集束した陽電子が、白銀の使徒に襲いかかる。
使徒の体の電子と、発射された陽電子が対消滅し、エネルギーとなる。
「やった・・・か?」
発令所の誰かが呟いた。
それでも使徒は立ち止まることなく、歩き続けた。
「目標は依然、ジオフロントへ向かって進行中!
・・・!!み、民間人です!
使徒からの距離約500メートル、高さは・・・約40メートル、空中です!!
センサーに反応はありませんが、光学カメラで確認できます!
間違いなく、宙に浮いています。
道具を使っている様子はありません!」
シゲルが叫ぶ。
モニターには、笑みを浮かべた紫漣が映し出されていた。
「風島君!?」
ミサトが驚いて叫ぶ。
「知ってるの?」
リツコが聞き返すと、ミサトは頷きながら答えた。
「えぇ、昨日うちのクラスに来たばっかりの転校生よ」
そこへ、マコトの叫び声が飛び込んできた。
「使徒が、融けていきます!」
みると、真っ赤になった使徒が、ゆっくりと融解していく。
しかし、それでも使徒は進み続けた。
すでに、歩くというよりは、流れるといった方が近いかもしれない。
使徒が流れた後の地面は焼けただれ、ところどころで植物に燃え移っている。
「アスカ、レイ!一度退いて!シンジ君、あなたからみて、前800メートルくらいの所に、民間人・・・昨日の転校生、風島君がいるわ。
安全な場所へ避難させて!」
「分かりました!」
ミサトが指示を出す。
そのとき、マヤが悲鳴を上げた。
「マギがハッキングされています!」
それを聞いて、リツコは驚いてコンソールパネルへ向き直ると、ものすごい早さでキーボードを叩き始めた。
「何てこと!?
これは・・・第11使徒よりも早いわ!!」
リツコが呻く。
「通信システム、すべて掌握されました!
強制的に通信回線を開かれます!!」
マヤが叫んだ次の瞬間、発令所にいた全員が、呆気にとられた。
モニターに映ったのは、にっこりと微笑んでいる、風島 紫漣だったから。
「ちょっと、失礼します。
伝えたいことがあったものですから。
なに、簡単なことですよ」
「ちょっと、待ちなさい。
あなた、一体何者なの?
マギをハッキングするなんて、普通の人に出来ることじゃないわ」
リツコが、紫漣の言葉を遮って問いかける。
おそらく、この場の全員が思っていることだろう。
しかし紫漣はその問いには答えず、にっこり笑って言った。
「それは、秘密です。
とりあえず、要件を言いますよ。
何も手出ししないでください。
あの使徒に、これ以上熱を加えてはなりません。
ついでに、水をかけるとか、液体窒素で冷やすのも無理です。
あれの持つ熱は、そんな生易しいものではありません。
私が責任を持って止めますから」
「無駄よ、早く避難しなさい。
場合によっては、実力を行使してでも、避難してもらうわ。
民間人がいるのでは、エヴァは全力では戦えないわ」
ミサトが厳しい顔で言ったが、紫漣は残念そうに答えた。
「・・・愚かなことです。
あなた方が私を信用せず、手出しをするというのであれば、こちらも実力を行使させていただきますよ?」
「そのようなことが、出来ると思っているのか?
ネルフはそれほど甘くはない」
それまでずっと黙っていたゲンドウが、ようやく口を開いた。
「そうでしょうか?
少なくとも、マギは結構甘かったですよ。
私たちはまだ、欠片も力を出していません。
今回のマギへのハッキングは、警告みたいなものです。
やろうと思えば、あなた方にはいっさい気付かれずに、マギの全機能を乗っ取ることなど、簡単に出来ます。
もっとも、私としては、そこまではしたくないんですが。
でも、さっきも言ったように、あなた方が私の邪魔をするというのであれば、容赦はしませんからね」
それだけ言うと、紫漣を映していたモニターは消えた。
「・・・つ、通信システム解放されました。
モニター復帰します」
マヤが報告すると同時に、モニターが元に戻った。
映っているのは、使徒の側に浮いている紫漣の姿だ。
「どうする、碇。
あの子の言うことに、従うか?」
コウゾウがゲンドウに話し掛ける。
「いや、それは出来ん。
使徒との戦いには、全人類の未来がかかっているからな。
個人的な意見としては、一度、何をするつもりなのか見てみたい気もせんでもないが・・・」
『いや、それは出来ん。
使徒との戦いには、全人類の未来がかかっているからな。
個人的な意見としては、一度、何をするつもりなのか見てみたい気もせんでもないが・・・』
耳に着けたイヤホンから、ゲンドウとコウゾウの会話が流れてくる。
「・・・やっぱり、信じてもらえなかったか。
まあ、分かり切ってたことだけどね。
全く・・・、今ここで、マギの回線を利用して司令の会話まで聞いてるっていうのに、気付かないんだから。
仕方がないなぁ。
あんまりやりたくは無かったけど・・・【紅】!」
紫漣は小さくため息をつくと、【紅】を呼んだ。
「いかがいたしましたか、博士?」
少女の姿が、完璧な立体映像で現れる。
「"あれ"を動かすことにしよう」
「"あれ"を、ですか・・・
でも・・・ちょっと、可哀想ですよ。
あの人達も、世界の命運を背負っているのですから。
破壊することはないでしょう?」
【紅】は、そう紫漣に頼んだ。
「そうだね・・・それじゃあ、せめて観測機器ぐらいは残してあげても良いかも知れないね。
残りも、しばらく停止させるだけにしておこう。
後、ちょっとメッセージを入れておこうかな」
ミサトがリツコに問いかける。が、
「・・・使徒でもないものに、こんなにあっさりとハッキングされるなんて・・・」
紫漣と話しているときは驚きの方が強かったようだが、後になって落ち込んでしまったらしい。
茫然自失の状態で、全く聞いていない。
「・・・だめだコリャ。
しょうがないわね。
シンジ君!
風島君を止めて!」
ミサトが指示を出すが、シンジからの返事はない。
そのとき、マコトとマヤが、ほぼ同時に叫んだ。
「初号機と連絡が取れません!」
「コンピューターウィルスです!
さっきのハッキングの時に仕掛けられたようです!
疑似エントリー展開・・・間に合いません!早すぎます!
通信システムに、強制停止信号が送られています!
ウィルスさらに侵入、止める手段はありません!」
そんなバカな!
リツコは愕然とした。
1日に2度も、それも2度目はウィルスで・・・。
ウィルス対策は完璧なはずだった。
自分で作った最高傑作のウィルスでさえ、マギに到達することは出来なかったのだ。
だが、それがこのウィルスにはあっさりと破られてしまった。
疑似エントリーも、回避されたのですらなく、展開がそのものが間に合わなかった・・・。
つまりこのウィルスの作者は、リツコよりも遙かに高い技術を持っていることになるのだ。
これまで、世界最高のコンピューター技師を自負してきたリツコにとっては、非常に大きなショックだった。
ところが、さらに追い打ちをかけるように、シゲルが叫んだ。
「ATフィールドです!
第18使徒を中心に、第17使徒並みの強力なATフィールドが展開されています!」
中からの光も遮断されてしまったため、モニターにはすでに漆黒の壁しか映っていなかった。
その時、発令所の中央に、2015年の技術では到底不可能なほど美しく、完璧な立体映像が現れた。
そこに映っていたのは、紫漣だった。
ネルフのスタッフ達は、敵であるにもかかわらず、つい見とれてしまった。
さっきモニターを通して見ても、目を見張るほど美しかった。
だが、この完璧な立体映像で見ると、その美しさはモニターの比ではなかったのだ。
その紫漣が口を開く。
「いかがです?
子供だと思って甘く見ると、痛い目に遭うんですよ。
とりあえず、マギは一時停止させただけですから、しばらく経ったら直ります。
その他にも聞きたいことは山ほどあるでしょうが、少しなら後で説明しますから、手出しはしないでくださいね。
ちなみに、今質問しても、これはただの記録映像ですから、答えることは出来ませんよ。
なお、このメッセージは再生された後、自動的に消滅します」
「げっ、もしかして!」
ミサトが顔色を変える。
さすがはセカンドインパクト世代、一応、こういう場合のお約束は心得ているようだ。
次の瞬間、発令所全体に、色とりどりの花火が炸裂した。
そして立体映像は、七色の美しい細かい光となって辺り一面に広がり、やがて煌めきながら消えていった。
「・・・一体・・・何だったの?」
マヤの呟きが、その場にいるほぼ全員の心境を表していた。
シンジは困り果てていた。
『シンジ君、あなたからみて、前800メートルくらいの所に、民間人・・・昨日の転校生、風島君がいるわ。
安全な場所へ避難させて!』
というミサトからの指示があった後、突然周りに強力なATフィールドが発生し、本部との全ての通信がストップしてしまったのだ。。
「このATフィールドは一体・・・?」
通信機器は全て停止してしまったものの、観測機器は正常に動いているようだ。
とりあえず、零号機と弐号機は、すでにジオフロントへ撤退している。
レイとアスカに影響はないはずだ。
シンジは少しだけ、安堵した。
でも、使徒は進み続けているし、そのすぐ側には、風島君がいる。
シンジの脳裏に、第4使徒の時の、トウジとケンスケの様子が蘇る。
むろんシンジには、紫漣自らが使徒に近づこうとしていることなど想像もできない。
「風島君・・・!」 紫漣と使徒が視界に入ると、シンジは絶句した。
無理もないだろう。
紫漣は、使徒の熱で燃え上がった森の真っ直中に、浮いていたのだから。
シンジの声が聞こえたのか、紫漣はゆっくりと振り向くと、にっこり微笑んだ。
そして、エントリープラグの中に、中性的な声が響いた。
「碇・・・シンジ君、でしたね?
心配はいりませんよ。
そこでしばらく見てて下さい。
コイツの責任は、私が取らなければなりませんから」
「責任?
風島君と使徒に、何の関係があるの?」
シンジが怪訝な顔で聞き返す。
「ちょっと話すことは出来ませんが、大有りなんですよ。
それに、コイツのことを誰よりも知っているのは、この私です。
倒す方法も、幾つかあります。
もっとも、あなた達から見れば相当非常識な方法でしょうがね」
「非常識な方法?」
バリアーを張る巨大ロボットも、かなり非常識だとは思うが、さらに非常識な方法・・・?
シンジには、見当もつかない。
そんなシンジの考えを見透かしてか、紫漣が言う。
「見てれば分かる・・・と言いたいところですが、中には理解できない人、理解したくない人なんかもいるかも知れませんね。」
そう言って使徒の方を向くと、ちょっと考え込んだ。
「・・・どれにしようかな。
やっぱり、あれにしようかな。
ATフィールドがあるから、ネルフ本部には何をやったか分からないだろうし」
やがて、ニッ、と笑って顔を上げると、大きな声でなにやら唱えだした。
「・・・大地の底に眠り在る 凍える魂持ちたる覇王・・・」
「い・・・一体何を?」
シンジにも声は聞こえていたが、何がしたいのか全く分からない。
「・・・我に与えよ 氷結の怒り・・・
《覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)》!!!」
ひときわ大きな声で紫漣が叫ぶと同時に、使徒のを囲むような形で、地面に巨大な五紡星が浮かび上がる。
そして、その5つの頂点から青い閃光が走ったかと思うと、白銀の使徒は一瞬にして凍り付き、次の瞬間、粉々に砕け散った。
シンジは、目の前のあまりに非常識な光景に目を奪われていた。
確かにこれは、ロボットなどよりもさらに非常識だ。
これは、まるで・・・。
「そう、魔法ですよ」
シンジの考えが分かったのか、紫漣が話し掛けてくる。
「まさか、そんなことが・・・」
「あるはずはない、と?
でも、実際に使徒は、私の魔法・・・正確に言うなら魔術ですが・・・で凍って砕け散りましたし、第一、私がどうやってあなたと話していると思います?」
言われて、シンジはハッとした。
よく見ると、通信装置は一切動いていない。
「ま・・・まさか・・・」
「そう、そのまさかです。
これも、私の魔法の一種・・・。
と言っても、さっきの術とは全く系統が違いますが・・・。
さて、ネルフの方でも心配してるでしょうし、そろそろATフィールドを解きましょうか」
しばらくして、突然ドームの色が、目に見えて薄くなっていった。
「ATフィールドが、弱まっています!」
これは、ATフィールドを張っていたものが力つきたのか、それとも・・・。
考えるミサトの目に、エヴァ初号機が立っているのが見えてきた。
使徒はすでに、どこにも見あたらない。
おぉっ!
発令所から、歓声が上がった。
群咲 紫蓮さんの『無限のむこうは』第参話、公開です。
シレンって何なんでしょうか(^^;
形容はかなり有るんですが、
”美しい”とか
”すごい”とか以外の表現がないので・・・(^^;;;;
何をしたいんでしょうか。
何をしているのでしょうか。
[今は話せない]
[そのうち]
こういうのばかりで
ちっともさっぱり分からなくなって来ました。
格好良いオリキャラの影で
ゲンドウも冬月も、あのリツコさんさえ
まったくらしくない醜態をさらしていますね。
存在感の無くなっているEVAキャラ達に明日はあるのか(笑)
さあ、訪問者皆さん。
紫蓮さんに感想メールを送りましょうね!