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-----------AD 2020 23 Dec-----------


都立第三新東京大学。
空は冬独特の低い雲に覆われており、
今にも雨が降りだしそうだ。
いや、この時期では、雨というより
雪が降るかも知れない。
明日はホワイトクリスマスになるかな?
とある教室で講義を聞いていた彼女は、
窓の外の雲を眺めながらそう考えた。


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Love-Passion 第二章 「雪のクリスマス」
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「ねぇ、シンジ、明日って何時集合だっけ?」
黒のダッフルコートの袖に手を通しながら、アスカは聞いた。
「えっと、Nervに夕方五時集合だよ。」
カバンにノートを入れながらシンジは答えた。
「僕はちょっと遅れるよ。六時ぐらいになるかな。」
教室から出て階段に移動しながらカヲルが答える。
「そうなんだ、なにかあるの?カヲル君。」
「親が帰ってくるから、その相手をね。」
教室を出て、階段を降りながらアスカが聞く。
「カヲルの両親って確か、帰ってくるのって
カヲルが高三の時、ここに来てから初めてなんじゃない?」
アスカの隣を階段を降りながらカヲルは答えた。
「そうだね。こっちにもどって来るのは四年ぶりくらいかな?」
「ふーん。そうなんだ。でも、ひさしぶりに会うのにいいの?
あたし達につき合って。」
「いいよ。今回は二週間くらい居るらしいし、
大学生にもなって、べったり甘えるわけにもいかなしね。」

校舎から出て、校門に向かって歩き出す三人。
「シンジ君はこれからNervでバイトなんだ?」
アスカとカヲルの一歩後ろを歩いていたシンジが答える。
「うん。最初はアスカにプレゼントを
買うまでのつもりだったんだけど。
マスターの加持さんに気に入られて。
僕もあそこでバイトするの楽しいしね。」
ジロリとシンジを睨むアスカ。
「ふーん。それってレイと一緒にいるのが、
の間違いじゃないんじゃないの?」
あわててシンジは答える。
少し顔が赤くなっている。
「そ、そんなんじゃないよ。」
「まぁ、いいけどね。」
そう言って、アスカは右手につけている指輪をちらっと見た。
この指輪、左手につけられる日が来るのかしら?

「それじゃ、僕はここで。シンジくん、アスカちゃん。また明日。」
「うん。また明日。カヲル。」
「うん。おやすみ。カヲル君。」
カヲルと別れ、二人は下宿に向かって歩き出す。

シンジとアスカは大学から歩いて
五分ほどの学生専用マンションに住んでいる。
自宅から通ってもよかったのだが、
シンジの方は父ゲンドウの
「大学生になったのだから、一人暮らしをしてみてはどうだ?」
という言葉に負けて、
アスカの方はアスカの母が
アスカが大学生になったのをいいことに
父のいるドイツに行ってしまったため、
一人暮らしをすることになった。
部屋は隣同士で、レイがそれを聞いて、
「どう考えてもアスカが有利よねぇ。」と言っていた。
そのレイは二人の下宿から歩いて三分ほどの所に住んでいる。

「じゃあ、僕はバイトに行くね。」
「うん。また夜に。」
「わかった。」
アスカと別れて、シンジは通りを北に向かって歩く。
メインストリートだけあって、人通りは多い。
特にカップルが多いと思うのは気のせいだろうか?
明日はクリスマスイブなだけに、
いたる所にクリスマス用の飾りつけがされている。
また、サンタクロースの扮装をした人が、なにか配っている。

「明日はクリスマスかぁ。」
そうつぶやいたシンジの前を白い物体が横切った。
ふと顔を上げて空を見ると、白い雪が舞い降りてきていた。

ドアを開けて、店の中に入ると、外の寒さがウソのように
店の中は暖かった。少し肩に積もった雪を入口で払い除ける。
「こんちわ。」
「あぁ。シンジ君か。おっ。外は雪か、
明日はホワイトクリスマスだな。」
Nervのマスターの加持リョウジが
カウンターの向う側から声をかけて来た。
「なによ。クリスマスなんて、
みんなキリストが生まれた時だけは、
はしゃいじゃってさぁ。」
加持とカウンターをはさんで、
座っている女性が不満そうに言った。

「ミサトせんせ、何かあったんですか?
こんな時間から飲んでるなんて。」
「シンジ君。もういいかげんに先生って呼ぶのはやめてよ。」
ビールが入ったジョッキを右手に持って、
ゆっくりシンジの方を振り返り、葛城ミサトは言った。
「でもなんだかミサトさんって呼ぶのも・・」
「いいから、いいから、もしまた先生って呼んだら、
シンジ君をホテルに連れ込んで、
あたしのモノにしちゃうんだから・・・」
「こらこら葛城、なんてこと言うんだ。」
「ふーんだ。加持君にそんなこと言われたくないわよーだ。」
「結構飲んでるんですか?」
小声でシンジが加持に聞く。
「いや。まだ大ジョッキ四杯だから。」
「じゃぁ、まだシラフですね。」
「そうだな。」

シンジが加持に聞く。
「今日は誰が入ってるんですか?」
「今日は、日向君に、マヤ君、レイ君だね。」
日向マコトはこのNervの調理担当である。
伊吹マヤはシンジ達とおなじ第三新東京大学の大学院生である。
「青葉さんは?」
青葉シゲルもNervの調理担当である。
「なんでもデートらしいよ。日向君によると。」
「ふーん。青葉さんって四股かけてるってホントですか?」
「さあ、それは日向君に聞いてみてよ。」
「でも四人ってすごいですよね。本当だったら。」
ニヤリと笑って、加持がシンジをからかう。
「そういうシンジ君だって、
レイ君とアスカ君と二人かけもちだろ。」
真っ赤になってシンジが答える。
「えっ、そ、そんな、かけもちだなんて。」

そこに制服に着替えたレイが入ってくる。
薄いブルーのエプロンドレスが良く似合っていた。
「ねぇねぇ、二人で何話してるの?」
とっさに加持が切り返す。
「いや、明日のパーティの飾りつけがあるから、
今日は八時ぐらいでお店を閉めようか
ってことさ。そうだよね、シンジ君。」
あわててシンジもうなずく。
「えっ、いや、そ、そうだよ。
結構いろいろやらないといけないみたいだし。」
「ふーん。そうなんですか。」
言葉では納得してるようだが、顔は納得していない。
「さあ、シンジ君も着替えておいで、そろそろ時間だし。」
「そ、そうですね。」
シンジも着替えに行く。
ちなみにミサトは一人でぶつぶつ言いながら、
ジョッキを空けている。

レイが加持に聞く。
「ねぇ、マスター。」
「なんだい、レイ君。」
上目使いで加持を見るレイ。
「さっきの話ってウソでしょ。」
苦笑して答える加持。
「おいおい何言ってるんだよ。本当だよ。」
「でも、シンちゃん真っ赤になってたし・・」
「やれやれ、せっかくの名演技だったのにな。
たいしたことじゃないよ。シンジ君にはレイ君みたいな
いい子がいて、クリスマスとか楽しみだよね。って話しをね。」
レイにウインクしながら加持が答える。
レイは耳まで真っ赤になった。
「ま、とにかく今日は八時で閉めるのは本当だから、
三時間だけどがんばって。」
「・・はい。」
まだ顔を赤くしたままレジに向かうレイ。

そこに制服に着替えたマヤが現れ、
レイを見て首をかしげ、加持に聞く。
「どうしちゃったんですか?レイちゃん。」
「まぁ、若いってことはいいことだよ。」
不思議そうに聞き返すマヤ。
「は?」
ニヤリと笑う、加持。
「なんでもない。日向君は?」
気を取り直して答えるマヤ。
「はい、厨房に入って、下準備を始めてます。」
「そうか。今日は青葉君が休みだからな。
俺も厨房に入ろう。フロアは君と、
レイ君とシンジ君で頼むよ。」
「はい、わかりました。」

「今日はさすがにお客さん、少なかったですね。」
閉店作業をしながら、レイはマヤと話していた。
「そうね。こんなに雪が降ってるんじゃ、しかたないわね。」
「明日のパーティはマヤさんも出るんですよね。」
レジの清算をしながらマヤは答えた。
「もちろん。院の友達も来るわよ。」
「そうなんですか。」
「そうよ、なんでもレイちゃんとアスカちゃんが来るからって。」
「えっ、そうなんですか。」
「まあ、二人とも目立つからね。」
マヤがレイにウインクする。
レイが顔を真っ赤にしてうつむいて答える。
「えっ・・そんな。あたしなんて。」

一方シンジは・・
「ミサトせんせ、起きて下さいよ。もう閉店ですよ。」
しかしながら、ミサトはいっこうに起きようとしない。
「うーん。もう一杯。むにゃ。」
「まいったなあ。全然起きないや。」

そこに、厨房の片付けを終えた、加持が現れた。
「あ、加持さん。ミサトせんせが。」
ニヤリと笑った加持。
「俺にまかせとけ。」
そういうと、ミサトの耳元で何か囁やく、
するとその瞬間にミサトが飛び起きる。
「加持君!!」
「へーへー。何もしませんよ。」
ミサトが真っ赤になって、髪をかきあげながら言う。
「もう、変な起こし方しないでよね」
「いいじゃないか、酔いもすっかり醒めただろ。」
「あの。加持さん。何言ったんですか?」
またもニヤリと笑う加持。
「うーん。ちょっとね。昔のことを。」
「ああもう、そんなことシンジ君に言わないでよね。」
「わかってるよ。二人だけの秘密だもんな。」
シンジが惚けたように聞く。
「えっ、二人だけの秘密って・・」
「だからー。そういうこと言わないでって言ってるのに。」
苦笑して答える加持。
「ああ、すまんすまん。」
「もしかして、加持さんとミサトせんせって
そういう関係だったんですか?」
さりげなく、致命的な一言を言うシンジ。
あきらめたように答えるミサト。
「・・そうよ、大学の時にね。でも、
こんな男とつき合っていたなんて、
我が人生最大の汚点だわ。」
「おいおい、本人の前で、そこまで言うかよ。」
そっけなく答えるミサト
「いいの。アンタだから。」
「そりゃないよ。葛城だって可愛い声で・・なあ。」

・・・一瞬場が凍る。

ミサトは口をパクパクさせるだけで何も言えない。
「・・ふ、フケツです。」
マヤがぼそっと言う。
シンジとレイは、加持が何を言っているのか分からなかったが、
分かった瞬間、二人共顔を真っ赤にしてうつむいた。
「いやー。店長、すごい量っすねぇ。これ全部飾るんですか?」
倉庫から飾りつけの道具を運んできた日向の声が明るく響いた・・


「おかえりなさい。」
「ただいま。」
そう答えると、シンジは自分の部屋に入った。
肩に積もった雪を払う。
ふと、部屋の中に流れている音楽を聞いて、こう言った。
「あれ、アスカ、このバンド好きだったっけ?」
「昔は好きだったの。歌詞が恋をするのが
すごく楽しいっていうものばっかりだったから。」
シンジはうなずいて、
「そうだね、最近の歌詞は大人の恋ってカンジだよね。」
「うん。なんか聞いてると淋しくなるから、
あんまり聞いてなかったんだけど。」
やさしくシンジは聞く。
「今日はそういう気分なんだ?」
「うん。」
うつむいてアスカは答える。少し淋しそうだ。
「どうしたの。アスカ?」
心配そうに聞くシンジ。
「ううん。なんでもない。」
「そう、ホントにだいじょうぶ?」
「うん。心配しないで。それよりもご飯まだでしょ。
ハンバーグだけどいい?」
「いいね。いただくよ。」

シンジがNervでバイトを続ける時に、アスカが取り付けた約束。
シンジが帰ってくるまで、アスカがシンジの部屋に居て、
夜寝るまで、二人で一緒に過ごすこと。
「だってバイトでレイと一緒なんでしょ。だったら、
バイトが終ってからはアタシと一緒にいてもらわないと。」
真っ赤になってアスカはそう言ったものだ。
もう一カ月ほどこの関係が続いている。
バイトは週に四日ほど行っているが、バイト以外の日でも
アスカはシンジの部屋に来ることが多くなった。
もちろん、バイトがない日はレイやカヲルも
シンジの部屋に来ていたが。

「すごい雪だね。」
「そうね。この調子だと、明日は
ホワイトクリスマスになりそうね。」

ご飯を食べ終えて、お茶を飲みながら、
シンジが今日Nervで起こった出来事をアスカに話していた。
「あれっ、シンジって、
加持さんとミサトの事知らなかったの?」
びっくりして、シンジが聞く。
「えっ、アスカ知ってたの?」
「ええ。何時だったか、ミサトと飲んだ時に。
恥ずかしそうに「我が人生最大の汚点だわ。」
とか言ってたわよ。」
シンジは微笑んで、
「うん。今日もそう言ってた。」
「変な所で人間の縁って繋がっているのよねぇ。」
「そうだね。」
微笑み合う二人であった。

「ねぇ、アスカ。」
ちょっと首をかしげて答えるアスカ。
「なに?」
「ちょっと飲まない?」
どうしたんだろ、シンジから飲まないかなんて。
その思いをそのまま口に出す。
「どうしたの。今日に限って。」
「なんとなくね。二十四日になったし、
お祝いということで。」
「なんか取ってつけたような理由ね。
いいけど、レイとカヲルも呼ぶ?
多分まだ起きてると思うけど。」
「いいよ、二人で飲もう。
とっておきのワインがあるんだ。」
「へえ、よくカヲルに見つからなかったわね。」
カヲルは大のワイン好きだ。
「まぁ、うまく隠したから。」

テーブルにワインとワイングラスを二個乗せて、
ワインのコルクを抜く。ワインをグラスの半分まで入れて、
アスカに渡す。
「じゃ、カンパイ。」
「何に?」
いたずらっぽく笑って、アスカが聞く。
「そうだね。雪のクリスマスに。」
「カンパイ。」
グラスをかちんと合わせて、少し飲む。
「なんか、すごく甘いね。このワイン。」
「そうだね、結構飲みやすいね。これ。」

ふと、グラスを持っている、
アスカの手を見てシンジは聞く。
「指輪、いつもしてくれてるんだよね。」
うつむいてアスカは答える。
「えっ、うん。だってシンジがくれたものだから。」
アスカはこの指輪を貰ってから、
一日たりともこの指輪をつけない日はなかった。
今ではこの指輪はアスカの一番の宝物になっていた。

少し微笑んでシンジが話す。
「ねぇ、結婚指輪って、どうして
左手のくすり指にするか知ってる?」
「ううん。しらない。何か理由があるの?」
「うん。左手のくすり指って心臓に一番近い指で。
それで、そこに指輪をすることで、二人の心臓を、
つまり心だよね、それを結び付けるんだって。」
「そうなんだ。」
「うん。一生その二人の心を結び付ける
っていう意味らしいよ。」
「そうか、ねぇ、シンジ。この指輪、
左手につけちゃおうか?」
冗談っぽく言ったつもりなのだが、
つい目は真剣になってしまう。

やさしくシンジが聞く。
「ねぇ、アスカ。去年した約束覚えてる?」
「うーん。思い出せない。なにか約束した?」
アスカはその時のことを必死に思い出そうとした。
えーと、なんかあったかしら。あまり良く覚えてないな。
「アスカは去年のクリスマスは風邪ひいちゃって。
パーティに出れなかったよね。」
残念そうにアスカは答える。
「そう、すごく楽しみにしてたのに、どうして
このタイミングでってカンジ。」
そうそう、そうだ、確かカヲルがとてもいいワインが
あるとか言ってて、それを楽しみにしてたっけ。
もちろんシンジと一緒に行けるのも楽しみだったんだけど。
「で、その時に約束したんだけど。思い出せない?」
「えー。あたし何かシンジにお願いした?」
「うん。」
シンジが微笑む。
甘えるように聞く。
「うーん。思い出せないよ。いいでしょ教えて。」
「あのね。「今年は悔しいけど、レイと二人で行ってきて。
でも来年はアタシと二人きりで過ごして欲しい。」ってね。」
「えっ、そんなこと言ったんだ。」
アスカはびっくりして聞いた。
「うん。そうだよ。」
「もしかして、このワインって。」
「そう。あの時アスカが楽しみにしてたワイン。
今年も入ったって、加持さんが一本くれたんだ。
で、二人で飲もうと思って。」
「ありがと、すごく嬉しい。忘れててごめんね。」
アスカはワイングラスを見つめていった。
シンジがそんなこと覚えてくれていたなんて。
なんかすごく嬉しいな。
あたしのためにっていうのがすごく嬉しい。

少し頬を赤くしてシンジが続ける。
「で、パーティから帰ってきてからアスカに会いに行ったら、
「一人じゃさみしいからずっとそばにいて。」って言うんだよ。」
「そ、そんなこと言ったの、あたし?」
真っ赤になってうつむきながらアスカは答える。
「うん。アスカってばすごく悲しそうな目で僕を見るから・・」
言葉を途切り、アスカを見る。
「何?」
「覚えてない?」
「うん。全然。」
「アスカを安心させようとして、一晩中付き添ってたんだ。
アスカってば握った手をはなさないものだから。
そしたら風邪がうつっちゃったみたいで。」
「そうだったんだ。」
「うん。」

・・じっと見つめ会う二人。
そして・・・
シンジはアスカを抱きしめた。
アスカもシンジの背中に腕をまわす。
シンジはアスカを見た。
アスカもシンジを見ている。
アスカの濡れた瞳の中にシンジが写っている。
シンジの瞳の中にアスカが写っている。
「アスカ・・」
「シンジ・・」
そして唇を合わせるふたり。

DVDプレイヤーが再生を終了し、部屋の中を沈黙が支配した。

シンジの耳元に囁やくアスカ
「ねぇ、前からずっと聞きたかったんだけど。」
「何?」

「シンジはあたしのこと抱きたいって
思ったことはないの?」
「え?」

「あたしはいつもシンジに抱かれたいって思ってるけど。
シンジはそんなそぶりをぜんぜん見せなかったから、
興味ないのかなって。」
「・・そんなことはないよ。」

「じゃあ、あたしのこと抱きたい?」
「・・うん。」

「いいわよ。シンジだったら。」
「・・アスカ。」

シンジはアスカを抱き抱えて、
ベッドルームに連れていく。

アスカをベッドに横たえるシンジ。
アスカはシンジの首に腕を廻したまま言った。
「ねぇ、キスして。」
シンジがやさしくキスをする。

突然チャイムが鳴る。
ぱっと体を離す二人、
「誰だろ、こんな時間に。ちょっと待ってて、アスカ。」
「うん。」
アスカは残念そうに答える。
そしてけだるそうにベッドの上に横になる。

シンジは来訪者を確認する。そしてすぐにドアを開けた。
「カヲル君じゃないか。どうしたのこんな時間に?」
「やあ、シンジ君。・・もしかして、すごくおじゃまだったかな?
唇に口紅ついてない?」
とっさに唇に手を当てるシンジ。さわやかに笑うカヲル。
「そうか、そうだったのか。クリスマスだしね。まぁ、僕は
見なかったことにして帰るよ。おやすみシンジ君。」
訳の分かるような、分からないような事を言い、
カヲルは帰ろうとする。
「ちょっと待ってよ、カヲル君。」
しかしカヲルは行ってしまった。
「何の用だったんだ?カヲル君は。」

部屋に戻ってくると、アスカがベッドの上で
すやすやと寝息を立てている。
・・・あせらなくてもいいか。
シンジはそう考えアスカに布団をかけてやる。
するとアスカが。
「うーん。シンジぃ。」
びくっとして答えるシンジ。
「なに?アスカ。」
しかし返事はない。どうやら寝言のようだ。
「・・・おやすみアスカ。いい夢見てね。」
そう言うとシンジはベッドルームのドアを閉めた。


-----------AD 2020 24 Dec------------


シンジは目を覚ました。
リビングのソファで寝ていた。
昨日アスカをベッドで寝かせて、
自分はソファで寝たのだった。
大きく背伸びをすると時計を見る。
「・・もう十時かぁ。昨日寝たの
二時だったから、ちょうどいいや。起きよう。」

そっと、ベッドルームのドアを開ける。
アスカはまだ眠っているようだ。
ま、今日は四時ぐらいまでは何もないから、
もう少し寝かせておこう。
キッチンに戻ってきて、遅い朝食を作り始める。

シンジは昨日の夜のことを思い出していた。
「あたしはシンジにいつも抱かれたいって思っているけど。」
まさかアスカがそこまで
思っていてくれたなんて、シンジは嬉しかった。
二、三年前だったらこんなこと考えられなかったよなぁ。
シンジはしみじみと考えた。
恋をすれば女は変わるのよ。
レイが昔そんなことをシンジに言ったが、
まさに今のアスカがその状況だった。

真剣にシンジは考える。
もう結論をださなくてはいけない。
僕はアスカを本気で愛しているのか?
昨日、アスカを抱こうと思ったのは
僕の本心なのか?
もし、昨日レイと同じ状況になったら、
抱いてしまうのではないか?
除こうとしても除けない心の壁。
それがあるために自分の本心がわからない。

いきなり背後から声がかけられる。
「・・シンジ。雪よ。雪。すごく積もってるよ。」
微笑んで、振り向くシンジ。
「おはよ。アスカ。そんなに雪が積もってる?」
その微笑みを見て、アスカは固まってしまった。
不思議そうにシンジが聞く。
「どうしたの?アスカ。僕の顔、何か変かな?」
あわてて首を振るアスカ。
「ううん。なんでもない。ね、ちょっと着替えてくるね。
シャワーも浴びたいし。」
「うん。ご飯作ってるから、一緒に食べようね。」
アスカはシンジの顔を見ないで、
「うん。じゃ、行ってくる。」
そう言うと出ていった。
「どうしたんだろ?アスカ。」
首をかしげ、シンジはお味噌汁を作り始めた。

服を全部脱いで、バスルームに入り、
シャワーのコックをひねる。
たちまち、自動的に湯温調節が働き、
ほどよいあたたかさの湯がアスカの体を包み込む。
まだ、心臓がどきどきしてる。
アスカは自分の胸をおさえて、ため息をついた。
どうしてなんだろう。

さっきのシンジの笑顔、いままでで、最高の笑顔だった。
昨日シンジとああなったから、そう思うのかな?
そういえば昨日、誰が来たんだろう?
待ってる間に寝ちゃったから・・

・・まさかレイが。

急に胸がきゅっと締め付けられるような感覚。
ううん。そんなハズない。
なんとか落ち着こうとする、アスカ。

でも、あたしっていつの間に
こんなに弱くなったんだろう。
くすりと笑うアスカ。
昔は「なにやってんのよ。バカシンジ!!」
とか良く言ってたのに。

・・そう、昔は、シンジのこと好きだなんて
思ってなかったし。
今はなんとか、人前では強がって見せるけど、
本当は嫌われないか、びくびくして心配なんだ。
だから二人きりになると甘えちゃうし。
昨日だって思い切って告白したの。

抱いていいよって。

はしたない女って思われてないかな?
ちょっと心配。
ううん。でもシンジだったら、わかってくれるはず。
そんなシンジをアタシは好きになったんだから。
でも、昨日アタシ寝ちゃったから、
シンジ何もしなかったのかな?
それとも・・・

そんなこと考えてもしかたないよね。
アタシはアタシらしくすればいいんだから。

そして、アスカはふと、今はもういない
親友のことを考えた。
ジュン、あなたがいなくなって
シンジは少し変わったよ。
自分のこと真剣に考えてるし、
何事にも前向きになってるし。
でも、アナタがいないのは淋しいよ・・
アスカはうつむいた。

「アスカ、ご飯できてるよ。」
シンジがアスカを見て微笑む。
「・・うん。」
うつむいてアスカは答える。
どうしよ、やっぱりシンジの顔が
見れない。なんか恥ずかしいよ。
「・・どうしたのアスカ?」
覗き込むようにシンジがアスカを見る。
「・・恥ずかしいの。シンジの顔見るの。」
顔をふせたままで、アスカが思いきって答える。
「えっ、どうして?」
不思議そうに首をかしげてシンジが聞く。
「だって、昨日あんなことに・・・」
語尾がかすれてしまう。
顔は真っ赤だ。
「・・うん。」
「ねぇ、僕の顔を見て、アスカ。
アスカの顔見れないの僕はすごく寂しいよ。」
やさしくシンジが言う。
なんとか顔を上げて、微笑もうと
努力しながらアスカは言った。
「うん。シンジがそう言うのだったら。
がんばってみる。」
シンジはやさしく微笑むと言った。
「じゃあ、ご飯食べよう?アスカ。」

二人でご飯を食べ始める。
しかし、なかなかアスカはシンジの方を見ない。
終始うつむいたままで、顔は真っ赤だ。
どうしよ、どうしよ。
なんかすごく意識してる。どうして?
昨日までこんなことなかったのに。
何か話さないと。でも何話せばいいの?
ホントは昨日のこと話したいけど。
雰囲気に流されただけって言われたらどうしよ。
ううん。シンジはやさしいから
そんなこと言わないだろうけど。
どうなんだろ?シンジ、昨日のこと後悔してないかな。

それをやさしく微笑みながら見ているシンジ。
うーん。なんかアスカすごいな。
昨日だって、結果から言えばキスしただけなのに。
やっぱり昨日あんなことになっちゃたのが原因なのかな?

「ねぇ、アスカ」
「ねぇ、シンジ」

同時に声をかける二人。みごとにハモってしまった。
「あ、アスカ、先に言ってよ。」
「え、シンジこそ。」

少し間をおいて。
アスカが恥ずかしそうに言う。
「・・じゃあ、あたしから。」
「あのね。シンジ。昨日の夜、」

シンジも少し赤くなって答える。
「う、うん。」

少し間をおいて聞くアスカ。
「・・チャイム鳴らして来たの誰?」

意外そうに聞き返す、シンジ。
「へ?」

「昨日、待ってる間に寝ちゃったから。
誰だったのかな?と思って。」

納得したように答えるシンジ。
「あぁ、それね。」
「それが、カヲル君だったんだけど。」
「え、カヲル?」
ほっと胸をなでおろすアスカ。
よかった。レイじゃなかったんだ。
「うん。で、その、アスカとキスした後だったから、
「口紅ついてるよ。」って言われて。」
恥ずかしそうにうつむいて答えるアスカ。
「う、うん。それで。」
「で、「僕は見なかったことにして帰る。」
って帰っちゃったよ。」
「カヲルってどうしてここに来たの?」
「うん。それがわからないんだ。
何も言わずに帰っちゃったから。」
「なにかしら、いったい。」
「まぁ、今日会う時に聞いてみようとは
思ってるんだけど。」
「そうね。」

そこにチャイムが鳴る。
シンジが立ち上がり、ドアまで行き
来訪者を確認し、ドアを開ける。
そこには、

「やあ、シンジ君。昨日は忙しい所おじゃましたね。」
カヲルはさわやかに挨拶し、そして奥を覗き込む。
「あれ、アスカ君じゃないか。もしかして今日も
おじゃましたのかな。見たところ口紅も、
キスマークもないみたいだけど。」
あわてて、アスカがやってくる。
「何言ってんのよ、カヲル。
昨日何かカン違いしたんですって?」
「えっ、だって昨日はシンジ君とアスカ君の
初夜だったんだろ?」
さらりと言ってのけるカヲル。
「だー。違うのよ。昨日酔った時に、イタズラで
シンジにお化粧してたのよ。それだけよ。」
「ふーん。そうなのかい?シンジ君。」
いぶかしそうに聞くカヲル。
「そ、そうだよ。カヲル君。説明しようとしたのに、
聞かないで帰っちゃうんだから。」
カヲルはにっこり笑って。
「そうか。シンジ君がそう言うのなら、
そういうことにしておくよ。」
「なんか、気に入らない言い方ねぇ。」
「まぁ、いいじゃない、アスカ。
カヲル君もわかってくれたんだし。」
シンジが助け船を出す。
「シンジがそう言うのならいいけど。」
しぶしぶ納得するアスカ。

「で、カヲル君、どうしたの今日は?
昨日は何も言わないで帰るし。」
「うん。実は親の帰国が夜の七時
ぐらいになりそうなんで今日はちょっと
パーティには出れそうになくなって。」
表情を曇らせてシンジが答える。
「そうなんだ。残念だな。」
アスカがいじわるく言う。
「でもそれってTELすればすむことじゃないの?」
カヲルはシンジに向かって笑いかけながら。
「まぁ、そうなんだけど、シンジ君の顔を見たくって、
あの時間なら起きてるだろうって行ってみたんだけど。」
面白くなさそうにアスカが言う。
「たくもう。そんなんだから高校の時、
ホモダチだ。とか言われたのよ。」
苦笑しながらシンジが答える。
「そういえば、そんなこともあったね。」
「もう、あたしとレイなんか、
「ホモの碇なんかほっといて僕とつき合って下さい。」
とかいう奴がいっぱい来て、うっとおしかったんだから。」
さわやかに微笑みながらカヲルは答えた。
「ははは、レイとアスカ君は高校でも目立っていたからね。」

「まぁ、このあたしの美貌を持ってすれば、
あたりまえのことなんだけどね。でも誰かさんは
全然見向きもしてくれなかったし。」
ジト目でアスカはシンジを見る。
慌ててシンジは答える。
「そ、そんなことはないよ。」
しかし、アスカは追及の手を休めない。
「誰かさんはレイに夢中だったからぁ。」
「そんなことないってば。」
「あたしが旅行言ってる隙にキスしちゃうしぃ。」
しまった。という顔をするシンジ。
このことはもう数百回アスカから言われている。
「それは・・・」
「もう他の誰かにのり換えようかなぁ。」
にこりと笑って、カヲルが聞く。
「まぁまぁ、アスカ君、そんなことできるんだったら、
もうやってるんじゃないの?」
痛い所を突かれて、アスカは口ごもってしまう。
「うっ。そ、それは。」
「じゃあ、僕はこれで、帰らせて貰うけど、
パーティ前だから、あんまり激しいのはやめといた方がいいよ。」
さらりと言うと、カヲルは帰ろうとする。
「な?」
「え・・」
シンジとアスカは何も言い返せずに
カヲルの後ろ姿を見送っていた・・


パーティ用の赤いドレスを着たアスカが聞く。
アスカに良く似合ってるとシンジに言われたので、
アスカはごきげんだ。
「ねぇ、シンジ。そろそろレイが来るんじゃない?」
シンジは濃いブラウンのスーツを着ている。
「そうだね、僕たちも準備しようか?」
ドレスの裾を気にしながらアスカが聞く。
「ねぇねぇ、歩いていく?」
「うーん。女性二人にこの雪の中を歩かせるのは。」
「じゃあ、タクシーでも呼ぼうか?」
シンジはうなずいて、
「そうだね、レイが来てから、呼ぼうか。」
にっこりと微笑むアスカ。
「うん。」

チャイムが鳴った。
「はい。ちょっと待ってください。」
シンジが急いで、ドアを空ける。
黒のコートを着たレイがいる。
「おはよ。レイ。」
にっこり笑って答えるレイ。
「おはよ。シンちゃん。」
アスカが奥からやってきて、レイに声をかける。
「どう?雪すごい?」
「うん。十センチは積もってるんじゃないかな?」
シンジが部屋の方を指さして。
「今、タクシー呼ぶから、中に入って温まってよ。」
「タクシーで行くんだ。」
TELをかけながら答えるシンジ。
「うん。この雪の中、女性を歩かせるのはちょっと。」
ニヤリと笑うアスカ。
「両手に花だね。シンジ。」
「あはは、そうだね、シンちゃん。」
レイも嬉しそうに答える。
シンジは苦笑するしかなかった。

「お、やっと来たなシンジ君。
しかし、両手に花状態とはこのことだな。」
入ってきたシンジ達に加持が声をかける。
店の中はクリスマスの飾りつけで、
いつもと違う雰囲気だ。

証明は間接証明だけつけており、ほどよい明るさになっている。
壁にはさまざまな飾りが飾られており、
店の中央には本物のモミの木を使って、
クリスマスツリーが作られている。

苦笑して答えるシンジ。
「からかわないでくださいよ。加持さん。
ところで、他の人達は?」
加持は周りを見渡して、
「ああ、後は葛城と日向君とくらいかな?
渚君は連絡があって今日はこれないみたいだ。」
「はい、聞いてます。」

そこに奥から声がかかった。
「シンジ。ひさしぶりだな。」
そちらを見て、びっくりした様子で答えるシンジ。
「あぁ、ケンスケ。それにミカちゃんじゃない。ひさしぶり。」
グレーのスーツを着た、ケンスケのそばにいた
ブラウンのセーターにグレーのロングスカート姿で
ポニーテールの女性がシンジに笑いかける。

「ひさしぶり、碇君。あいかわらず
美人二人をはべらして楽しんでるんだって?」
名前は紀伊ミカ、シンジ達の高校での同級生だ。
髪はポニーテールにして結い上げ、
目元にはうすくシャドーを入れている。
口紅は厭味にならない程度の赤で、
化粧のうまさはさすがに
モデルをやっているだけのことはある。
性格は好奇心旺盛で、噂話が大好きだ。
そのおかげで、高校時分シンジはいつも質問ぜめに
されていた。

「よしてよ、人聞きの悪い。」
苦笑して答えるシンジ。
「あーら、でもそれって当たらからず、遠からずって
やつなんじゃないの?シンジ。」
アスカが冗談めかして聞く。
「そうね、そろそろ決めて貰わないと。アタシも、
ケンスケとミカみたいにラヴラヴになりたいわぁ。」
レイも楽しそうに答える。
明らかに狼狽した様子で答えるミカ。
「なにいってんのよ、レイ。アタシ達はそんな。」
ニヤリと笑って言うレイ。
「白状しなさい。ネタは上がってるのよ、この間
相田君から聞いたんだから。」
ケンスケを見つめるミカ。
「えっ、ケンスケ言っちゃったんだ。」
すまなさそうに答えるケンスケ。
「ごめん。つい君の話をしたら、綾波に、
「なんかあやしいわね。」って言われて質問攻めに。」
「そう、高校の時のお返しをしなくっちゃねぇ。」
楽しそうに言っているが、レイの目は笑っていない。
「えっ。アタシそんなにレイに怨まれることしたのかな?」
「ううん。全然。アスカにアタシとシンちゃんのキスの
こと話したなんて、全然怨んでないからね。」
にっこりと笑うレイ。
ぎょっとしてレイを見るミカ。
「えっ。そ、それは。」
「さあ、洗いざらい、全部話してもらうわよ。
こっちいらっしゃい。」
といいミカの手を引いてレイは奥のカウンターに
行ってしまった。

やれやれといった表情のケンスケ。
そこにシンジが耳打ちする。
「いつの間に?ケンスケ。」
照れ臭そうに答えるケンスケ。
「あぁ、もう三カ月になるかな。
ちょっとしたことがあって。」
「ふーん。ま、なにしてもおめでと。」
「ありがと。ところで、シンジ。お前は
どうなんだ?惣流とつき合うことにしたのか?」

びっくりして答えるシンジ。
今アスカはヒカリの所に行っているのでそばにはいない。
「えっ、どうして?」
「いやなんとなくな、入ってきた時の三人を
見てそう思ったんだが、なんか綾波が一歩
引いてる感じだったから。」
「そうか。」

またシンジに声がかかる。
「よう。ひさしぶりやな。シンジ。」
ふりかえると鈴原トウジが笑いながら、シンジ達の方に
歩いてくる。
「どうだ、もうかってるか?」
不思議そうに聞くシンジ。
「なんで、そんなこと聞くの?」
さらりと受け流すトウジ。
「まぁ、アイサツや、気にせんとき。」

嬉しそうに二人を見て言うケンスケ
「三人揃うのはひさしぶりだな。」
ジロリとシンジを睨むトウジ。
「そうや、先月せっかく会おうって言ってたのに、
シンジと惣流が、すっぽかしやらかしおったからなぁ。」
すまなさそうに答えるシンジ。
「ごめん。あの時はどうしようもなくって。
ところで、トウジ、アヤちゃんは元気かい?」
アヤの名前を聞いたとたん目尻が下がるトウジ。
「あぁ、元気や。最近かたこと喋るようになって
うるさいうるさい。」
「へえ、そうなんだ。ところで今日は連れてきてるの?」
「ああ、ヒカリが面倒見てる。連れてこんとウルサイのが一人
いるからな。」
腕を組んで、うなずくケンスケ。
「なるほど、惣流だな。でもヒカリなんて
呼び捨てにしてるんだ。トウジは。」
ニヤリと笑うトウジ。
「ほう、ケンスケおまえ、そんなこと言えへんのわかってるやろ。」
しまった。という顔のケンスケ。
「えっ、それは。」
嬉しそうに言うシンジ。
「そうだね、トウジは知ってるだろうけど、
僕は初耳だから、しっかり語って貰わないと。」
実はカヲルから聞いて真相は聞いているのだが、
そんなことは口に出さない。
「そんなー。」
トウジとシンジはケンスケの両脇を固めると、
カウンターに向かってケンスケを引きずっていった。

「アヤちゃん、こんばんわ。」
アスカはヒカリに抱かれているアヤの手を軽く握り握手をする。
「ばーー。」
嬉しそうに返事をするアヤ。
ヒカリも笑顔で答える。
「アヤ、アスカのこと覚えてるみたいね。結構人見知りする
のよこの子。」
うなずくアスカ。
「へえ、そうなんだ。でも、なんかしっかりお母さんって
カンジだね、ヒカリ。」
「そう?まぁ、もう一年と半年以上一緒にいるしね。
ところで、アスカの方はどうなの?」

ため息をつくアスカ。ちらりとシンジの方を見る。
シンジはトウジとケンスケの三人で何か楽しそうに話している。
「うん。まだ、全然。昨日いい所までいったんだけどなぁ。」
くすり、と笑うヒカリ。
「まぁ、聞き捨てならないわね。そのセリフ。
いいわ、今日は語ってちょうだい。」
「えっ、そんな、いいわよ。」
「いいって。ほかならぬアスカのためだもの。」
嬉しそうに答えるアスカ。
「ありがと、ヒカリ。」

パーティが始まって二時間ほど経過した。
アスカはヒカリと二人でツリー近くのテーブルで、
語りあっている。どちらかというとヒカリがアスカの話を
聞いてやっているようだ。
もちろんヒカリはアヤの面倒も見ている。
シンジはトウジに「面倒見なくてもいいの?」
と聞いたが、「心配あらへん。」と一蹴されてしまった。

レイはミカと一番置くのカウンターに座って、語り合っている。
こちらはレイが一方的にミカをいじめているようだ。
レイにもアスカにも何人かの男が声をかけるが、
二人ともそっけない態度と返事で追い帰している。

シンジはカウンターの一番手前でトウジとともにケンスケ
の話を聞いていた。始めはしぶしぶという様子で話を
していたケンスケだったが、酒が入るにつれ、口数が増えている。

ミサトはカウンターの真ん中で
日向とマヤを酒の肴に飲んでいる。
実は日向とマヤはつきあっていたのだが、
最近ミサトにばれてしまい、顔を会わせるたびに
冷やかされている。
その様子をカウンターの中から楽しそうに見ている加持。

「でも、シンジが、いまだフリーだとはな。」
「そうや、てっきり綾波とつき合うもんやと
思っていたからな。」
高校ん時は、綾波はシンジにべったりだったからな。
その当時のことをトウジは思い返して言った。
首を振って答えるシンジ。
「まぁ、そう簡単にはいかないよ。」

トウジがシンジの表情を見て聞く
「なんやシンジ言いたそうやな?」
「うん、ちょっとね。」
ケンスケが真面目な表情で聞く。
「俺達でよかったら相談にのるから。」
「そやそや。一人で考えとってもいいことあらへん。
シンジにはヒカリとのことで世話になっとるから、
なんでも相談に乗るぞ。」
二人の方を見て、答えるシンジ
「そうだね、ちょっと迷ってることがあるんだ、
聞いてくれる?」
二人はうなずく。

「実は・・・」
シンジは朝考えていたことを二人に話した。
本当にアスカを好きだから、抱きたいと答たのだろうか。
ただ、その場の雰囲気に流されたのではないか?
アスカじゃなくて、レイでも同じように
答えたのではないか。
トウジとケンスケはその話を黙って聞いている。
「僕は結局ずるいのかもしれない、カヲル君を含めた
四人の関係を壊したくない、って言ったけど、
本当は・・・」

シンジは言いかけて、ふいに悟った。
自分の本心を。
心の壁に遮られて見えなかった自分の本心。
それを親友二人に語ることによって越えたのだ。

本当は自分に自信がなかったから。
自分が一人を選んでしまって、
その一人から嫌われてしまったら何も残らない。
それで、自分が傷つくのが恐かったんだ。
だから、不安定だけど、自分が傷つかない
今の関係を選んだんだ。

ふいに、ジュンの言っていたことが思い浮かぶ。
「逃げたらダメだよ。
たとえ自分が傷つこうとも相手を傷つけるくらいなら、
自分が傷つく方を選んだほうがいいよ。」
その時はわからなかったが、今はわかる。
ジュンはシンジのことを言っていたのだ。

「・・・そうか、そうだったんだ。」
小声でシンジはつぶやいた。

「シンジ。決めるのは自分や。俺達は相談にのって
自分の意見は言う。でもそれは強制やない。ただの意見や。
それを気に止めて聞いてくれ。」
シンジはトウジの方を見る。
「俺はヒカリとこんなんになってしまったけど、
後悔はしとらん。なぜかって言うと、
俺はヒカリと一緒にいたいと思ったからや。
ヒカリとやったら、やっていける。そう思ったからや。」

ケンスケも言う。
「俺もミカとは短いつき合いだけど、
ミカといつも一緒にいたいと思っている。
それが一番大事なんじゃないかな?」

トウジが
「だからな、シンジ、もうちょっと単純に考えたらどや?
惣流と綾波、シンジがどちらと一緒にいたいかを
考えればいいんとちゃうか?
どちらとだったら、時間を共有していけると思うかや。」
シンジが聞き返す。
「時間を共有?」
うなずいて、答えるトウジ。
「そや、共有や。」
シンジはくすりと笑って。
「めずらしく難しい言葉使うね。」
照れ臭そうに答えるトウジ。
「そか?なんとなく浮かんださかい。」
うなずいて、答えるシンジ。
「そうか。なんとなくわかった気がする。
ありがと、トウジ、ケンスケ。」
手を振って答えるトウジ。
「あぁ、かまへんって、
シンジには世話になっとるしな。
後はシンジ、おまえしだいや。」

シンジは決心した。
自分の気持ちを二人に伝えることを。


NEXT
ver.-1.00 1997-11/09公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jpまで!!
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あとがき

どうも、作者のTIMEです。
第二章はいかがだったでしょうか?
ケンスケに彼女がいるという設定は、
ぜひともやってみたいと思い出してみました。
結局、相手は高校時代の同級生という設定にしました。
#ちなみにS.D(SweetDreams)の第一章に名前だけ出てます。(^^;;
今回なれそめの話は省きましたが、
そのうちS.Dの方で書こうと思っています。
#ミカがモデルやってるのも、実はケンスケが・・・

トウジとヒカリが結婚して子持ちというのは
この章でトウジにあのセリフを話させるために
設定したものですが、結構使えそうなんで、
今後もたびたびトウジにはシンジの相談役として
登場してもらおうと思ってます。
#なんせ所帯持ちですから。(^^;;

一章を読まれた何人かの方からLASですか?って聞かれましたが。

そ・う・は・さ・せ・ま・せ・ん。(^^;;

アスカにはもう少し苦しんで貰います。
#ずっとかもしれませんが。(^^;;

とりあえず第二章はこれで終りです。
中途半端ですが、ここで切って章を改めたいと思います。

でわ。第三章のあとがきでお会いしましょう。


 TIMEさんの『Love Passion』第二章、公開です。
 

 ついに決心しましたね(^^)

 シンジは自分の気持ちをどうまとめたのでしょうか。
 

 アスカと一歩手前まで行ったこと。
 レイと前にキスしたこと。
 

 先輩トウジのアドバスは
 彼の気持ちを導いて・・・
 

 決着間近?!
 決戦間近!?

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 TIMEさんの元に貴方の感じたことを伝えましょう!


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