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───四十億年の孤独───

 



 そして世界は砕け散り、わたしは望みどおり“ヒトリ”になった。

 

 ダレモワタシヲキヅツケナイ

 ダレモワタシニキョウセイシナイ

 ダレモコナイ

 ダレモモンクヲイワナイ

 ダレモワタシヲモトメナイ

 ダレモワタシヲオイテユカナイ

  ヒトリダカラ

 ソウ

  ダカラ

 

 ワタシハ“ヒトリ”ダ

 

 星は砕け、漂う岩と塩と氷柱の群だけが、帰る場所もなく軌道を彷徨う。

 

 タイヨウノヒカリ

 アタタカイトオモッテイタモノ

 デモマブシイダケ

 イラナイモノ

 

 私はただ心地よい惰眠をむさぼり、虚空の中で星空を眺めて刻を見送り続ける。

 

 神々へ近づく依童(よりわら)として作られた巨人、その覚醒の時の中で、私は永遠を望んだ。永遠の孤独を。

 

 ワタシハヒトリデイキルノダ

 

 巨人は私の望みを具現し、すべては光りの中でうち砕かれた。文明も、命も、大地も。

 

 ソシテ、オロカナロウジンタチノユメハ、キエル

 ワタシハ“ヒトリ”ダ


 何度太陽の周りを回ったろうか? 一万? 百万? いつしか私と巨人の区別もなくなった。

 

 ワタシハ“ヒトツ”ダ


 気が付くと私は小さな星の上にいた。砕けたカケラが寄り集まってできた、岩だけの星。小さなこの星には大気も水もない。

 

 ダカラダレモイナイ

 

 昨日も、今日も、そして明日も降るのは砕けた星のカケラばかり。そして砂塵の後にはほんの少し大きくなった星が残る。いや、この星はもとは同じモノ。少しずつ元の大きさに戻ろうとしている。

 

 ナゼアツマル?

 ‥‥サミシイカラ?

 

 ばかばかしい。それは重力の作用。あたりまえの物理法則。本当にばかばかしい‥‥


 私は何もしない、岩が降り注いでもこの巨人の体は傷つかない。私の“ココロノカベ”がすべてを遮るから。

 ただ星が見えなくなるのはイヤだ。岩を押しのけて地表に出る。

 そんなことを幾度繰り返したろう。星は何回天を巡ったろう。いつからか私は水の底にいた。

 濁った赤い海は嫌いな色。

 でも地表に出ても厚い雲のせいで星は見えない。私は岩を殴りつける。ゴン。地面は裂け、水蒸気が視界を曇らせて私を余計に苛つかせる。

 

 イラナイ

 ナニモイラナイ

 デモイヤダ

 ナニモナイ

 ナニモオコラナイ


 水が動いている。いつのまにか海水が澄はじめ、色が変わる。碧へ。その水が動いている。

 ‥‥ちがう。動いているのは水の中の何か。小さなモノ

 

 イキモノ

 イキモノ

 イキテイルモノ

 ワタシトチガウモノ

 ‥‥イキテイルダケノモノ

 チッポケナモノ

 ナニモカンガエナイモノ?

 ソウ、ダカラナニモカンジナイモノ

 ‥‥イラナイモノ

 ‥‥ワタシトオナジ

 

 私はそれを握りつぶす。

 

 ワタシハヒトリダ


 海の中が奇怪な色と形に溢れてゆく。海底から生えたもの、泳ぐもの、はい回るもの、張り付くもの。

 

 グネグネシタモノ

 トガッタモノ

 ハデナイロノモノ

 ツチイロノモノ

 イロノナイモノ

 

 ワタシトチガウモノ

 

 ‥‥キモチワルイ

 ‥‥キモチワルイ

 ‥‥キモチワルイ

 

 ‥‥イラナイ

 

 ワタシトチガウモノ

 

 私はそれらを握りつぶす。焼き尽くす。踏みにじる。

 ありとあらゆる命あるものを、目に付く限りの動くものを私は破壊し尽くす。

 

 イラナイカラ

 ワタシハヒトリデイキルカラ

 

 追いつけない。追いつかない。爆発的に広がる命。私が消し去るいのち。生まれてくるモノ。私が壊す者。追いつけない。増え続ける。

 

 イヤダ

 クルナ

 マトワリツクナ

 ワタシハヒトリダ!

 

 「ツカレタ」

 そんな言葉を思い出した。そうだ、私は疲れているのだ。いくら叩きつぶしても消えないモノたちに。

 そして私は歩き出す。誰もいない場所へ。誰も来ない場所へ。

 

 ワタシハヒトリダ


 極寒の地。命も凍り付く極地。ここなら何もイナイ。誰も来ない。

 私は“ヒトリ”を取り戻す。

 

 ツカレタ

 

 私は眠った。雪と氷河に埋もれて。

 

 私は夢を見た。何十億年かを経て夢を見た。

 かつて私を蔑んだもの。私を見なかったもの。私を置いていったもの。

 

 ワタシヲキョゼツシタモノ

 ソシテワタシガキョゼツシタモノ

 

 すべてが私を求めていた。すべてが私に感謝していた。すべてが私を愛していた。すべてが私にひざまづく。

 

 ムナシイ

 

 夢だとわかっているのに。

 

 デモウレシイ

 ソレガムナシイ

 

 ワタシハヒトリダ

 ソレガイヤダ

 

 イヤダ

 ヒトリハイヤダ


 目が覚めると、氷河の中は妙に明るかった。

灯り? 人工の燈火?

 見たこともない金属の機械があたりを取り巻いてる。私の体は半ば掘り起こされ、腰から上が氷のドームの中に突き出る格好になっていた。

 

 ダレガ?

 ナニガ?

 

 青白い電光の影で何かが動いた。

 

 アルクモノ

 ニホンノアシデアルクモノ

 

 ヒト?

 

 それは小さな姿。幼い姿だった。分厚い防寒服に身を包んだ子供。脅えがその脚を震えさせ、好奇心がその脚を進ませる。

 

 ああ、そうだ。これなのだ。

 

 その時

 私は微笑んだのだろうか? 泣いたのだろうか?

 

 巡り会ったのだ。再び。

 

 遠い昔に無くした全ては、今、手の中にある。

 

 ワタシハヒトリジャナイ

 

 魂の歓喜が、私の巨体を震わせる。巨体の鳴動が氷をきしませ、目の前の子供の歩みを止めさせる。

 怯えたように、驚いたように見上げる目。

 

 目

 ‥‥目

 ‥‥‥‥目

 

 

 その時、私は気づいてしまった。

 

 

 

 

 チガウ

 ‥‥チガウ

 ‥‥‥‥ウ!

 

 

 

 

 

 

    真円の瞳             三日月型の瞳

 

 

 ピンクの柔らかな皮膚     蒼白いウロコにおおわれた顔

 

 

  五本の指・丸い爪         三本の指・鋭い鈎爪

 

 

   そして二本の脚       二本の脚の後ろに延びる、太い尻尾

 

 

 

 

 

 

 

 チガウ

 ‥‥チガウ

 ‥‥‥‥チガウ チガウ チガウ チガウ!

 

 

 

ドクン

 

ドクン

 

ドクン

 

ドクン

 

ドクン

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

「うぁぁ!」

 

 

 

 ワタシハ絶叫シ

 “ソレ”ヲ握リツブス

 

 触レアウ“ソレ”ト“ワタシ”ハ光ニナリ

 氷ノ大陸ヲ吹キ飛バス

 

 “ワタシ”ハ幾ツニモ千切レ、大地ニ飛ビチッタ

 

 

 

──そして再び、終局が始まる──

 



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ver.-1.20 1997-11/00公開
ご意見・ご感想は madozawa@din.or.jpまで!!

※後書き

 

 作者の眞戸澤でございます。

 実はこの作品、一度完成した後に全面的に手を加えました。

 当初は『アダムの視点』の物語だったのです。つまり四十億年前から西暦2000年までの物語。

 が、その後で西暦2015年から始まる物語としても読めるように変更しました。つまり『チルドレン』の視点ですね。でもチルドレンとは言っても‥‥レイちゃんならこんなふうに激昂するラストはないし、トウジ君なら古生代の軟体動物を見ても「タコ焼きにして食うたる〜」でしょうしねぃ。やっぱりシンジ君かアスカちゃんなのかなぁ‥‥ゲンドウだったりして(笑)

 さて、あなたはこの話をどういう視点の物語と捉えたでしょうか?

 

 蛇足ながら、なぜにこの『アダム』の話を思いついたのか?

 春先に量産機のカタチが映画に先立って公開された後「トカゲリオン」とあだ名を付けたのは誰なのでしょうか? そのネーミングを見たときに《エヴァ=トカゲ,エヴァ≒アダム,アダム=爬虫類,アダム=先史文明の異物,先史文明人=恐竜人類》という三段論法ならぬ(‥now counting‥)5段論法が閃いたのです。これがラストシーンのアイディアとなりました。

 でも具体的文章になったのは、久々に『星を継ぐもの』(J.P.ホーガン著)の惑星ミネルバ崩壊の段を読んで、惑星そのものを一度ブッ壊すサードインパクトというアイディアを得たときでした。

 後は比較的トントン拍子。半日で完成しました。書き直しのほうがよっぽど時間がかかってます。

 

 さ〜て、次回はコメディ行きます。キーワードは《プロポーズ》《裸エプロン》!!

 さてさて‥‥どうなるやら。

 


 眞戸澤さんの『四十億年の孤独』、公開です。

 

 
 終わったあと
 ずっとずっと、長い長いとき・・
 

 孤独を求めて、
 しかし、人を見たときには・・。

 それがそれではなかった時・・

 

 40年の時の流れ。
 独りでありたい巨人の心。
 様々なイメージに溢れています。

 

 
 私は巨人というイメージから
 レイを粗造して呼んでいました。

 皆さんはどうだったのでしょうか。

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 とっても魅力的な次回作を準備している眞戸澤さんに感想メールを送りましょう!

 

 
 裸エプロン・・・うぷぷ(爆)


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