彼女は僕の胸に飛び込む。
そして、僕の身体にしがみつく。
まるで、僕がいなくなるのではないかと疑っているように。
「それが真実だから。」
僕は意識的に感情を込めない声で答える。
彼女は僕の顔をきっと険しい表情で見詰める。
「君は彼の代わりが欲しいだけで、僕が必要なわけじゃない。」
口調を代えてやさしく諭すように話す。
彼女も分かっているはずだ、本当に好きなのは僕じゃなくて彼なんだと。
僕は彼の代わりでしかないと。
「ほんとに僕のこと好きだったら、証拠を見せて。」
「証拠?」
「そう、証拠。」
胸が痛む。
こんなことしたくなかった。
でも、このままだと彼女は…
僕は彼女を抱きしめ…
めぞん150万ヒット記念
SIDE A REI
「会いに行くよ」
Time/99
そんな…
レイはシンジに抱きすくめられ、驚いたようにシンジを見る。
シンちゃん本気なの?
今までこんなことしなかったのに…
「ねぇ、本気なの?」
思わずレイはそう尋ねてしまう。
シンジはこっくりと肯く。
「僕のこと好きでいてくれるんならいいでしょ。」
そして、シンジはじっとレイの瞳を見つめる。
澄んだ夜の空色の瞳がレイを見ている。
きれいな瞳。
…
黙ったまま見つめ合う二人。
レイは小さく息をつく。
そうなんだ…
アタシは…
どうして今まで気づかなかったのだろう。
どうして、アタシはシンジのこと…
どうして…
彼のこと…
忘れられないんだろう…
どうして?
こんなに心配してくれる人を…
アタシは…
…
レイはうつむく。
シンジは何も言わないで、レイから離れる。
そして、小さくため息をついてシンジは話し出す。
「ごめん。でも、逃げちゃ駄目だよ。
今は良いかもしれない。でも後で後悔することになる。」
こっくりとうなずくレイ。
そして、顔を上げて微笑む。
「ありがと、シンちゃん。良く分かった。」
そうなんだ…アタシはシンちゃんに…
レイはシンジを見つめてうなずく。
こっくりとうなずきかえすシンジ。
「一つだけお願いがあるの。」
街灯に光にレイの瞳がきらりと輝く。
「何?」
レイは自分の足元に視線を移して小さく言った。
「アタシがシンちゃんのこ大好きだってことは覚えていて。」
「…わかった。」
シンジはそれだけ答える。
「じゃ、アタシ帰るね…おやすみなさい。」
レイはにっこりと微笑んで肯くと、駅の改札に向かって歩き出した。
アタシは…
シンちゃんを…
彼の代わりにしようとしていたんだ…
ホームに立ちぼんやりとレールを見つめながら
レイはそんなことを考えていた。
忘れたつもりでいた。
シンジが側にいてくれたら忘れられる。
そう思っていた。
でも、それはシンちゃんに逃げているだけで、
彼のことに向き合っているわけじゃないんだ。
分かってた…
分かってるはずだった。
逃げちゃ駄目だってことは…
でも…
アタシは…
ごめんね、シンちゃん。
アタシ、シンちゃんにすごく甘えてたんだね。
辛いことと向き合ってるつもりが、いつも間にか逃げてたんだね。
ありがと…
今まで一緒にいてくれて。
でも、今日からは一人で頑張ってみるね。
だから…
さよなら…
レイは彼の名前を呼んだ。
しかし、彼からの返事はない。
何処に行ったの?
ねぇ、返事してよ。
レイは座り込んだ。
どうして?
アタシの何処がいけなかったの?
アタシにはあなただけだったのに…
どうして?
アタシにはわからない…
約束したのに。
アタシの側にいてくれるって。
どうして?
会いたい。
今すぐ会いたい。
あなたのもとへ飛んでいきたい。
何処にいるの?
ねぇ、教えて。
お願い。
もう一度だけ。
しかし、彼からの返事はなかった。
レイははっと目を覚ます。
ふううと小さくため息をつく。
また、あの時の夢だ。
もう、忘れたと思ってたのに。
それも、全部あの手紙のせいだ。
忘れていたのに。
どうして今更手紙なんて書いてくるの?
しかも、会いたいだなんて。
自分勝手すぎるよ。
アタシは…
アタシ…は…
レイはもぞもぞと体を動かし目覚し時計を見る。
はぁ、まだ夜中の4時だよ。
寝なきゃ。
レイは仰向けになって部屋の天井を見つめる。
でも…
寝られそうもない。
どうしてなのかな?
アタシは忘れてたのに。
どうして、アタシがやっと忘れた頃にまた現われるのかな?
どうすればいい?
無視してればいい?
それとも返事を書く?
でも、返事って何を書くの?今更。
レイはまたため息をつく。
「会いたいな…」
ふっと、ある男の子の顔が浮かぶ。
もう、しばらく会っていない。
彼とは親友だったし、もしかして何か連絡言ってるかな。
…
会いに行こうか?
…
でも、アタシを歓迎してくれるだろうか?
レイは首を振った。
でも、このままでいるよりは。
そう決心すると、なぜか不安も少しは和らいだようだ。
もう、何年も会ってないんだよね。
アタシが意識して避けてたから。
会うと、またアタシの気持ちが揺らぐかもしれないし。
何よりも彼のことを思い出してしまうから。
でも、会わないと。
いまさら、そんな事言ってられないし。
「ごめん。もう君とは会えない。」
どうして?
どうしてなの?
「引っ越すんだ。遠いところに。」
何処に行くの?
どうして教えてくれないの?
「多分、もうここには戻ってこないと思う。」
アタシは?
アタシはどうすればいいの?
「ずっと、君の側にいたかった。」
どうして?
そんなに簡単に諦められるものなの?
「僕にはもう時間がない。」
そんな。
ずっと一緒にいようって約束したじゃない。
「だから。もう、今日で終わりにしよう。」
終わりって…
本当なの?
もうアタシ達は終わりなの?
「…」
ねぇ、答えて。
答えてよ。
行かないで。
アタシを一人にしないで。
「シンジ君が君を…」
何のこと?
シンちゃんがなんなの?
そして、彼はいなくなってしまった。
「ほう、レイ君が来るのか?何年ぶりだ?」
ゲンドウが新聞から顔を上げ、ユイの方を見る。
「そうですね。もう3、4年は会ってないような。」
「そうか、で、何時くるんだ?」
「あさっての飛行機で来るそうです。」
ゲンドウは少し考えてから尋ねる。
「あさってというとマナ君が出発する日だな。」
「そうですね。」
「…君のしわざか?」
「さあ、何のことでしょう?」
にこにこと微笑むユイ。
ゲンドウはため息をつく。
「まぁ、決めるのはシンジだ。我々はそれを見守るだけか。」
「そうですね。」
ユイもそれに応じる。
二人はそれぞれのコーヒーに口をつけた。
会いたいよ。
どこにいるの?
会いたいよ。
アナタのこと考えるだけで、こんな気持ちになるなんて。
どうしてなのかな?
好き?
ううん。そうじゃない。
だって、そうじゃないもの。
もうずいぶん会ってないよね。
だから、会ってお話したいの。
それだけ?
そう、それだけ。
会って、お話して。
抱きしめて欲しくないの?
そんなことないよ。
アタシは彼のことそんな風に思ってないから。
うそつき。
どうして?
本当はわかっているんでしょ?
何が?
アナタは彼のことを…
「本当に行くのね?」
「うん。決めたの。」
「そう…姉さんに聞いたんだけど、
今、マナちゃんが一緒に暮らしてるんだって。」
「マナちゃん…って、あの?」
「そう。御両親が一年間海外出張なんですって。」
「そうなんだ。」
「だから、シンジくんは…」
「…シンちゃんがどうかしたの?」
「ううん。なんでもないわ。」
「そう。で、向こうの空港には誰が来てるの?」
「分からないわ。とりあえず、行けば分かるそうだから。」
「ふーん。」
「電話番号は控えてるわね。」
「うん。」
「会えないようだったら、電話しなさいね。」
「うん。わかってる。」
「そう…でも心配だわ。」
「だいじょうぶよ。自分の娘を信頼しなさいって。」
「そうね…じゃ、行ってらっしゃい。」
「行ってきまーす。」
「…ふう、あの年で三角関系にならないといいけど…
うちの姉さんは何か企んでるみたいだし。」
「う…ん。」
シンジはゆっくりと起きあがる。
あたりはまだ暗い。
窓の外は薄く明るくなってきている。
時計を見る。
まだ朝の5時だ。
どうしてだろ?
なんか目が覚めちゃったな。
ゆ…め…か。
そう、なんか夢見たよ。
え……と。
なんだったろ?
よく思い出せないや。
ずっと昔…
そうまだ幼稚園に通って時の頃の夢…かな。
よく思い出せない。
ほんの少し前のことなのに。
夢の中でははっきり覚えていたのに。
そう…
約束した…
指切りをした…
でも誰と?
…
思い出せない。
ふと、あることに気づきくすりと笑うシンジ。
なんか、忘れていることばかりだな。
マナのこともそう。
また何か大切なこと忘れているのだろうか。
シンジは顔を上げ、窓から明けていく外の風景を眺めていた。
あとがき
どもTIMEです。
めぞん150万ヒット記念SS 「会いに行くよ」はいかがでしたか。
この作品はTimeCapsuleのサイドストーリですが、
レイとシンジが会わなくなった時の話を書いてます。
あとは何年も会ってなかったのに急に会うことになった
いきさつも少しだけ書いてます。
このSSよりも先にレイは本編に出てきてますが、
ここで紹介したことが13話でのメインになります。
#かろうじて間に合いましたね。(^^;;
次はアスカ編です。
アスカのドイツ留学直前の話を書いてます。
では、アスカ編「いいたいこと」でお会いしましょう。