジ。
「おきろーー。起きないとこうだぞー。」
アスカはシンジに馬乗りになり、
「こちょこちょこちょこちょこちょ。」
シンジを容赦無くくすぐる。
「ぶはははははっは。やめてぇー。起きるからー。」
シンジはのたうちまわり、あきらめたように答える。
「よろしい。」
アスカはにっこりと微笑み、ベッドから降りる。
「むーーー。朝から何て起こし方するの?」
シンジはぼーっとした様子で起き上がり、大きなあくびをする。
眠そうに瞬きし、頭をかく。
そして、アスカをむすっと見上げる。
「いいじゃない。起きれたんだから。」
アスカは両手を腰に当てて、シンジを見下ろす。
いつものように、髪は軽く三つ編みにしている。
右手にはおたまを持っていたが、これを何に使うつもりだったかは、
今更説明する間でもないだろう。
「もう少し、マシな起こし方ないの?」
首を軽く振って、ベッドから降りるシンジ。軽く伸びをする。
「ふーん。わざわざ、アタシが起こしてあげてるのに・・・・・・」
アスカは不満気にそう答える。
その声の調子が微妙に低いのを感じて、シンジは慌てて答える。
「・・・・感謝してますです。はい。」
「ならよろしい。」
小さくため息をつくシンジ。
「・・・・・はぁ。」
「なにグズグズしてるの。朝ご飯作ってあるから、ちゃっちゃと食べちゃって。」
アスカはそういうと、部屋を出て行こうとする。
「りょーかい。」
もう一度、小さくあくびをして、シンジも部屋から出る。
「ふあぁーーー。」
Nerfでテーブルの片付けをしながら、
思わず大きなあくびをするシンジ。
昼の忙しい時間帯を過ぎて、少し暇になってきたため、気が緩んだのかもしれない。
それを、カウンターの近くに立っていて、目ざとく見ていた、青葉がシンジの隣にやってくる。
「寝不足なんて、そんなに夜が大変なのかい?シンジ君。」
何を言われたのかよく理解できないシンジ。
コーヒーカップを片づけながら聞き返す。
「えっ、何がですか?」
不思議そうな表情をする青葉。
テーブルを拭きながら答える。
「あれ、確か女の子と同棲してるって聞いたんだけど・・・・」
驚いたように目を見開き、青葉を見るシンジ。
「へ?」
どうして、僕とアスカのこと知ってるんだ?
まだ、バイトのみんなは知らないはずだけど。
そんなことを考えていたシンジだったが、青葉は腕を組んで首をかしげる。
「おかしいな。違ってた?」
「誰から聞いたんですか?」
気になって、情報源を確かめようとするシンジ。
「それは企業秘密ってやつだね。」
ニヤリと微笑む青葉。 といきなり二人の背後で声がした。
「ふ、ふけつだわ。」
二人が振り替えると、そこには、手を口元に当てて、信じられないという表情をしたマヤが立っている。
しまったという表情の青葉、マヤにはこの手の話は禁句だった。
「マヤさん。」
慌てて、説明しようとするシンジ。
しかし、マヤはじりじりと後ずさり、
「ふけつよーーーー!!」
ダッシュで厨房に消えてしまった。
「あちゃあ、潔癖なマヤちゃんの前で、する話じゃなかったな。」
青葉はやれやれとばかりに、小さくため息をつく。
そして、シンジと青葉の二人は顔を見合わせた。
「おいおい、どうしたんだい。伊吹君が駆け抜けていったぞ。
」
加持が厨房から顔を出し、二人を見る。
「いや、彼女の前でシンジ君が女の子と同棲してるって話をしちゃって。」
青葉が肩をすくめて答える。
「へぇ、そうなのかい?」
加持がニヤリと微笑みながら、厨房から出て来る。
「いや、その・・・」
シンジは答えに窮する。
確かに、アスカとは半同棲みたいなのもだけど・・
それは今に始まったことじゃないし・・
なんて言おうか?
「まぁ、俺の個人的な意見としては、同棲して、お互いの相性を知っておくのはいい事だと思うよ。」
困っているシンジを見て、加持が諭すように言う。
「はあ。」
シンジは何ともいえない顔で返事をする。
「・・・・ところで、日向さんを最近、見かけないんですけど。」
シンジは話をそらそうとして、加持にそうたずねた。
そうは言っても、確かにここ一週間ほど、シンジは日向の顔を見ていなかったので不思議ではあったのだが。
加持と青葉が顔を見合わせる。
今度は加持がなんとも言えない顔で答える。
その答えもあいまいなものだった。
「あ?あぁ、彼はしばらく休むそうだ。どうしてもやらないといけないことがあるらしくてね。」
「そうなんですか。」
「まぁ、いろいろあるみたいなんだ。」
青葉も加持をフォローする。
「はぁ。」
釈然としないものを感じながらも、シンジは追求するのをやめた。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
夕食後、シンジにもたれてテレビを見ていたアスカが、
シンジの方をを振り返り微笑む。
「・・・・・いいよ。」
なんとなく、イヤな予感がするシンジ。
こういう言い方をするときのアスカは、何か企んでいるんだよな。
なんか無理なことじゃなきゃいいんだけど。
「シンジは子供欲しい?」
予想はしていたが、まさかそこまで話が飛んでいるとは思っていなかったため、シンジは絶句してしまう。
「・・・・・・・・」
にっこり微笑んで、シンジを見つめるアスカ。
シンジにとっては悪魔の笑みに見える。
「欲しい?」
ここで欲しいなんて言ったら、どうなるか分かっていたので、シンジは話をそらすことにした。
「でも、女の子が生まれたら、多分、アスカみたいなお転婆な子だろうね。」
アスカは頬を膨らませて、シンジの予想通り、話に乗ってきた。
「ひっどーい。ふんだ。どうせ男の子だったら、ぼけぼけっとした子に決まってるわ。」
自分とアスカの子供の時のことを思い出し、微笑むシンジ。
たぶん、あんな感じになるんだろうな。 確かに、アスカはすごいお転婆だったし、
僕はぼーっとしていて、 いるかいないかわからないって言われてたし。
「ふふふ、それは言えてるかも。」
と、アスカが黙り込み、じっとシンジを見つめる。
ま、まずい。
シンジの頭の中で警戒警報が鳴り響く。
「・・・・・・・・ねぇ、子供作ろっか?」
せ、せっかくハナシをそらしたつもりだったのにー。
心の中でシンジは叫んだ。
「え?どうしたの急に。」
なんとか、この場をしのごうとするシンジ。
「えーーとね、今日すれば、できると思うよ。」
シンジの上に馬乗りになって、唇に人差し指を当て考え込むアスカ。
そして、にっこりと微笑む。
こうなると、シンジは逃げられない。
蛇に睨まれたガマ状態である。
「そんな。駄目だよ。」
それでも、抵抗を試みるシンジ。
「欲しいな。シンジとアタシの子供。」
少しすねるようたような表情のアスカ。
やばい。 このままではひじょーにやばい。
そうシンジが思った時。
ぴんぽーん
玄関でチャイムが鳴る。
「もう。いったい誰よ!」
アスカはおもしろくなさそうに立ち上がり、シンジから離れる。
シンジは助かったとばかり、慌てて起き上がると、
窮地を救ってくれた恩人が誰か、確認するために玄関に行く。
急いで、ドアを開けると、そこには・・・・
「あれっ?カヲル君じゃない。どーしたの?」
ドアの向こうには、にこにこと微笑みながら、カヲルが立っていた。
「カヲル?またしてもー。」
アスカは駆け寄って来る。
一度ならず、二度までもー。
クリスマスの時のことといい、今日といい。
どーしてアンタはそーなのよ!!
内心そう叫ぶ、アスカであった・・
そして、カヲルを睨み付ける。
「いったい、何の用なの?」
カヲルはそんなアスカの態度を見ても平然として、
「いや、このところ、シンジ君と飲んでないなぁっと思ってワインを持ってきたんだけど。お邪魔だったかな?」
ちらりとアスカを見るカヲル。
そーよ。アンタは邪魔なの。
心の中でそう叫ぶアスカ。
しかし、シンジの答えは当然、それとは反対のものであった。
「ううん、全然。どうぞ上がってよ。」
シンジは笑顔でそう答え、カヲルを部屋に上げようとする。
とりあえず、カヲルがいれば、今夜のところはしのげると考えてのことだ。
「あ、ちょっと待ってよ、今日は他にもう一人いるんだ。」
カヲルが奥から一人の女性を連れて来る。
その女性を見た、シンジとアスカは驚いた。
「・・・レイ。」
レイはにっこり微笑んで、固まっている二人に話しかけた。
「どしたの?二人とも。」
カヲルとレイの二人は部屋に上がった。
カヲルは、アスカと一緒にキッチンでワインの肴になりそうな料理を作っていた。
アスカとしては、シンジとレイを二人きりにさせるのは不安があったが、カヲルの、
「どーしても、アスカちゃんに手伝って欲しいんだ。」
という言葉に負けて、カヲルを手伝っていた。
そして、その時、シンジとレイはリビングにいた。
レイはリビングのカーペットにちょこんと座ると、まだ立っているシンジを見上げる。
「シンちゃんも座ったら?」
「う、うん。」
シンジもテーブルを挟んで、レイの向かいに座る。
レイの顔見るの久しぶりだな。
あのとき別れて以来だから、二週間は経ってるよね。
でも、今日はどうしたんだろ?
えっと・・
何話せばいいのかな?
どーしよ。
レイはいろいろ考えているシンジの様子を見て、
「やっぱりカヲルの言ってた通りね。」
と小さくため息をつく。
「へ?」
不思議そうに首をかしげるシンジ。
カヲル君が何を言ったんだろう?
もしかして、この状況はカヲル君がしくんだのか?
「カヲルがね、シンジ君に会いに行った方がいいよって。その通りみたいね。」
レイはテーブルに頬杖を突いて、にこにこと微笑みながらシンジを見る。
それを聞いたシンジは顔を上げる。
「ごめん。」
「謝まらなくてもいいよ。シンちゃんは悪くないんだから。」
「でも・・・」
「あのね、毎日、カヲルが会いに来てくれるの。だから大丈夫。わかるでしょ?」
少し目線をそらせるレイ。
「・・・そうか。」
「そう。だから、心配しないで。また今日みたいに遊びに来るし。」
「本当に?」
「もう・・シンちゃんてば、本当にいい人ね・・・じゃあ、ちょっと目をつぶってみて。」
なんだろ? シンジは素直に目を閉じる。
誰かが隣に来る気配がして、 いきなり唇にやわらかい感触がする。
え?
シンジとレイはキスしていた。
レイがぎゅっとシンジを抱きしめてくる。
しばらく唇を重ね、シンジから離れて、レイが微笑む。
「これで十分。もうアタシの心配はしないで。いい?」
「う、うん・・・・」
「よろしい。」
うんうんとうなずいて、レイはぱっと立ち上がる。
「じゃ、アタシも手伝って来るね。」
レイはキッチンに行く。
そして、入れ替わりにアスカが入って来てシンジの隣に座る。
「・・ね、何の話したの?」
心配そうにそう聞く。
「うん。もうアタシの事心配しないでって言われた。」
「・・・そう。」
何かを考えるようにアスカはつぶやいた。
そして、はっとしたようにシンジの顔を見つめた。
カヲルは料理をテーブルに並べて、ワインのコルクを抜く。
そして、四つのグラスにそのワインを注ぐ。
「さあて、飲もうか。」
カヲルはワイングラスを一人づつ手渡す。
「じゃ、乾杯しよう。」
アスカがグラスのワインを見つめながら、不思議そうに聞く。
「何に乾杯するの?」
きれいな笑顔を浮かべて、カヲルは言った。
「今年もいい年でありますように。」
カヲル以外の三人が顔を合わせる。
「そういや、今年は新年会やってなかったわね。」
澄まし顔で答えるカヲル。
「そうだよ、今年はみんなばらばらだったからね。」
「なるほど、じゃ、今年もいい年でありますように。っと。」
シンジがグラスを掲げる。
そこに三人がグラスを合わせる。
「ところで、今回はカヲル君のワイン解説がなかったんだけど。」
ワインを一口飲んで、思い出したようにシンジが聞く。
カヲルはワインを飲み干し、にっこり微笑む。
「そうだったね。じゃ、今からするよ。そもそもこのワインは・・・」
「また、カヲルの長話が始まったわよ。」
アスカがぶつぶつ文句を言った。
「まあ、恒例だからしかたないよ。」
レイもあきらめた様子で、ワインを飲む。
「じゃ、僕らは帰るから。」
カヲルは玄関先で靴を履いて、シンジの方を向く。
「うん。今日は楽しかったよ。」
シンジは玄関で二人を見送る。
「アタシも楽しかった。」
レイはそう言うと、シンジをじっと見つめる。
そして、顔を寄せて、シンジの耳元でこう囁いた。
「アスカのこと、大切にしなきゃだめだかね。」
「うん。わかってる。」
「・・・じゃあ、また今度ね。」
「うん。おやすみ。」
シンジは軽く手を振る。
「おやすみー。」
カヲルとレイは手を振り、ドアを閉めた。
「・・・・さてと。」
なぜ、いままでアスカの発言がなかったかというと・・・・
ざー。ごぼごぼ。
アスカは禁断の日本酒を飲んでしまってダウンしていた。
アスカはなぜか日本酒を飲むと手が付けられなくなる。
現れる症状はさまざまで、泣き上戸の時もあれば、笑い上戸のときもある。
仲間内では暴走と呼ばれているが、アスカに日本酒は禁じ手なのである。
最初にそれが現れたのは、高校生の時、みんなで花見に行ったときである。
誰が飲ませたのかは、現在でもはっきりしないが、
この時、日本酒を飲んだアスカは絡み酒で、シンジを含め、クラスメイト八人を撃破している。
それ以来、日本酒が原因とわかるまで、アスカは二回ほど、暴走している。
なぜか、アスカが暴走するときは必ず、シンジも一緒にいるため、
暴走を止めるのはシンジの役目になっていた。
実はシンジをあてがっておいて、被害を最小限に押さえるという方法が取られるわけである。
「ふう。カヲル君達は無事に帰した。
でも、これからが 勝負だ、いかにして、被害を最小限にして、アスカを寝かせるかだ。」
一度寝かせてしまえば、酒気が抜けるまでアスカは寝続ける。
そして、起きると、幸か不幸か、酔っ払っていた時のことをすべて忘れている。
本人にしてみても、かなり不安らしく、ここ数年は日本酒を封印していた。
それなのに、どーしていきなり飲んだんだろ?
シンジは首をかしげた。
がちゃり。
ふらふらとアスカが出てきた。
さぁ、戦闘開始だ。 心の中でシンジはそうつぶやいた。
「アスカ。大丈夫?」
「たーぶーん。」
アスカはそう言うと、シンジの方を向き、にへらと笑う。
「駄目だ、こりゃ。」
頭を抱えるシンジ。 今のところ、まだおとなしいからいいけど。
なにが出て来るか、わからないから、警戒しないと。
そう考えるシンジの前をふらふらとアスカは歩いていき、
おもむろにクローゼットを開け、中を覗き込む。そして、バスルームに行き、またも中を覗く。
「どしたの?アスカ。」
アスカはシンジの方を見てまたもにへらと笑う。
「レイが隠れてないか見てるの。」
「へ?」
「現在、浮気してないか確認中。」
「こりゃ、完璧に酔っ払ってるな。」
シンジがそう言ってソファに腰かける。と、いきなりアスカがやってきて、
座っているシンジの上に馬乗りになる。
「こら、アスカ、はしたないよ。」
そんなシンジを見て、アスカはにっこり笑う。
「ねぇ、シンジ・・・・抱いてよ。」
「へ?」
突然、アスカはセーターを脱ぎ捨てる。
セーターの下にはブラウスを着ていたが、
その下には下着しか着ていないのは明白だった。
「ねぇ、抱いて・・」
アスカは首をかしげて、シンジをじっと見つめる。
そして、アスカは、ブラウスのボタンをはずし始めた。
ボタンを一つづつはずすごとに、アスカの肌が見える。
「ちょ、ちょっと、アスカ待って。」
慌てて、アスカがはずしたボタンをはめるシンジ。
と、アスカがからかうように言う。
「もう、だめじゃない。ボタンはめたら、脱げないよ。それとも、シンジは服を着たままが好き?」
頬を赤く染めてシンジは答える。
「そうじゃなくって。」
「どうして?アタシがいいって言ってるのに・・」
少し不満気にアスカは答える。
「そーいう問題じゃ、ないでしょ。」
「じゃ、どーいう問題?」
じっとシンジを見つめるアスカ。
はっとするほど真剣な表情でシンジを見つめる。
「アスカ。」
シンジはゆっくりとアスカの名前を呼ぶ。
「なぁに。」
と、視線をやわらげ、微笑むアスカ。
「酔ってないでしょ。」
シンジはニヤリと笑う。
「なぁにが?」
「だめだよ。酔ったアスカは、そんな顔しないから。」
急に黙り込むアスカ。 そして、上目使いでシンジを見つめる。
「・・・・」
「どうして、酔ったふりするの?」
「・・・・ばれちゃった。」
ペロリと舌を出す、アスカ。
「たくもう、もう少しで騙されるとこだったよ。」
ほっとため息をつくシンジ。
「ねぇ、あのまま迫ってたら抱いてくれた?」
アスカはシンジに抱きついて、耳元で囁く。
「さあね。」
「もう。そうやって、はぐらかすんだから。」
アスカはぷっと頬を膨らませた。
アスカは冷蔵庫からカクテルを持ち出して来た。
「ねぇ。まだ大丈夫よね、飲みましょ。」
そう言うと、グラスにカクテルを注ぐ。
「アスカは本当に大丈夫なの?」
シンジは疑うような目つきでアスカを見る。
日本酒を飲んで、暴走しないのは、少ししか飲んでなかったからだと思うけど・・
この状態でもっと飲ませてもいいのかな?
「たぶん。もう少しだけ、飲みたい気分なの。」
甘えるようにアスカはお願いする。
「そう。じゃ、少しだけだよ。」
シンジはグラスを受け取る。
結局折れてしまうのは、惚れたものの弱みか。
「それにしても、相変わらずだったね。」
「何が?」
アスカはカクテルを少しだけ飲んで、不思議そうにシンジに聞く。
「いや、カヲル君のワインの解説。これは何年産のどこどこワインで、この年のワインは何とかでってね。」
「えーー。アタシは聞かなくてもよかったのに。聞いたところで、おいしさが変わるわけでもなし。」
「アスカらしいね。」
「カヲルも、よく、次から次へと見つけて来るわよね。」
あきれたような表情のアスカ。
確かに、いくらワインが好きだからとはいえ、次から次へ新しい、かつ、
おいしいワインを見つけてくるのは、至難な技である。
「まぁ、趣味なんだから、いいんじゃないかな。」
シンジはカクテルを飲み干して、グラスをテーブルに置く。
「ね、シンジ。」
アスカがグラスを両手で抱えて、上目使いでシンジを見る。
「なに。」
「キスはシンジからしたの?」
アスカは突然そうシンジに聞く。
声には少し、嫉妬がこもっていた。
「え?何が。」
シンジはうそぶこうとするが、完全に失敗していた。
声が裏返ってしまっていたから。
し、しまった。 どーして、アスカがそんなこと知ってるんだ?
頭の中はすでにパニック状態である。
「口紅よ。シンジの唇にレイの口紅がついてたの。」
アスカの目つきが恐い。
おもむろにティッシュをシンジの口に当てて、ごしごしとこする。
そして、赤くなったティッシュを見せて言う。
「ほら、これは何かしらー。」
「・・はぁ。何もかもお見通しってわけか。」
小さくため息をつくシンジ。
そしてレイとのことを一部始終を話す。
「それで、素直に目を閉じたわけ?」
「うん。」
「何も不思議に思わなかったの?」
シンジの方へ身を乗り出すアスカ。
「うん。なんだろうな?って。」
シンジは少し体を離した。
「もう。もう少し注意してよ。アタシ、レイの口紅ついてたの見て、
すごく驚いたんだから。」
ジロリとシンジを睨むアスカ。
「そうなんだ?でもよくその場で聞かなかったね。」
「だって、レイがいたから・・・」
さすがにレイがいる前で問い詰めるほど、アスカは大胆ではなかった。
「そうなの。」
「うん。とりあえず、二人になってから聞こうと思って。」
「なるほど。」
「・・今度からは気を付けてよね。アタシはすっごくイヤなんだから。」
「わかったよ。」
「次、そんな事してるとこ見たら、刺すからね。」
そう鋭く言うと、残っているカクテルを飲み干す。
「うっ、気を付けるよ。」
シンジも苦笑する。
「しんじぃ、おきてるぅ?」
アスカはグラスに入っていた、フィズを飲み干すと、シンジを呼んだ。
「な、なんとかねー。」
シンジはアスカから少し離れてベッドに、もたれるようにして座っていたが、
視点が定まらないようだ。
「けっこう、のんだねぇ。」
アスカはけらけら笑う。
二人の周りには、カクテル、リキュール、ワイン、ウィスキーのボトルが並べられていた。
「いやぁ、のめるもんだね。ふたりでも。」
「そうねぇ。十本いけるかなーって思ったけど、いけたねぇ。」
アスカは立ち上がろうとするが、足元がふらついて、立ち上げれない。
「あすかぁ、無理に立たないほーが、いいよ。」
シンジも起き上がろうとするが、頭がぐりんぐりん回っている。
「そうねぇ。そうするぅ。」
アスカは立ち上げるのをあきらめ、座り込んだ。
「ふぅ。なんでこうなったんだろ?」
なぜか二人で酒をたくさん飲んでしまった。
何が原因なのか本人たちにも分からなかった。
「うーん。なんでだろーー?」
シンジも腕を組んで考える。
「・・まぁ、いい気分だからいいやー。」
アスカは腕を突き出して言うと、こてんと横になる。
「あれぇ・・あすかぁ。もう寝ちゃうの?」
シンジはグラスに入っているウィスキーを一口飲む。
「うーん。ねむい。ねるぞー。きゃはは。」
アスカは横になったまま、何かぶつぶつ言っていたが、すぐにすうすうと寝息を立て始めた。
「ありゃ、あすかぁ、そんな所で寝たら風邪ひくぞー。」
シンジはアスカの側に来て、ゆさゆさと揺するが、 アスカは起きる気配がない。
「しょーがないなー・・・・でわ!!おおかみさんが、
ありがたく、あかずきんちゃんをいただくことにしましょー。」
シンジはいきなりアスカを抱き上げると、ベッドの上に横たえる。
アスカはあいかわらず熟睡モードである。
まとめてあった髪がほどけ、栗色の髪がベッドの上に広がる。
「じゃあ、いただきまーす。」
アスカは黒のスカートにグレーのタートルネックセーターとといういでたち。
スカートが少しめくれて、右足のふとももがシンジの目に映る。
「うーん。いい足してはるわーって、トウジじゃないんだから・・・」
一人でぶつぶついいながら、アスカの顔にかかっている髪をのける。
「うーんと。まずは上から脱がせるのがセオリーだっけ?」
シンジはアスカのセーターを脱がせようとする。
「えーっと、まず袖を抜いて・・・と。あれれ、なんかおかしいな。」
腕を組んで、考え込むシンジ。
「まぁ、ぬげたからよしとして・・・・」
何故か脱がせたセーターを丁寧にたたんで、脇に置く。
「さてと・・・うん?小癪にもブラウスを着てるぞー。
ここは当然、突撃だよなー。とつげきー。ぬはははは。」
アスカの上に乗り、ブラウスのボタンを外そうとするシンジ。
一つ目のボタンをはずしたその時、いきなり、アスカが目を覚ました!!
そして、寝ぼけ眼でシンジを見て一言!!
「さーむーい。」
とシンジにぎゅっと抱きつく。
「あーたーたーめーろー。」
そのまま抱きつき、アスカはまた目を閉じた。
シンジは離れようとするが、アスカはどうしても離れようとしない。
「こらー。なにもできないぞー。へびのなまごろしだぞー。」
しばらく、もがいていたシンジだったが、
急に襲ってきた睡魔に負け、そのままアスカを抱いて眠ってしまった。
-----------AD 2020 13 Jan-----------
アスカは頭をハンマーで、殴られたような気分だった。
頭を振ろうとしたが、ずきずき痛み、ゆっくりと起き上がる。
隣ではシンジが眠っている。部屋は暖房が効いていて暖かかったが、
少し体がだるい。風邪をひいたかもしれない。
と、アスカは自分がセーターを着ていないことに気づく。
「え?」
セーターはベッドの脇にきちんとたたまれていた。
「なにがどうなってるの?」
うーん。昨日はシンジと二人で飲んでたんだよね。
で、いつのまにか、いろんなお酒飲んでて・・・
無差別モードになってからの記憶がない・・・
しかし、アスカは散らばっている瓶を見て思う。
まぁ、これだけ飲めば、記憶も無くすかも。
でも、何があったのかな? 必死に思い出そうとするが、まったく思い出せない。
隣に寝ているシンジを見る。
どうしよ。
とりあえず、起こして聞いてみようかな?
そして、シンジをゆさゆさ揺さぶる。
「ねぇ、シンジ。起きて。」
「うーん。」
シンジは寝返りをうって、小さくため息をつくと、眠そうに瞬きしながら起きた。
「んー。アスカ。どうしたの?」
「ねぇ、シンジ。昨日の夜のこと覚えてる?」
シンジは目を閉じたまま答える。
「き・・のう?」
「そう、二人で飲んでたよね。最後って、どうなったの?」
「さい・・ご・・ねぇ。うーん。ちょっと待って・・・」
シンジは大きく背伸びすると、どっこいしょっと起き上がる。
頭をかきながら、ぼーっとした表情でアスカを見る。
「・・・うーん。僕とアスカで飲んでて、アスカが寝ちゃって・・・
それから・・・」
腕を組んで、考え込むシンジ。
「うーん・・・それから、よく思い出せないな。
多分アスカをベッドに上げたんだと思うんだけど。」
アスカがセーターを見せる。
「あのね。アタシ、セーター脱いでたんだけど。」
「・・・よく分かんない。アスカをベッドに上げた時、セーター着てたかなぁ?」
シンジがアスカのセーターを見て、首をかしげる。
「何があったのかしら?」
「何があったんだろ?」
二人は不思議そうに顔を見合わせた。
「あれ?ミサトせんせじゃないですかー。どうしたんですか?」
シンジは、店のカウンターに座り、加持と話をしていたミサトに声をかける。
「あらぁ、シンちゃん。今日はバイトなんだ。」
「はぁ、そうですが。」
「ちょっとこっちに来てくれる?」
ミサトがひらひらと手招きする。
「はい、なんですか?」
ミサトは側に来たシンジを見て小さく囁く。
「アスカと付き合ってるそうじゃないの?」
「え?そ、それは。」
ちらりと加持の方を見るシンジ。
加持は素知らぬ顔で、グラスを磨いていた。
「隠さなくてもいいじゃない。アタシとシンちゃんの仲なんだし。」
ミサトはにやにやしながら、シンジを見る。
「べ、別に隠しては・・・」
「あらぁ、シンちゃん目が赤いわよぉ。さては、昨日も夜遅くまで頑張ったんだぁ。」
目を細めてミサトはからかう。
「そ、そんなんじゃ、ありません。ただの二日酔いです。」
「ま、お酒を飲ませてからなの?なんか犯罪者みたい
ね。」
「でーすーかーら。」
「こらこら。いたいけな青年をからかうのは それぐらいにして、仕事に行ったらどうだ?」
見かねて、加持が助け船を出す。
「ぶぅ。わかったわよ。じゃあ、さっきの件お願いね。」
ミサトは席から立ち、バッグを開けて中をあさりながら言った。
「あぁ、手配しておく。」
加持はにやりと笑う。
「あ、シンちゃん。二日酔いなら、この薬がバッチリ効くわよ。アタシもいつもお世話になってるの。」
バッグの中から、カプセルの薬を取り出し、シンジに渡す。
「じゃあ、お仕事頑張ってねぇ。」
ミサトは手を振り振り出ていった。
「あの朝に弱いミサトせんせが、朝からここに来てするお願いってなんですか?」
不思議そうにシンジは加持に聞く。
「あぁ、もうじき、ちょっとしたパーティを開くんで、その準備をして欲しいってことだったんだ。」
肩をすくめて、そう答える。
「なるほど。」
「お客さんが一杯来るから、大変だぞ。」
加持は意味深げに微笑んだ。
「ただいまー。」
シンジはドアがロックされていないことを確認して、中に入り声を掛ける。
「おかえりなさい。」
と、部屋の奥から声がして、一人の女性が現れた。
その女性は赤ちゃんを抱いていた。
「碇君。お邪魔してます。」
シンジは少し驚いて、その女性に答える。
「あれ、いいん・・じゃなかった、ヒカリちゃん。どーしたの?」
さらに奥から一人の男性が現れる。
「よお、シンジ。おじゃましてるで。」
「トウジまで。二人してどーしたの?」
ヒカリに抱かれていたアヤが大きな声を出し、
きゃっきゃはしゃぎながら、シンジにその小さな手をだす。
「おっと、アヤちゃんもだったね。」
軽く、アヤの手を握るシンジ。
「いや、今日は仕事休みでな、様子見に来たら、惣流がおってな。」
にやりと意味ありげに笑うトウジ。
「ふーん・・ところで飲んでないよね?」
「うん。アスカ、二日酔いだって。」
ヒカリがアヤを抱き直しながら答える。
「昨日、かなり飲んだから。」
シンジは靴を脱ぎながら答える。
「まさか、日本酒を飲んだんか?」
トウジがおもしろそうに聞く。
「そうなんだよ。いつのまにか飲んでて。」
「でも、その割には、シンジ君は平気そうね。」
シンジは軽く首を振って答える。
「いや、これでも午前中はひどかったんだよ。
バイト先で薬もらって、それでなんとか。」
「だぁー。」
アヤはごきげんで、ヒカリの頬をぺたぺた叩いていた。
シンジは寝室に入る。
「アスカ。大丈夫?」
アスカはベッドで横になっていた。
「・・・・気持ち悪い。」
笑って見せるが、笑顔が弱々しかった。
「これ、バイト先でもらってきたんだ。
なんでもミサトせんせも愛用してるらしいんだけど。結構きくから。」
と言い。カプセルの薬を見せる。
ヒカリが水を汲んだコップを持って来て、アスカに渡す。
「はい、お水。」
「ありがと。」
アスカは水を受け取り、薬を飲む。
「これで、少し寝てたら、良くなると思うよ。」
シンジがアスカの手を握る。
「うん。ごめんね。心配かけて。」
アスカがシンジを握っている手を少し強く握る。
「いいんだよ。」
シンジもやさしく微笑む。
「あーあ。なんか、わてらあてつけられてるみたいやな。」
見つめ合う二人の背後で、トウジの冷やかす声が聞こえる。
「ふーん。アヤちゃん連れてきておいて、そーいうこと言うの?」
シンジはニヤリと口元に笑みを浮かべながら、言い返す。
「ほう、シンジも言うようになったわ。」
「そりゃ、トウジとケンスケに鍛えられたからね。」
肩をすくめて笑顔で答えるシンジ。
「なるほど。」
「あれ?ヒカリ達は?」
アスカはぼーっとした表情でリビングに出てきた。
テレビを見ていたシンジが振り返り、答える。
「さっきまでいたんだけど、アスカがぐっすり寝てたんで、
起こすのも悪いって、そのまま帰ったよ。」
「そう。」
アスカはシンジの隣に座る。そして、小さくあくびをする。
「どう?」
シンジはやさしくアスカの髪を撫でる。
「うん。もう大丈夫。少しぼーっとしてるけど。」
撫でている手を、きゅっと握るアスカ 。
そして、シンジに微笑みかける。
「そうか。よかった。」
シンジもほっとしとように微笑む。
そんなシンジを見て、アスカは少し何か考えているようだったが、
恐る恐るシンジに聞く。
「・・・ね。シンジに聞きたいことがあるの。」
「何?」
アスカは握っている手をじっと見つめて言う。
「・・アタシを選んで後悔してる?」
シンジは不思議そうにアスカを見つめる。
「どうして?」
うつむくアスカ。少し頬が赤い。
「だってアタシのこと・・・抱きたいって、言ってくれないし。」
「・・・」
「あんなふうになった二人なのに・・」
アスカは手をぎゅっと握り締めた。
その手は白くなりそうなほど、強く握り締められていた。
「ね、本当にアタシで良かったの?ほんとはレイが・・」
そこまで言って言葉がとぎれる。
シンジを見つめていた、アスカの頬を涙がつたう。
シンジはそれを見て、はるか昔の出来事を思い出していた。
初めて、アスカがシンジの前で泣いたとき。
その時のアスカの顔が重なる。
「・・・・ごめんなさい。でも、すごく不安なの・・・」
笑おうとするが、涙がぽろぽろとこぼれる。
シンジはやさしくアスカの涙をぬぐう。
「ごめん。やっぱり心配させちゃったかな?」
「心配?」
「そう。」
そして、アスカを抱き寄せ、耳元にささやく。
「僕はアスカを選んで、後悔なんかしてないよ。
僕が大切に思っているのは、アスカだけだから。」
「ほんとに?」
アスカはぎゅっとシンジを抱きしめる。
シンジが消えてしまわないように。
「これまで、僕と一緒に生きてきてくれたアスカと一緒にいたい。
ずっと僕のそばにいてくれたアスカが必要なんだ。
この気持ちが変わることはないよ。」
シンジもアスカを強く抱きしめ囁く。
「ずっと一緒だよ。あの時約束したように。」
じっと見つめ合い、唇を重ねる二人。
いつもより長いキス、その間、二人はお互いの鼓動を感じていた。
「いいかな?」
ぎゅっとアスカを抱きしめて、シンジはアスカの耳元に囁く。
「いいよ。」
アスカもシンジの耳元に囁く。そして、
「・・・でも、恥ずかしいから、ここじゃイヤ。」
からかうようにアスカは囁く。
「・・・・わかった。」
シンジはアスカを抱き上げた。
ベッドに横たわって、シンジを見るアスカ。
幸せそうににこにこと微笑んでいた。
窓の外では少し強い風が木々をざわめかせていた。
窓からは星は見えなかった。
まるで、二人のために、 闇を作り出してくれているようだった。
「・・・嬉しそうだね。」
シンジは少し不思議そうに聞く。
ベッドの端に腰掛け、アスカの頬に手をやる。
「うん。すっごく嬉しい。ほんとにやっと、って思うから。」
頬をなでられて気持ちよさそうに目を閉じるアスカ。
「・・・そんなに待たせたのかな?」
シンジは聞いた。
「そうよ。すっごく待ったんだから。」
「・・そうなの?」
「そうです・・もう、シンジったら、どーしてそう鈍いのかな?」
ぷっと頬を膨らませシンジをにらむ。
「うっ、そんなこと言われても。」
「・・・女の子にとって、好きな人にあげるのって、すごく大切なことなんだから・・」
アスカは消え入りそうな声で、囁く。
頬は真っ赤になっていた。 シンジの方を見るのが恥ずかしいのか、そっぽを向く。
「・・・え?」
シンジも言われたことの意味を理解したとたん、真っ赤になる。
「・・・もう。恥ずかしいこと言わさないでよ。シンジが悪いんだからね。」
まだ赤い頬を押さえながら、シンジを責めるアスカ。
「そ、そんな。」
「・・なんてね・・・ごめん。全然素直じゃないね。ほんとはね、
すっごく嬉しいの。やっと二人の絆ができるって。」
しばしの沈黙。
そして、アスカはシンジの手を握る。
「シンジの手って暖かいね。」
不意にそんな言葉が出る。
「そうだね、アスカのこと誰よりも思ってるせいかな。」
「ほんとに?」
アスカはシンジの首に手を回す。瞳がうるんでいた。
「ほんとだよ。」
軽くかがんでキスをする。
「ね、こんなアタシでも愛してくれる?」
少し甘えるような口調。
ほかの誰も知らない、シンジだけが知っているアスカがそこにいた。
「愛してるよ。ずっとね。」
はじめて二人が出会った場所。
一緒に遊んだ公園。
はじめて、ケンカした日。
お互いを異性として意識したきっかけ。
秘密を知ってしまった夏。
膝枕で、ビンタされたこと。
夏の日のホタル狩り。
はじめてのキス。
二人だけの旅行とその夜。
テスト前の勉強会。
温泉での覗き騒ぎ。
誤解と指輪。
二人で見た赤い夕日。
一緒に作ったお弁当。
修学旅行での嘘。
全て、二人にとっては、かけがえのない思い出。
そして・・
「ねぇ、シンジ。」
シンジの腕の中で、まどろんでいたアスカが目を覚まし、シンジを呼ぶ。
「何?」
ぼーっと外を見ていたシンジがアスカを見る。
「・・まだなんか挟まってるみたい。」
シンジの耳元に顔を寄せて、意地悪く囁く。
「やさしくしてって、言ったのになぁ。」
そうぼやくとシンジの胸に顔を埋める。
シンジの鼓動が伝わってくる。
なんで、こんなに安心するんだろ?
アスカはシンジの鼓動を聞きながらそう考えていた。
「ご、ごめん。注意したんだけどな。」
シンジはやさしくアスカの髪をなでる。
アスカの栗毛が何かの光を反射して、きらきらと光る。
しばらく、二人はそのままでお互いの存在を感じ合っていた。
アスカが顔を上げて、にっこり微笑む。
「シンジの愛が足りなかったのかな?」
「えー・・・そうなのかな?」
少し考え込むそぶりを見せるシンジを見て、アスカは我慢できなくなったように笑う。
「ふふふ、嘘よ、嘘。」
「・・・・」
ぎゅっとシンジに抱きつきアスカは囁く。
「・・嬉しかった。シンジったら、すっごく気を使ってくれるんだもの。」
「そりゃ・・・ね。」
「いつもこんな風にしてくれるんだったら、嬉しいな。」
「努力するよ。」
・・・アスカは目を覚ました。
いつもと違う感触に、自分の体に手をやる。
あれ?何も着てない・・って、そうか、昨日シンジに抱かれたんだった。
やっとアタシ、シンジとひとつになれたんだね。
・・・すごく嬉しい・・・
そのシンジは、アスカに腕枕をしたまま眠っていた。
シンジの顔をじっと見つめるアスカ。
腕枕したままでいてくれたんだ。
無理しなくてもよかったのに。
腕しびれちゃってないかな?
・・・バカね・・・
・・・でも、アタシはこのお馬鹿さんのこと・・・
アスカは起き上がり、シンジの頬に軽くキスをする。
・・・誰よりも愛してるんだ・・・
あとがき
ども、作者のTIMEです。
おまたせしました。
やっと、第四章公開です。
二ヶ月近くお待たせしてしまった分、 ボリュームはあります。
#サイズ的には、自己新記録です。
いくつか、まとまってないなぁ。という部分があるんですが、
そのうち書き直すつもりです。
次回はレイがらみの話ですが、
この話の核心部分がいくつか出てきますので、お楽しみに。