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『EVANGELION SIN』
3.SIN&MISATO
第三新東京市 第一中学 2年A組
時間はすでに四時間目の半ばを過ぎようとしていた。女子のほとんどはこの2年A組に転入してきた碇シンジに関心が集中していた。男子は昼飯のことで頭がいっぱいだ。とくに鈴原トウジは。
ここまでA組の生徒でシンジとまともに会話したのは綾波レイ唯一人であった。なんとか会話をしようとクラス中の女子が休み時間の度に集まってくるが、彼はそのたびにどこかに消える。その都度女子のため息が教室に広がっていく。男子の大半は面白くないといった顔をしているが何もしない。まあこれ幸いにシンジの写真を売り飛ばし私腹を肥やしているものもいるが……。
そんな中、女子のある一人がシンジに電子メールを送った。当然スクランブルはかけていない。が、彼の反応は………。
「…………………………………………」
学校から支給されたノートパソコンを立ち上げていなかった。その代わり左腕の腕時計型超小型端末で作業をしているようだ。
「「「「「「はあぁぁぁ」」」」」」
メールのやり取りを覗き込んでいた女子達のため息が教室に響く。
『うーん、これは問題よね』
委員長の洞木ヒカリは考え込む。彼女も覗いていたのだ。
『碇君、クラスに全然馴染もうともしない。鈴原は性格やから仕方ないとかいってたけど……。やっぱり問題よね』
ヒカリはシンジの方を見る。すると、その隣の席のレイがシンジを見ているのに気づく。その目は何か優しげに思えた。
『綾波さん……。あの時、ちゃんと話できたのかしら。後で聞いてみなくちゃ』
ヒカリは二人を見ている。シンジがレイの方へ顔を向ける。レイは小首をかしげる。シンジはまた腕時計に集中する。
『でもあの二人、なんだかお似合いね』
「えー、洞木さん、教科書のP.38を約してください。洞木さん?」
教師の指名に気づかないほど二人の様子に集中しているヒカリ。
「委員長、委員長」
隣の席のトウジがヒカリをつつく。それでやっと気づいたようだ。
「な、何、鈴原?」
「用があるんはワシじゃあないで。あっちや」
トウジは教卓の方を指差す。その方を見るヒカリ。
「洞木さん、いいかしら?
教科書のP.38を約してくださる?」
「は、はい……。」
ヒカリは教師の言葉に赤くなりながら返事をする。その様子にクラス中に小さな笑いが広がる。笑ってないのはレイとシンジだけである。シンジは何かしてるし、レイはシンジを見ている。
『キーンコーンカーンコーン』
授業終了のチャイムが鳴り響く。今から昼食である。
「シンジ、飯どないするんや?」
トウジはシンジにたずねる。
「ああ、何か買えるとこあるのか?」
「下に売店があるで。わしらはそこ、いくんやがどないする」
「……俺も行こう」
「じゃあ善は急げだ。早くしないと売り切れちまうぜ、シンジ、トウジ」
そのケンスケの言葉とともに教室を出ていこうとする二人。
「SIN」
レイがシンジを呼び止める。その呼び方に驚くトウジとケンスケ。
「何、綾波」
「これ」
レイは自分の弁当をシンジに差し出す。
「なーーーに!!」
それをみてまたまた驚くトウジとケンスケ。その様子をあきれた目で見るシンジ。ここに来てはじめて見せる表情だ。
「食べて」
「君はどうするんだ」
その弁当を一応受け取るシンジ。
「お腹すいてないから」
「どうし…」
「お礼」
そう言うとレイは教室を出ていく。
「なあトウジ。なにかやってくれるって思ってはいたけど、まさかね」
「ああ、まさか校内写真売り上げNO.1美少女綾波レイのお弁当をGETするとは」
「予想もできん。ああ世の中不条理すぎる!俺のときはなにもなかったのにぃぃぃぃ!」
ケンスケは涙を流していた。
「しかもあの呼び方。何かあったに違いあらへんで」
トウジは何か考え込むようなポーズでシンジを見る。
「「絶対に聞き出してやる!!」」
ケンスケは眼鏡をキラーンと光らせ、トウジはにやりと笑う。
「なに、馬鹿なことやってるの、早くしないと売り切れるわよ」
ヒカリは二人の様子にあきれながらも忠告する。
「あっ! やばっ! トウジ!」
「ああ、急ぐで!」
「じゃあシンジ、屋上で待っててくれ!」
二人は教室を飛び出すと売店へ走っていく。シンジはレイのお弁当を持って教室を出る。一番近い階段へ歩いていく。
「碇君」
シンジは呼び止められる。
「君は?」
「洞木ヒカリ。A組の委員長やってるんだけど」
「ああ、済まない」
シンジはヒカリに対して軽く謝る。もっともクラスメイトと交流を深めていないシンジに、ヒカリの顔と名前を覚えろというのが無理な話ではあるが。
「よろしくね、碇君」
「よろしく。で、何か?」
「屋上、そっちの階段じゃ行けないわよ」
ヒカリはシンジに簡単に話し掛けられたことに対してちょっと驚いていた。
「そうなのか?」
「こっちよ。私も屋上に行くから案内してあげる」
ヒカリは反対側の階段へ歩いていく。シンジはそれについていく。
「屋上へはこの階段しかあがれないわ。覚えといてね」
「ああ、ありがとう」
シンジはヒカリに対して礼を述べる。
「碇君、ちょっとだけいい?」
「何か?」
「ちょっとだけでいいから、クラスのみんなと打ち解けないかな?」
「………」
「このままじゃあ、碇君、クラスから孤立するわ。ほんのちょっとだけでいいの」
「………」
シンジはヒカリの忠告に対して何も答えない。
「むだやって、委員長。こいつは人見知りが激しいさかいな」
「そうそう。本気で認めた人間にしか心を見せないんだぜ、このせんせは」
シンジとヒカリの二人が話しているところへ、トウジとケンスケが追い着いてきた。
「鈴原、相田君、どういうこと?」
「馴れ合いは嫌なんやと、このせんせは」
「中途半端な友情じゃあ、生きていくのに邪魔だったのさ」
「えっ!」
「ちっ! 先に行く」
シンジは3人をおいて先に屋上へとあがっていく。
「委員長、シンジのことはほっといたってな。お節介はあいつをますます意固地にするさかい」
トウジはそういうとシンジを追う。
「まあそういうことさ。それに大丈夫、俺達がいるし綾波もいるしね」
「綾波さんが」
「さっき綾波がシンジのことSINと呼んでただろ。あいつが人にそう呼ばせるのは自分が認めた人間だけなんだぜ」
「じゃあ綾波さんのこと……」
「まあ恋愛感情ではないと思うけどね。シンジのことはほっとけばいいさ」
そう言うとケンスケは階段を上がろうとする。が、一歩踏み出したところで振返る。
「そうだ。委員長。俺達といっしょに昼飯食わないか?」
「えっ?」
「どうせ多めに作ってあるんだろ?
そのお弁当」
「あ、相田君!」
見る見るうちに赤くなっていくヒカリ。
「綾波、捜しにきたんだろ。いっしょに連れてくればいいさ」
「で、でも大丈夫かな」
「シンジのことなら大丈夫。気にすることはないよ。綾波見つけたら連れてこいよ。いつものとこにいるから」
といってケンスケは階段を上がっていく。
『お節介か、そこまでいうんだったらほっとくしかないかしら。なんとなくすっきりしないけど』
ヒカリはそう考えながら階段を上がっていく。
屋上に出るとヒカリはレイを捜す。レイはフェンスの前に立ち、その向うの景色を見ていた。
「綾波さん」
「洞木さん、なに?」
「昼食、どうするの?」
「お腹空いてないからいい
「それじゃあ体に悪いわ。私のお弁当分けてあげるから、一緒に食べよ」
「いいの」
「もちろん」
「うん」
レイはヒカリの好意に甘えることにした。
「それじゃあ行こう、綾波さん」
「どこに?」
「さすがに二人でも食べきれないの、今日のお弁当。だから鈴原たちにも分けてあげようかなって」
「いつものとこね」
「そう」
二人は『いつものとこ』へ向かう。『いつものとこ』とは屋上にある給水タンクとフェンスの間にできたちょっとしたスペースのことである。この学校でも知っているのはトウジとケンスケとヒカリとレイの4人だけであった。屋上で一番見晴らしがいいとこであった。
3人はそこに陣取りそれぞれの昼食を取り出していた。
「SIN、綾波のお弁当、うまそうやな」
シンジがレイのお弁当を開けると、トウジがそれを覗き込む。お弁当は野菜中心の和食ばっかりだが、見た目はおいしそうに見える。
「………」
シンジはトウジを無視し、お弁当に手をつけようとしていた。
「お待たせ」
「おお委員長、綾波。待っとたで
ヒカリとレイが『いつものとこ』にやってきた。
「トウジ、待っといたのは委員長のお弁当だろ」
ケンスケがすかさず突っ込む。
「そや、ほかに何かあるんか?」
何気なく切り替えすトウジ。それを聞いてちょっと落ち込むヒカリ。ため息をつくケンスケ。無表情なシンジとレイ。
「まったくお子様だね」
「何がや?」
何もわかっていないトウジであった。
「まあこんな鈍感ほっといて、座りなよ委員長、綾波」
ヒカリはトウジの横、レイはシンジの横に何気なく座る。
『か、哀しいなあ』
「それじゃあ改めて、いっただきます!」
「いただきや」
「いただきます」
「いただきます」
「………」
5人はそれぞれの昼食を始める。トウジは買ってきたパンとヒカリのお弁当を交互に食べ、ケンスケはパンをメインにおかずを少々つまんでいる。ヒカリは食べるよりもトウジの食いっぷりを見ている。レイはおにぎりと野菜の煮物をちょっとずう食べている。シンジは一心不乱にレイのお弁当を食べている。
「………」
5分もかからずお弁当をシンジは食べ終えた。
「もう終わったの、碇君」
「ああ」
シンジは弁当箱を片づける。
「じゃあ、味はどうだったの?それぐらいは言ってあげたら」
「ん、うまかった」
シンジは簡潔に感想を述べ、空のお弁当をレイに渡す。その言葉を聞いてレイは一瞬嬉しそうな表情を見せる。
「よかったね、綾波さん」
「うん」
それぞれの昼食を終えた5人。昼休みはまだまだ続く。
「ねえ、綾波さん」
「なに」
「碇君と知り合いだったの?今日初めてあったわけじゃあないんでしょ?」
「うん、助けてもらったの」
「て、ことはその怪我か、シンジ」
「ああ。巻き込んでしまったからな、当然のことだ」
「碇君、怪我するようなことに、綾波さんまきこんだの?」
「ああ」
「だめじゃない。綾波さんは女の子のなのよ、一生ものの傷が残ったらどう責任とるつもりなの!」
ヒカリはシンジに迫った。
「「くっくくくくく、あっはははははは」」
トウジ、ケンスケはその様子を見て爆笑した。
「あははは、なあトウジ、委員長には勝てないなあ」
「ああ、ほんまや。なあシンジ」
「………ああ。たいした奴だ」
「えっどういうこと?」
「シンジにあった初日に、説教した人間ははじめて見たよ」
「たいしたもんや、委員長」
「あっ、ご、ごめんなさい」
「いや、委員長君のいう通りだ。済まなかった綾波」
シンジはレイに頭を下げた。
「でも、SINは私を助けてくれた。どこが悪いの?」
「だからね、綾波さん。そのことで怪我して、傷が残ったりしたらお嫁に行けなくなるの」
「私は怪我をしていないわ」
必死で説明するヒカリ。レイは何が悪いのか全然わかっていない。
「なあトウジ、綾波って天然入ってるよな」
「ああほんまやなあ、みててあきんわ」
トウジとケンスケはその様子を見て軽く笑っている。
「鈴原、相田君、碇君も笑ってないで助けてよ」
「くっくくく、しゃあないなあ」
「あのな、綾波………」
「………」
そんなこんなで昼休みは過ぎていく。
放課後、またもやシンジの周りにクラスメイトが群がっている。今度は学校を案内するのは誰かということで集まってきているのだ。
「済まないが、これから用事がある」
シンジは軽くあしらうと、窓から踊り場に出る。
「えっ、碇君?」
クラスメイトはシンジが何をするのか、わかっていない。
「綾波、葛城ミサトによろしくな」
そうレイに言うと、シンジは踊り場から下へ飛び降りる。
「きゃあああ」
女子の一人が悲鳴を上げる。ここは2階。下手したら怪我をする高さである。レイは急いで窓の下を覗き込む。シンジは怪我一つなく校庭に着地していた。
「せっかちなせんせやな。
「ああ、でもシンジらしいよ。さてと帰ろうぜ、トウジ」
「よっしゃあ、じゃあな委員長、綾波」
「さよなら」
「じゃあねって、ちょっと鈴原!あなた週番」
ヒカリはトウジを引き止めようとするが、二人はもういない。
「もう。霧香、ごめんね。明日よーく言っておくから」
「ふーん、奥様は大変ねえ、ヒカリ」
「な、なに、い、いってるのよ!」
「どもってるわよ。あと日誌返すだけだから気にしなくていいわ」
「そ、そう」
「ふふふ」
「もう」
ヒカリはクラスメイトの女子にからかわれていた。他人から見ればヒカリの想いは一目瞭然なのだが、トウジはまったくといっていいほど気づいていない。
「それじゃあね霧香。綾波さん、帰りましょ」
「うん」
二人は学校を出る。
「ねえ、綾波さん。今日は時間あるの?」
「空いてるわ」
「それじゃあ、この前言っていた料理を教えてあげる」
「いいの?」
「友達じゃない。気にしないで」
「ありがとう」
『友達か……。よし』
ヒカリはちょっとこぶしを握り締める。
「綾波さ…、ううんレイ。今から私のことはヒカリって呼んで。わたしもレイって呼ぶから」
「どうして」
「友達だもの。名字をさん付けで呼び合うなんて他人行儀すぎるわ」
「うん、洞木さん」
「ほら、また」
「あっ!…ヒカリ」
「よし!」
ヒカリは微笑んでいた。レイも無表情であったが目がかすかに微笑んでいた。
『ヒカリ、はじめての友達。私うれしい』
葛城ミサトのマンション
レイはヒカリのうちで料理を教えてもらった後、まっすぐ帰ってきた。
「クエッ」
この部屋のもう一羽の住人、温泉ペンギンのペンペンがレイを出迎えた。
「ただいま、ペンペン」
レイはペンペンの頭を軽くなでるとキッチンへ入っていく。ペンペンもそれについていく。
「おかえりなさい、レイ」
リビングからミサトの声が聞こえてきた。
「ミサトさん。帰ってたのですか」
「そうよ、侵入者騒ぎっていっても作戦課のすることなんてほとんどないわ。日向君達にまかせてとっとと帰ってきたのよ」
「でも」
「大丈夫、大丈夫。この葛城ミサトに抜かりはございませんってね」
「………」
「そんなことよりも、あたしお腹空いてるのよ」
「クエックエクエクエ」
「はい、すぐ用意します」
「お願いねん」
レイは食事の用意に取り掛かり、ミサトは冷蔵庫からビールを取り出していた。
「ミサトさん、一本だけです」
「えーー」
「赤木博士から言われてますから。ミサトさんにあまり飲ますなと」
「あいつうう。でもいいじゃないちょっとぐらい」
「だめです。それ以上飲むならミサトさんの食事から引いていくことになります」
「うっ、わかったわよ。しくしくしく」
「クエクエクエ」
ペンペンが椅子に座っているミサトのひざをペシペシとたたいて、彼なりにミサトを慰める。
「あーん、ペンペンあんただけよ。あたしの味方なのは」
ミサトはペンペンを抱きしめる。
レイはそんなミサトを無視して料理を続ける。それを見て微笑んでいるミサト。
「レイ、何かいいことあったの」
「えっ、はい」
「なにがあったの? お姉さんに話してみなさい」
「は、はい。………」
ヒカリのことをミサトに話す。
「よかったわね。レイ」
「はい」
話している間に出来上がった料理をさらに盛り付け、テーブルにならべる。
「いっただきまーす!」
「クエッ!」
「いただきます」
二人と一羽は食事をはじめる。本日のメニューはそうめん、焼きナス、野菜サラダといった簡単なものだ。
食事を終えた二人と一羽はリビングでくつろいでいた。
「ミサトさん」
「なにレイ?」
「SINっていう人知ってますか?」
「ちょっとレイ。彼に会ったの?」
「はい、学校で。別れ際にミサトさんによろしくと」
「学校って、なんとまあ場違いなとこにいるわね」
「そうなんですか?」
「そうよ、私が知ってる彼はね。そんなとこに行くような子じゃあないわ」
ミサトは考え込んでいる。
「レイ、その子。私によろしくっていったのね」
「はい」
「あの時の子なのね」
「……はい」
「そっか……。よし、明日会ってみるか」
「……」
「大丈夫よ、NERVの人間としていくわけじゃあないわ。昔馴染みに会いに行くだけだから」
「それと、碇司令に子供、いましたか?」
「ん?」
「SIN、碇シンジって名乗ったんです」
「それマジ?」
「はい」
「SINが司令の息子。うーん、リツコなら知ってるかもしれないけど……」
ミサトはますます考え込む。
「よし、ちょっと調べてみとくわ」
「はい」
「それじゃあ、先にお風呂入っていいわよ」
「はい、ペンペンいこ」
レイはペンペンを連れて風呂場へ行った。
ミサトはとあるところに電話してる。
「日向君、ちょっち調べてほしいことがあるの」
『ミサトさん、いったい何を?』
「碇司令の家族構成。それとその居場所」
『またどうして?』
「詳しいことは言えないの」
『わかりました。調べたものはどうします』
「悪いんだけど、ここまで届けてくんない。メールは使いたくないの」
『了解しました』
「あとリツコに知られないようにね」
『また難しい注文ですね。了解しました。今日中にお届けします』
「悪いわね」
『いえ、あなたのためでしたら』
電話の相手はそこで電話を切る。
『SINか、3年ぶりぐらいかしら。』
『ピンポーン』
呼び鈴が鳴る。
「はいはいちょっち待って」
ミサトは大急ぎで玄関まで走っていく。玄関を開けると、そこにはまじめそうね眼鏡をかけた青年が立っていた。
「みさとさん、お届け物です」
「悪いわね、日向君」
彼は日向マコト。NERV作戦指令塔のオペレーターの一人。ミサトの一番の部下と自他共に認められている。おかげで、NERV内のミサトの雑用は彼に押し付けられているのだが。
「いえ、お安い御用です」
「この事は他言無用よ」
「はい。でもいったい」
「いい、これから言うことはオフレコよ」
といってマコトの耳に口を近づける。
「先日の侵入者、見つけたわ」
「えっ、それじゃあ報告は?」
「まだよ。する気もないけど」
「ちょっとやばくないですか」
「まあね。でも色々複雑なのよ」
「それがそれですか」
「そう」
「わかりました。なにかわかったら教えてください。それで十分です」
「わかったわ」
「じゃあ俺はこの辺で」
「あらお茶ぐらいだすわよ」
「いえ、連日の徹夜でもう限界なんです。ここはおとなしく帰って寝ます」
「そう、じゃあ気をつけてね」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
『碇ゲンドウ。NERV最高司令。もと生物研究所ゲヒルン所長。家族構成、妻碇ユイ2004年実験中の事故により死去。息子碇シンジ2006年、預けられていた叔父夫婦のもとから行方を暗ます。その後の捜索によってもいまだ発見されず』
「まいったわねえ。どうみてもこの子SINだわ」
ミサトはレポートとともに同封されていた写真を見てつぶやく。
「ああまったく事態は複雑ね。それにこの子が生まれたのは2000年、行方不明になったのは2006年。リツコのいってた話と一致する。ああ偶然にしちゃあできすぎてるわよまったく」
ミサトは頭をかきむしる。
「SINが碇シンジであるかどうか。これが問題ね。リツコに相談できればいいんだけど……。それはまだまずいわね」
「明日会ってみるしかないか」
翌朝、レイは二人分のお弁当を持って登校していた。もちろんシンジのぶんである
『レイ、SINにあたしが会いたいって伝えといて。放課後迎えに行くって』
ミサトはレイが家を出る間際にそう言ってきた。
「ん」
レイは前を歩く男子に見覚えがあった。ちょっと早歩きでまえの男子に追い着く
「SIN」
ようやくレイに気づいたシンジ。
「綾波、おはよう」
「おはよう」
二人は連れ立って歩く。二人とも無言で何も会話はなかったが、レイはちょっとだけ心が満ち足りているのを感じる。
『誰かといっしょの登校。初めてかもしれない』
校門が見えてきたところでレイは沈黙を打ち破る。
「SIN、今日の放課後ミサトさんが会いたいって」
「ミサトが?」
「迎えに来るそう」
「わかった」
二人の会話は簡潔に終わる。それで十分だった。
放課後、レイとシンジはミサトを校門の前で待っていた。
向うから猛スピードの車が近づいてくる。
「ミサトか」
「キィキィィィ」
するどい、ブレーキ音を鳴らし、ブレーキターンでミサトの愛車が校門の前でぴったりと停車する。
「ごめん、ごめん、待った?」
助手席のウインドウをあけながら二人に謝るミサト。
「いや、ミサトが遅れてくるのはわかっていたからな」
「そうね」
シンジは皮肉をミサトに向け、レイも同調する。
「レイ、ちょっとは否定してくれてもいいんじゃない」
「事実ですから」
レイもそっけない。
「で、どうするんだ?」
「あっ、そうね。二人とも乗ってちょうだい」
二人はミサトの車に乗り込む。助手席にシンジがバックシートにレイが乗った。
「久しぶり、SIN。3年ぶりかしら」
「いや2年と10ヶ月ぶりだ」
「細かいわね」
「大雑把すぎるだけだろう」
「まったく変わってないわね。その子憎たらしいところ」
「ミサト、結婚できたのか?急がないと行き後れになるんじゃないか」
「う、うっさいわね」
シンジの言葉に大いに傷つくミサト。一番気にしていることなのだ。
「で、今まで何してたの」
「いろいろ」
『こいつのことだから本当にいろいろしてたんだろうな』
ミサトはそう思った。
車は峠の展望台に停車する。ここは第三新東京市を一望できる。
「レイ、ちょっと待っててくれる。SINと二人で話がしたいの」
「はい」
シンジとミサトの二人は車から降りる。二人は展望台の柵に近寄る。シンジは柵に腰掛け、ミサトはその横に立っている。
「SIN、先日の侵入者、あなたよね」
「ああ」
「NERVになにかあるの?」
「NERV自体には用はない。その後ろにいるゼーレと呼ばれている連中を俺は調べている」
「ゼーレ?」
「国連を裏から操る謎の組織。NERVは所詮ゼーレの駒の一つだろう」
「NERVが駒!?」
「おそらくな。だが碇ゲンドウという男は何を考えているのかわからないときいた。そう簡単に言いなりになるとは思えない」
「ということは碇司令も何か隠してるってこと?」
「ああ、そしておそらく綾波のことがその一つだと思う」
「そして人類補完計画。これがゼーレの進める計画ということまでは調べがついている。その推進組識が」
「NERVってわけね」
「ああ」
「で、その人類補完計画って何」
「わからん。そっちは何か知らないか」
「知らないわよ、そんな計画。私は所詮使徒迎撃の作戦担当だから」
「碇ゲンドウとその周囲の人間だけが知っているか」
「おそらくね。でもいきなりあたしにこんなこと教えていいの」
「いずれ知ることになる。その時になって慌てるよりはいいはずだろう」
「君のことも関係してるの?」
「ああ、俺の本名は碇シンジ。調べてあるんだろう?」
「ええ、碇司令の息子。5歳から行方不明のね」
「ここに来ればすべてがわかると思った。俺のことも、ゼーレのことも、なにもかも」
シンジは遠く見える第三東京市を見ている。
「まだ見つけてないのね。『自分の帰るべき場所』」
「ああ、見つかっていたならここにはいない。過去よりも未来の方が大切だからな」
二人はその後無言で景色を見ている。
「ミサトさん、赤木博士から連絡です」
レイが車から降りてきて、自分の携帯電話をミサトに渡す。
『ミサト!なに携帯をきってるの。まったく、レイがいなかったら連絡着かないところよ』
「リツコ、大声で怒鳴らないでよ。聞えてるから。で、いったい何」
『ミサト、来たわ。15年ぶりに』
「まさか、使徒!」
To be continued
4.ANGEL ATTACK
NEXT
ver.-1.00 1997-11/13公開
ご意見・ご感想は
takasan@mail.interq.or.jpまで!!
後書き兼用座談会
タカ:やっと終わった
レイ3:何が
タカ:導入編
レイ3:そう
タカ:うーん、前置き長すぎたかなって思ったんだけどね。シンちゃんの性格かえるにあたってこの辺は重要かなって思ってね
レイ3:その割にはあんまり説明されてないわ
タカ:そうだね
レイ3:それに碇司令、冬月副司令、青葉二尉が出ていないわ
タカ:えっ、(読み返してる)しまった。出していない。まあゲンドウと冬月さんは裏で何かしているだけだから出してもしかないんだけどね。青葉さんにいたっては忘れていたわ
レイ3:その辺で剃刀メールが来たらどうするの?
タカ:どうしない。アスカ人の人達からくる嘆願書の方が俺は恐い(^^;;;
レイ3:そうね。
タカ:で、次はやっとTV第一話部分ってとこかな
レイ3:でも二人目の私は怪我はしていないわ
タカ:大丈夫、この話では零号機の暴走は起こっていないから
レイ3:そしてサードチルドレンも見つかっていない
タカ:誰かはわかってるけどね(^^;;
レイ3:大丈夫なの?
タカ:まあかすぅぇて!
レイ3:そう(冷ややかな目で見ている)
タカ:うっ,信じてないね。その目は
レイ3:私が信じているのは碇君だけ
タカ:あっそう(ちょっと落ち込む)
レイ3:でもなぜ私がここに居るの?
タカ:ああ、君を『SIN』で出す気はないからね。ここにいてもらおうと思って
レイ3:そう、なぜ碇君、簀巻きにしているの
タカ:本物のシンちゃんに登場されたら、困るから
シンジ:やっぱり、僕は必要とされていないんだ
レイ3:そんなことはないわ。私は碇君が必要だもの
シンジ:綾波……。僕はここにいてもいいの?
レイ3:碇君にいっしょにいてほしいの
シンジ:綾波、だったら助けてよ。いつまでもこの格好はいやだよ
レイ3:わかったわ
タカ:ちょっとまった!簀巻きをとく前にシンちゃん
シンジ:なに?
タカ:君に選択肢をあげよう。1.本編出演をどうしても望みこのままここで簀巻きにされている。2.出演はあきらめるがここでレイちゃんとラブラブな関係になる。3.出演もあきらめてレイちゃんとのラブラブな関係も拒否し暴れまわっているアスカちゃんの生け贄となる。せてどれ?
シンジ:(迷わず)2番!
レイ3:碇君、うれしい(顔を赤らめる)
タカ:おや珍しい、即答だね。
シンジ:2番以外、自由にならないじゃないか。それに3番なんて命の保証がないじゃないか、暴れているアスカの生け贄なんて絶対に嫌だ!
アスカ:いい度胸ね、バカシンジ
シンジ:アスカ!
タカ:いつのまに
アスカ:シンジ、覚悟はできてる?(にっこりと微笑む)
タカ、シンジ:(あの笑みがむちゃくちゃ恐い)
アスカ:シンジのぶわかああああ!!!
タカ:なんで俺までええええ
シンジ:なんでええええ
『キラーン』アスカの一撃で二人はお空のお星様になりました。
アスカ:ほら、ファースト。二人がいなくなったんだからちゃんと締めなさいよ
レイ3:わかったわ。お星様になった作者に変わりまして、407号室の秋月さん、メールありがとうございました。どんどん私を幸せにするそうなので期待しててください。それからyanmanaさん感想メールとてもうれしかったです。馬鹿な作者を見捨てずにまた読んでやってください
レイ3:そして、大家さん。カウンター設置ありがとうございました。これからもお手数かけますがよろしくお願いします
アスカ:それと私の活躍が早くみたいなら、馬鹿作者まで嘆願書を出すのよいいわね!
レイ3、アスカ:では次回第4話『ANGEL ATTACK』 お楽しみに
マヤ:ところで私の出番はいつなんですか?
タカさんの『EVANGELION SIN』3.公開です。
シンジ・・じゃなくて、SINですね、
しゃべり方から、
行動から、
人との接し方から、
考え方から・・・
お、お前は誰だ?!(爆)
面影がないなんて生やさしいもではなく、
全くの別人ですよね。
共通点を全然見出せないほどです。
何が彼をこうしたのか・・謎です。
深い過去、見えてきそうですね(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
タカさんに感想を送りましょう!