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「おかしい。何かが違うのよ。」

惣流・アスカ・ラングレーは夕日を背中に浴びつつ、てくてくと歩いていた。
いつもと同じはずの周りの光景が妙に違和感を感じさせる。

「ミサトもシンジも、ファーストはいつも通りだけど…」

空を見上げてつぶやくアスカ。

「何かが違うのよね。」

そう。
いつからだろう、シンジやミサト達の様子が
普段と違うように感じるようになったのは。

「うーーん。なんだろ?」

ここ数日アスカは釈然としないものを感じながら、その原因を確かめられないでいた。

「思い過ごし…てことはないわよね。」

そして、アスカは道路脇の公園を見つけると立ち止る。
しばらく考えた後、口に出して呟く。

「少し考えてみるか。」

公園に入ると、目の前に小さなブランコが見えた。
園内を見まわしてみるが、ベンチらしきものは見当たらない。

「まぁ、いいか。」

アスカはそのブランコに座って、首を傾げる。
うーん。
どうして、おかしいって思うのかな?
何が原因なんだろ?
まずはシンジの方…ね。
アイツがアタシのからかいを真に受けるのはいつものことだし、
炊事、洗濯、掃除もいつも通りにやってるし。
ここ数日のシンジの態度を反芻してみる。
と、一つに結論に思い当たった。
アタシに対する態度が、妙によそよそしいような気がする。
意識してアタシと距離を置いてる感じがする。
ミサトもそうだ。
アタシをからかう時に目が笑っていない。
ときどき、探るようにアタシを見ているし。
アスカは首を振る。
理由はわかったが、なぜ二人が自分に対して、
そういう態度を取っているかアスカにはわからない。
ここしばらく使徒の襲来はなく、
平穏な日々が繰り返されていた。
ここ一週間で考えても、
特にアスカに思い当たるイベントはなかった。

「なによ。アタシが何したっていうのよ!!」

アスカは機嫌が悪そうにつぶやく。

「もう。こうなったら確かめてやるわ。」

アスカは立ち上がり駆け出した。
 
 
 
 
 
 

部屋90000ヒット記念
フェイク

TIME/99
 
 
 
 
 
 

「そろそろバレてるかもね。あのアスカには。」

リツコがコーヒーを一口飲んで、息をつく。
ここ数日徹夜が続いて、疲労がその表情に現れ始めている。
ミサトは肩をすくめ、自分もコーヒーを一口飲む。

「ま、済んだことはいいとして、目的はなんなの?」

リツコもミサトと同じように肩をすくめる。

「今、調べてるけど、後、数日はかかりそうよ。」

リツコの隣で、二人の会話を聞いていたマヤもうなずいた。

「アタシ達はどうすればいい?」

「とにかく今はいつも通りに振る舞って。
決して悟られないようにね。」

それまで沈黙を保っていたシンジが口を開く。
その口調は戸惑っているように感じられた。

「でも、難しいですよ。どういう顔をすればいいのか。」

「そうね。はっきり言ってアタシも自信ないわ。でもやらなきゃ。」

その言葉にこっくりうなずくシンジ。

「じゃ、とりあえずはこれで今日は解散しましょう。
とりあえず、アスカはそのまま待機させておいて、
私達は気付いてないフリを続けましょう。」

「アスカが何て答えるか想像つきますね。」

苦笑を浮かべて、シンジが椅子から立ちあがる。

「仕方ないわよ。こう状況が流動的だとね。」
 
 
 
 
 
 

「ただいまー。あれ?アスカもう帰ってたの?」

ミサトは靴を脱ぎながら、奥の部屋に声をかける。
シンジとミサトがリビングに入っていくと、アスカが椅子に座っていた。

「ミサト、シンジ。ちょっとこっちに来て座って。」

二人は顔を見合わせると、
アスカと向かい合うように並んで座る。

「ね、ミサト、アタシに何か隠し事してない?」

「え、何が?」

ミサトは何でもないように、答えたが、
視線が宙をさまよっていた。

「ね、シンちゃん。」

「え、あっ、はい。」

シンジも返事をするが、慌てている。
そんな様子の二人をじっと見つめるアスカ。
シンジは居心地が悪そうに身体を動かす。

「ふーん。そう。」

やっぱりおかしい。
何を隠しているのだろう?

と、ミサトは立ちあがり、冷蔵庫のほうに歩いていく。
そして、冷蔵庫から彼女がストックしている缶ビールをひとつ取り出すと、
嬉しそうにテーブルに戻ってくる。

「で〜。アスカは何が気になるの〜。」

首をかしげてにやにやと笑いながら尋ねるミサト。
いつものしぐさだ。
でも、何かが違う気がする。
何がおかしいんだろ?
アスカはいらだつ心を必死に押さえ、その原因を探ろうとする。
シンジはというと、所在投げに視線を周りに向けている。

なにがおかしいの?
どこかがおかしいと思う。
でも、わからない。

そう、ボタンを掛け間違えているような奇妙な感覚。
しかし、掛け間違えてると分かっていて、それが何処なのかわからない。


アスカは目を細め、席を立つ。

「アスカ?」

「もういい。寝る。」

それだけ言うとアスカは自分の部屋に入っていった。

「まずかったわね。」

「そうですね。」

二人は顔を見合わせた。
 
 
 
 

「絶対あの二人何かを隠してる。」

アスカはベッドに寝転がって、天井を見つめていた。
でも、わからない。
何をアタシに隠すと言うのだろう?
まず、それが思い当たらない。
よそよそしい態度。
それは先ほども感じた。
まるでアタシがアタシでないような接し方。


本当にそうなのだろうか?
アタシがそう思っているだけなのかも…
もしかして、アタシが自分でそう思っているだけで、
二人はいつも通りなのかも?


やっぱり、それは違う気がする。
何かが違う。
そう思う。


ここ数週間で何があった?
アスカは数週間前からの出来事を反芻する。


特に何もない。
ネルフでのテストもちゃんと参加しているし、特に問題は無いはず。


本当に?
アスカは起きあがった。
もしかしたら、何か問題があった?


アスカは首を振る。
そんなことないわ。
もし何かあったら、リツコが黙っているはずないわ…
しかし、アスカの胸の中で不安が膨れ上がる。
もしかすると…
私を弐号機からおろすなんてことないでしょうね…

自分には心当たりはまったくない。
でも、もしかして私の知らないところで
パイロットの適性無しと判断されていたのなら…

「よし、こうなったら、実力行使よ。」

アスカは真実を知るために動き出した。
 
 
 
 
 

「バレてる?」

リツコはサブノートから目を離しミサトの方を見る。
サブノートの画面上では何かの警告メッセージが表示されていた。
場所はリツコのラボ。
何故かそこに、発令所のメンバーが揃っていた。
みんな真剣な表情でミサトを見つめる。

「うん。多分気づかれていると思うわ。
今日、司令に呼び出されてね。」

ミサトはコーヒーカップをリツコの机に置き腕を組んだ。

「そう。もう限界かしらね…」

少し、首をかしげるリツコ。

「キール議長からは自由に行動してもいいって言われてるわ。」

その答えに少しだけ考え込むミサト。

「そうか。じゃ、なるべく早いうちに行動を
起こしたほうがいいわね。」

「今のところNerfの職員のほぼ7割がこちらについています。
現時点で行動を起せば、多少の流血は避けられませんが、
それでも一日あれば本部施設の全面占拠は可能です。」

日向は手元のノート型端末を操作しながらミサトに報告する。
それを受けてリツコもうなずく。

「MAGIは私の制御下に入れるから、うまくすれば、
犠牲者は碇司令と冬月副司令に留めることはできるわ。」

全員の顔を見回して、ミサトはうなずいた。
その場にいた全員がミサトの顔を見つめる。

「…じゃあ、やりましょう。作戦開始は明後日の10:00
手順は計画通り、全員に通知しておいて。」

「はい。」

日向、青葉、マヤがうなずく。

「シンジ君は初号機で即応待機。お願いね。」

「はい、わかりました。」

シンジが力強くうなずく。

「もしかすると、レイが零号機で出てくるかもしれない。
その時はシンジ君に任せるから。」

「…はい。」

リツコのサブノートの警告メッセージは消えていた。
それを見て、ミサトは大きく息をつく。

「みんな、お疲れ様。」

その言葉でその場にいた全員がほっと息をつく。
そして、腕を組んでミサトはつぶやいた。

「さて、これであの子がどう行動するかね。」
 
 
 
 
 
 

「そんな、本部を占拠なんて。ミサト達は何をするつもりなの?」

アスカは今、自分が聞いたことを理解できずにいた。
今朝、ミサトの服に盗聴機をつけ、
何か情報を得ることができないか探っていた。
でも、まさか、こんな事を聞こうとは。
確かリツコがキール議長とか言ってたわ。
以前に加持さんから聞いたことがある。
ネルフはゼーレの機関のうちのひとつだって。
どういうことなの?
本部を占拠するって、どうしてなの?
何をするつもりなの?

でも、どうしてアタシは…
アタシには…

アスカは意を決して立ち上がり、控え室から飛び出した。
 
 
 
 
 

「やぁ、アスカじゃないか。どうしたんだ?」

加持はジョウロでスイカに水をやりながら、
息を切らせて立っているアスカに笑いかけた。

「加持さん。助けてください。」

アスカは加持に抱きついた。
慌てて抱きとめる加持。

「どうしたんだい。シンジ君やミサトと喧嘩でもしたのかい。」

アスカは首を振って答える。

「違うんです。ミサト達が本部を占拠するって。」

その言葉を聞いた加持の表情が硬くなる。

「ちょっと待て、その話、何処で聞いたんだ。」

「えっ?」

その加持の表情を見てうろたえるアスカ。
と、加持は表情を和らげ、やさしく聞いた。

「どこまで知っているんだ。話してくれ。もし本当だとすると、阻止しないと。」

アスカはうなずいて、知っていることを話す。
加持は話を聞くと、大きくため息を吐く。

「職員の70%とはな、碇司令も憎まれたものだよ。」

「どうします?」

「そうだな、とりあえず、一緒に来てくれ。碇司令に報告しないと。」

加持はアスカを安心させるようににやりと微笑むと、
アスカを促して歩き始めた。
 
 
 
 
 

「あれ、加持くんにアスカじゃない。探してたのよ。」

エレベータ前でミサトと出会う二人。
思わず、加持の後ろに隠れるアスカ。
そのために一瞬表情で会話をしたミサトと加持に気付かなかった。

「あぁ、俺も君を探していたところなんだ。」

「あら、何かしら。」

不思議そうに唇に指を当てるミサト。
そして、加持の背後に隠れているアスカに視線を向ける。

「例の件、シロだよ。」

ニヤリと微笑む加持。
この言葉を聞いたアスカはいいようもない不安が胸に広がった。
アタシ…
もしかして…

まさか…
加持さんまで?

「そう…じゃあ、この子は無意識のフェイクなのね。」

ほっとしたようにミサトは息をつく。
無意識であれば、この子を処分しなくても済むかも。
少し安心した表情でミサトはアスカを見た。

「そうだな。」

加持もうなずき、アスカの方を見る。
そして、安心させるように微笑むとアスカを説得する。
その笑み、口調はドイツでのテスト中に何度となく
アスカに対して向けられたものだった。

「アスカ、いい子だから、俺達についてきてくれ。」

アスカに向かって手を差し伸べる加持。
しかし、アスカはショックを受けたように首を振る。

「そんな…加地さんまで…」

アスカは一歩、二歩とあとずさる。
それを見て、加持は慌ててアスカに手を伸ばそうとする。

「いや、違うんだアスカ。話を聞いてくれ。」

ミサトも慌てて加持をフォローする。
お願い、逃げないで。
ここで、あなたを処分したくない。

「そうよ、さっきアナタが盗聴した内容はウソなのよ。
アナタのこと確かめたくて。」

首をふるふると振って答えるアスカ。

「ウソ言わないで!アタシをどうするつもりなの。」

「頼む。話を聞いてくれ。」

加持がゆっくりとアスカに近づく。

「いや!!もう誰も信じない!!」

アスカは駆け出した。
すぐ後を追う二人。
しかし、一瞬早く、エレベータに乗ってアスカは逃げてしまった。

「まずいぞ。彼女取り乱してる。」

エレベータのドアを悔しそうに叩く加持。
ミサトは蒼白になって加持に訪ねる。

「彼女何処へ行くと思う?」

「そりゃ、一つしかないだろ。」

「まさか…弐号機?」

二人は顔を見合わせた。

「彼女をエヴァに乗せれば、これまでの苦労が水の泡だ。」

「私は発令所にいくわ。加持君はケージへ。」

「わかった。」
 
 
 
 
 

ミサトは発令所に向かうエレベータに乗り、
いまいましそうにつめを噛む。
追いこみすぎちゃったわね。
このままだと彼女は…
ミサトは先ほどの会話を思い出す。
 
 

「リツコはどう思う?」

ミサトに尋ねられ、リツコは少し考えるように答えた。

「たぶん、無意識ね。少なくとも、彼女はエヴァとシンクロできる状態ではないの。
つまり、シンクロテストを行っても、シンクロできないはずなの。
でも、シンクロテストの時に特に変わった様子は無かった。
意識があるのなら、なにか理由をつけて、シンクロテストを回避しようとしたはず。」

「それを彼女は知らされていなかったら?」

「そうね、でも、ここ数日彼女はまったくのノーマークになってるわ。
そんな時でも彼女は行動を起こさなかった。」

ミサトは首を振って大きくため息をついた。

「でもおかしくない?シンクロできないのなら、どうしてここに送りこんできたの?
それでバレちゃうじゃない。」

「忘れたの?あのシンクロテストは予定されていたものじゃないわ。
今度のテストは2週間後ですもの。それまで、アスカになりすませれば良いわけ。」

「じゃあ、やっぱり彼女は無意識?」

リツコはこっくり頷いた。

「そうね…その可能性が高いと思うわ。
それが私達に気付かれないベストの方法でしょうね。
無意識なだけに…」

「彼女、何とか救えないでしょうか?」

シンジは心配そうに尋ねる。
もともとアスカの異変に気がついたのはシンジだった。
いつも一緒にいるシンジだけがアスカの異変に気がついた。
その言葉を受け、軽い気持ちでミサトがリツコに話をしたのだった。
しかし、それは重大な事件となって、ネルフを襲った。
リツコの報告を聞いたミサトはただちに作戦の立案を行い、それを実行に移した。
しかし、ひとつ問題があった。

「できればそうしてあげたいけど…」

「無理ね。」

その言葉を聞いて、シンジはこっくりとうなずく。
シンジにも分かっていた。
でも、なんとかして助けてあげたいと思った。
どんな経緯であれ、今、彼女は一人の人間として生きているのだから。
生まれた経緯がどうであれ、今彼女はここに存在しているのだから…
できればこのまま生かせてあげたい。
それが無理だとわかっていても…
 
 

ミサトは大きく息をついた。

「シンジ…くん…ごめんなさい。彼女死ぬかも…」
 
 
 
 
 

「誰かがエヴァ弐号機を起動させています。」

日向が慌てたように報告する。

「誰なの?」

「アスカです。」

「まさか…死ぬ気なの。」

リツコは驚いたようにディスプレイを見つめる。

「弐号機とのコムリンクは?」

「ロックされています。通信不能。」

「弐号機をロックして!シンクロ強制中断させて!」

発令所に入ってきたミサトが慌てて命令する。

「間に合いません。エントリープラグが挿入されます。」

「ミサト、これはどういうこと?」

うつむくミサトの隣で、リツコが尋ねる。

「ごめん。説明は後。とにかく、弐号機とアスカとのシンクロを中断させて。」
 
 
 
 

アスカの脳裏に何かがねじ込まれてくる。
な、何?これは。

次々とさまざまなイメージがアスカの頭の中でひらめく。

それは言葉であったり、
訳のわからない音であったり、
抽象的なイメージであったり、
彼女の記憶の中にあるイメージだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アナタは誰?
 
 
 

や、やめて。
アスカは頭を抱える。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

私の娘はどこ?
 
 

誰か、止めて。
誰かがアタシの中に入ってくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

違う、アナタはアスカじゃない。
 
 
 

助けて。
アタシは…
アタシは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

アタシは!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ママ。

墓地。

青い空。

含み笑いをしている義母。

ひまわり。

やさしく笑う加持。

グラウンドに撒くかれる水。

父親の大きな手。

首が千切れそうな人形。

一房の髪。

消毒液の臭い。

シンクロテスト。

白衣の研究員達。

はにかむシンジ。

オーバーザレインボウ。

使徒。

エヴァ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あなたはしなないわわたしがまもるものあんたばかぁもんだいはないぼくのそんざいいぎはすべてはしんくろしているにげちゃだめだじぶんがじぶんであるというしょうこはたましいはどこにほんにんがしんじてもいないのにていぎなんてむりだよだいてなんていえないよほんとうにすきなひとなのじぶんがどうおもわれてるかなんてかんがえるだけむだよでもきになるものどうしてそんなこというのめいれいがあればそうするわなによそれわたしはわたしそれいがいではないわずいぶんつごうのいいかいしゃくねそれはあなたもおなじそうはいうけどほんとうのことなんてだれがきめるんだいほんしつてきなもんだいはなにもかいけつされていないわたしはただこのもんだいのかいけつがこんなんであることをしょうめいしたいだけあなたはだれあたしは…あたしは…あたしは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

急に閃くイメージがおさまり、急に静かになった。
LCLの中をアスカはただよう。
そのエントリープラグの中でアスカは悟った。
 

そうか…

わかった…

アタシは…

道理でみんなの態度が違うわけね…

アタシは…

フェイク…

偽物なのね…

そして、ここに送りこまれた。

ある任務を刷り込まれて。

でも…

もう終わりね…

アタシ…

いったい誰だったのだろう?

惣流・アスカ・ラングレーのクローン体。

でも…

アタシの意思は何処から来たの?

アタシの存在は…

ダメ…

なんか、意識が遠くなってきた…

アタシ、死んじゃうのかな…

自分の境がなくなったみたい…

残念…

せっかく教えてあげようって思ったのに…

本当のアスカに会ったら…

教えてあげようと思ったのに…

アタシとアスカは違う。

でも、アタシにはアスカの心がわかる。

だって、アタシは…

アタシは…

そして、漆黒の闇が彼女を連れ去った。
 
 
 
 
 

横たえられていたアスカを見下ろす三つの影。
アスカはすでに息絶えていた。

「間に合わなかったわね。」

「まさかエヴァに乗るなんてね。」

かすかに首を振るリツコ。

「アスカ…だったって事だな…」

加持はとぎれとぎれに言った。

「それに、テストではちゃんとシンクロしてたし。
アタシ達がデータの改ざんをやってたなんて知るはずもないし。」

三人は黙ってしまう。
沈黙があたりに広がった。

「で、本物のアスカは?」

ミサトは加持に尋ねる。

「偽者なんて見ても腹が立つだけ。とか言って帰ったよ。」

苦笑するように加持は答える。

「…そう。」

また黙る三人。

「で、この子は目的は何だったの。」

「結局わからず終いね。無意識下に刷り込まれた行動だから。」

「じゃ、アタシ達の芝居は?」

「ある意味、彼女を追い込んだかも。
それだけ、彼女がアスカに近かったってことね。」

「そう…。」

ミサトは横たわっているアスカにかがみ込み、髪を優しくなでた。

「ごめんなさいね。アタシ達のせいで…」
 
 
 
 

「あれ?アスカどうしたの?」

ベランダから外を眺めているアスカに向かってシンジは声をかける。

「ちょっと…ね。」

シンジもアスカの隣に並び夜景を眺める。

「…ね、あの子、そんなにアタシにそっくりだった?」

アスカはシンジのほうを見ないで尋ねた。

「そうだね、似てたよ。でも、違和感はあった。」

「ミサトに教えてもらう前に?」

「そうだね、ちょっとしたしぐさとかが違ったような気がする。
どこがと聞かれると答えられないんだけど。」

「…なんか、シンジ、いやらしい。」

シンジの方をちらり見る。

「えっ?なんでだよ。」

「だって、ちょっとしたしぐさだなんて、
アンタ、アタシのことそんなに見てたの?」

「い、いや、それは…」

「ふーん。シンジも一人の男だったわけだぁ。
ま、アタシみたいな美少女と一緒にいてなんでもない
ってゆー方がおかしいけど。」

アスカは腕を組んでシンジをじっと見詰める。

「はいはい。そうですね。」

シンジはアスカの方を見ずに答える。

「なによ。その言い方。
せっかくアタシが誉めてあげてるのに。」

「アスカこそなんだよ。人が心配してやってるのに。」

「はん。シンジに心配されるようじゃ、アタシの人生も終わってるわ。」

「なんだってー。」

「なによ。やる気?」

顔を突き合わせる二人。
しかし、シンジは小さくため息を吐くと首を振った。

「…でも、彼女は助けてあげたかった。」

アスカもシンジに聞こえないようにつぶやいた。

「そう…」
 
 
 
 





NEXT
ver.-1.00 1999_06/17公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!





あとがき

ども、作者のTIMEです。

部屋90000ヒット記念SS「フェイク」はいかがでしたか?

この作品は初めて本編の設定を使って作りました。
本編の設定を使ってみたいとは思っていたのですが、
今回なんとか、一つ書くことができました。
#しかし60本近く書いていて本編がらみの話を書くのが初めてと言うのも…

少し重くなってしまいましたが、
こういう話もたまには書いても良いかなと言うことで。
順番的にはレイのお話を書くはずでしたが、
レイの方は連載が始まりましたので、今回はいいかなと。
あの連載を最近更新していなかったことですし、続けてアスカで書きました。

遂に90000まできてしまいました。
次はいよいよ大台の10万ですね。
一応、大台ということで記念SSは3本書く予定です。

というわけで、いつのまにか60本近くも作品を公開させて頂いていて、
自分でもよくネタがつきないな(最近マンネリになった気がしますが)
と感心している次第ですが、これからもまだまだ更新していきますので、
よろしくお付き合いの程を。




 TIMEさんの『フェイク』 、公開です。





 初のパターンだ(^^)

 いっぱい書いてきているTIMEさん初のパターンだ〜

 何十本目にしての初めてのパターンですっ



 シチュエーションも
 流れも
 雰囲気も

 ほとんどが初めてだよね。



 それでも
 TIMEさんぽさのこっていて、

 おもろい感じです☆





   最後の最後まで、
   いつものノリに戻るんじゃないかと思って読んでいたっす(^^;






 さあ、訪問者の皆さん。
 新色TIMEさんに感想メールを送りましょう!








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