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「二人の補完」

 

 

プロローグ

サードインパクト、またの名を人類補完計画。

いきずまった出来損ないの群体である人間を単体の究極の生物へと進化される事。

人類補完計画の発動により全ての人間の心はLCLの中に溶け合い、今一つとなった。

だが、人類の未来をゆだねられた碇シンジは補完を拒否した。 決して傷つけ合うことはない、しかし他人と自分を認識できない虚構の世界より、つらいことがあっても他人と傷つけ合う事になっても、自分と他人がいる現実の世界へ戻る事を選んだのだ。

LCLの中から次々と再生する人々…。 だが補完を望み現実への帰化を拒んだ者は全てあの世へと旅立つ事となった。

公式記録にはこうある。

「西暦2015年、謎のサードインパクトの発生により、人類の数は再び減少した。 生き残った人類の数、およそ10億。」

人類の半数が補完を望み、半数が現実への帰化を願ったその結果であった。

その現実への帰化を願った一人の中に碇シンジがいた。 彼の隣には彼が愛した少女が横たわっていた。 何かに怯えるように少女の首を絞める少年。 少女の手が少年の頬を撫でた時、少年は泣きだした。

「気持ち悪い」

少年が聞いた少女の最後の言葉。 それっきり少女は再び心を閉ざした。 蒼い瞳に光が戻る事はなかった。 その時、少年は少女がまだ少年を憎んでいる事を、少女が少年を拒んだ事を知った。 だが、少女は生きることさえも拒んだわけではなかった。

神話が終わり一つの物語が始まる。  

  

 

前章「AIR」編

  

第一話「シンジ 邂逅・・・」  

  

僕には何もなかった。

小さい頃、母さんが死んで、そして父さんに捨てられた。

誰も僕を愛してくれなかった。

誰も僕の事など必要としてくれなかった。

14歳になるまで、ただひっそりと生きてきた。

何もない生活。 夢も目標もなくただ生きているだけ…。

死にたいとは思わなかった。

だけどいつ死んだとしても、そんなことはどうでもいいと思っていた。

ただ僕が死んだ時、誰も悲しんでくれないのかなと思うと無性に寂しかった。

そう本当は寂しかったんだ。

誰かに僕を認めて欲しかったんだ。

けど、だからといって僕は積極的に自分を変えていこうとは思わなかった。

他人が恐かったから…。

傷つくことが恐かったから…。

他人を受け入れ、そして裏切られたらと思うと無性に恐かった。

信じて裏切られるくらいなら、傷つくぐらいなら、今のままでいいと思った。

だから僕は自分を押し殺して、他人を傷つけないように生きてきた。

その結果、いじめられるような事はなかった。 仲間はずれになる事もなかった。

けど、心を許せるような友人はいなかった。

自分の心の内を他人に明かしたことなど一度もなかった。

僕はそんな自分が嫌いだった。

世界中の誰よりも嫌いだった。  

  

 

 

それが父さんに呼ばれて第三新東京都市に来てから僕の日常は変わった。

エヴァに乗ることで今まで望んでかなえられなかったものを手に入れた。

手に入れたつもりだった。

父さんが僕のことを「よくやったな、シンジ」と誉めてくれた。

嬉しかった。 その言葉を信じられれば、これからも生きていけると思った。

こんな僕に新しい家族ができた。

ミサトさん。 僕のやさしくて、明るくて、きさくなお姉さん。

家事も料理もまるで駄目なずぼらな人だけど、それ以上のものを僕に与えてくれた。

アスカ。 明るさと強さを兼ねそろえた天才少女。

僕にないものを全て持っている強気な彼女に僕は憧れた。

綾波。 はじめて僕から心を開いた少女。

思えば彼女こそが、僕が最初にエヴァに乗る理由だったのかもしれない。

トウジ、ケンスケ。 こんな僕のことを必要としてくれた、数少ない僕の親友。

洞木さんから「三馬鹿トリオ」というありがたくないニックネームをいただいたけど、なんとなく嬉しかった。

エヴァに乗ることでみんなが僕を見てくれた。

みんなが僕を必要としてくれた。

幸せだった。 この幸せがいつまでも続くものだと僕は信じていた。  

  

  

けど僕は全てを失った。

いや、はじめから何もなかった事に気づかされただけだったのかもしれない。

 

シンクロ率で僕がアスカを抜いた頃から僕とアスカの関係はおかしくなっていった。

自分がアスカに好かれているとは思わない。

けど、少なくとも嫌われているとは思わなかった。

彼女にはいつも馬鹿にされ、こき使われ、ひっぱたかれてばかりいたけど、それが彼女なりの不器用なコミュニケーションの取り方だと僕は信じていた。

だけど、いつも自分を天才と褒め称え僕を馬鹿シンジ呼ばわりしていた彼女が、突然自分を卑下しだし僕のことを「無敵のシンジ様」と誉め殺した。

その言葉が好意でないことは瞬時に理解できた。

彼女の僕を見る目には本物の憎悪があった。

その時の僕にはなぜ彼女に憎まれなきゃならないのか分からなかった。

彼女の怒りが非常に理不尽なものに感じた。

だから僕は彼女から離れた。 彼女を無視することにした。

本当は彼女が助けを求めていることなど気づきもしなかった。

その事に気づいた時にはもう取り返しのつかないことになっていた。

綾波は死んだ。 僕を守るために…。

すぐにまた姿を現したけどそれはもう僕の知っている綾波レイではなかった。

綾波の秘密を知った時、目の前にいる綾波の姿をした物体が僕は恐くなった。

僕はトウジを…友達を失った。 アスカを…家族を失った。 そして綾波を失った、永遠に…。

  

 

  

何もかも失ったと思った。

そんな時に彼に出会った。

渚カヲル…。

フィフスチルドレン。

彼は僕にやさしかった。 そして僕のことを好きだと言ってくれた。 エヴァに乗らないありのままの僕を好きだといってくれた。

その言葉を信じたかった。

全てを失った僕だけどその言葉を信じられればこれからも自分を騙して生きていけると思った。

だが、それは運命によって仕組まれた最も残酷な罠だった。

カヲル君は使徒だった。

彼が使徒だと知った時、僕の心に亀裂が生じるのを感じた。

いや、既に僕の心はすでに傷だらけだった。

そして僕は選択を迫られた。

彼の命と人類の運命を秤にかけなければならなかった。

結果、僕は彼を握り潰した。 僕のことを好きだといってくれた人を…今の僕を認めてくれたたった一人の理解者を僕は殺してしまった。 この僕自信の手で。

その瞬間、僕の心は砕け散った。

  

 

  

僕は再びアスカと会った。

始めて出会った頃の明るくて強気な天才少女の姿はそこにはなかった。

虚ろ目をしてベッドに横たわる廃人のようなアスカ。

今まで僕が憧れていた強いアスカが造られたものだということを僕ははじめて知った。

これが本当のアスカ。 弱いアスカ。 一人じゃ何もできない何かに依存しないと生きることさえできないアスカ。

だが、その時の僕はそんなアスカにさえもすがらないと生きていけないもっと弱い生き物だった。

僕は彼女に助けを求めた。

こんな弱い彼女に助けを求めたんだ。

彼女を救おうだなんて思いもしなかった。

その時の僕には他人のことを考えられる、他人のために何かできる心の余裕など欠片もなかったんだ。

その結果、僕は彼女を汚した。

こんなに弱って苦しんで助けを求めているアスカを利用して汚して再び傷つけたんだ。

「最低だ。俺って…。」

本当に最低だ。 死にたかった。 もう何もしたくなかった。

アスカにひどいことをしたんだ。 カヲル君を殺してしまったんだ。

僕には他人を傷つけることしか出来ないんだ。 だったら何もしないほうがいい。  

 

 

だけど僕は再びエヴァに乗せられた。

ミサトさんはこんな僕をまだ見捨てなかった。

「大人のキスの続きは、帰ってきてからしましょうね…。」

次がもうないことはすぐにわかった。

とうとうミサトさんまで死んでしまった。

また大事な人を僕は傷つけてしまった。  

  

エヴァに乗って外に出た時見たものは、エヴァ量産機によってバラバラに引き千切られた弐号機の残骸だった。

「うああああああああ……!!!!!」

アスカが死んだ。 また見捨てた。 また見殺しにした。 僕がアスカを殺したんだ。

「ちくしょう! ちくしょう!」

  

そして、次に僕の目の前に現れたものは

「あ…綾波レイ!?」

うわあああぁぁぁぁ………!!!!!

それから僕の目の前で起きた現象は、まさにこの世のものとも思えないおぞましい悪夢だった。

僕の自我は崩壊した。

「ちくしょう! みんな…みんな…死んでしまえ! 僕も死んでしまえ!」

サードインパクトは発生し、世界は終焉を迎え、人類の心はLCLに溶け合い一つになった。

狂った僕の望みのままに…。

「けどこれは違う」

僕は再び他人と生きることを選んだ。

たとえ、これから再び他人との恐怖が始まるにしても…。  

  

 

 

僕は現実に還ってきた。

僕の隣には、アスカが横たわっていた。

アスカを見ていたらいいようのない恐怖が僕を襲った。 自分が何をしているのか分からなかった。

「え!?」

アスカが僕の頬を撫でている?

なんで…?

気がついたら僕はアスカの首を絞めていた。

僕は泣き出した。

僕は…僕は…なんて事を…。 自分で無意識の内にしでかした事の重大さに僕は愕然となった。

また逃げたんだ…。 あれだけ納得して現実へ戻ってきたはずなのに…。 僕はまた現実から、アスカから逃げたんだ…。

蒼い瞳が僕を見ている。 侮蔑と憎悪を込めた目で…。

「気持ち悪い!」

それが彼女が僕にぶつけた最期の言葉。

その言葉には僕を拒絶する彼女の強い意志が込められていた。

違う…! アスカが僕を拒絶したんじゃない! 僕がアスカを拒絶したんだ!

馬鹿だ! 僕は本当に馬鹿だ! 本当にバカシンジだ!

こうして僕とアスカのつらい現実は最悪の形でスタートした。

 

つづく…  

 

 

 

 


NEXT
ver.-1.02 1997-02/20ロゴ入れ
ver.-1.01 1997-12/19誤字修正
ver.-1.00 1997-12/16公開
ご意見・ご感想・誤字情報などは itirokai@gol.com まで!!

 

いかがでしたでしょうか?

とりあえず第一回目はシンジ一人称の回想シーンから入ってみました。

次からまともな形になると思います。

では。

 

 

 


 

 けびんさん、ようこそめぞんへ(^^)/

  

 限定募集7人目、
 めぞん通算102人目のご入居宇者です(^^)

  

 第1作『二人の補完』第一話、公開です。

 

  

 TVの物語に入る前から、
 作中、
 そしてサードインパクト。

 順にシンジの心の内を。

 けびんさんがシンジの心の内を見せてくれました。

  

 八話で出会ってから、
 夏映画のラストシーンまで。

 シンジとアスカの関係。

  

 これから始まる
 二人の補完、どうなっていくのでしょうか・・

  

 さあ、訪問者の皆さん。
 新住人のけびんさんを感想メールで迎えましょう!

 


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