この部屋12万ヒット記念SSは
連載Moon-Stoneのサイドストーリーです。
Moon-Stoneを読まれていない方はまずそちらから読まれることをお勧めします。
シンジ…
やっと会えたね…
部屋12万ヒット記念SS
「いつまでも…」
Moon-Stone Side Story
Written by TIME/99
僕は目を覚ました。
部屋の中は明るかった。
つけたまま寝ちゃったのか…
僕ははっきりしない意識の中でふと隣を見る。
そこにはやすらかな寝顔のレイがいた。
レイ?
僕の意識ははっきりとした。
そうか…
ついさっき…
僕はレイを…
抱いたんだ。
それで、そのまま寝ちゃったんだ。
ん…
ちいさく声をあげるレイ。
起きるのかな?
しかし、少しだけ身じろぎしたが、レイは安らかに寝息を立てている。
その顔をまじまじと見つめるシンジ。
やっぱりすごくかわいい。
僕は抱いちゃったんだ…な。
この子を。
今でもレイの身体の感触が僕の体中に残っている。
なんか、すごく…
ふとシンジはレイの頬に触れる。
暖かい…
と、風で雨戸ががたがた音が立てる。
そう言えば、台風はどうなったんだろ?
シンジはそんなこと考えたが、くすりと微笑んだ。
まぁいいや、どうでも。
そして、頬から髪に手を移す。
レイの髪にくるくる指を絡ませる。
不意にシンジはその指の動きを止める。
何してるんだろ?
そして自分の手を見る。
今、無意識だったけど、どうして女の子の髪に…
いままでそんなことしたこと無かったし、そんな機会も無かったけど。
まるで昔からの癖みたいに…
シンジは苦笑を浮かべる。
まさか、ね…
すると、レイが大きく息をついて、身じろぎする。
シンジはどうしようか迷ったが小さく声をかける。
レイ?
レイはまた息をつくとまぶたはぱちぱちさせながら、瞳を開けてシンジを見る。
ぼんやりした表情でシンジを見ていたレイだったが、状況を把握したのか、
慌てて、ブランケットで胸の前を隠す。
そして真っ赤に頬を染めて上目がちにシンジを見る。
アタシ…寝ちゃったの?
うん。と言っても僕も寝てたけど。
それを聞き、少しだけ安心したかのように息をつく。
シンジの方をちらりと見てまた赤くなるレイ。
そして小さな声で尋ねる。
アタシ…変じゃなかった?
シンジはその言葉の意味が最初はわからなかった。
変?
こくこくうなずくレイ。
レイが何を言いたいのか気付いてシンジの頬も真っ赤になる。
そんな、僕だって初めてだったし…普通だと思うけど。
ほんとう?
レイがシンジの方を見て、覗き込むように尋ねてくる。
たぶん…ね。だって、比較対象が無いわけだし。
レイにだって、僕が変だったかどうか分からないでしょ。
レイは耳まで真っ赤になってこくこく頷いた。
しばらく黙りこくる二人。
でも…
レイがそう呟いて、黙ってしまう。
でも?
ううん…やめとく。
どうかしたの?
レイはじぃっとシンジを見て首を振る。
聞かないほうがいいかも。
と、言われると聞きたくなるよ。
そうだよね…
小さくため息をつき、シンジの方に身体を寄せるレイ。
シンジの胸にレイの胸が当ってシンジがどきりとするが、
レイは構わずシンジに身を寄せて耳元に囁く。
お互いが裸で触れ合っていることも衝撃的だったが、
レイの口から漏れた言葉もシンジには衝撃的だった。
その言葉を聞き、平謝りのシンジ。
レイは手を振って答える。
だから、ショック受けるだろうと思ったのに…
ごめん。僕がもうちょっと気をつけてれば。
レイは微笑んでシンジの首に抱きつく。
そして耳元に囁く。
誰だってそうなるみたいだから仕方ないよ。
少し動揺しながらレイを抱き返すシンジ。
どうも裸のレイは華奢に感じて抱きしめるのに少し遠慮してしまう。
二人は鼻が触れそうな距離で見詰め合う。
そ、そんなものなのかな?
だから、次からはもとやさしくしてね。
そうシンジの耳元に囁くレイ。
つ、次から。
シンジはごくりと喉を鳴らす。
そうだよね。
次、もあるわけだし。
なんかどきどきしてきたよ。
どうしてだろう?
レイがシンジの顔を覗き込む。
シンジどうしたの?どきどきしてない?
うん。どきどきしてる。
レイは少し頬を赤らめているシンジを見る。
もしかして…
そして、また顔を寄せてシンジの耳元に囁く。
また?
その言葉にシンジは慌ててレイから離れて手をふる。
いや、全然そんなつもりじゃないから!本当に!
そんなシンジの様子を見てレイはくすくす笑い出す。
そうなの…でも、アタシもそれはちょっと大変だし…
そうだよね…だから、またの機会ということで。
そうね…また…ね。
しっかしいい天気だな。まさに台風一過だな。
ケンスケが手をかざして空を見あげる。
空は真っ青に輝き、雲もどこにも見えない。
シンジ達一行は予定はずれたがキャンプ場に来ていた。
いい天気やな。
トウジも満足そうにうなずく。
その後ろでヒカリが二人を見てため息をつく。
そこの二人、サボらないでね。
はいはい。
しぶしぶ二人はヒカリの元に戻り荷物を持つ。
で、こっちが男子用で…
ヒカリは手前のコテージを指差す。
こっちが女子用ね。
ヒカリが指差したのは少し離れたところに立っているコテージを指差す。
トウジは荷物を持ってシンジに声をかける。
おら、シンジ、行くで。
…あ、う、うん。
シンジは慌てて荷物を持ってトウジの横に並ぶ。
トウジはうさんくさげな表情を浮かべていたが、何も言わないでコテージに向かって歩き出した。
コテージに入って、それぞれ荷物を下ろす。
さあて、今からどうしようか?
ケンスケは早速カメラを取り出しながらそう告げた。
と、シンジは立ちあがって二人を見る。
ごめん。僕ちょっと散歩に行ってくるね。
そして部屋を出て行くシンジ。
それを見送った二人は顔を見合わせる。
なぁ、ケンスケ。
最後まで聞かずにうなずき返すケンスケ。
そうだね、今日はいつもと違うな。
なんやあったんやろか?
シンジは一人で遊歩道になっている道を歩いていた。
左側は渓流が流れている。
かなり上流に来ているので、大きな岩が転がっている。
渓流つりには絶好だね。
トウジが喜びそうなところだな。
シンジはそう考えながら、ゆっくりと遊歩道を歩いていく。
それはその渓流の上流に向かっている。
あの日の後もレイはそれまでと同じように僕に接してくれる。
でも、僕はそれまでのようにレイに接することができない。
心のどこかでレイのことを避けている気がする。
どうしてだろう?
僕はレイを好きだ。
この気持ちに偽りは無いはず。
ずっとレイのそばにいたい。
そう思っている。
二人の関係がどうであろうと関係ない。
僕がレイを守る。
そう思っている。
なのに…
どうして、こんなに胸が痛むのだろう。
シンジは立ち止まる。
そう…
わかっていんだ。
この胸の痛みは罪悪感なのだと。
彼女を抱いてしまったことに対する罪悪感なのだと。
あの時のレイの言葉が、心の隅に引っかかっている。
あの言葉を聞いて僕は動揺してしまった。
ゴールじゃないんだよね。
全てがこれで終わったわけじゃないんだ。
これから始まるんだよね。
それは分かっていたつもりだった。
でも、僕はどきりとした。
レイが「また」と言った時に…
僕は本当に分かっていたのだろうか?
その答えは見つかっていなかった。
それなのに…
僕はレイを抱いてしまった。
本当によかったのだろうか?
まだ早かったのではないか?
先を急ぎすぎたのではないか?
だとすると、僕は…
シンジは視線を鬱蒼と茂った森を見つめる。
まるで、僕の心の中のようだ。
好きだと告白して、そして抱いて。
本当なら、何も悩みなんて無いはずなのに。
どうして、僕はこんなに不器用なのだろう?
レイは壁にもたれて膝を抱いて座っていた。
コテージ内ではいろいろな話で盛り上がっていた。
レイはあることが頭から離れなかった。
このところシンジに避けられているような気がする。
そう、シンジに抱かれてから、気のせいか少しだけ距離を置かれているような…
気のせいだろうか?
それともあんな関係になったから、そう感じるのだろうか?
あれから一週間たったけど、シンジはアタシを求めてこない。
そりゃ、毎日じゃあ困るけど、全然って言うのもちょっと変な気がする。
もちろん、普通はどうなのかなんて知らないし。
これが普通なのかもしれないし。
でも、ちょっと。
ほんのちょっとだけ残念な気がする。
…
って、アタシ何考えてるの?
なんか、頬が熱いよ。
レイはちいさくため息をつく。
でも、いつにも増して今日のシンジは違った気がする。
いつものシンジらしくない。
どこかぼんやりとしていて、心ここにあらずって感じだった。
何だろ?
と、ヒカリがレイのそばにやって来て、話しかける。
ねぇ、碇くんって今日様子おかしくなかった?
そうたずねられてレイは少し考えてからうなずく。
うん。私もそう思う。
夕食も話を振れば、答えてくれるけど、いつもみたいな感じじゃなかったし。
ヒカリはレイをじぃっと見つめて尋ねる。
もしかして、碇くんと何かあったの?
その問いにレイはふるふると首を振る。
いくらなんでも、ヒカリには言えないよね。
私がシンジに抱かれて、それからシンジの様子がおかしい…だなんて。
そう…鈴原も心配してるし。
レイは考え込む。
そして時計を見る。
もう夜の11時を回っている。
レイは立ちあがり、近くの窓のカーテンを少しだけ空けて外を見る。
男子用のコテージの明かりはまだついているようだ。
アタシ、ちょっとシンジに会いに行ってくるね。
そう声をかけて、レイは部屋から出た。
シンジは椅子に座って夜空をぼんやりと眺めていた。
みんなと騒ぐ気になれない。
どうも気が乗らない。
トウジ達も僕の様子に気がついているようだし、変に気を使わせちゃって悪い事したな。
…
シンジはまた息をつく。
でも、今の僕は…
それどころじゃない。
わかっていたんだ。
最近の僕は怖がっていた。
僕は自分の思いを認めた。
レイが好きだ。
兄妹であっても誰よりも好きだった。
それを認めてレイに告白した。
レイは僕を受け入れてくれた。
ずっと一緒にいたいと言ってくれる。
僕も同じ気持ちだ。
すごく嬉しかった。
でも、二人で過ごすうちに不安になった。
もし二人が離れてしまったら、
二人の心が離れるようになったら。
今はお互いの事を一番に思っている。
でも、もしその心が離れてしまったら。
そんなことはないと思っている。
でも、その疑問を打ち消せない自分がいる。
そうしたら二人はどうなってしまうのか?
僕のこの思いはどうなってしまうのか?
だから、不安になった。
まるで、自分自身が存在しなくなってしまうのではないかといった不安。
僕は壊れるしかないのか?
彼女が離れて行くのを黙ってみていられるのか?
怖い。
すごく不安だ。
だから、僕はあせっていたのかもしれない。
レイと一緒にいられるように。
レイを抱けばレイは僕のものになる。
ずっとそばにいてくれるはずだ。
そう考えたのではないか?
もし、そうだとしたら。
僕は…
…
相変わらず自分の事だけを考えていたのか?
レイをこれ以上傷つけないように。
そう考えていたのに。
また、レイを傷つけたのか?
だとすれば、僕はどうすればいいのだろう?
大きくため息をついて、視線をさまよわせるシンジ。
しかし、すぐに頭を抱え込んでしまう。
それに…
僕は知ってしまった。
僕は彼女なしでは生きていけないと。
もちろん、そう思っていた。
でも、知っていることと認識していることは違う。
彼女を抱いてわかったんだ。
僕はもう彼女から離れられない。
彼女がそばにいなくなってしまえば、僕も消えてしまう。
僕は僕でなくなってしまう。
離れてしまうんじゃないかという不安を消すために、レイを抱いたとすれば、
それがかえってレイなしでは生きていけないと、自分自身に知らせることになってしまったわけだ。
何か皮肉だな。
そう自重気味に微笑むシンジの背後から声がかかる。
振り向くシンジ。
そこにはレイが立っていた。
にっこり笑ってレイは椅子を指差して尋ねた。
座っていい?
シンジはうなずく。
シンジが座っている長いすの隣に座るレイ。
そして、シンジを見てにっこりと微笑む。
その笑みを見てシンジの胸が痛む。
いつもの笑み。
僕はこの笑みの虜になってしまった。
考え事?
うん…ちょっとね…
そう答えるシンジ。
レイはうなずき空を見上げる。
目の前にはまさしく川と呼んでいいほど輝いている天の川が見える。
天の川が見えるね。
うん。
二人は黙り込んでしまう。
周りの森からさまざまな虫の鳴く声が聞こえてくる。
そして、風に乗って近くのコテージから笑い声が聞こえてくる。
トウジ達もまだ起きているようだ。
そしてレイがシンジの肩に頭をもたれさせる。
ね…シンジ。
何?
レイは少し間を置いてから尋ねた。
後悔…してる?
その言葉にシンジはうつむく。
そして答えた。
ごめん。
シンジはそう言ったきり黙ってしまう。。
シンジは悪くないよ。
一瞬まばゆい光を放ち流星が夜空を横切る。
シンジは小さく息をつき告げる。
ごめん。レイには謝らないといけないことがあるんだ。
しかし、さらに何かを言おうとするシンジをさえぎってレイはこう告げた。
アタシ、後悔してないから。
その言葉に驚いた表情を浮かべるシンジ。
あの日のこと、誰がどう言ってもアタシは後悔しないから。
でも、僕は…
そう言いかけたシンジにレイは顔を上げてキスすることで妨げた。
アタシはシンジのこと大好きだから。
だって、いくら言葉で好きだといっても確証がないでしょ?
だから、もしかするとシンジがいなくなっちゃうんじゃないかって…
にっこりと笑みを浮かべてシンジを見るレイ。
シンジだって不安だったでしょ?
ずっと一緒だっていう確証が欲しかったんでしょ?
それは自分勝手な思い込みじゃないよ。
シンジは小さく息をつく。
まるで泣きじゃくっている子供みたいだ。
そう思い、シンジはもういちど息をつく。
不安だった。
今は良い。
でも、この先ずっと君を一緒にいられるのか。
ずっと君を見ていられるのか。
僕には不安だったんだ。
だから、何か確かなものが欲しかった。
私も同じよ。
シンジは私を選んでくれた。
でも、何かはっきりしたものが欲しかった。
ただでさえ不安定なのに、何も触れる物がないのは…
シンジの手をしっかりと握るレイ。
すごく不安だった。
二人は黙ったままで見つめあう。
レイはシンジを安心させるように微笑んだ。
だから、私は後悔していないの…
レイ…
だから、シンジも後悔しないで。
せっかくの二人の思い出を嫌な思い出にしないで。
シンジは小さく息をつきレイに微笑みかける。
わかった…
その答えにレイも笑顔を返す。
でも、一つだけわかったことがあるよ…
それを聞いてレイは不思議そうに首をかしげて尋ねる。
何?
シンジはすばやくレイにキスすると、くすりと笑って答えた。
僕は自分が思っていたよりも君のことが好きだって事が。
そして、二人はまた唇を重ねる。
地平線から登る天の川の下で。
虫達が奏でる音楽の中で。
二人は誓い合う。
お互いをずっと見つづけることを。
Fin
あとがき
どもTIMEです。
かなり遅れましたが部屋12万ヒット記念SS「いつまでも…」です。
この話は短期連載していたMoon-Stoneの後日話です。
#本当に最終話の直後です。
展開的にはレイを抱いてしまったシンジの苦悩と、それに対するレイの反応で終始してます。
これを連載で書くか迷って結局やめたのですが、
やはり書いたほうがいいかなと思い書くことにしました。
#それまでのシンジの反応を考えれば、こんな風な迷いは出てくるはずなので。
最初の部分はMoon-Stoneを気に入ってもらった方へのサービスっつーことで。
ちょっと転がり気味ですが。苦笑。
あと、作品とは関係ないですが最近私自身のWebサイトを立ち上げたのですが、
めぞんの方は今まで通りに更新して行きますのでご安心を。
心配されている方がいらっしゃいましたので、念のために。
今後ですが、やはりTime-Capsuleをメインで更新して行きます。
Love-Passionの方は今年中にある程度のメドをつけたいのですが、まぁ無理でしょうねぇ。
では他の作品でお会いしましょう。