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シュバァァァッ!

集束した陽電子が、白銀の使徒に襲いかかる。

使徒の体の電子と、発射された陽電子が対消滅し、エネルギーとなる。

「やった・・・か?」

発令所の誰かが呟いた。






「無限のむこうは」
第参話”謎の「力」を持つ者”







使徒の体が、見る見るうちに赤くなる。

それでも使徒は立ち止まることなく、歩き続けた。

「目標は依然、ジオフロントへ向かって進行中!
 ・・・!!み、民間人です!
 使徒からの距離約500メートル、高さは・・・約40メートル、空中です!!
 センサーに反応はありませんが、光学カメラで確認できます!
 間違いなく、宙に浮いています。
 道具を使っている様子はありません!」

シゲルが叫ぶ。

モニターには、笑みを浮かべた紫漣が映し出されていた。

「風島君!?」

ミサトが驚いて叫ぶ。

「知ってるの?」

リツコが聞き返すと、ミサトは頷きながら答えた。

「えぇ、昨日うちのクラスに来たばっかりの転校生よ」

そこへ、マコトの叫び声が飛び込んできた。

「使徒が、融けていきます!」

みると、真っ赤になった使徒が、ゆっくりと融解していく。

しかし、それでも使徒は進み続けた。

すでに、歩くというよりは、流れるといった方が近いかもしれない。

使徒が流れた後の地面は焼けただれ、ところどころで植物に燃え移っている。

「アスカ、レイ!一度退いて!シンジ君、あなたからみて、前800メートルくらいの所に、民間人・・・昨日の転校生、風島君がいるわ。
 安全な場所へ避難させて!」

「分かりました!」

ミサトが指示を出す。

そのとき、マヤが悲鳴を上げた。

「マギがハッキングされています!」

それを聞いて、リツコは驚いてコンソールパネルへ向き直ると、ものすごい早さでキーボードを叩き始めた。

「何てこと!?
 これは・・・第11使徒よりも早いわ!!」

リツコが呻く。

「通信システム、すべて掌握されました!
 強制的に通信回線を開かれます!!」

マヤが叫んだ次の瞬間、発令所にいた全員が、呆気にとられた。

モニターに映ったのは、にっこりと微笑んでいる、風島 紫漣だったから。

「ちょっと、失礼します。
 伝えたいことがあったものですから。
 なに、簡単なことですよ」

「ちょっと、待ちなさい。
 あなた、一体何者なの?
 マギをハッキングするなんて、普通の人に出来ることじゃないわ」

リツコが、紫漣の言葉を遮って問いかける。

おそらく、この場の全員が思っていることだろう。

しかし紫漣はその問いには答えず、にっこり笑って言った。

「それは、秘密です。
 とりあえず、要件を言いますよ。
 何も手出ししないでください。
 あの使徒に、これ以上熱を加えてはなりません。
 ついでに、水をかけるとか、液体窒素で冷やすのも無理です。
 あれの持つ熱は、そんな生易しいものではありません。
 私が責任を持って止めますから」

「無駄よ、早く避難しなさい。
 場合によっては、実力を行使してでも、避難してもらうわ。
 民間人がいるのでは、エヴァは全力では戦えないわ」

ミサトが厳しい顔で言ったが、紫漣は残念そうに答えた。

「・・・愚かなことです。
 あなた方が私を信用せず、手出しをするというのであれば、こちらも実力を行使させていただきますよ?」

「そのようなことが、出来ると思っているのか?
 ネルフはそれほど甘くはない」

それまでずっと黙っていたゲンドウが、ようやく口を開いた。

「そうでしょうか?
 少なくとも、マギは結構甘かったですよ。
 私たちはまだ、欠片も力を出していません。
 今回のマギへのハッキングは、警告みたいなものです。
 やろうと思えば、あなた方にはいっさい気付かれずに、マギの全機能を乗っ取ることなど、簡単に出来ます。
  もっとも、私としては、そこまではしたくないんですが。
 でも、さっきも言ったように、あなた方が私の邪魔をするというのであれば、容赦はしませんからね」

それだけ言うと、紫漣を映していたモニターは消えた。

「・・・つ、通信システム解放されました。
 モニター復帰します」

マヤが報告すると同時に、モニターが元に戻った。

映っているのは、使徒の側に浮いている紫漣の姿だ。

「どうする、碇。
 あの子の言うことに、従うか?」

コウゾウがゲンドウに話し掛ける。

「いや、それは出来ん。
 使徒との戦いには、全人類の未来がかかっているからな。
 個人的な意見としては、一度、何をするつもりなのか見てみたい気もせんでもないが・・・」




『どうする、碇。
 あの子の言うことに、従うか?』

『いや、それは出来ん。
 使徒との戦いには、全人類の未来がかかっているからな。
 個人的な意見としては、一度、何をするつもりなのか見てみたい気もせんでもないが・・・』

耳に着けたイヤホンから、ゲンドウとコウゾウの会話が流れてくる。

「・・・やっぱり、信じてもらえなかったか。
 まあ、分かり切ってたことだけどね。
 全く・・・、今ここで、マギの回線を利用して司令の会話まで聞いてるっていうのに、気付かないんだから。
 仕方がないなぁ。
 あんまりやりたくは無かったけど・・・【紅】!」

紫漣は小さくため息をつくと、【紅】を呼んだ。

「いかがいたしましたか、博士?」

少女の姿が、完璧な立体映像で現れる。

「"あれ"を動かすことにしよう」

「"あれ"を、ですか・・・
 でも・・・ちょっと、可哀想ですよ。
 あの人達も、世界の命運を背負っているのですから。
 破壊することはないでしょう?」

【紅】は、そう紫漣に頼んだ。

「そうだね・・・それじゃあ、せめて観測機器ぐらいは残してあげても良いかも知れないね。
 残りも、しばらく停止させるだけにしておこう。
 後、ちょっとメッセージを入れておこうかな」




「リツコ、どう思う?」

ミサトがリツコに問いかける。が、

「・・・使徒でもないものに、こんなにあっさりとハッキングされるなんて・・・」

紫漣と話しているときは驚きの方が強かったようだが、後になって落ち込んでしまったらしい。

茫然自失の状態で、全く聞いていない。

「・・・だめだコリャ。
 しょうがないわね。
 シンジ君!
 風島君を止めて!」

ミサトが指示を出すが、シンジからの返事はない。

そのとき、マコトとマヤが、ほぼ同時に叫んだ。

「初号機と連絡が取れません!」

「コンピューターウィルスです!
 さっきのハッキングの時に仕掛けられたようです!
 疑似エントリー展開・・・間に合いません!早すぎます!
 通信システムに、強制停止信号が送られています!
 ウィルスさらに侵入、止める手段はありません!」

そんなバカな!

リツコは愕然とした。

1日に2度も、それも2度目はウィルスで・・・。

ウィルス対策は完璧なはずだった。

自分で作った最高傑作のウィルスでさえ、マギに到達することは出来なかったのだ。

だが、それがこのウィルスにはあっさりと破られてしまった。

疑似エントリーも、回避されたのですらなく、展開がそのものが間に合わなかった・・・。

つまりこのウィルスの作者は、リツコよりも遙かに高い技術を持っていることになるのだ。

これまで、世界最高のコンピューター技師を自負してきたリツコにとっては、非常に大きなショックだった。

ところが、さらに追い打ちをかけるように、シゲルが叫んだ。

「ATフィールドです!
 第18使徒を中心に、第17使徒並みの強力なATフィールドが展開されています!」

中からの光も遮断されてしまったため、モニターにはすでに漆黒の壁しか映っていなかった。

その時、発令所の中央に、2015年の技術では到底不可能なほど美しく、完璧な立体映像が現れた。

そこに映っていたのは、紫漣だった。

ネルフのスタッフ達は、敵であるにもかかわらず、つい見とれてしまった。

さっきモニターを通して見ても、目を見張るほど美しかった。

だが、この完璧な立体映像で見ると、その美しさはモニターの比ではなかったのだ。

その紫漣が口を開く。

「いかがです?
 子供だと思って甘く見ると、痛い目に遭うんですよ。
 とりあえず、マギは一時停止させただけですから、しばらく経ったら直ります。
 その他にも聞きたいことは山ほどあるでしょうが、少しなら後で説明しますから、手出しはしないでくださいね。
 ちなみに、今質問しても、これはただの記録映像ですから、答えることは出来ませんよ。
 なお、このメッセージは再生された後、自動的に消滅します」

「げっ、もしかして!」

ミサトが顔色を変える。

さすがはセカンドインパクト世代、一応、こういう場合のお約束は心得ているようだ。

次の瞬間、発令所全体に、色とりどりの花火が炸裂した。

そして立体映像は、七色の美しい細かい光となって辺り一面に広がり、やがて煌めきながら消えていった。

「・・・一体・・・何だったの?」

マヤの呟きが、その場にいるほぼ全員の心境を表していた。





「一体どうなってるんだ?」

シンジは困り果てていた。

『シンジ君、あなたからみて、前800メートルくらいの所に、民間人・・・昨日の転校生、風島君がいるわ。
 安全な場所へ避難させて!』

というミサトからの指示があった後、突然周りに強力なATフィールドが発生し、本部との全ての通信がストップしてしまったのだ。。

「このATフィールドは一体・・・?」

通信機器は全て停止してしまったものの、観測機器は正常に動いているようだ。

とりあえず、零号機と弐号機は、すでにジオフロントへ撤退している。

レイとアスカに影響はないはずだ。

シンジは少しだけ、安堵した。

でも、使徒は進み続けているし、そのすぐ側には、風島君がいる。

シンジの脳裏に、第4使徒の時の、トウジとケンスケの様子が蘇る。

むろんシンジには、紫漣自らが使徒に近づこうとしていることなど想像もできない。

「風島君・・・!」 紫漣と使徒が視界に入ると、シンジは絶句した。

無理もないだろう。

紫漣は、使徒の熱で燃え上がった森の真っ直中に、浮いていたのだから。

シンジの声が聞こえたのか、紫漣はゆっくりと振り向くと、にっこり微笑んだ。

そして、エントリープラグの中に、中性的な声が響いた。

「碇・・・シンジ君、でしたね?
 心配はいりませんよ。
 そこでしばらく見てて下さい。
 コイツの責任は、私が取らなければなりませんから」

「責任?
 風島君と使徒に、何の関係があるの?」

シンジが怪訝な顔で聞き返す。

「ちょっと話すことは出来ませんが、大有りなんですよ。
 それに、コイツのことを誰よりも知っているのは、この私です。
 倒す方法も、幾つかあります。
 もっとも、あなた達から見れば相当非常識な方法でしょうがね」

「非常識な方法?」

バリアーを張る巨大ロボットも、かなり非常識だとは思うが、さらに非常識な方法・・・?

シンジには、見当もつかない。

そんなシンジの考えを見透かしてか、紫漣が言う。

「見てれば分かる・・・と言いたいところですが、中には理解できない人、理解したくない人なんかもいるかも知れませんね。」

そう言って使徒の方を向くと、ちょっと考え込んだ。

「・・・どれにしようかな。
 やっぱり、あれにしようかな。
 ATフィールドがあるから、ネルフ本部には何をやったか分からないだろうし」

やがて、ニッ、と笑って顔を上げると、大きな声でなにやら唱えだした。

「・・・大地の底に眠り在る 凍える魂持ちたる覇王・・・」

「い・・・一体何を?」

シンジにも声は聞こえていたが、何がしたいのか全く分からない。

「・・・我に与えよ 氷結の怒り・・・
 《覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)》!!!

ひときわ大きな声で紫漣が叫ぶと同時に、使徒のを囲むような形で、地面に巨大な五紡星が浮かび上がる。

そして、その5つの頂点から青い閃光が走ったかと思うと、白銀の使徒は一瞬にして凍り付き、次の瞬間、粉々に砕け散った。

シンジは、目の前のあまりに非常識な光景に目を奪われていた。

確かにこれは、ロボットなどよりもさらに非常識だ。

これは、まるで・・・。

「そう、魔法ですよ」

シンジの考えが分かったのか、紫漣が話し掛けてくる。

「まさか、そんなことが・・・」

「あるはずはない、と?
 でも、実際に使徒は、私の魔法・・・正確に言うなら魔術ですが・・・で凍って砕け散りましたし、第一、私がどうやってあなたと話していると思います?」

言われて、シンジはハッとした。

よく見ると、通信装置は一切動いていない。

「ま・・・まさか・・・」

「そう、そのまさかです。
 これも、私の魔法の一種・・・。
 と言っても、さっきの術とは全く系統が違いますが・・・。
 さて、ネルフの方でも心配してるでしょうし、そろそろATフィールドを解きましょうか」



ミサト達は、何も出来ずに、ただ、モニターに映る漆黒のドームを見つめていた。

しばらくして、突然ドームの色が、目に見えて薄くなっていった。

「ATフィールドが、弱まっています!」

これは、ATフィールドを張っていたものが力つきたのか、それとも・・・。

考えるミサトの目に、エヴァ初号機が立っているのが見えてきた。

使徒はすでに、どこにも見あたらない。

おぉっ!

発令所から、歓声が上がった。


NEXT

ご感想、誤変換、脱字、呪文・魔術の間違い、ここが日本語になってない、等のご意見はcorundum@geocities.co.jpまで!!

作者のたわごと

どうも、紫漣です。
一週間の目標・・・あれは一体何だったんでしょう?
・・・そう、これは全て数学の問題集が悪いんです!
ずっとさぼってて、一週間で仕上げなければならなくなった、私のせいではありません。
とまあ、冗談はこの辺にして(でも、数学の問題集を一週間で仕上げたのは本当です)。
物語中に出てくる魔術、分かる人もいると思いますが、元ネタは「スレイヤーズ」です。
《覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)》とは、覇王グラウシェラーという魔族の力を借りた呪文で、目標を五紡星で囲み、瞬時に凍結・破砕、霧散させる術です。
もし呪文とかが間違っていたら、ぜひメールでお知らせ下さい。
問題集も終わったし、期末テストも終わったし、次こそは一週間の更新を目指しますので、よろしく!

 群咲 紫蓮さんの『無限のむこうは』第参話、公開です。
 

 
 シレンって何なんでしょうか(^^;

 形容はかなり有るんですが、
 ”美しい”とか
 ”すごい”とか以外の表現がないので・・・(^^;;;;
 

 

 何をしたいんでしょうか。
 何をしているのでしょうか。
 

 [今は話せない]
 [そのうち]

 こういうのばかりで
 ちっともさっぱり分からなくなって来ました。
 

 

 

 格好良いオリキャラの影で
 ゲンドウも冬月も、あのリツコさんさえ
 まったくらしくない醜態をさらしていますね。

 存在感の無くなっているEVAキャラ達に明日はあるのか(笑)
 

 

 さあ、訪問者皆さん。
 紫蓮さんに感想メールを送りましょうね!


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