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どうしてこうなったんだろ?
彼はそう思いながら向かいの席に座った彼女を見た。
彼女はぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。
最初は何人かのグループで行くはずだったのに、いつのまにか二人になって。
僕と彼女の二人だけの旅行。
彼女とは昔からの付き合いだけど、二人きりの旅行はこれが始めてだった。
両親は別に気にしてもないようで、普通に送り出してくれた。
普通だったら年頃の男女が二人きりで泊まりで旅行なんて、絶対に認めないと思うんだけど…
信用されているのか?
僕の視線に気づいて彼女が僕を見る。
少し首をかしげるしぐさがいつもより可愛く見える。
どうしたんだろ?
いつものしぐさなのに、何か違うように感じる。
僕はなんでもないというように手をひらひらと振って見せた。
彼女は少し微笑んで、視線をまた窓の外にむける。
僕も窓の外に視線を向けた。
まだ、海は見えなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

部屋160000ヒット記念SS

青い海、白い砂浜

TIME/2000
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「はぁ、やっと着いたわね…」

駅の改札を出てロータリーの前で大きく背伸びをしてアスカはシンジの方を見る。
シンジはメモを取り出してそれを覗きこんでいた。

「え…と、34系統のバスに乗って…」

シンジのその言葉でアスカがバス停の方を指差す。

「シンジ、こっちでいいの?」

「うん。そっちで良いと思うよ…」

アスカはてくてくとバス停の方に歩いていく。
その後を追うシンジ。
バス停の前にある時刻表を見て、時計に視線を落とすアスカ。
そして、もう一度時刻表を見る。

「次は…40分ね…あと8分ぐらいね…」

「じゃあ、待ってようか。」

二人はバス停で並んで立った。
屋根があるおかげで陽射しを直接浴びずにすんだ。
すうっと風が通って行き、アスカの髪をそよがせていく。

「今の風、涼しかったね。」

「そうだね。やっぱり海が近いと違うのかな?」

セミの鳴き声が、うるさいぐらいに響いている。
道路の方に視線を向けると陽炎で景色が歪んで見えた。
ふとシンジは隣に立っているアスカを見る。
アスカもぼんやりと車道の方に視線を向けていた。
栗色の髪が時折、風に揺れて広がる。
ふと、シンジは視線を目の前の山の方に向けた。
間近に大きな山があり、その山の向こうに見える入道雲が少しずつ大きく広がってきていた。
 
 
 
 
 

「どこで降りるの?」

バスの窓側の席に腰かけてアスカはシンジに訊ねた。
シンジは先程見ていたメモに視線を落として答える。

「三月海岸前…だって。」

アスカは視線を運転席の後ろにある順路表に向ける。

「三月…あ、あれね。ここから…8つめのバス停みたい。」

「だいたい20分くらいだね。」

バスが出発する。
数分ほどバスは走ってから海岸沿いに出る。
アスカは嬉しそうに窓から見える海をじっと見つめた。

「この辺りはあまり人がいないね…」

アスカはそう呟いた。
堤防上を走っているバスの左手に海が広がっているが、
砂浜は少なく、すぐ波打ち際になっていた。

「そうだね…たぶん、泳げないんじゃないかな?」

バスはそのまま海岸沿いの道路をゆっくりと走って行く。

「何か、のんびりしてるね。
もっと、人がいっぱいで賑わっているかなって思っていたけど。」

「思っていたのとはちょっと違う感じだね。」

アスカはにっこりと微笑んで告げた。

「でも、アタシはこういう落ち着いた感じの方が良いな。」

「まぁね。僕もそう思うよ。」
 
 
 
 
 
 
 

「ここでいいの?」

シンジを振りかえってアスカはそう確かめた。
二人の目の前に大きめの旅館が立っていた。
日本風の2階建ての建物だった。

「うん。ここでいいみたい。」

「結構、良いところじゃない。」

「ねぇ?」

二人は荷物を持って、玄関に向かう。

「いらっしゃいませ。」

玄関に入ると女性が一人奥から出てきた。

「本日から2泊予約していた碇ですが。」

シンジがそう告げると、女性はにこやかな笑みを浮かべて答えた。

「はい、伺っております。碇様と、お連れお一人様ですね?」

その言葉を聞き、アスカの頬が少し赤くなる。
何か…
すごく恥ずかしくなっちゃった。
まるで、アタシたちが…
しかし、そんなアスカの様子に気づかずにシンジは普通に答える。

「はい。そうです。」

「では、こちらの宿帳の方のご記帳お願いいたします。」

記帳を済ませ、その女性(どうやら女将らしい)に連れられて二人は部屋に案内される。
二人の部屋は2階の角部屋だった。
その女性が襖を閉めていなくなってから、
アスカは窓に駆けより、顔を出して海をじっと見つめる。

「うわぁ。海が目の前ね…」

「すごいね。」

シンジもやってきて海を見つめる。
砂浜にはいくつかのパラソルが開いており、波打ち際で遊んでいる子供達がいた。
松がある程度の間隔で植えられていて、それらが風が揺れる様が見える。

「どうする?すぐ泳ぎに行く?」

「もちろん!」

アスカは即答する。
そしてシンジをじっと見つめる。

「アタシ先に着替えるから、シンジは外で待ってて。」

「はいはい。じゃあ、着替え終わったら携帯に電話して。
僕は旅館の中見て回ってるよ。」

「うん。」

アスカは満面の笑みで頷いた。
 
 
 
 

「海ね。」

「そうだね、海だね。」

あまり意味のないような言葉を交わして、アスカは大きなイルカの浮き輪を持って駆け出した。
シンジはその様子を笑顔で見つめる。
自分はパラソルやシートを持っているので、駆け出すわけにはいかない。
とりあえず、適当な場所を見つけてパラソルを立てシートを引く。
そして、荷物を置いてからやっとシンジはアスカの元に歩き出した。

「シンジ、早く〜!」

アスカがシンジに手を振って見せる。
わざわざ今日のために買ったというビキニの水着姿。
正直、その姿を恥ずかしくてちゃんと見れないのだが、
シンジは軽く手を振ってアスカの元に向かう。
アスカは波打ち際から結構離れたところに立っていた。
それでも、まだ腰あたりに水面がある。

「結構、遠浅になってるんだね。」

シンジはそんなことをアスカに告げながら近づいてくる。

「そうね…まだ腰の辺りだし。」

と、シンジの視線がアスカのくびれた腰に向けられる。
慌てて視線をそらすシンジ。
アスカはそれをみてくすりと微笑んで告げた。

「ねぇ、シンジ…」

「何?」

なるべくアスカの顔だけ見ようとするシンジ。

「この水着、どうかな?」

「え?」

シンジは恐る恐る視線をアスカの顔から首、胸に向ける。
そして耳まで真っ赤になりながら、こう答えた。

「う、うん。に、ににに似合ってると…思う、よ。」

「ありがと〜。」

アスカはそう答えてシンジに抱きつく。
いきなりの事でシンジはアスカを支えられずに一緒に倒れてしまう。
アスカの胸の感触を感じてシンジは思わず、声を上げようとするが、海の中。
思いきり海水を飲んでしまう。

「ご、ごほっ…アスカ、急に何するんだよ〜。」

「愛情表現よ。」

にっこり微笑んでアスカはさらっとそう答える。

「へ?」

その言葉に固まってしまうシンジ。

「今、なんて言ったの?」

「別にぃ。なんでもないよ。」

アスカはくすくす笑いながらそう答えた。
 
 
 
 
 
 
 

しばらく遊んだ後、二人は砂浜に戻ってきていた。
パラソルの下で二人は並んで座っている。
アスカはタオルを足に巻き、シンジはTシャツを着ていた。
そうしているのはお互いに何となく恥ずかしくなったからだった。
今、二人はぼんやりと海を見ていた。
1時間ほど海で遊んだ後、休憩がてらこうして座っていた。

「空…青いね…」

「そうだね。」

「砂浜も真っ白だし。」

「そうだね。」

「シンジ、そうだねしか言ってないよ…」

「そうだね。」

アスカはくすくす笑ってシンジを見る。
シンジもにやにやと笑みを浮かべていた。

「海も綺麗だし、ここは意外と穴場だと思わない。」

「うん。そうだね。またみんなで来たいね。」

笑顔のままでアスカは答える。

「でも、相田はどうかな?ここあんまり人が居ないから、
女の子の水着姿とかあんまり撮れないよ。」

「そうかも…でも、まぁみんなが来るんだったら来るよ。」

「アタシ達の水着姿を撮るために?」

「たぶん…ね。」

「はぁ、それはそれで困った話ね…」

そう答えて、アスカは視線を海に向ける。
空は濃い青で水平線の方には入道雲が広がっている。
砂浜も良く整備されていて、波打ち際まで真っ白な細かい砂が広がっていた。
このまま時間が止まればいいな。
ずっとこうして…
シンジと二人で…
 
 
 
 
 
 

「もうすぐ陽が落ちるね…」

アスカが水平線の方を指差す。
二人は並んで砂浜を歩いていた。
アスカはノースリーブにショートパンツ姿で、シンジはTシャツにロングパンツ姿だった。、

「明日はどうする?」

「もちろん、午前中は海で泳ぐ!」

アスカは元気にそう即答した。

「午後は?例の神社さんに行くの?」

またしても即答するアスカ。

「うん。夏祭りやってるみたいだし。」

少し考えてからシンジは答えた。
夕陽が海を真っ赤に染めて行く。
二人の影が砂浜に長く伸びる。

「じゃあ、夕方ぐらいからの方が良いのかな?」

「そうね、できれば午後はお昼寝したいな…」

そのアスカの答えに、シンジも頷いて答えた。

「うん、それいいかも。
こういうところでお昼寝したら気持ち良いだろうな。」

「じゃあ、それで決定ね。」

「うん。いいよ。」

そんな話をしているうちに夕陽が水平線に沈んで行く。

「綺麗ね。」

「そうだね。」

二人は立ち止まって夕陽が沈んで行く様をじっと見ていた。
ちらりとシンジはアスカを見た。
アスカの横顔が夕陽で真っ赤に染まっている。
おそらく自分の横顔も同じなのだろう。
おかしいね。
ずっと昔から一緒にいるのに。
アスカの顔は見飽きないよ。
ずっと、見ていたいと思うよ。
こうして一緒にいる時間をすごく大切にしたいと思うよ。
アスカはどう思ってる?
僕と同じようにこの時間が大切だと思ってくれてる?
と、アスカがシンジの方を見る。
交わる視線。
と、にっこりとアスカが微笑み、すっとシンジの手を握る。
少し驚いた表情を浮かべるシンジにアスカは笑みを投げて視線を夕陽に移した。
 
 
 
 
 

入浴後アスカは、浴衣を着て窓辺に座って波の音に耳を済ませていた。
アスカの髪はまとめて結い上げていた。
海から吹いてくる涼しい風が部屋に入ってくる。
そのたびにまとめきれなかった後れ毛がゆらゆらと揺れる。
右手にうちわを持っているが、それを使わなくても十分涼しかった。
シンジ…
どう思ってるのかな?
視線を部屋の中に向ける。
今アスカが居る部屋と奥の部屋にそれぞれ布団が敷かれている。
夕食後に寝所の準備がされていたのだったが、
最初は奥の部屋に並んで布団が敷かれた。
しかし、さすがにそれはまずいというシンジの言葉で、
この部屋と奥の部屋に布団が敷かれる事になった。
アスカとしてはシンジの反応は当然のことだし、
それぞれに部屋に分かれて寝ることに対しても異存はない。
しかし、昔からの付き合いである二人は小さい頃によく布団を並べて一緒に寝たことがあった。
なぜか、アスカはその時のことを思い出していた。
せっかくだし…
昔のように一緒に寝ても…
アスカはそんなことを考えていたが、思い直したように首を振る。
それって…やっぱり誘っているように思われるよね…
そんなつもりじゃないのだけど…
でも、でも…
以前は一緒に寝たりもしてたわけだし。
そんな感じで一緒に寝れないかな…

無理かな…

あの時はまだお互い子供で。
異性として見てなかったものね…

でも、今は…
お互いを男と女として見ているものね…
それはホントは嬉しいことなのだけど…
アタシをちゃんと一人の女の子として見ていてくれるってことだから。

でも、こういう時はちょっと悲しくなるよね。
アタシは以前のようにお話しながらいつのまにか寝たりとか、
そういうの何かいいなぁと思ってるだけなのに…
でも、シンジはそう思ってくれないだろうな…



それだったら、いっそのこと、こうして別々にした方が…

と、シンジがタオルを頭に巻き、浴衣姿で帰ってきた。

「あれ、今日はアスカの方が早かったんだね。」

「うん。別にいつも通りのつもりだったんだけど。」

「ふうん。」

シンジは座椅子に座り、テーブルに置かれていたうちわに手を伸ばす。
そしてアスカをじっと見つめる。

「どうしたの?」

「そうか…髪をまとめてるんだね。いつもとちょっと雰囲気が違うなって思ったから。」

「おかしい?」

「ううん。似合ってる…よ。」

「そう?」

アスカは首を傾げて見せる。

「あまりに絵になりすぎてて怖いけどね。
だって、夏の夜に浴衣姿で窓辺に座る女の子だなんてね…」

「そうね…確かにそうかも…」

アスカは頷いてにっこり微笑んだ。
それからしばらくは他愛もない会話をかわす二人。
そして、アスカが小さく欠伸をしたのを見て、シンジは時計に視線を向ける。

「もう、こんな時間か…じゃあ、そろそろ寝ようか?」
 
 
 
 
 

シンジは寝返りを打って小さくため息をついた。
う〜ん。
やはりというか。
全然眠れないよ。
シンジの視線の先には閉じられた襖があり、その奥ではアスカが眠っているはずだ。
部屋もちゃんと別れているのに…
どうも気になっちゃうな…
アスカ…寝ちゃったかな?
半分ほど開いた窓からは波が打ち寄せる音が聞こえてくる。
ふう…
どうしてだろう?
昔はよく一緒に寝たりしていたのにね。
まぁ、あの頃はお互い異性だって意識してなかったしね。
それはそれでしょうがないけど…
あの頃は単純だったよね。
アスカはアスカだったから。
女の子とかそういうんじゃなくって、アスカだったから。
だから、何も意識しなくて済んだのに…
いつからだろ?
アスカを一人の女の子として意識し始めたのは…

やっぱり、中学かな?
でも、よくよく考えてみれば、小学校の高学年からかもしれない。
その頃から周りを気にし始めたし…


そうか…
そういえば、こんなことがあったっけ?
小学校の6年頃だっけ?
それまでは他の子たちがアスカのこと可愛いとか綺麗だとか言っていても、
あまりピンと来なかったんだけど。
ある日、他のクラスの子に告白されて。
何かすごくショックで。
何がショックだったのか良くわからなかったけど…
でも、それからなのかな?
アスカを一人の女の子として見るようになったのは…
それからもお互い普通に接しているつもりだったけど、
あまりお互いの部屋に押しかけたりしなくなったし。
二人きりって状況を作らなくなったような気がする。
もちろん、学校への通学とかは二人だけど、それはそれで周りにいっぱい人がいたし、
登校途中で他のクラスメートに会ったりして、一緒に登校したりするし。


こうして考えてみると、幼かった時のような親密さって今の僕達にはないのかな?
それは異性としてお互いを意識している限り、もう得られないものなのかな?


シンジは大きくため息をついて、あお向けになって天井を見つめる。
そういうわけじゃないよね。
たぶん…
今の僕達は、お互いの心がわからないんだよね。
僕のアスカに対して持っている思いとアスカが僕に対する持っている思い。
それが同じなのか、それとも違うのか。
それがわからないから。
だから、お互い、一定の距離を作ってしまう。
もう一歩が踏みこめない。

そう、たぶん、お互いの思いを知れば。
そうすれば、以前のようになれるかもしれない。
でも、そのためには…


はぁ…意気地なしだな…僕は…


シンジはゆっくりと起きあがる。
開け放たれた窓からいつのまにか昇った月が水面を銀色に輝かせているのが見て取れる。
シンジは小さく息をつく。
ちょっと散歩するかな…
このまま、こうしていてももっと寝れなくなりそうだし…
そして、シンジは音を立てないようにして、廊下に出る襖を開けて出ていった。
 
 
 
 
 
 

シンジは堤防の縁に座って海を見つめた。
海から吹きつける風が以外と強い。
前髪が風でゆらゆらと揺れた。
松の木々が風がざわざわといざわめく音が聞こえる。
波も心持ち強いようだ。
白く崩れた波頭がそこかしで見て取れる。

「もうすぐ満月だっけ?」

夜空に掛かる月はほぼ円に近い形だったが、
右下の方が心持ち欠けているように感じられた。
よくよく耳を済ませてみると、木々のざわめき、
波の打ち寄せる音以外に虫たちの鳴き声も聞こえてくる。
背後からかすかに足音が聞こえてくる。
と、アスカの声がシンジの耳に入った。

「たしか明日じゃない?満月って。」

振り向くと、寝る前と同じ浴衣姿のアスカがいた。
ただし髪は解かれ、風でふわふわと舞っている。

「起きたんだ?」

「ううん。寝れなかっただけ。それでシンジが出ていったから。」

「様子を見に来たと。」

「そう、もしかしたら誰かと逢引きとかしてるかもってね。」

シンジは苦笑を浮かべて答える。

「逢引きとは古風だね。」

「だって、一番このイメージに合ってない?」

アスカはシンジの隣に来て、その隣に座った。

「まぁ、確かに日本的情緒に満ちているけどね。」

そのシンジの言い方にアスカは笑みを答えて訊ねる。

「自分で言っててわかってる?」

「たぶん…ね。」

お互いに顔を見合わせて微笑み合う。

「で、アスカも寝れなかったんだ。」

「そうね…」

「理由は…って聞くまでもないかな?」

「たぶん…ね、シンジと同じ理由だと思うわ。」

「そうか…」

そこまで言って、シンジは視線を水平線に向けた。

「どうしたものかな?」

「そうね、どうすればいいの?」

くすりと微笑んでシンジは答える。

「わかってるくせに。」

「そうね…お互いにわかってるわよね。」

小さく息をついてアスカは言葉を続ける。

「付き合い長いから。」

「そうだね…」

そのまま二人はしばらく黙ったままだった。
月の光を写してきらきら輝く海と潮の匂いを運んでくる浜風と打ち寄せる波の音、
そしてお互いの存在が感じられる全てだった。

「ね…シンジはアタシのことどう思ってる?」

ふいにアスカはそう告げた。
シンジはアスカを見る。
アスカはにっこり微笑みながらシンジを見ている。

「好きだよ。」

口を突いて出た言葉はそれだった。
シンジは自分でも驚くほどすんなりとその言葉を口にしていた。

「この感情は他の誰にも抱いてないよ。」

アスカはうつむいて小さく答えた。

「そう…」

「アスカは?」

ちらりと上目使いでシンジを見るアスカ。

「アタシ?」

「そう…アスカは僕のことどう思ってる?」

「好きよ、ずっと前から。」

アスカはシンジの顔をまっすぐ見つめ囁くようにそう答えた。
その瞳は月の光できらきらと輝いている。

「そうか…」

「そうよ。ずっとシンジだけを見ていたんだよ?」

「ありがと。嬉しいよ、すごく。」

それを聞いて、アスカはくすりと笑みを浮かべる。

「じゃあ、態度で示してくれる?」

「え?」

アスカは瞳を閉じて顔をあげる。
シンジは驚いたように答える。

「え、で、でも。」

アスカは何も答えないで瞳を閉じて待っている。
シンジは少しうろたえた様子でそっとアスカの肩に手をかける。
そしてゆっくりとアスカの唇に…

「え?」

アスカは驚いて目を開ける。
シンジは額に軽くキスしただけだった。

「今日はこれで勘弁して…」

シンジは耳まで真っ赤になって、そう告げた。
その様子にアスカはくすくす笑い出す。

「もう、そんなに笑わないでよ。」

シンジは少しふてくされるようにそう告げた。

「シンジ、大好きだよ!」

アスカはそう告げるとシンジに抱きついた。
今度はなんとか抱きとめるシンジ。
まじまじとシンジの瞳をアスカは見つめる。
至近距離のため、シンジの心臓が早鐘のように鳴り出す。
アスカの柔らかい体の感触を感じる。

「ね、シンジ…」

「な、なななに?」

シンジはどもりながら答えた。
体に感じるアスカの感触にややオーバーロード気味だった。

「今日、一緒の部屋で寝てくれる?」

「いいいいいいいいいいいいいい…いっしょ?」

シンジはアスカの発言に言語処理能力がなくなってしまう。

「ね?駄目?」

至近距離でアスカにそうお願いされてしまい、シンジはスパークしてしまった。
こくこくと頷くシンジに、アスカはにっこり微笑んだ。

「じゃあ、部屋に戻りましょ。」

シンジと手をつなぎアスカは旅館に向かって歩き出す。
満月に近い月が二人の長い影を道に作った。
その影はまるで一つのように寄り沿っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 

FIN.
 
 
 
 
 
 
 







NEXT
ver.-1.00 2000/09/11公開
ご意見・ご感想は sugimori@muj.biglobe.ne.jp まで!!






あとがき

どもTIMEです。
部屋16万ヒット記念SS「青い海、白い砂浜」です。

またしても公開がおそくなってしまいましたが、16万ヒット記念です。
#今回は予想外のトラブルもありまして…
さて、今回はシンジ、アスカのある夏の日のお話です。
幼馴染の二人が、初めて二人だけで旅行に出かける話です。
お互いを異性として意識するようになり、
以前のような親密さがなくなってしまったと感じている二人ですが、
最後には、お互いの付き合いの長さがその距離を埋めたようです。

さて、このお話はLASですが、
同じような設定(二人きりで海にお泊まり)のLRS,LMSもあったりします。
それぞれ他のサイトで公開予定ですので、探してみてください。

では連載の方でお会いしましょう。
 





 TIMEさんの『青い空、白い砂浜』、公開です。







 碇家も
 惣流家も

 理解有るよね (^^)


 お年頃の男の子と女の子の二人旅・・・

 ちっちゃいときからの幼なじみで
 まだまだじゃれ合っているイメージが強いのかな?


 でもほら、
 おとーさーん!おかーさーーん!!

 やっぱり二人はお年頃。だったじゃん〜



 ・・・いや、ここは、EVA世界のお約束として、
 
 「パパズはしらなかっった。
   &
  ママズは確信犯」

 なのでしょうか☆




 さあ、訪問者のみなさん。
 記念記念のTIMEさんに感想メールを送りましょう!










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