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(あなた、私イヤよ。あんな気味の悪い子引き取るの)

(そうは言うがな、碇家の資産は半端な額じゃないんだぞ)

(そりゃあ、そうだろうけど・・・・・・)

(俺は綾波ユウキの弟、つまりあのガキの叔父にあたるんだぜ。養育権くらいは主張できるはずだ。うまくいきゃあ、碇の家の金が転がり込んでくるんだ)

(でも、義兄さん夫婦って碇家には近づかないようにしていたんじゃないの?それに、やっぱり気味悪いわ、あの髪と目。義兄さんが交通事故に遭ったのだってあの子の祟りなんじゃないの)





(お金ならあげます。でも、姉さんとユウキさんの子供はあなた達みたいな人間には絶対に渡しません)



(レイちゃんか、確かシンジと同い年だったな・・・・・・ふっ、問題ない)



(ぼくはシンジ。なかよくしようね)

(レイちゃんのかみとめってとってもきれいだね)





(なんでえ、へんなかみのいろして。めだってまっかじゃねえか)





(めそめそ泣いてるからいじめられるのよ。いいわ、あたしがまもってあげる)










 その日綾波レイは、彼女にとっては非常に珍しいことに、真夜中の五時過ぎに目が覚めてしまった。

 世間ではすでに『早朝』と呼ばれる時間なのだが、彼女にとってはあくまでも『深夜』である。

 目が覚めると彼女は、自分が涙を流していることに気づいた。

 夢を見たのだろうが、内容はよく覚えていない。

 哀しかったような、嬉しかったような、はっきりとしない感じだけが残っている。

 おそらくは昔の『あのこと』なのだろう。

 実の父母が交通事故で逝ってしまった後、『普通でない』外見を持つレイのことを受け入れてくれたのは、彼女の母の妹である碇ユイであった。

 新しい父と母は優しかった。

 少々頼りないものの、優しい兄もできた。

 とても頼り甲斐のある、幼馴染みとなる少女もできた。

 自分はいま幸せなのだろう。

 愛してくれる家族がいて、学校でも友人には恵まれている。

 レイは涙をぬぐうと、せっかく目が覚めたのだからシャワーでも浴びようと、寝ぼけ眼をこすりながら浴室へ向かった。





 それから二十分後。


「うわああああああああ」


 碇家の朝の静寂は、シンジの絶叫によって破られた。







そして僕らは恋におちて

第2話〜今わたしは幸せです〜








 碇シンジの朝はいつも早い。

 早朝のジョギングと弓道部の朝練習に出るためだ。

 今朝もいつものように五時半に起床すると、トレーニングウェアに着替えてから洗面所に向かった。

 この時間では、両親とレイはまだ寝ているはずだ。

 物音を立てないように、静かに階段を降りる。

 碇家の洗面所は一階の一番奥にある。

 廊下を歩きながら、シンジはぶるっと体を一回震わせた。

 四月とはいえ、早朝はまだまだ寒い。

 この時間のジョギングが楽になるのはもう少し先のことだろう。

 トレーニングウェアのファスナーを一番上まで閉めると、シンジは洗面所の扉を無造作に開けた。

 その瞬間、シンジの目の前にいきなり白い物体が飛び込んでくる。

「・・・・・・?」

 寝起きのシンジの頭には、その白いものが何なのか一瞬わからなかった。

 しばらくその白い物体を凝視した後、それがレイという名の従妹(いとこ)の裸体であることにようやく気づいた。

 お互いに硬直したまま見つめあうと、先に状況を理解したシンジが叫び声をあげる。

 慌てて飛びすさろうとしたが、足をもつれさせて倒れ込んでしまう。

 その拍子に洗面台に頭をぶつけ、そのままシンジの意識はブラックアウトした。







「シンちゃんのスケベ。シンちゃんのエッチ。シンちゃんのばか。シンちゃんのヘンタイ・・・・・・」

 ずきずきと痛む後頭部に顔をしかめながら、シンジは何故ここまで罵られなければならないのかと思った。

 罵声の主である少女は、食卓を挟んでシンジの向かい側に座っている。

「事故なんだからしょうがないだろ。それにもう何度も謝ったじゃないか」

「・・・・・・誠意が感じられない」

 レイは味噌汁を持つ手を休め、ジト目でシンジのことをにらむ。

「だいたいレイがあんな時間に起きていることがおかしいんだよ。それに風呂に入るんなら、鍵くらい掛けておけばいいじゃないか」

「だってあんな真夜中に誰か起きてくるなんて思わなかったんだもん」

「何が真夜中だよ!!あれは朝っていうんだ。僕は毎日あの時間に起きてるの」

「むう・・・・・・屁理屈ばっかり言って。可愛くないわね」

 『五時半は朝だ』というシンジにとっての常識も、レイにかかってはただの屁理屈になってしまう。

 不毛なものを感じ始めたシンジは、助けを求めるように隣に座る父・ゲンドウに視線を向けたが、ゲンドウは新聞で顔を隠すようにして我関せずといった態度を崩さない。

 しかし、その態度に不満を覚えたのはシンジではなくレイの方だった。

「もう、パパも黙ってないでなんか言ってやってよ」

 レイの言葉にようやくゲンドウは反応し、新聞から顔を上げると、

「・・・・・・よくやったな、シンジ。だが、責任はきちんと取れ」

 と、まったく訳のわからないことを口走る。

 パカンっ

 その瞬間小気味のいい音が響き渡る。

 シンジが後ろを振り返ると、今しがたゲンドウの頭をはたいた「おたま」を持って母のユイが立っている。

「朝っぱらから、ばかなこと言ってるんじゃありませんよ。それから、食事中に新聞を読むのはやめてくださいって言ってるでしょう」

 先に手を出しておいてからゲンドウに小言を言うと、ユイは今度はシンジとレイを急かすように言った。

「ほら、二人もいつまでも喧嘩してないで早く支度しなさい。もうすぐ渚君が迎えに来るわよ」

「「は〜い」」

 シンジとレイは朝食を急いで片付けると、学校に行く準備をするためにどたばたとダイニングを出ていった。







「どうやらお姫様はご機嫌斜めのようだね?」

 学校への道程を歩きながら、ムスっとしたレイと困ったような顔のシンジに話し掛けるのは、中学時代からの付き合いである渚カヲルという少年だ。

 いや、少年というよりも、すでに青年の域に入っているだろうか。

 シンジとレイよりも一つ年上のカヲルは今年高校三年生であるが、その大人びた雰囲気は二十歳過ぎといっても充分に通用する。

 だが、それよりも特筆すべきは、その髪と瞳の色であろう。

 シルバーブロンドとでも呼べばいいのであろうか、やや長めの髪はプラチナブロンドと純白の合いの子のような色をし、切れ長の瞳はとなりを歩く少女と同じような紅味がかかった色をしている。

 レイと同じように先天性のもので、やはり普通ではありえない色彩である。

 もっともカヲルの場合、自分のこの外見は『天に選ばれた人間であることの証し』なのだと信じて疑ったことがないため、レイのようにそれで悩んだということは一度も無いのだが。

 確かに、どことなく人間離れした美しさを醸し出している。

 くわえてスタイルもかなりよい。

 シンジと同じくらい――180センチほどのすらりとした長身を、黒いシャツと黒いスラックス、黒いジャケットに包んでいる。

 シャツの胸元から見える雪のように白い肌が、黒づくめの服装と見事にマッチしている。

 一応説明しておくと、緑華学園には服装の規定は特にない。

 制服もあるにはあるのだが、特に着用の義務があるわけではなく、気が向いたときにだけ着るといったものになっている。

 カヲルと同じく、シンジとレイも今日は私服である。

 始業式には制服を着ていったレイも、どうやらすでに飽きてしまったらしい。

「・・・・・・で?どうして今朝はシンジ君も一緒なんだい?」

 カヲルはその銀髪を細長い指で掻き上げながら、となりを歩くシンジに訊いた。

 彼の記憶にあるかぎりでは、最近シンジと一緒に登校したことはない。

 シンジには弓道部の朝練習があるためだ。

 もう一つ気になっていることがある。

 カヲルが碇家をおとずれた時点で、レイの準備ができていたことも今までにないはずだ。

 いったい今朝は碇家で何があったのだろうか?

 カヲルの疑問はそこにある。

 ただし、心配しているわけでも何でもなく、あくまで単なる興味本位である。

 これを外道というなかれ。

 少々(?)屈折してはいるものの、レイとシンジに対するこれがカヲルなりの愛情表現なのだ。

 とりあえずカヲルのそんな疑問に答えたのはレイだった。

「シンちゃんがね・・・・・・」

 そう言ってシンジの方をジロリとにらんでから続ける。

「わたしの裸を覗いたの」

「・・・・・・ほう、それはそれは」

「でね、シンちゃんは興奮して気を失ったの」

「ふむふむ」

「しかも勝手に覗いたくせに、それをわたしのせいにするのよ・・・・・・わかった、カヲルちゃん?」

「ああ、大体わかったよ。つまりこういうことだね。

 レイは今朝、裸になってベッドの中で寝ていた。何故かはわからないけどね。

 そしていつものようにレイを起こそうとしたシンジ君は、彼女が裸なのを見てついムラムラきてしまった。

 で、理性を失って襲いかかろうとしたものの、興奮に耐え切れずに鼻血を吹いて気絶してしまったと・・・・・・

 つまりはそういうことなんだろう?」

 ごんっ!

 見事に曲解してみせたカヲルの後頭部に、レイの容赦ない一撃がめり込む。

 彼独特のシニカルな笑みをその美しい顔に貼りつけたまま、カヲルは声もなく地面に沈み込んだ。







「カ、カヲル君。大丈夫?」

 無言で崩れ落ちたカヲルをシンジは慌てて介抱しようとするが、どうやらしばらくは気づきそうにもない。

 シンジは溜息をつくと、レイに非難の視線を向けた。

「どうしてカヲル君に対して、レイはそんなに乱暴なんだよ?」

 シンジは少々きつめの口調で言う。

 確かにカヲルの解釈は目茶苦茶なものだが、レイの説明があれではわかるはずもない。

「それに、興奮して気を失ったっていうのは何だよ?

 何だって僕がそんなこと・・・・・・

 だいたい、興奮するほどのものじゃないじゃないか。

 十年前から全然変わってない、ぺったんこのままのくせに・・・・・・」

 カヲルを介抱しながら、ぶつぶつとつぶやく。

 だがそのためにレイから視線を離していたシンジは、自分が決定的な間違いを犯したことに気づかなかった。

 ぶんっ

 何かが空を切るような音が聞こえたと思った瞬間、シンジは今日二度目のご先祖様との対面を経験することになった。

 ――合掌。







 シンジがカヲルと同じ場所へと旅立ったとき、その背後では凶器である鞄を持ったままのレイが、ぜえはあと荒い息をつきながら肩を怒らせていた。

(ぺったんこですって、ぺったんこですって、ぺったんこですって!?)

(そりゃあ、アスカみたいに昔からグラマーだったわけじゃないけどさ・・・・・・)

「むき〜、シンちゃんなんかピーピーピーのくせに。なによっ!!」

 伏せ字になってしまうような内容を思わず大声で叫び、周囲の視線に気づいてたちまち真っ赤になる。

 三人分の鞄を小脇に抱え直すと、右手でシンジの、左手でカヲルの襟首を引っつかみ、大の男二人を引きずりながらレイは慌ててその場を離れた。

 シンジとカヲルが平均以上の長身であるのに対し、レイは身長153センチとかなり小柄なほうである。

 見た目にも華奢な印象を受ける。

 だがシンジを引きずるといったような力仕事に関しては、昔からアスカの特訓(?)を受けていたため、たいして苦もなくこなせるようになっている。

 いまでは、シンジとカヲル、二人をいっぺんに引きずることもできる。

「シンちゃんがバカなのは昔からだけど、なんでカヲルちゃんまでこんなにバカなのよ?」

 ずるずると盛大な音を立てて二人を引きずりながら、レイは独りごちた。

「まったく・・・・・・中学に入ったときは素敵な先輩だと思ったのにね。

 こんなのに憧れていたときがあったなんて、我が人生最大の汚点だわ」

 と、どこかで聞いたことのあるような台詞をレイはつぶやく。

「そりゃあ、カヲルちゃんのおかげでコンプレックスがなくなったのには感謝しているけどさ・・・・・・」

 中学にあがるとき、それまで自分を守ってくれていたアスカはドイツに行ってしまった。

 不安でいっぱいのレイだったが、意外にも中学校ではレイの外見は『素敵なもの』として受け止められた。

 一学年上に在籍していた渚カヲルという少年のおかげである。

 銀髪に紅い瞳を持つこの少年は、自分の外見は天に選ばれた証しであり、美しさもまた普通の人間では敵わないものである、と信じていた。

 そして能力的にも実際その通りであったので、カヲル自身の認識は、いつのまにか全校共通の認識へとなっていった。

 そのような環境のため、レイは中学校にあがってからというもの、以前のように外見でからかわれることは一切なくなった。

 他人に対して臆するところがなくなったため、積極的に人と接し、交流の範囲もぐっと広がった。

 そのことに関しては確かにカヲルに感謝している。

 感謝してはいるが・・・・・・

 やっぱりカヲルちゃんってバカだ。

 レイはそう思う。

 あ〜あ、私の周りにいる男って、二人とも外見だけは格好いいのにねえ。

 みんな、この外見にだまされているんだわ、きっと。

 天国のパパとママ、レイの周りにはろくな男の子がいません。

 ――今わたしは不幸です。

 一向に目を覚ます気配がない二つの塊を学校まで引きずるという、無粋極まりない作業をこなしながら、レイは少女漫画のような素敵な出会いを切実に望んだ。







 レイが男二人を引きずって登校するのとほぼ同じ頃・・・・・・

「司令、応答願います」

「私よ。何かしら?」

「はっ、報告します。目標Sは今朝はBポイントに現れず。

 おそらくは何か予定外の事態に巻き込まれたものと思われます」

「・・・・・・ふぅ〜ん、何かにおうわね(これは美味しいわ)。

 わかったわ。Bポイントにおける潜入および待機は解除。

 今後は目標Sに直接はりついて監視してちょうだい。

 とくに目標RとエネミーKとの接触行動に注意するように。

 それと今回の任務は極秘に進めること。

 加持少佐にも知られることがないようにね。

 これは司令命令です。

 頼んだわよ、相田少尉」

「はっ、了解しました。葛城司令殿」

「じゃあ、後はよろしくね」







 こうして緑華学園の登校風景は、きわめて平和に過ぎていった。







俺が書きたいのはホントはLASなんだぁ!!
ver.-1.00 1997-11/21公開
ご意見・ご感想・苦情等は a50136@hongo.ecc.u-tokyo.ac.jpまで!!



 突然ですが、私は誹謗中傷のメールは丁重に無視し、即ごみ箱に捨てさせていただくことにします。

 というのも、先日そういった内容のメールを受け取ったものなので・・・・・・

 内容に対する純粋な批評・批判は、自分の糧になるのでありがたく読ませていただくのですが、悪戯で出したであろうふざけたメールは、やはり不快以外の何物でもありません。

 だいたい、プロローグと第1話だけで、私個人の人間性の何を判断するというのでしょうねえ(苦笑)

 そんなこんなで――まあ、理由は他にもいろいろとあるのですが――最近、躁鬱状態の浮き沈みが激しいリョウです。

 そんな状況では、皆様の暖かいメールに非常に励まされます。(いや、ホントに)

 とくに最近いろいろとメールをくださったZenonさん、月丘さん、綾波師匠(すいません、勝手に(^^;)、深く感謝しています。

 さて、いきなり私的なことからはじめてしまってすみません。

 今回の『そして僕らは恋におちて』(う〜ん、やっぱタイトル長いな)は・・・・・・

 ああ、やっぱり話しが全然進まないぃ〜(;;

 結局、レイ、シンジ、カヲルの関係が少し見えたくらいですね。

 こんなことなら前回、予告なんてやらなきゃよかった。

 でも懲りずに予告しちゃう♪(←ヲイ)

 次回、学園を影から支配する謎の組織とは?

 第3話〜『Eチーム』におまかせ〜

 お楽しみにっ。


 リョウさんの『そして僕らは恋におちて』第2話、公開です。

 

 明るくなったレイちゃんの影にカヲルあり。だったんですね(^^)
 

 自分のが意見は神に与えられた物・・

 凄いぞカヲル!

 君はそうで無ければいかんのだ!

 SS界では”ナルシスホモ”の異名を持つ彼ですが、
 いやいや、やってくれます(^^)
 

 これだけの思い込みを得るにはそれなりの経過があったのかな?

 昔は辛い思いをして、その反動とか?
 或いは・・・生まれつきか?!
 

 とにかく、彼の存在は大きかったんですね。

 レイちゃんにも笑顔であって欲しいので、
 感謝感謝(^^)/

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 リョウさんをあたたかいメールで励ましましょう!


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