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「ただいまあ」
遊び疲れた幼い少年は夕方、預けられていた叔父夫妻の家へ、帰ってきた。
「………」
家の中から返事は返ってこない。少年はそれを聞えなかったんだと思い、靴を脱いで家に上がる。
少年は母親の事故からすぐに父親によってここに預けられた。叔父夫妻は疎むことなく、我が子のように大切に愛情をもって、少年に接してきた。少年は幸せだったのだ。
「叔母さん? 叔父さん?」
廊下をすすみ、居間の方へ歩いていく少年。もう夕方から夜に遷り変ろうというのに、明かりが灯されていない。
「どこいったんだろう…」
少年は訝しながらも居間に入る。
「うわああああああ」
少年が見たものは、変わり果てた叔父夫妻の姿であった。
少年はこれは夢なんだ夢なんだと思い込みながら逃げようと後さずりする
「ドン!」
後ろに壁なんてないはずなのに、何かにぶつかった少年は後ろを振返る。人の足だった。それを見上げると…
「BOY、見ツケタヨ(ニヤリ)」
血に塗れた大型のコンバットナイフをもった白人の男が、少年を見下ろしてニタニタと笑っている。
少年の意識はそこでブラックアウトする。

 

「グウォォォォォォォ」
少年は吠えていた。
辺りは炎に包まれていた。バチバチと電気がショートする音が聞えてくる。
少年は何も身につけず、全裸で立っていた。がその姿からは、人間というよりは、獣、いや鬼のような気配を漂わせていた。
両手を赤く染め、吠える少年。
その足元には、白衣の男性が、血まみれで倒れていた。傷は深く、虫の息である。
「くっくくくく。そうだ。それでいい…」
白衣の男は少年を見つめながら、呟く。
傷の具合からみて、自分の死は確実だ。だが悔いはない。自分の最高傑作ともいう存在が、目の前にいるのだ。白衣の男の心は喜びに満ち溢れていた。狂気という名の…
「くくく。我が命と引き換えにその力を引き出すことになるとは…がはっ」
白衣の男は血を吐く。もう、命の火は消えようとしていた。
「さあ行くがいい。もうお前を縛るものはない。この穢れきった世界を浄化するのだ。『ルシファー』よ」
「があああああああ」
少年の叫びにより、白衣の男ごと周囲が吹き飛んだ。

 

少年は炎の中にいた。
辺りはかつて街であった場所だ。
戦争により焼け落ちていた。
辺りには兵士だけでなく女子供の死体も転がっていた。
「ズプッ」
少年は止めをさした兵士らしき男から、銃剣を抜き取る。

 

生きるために闘い…生きるために奪い…生きるために殺す
そんな日々を過ごしていた
そうするしかなかった
生きるために
両手を紅く染め上げ
獲物を狩る
ただ生きるために
狩猟者として生きるしか少年には道はなかった
自らも獲物であることを
少年は知っていた
だから
生きるために
ただ生きるために
獲物を狩っていく
人を殺していく
そこに感情の余地はない
そうすることが当たり前の世界
それが少年の生きる場所

「ほう。たいしたもんだ」
少年の背後から声がした
少年は驚き振返る。気配はしなかった。
振返った先には、兵士らしき中年の男と、10歳ぐらいの少年より2つか3つほど上の少女が立っていた。少女は少年を見て微笑む。
少年は銃剣の切先を男の方へ向ける。
「ボウズ、やめておけ。おめーじゃあ俺の相手にはならねえよ」
不敵な笑みをうかべる男。
「…………」
少年は目の前の男が、今まで倒して殺してきた獲物とは比べ物にもならないほど、強いということを感じていた。
「どうだ、ついてくるか?」
「……」
「それとも逃げるか? 逃げるなら見逃すぜ」
「……」
「闘うなら、覚悟を決めな。ガキだろうと容赦はしない」
男の言葉は、一つ一つ力強い。
「………」
「………」
緊張した静寂を破った者がいた。男と一緒にいた少女である。
少年の目の前まで無警戒で歩いて来て、少年に向って微笑む
「………」
少年は呆気に取られてしまった。こうも無警戒に微笑まれたのは初めてのことであった。どう対処していいのかわからなくなっている。
少女は、男の方へ振返る。
「お父さん! だめじゃない。脅すなんて!」
少女は男を叱り飛ばす。
「あのな、マナ…」
男は苦笑する。
「言い訳無用!」
「ぬう。すまん…」
「もう…」
少女はため息を吐き、再び少年の方へ振返る。
「もう大丈夫よ。わたしはマナ。君は?」
マナという少女は再び微笑む。
「……SINJI

 

『ヒュンヒュンヒュンヒュン』
ヘリのローター音が辺りに響く。
「行きますよ!」
「行って。あの娘の願いを無駄にできないから」
少年は意識朦朧の中、ヘリのパイロットと戦友の葛城ミサトの会話を聞いていた。
『あの娘…、願い…、無駄? 無駄?!』
少年は飛び起きる。
「ぐっ!」
少年は腹部の傷の痛みに軽いうめき声をあげる
「SIN?!」
ミサトは驚きの声を上げる。
少年は周囲を見渡す。兵員輸送ヘリの中であった。そこにいるのは自分とミサトだけ。ミサトだけ?あと一人いたはずだ。少年はミサトの両肩を掴む。
「マナはどうした?」
「………」
ミサトは無言で首を振る。
「ぐっ…」
少年はミサトを離すと、開かれた搭乗口まで、ゆっくりと歩いていく。じわっと腹部の傷口に巻かれた包帯に血がにじむ。
少年は地上を見る。
下は作戦で指定された合流ポイントであった。そして、この作戦生き残ったのは3人だけ。そして、ヘリに乗っているのは2人だけであった。
「マナ…」
地上には少女がいた。14、5歳ほどの戦闘服に身を包んだ少女であった。そしてヘリから見下ろす少年に気づいたのか、初めて出会ったときのように笑顔を見せた。そして…
「……………」
少女の胸から血しぶきが上がり、そして膝から崩れ落ちた。
「……!!」
少年はその光景を見ていた。見ているしかなかった…
倒れた少女の周りに武装した兵士たちが近寄ってきている。
「………」
少年は泣いていた。声も上げずに、ただ涙していた。
ミサトは背後から少年の肩を抱き、声を上げて泣いた…。

 

何もない。
ただ闇が広がっている
その中にレイとシンジはいた。
シンジは木の椅子に座り、レイはその前に立っていた。
「何故戦うの?」
「生きるため…」
「何のために戦うの?」
「わからない…」
「どうして?」
「ただ守りたかった。大事な家族だったあいつを…」
「………」
「今はいない。俺の側にいない。戦う理由はなくなった…」
「でも戦っている……」
「……生きるために。それがあいつの願い…」
「そう……でも」
「でも?」
「それでいいと思うわ」
「綾波…」
「生きるということは戦うということ…」
「そうだな…」
「私は生きてはいなかったから…」
「………」
「誰かのために生かされていた。人形だった…」
「………」
「私は生きていたい……。人形としてじゃなく人として…」
「それが君の願いか?」
「……わからない。今はそう思えるの。大事な家族を友人を守りたい…」
「………」
「そのために生きたい…」
「いいだろう。君のその願い、俺が守ってやる」


−EVANGELION SIN−


 

5.Cerberos 後編その壱


NERV本部内通路

「ダンッダダダダ!!」
自動小銃の銃声が響く。
本部内病院へ向かうルートの一つで、トウジは兵士数人と撃ち合っていた。NERVの保安要員ではない。
通路曲がり角に身を隠し、銃弾が途切れた瞬間に、銃弾を撃ち込む。これを何回か繰り返していた。
「やばい。こんなとこでもたもたしてられへんのや」
トウジは自嘲気味の言葉を吐く。
「しゃーない。近道しよか」
トウジがそうつぶやくと同時に、全身の筋肉が膨張した。ふた周りほど体型が大きくなったように見える。
そのまま、軽く拳を握り締める。そしてコンクリートの床へ叩き込む
「うりゃあああああああ!!」
『ドガシャアアアア』
その拳はほぼ2m四方を砕き、トウジはその下の改装へ瓦礫ごと落ちた。
「あたたたた……」
トウジは瓦礫を振り払う。
彼は傷ひとつ負っていない。拳も砕けてはいない。
「やりすぎやな……」
周囲とぶち抜いた天井の穴を見つめてつぶやく。
そうこうしているうちに足音と話し声が上の階層から聞こえてくる。
「おっと、それどこやない」
トウジは手榴弾を取り出すと、ピンを引き抜き2秒ほど待ってから、上の階層へ放り投げる。
そしてすぐさま、その場を後にする。
怒号と爆音の中、彼は呟く。
「ブラックウイドゥ……」

NERV本部通路

「なによ、あいつら……」
ミサトは通路の影に潜みながら、奥の三叉路を進んでいく黒一色の武装集団を確認する。
「……ブラックウイドゥ。なんでこんなところに………」
ミサトは呟きながら考えを巡らせる。
「……レイ。そうね。あいつらの目的はファーストチルドレンであるレイの拉致に違いないわ。急がないと………」
ミサトは彼らに見つからないように気配を殺したまま、その場を後にしようとする。
が、背後、三叉路の方から怒号と悲鳴が響き渡る。
「えっ?」
ミサトが振り返ると、兵士が次々と吹っ飛ばされているのが見えた。
「な、なにが……ってあいつしかいないわよ。こんな非常識なことできるの」
ミサトはその様子を呆然と見ていた。
そして後退している兵士の一人と目が合う。
「ちっ!!」
その瞬間、ミサトはダッシュをかけていた。
「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ」
敵兵は構えたM60重機関銃をミサトにむけ容赦なく発砲してくる。
ミサトは頬をかすめていく銃弾をものともせず、通路を走り抜ける。彼女の体には一発も銃弾は当たることはない。
「タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!」
走りながらの射撃は命中制度はかなり悪くなる。運良く当たったとしても相手は防弾装備しているため、たいした効果はない。
が威嚇および崩しということなら話は別だ。
ミサトの放った銃弾は4発も敵兵に着弾した。まず右上腕部に、そして左大腿部、左胸部、頭部へ次々に命中していく。
敵兵は着弾の衝撃で左ひざをつき、右手をグリップから離してしまい、頭部をのけぞらしていた。対したダメージではない。
が、生じた隙は致命的であった。
「#%&#()={‘〜」
敵兵士は何かを喚いているが、ミサトは構わずのけぞった喉元へ左手をつき入れる。ミサトの左腕を通じて血が流れ落ちる。
敵兵の後頭部からは生えていたのはミサトの指ではなく、黒光りする刃であった。
「ぐはあああっ」
ミサトは敵兵の吐いた血を顔に浴びる。
敵兵は二人ほどミサトに対して背中を見せていた。
自分たちが失敗するとは思っていなかったのであろう。まさに隙だらけである。
彼女は刃を死体から抜きもせずに、そのまま背中を見せる兵士たちに斬りかかる。刃は紙のごと頭部を切断し、敵兵に襲い掛かる。
その刃は止まることなく、二人分の胴体をぶつ切りにした………。
ミサトが左手を一閃し、血を払うと同時に敵兵二人の上半身は下半身よりずれ床へ転がる。下半身はそのまま力がぬけ膝まつき倒れる。そうしてから切断面より血を吹き上げる。敵兵は何が起こったのかわからぬまま絶命していた。
ミサトの目は普段の陽気なお姉さんではなく殺人機械をおもわせるほど感情が消えていた。

ミサトが飛び込んだ通路ではシンジが敵兵と戦闘を繰り広げていた。
シンジの相手は四人。敵兵は前後左右ではなく対角線上に彼を取り囲んでいた。
全員が刃渡り60cmのコンバットナイフを抜刀していた。この状況では銃火器は役には立たない。同士討ちを起こすだけである。
シンジは身構えることなく自然にに立っている。その隙はまったくない。敵兵はそのシンジから受ける威圧感に体を硬くしていた。
敵兵たちは冷や汗を流していた。数々の戦場を潜り抜けてきた歴戦の兵士が。
じりじりと間合いを狭め始める敵兵士。
シンジが動くとすれば彼らが間合いに入ってからであろう。
敵兵はシンジの体が自分たちの間合いに入ったと同時に攻撃をかけた。
その瞬発力は人間を超えており、動態視力が良い者であっても目に止まることはない速さであった。がシンジはその動きを読んでいた。目でとらえるだけでなく、全身で気の流れ、空気の振動などを感じ取り、敵兵の動きに対して的確な反撃を行っていく。
右斜め前方から斬りかかった敵兵のナイフを持った腕を左腕で捻るように受け流す。それによって敵兵は体勢を崩す。シンジはその手首を極め、背後へと引っ張る。これにより左前後の敵兵二人を邪魔するように体がもって行かれてしまう。
次にシンジは右後方の敵兵へ左後ろ回し蹴りを放つ。
「ヒュン!ドムッ」
シンジの左足は敵兵の後頭部へ直撃し、顔から床へ倒れこむ。
手首を極められた敵兵からコンバットナイフを奪うと、その首筋へ肘を叩き込み、頚骨を砕く。
「グキッッッ………ドサッ」
これで敵兵は二人。シンジの動きは人間をはるかに超えていた。
残り二人は躊躇せずに攻撃を仕掛けてきた。
後方側は斬りかかり、前方側は突き刺してきた。
だが、その攻撃はシンジの体に当たることはなかった。
シンジは床を蹴り上げ、空中へその体を躍らせていたのだ。
彼は後方側の敵兵のその肩を使って、片手でとんぼ返りをする。そのまま空中で捻りを入れ、敵背面へ着地した。
間髪いれずに力強い震脚から生み出される勁力を敵兵の背中へ叩き込む。敵兵はもう一人の敵兵の方へ吹っ飛ばされる。
「………ドスッ」
吹き飛んだ敵兵の背中にはコンバットナイフの刃が生えていた。
勢い良く突き刺してきた刃は止まることが出来なかったのである。
シンジは動きを止めることなく、生き残った敵兵の側面に回りこむ。敵兵へ前蹴りを打ち込む。打つ瞬間軸足を開き、打ち出す足を内側にたたみ、開くときの力を利用して外側へ捻る。
敵兵は何とかその蹴りを受けようと、仲間の死体を跳ね除け、シンジの方へ体を捻り、胸の前で腕を交差させてガードするが、シンジの右足はそのガードをすり抜け、敵兵の胸部をえぐりながら、その体をふっ飛ばす。
「フウウウウウウウウウ」
シンジは止めていた息を吐き、呼吸を整える。
この間ほんの数秒である。

その動きはミサトには辛うじて目に止まる速さである。
相手は最高の兵士であったが、彼にとっては雑魚でしかなかったようだ。
程なくして敵分隊は全滅した。たった二人によって………
「SIN……」
ミサトは左手を元に戻しながらシンジの方を見る。その左手は血にまみれていた……。
「……………」
相手の装備を奪い取り、武装していくシンジ。そこには何の感情も見えない。
ミサトは戦闘の余韻を覚ますだけで精一杯であった。
しゃがんでいたシンジは突如顔を上げ、ミサトの顔を見上げる。
ためらいもなくナイフを投げつける。
ブン!………ドスッ
ミサトは突然の出来事に凍りついてしまった。
ナイフはミサトの右頬をかすめ背後へ飛び去る。かすめたとこからは血が流れ落ちる。
外したのか。いやそうではない。ナイフは傷つきながらも再び立ちあがった敵兵の一人の喉へと突き刺さっていた。隙を見せていたミサトを襲おうとしていたのであろう。
その兵はそのまま口から血を吐きながら倒れていった。
ミサトは実戦から遠ざかり過ぎたことを、生ぬるい平和の日々に慣れ過ぎてしまっていたことを感じていた。
戦場にいた頃の彼女であれば誰も背後には立たせなかった。そう背後にあるのは死体だけ。
それがこの様だ。シンジがいなければ死んでいたことは間違いない。
異形の左手すら宝の持ち腐れでしかない。
「…………弱くなったな」
武装が終了したのか、シンジは立ちあがっていた。その顔には表情はない。
「………そうね」
ミサトの声に力はない。
「……………」
シンジはそのままミサトの脇を抜け、立ち去ろうとする。
「SIN?」
「奴らには借りがある。碇ゲンドウを殺るつもりだったが、後回しだ」
「私も行くわよ。奴らの狙いは間違いなくレイよ。家族を妹をくだらない謀略の道具になんかさせてたまるもんですか!」
ミサトは顔を上げ、シンジと並んで歩く。そして自分の銃のマガジンを交換する。
「それだけか?」
「えっ?」
ミサトは怪訝そうな表情をする。質問の意味が良くわからなかったらしい。
「ファーストチルドレン、エヴァンゲリオンパイロット。それが綾波のステータスだ」
シンジは立ち止まりミサトの瞳を見据える。ミサトの中の欺瞞を見透かすかのように。
「SIN、あんた、わたしがそんな奴だと思ってたの?」
ミサトは怒っていた。ほんの数ヶ月ではあったが共に戦った仲間、戦友であるシンジだけは理解してくれてると思っていた。
その彼が紡いだ言葉は、その思いを砕いた。そして生じた感情は彼女の左手を刃と化した。
一瞬のうちに切っ先はシンジの喉元に突きつけられていた。
だがミサトは気付いた。シンジはわざとそう言ったのだと。自分を怒らせるために、この忌々しい『左手』の使い方を思い出させるために………。
「………………あんたねぇ……」
ミサトは左手を元に戻しながらため息をつく。毎度のことだったのだ。今思い出した。ミサトは毎回引っかかる自分が恥ずかしくなった。
「何かを守るために生きるのに己の牙を磨くことに恐怖することは無意味」
シンジは淡々と話し続けた。
「己の心に刀をおき、汚れていると知りながらも、守るべき大事ななにかの為に「牙」をむく……たとえ己が心を鬼と化しても」
シンジは再びミサトの瞳を見据える。
「俺はあいつを大事なものを守れなかった………お前まで同じ事を繰り返すのか?」
「………………行きましょ、SIN。レイを、大事な家族を妹を守るのにもう躊躇いはないわ。」
ミサトはシンジに向かってにっこり微笑むと顔を進行方向に戻す。その唇はキリッと引き結ばれていた。
「……………」

NERV本部司令公務室

「碇、委員会はどうだったのだ?」
「問題ない。ただの定期報告にすぎんよ」
ゲンドウと冬月は司令公務室で将棋を差し合っていた。
「だがいいのか? このままほっておいて…」
「かまわん。そのための赤木君と葛城君だ。彼女らに任せておく」
ゲンドウは駒の一つを取り、盤上に打つ。
「い、碇、それは待ってくれんか…」
冬月はその一手に苦虫を潰したような顔をしている。
「(ニヤリ)駄目だ。待ったは無しだ…」
「ぬうう」
ゲンドウはニヤリと不気味な笑いを浮かべ、冬月はむむむと考え込んでしまう。
「現実もそうだ。待ったはきかん…」
「それはそうだが、お前の息子が我々に協力してくれるとは思えん」
「問題はない。シナリオには支障は無い」
「碇、わたしはお前とユイ君の息子が最大のイレギュラーだと思えてならん」
「ほう…。そうきたか」
将棋を進めながら、NERVトップの2人は会話を進めていく
「かまわん。好きにさせる」
「そうか…だがBWの連中も動いているようだぞ」
「ほう。ようやく動いたか。案外遅かったな………」
ゲンドウは笑みを浮かべる。
冬月はため息をつく。
「そうでもない。弐号機は連中に奪取されたよ」
「……つかえん連中だ」
「セカンド・チルドレンも行方不明だ」
「問題ない。時がくれば、ここに集う。シンジと同じようにな……」
「運命とでもいうのか」
「いや、宿命だよ。子供たちのな」
「そして我々の原罪か………」

NERV本部内

シンジとミサトは医務棟へ通じる通路の一つにいた。
「ミサト。ここ以外の通路をすべて封じることは出来るか?」
「MAGIが本調子ならばね」
「………連絡をとらなけらばならないな。………ミサト、俺のPDAはどこにある?」
「PDA? ああ、アレなら私が持ってるわよ。ちょっち待って………」
ミサトは上着のポケットを探り始める。
「えーと、あれ、どこだったかしら……」
シンジはその間、通路奥の隔壁を閉め、ガスを充満させ始める。そして、起爆装置を通路に仕掛ける。
「あったあった。はいこれでしょ?」
ミサトはようやく見つけた腕時計型PDAをシンジに返した。
「でもそれ、壊れてない? うちの技術部の連中が解析しようとしたけどうんともすんとも言わなかったけど?」
「俺専用らしいからな」
そういうとシンジはPDAを操作し始める。世界に誇るNERV技術陣が解析できなかったPDAが、シンジの操作によっていとも簡単に息を吹き返す。
PDAそのものには、あまり込み入った機能はついてないのかもしれない。
「………なんで、動くの?」
「……さあな。こいつを作った連中に聞いてくれ………発信機を仕掛けてるな……無駄なことを」
「どうりで、すんなり渡してくれるはずね。あの陰険マッドが……」
ミサトは苦い表情を見せる。
『SIN!、ようやく見つかった!』
「ケンスケ、MAGIを開放してくれ」
『な、なんだよいきなり』
「時間がない。奴らを足止めするのに必要だ」
『……奴らの足を止めればいいんだな』
「そうだ、出来るか?」
『やってみる』
「ターミナルシャフトへ直通している全通路に硬化ベークライトを流し込んで!! それが一番速いわ」
「だそうだ。やってくれ」
『おいおい、いいのかよ』
ケンスケは苦笑しながらも、シンジとミサトがいる通路以外の場所にベークライトを注入し始める。
「問題ない。ここの作戦部長が言ってるんだ。あとで咎められるのは俺達じゃない」
シンジは無表情に応える。
「ちょっと……」
ミサトは泣きそうな顔になっている。後先考えれば、これほど無茶な指示はない。が、一番有効な手ではある。隔壁なんぞ通用しない相手なのだ。通路なんて潰してしまうのが一番手っ取り早い。
『注入開始………ってやばああい』
ケンスケは焦っている。忘れていたのだ。もう一人の仲間のことを……
「どうした?」
『トウジのこと忘れてた………』
「……………」
シンジは一瞬考え込む。
「………忘れてしまおう」
『っておい!! わしを殺す気かい!!』
突然通信に割り込んできたのは話題の人鈴原トウジであった。
『トウジ!! いやあ生きててよかった』
『ケンスケ、シンジ、おんどれらの魂胆わかったでえ…』
トウジの恨みを込めた声が響く
『あはははは』
「生きてるんだ。問題ないだろう」
ケンスケは乾いた笑いをあげ、シンジはすげなくやり返していた。
ミサトは、その様子に笑みを浮かべる。
『どうやら…新しい相棒が見つかったようね。私の入る隙はないか…』
かつての相棒であった「ティンダロス・ハウンド」SINの変貌いや成長に喜びをそして寂しさを感じているミサトであった。
「SIN、あんたの仲間紹介してくんない?」
ミサトはシンジの背後から抱きつきながら甘ったるい声を耳元でささやく。
「止せ!」
シンジはミサトを必死に振りほどく。ちょっと顔が赤い。
「ふふふふふ」
ミサトはその様子に笑みを浮かべる。
『わしは鈴原トウジや』
『俺は相田ケンスケ』
二人は名乗りをあげる。
「私は葛城ミサトよ」
『知ってますよ。戦慄の魔女の噂は今でも語り草です。魔女の左手には気をつけろとね』
ケンスケは軽く返す。
『その正体もシンジからよーく聴いてます』
ミサトはその言葉を聞くとシンジを睨み付ける。
「SIN、あんたどんなこと言ったのよ?」
「別に…対したことじゃない」
「無駄話をしている時間はない。トウジ、先行部隊の一部が医務棟にたどり着いている可能性がある」
シンジは話を戻す。
『わーっとる。それを排除して綾波の身柄を確保。これがわいのやることやな』
「そうだ。ケンスケ、お前は……」
『NERVの牽制と、奴らの目と耳を押さえる』
「ああ、俺は奴らの頭を叩く」
「SIN、他の連中はどうするの?」
ミサトはシンジの考えはわかってはいたが、あえて問う。
「死にたくなかったら戦うことだ。自分たちでな」
予想通りの答にミサトはため息をつく。
「わかったわ。連中の相手は私達がやる」
シンジはミサトの言葉にニヤッと笑って見せる。
「俺達の邪魔をするな。俺達は敵だ」
『そのとおりや』
『そうだな』
通信機からも不敵な台詞が聞こえてくる。
「りょーかい。あんたとかかわると、ほんとろくなことないわ」
ミサトは自分の銃の残弾を確認する。
「俺は死神だからな……」
シンジは重く呟く。
「…………」
ミサトは黙って装備を確認する。
『シンジ、ええんか?』
「………碇ゲンドウは殺す。だが今は奴らの方が先だ」
『そうやな』
「………きたな」
上からエレベーターが降りてきている。シンジとミサトは急いで通路沿いのドアへ飛びこむ。ドア側の壁に張り付き、時を待つ。
「チン!」
エレベーターのドアが開く。中には誰も乗っていない。
しばらくするとエレベーターの天井から次々と兵士が降りてくる。
「…………………!」
兵士の一人が異変に気付く。自分達が持ちこんだ気化爆弾が通路に充満されているのだ。
兵士たちは我先にとエレベーターへ駆け始める。が、エレベーターの天井から、兵士が降りてきている。
シンジは迷いもなく起爆装置を作動させる。
「ドゴオオオオオオオオオオン」
爆風は敵兵とエレベーターと通路もろとも破壊していく。
シンジとミサトは瓦礫の山とかした通路に飛び込むと、目配せをして二手に分かれる。
一方は地上へ、もう一方は再び地下へ。
戦いは始まったばかりなのだ。

NERV本部第一発令所

「マヤ、そっちはどう?」
リツコはキーボードを打ちながら、隣で自分のノートパソコンで作業しているマヤに尋ねた。
「もうすぐです。先輩」
マヤは必死になって、プログラミングをしていく。
「青葉君、MAGIはどうしてるかしら」
「現状変化なしです」
「………なんだって!!了解」
日向は本部内通信用の受話器を置くと、リツコのほうを見る。
「どうしたの?」
「保安部からです。ジオフロント内に武装集団の侵入を許したと……」
「で?」
「指揮系統の確保のため、早くMAGIを取り戻してくれと」
「………ほおっておきなさい。どうせ役に立たないんだから」
キーボードを打ち込む指を止めないまま、リツコはそう言い放つ。
「「あははははは」」
日向と青葉は苦笑をもらす。
「先輩、できました!」
マヤはキーボードのを押すと同時にリツコのほうを見る。
「こっちも終わったわ」
リツコもEnterキーを押し、プログラミングを終了させる。
「日向二尉」
リツコは日向の方を向く。
「はい、何でしょう?」
「葛城一尉のフォローをお願いするわ。彼女のことだから……」
「無茶をするだろうから、ですね」
日向はリツコの言葉を遮り、続ける。
「そうよ」
リツコは苦笑をもらし、その言葉を肯定する。
「青葉くんは状況の確認と報告をお願いするわ」
「はっ!」
「マヤ、あなたは……」
「先輩のお手伝いですね!!」
目をキラキラさせてリツコに応える。
「ええ」
リツコはそのマヤの様子に一歩引いてしまう。
「……さて、やるわよ。母さん……」
リツコは三すくみ状態のMAGIを見て、つぶやく。

NERV本部医務棟

一方、その頃。
綾波レイは………意識を取り戻していた。
EVA初号機による対使徒戦闘は肉体的にも精神的にもレイにかなりの疲労を与えていた。
極度の緊張状態、たかだか数分というが、経験してみなければこの辛さは誰もわからないであろう。
レイは自分自身が精神的にも肉体的にも休息を必要としていることを理解していた。
「…………」
だが、彼女はベッドから立ちあがった。
ミサトが用意した服に着替えると病室を後にする。
『………何故』
レイ自身、自分の行動に戸惑っていた。
この場所から立ち去らなくてはいけない。そう感じるのだ。
「行かなくてはいけない………」
どこへ?
誰かが呼んでるというわけではない。
ただ、勘というべきか……NERV本部内で行われている戦闘、これによる気勢をレイは感じ取っていた。
「SIN……ミサトさん………そう戦っているのね………」
なぜわかるのであろう?
「………『彼』も来る……SINじゃ勝てない……」
レイはふらつき、壁に手をつきながらも一歩一歩、廊下を歩んでいく。

医務棟をぬけ、本部施設へたどり着いたとき、レイの目の前に広がっていたのは、赤い水溜り……血の海、そして細切れになった肉片。
かつて人を構成していたものがフロア一杯に飛び散っていた。
その中心で二人の人物がこの光景を気にせずに食事を取っていた。
「……………」
レイはその光景に吐き気を催していた。
『…………何?』
「よお、お嬢さん、あんたもどうだい?」
食事をとっていた一人がレイへ軍用レーションを差し出してくる。
全身黒尽くめの暗視スコープの男二人。そして、あまりにも凄絶な光景。普通の女の子ならば悲鳴をあげ、気を失うか逃げ出しているところだろう。
が、レイはそのまま一歩前へ踏み出す。
「ファーストチルドレン、レイ・アヤナミ」
もう一人がレイの姿を確認する。
レイは二人を無視して先へ進もうとする。ピン! レイの頬を何かがかすめ、そこからは血が流れる。その血は何かを伝わって流れていく。
「………糸?」
「おおっと、動かない方がいいぜ。こいつらみたいにバラバラになっちまうぜぇぇ」
男の一人が舌なめずりする。
いつのまにか、レイの周囲には目に見えない鋼線が張り巡らされていた。
「ファーストチルドレン、我々と来てもらおう。抵抗するなら……」
「ひhっひひひひ、腕の一本や二本なくしたってかまわないそうだぜ、お嬢さんを待ってる連中は」
「そういうことだ。我々としては手荒な真似はしたくない」
「…………どいて。邪魔」
レイはシンプルな答を返す。
「ヒュー。強気なお言葉だね。……邪魔すんなよ、クロウ」
「………30秒だ。エッジ」
クロウと呼ばれた男は簡潔に答える。
「さーて……」
ニヤニヤと笑いながら、目でレイの全身をなぶる。
「……なあ、もうちょいまかない?」
エッジはクロウの方へ振り向いてたずねる。
「…………そんなに早いのか?」
「…………しゃーねえなあ、久々の上玉なのによお」
心底残念残念そうに呟く。
「…………」
レイはその間、周囲を見渡す。
自分の体の周り、四方八方に鋼線が張り巡らされている。一歩でも動けば、全身が切り刻まれてしまうであろう。
逃げ道は………ない。
鋼線を切る………道具がない。
救援を呼ぶ………おそらく無駄であろう。
「さーて、お嬢ちゃん。どうする? 俺達に従うか、あくまで抵抗するか。まっ俺達はどっちでもかまわんけど、痛い目見るのはお嬢ちゃんあんただぜ」
嫌な笑みを浮かべながら、エッジはレイへ近づいてくる。時折、指を動かし、レイの周囲に張った鋼線を緩め、通り道を作っている。
「……!」
エッジがあと一歩のところまで近づいた瞬間、レイは身を屈めダッシュをかけエッジの脇をすり抜けようととする。が、エッジの脇をすり抜けた瞬間、レイの体は床へと転がってしまう。
「…………くううう」
床に体を打ちつけた痛みかレイは苦痛のうめきをあげる。いつのまにかレイの両足には鋼線が巻きつけられていた。
「甘いぜ、お嬢ちゃん」
相変わらず嫌な笑みを浮かべているエッジ。対照的なのは無表情のクロウ。
「エッジ、20秒たった。遊んでないでさっさとしろ」
「ちっせかすなよ。こんな上玉久々なんだぜ…」
「お前の幼児趣味など任務には関係ない」
「へいへい。わーったわーった。というわけでお嬢ちゃん、覚悟してもらおうか」
「……………」
レイは無言で答える。覚悟などとっくの昔に出来ている。自分はEVAに乗っているのだ。ただ………
「!」
「!」
エッジとクロウの二人は突然、このフロアへ通ずる通路の方へ顔を向ける。
そこから、人が投げたとは思えないほどの速度で飛んでくる物体がみえた。
「な、なにぃ」
「ちっ!」
二人はフロアに転がっている長椅子の陰に身を隠そうとするが、時すでに遅し、その物体は爆発する。
スウウウウウウン
閃光と高音を撒き散らす。スタングレネードである。
「うおりゃあああああああ」
その閃光にまぎれて、フロアへ飛びこみ、エッジに殴りかかってくる者がいた。
エッジはその攻撃をまともにくらい、壁へとたたきつけられる。
「ぐはあああ」
エッジの顎は無残にも砕け散っていた。
「鈴原君………」
「よお、綾波」
フロアに飛びこんできたのはトウジであった。いつものジャージ姿ではなく、黒ずくめの皮に似た素材のコンバットスーツを着込んだ、ここにいるはずのない彼の姿を見て、レイは一瞬戸惑った。
トウジは倒れているレイへ軽く挨拶をしながらも、もう一人の敵のほうに注意を払っていた。
「………ケルベロス…か……噂は本当だったようだな」
クロウは下顎を砕かれ、床に倒れこんでいる相棒の姿を確認し、呟く。
「どない噂なんや、それ」
トウジは気負いもなく、たずねる。
「年端もいかない少年兵だという噂だ」
「ガキや思うて油断する方が悪いんや」
トウジは口の端を吊り上げて笑う。あまり似合っていない。レイはそう思った。この少年はいつも大口を開いて笑っている。楽しそうに腹の底から笑い声をあげる。今の彼は学校で会う彼とはまるで別人。
「当たり前だな」
クロウはトウジの言葉に苦笑をもらす。
この少年は自分たちの姿すらも武器にしている。
そう、こんな少年が自分たちのような兵士……人を殺す力など持っているはずがないという先入観を油断を、敵兵が持つということ知っているのだ。
「で、どないするんや?」
トウジは何事もなかったかのようにクロウに対したずねる。
「レイ・アヤナミの身柄を確保。これが私の任務だ」
「まっ別にかまへんで、わしは」
「邪魔をするものは排除する」
「……………」
動いたのは二人同時であった。
クロウは左腕をトウジの方へ向け、トウジは相手の懐へ飛びこむ。
「バシュ」
空気銃の発射音を大きくしたような音がフロアの中に響く。
クロウ、その名に値する「爪」が左手の甲から発射された音だ。
狙いは完璧。トウジの体を捕らえていた……はずであった。
クロウの予測した、人間の限界ともいえる瞬発力を遥かに凌駕するトウジの動き。
発射した時にはもう、クロウの懐に入り込んでいたのだ。爪はトウジの背後の壁へ突き刺さる。
クロウはとっさの判断………いや日頃の訓練による条件反射で右拳をトウジの左脇腹へ叩きこもうとした。その右腕にも爪が仕組まれている。
トウジもまた右拳をクロウの左脇腹へ叩きこむ。
「ドスッ」
鈍い音がした。
相打ち………いや、崩れ落ちたのはクロウのほうであった。
「ぐはああ」
呼吸が一瞬止まる。
トウジは止めをさすべく左のローキックを放つ。
しかし相手も対したもので、その攻撃を後ろへ飛び去り回避する。
「………たいしたもんや」
トウジはこの状況を楽しんでいる。
「……………」
クロウはこの少年が自分たちよりも強いことを実感させられていた。
いったいどういう経験をすれば、この年で自分を凌駕するほどの強さを得ることができたのか、そのことに興味がわいてくるのを止めることをできないでいた。
「少年、君はなんの為に戦うのだ?」
「決まっとる。わし自身のためや」
「……そうか」
少年の答に迷いはなかった。
「名を聞いておこう。私の名はクロウ」
「ハウリング・ウルフ」
トウジの名乗りの終わりが合図であった。
お互いが相手のほうへ踏み出す。
クロウはまずフックをトウジへ繰り出す。
「ブオッ」
トウジはその攻撃を上体を下げ、相手のほうへ踏み出すことで回避する。
『かかった』
クロウの右フックは誘いであった。懐へ飛びこんだ相手への回転肘打ちを繰り出してくる。
「ヒュン」
トウジはバックスウェーで回避しつつ体を回転させ、左肘をクロウの胸尖へ叩きこむ。
「ドスッ」
「ぐぇええ」
クロウは目をむいて悶える。
しかしそれでトウジの攻撃は終わりではなかった。
間髪をいれず、右掌底を相手の鳩尾へ叩きこむ。
クロウはその一撃で意識を失っていた。
トウジはそのままクロウの戦闘服をつかみ、下から突き上げるような右肘を顎へ叩き込む。
「がっ」
クロウの歯と顎がその一撃で砕ける。
そのまま倒れこみつつ、トウジの右肘はクロウの頚骨を砕く。
「グシャア」

トウジはすでに鋼線を取り払って立ちあがっていたレイの方へ顔を向ける。
「殺したの?」
レイはたずねる。そうしなければならなかった。学校でのトウジと今のトウジとの違いがそうさせたのであった。
「そや。殺られる前に殺る。わしらが生きとる世界の掟や」
トウジは悲しそうな声を出す。
「わしには帰るべき場所が守るべき者がある。それを守るためなら鬼でも何でもなったる」
トウジの両拳を握り締め、決意の言葉を放つ。
レイはその言葉を瞳を閉じて聴いていた。
そしてゆっくりと瞳を開け、トウジを見つめる。
「そう。あなたも同じなのね……」
トウジはその言葉に黙ってうなづく。
「行きましょう」
「ああ」
二人は血まみれの戦場を後にする。

第三新東京市 トレーラー内

「ピー----ーーーーーーーーーッ」
戦闘指揮所とあえて呼ぶべきであろう、ケルベロスが所有する移動指揮車内に警告音が鳴り響く。
「なにっ」
突然のことにケンスケは驚愕の声をあげる。
「やってくれたな。さすがはNERVが誇る赤城博士ってところか……」
そう、MAGIのハッキングが破られたのだ。
「だが、もう遅い。ネットワークは俺の支配化にある」
ケンスケはそう呟くとヘッドセットをかぶりなおし、キーを叩き始める。
『行け! 円卓の騎士たちよ、東方の三賢者を征服せよ!』
『YES、MASTER』

NERV本部 第一発令所

「先輩、やりましたね」
伊吹マヤは赤木リツコへ笑顔を向ける。
MAGIのコントロールを取り戻したゆえの笑顔だ。
「そうね……」
リツコは浮かない顔をしている。
「先輩?」
マヤは小首をかしげる。
「なんでもないわ」
リツコは訝しんでいた。
『おかしいわね。手応えがなさすぎたわ』
「あちゃあ、どうすんだこれ」
日向がNERV本部内の様子をみて声をあげる。
「どうしたの?」
「とりあえず、見てみてください」
大スクリーンに開いたウインドウに次々とNERV本部内の様子が映し出される。
「………ミサトね」
リツコはこめかみを指で押さえながら呟く。
「間違いなく…」
日向の言葉にも力はない。
「いったい、どうするんでしょう、これ?」
「さすがは葛城一尉といったとこか…」
マヤと青葉の声も呆れかえってる。
NERV本部内の通路が硬化ベークライトで埋まっているのだ。閉じ込められた職員も多くいる。
「後始末、誰がやるとおもってるのかしら」
リツコの額には青筋が浮かんでいる
「「「あははははははは」」」
乾いた笑いを浮かべるオペレーター三人。
『ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ』
発令所に警告音が響き渡る。
「MAGI、ハッキングを受けています」
青葉がコンソールのモニターから情報を読み取り、リツコへ報告する。その間、指の動きは止まっていない。
「数は?」
「………10……いえ、どんどん増えつづけています。まるで全世界中からハッキングをうけているようだ。………いま30を突破!」
「先輩! 駄目です。防護壁が持ちません」
「バルタザール、侵入されました!………なっ、バルタザールだけではありません。メルキオール、カスパーすべてに侵入を確認!」
MAGIを象徴する三体のスーパーコンピューターすべてがハッキングを受けているようすが大スクリーンに映し出されている。
「MAGI、自閉モードへ!」
「了解!………駄目です。自閉モードはキャンセルされました」
「マヤ、666プロテクトを発動させるわ」
「セ、先輩!?」
「一刻を争うわ。急いで!」
「は、ハイ!」
マヤとリツコは、それぞれのキーボードを叩き始める。その速さはさすがというべき速さであった。
「マヤ!」
「先輩!」
『ピーーーーーーー』
「666プロテクト発動確認、侵入は止まっています」
間一髪といったところでハッキングは止まっていた。
「「ふう」」
マヤとリツコは安心のための一息つく。
「この666プロテクトを破るのは容易ではないわ。これで一安心ね」
だが、その言葉は次の瞬間、塵へと消えることとなった。
「なっ、馬鹿な!」
「そ、そんな……」
「嘘だろう!?」
「…………うそっ」
「侵入再開されました。666プロテクト消滅確認………」
青葉の声に力はない。
もはや彼らNERVに反抗できる力は残っていない。666プロテクト、切り札ともいえる奥の手であったのだ。
それが破られた。いとも簡単に。それがもたらす衝撃は大きかった。
『告』
大スクリーンに突如、文字が映し出される。敵側のメッセージであろう。
『我が名はランスロット。円卓の騎士が一人。我が王の命を伝えん』
『東方三賢者すべて我が方の配下となりしこと明白なり。これより後の騒乱、手だし無用』
『手だしせしむならば、覚悟をもって望むべし』
「「「なっ………」」」
三人のオペレーターに声はない。
「完敗ね………」
リツコの呟きはNERVの事実上の敗北宣言であった。

 

To be continued

5.Cerberos 後編その弐(爆)


NEXT
ver.-1.00 1998 3/16公開
ご意見・ご感想はtakasan@xb3.so-net.ne.jp まで!!


後書き兼座談会

タカ:どもタカです。大変長らくお待たせしました。「EVANGELION SIN」5話後編その壱公開です
アスカ:あんた、覚悟できてんでしょうね
レイ:そうね、一年以上もほったらかしにしていた罪は重いわ
タカ:あううう。そ、それはだね……
アスカ&レイ:言い訳無用!
タカ:ぐはあああああああああああ
アスカ:まったく、ゲームばっかりやってるから、執筆がおくれんのよ。
レイ:待たせた挙句、後編その壱………無様ね。
シンジ:ああ、作者ずたぼろにしちゃって(^^;;こりゃ、次は2年後かな
アスカ:そんなこと天が許してもこのアスカ様がゆるさないわ!!
レイ:…………ニヤリ
シンジ:二人とも怖いよ(^^;;
アスカ:ふふふふふふふふふ
レイ:ニヤリ
シンジ:…………作者の死体をつついて遊んでいる二人はほおって置いて進めよう(^^;; えーと、そうそう、作者まで感想メールをわざわざ出していただいた皆さん、どうも申し訳ございません。何通か、作者のミス(HDクラッシュ、ニューマシーン移行など)で返事が出せてません。m(_ _)m
不快な思いをされた方もおられることと思います。作者に代わってお詫び申し上げます。
タカ:本当に申し訳ない。筆不精ゆえにここまで公開が遅れてしまいました。次は、もっと早く書き上げる予定ですが…………
アスカ:立ち直り早いわね。でも政治家のような玉虫色の発言はやめなさい。ちゃんと締め切りを決めるの!
タカ:うっ、そうはいってもだな…
レイ:そうね、FF8も終わりつつあるんだし、遅くとも4月上旬にはかきあげることね。
タカ:あうううううう。俺に自由はないのか
アスカ&レイ&シンジ:ない!
タカ:(轟沈)
アスカ:さてと、シンジ、お腹すいた。
レイ:私、ニンニクラーメン、チャーシュー抜き
シンジ:ハイハイ(苦笑)、ご飯にしようか、二人とも
アスカ:うん
レイ:(コク)

タカ:うううううう、俺に自由をおおおおおお!!
リツコ:無様ね

 

タカ:忘れるところでした(^^;; かなり前にメールアドレスを変えたんですが、めぞんEVAの方へ通知するのを忘れておりました(爆)

旧メールアドレス:takasan@mail.interq.or.jp

新メールアドレス:takasan@xb3.so-net.ne.jp

タカ:一応、私宛のメールはどちらに出されても届きますが、できれば新メールアドレスのほうでお送りください。
タカ:あともう一つ。HP公開しております。ほとんど更新がなされてはいませんが(爆) 興味がございましたらお立ち寄りください。ここです(^^;





 タカさんの『EVANGELION SIN』5.後編、公開です。



 お久しぶりーの連載再開です(^^)
 1年ぶりです〜



 シンジの技で
 トウジの力で
 ケンスケの頭で


 ガンガンドンドンBWを撃退っ


 ミサトの作戦も、ね(^^)

 確かに後かたづけは大変そうだけど、
 今はそんなことを言っている暇など。




 リツコさんの逆襲はあるのか?!
 なども♪





 さあ、訪問者の皆さん。
 復帰復活のタカさんに感想メールを送りましょう!



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