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「出会いは突然でした。」

「でも、その日から男の子は女の子の前に現れるようになったのです。」

「彼女はその彼が好きになりました。」

「理由はわかりません。」

「でも、私はこの人がとても好きだと思い始めました。」

「でも、それを口に出して言わなかったのです。」

「そんなこと言わなくてもずっと一緒だからって。」

「でも、二人は離れてしまうことになりました。」

「彼女は、告白しようとしました。」

「でも、「好きです。」のその一言が言えませんでした。」

「そして彼とは音信不通になりました。」

「彼女は後悔しました。」

「あの時、ちゃんと彼に自分の思いを伝えておけば良かったと。」

「そして、決心しました。」

「彼を探し出してもう一度会って、自分の思いを伝えようと。」

「二人はどうなったのでしょうか?」

「彼女は彼に思いを伝えられたのでしょうか?」

「それとも、やはり伝えられなかったのでしょうか?」

「あなたはどう思いますか?」
 

Time-Capsule 第25話 「星々の彼方」 より抜粋
 
 
 
 
 
 

部屋80000ヒット記念
 
 
 








 
 
 

Time/99
 
 
 
 
 
 
 
 

シンジは波打ち際に経って海を見つめる。
銀色の新月に近い細くなった月の光だけが、
夜の海の波頭を銀色に映し出す。
そして、打ち寄せる波の音が響く。
潮の匂いを胸一杯に吸って、シンジは息をつく。
そして昼間のことを思いだす。

「アタシはシンジのこと大嫌いだから。」

あの時アスカはそう言った。
どうしてあんなこと言ったんだろう?
もし本当なら、どうして今まで?
わからない。
どうしてだろう?
胸が痛い。
アスカが僕のこと嫌ってるなんて。
本当なのだろうか?
シンジは頭をめぐらせて、たまたま近くに砂浜に埋まっていた
コンクリートのブロックに歩いて行き腰をおろす。
そして、星空を見上げる。
満点の星空だ。
夏の星座がきらきら輝いている。
月が出ているが、それほど明るくは無い。
その月も水平線に沈んでいこうとしている。
天の川が見える。
それぞれの星がさまざまな色を放ち輝く。
それはまとまり、まさに道のように見える。
天の川とは昔の人はうまく名前をつけたものだ。
シンジはしばらく、星空を眺める。
背後で防護林の木々の葉が風でざわめくのが聞こえる。
昼間に比べて少し風が強いかもしれない。
8月にしてはすごしやすく、蒸し暑くないかもしれない。
ふと、シンジはそんなことを考え、視線を海に向ける。
遠くに外洋航路を行く船が見える。
どこにいくんだろ?
シンジはぼんやりとそんなことを考える。
ふと、シンジの脳裏にまたもアスカの声が響く。

「アタシはシンジのこと大嫌いだから。」

本心なんだろうか?
僕には確かめることが出来ない。
どうすればいいのだろう?
どんな顔してアスカの前に出れば良いのだろうか?
わからない。
でも、もっとわからないのは、この胸の痛み。
なんだろ?
どうして、こんなに胸が痛いんだろう。
わからない。
どうすればこの胸の痛みは…

「シンジ?」

ふと声をかけられてシンジは振りかえる。
そこには浴衣姿のアスカがいた。

「アスカ?」

不思議そうに首をかしげて、ゆっくりシンジのもとに歩きながら、
アスカはシンジに尋ねる。

「どうしたの?こんな時間に?」

「アスカこそどうしたの?」

シンジはアスカから顔を隠すように、視線を海に向けて答える。
どういう表情を浮かべれば良かったのかわからなかったから。

「寝つけなくて。」

「そう…」

そっけないシンジの様子にさらに不思議そうな表情を浮かべるアスカ。
もちろん、シンジにはそんなアスカの表情は見えない。
アスカはシンジが座っているコンクリートブロックの隣に座る。
そして、吹き寄せる風に髪をかき上げる。
甘い香りがシンジの鼻をくすぐる。
潮風とは対照的な甘い香り。
体を寄せると、慌てて体を離すシンジ。
アスカはじっとシンジの顔を見る。
シンジはしらぬ振りをしようとしていたが、耐えきれずにアスカの顔を見る。
アスカはにっこり微笑みながらシンジに尋ねる。

「何か、シンジ変だよ?」

「別に…」

シンジはそう答えると、また海に視線を向ける。
先ほどの船とは遠くないところに漁船がいるようだ。
ゆっくりと右から左に移動している。

「シンジ。」

アスカはきゅっとシンジの頬を両手で挟むと、自分の方を向かせる。
シンジは少し驚いた表情をするが、アスカをじっと見つめる。
アスカはシンジの顔をじっと見つめる。

「ねぇ、何かあったの?」

「別に…」

「嘘。何かアタシに隠してるでしょ。」

「何も。」

「そんなことない。シンジって嘘つくと、瞬きが多くなるのよ。」

シンジはアスカの手から逃れるとゆっくりと立ちあがる。
そして、波打ち際に歩いていく。
慌ててアスカも立ちあがり後を追う。
二人は並んで立つ。
足元まで波が迫る。
シンジは相変わらず、海に視線を向けている。

「ねぇ。ホントにシンジ、変だよ?」

アスカはシンジの顔を覗きこむようにそう言う。
シンジは小さくため息をつく。
どうしてなんだろ?
どうして、アスカはあんなこと言ったのに…
僕は…

「それはアスカのせいだよ。」

アスカは驚いたようにシンジをまじまじと見つめる。
アタシのせいって、今日は全然会ってなかったのに?
首をかしげて考え込むアスカ。
そんなアスカを見て、シンジはきびすを返して歩き出す。

「僕は、アスカのこと」

そして囁くような声が風に乗ってアスカの耳に届く。

「嫌いだ。」
 
 
 
 

遠く潮騒がかすかに聞こえてくる。
見渡す限りの草原。
しかし、波の音は小さく聞こえてくる。
彼女はその草原の中に立っていた。
足元には薄いブルーの花びらを持った花が咲き乱れている。
ここは…
どこ?
見まわすが、草原が広がるだけ。
彼女は首をかしげる。
草原を渡ってきた風が彼女の栗色の髪をなびかせる。
潮の香りがする。
海が近いの?
しかし、彼女の視界にはそれらしきものは認められない。
なんだろ?
彼女は耳を澄ませ、潮騒がどちらから聞こえてくるのか確かめようとした。
そして、方角の見当をつけ歩き出す。
でも、アタシどうしたんだろ?
みんな何処にいったのだろう?
彼女の目の前を小さな蝶が横切っていく。

もうどれくらい歩いただろう。
眼前に海が現れた。
砂浜と草原の境がくっきりとついている。
まるで、人工的に構成されたみたい。
彼女は砂浜に足を踏み入れる。
柔らかい砂に足が沈む。
ゆっくりと波打ち際まで歩いていく。
海は澄んだ青で、空もまた青い。
ふと振りかえる。
草原の空は薄い雲に覆われている。
しかし、海岸から海にかけては青く晴れ渡っている。
なんだろ?
彼女は再び首をかしげる。
アタシは…
何してるのだろう?
ここでいったい?
と、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
声のほうを振りかえる彼女。
彼女は少し驚いたように声をあげる。

「シンジ?」

「アスカ、どうしたの?こんなところで。」

シンジはアスカの傍にやってきて首を傾げて尋ねる。
アスカはじっとシンジの顔を見つめる。

「どうかした?僕の顔に何かついてる?」

「シンジ…だよね。」

シンジは苦笑を浮かべる。

「それ以外の誰かに見える?」

アスカは慌てて首を振る。

「ううん。シンジにしか見えないけど…」

「けど?」

「だって…」

シンジはアタシのこと嫌いだって…
どうしてそんな平気な顔してるの?
まったく何も無かったような顔して。
シンジは不思議そうにアスカの顔を見つめている。
そして、急に目の前が暗くなってくる。
全てのものが暗闇の飲み込まれる瞬間。
アスカは最後にシンジの瞳がやさしく輝いた気がした。
 
 
 
 

ごめんなさい。

まさか、聞かれているなんて。

ただの軽い気持ちだったの。

本当は違うの。

嫌いなんかじゃない。

だって…

アタシは…

どうすればいい?

謝りたい。

アタシはどうすれば良いの?

シンジも同じ思いしたのかな?

こんな思いしたのかな?

だったら自業自得かも。

でも、謝らなきゃ。

アタシが悪いから。

アタシがあんなこと言わなければ良かったのだから。

でも。

どうやって?
 
 
 
 
 
 

彼は夜の草原に寝そべって空を見ていました。
夜風がやさしく彼の頬をなでていく。
風に吹かれた草花揺れて触れ合う音が聞こえてくる。
見上げた空にはさまざまな星がきらめいている。
彼はふと起きあがりあたりを見まわす。
ここは…
どこなんだろ?
彼はあたりを見まわす。
しかし、見えるのは一面の草原だけ。
月明かりに照らし出された草原はきらきらと銀色に輝いている。
微かな波の音を聞き、彼は振りかえった。
確かこっちから…
もう一度耳をよく澄ませて音を聞く。
うん。こっちから波の音が聞こえる。
彼は立ちあがり、波の音がする方向へ歩き出した。

もうどれくらい歩いただろう。
眼前に海が現れた。
砂浜と草原の境がくっきりとついている。
まるで、人工的に構成されたみたいだ。
彼女は砂浜に足を踏み入れる。
月光で砂浜全体が月光で輝いている。
柔らかい砂に足が沈む。
ゆっくりと波打ち際まで歩いていく。
打ち寄せる波をじっと見つめる。
まるで海が輝いているようだ。
それとも砂が輝いているのか?
なんだろ?
彼は再び首をかしげる。
僕は…
何してるのだろう?
ここでいったい?
と、級に彼の背後で名前を呼ぶ声が聞こえる。
彼は驚いて振りかえる。
そして声をあげる。

「アスカ?」

「シンジ、どうしたの?こんなところで。」

アスカはシンジににっこり微笑みかけて尋ねる。
シンジはじっとアスカの顔を見つめた。

「どうかした?アタシの顔に何かついてる?」

「アスカ…だよね。」

アスカは苦笑を浮かべる。
そして、髪を払うようにして答える。

「それ以外の誰かに見えるの?」

シンジは慌てて首を振る。

「ううん。アスカにしか見えないけど…」

「けど?」

「だって…」

アスカは僕のこと嫌いだって…
どうしてそんな平気な顔してるの?
まったく何も無かったような顔して。
アスカは不思議そうシンジの顔を見つめている。
そして、急に目の前が暗くなってくる。
全てのものが暗闇の飲み込まれる瞬間。
シンジは最後にアスカの瞳がやさしく輝いた気がした。
 
 
 

どうしてあんなこと言ったのだろう?

わからない。

つい、口をついて出た言葉。

本当は違う。

嫌いなんかじゃない。

アスカはどう思っただろう?

気付いたのかな?

僕が聞いてたこと。

気付いてるよね。

どう思ったかな?

でも、あんな言い方するんじゃなかったな。

謝ろう。

いくらアスカが言ったからって。

僕は、アスカのこと…
 
 
 
 
 
 

夕闇迫る波打ち際で二人は海を見ていた。
太陽が水平線に沈んでいく。
二人は風に髪を揺らしながら並んで海を見ていたが、
何を思ったかアスカはゆっくりと海に入っていく。
シンジはその様子をじっと見詰める。
ゆっくりとシンジの方を振り向くアスカ。
真っ赤な太陽を背にしてアスカはシンジを見つめる。
シンジは目を凝らすがアスカの表情が伺えない。
吹き寄せる風がアスカの髪を激しく揺らす。
どこかでカモメが鳴いている。
空が闇に覆われていく中、ゆっくりと頭を振るアスカ。
夕日が水平線に沈んでいく。
頭上に闇が広がる、そしてその闇は水平線に打ち寄せていく。

「アスカ?」

「シンジ…」

真っ赤に輝いていた海が濃い紺色に染まっていく。
それと共にアスカの姿が闇に包まれていく。
シンジは一歩、そしてまた一歩歩み寄る。
足元に波が打ち寄せる。

「そろそろ戻ろうか。」

「そうね…」

アスカはくすりと笑ったようだった。
声は聞こえない、でも雰囲気でシンジはそう感じた。
吹き寄せる風が強くなってきた。

「帰ろう。」

シンジはもう一度繰り返し、そして、アスカはうなずいた。

「ねぇ…シンジ。」

並んで砂浜を歩きながらアスカは小さな声で囁いた。

「あのね…」

そこでアスカは言葉を区切って、シンジを見る。
シンジにはその瞳が少し潤んで見えた。

「いいよ。もう。」

シンジはアスカを見てそう答えた。
少しだけ目を見開いたアスカにシンジは微笑んで見せる。

「もういいんだ。お互いの誤解なんだし。」

その言葉にこっくりとアスカはうなずいた。
でもね、シンジ。
アタシ、すごく怖いの。
だって、シンジに嫌いって言われただけで、こんなにも胸が痛くなって。
これ以上は…
そうじゃないと、アタシは自分を見失うかもしれない。
それがすごく怖いの。
アタシがアタシじゃなくなるようで。
シンジはどうなの?
シンジはシンジのままでいられるの?












NEXT
ver.-1.00 1999_05/08公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!





あとがき

どもTIMEです。

部屋80000ヒット記念「夢を見た夜」です。

もう80000ヒットですね。
えらく好調で自分でも怖くなってしまう。(^^;;

で、今回はTimeCapsuleのサイドストーリーということで、
シンジとアスカの中学時の話なんですが、
アスカの髪が短くなった原因が二人のちょっとしたいさかいにあったということ、
あと、そのいさかいが後のアスカの行動に影響を与えているってところを
押さえておいてもらえればおっけーです。

タイトル前の部分は書いてある通りに25話からの抜粋です。
現時点で19話を公開してますので6話先のお話です。
でも、まだ25話時点でも夏だったりしますが(^^;;

今後ですが、TimeCapsuleの方はしばらくアスカ編です。
現時点では24話あたりまでアスカ編でいこうかなと。
マナは21話で帰ってきます。
22,23話あたりで全面対決ですかね。(^^;;

あと、もうひとつ。
短期集中連載で新連載を一つ始めます。
今のところ5〜7話完結予定なので、
2週間ぐらいで終わるでしょう。
レイな方からのリクエストにお答えしてLRSです。
公開はもう少しだけ先になりますのでお待ちを。

では、連載の方でお会いしましょう。
 




 TIMEさんの『夢を見た夜』 、公開です。






 『Time Capsule』の25話・・・ってまだやんかいさ〜(爆)

 見に行っちゃったヨ(^^;



 話数では未来で
 内容では過去で

 複雑です〜



 夢と
 現実と

 アスカシンジの本との思いと
 口にする言葉と


 もうもう、複雑〜



 解けるのはいつ。。。




 さあ、訪問者の皆さん。
 部屋8万TIMEさんに感想メールをくりましょう!







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