決戦の舞台となったこの都市は、サードインパクトではさほど被害を受けずに済んだ。
元々ここは、使徒を迎撃することを目的としていた。
そのため、持てる技術を結集し、衝撃や振動には徹底的に強くしてあるのだ。
勿論、普通の都市にも最新技術は使われている。
しかし、使い方が違うのだ。
さっきも言ったように、第3新東京市は初めから対使徒迎撃都市として造られた。
そのため、ここは全ての建物に、最新の耐震・衝撃吸収システムが設置されている。
これのお陰で、ビルを丸ごと地下に潜らせるなどという、非常識なことができるのだ。
しかし、その最新システムも、大量のN2兵器や、量産型エヴァンゲリオンの攻撃の前には無力だった。
その戦いで、第3新東京市は大破してしまったのだ。
そしてサードインパクトから3ヶ月・・ようやく人が戻りだし、復興が始まっていた。
スーパーで買い物をする主婦達の中に、1人の少年の姿があった。
その少年の名は碇シンジ。
一応サードインパクトを起こした張本人であり、又、世界を救った英雄でもある。
確かにサードインパクトが起きたのは彼のせいなのだが、それは不可抗力であり、それを世界規模とはいえ軽い地震程度に抑えたのだから、世界を救ったといってもよいだろう。
そしてその際彼は、秘められていた力の一部を解放した。
その結果、サードインパクトは衛星軌道付近で起き、彼はそれまで完全に眠っていた力を、ほんの一部とはいえ、自在に操れるようになった。
具体的にいえば、運動能力及び体力の爆発的な上昇、そして《ATフィールド》と呼ばれる位相空間の展開能力を得たのだ。
ただし、そばから見ていても、ごく普通の少年にしか見えない。
彼の外見で以前と変わったのは、ただ一つ、瞳の色だけなのだから。
ファーストチルドレン・綾波レイ、第17使徒・渚カヲルと同じ、すべてを見透かすかのような真紅。
このことを知っているのは、シンジの父にしてネルフの総司令・碇ゲンドウ、同じく副司令・冬月コウゾウ、同じく技術開発部長・赤木リツコ、そしてファーストチルドレン・綾波レイのみ。
作戦部長・葛城ミサトと、セカンドチルドレン・惣流アスカラングレーには、シンジの願いにより、知らされていない。
たった1人で世界を滅ぼすことさえできるシンジだが、彼はもちろんそんなことはせず、以前と同じ生活を望んだのだ。
ミサトとアスカは、シンジが初めて知った『家族』だ。
そんな関係を、今はまだ壊したくない。
もちろん、いつまでも隠し通せるとは思えない。
でもせめて、自分の心の整理がつくまでは教えないでほしい。
シンジは、そうゲンドウに頼んだ。
ゲンドウはあっさり承諾したが、それが単に司令として重要機密を知る者が増えるのを嫌ったのか、シンジの父として息子の願いを聞いたのかは、誰にも分からなかった。
とにかく、シンジはサードインパクトの時のことは適当にごまかし、それまでと同じように暮らしているのだ。
ちなみに、学校は半月前から再開している。
「こんなもんで良いかな?」
どうやら、晩御飯の材料を選び終わったようだ。
そのままレジへもっていき、支払いを済ませる。
ちなみに、シンジとアスカとレイには、ネルフから年金が支払われている。
ネルフは現在、巨大な学術研究機関として世間に公表されている。
それではリツコ達はともかく、ミサト達はどうなるのかと思ったが、その件に関しては、ミサトはただ、
「そのうち分かるわよん」
と言い、意味ありげな笑いを返すだけだった。
シンジはその後本屋へよって、小説を2,3冊買った。
そして帰る途中。
「あの〜、すいません」
突然、後ろから声がかかった。
振り返ると、そこには中性的な顔立ちの人物が立っている。
歳はシンジと同じくらいだが、顔からも声からも少女なのか少年は分からない。
そして、彼(彼女?)を見て、シンジはまず、美しい、と思った。
非常に整った顔立ち、抜けるように白い肌。
そして何よりも目を引くのが、背中の中程まである髪と、瞳の色だ。
澄んだ紫。
シンジは、つい見とれてしまった。
不思議な色合いの髪が、夕日を受けて、『七色に』きらめく。
・・・ん?七色?紫じゃなかったっけ?
シンジがそう思い、よく見てみると、光が当たった部分だけが七色に光っているようだ。
「あの〜・・もしもし?」
「あっ・・・と、何?」
相手の声で、ようやく我に返るシンジ。
「ここから市役所までの道と、できれば図書館なんかの行き方を教えていただけませんか?」
初めてここへ来たのかな。
そんなことを考えながら、細かく道を教えるシンジ。
「どうも、ありがとうございました」
彼(彼女?)は礼をして、教えられた方へ歩いていった。
シンジも再び歩き始める。
ふと振り返ってみると、後ろにはもう誰も居なかった。
あれ?しばらく真っ直ぐな道のはずなのに。
そう不思議に思ったが、深く考えず、前へ向かって歩き出した。
シンジは、周りに不審な人物が3人ほど居ることに気づいた。
一見するとただの通行人にしか見えないが、シンジの中の『何か』が警報を発している。
そして、周囲にそれ以外の人が居なくなった瞬間に、彼らは一斉に襲ってきた。
まず1人目が隠し持っていたナイフ、2人目が棍棒のような物、3人目がキックで攻撃してくる。
なんとか1人目と3人目の攻撃は避けたものの、2人目の棍棒が少し当たる。
いくら運動能力が上がったと言っても、彼はついこの間までは、ごく普通の少年だったのだ。
あれから訓練してかなり上達したとはいえ、体術というのはそうそう上手くなるものではない。
相手は連係プレーには慣れていないようだが、かなり使えると見ても良いだろう。
いざというときはATフィールドがあるから負けることはないが、できることなら使いたくないし、このままでは勝つことはできない。
為す術もなく、ひたすら避けるだけのシンジ。
そのとき。
「あの〜、お取り込みのところ大変失礼ですが・・・」
3人目の肘打ちを避けたシンジの背後から、突然声がかかった。
驚いて振り返って見ると、さっきのあの少年(少女?)だ。
どうしてここに!? さっき向こうへ歩いていって、もう見えなくなったはずなのに。 シンジもかなりビックリしたが、3人の男達は、驚愕に目を見開いている。
当然だ。
シンジはまだ未熟だが、男達は相当な使い手だ。
その彼らに全く気配を悟られずに、すぐ近くまで寄ってきたのだ。
それに、普通は、明らかに3対1で格闘している所へ、のんびり話し掛けるなどと言うことはないし、実際男達には話しかけられた経験はなかった。
少年(少女?)は、そんなことには気づかないかのようにシンジに話し掛ける。
「先ほど教えていただいた市役所に行く道ですけど、工事中だったんです。
他の道はご存じですか?」
「えっ・・・と、その〜・・・」
突然、あまりにものんきなことを聞かれたため、言葉に詰まるシンジ。
しかし、周囲の状況を思い出し、慌てて言う。
「そんなことを言ってる場合じゃないよ!
早く逃げて!」
それを聞いてようやく、少年(少女?)は周りを見回した。
そして、すたすたと1人目の男に近づいていく。
すると、それまで呆然としていた男達がようやく我に返って、身構えた。
しかし、少年(少女?)はそんなことには構わず、1人目に話し掛けける。
「そんなものを振り回すと危ないですよ。
早くしまってください」
それに、2人目の男が答えた。
「そう言う訳にもいかん。
悪いが顔を見られた以上、おまえには死んでもらおう」
それを聞いて、少年(少女?)は納得したような表情になる。
「なるほど、あなた方、この人を誘拐しようとしてたわけですね」
男達はそれには答えず、2人目が少年(少女?)に襲いかかる。
取った!2人目の男は、そう確信した。
しかし男の攻撃は宙を切り、逆に背中に強い衝撃を受けて転倒した。
シンジにも、残りの2人の男にも、何が起こったのか全く分からなかった。
それほどまでに、彼(彼女?)の動きは素速かったのだ。
そして彼(彼女?)は、にっこり笑っていった。
「私の聞き間違いだといけないから、もう一度聞きますね。
私をどうするって言ったんですか?」
しかし、
「ふざけるなぁっ!」
1人目が叫んで飛びかかる。
「やめろ!」
3人目が注意するが、全く聞かない。
少年(少女?)がもう一度笑みを浮かべた、次の瞬間。
彼(彼女?)の姿が消えた。
少なくとも、シンジにはそう見えた。
そして気がつくと、男はナイフをはじき飛ばされていた。
1人目の男は、明らかに恐怖の色を浮かべて後ずさり、
「うわぁぁぁぁぁ!」
叫んで逃げていった。
残った1人は驚きの表情を浮かべた。
「貴様・・・女か?・・・一体何者だ?」
「ちょっと、あなた方に名前を教える気にはなりませんが、1つだけ。
私は一応、男ですよ。」
ちょっと苦笑して言う。
・・・どうやら、少年だったらしい。
「くそ、覚えておけ、この借りは必ず返すぞ!」 そう言うと、3人目の男は、2人目の後を追って去っていった。
「あんまり覚えてたくはありませんけどねぇ」
少年はそう呟くと、シンジの方を向く。
それまでずっと呆然としていたシンジだが、ようやく我に返り、礼を言う。
「あ、ありがとう。
君、すごく強いんだね」
「えぇ、まあね」
少年が、ちょっと笑っていった。
「ところで、市役所に行く道なんですが・・・」
シンジは少し考え込んだが、さっき、道が工事中だ、と言っていたことを思い出した。
何でわざわざここまで戻ってきたんだろう? 他の人に聞けばよかったのに。
とは思ったが、そんなことを聞けるはずはない。
「えっと、どこが工事中だったって?」
「ここの道がですね・・・・・・」
「ああ、ここなら・・・・・・」
「なるほど、ありがとうございました。それでは」
少年は再び、礼をすると歩いていった。
シンジは、男達の初めの攻撃の時に側に投げておいたスーパーの袋を拾った。
そして中を覗き、安心したような表情になった。
大丈夫、卵は割れていない。
ふと気になって後ろを見ると、またしても少年の姿は消えていた。
シンジは頭を振って、家へ帰り始めた。
あとがき(?)
どうも、群咲 紫蓮です。
三人称ですが、基本的にシンジから見ています。
だから、第零話では『少年』となっていた彼も、『少年(少女?)』にしておいたんですが、いかがだったでしょう。
う〜ん、ホントは今回でアスカ達にも出てきてもらう予定だったんですけどねぇ。
上手くいかないもんです。
敵さん・・・弱すぎましたね。
おかしいなぁ。
始めはもっと強かったのに。
書き直してるうちにこうなってしまいました。
それと、ちょっと「少年(少女?)」っていうのが、しつこすぎますかね。
さて、次は・・・ほとんど考えていません。
現時点では、べったべたな展開になる予定です、が。
「予定は未定であって、決定ではない」・・・今の状況にぴったりの言葉です。
ほんとに、どうなるかほとんど決まってないので、「こんな風にしろ!」というのがあれば、是非メールください。
それでは笑○ここらでお開き、また来週(?)のお楽しみ(^_^;
ありがとうございました。m-_-m
ちゃっちゃかちゃちゃちゃちゃ、ちゃんちゃん・・・
群咲 紫蓮さんの『無限のむこうは』第壱話、公開です。
最後の最後まで少年か少女か分からなかった登場人物は
誰でしょう
あとがきで
”第零話では『少年』となっていた彼”
と説明されていることから紫蓮・・でしょうね(^^)
手練れの男達を軽くあしらった彼、
シンジに接近して、何を目的とするのでしょうか。
そのシンジにしても
”力”を手に・・。
シンジを襲った男達の狙いも・・。
さあ、訪問者の皆さん。
群咲 紫蓮さんに感想を送りましょうね!