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街を見下ろせる小高い丘。

私は今ここに独りで座っている。

以前にも来たことはあった。

その時は3人で空を見上げた。

惣流・アスカ・ラングレー。

碇シンジ。

そして、私。

でも、今は独り。

今日は7月7日。

世間では七夕と呼ばれる日。

天に上った、彦星と織姫が会える一年に一度しかない日。

そして、彼、碇くんと一年ぶりに会う日。

どうして私はここにいるの?

彼が一年ぶりに帰ってくるのに…

わからない。

ただ、私の中の何かがそう言っただけ。

何だろう?

なんと表現すれば言いのだろう?

わからない。

でも、ここに来たいって思ったから…

だから、私はここにいる。
 
 
 
 
 
 
 

7th of JULY
 

SIDE A REI
 

TIME/99
 
 
 
 
 
 
 

一人で野原に座って星空を見上げるレイ。
その真紅の瞳が空に輝く星々を映す。
風が街から丘を上がって吹いてくる。
いつもは風にのって街の喧騒が聞こえるのだが、今日は何も聞こえてこない。
本当に静かで、まるで自分一人しかこの世界にいないのではと感じてしまうような夜だった。
彼女は頭上に輝いている天の川を見つめる。

まるで光の川…

ふとレイはそう呟く。
数々の星がさまざまな光を放ちそれが川のように夜空にかかっている。
今日は七夕ということで都市にも灯火管制がひかれていて、いつもより多くの星が見える。

あの時以来…こんなにちゃんと星を見るなんて…

レイはふと以前、星を見上げていた時の事を思い出した。
そして、一人の少年の言葉が脳裏に浮かぶ。

笑えば良いと思うよ。

彼はそう私に言ってくれた。
嬉しい。
その思いを教えてくれた人。


そう、あの時から私はあの人のことを特別な人だと思い始めたのだろう。

だから、こうして待ってる…

彼がここに来るのを待ってる。
私が今、こうしてここに存在する理由。
私に生きる意味を与えてくれた人。
それが彼だから。
彼との絆が私の存在を証明してくれるから。
でなければ、私はここにはいない。
あの日。
全てが終わったあの日。
彼が言った言葉。
だから、世界の誰もが間違っていると言っても、
彼が正しいと言えばそれが私にとっての真実。

待っていて欲しい、必ず迎えに行くから…

そう彼は言ってくれたから。
彼女よりも、私を選んでくれたから。
こんな私を。
だから、私は信じている。
碇くんのことを。
 
 
 
 
 
 
 

綾波は季節って知ってる?

季節?

そう季節。今はずっと夏だけど、
父さん達がまだ僕達の歳の頃には、
四季と言って、春、夏、秋、冬があったんだって。

碇くんは?

僕?
僕は冬が見てみたいな。
雪って知ってる?

知らないわ。

要は雨が凍ったものなんだけど。

じゃあ、氷なの?

うーん、ちょっと違うんだ。

これ見てごらん。

きれい…

でしょ?
これが雪の結晶なんだ。

そう…

いつか一緒に見れたら良いね。

うん…
 
 
 
 
 
 

時計に視線を向けるレイ。
時計なんて必要無いと思っていた。
でも、碇くんが買ってくれたものだから。
だから、身につけている。
これがあれば、碇くんはいつも傍にいてくれる。
そう思えるから。
碇くんも同じ時計を持っていて、身につけているから。

どんなに遠く離れていても、僕はレイのこと忘れないから。

碇くんはそう言ってくれた。
だから、私もいつも碇くんのこと考えている。
私が普通に生活できるようにしてくれたのは、ネルフのみんな。
でも、私に生きていく勇気をくれたのは碇くん。
だから、私は碇くんのために生きてるの。
彼だけが私の…

顔を伏せるレイ。
プラチナの髪が彼女の顔を隠す。
そよそよと吹く風は周りの草々をなびかせ、さらさらを音を立てさせる。
虫達の鳴き声があちらこちらで聞こえる。
と、胸ポケットに入れていた携帯が振動する。
携帯を取り出すレイ。

はい…

そう小さく答えるレイに怒鳴りつけるように大きな声が響く。

ちょっと、レイ!何処で何やってるのよ!
シンジが帰ってくるんだから、部屋にいないと駄目でしょうが!

その剣幕に瞳を大きく開いて、携帯を見つめるレイ。
そして、小さな声で答える。

ごめんなさい。

はぁ…もう、こんなのにシンジを取られたかと思うと情けなくなってくるわ…

受話器の向こう側から、盛大なため息が聞こえてくる。

ごめんなさい。

はいはい、わかってるわよ…いいわね、今すぐ部屋に帰って。
シンジの乗った飛行機も今ついたから、部屋に直行させるから。

…私、帰らない。

…へ?

碇くんに伝えて。「待ってるから」って。

それだけ伝えると、レイは携帯の電源を切る。
そして小さく息をつく。
この思いは何?
どうして、アスカの言うことを聞きたくないと思ったのだろう。
どうして、あんなことを言ってしまったのだろう?
部屋に戻れば、碇くんを会える。
それは分かっている。
でも…


少し風が強くなったのだろうか、
周りの木々がざわめき始めた。
レイの前髪を吹き寄せる風が揺らす。
そして制服のリボンも。
ふと自分が着ている制服を見て、レイは首を傾げる。
確か、この制服…
碇くんは見てないのよね…
すごく残念がっていたのを覚えている。
どうして、そんなに残念なのか私にはわからなかったけど…
碇くんには何か意味があったのだろう。
 
 
 
 
 
 

一年?

そう。一年。

何処に行くの?

ごめん。それは言っちゃいけないんだ。

そう…

それで、綾波には待っていて欲しいんだ。

どうして?

いや…それは…

碇くんはもう私のこと必要無いの?

そんな事は無いよ。
誓って。

ほんとに?

ほんとうだよ。

ごめんね。今が一番大事なときのなのに。

…どうしても必要なの?

ごめん、どうしても必要で、僕じゃないと駄目なんだ。

…わかった…

レイ…

私、待っているから。
 
 
 
 
 
 

レイ?

その声でレイは顔を上げ、声のした方を振り向く。
そこには一つの人影が立っていた。
レイは目を凝らす。
その人影はゆっくりとレイの方に歩いて来た。
レイは小さく声をかける。
誰かははっきりしないが、その声を聞き間違えるはずも無い。

碇くん?

その呼びかけに人影は答える。

探したよ。
「待ってるから。」
だけじゃあ、すぐにはわからなかったよ。

シンジはレイの傍まで歩いてきて、レイを見て首を傾げる。
レイの記憶の中のシンジとは、少しだけ変わっている気がする。
背は伸びているし、顔つきも心なしか大人びて来ている。
そして、レイを見てシンジはにっこり微笑む。
その笑みは変わっていなかった。
最後にレイが見たシンジの笑顔。
シンジはレイの後ろに座ると、
包み込むようにレイを後ろから抱く。
二人が離れる前。
よくシンジはこうしてレイを抱いていた。
シンジはレイの耳元に顔を寄せて囁く。

ただいま…

レイはシンジの腕に自分の手をかけて、
顔を伏せて小さく答える。

おかえりなさい…

どうして?
心の奥が暖かくなる感じ。
碇くんに抱きしめられると、こんなに安心する。
いままで忘れていた、この感じ。
昨日までの私が私じゃなかったように感じてしまう。
そして、すごく胸が痛い。
嬉しい。と思う。
でもどうしてこんなに胸が痛くなるの?
どうして?

長かったよ…
一年間。
ずっと、レイに会えなくて、声も聞けなくて。
辛かった。

この胸の痛みは何だろう?
すごく辛い。
シンジのその言葉を聞くと、さらに胸が痛む。


これが、
「寂しい。」
ということなのかな?
だとしたら…
私…
レイはシンジの手に自分の手を重ねる。

私も…
寂しかった…
碇くんに会えなくて…

その言葉にシンジは少し驚いたようだった。
しかし、やさしく微笑むと、またレイの耳元に囁く。

嬉しいよ…

そのシンジの言葉に、レイは少しだけ首を傾げて答える。

嬉しいの?

シンジはくすくす笑って答える。

だって、それだけレイも僕のことを思っていてくれたんでしょ。

そうかも…

それだけで十分僕には嬉しいことなんだ。

そうなの…

そうなの。
 
 
 
 
 
 

今日は七夕なんだね。

シンジは夜空を見上げて息をつく。
レイもシンジに習って夜空を見上げる。

彦星と織姫が一年に一度会える日。

そうだよ。まるで今の僕達みたいだね。

どうかした?

次に会えるのは一年後?

シンジはその言葉を発したときのレイの表情に少しだけ驚いた。
それは不安だったのだろうか。

レイは嫌?

シンジのその質問に顔を伏せ、しばらく考えるレイ。

いや…だと思う。

どうして?

また考え込むレイ。
しかし、すぐに顔を上げて、シンジを見る。

今、私がこうしているのは碇くんのためだけだから。
あの時碇くんは私を必要としてくれた。
だから、私は今、こうしてここにいるの…

そうだね…

シンジはそう答えると、レイの頬に軽く触れる。

あの時の約束はちゃんと覚えているよ。
だから、僕は戻ってきたんだ、レイの元に…

シンジはレイが身につけている時計に触れる。

つけていてくれたんだね。

その言葉にレイはうつむいた。
もしかしたら赤面しているのかもしれない。

だって…
碇くんがくれたものだから。

そうか…

シンジの時計をレイに見せる。

これからはずっと同じ時の中で過ごせるね。

その言葉の意味するところを悟って、レイは顔を上げてシンジを見る。

本当に?

うん。

シンジはそう答えるとポケットから小さな箱を取り出す。
それをレイに見せる。
レイはその箱を不思議そうに見つめる。

何?

気に入ってくれればいいんだけど。

そう言って、シンジはその箱を開ける。
そこにはブルーに輝くダイヤをあしらった指輪があった。

指輪?

そう…
レイに受け取って欲しいんだ。
僕がずっとレイの傍にいる証として。

ずっと…

そうだよ。ずっと…
死が二人を分かつまで…

シンジは小さな声でレイの耳元に囁く。
ずっと、言おうとして、言えなかった言葉。

私、碇シンジは綾波レイをこの世界で一番愛しています。
私と結婚してください。

その言葉にレイは驚いて、シンジの顔を見る。
シンジは微笑みながら、そのレイを見つめ返す。

この指輪は…

そう…レイが受け取ってくれるのなら、婚約指輪ってことになるかな?

レイはシンジから指輪に視線を戻す。
婚約。
私が…
碇くんと…

シンジは手に何にかが落ちる感触を感じた。
それはレイの涙だった。

どうしたの?

わからない…
でも、涙が…

悲しいの?

ううん、違うの…
嬉しいの…
でも、涙が…
どうしてなの?

シンジはやさしくレイの髪にキスをする。

嬉しいときでも涙がでるものだよ。
覚えてるかな?
昔、僕も嬉しくて泣いたことがあって、
綾波がどうして泣いてるのって聞いたと気のこと。

うん…覚えてる。

忘れるはずも無い。
あのことがなかったら今の私はここに存在しなかったから。

受け取ってくれるかな?

そのシンジの問いにレイはこっくりうなずく。
シンジは指輪を箱から出して、レイの左手を取る。
そして、ゆっくりと薬指にはめる。
レイは食い入るようにその指輪を見つめた。

似合ってるよ…

レイは少し頬を染めて、シンジを見る。

ありがと…

月明かりでその指輪がキラリと光る。

ミサトさん達にちゃんと報告しないとね。
「僕達、結婚します。」って。

そうね…

おだやかなシンジの口調にレイも小さくうなずく。
シンジはもう、受け入れたのね…
みんなのこと…
私達のために犠牲になってくれた人達のこと…

アスカも誘って一緒に行こうね…
ミサトさんたちが眠る場所に…

それが私達の絆だから…

そう、僕達はミサトさん達が生きた証なんだから…

しばしの沈黙の後、シンジが勢い良く立ちあがる。
そして、レイの手を握って立つのを手伝う。

さぁ、そろそろ行こうか。
たぶん、アスカもやきもきして待ってるんじゃないかな?

そうね…

シンジはレイの手を取った。
見詰め合う二人。

これからは二人一緒で生きていこうね。

はい。

そして、二人は歩き出した。














NEXT
ver.-1.00 1999_07/13公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!





あとがき

どもTIMEです。

部屋10万ヒット記念&七夕記念SS 「7th of JULY」レイ編です。

遂に部屋の方が10万ヒットを数えることになりました、
開設して1年半年、これも皆様のおかげと感謝しております。

というわけで、SSを3本ほど用意しました。
いつも通りレイ,アスカ,マナの順で公開です。
七夕記念もかねるということで、全て七夕のお話にしています。

まずレイ編ですが、本編のサイドストーリーです。
ただし、かなりオリジナルに近いですが。
一応、本編レイに少しだけ感情を加えてみて書いたのですが、
なかなかに難しいですね。
#世の中の本編LRS作家さん達は凄いですよね。

さて、次はアスカ編です。
やっぱり七夕編ですが、どうなることやら、
できれば本編ベースのサイドストーリにしたいのですが。

では「7th of JULY」アスカ編でお会いしましょう。
 




 TIMEさんの『7th of JULY』SIDE A REI 、公開です。






 気が利いているよね(^^)

 もう1人だったアスカ
  も
 ミサトも

  そして
 シンジもね(^^)(^^)


 ちゃんと待っている場所がわかって、
 ちゃんと待っている場所に行く・・・


 えらいじゃ〜ん
 わかっているじゃ〜ん
 きいているじゃ〜ん

 ☆



  そしてそして

 灯火管制した街も(笑)


 うちの市もしたらいいのに・・・・
 花火大会とか、そういう時には。





 さあ、訪問者の皆さん。
 大台TIMEさんに感想メールを送りましょう!








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