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『命の洗濯を』











これは第八使徒殲滅からほんの少し経った後のお話。

赤城リツコ博士をはじめとする技術部の面々の連日昼夜に渡る努力により、エヴァンゲリオン零号機の改修がやっと終わろうとしていた。

「ご苦労様。EVAが三機運用できればだいぶ楽になるわ。」

「全く、こっちは必死で作業してると言うのに誰かさんは温泉で仕事を忘れてのんびり過ごしてるんだから。」

「まあまあ、いいじゃない。シンジくんもアスカも命がけの仕事をしたんだし、保護者としてはゆっくりさせてやりたいと思うのが人情でしょう?」

憔悴しきった顔のリツコと対照的に、生気に満ちた顔のミサト。

「あなたがゆっくりしたかっただけじゃないの?」

「まあまあ、あたしだって命がけだったんだし、それにほら、『お風呂は命の洗濯よ』って言うじゃない。やっぱりたまにはこういうのもないとね〜。」

にこやかに宣うミサト。全く悪びれていない。

「……温泉……」

「「えっ。」」

いつの間に来たのか、二人の後ろにはファーストチルドレン:綾波レイが立っていた。

「あら、どうしたの、レイ?」

「……温泉、行きたかった……」

つぶやくレイ。

「ミサト、あなたレイを呼んであげなかったの?」

「いや、その、レイはあんましこういうのに興味ないかな〜って。」

ちょっとばつの悪そうに言うミサト。

「……私も温泉、行きたかったのに……」

もう一言つぶやくと去っていくレイ。

「あ、レイ……」

近くで話を聞いていた作業員達が、非難の目でミサトを見つめている。

「知らないわよ。あの子、普段はほとんど何も気にしない代わりに、一旦何かに執着したらとことんこだわるタイプだから。」

「だいじょうぶよ、そんな大したことじゃないし。今度ニンニクラーメンチャーシュー抜きでも奢ってあげたら許してくれるわよ。」

そうはいかなかった。











時と場所が変わってここは第一発令所。ミサトがオペレーター三人衆と喋っている。どうも使徒が攻めてこないと作戦部長はお暇らしい。もっとも面倒なデスクワークはほとんど日向マコトという名の下僕に押しつけているという話もあるが。

「へ〜、ペンペンも呼んであげたんですか。」

「やっぱり温泉ペンギンって言うぐらいだしね。喜ぶだろうと思って。」

「僕達は後始末で大変だったってのに、自分だけ楽しむんですから。」

「あはは、ごめ〜ん。でも夕食には間に合ったじゃない。結構豪華だったでしょ?」

「そうですね。たしかに思ったよりも豪勢でしたね。」

「いいよな。俺も行きたかったよ。」

「ホント、私も行きたかったです。」

「……私も行きたかったのに……」

「でっっ!!」

思わず叫んでしまうミサト。気がつくとまたいつの間にかレイが後ろに立っていた。

「……私は呼んでもらえなかったのに……ペンペンは呼んだのね……」

「いや、その…」

「……私の分のお金でビール飲んだのね……」

「うっ…」

実はその通りであった。チルドレンの分の経費としてしっかり3人分もらい、レイの分を料理やビールに回したおかげで予定より豪華な食事となったのである。

あまりに図星であったため二の句が継げなくなったミサトを後目に再び姿を消すレイ。

「ちょっと、それじゃあ余りにレイちゃんが可哀想じゃないですか!」

「あの食事がレイちゃんを犠牲にしてのモノだったなんて……」

怒るマヤ。自責の念に駆られているマコト。

「いやね、やっぱりパイロットが全員本部を離れるとまずいかなぁって思って。」

「しかし零号機が動けない以上、彼女が残ってても意味がなかったんじゃ?」

ミサトもいいわけを試みるが、シゲルの冷静なつっこみにあっさり論破される。

結局ミサトはゴニョゴニョと言い訳しつつ退散する羽目になった。











再び時が移り、今度は起動実験室。復帰した零号機の再起動実験が行われようとしている。パイロットはもちろん綾波レイである。

実験前、エントリープラグの前に座ってレイが零号機に語りかけている。

「……私、葛城三佐に嫌われているの……」

ささやくような声だがしっかり集音マイクに入っている。

「……温泉に連れていって貰えなかったの……」

レイの眼から涙が一筋こぼれる。

「これは……涙?私、悲しいのね。」

オペレーター三人衆 & 技術者達の液体窒素のように冷たい視線がミサトに突き刺さる。

『ああああああ、レイ〜、こんな所であからさまに〜。』

かくしてミサトは起動実験が終わるまで針のムシロ状態で過ごすとなった。











「は〜、もう、たまったもんじゃないわよ。」

ここは赤城リツコ博士のお部屋。相変わらず猫グッズと怪しげな薬品、何の役に立つのか判らない機械等で埋め尽くされている。

「だから言ったでしょ。レイを甘く見てるからよ。ほら、ここでも……。」

パパパッとリツコがキーボードを操作するとモニターに監視カメラの映像らしき物が映し出される。映っているのは掲示板の前、公営の山の家(もちろん温泉付き)の案内が貼られている。それをじっと見つめているレイ。

そこに通りがかった事務職らしき二人。レイは二人が自分の方を見たのに気づくとその場を離れ去っていく。それを見送る二人。

「やっぱりあの噂って本当だったんだな。」

「噂って?」

「いやな、作戦部長が意地悪してファーストチルドレンだけ温泉旅行に連れていかなかったらしいんだ。なんでも自分の飼っているサードチルドレンがあの子に御執心なのが気に入らないらしくて思いっきり苛めているらしいぜ。」

「ああ、そういえば瀕死の重傷を負っているのに無理矢理出撃させようとしたとか、装甲の薄い零号機をわざわざ盾役にしたとかいう話だな。」

「いくら美人でもそんなショタコンの上に性格最悪な女とはつき合いたくねえよな。」

「まったくだ。そんな上司を持った奴は気の毒だよ。」

『この二人、絶っ対に殺す!』

思わず背中に紅蓮の炎を背負ってしまうミサト。それをおもしろそうに見ながらリツコが言う。

「とにかく、早いとこ何とかした方がいいわよ。」











3日後、ミサトはNERV職員の大部分を敵にまわしていた。あちこちでレイが飽きもせず似たようなことをやっていたからだ。

もちろんミサトもレイをつかまえようとしていたのだが、どうもレイが避けているらしく二人きりで会う機会が作れなかった。ミサトにしても引け目があるため人前では強く言えず、気がつくとこういう事態になってしまっていたのだ。

何故皆がレイに同情的なのか?それにはこんな理由がある。

チルドレン、特にアスカがやって来る前のレイとシンジの扱いにはかなり酷いものがあった。『人類を救うためにこうすることが必要なんだ』と自分を誤魔化しても、やはり子供を虐待しているという罪悪感が心に重いしこりとなっていたことは否めない。

それが今回、チルドレンの直接の上司たる作戦部長のミサトがレイを苛めていたということで、『全部あいつが悪いんだ』という、いわば彼らの罪悪感の格好のはけ口となってしまったのだ。

かくして……






自販機コーナーにて

「どうしていっつもエビチュだけが売り切れてんのよ〜!」






地下駐車場にて

「ああっ、あたしの愛しいアルピーヌちゃんがホルスタイン模様に塗り替えられてる〜!」





どこかの通路にて

「え〜と、あ、そこの君、ちょっと悪いけど第6ゲージってどう行けばいいか教えてくれる?」

「第6ゲージですか、ここをまっすぐ行って突き当たりを左に曲がって……」

5分後。

「一体ここはどこなのよ〜!」






食堂にて

「あの〜、おばちゃん、あたしのAランチ、肉が入ってないんだけど……」

「ここにはね、一所懸命頑張っている子供を苛めるような奴に食べさせる肉は一切れたりとも無いんだよ。」

「……………」






司令室にて

「最近君に関してあまり良くない評判を聞くのだが。」

「いえ、それはですね……」

「まあ事実かどうかはともかくとして、そういう噂が流れること自体に問題があるな。君はチルドレンの直接の上司なのだからして、もっと気をつけてくれんと困るよ。」

「はあ、申し訳有りません。」

「ああ、それから出張中の碇からの伝言だ。『減俸3ヶ月』 だそうだ。」

「そ、そんな〜〜。」






コンフォート17マンションにて

「ミサトさん、どうして綾波だけ温泉に連れていってあげなかったんです!綾波が行きたくないって言ったなんて嘘までついて!酷すぎるじゃないですか!」

「いやね、だから、その……」

「罰として今日から1日ビール2本までですからね。減俸にもなったことだし。」

「お願い、それだけは勘弁して……」






かくして葛城ミサトは綾波レイに無条件降伏したのだった。











ここはNERV自販機コーナー。綾波レイがジュースらしき物を飲んでいる。そこにやってきたのは碇シンジ。

「あ、綾波……」

「……碇くん……」

「ごめん、綾波。僕達だけで温泉を楽しんで来ちゃって。綾波があんなに温泉に行きたがっていたなんて知らなかったんだ。」

「気にしてないわ。碇くんのせいじゃないもの。」

「でも……」

「いいの。私には何もないから。」

「何もないって……」

「きっと私にはEVAに乗ること以外何も許されないの。」

無表情に言うレイ。しかしシンジにはその表情が深い悲しみを秘めているように見えた。

「そ、そんな悲しいこと言うなよ!待ってて、絶対僕がミサトさんを説得してくるから!」

そういって走っていくシンジ。その後ろ姿をじっと見つめるレイ。

「……どうして私をそんなに気にしてくれるの?」

と、どこにいたのか突然レイの後方から現れる加持リョウジ。相変わらず神出鬼没である。

「……いい子だな、シンジくんは。」

「…………」

「好きなのかい、シンジくんが?」

「……よく……わかりません……」

「……そうか……」

そう言って加持は自販機からコーヒーを買う。コーヒーを飲みつつ、ちょっと笑みを含んだ表情でレイに尋ねる。半ば冗談だったのだが……。

「シンジくんとはもうキスぐらいしたのかい?」

「……キスというものはした事がありません……押し倒されたことはありますが。」

ブッッ

思わずコーヒーを吹き出してしまう加持リョウジ。それを不思議そうに見つめるレイ。

「いや、すまない。何でもないんだ。変なことを聞いてすまなかった。」

レイが嘘をつけないことは加持も良く知っている。つまり実際にあったということだ。

『おとなしそうな顔をしていてもやはり碇司令の息子、カエルの子はカエルという事か。しかしキスもしないうちに押し倒すとは……焦りすぎだぞ、シンジくん。』











さて、こちらは碇シンジ。要領の悪い彼はひたすらあちこちを走り回りミサトの居場所を尋ね回った挙げ句、やっと廊下を歩いてくるミサトに会うことが出来た。

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、ミ、ミサトさん……」

「あ、ちょうど良かったわ、シンジくん、レイがどこにいるか知らない?」

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、あ、綾波なら自販機の所に……そ、それより……」

「サンキュー、じゃっねぇ〜。」

そう言ってさっさと行ってしまうミサト。

「ぜぇっ、ぜぇっ、あ、待ってミサトさん……」











再び自販機コーナー。

「あ、いたいた、レイ〜。」

「……葛城三佐。」

ちなみにミサトの気配を感じた途端、加持は姿を消している。やはり神出鬼没である。

「喜びなさい、今度の休みに温泉に連れてったげるから。」

「……」

紅い目でじぃ〜〜〜〜っとミサトを見つめるレイ。

「そ、そんな目で見ないでよ。本当だってば。で、何か要望有るんだったら聞いとくわよ。」

「……碇くんも。」

「はいはい、シンちゃんも連れてくわよ。どっか行きたい所とかは?」

「いえ、特に。」

「じゃ、こっちで適当に決めとくわよ。それじゃ準備しといてねぇ。」











再びどこかの廊下。

フラフラになりながら歩いているシンジ。そこに歩いてきたミサト。

「あ、ミ、ミサトさん。あの、ちょっと話が…。」

「あ、シンちゃん、今度の休みレイと一緒に温泉に行くからねぇ。準備しといてね。」

「へっ?」

「ほら、こないだレイだけ連れてってあげなかったでしょう。だからその代わり。」

「あ、はい。」

「で、何、あたしに話って?」

「え、あ、いや、もう良いんです。」

去っていくミサト。

『僕の努力って一体…』

「碇くん。」

「……」

「碇くん。」

「うん………へっ?」

何時の間にか後ろに立っているレイ。こちらも神出鬼没である。

「ありがとう、碇くん。」

「えっ、何が?」

「一緒に温泉に行ける……碇くんのおかげ。」

かすかに頬を赤らめているレイ。それをぼ〜っと見つめるシンジ。

レイは見つめられるのが恥ずかしいのかそっぽを向いてそのまま歩み去っていく。

『いつもの綾波も良いけど……照れてる綾波ってのも可愛いな。』

「良かったな、シンジくん。」

「うわっ。」

何時の間にか後ろに立っている加持リョウジ。とことん神出鬼没である。

「老婆心だがちょっとだけ聞いてくれ、シンジくん。」

普段の彼と異なり、常になくまじめな顔でシンジに話しかける加持。

「は、はい。」

「若い時は焦って自分が気持ち良くなることだけ考えがちだが、それではいけない。ちゃんと相手の事も考えないとな。」

「は、はぁ。」

「自分だけじゃなく、女の子も一緒にイクようにするんだ。俺の言いたいことはわかるな、シンジくん。」

『やっぱりこれって綾波だけ置いて自分達だけ温泉を楽しんできた事を言ってるんだよね。そうだよ、ちゃんと綾波のことを考えてたらあの時一緒に行けたんだし。』

「はい、判りました。」

「俺の出来る助言はこれだけだ。後は自分で考え、自分で決めるんだ。」

そう言ってポケットから何かを出しシンジの手に渡す。

「これを持っていけ、シンジくん。必ず役に立つはずだ。」

そう言って去っていく加持リョウジ。

「?????」

シンジの手に渡されたモノ、それは……“明るい家族計画”。

加持リョウジ、大人の男であった。











「どうしてアタシが留守番なのよっ!」

所変わってここはコンフォート17マンション。ミサトがアスカを説得している。

「EVAのパイロットが不在って訳には行かないでしょ、誰か一人は残らないと。」

「だったらファーストだけ行けばいいじゃない。」

「休暇なんだから年上ばかりじゃなくてやっぱり同世代も居た方がいいでしょ。アスカはこの間行ったばかりだし。」

「シンジだって行ったじゃない。」

「それはそうだけど……」

ここでミサトは作戦を変更することにした。アスカはレイと仲が良いわけではない、というよりむしろ嫌っている。別にレイと一緒に温泉に行きたいというわけではなく、単に自分だけ疎外されるのが気にくわないのだろう。

ならば…

「良いこと、アスカ。もし温泉旅行中に使徒が来れば待機中のパイロットは一人で使徒を相手にしなくちゃいけないわけ。」

「まあね。」

「となると作戦部長としてはやっぱり一番優秀なパイロットに残ってもらいたいと思うのが人情でしょ。」

「ま、まあね。」

「で、シンジくんとアスカを比べた場合、やっぱり……言いたいこと判るでしょ。」

「しょ、しょうがないわね。確かにバカシンジじゃ一人でって云うのは荷が重いわね。ここはアタシが残ってあげるから感謝しなさい。これもエースパイロットである以上仕方ないか。」

ミッションコンプリート。










というわけで後顧の憂いを無くした一同は青葉シゲルの運転の元、温泉へと出発した。メンバーはレイ、シンジ、保護者のミサト、零号機改修の激務のご褒美としてリツコ&マヤ、そして荷物持ち兼運転手のシゲルである。

「微笑ましいわねぇ〜。」

ビール片手に助手席から振り向きながらミサトが言った。別にこれは寄り添って眠っているシンジとレイに向けて言ったものではない。これはこれで微笑ましいのだが…。

ミサトの視線の先は一番後ろの座席、リツコとその左腕にしがみついて眠っているネコマヤに向かっていた。ネコマヤとは、ネコ耳、ネコ手、ネコ尻尾の三点セットを装備した伊吹マヤのことである。童顔とはいえマヤ嬢の年齢は24歳、結構いい歳した大人の女性であるのだが。

一方複雑な顔のリツコ女史。

「私はそう言う趣味はないんだけどね。」

だがなついている後輩を邪険には出来ない。しかもネコマニア。

リツコの性格をよくつかんでいるマヤであった。











カポーン

『LCL、命の源。血の臭いのするモノ。私の命を保つモノ。私の体の中を流れているモノ。』

「レイ〜。」

『これはLCL?いえ、LCLと似て非なるモノ。硫黄の臭いのするモノ。腰痛に効くモノ。』

「ちょっと、レイってば。」

『これは何?これは葛城三佐。牛に似たモノ。いつもお酒を飲んでいるモノ。脳に行く栄養が全部胸に廻ってしまったモノ……』

ザッバァ〜ン

ミサトにお湯から引きずり出されるレイ。

「アンタねぇ、加減ってものを知りなさい。思いっきり逆上せてるじゃない。」

温泉到着後、女性陣は早速荷物を解き温泉へと繰り出していた。

ここには各種の湯質の露天風呂が取りそろえられている。レイはそのほとんど全ての風呂をはしごしていた。何故か温泉に興味を持っていると思ったら、どうも新種のLCLか何かと勘違いしているらしい。その結果ず〜〜〜っと湯に浸かっていたため、現在既に意識は半分あっちの世界をさまよっている。

それに対し岩風呂の縁に座って日本酒を湯飲み茶碗でがぱがぱやっていたミサト。流石に温泉ではビールではない。こっちは程良くアルコールも入って絶好調である。

「あぁ、もう、意識が飛んじゃってるわね。こういう時にはっと、ほら、これ飲みなさい、レイ。」

そう言って湯飲み茶碗を渡すミサト。言われたとおり一気に飲み干すレイ。

この時ミサトとレイを制御すべき存在たるリツコとマヤは、この時のために開発したのぞき撃退用の秘密装置を設置していたため近くにいなかった。

「やっぱり気付けにはお酒が一番よね〜。」

ミサトはどこまで行ってもミサトであった。












「……いい、安物のキーホルダーとか買ってきたら承知しないからね。アタシに相応しい、高価で、美しくて、独創性のあるお土産買ってくんのよ。」

「わかったってば。もう切るからね。」

シンジはといえば、到着早々掛かってきたアスカの電話につき合わされていた。

自分一人行けなかった腹いせか、それとも寂しかったのか、レイとの邪魔をしたかったのか、単に暇だったのか。理由は判らないが結構な長電話になってしまった。とっくの昔にシゲルは温泉に行ってしまっている。

さて温泉に入ろうかと部屋を出たシンジ。ちょうど、温泉からフラフラとふらつきながら帰ってきたレイに出くわした。

「あ、綾波、大丈夫?」

「碇くん…」

逆上せているのと慣れないお酒を飲まされたため、透き通るように白いレイの肌が今は真っ赤になっている。

「碇くん、体が熱いの……」

そう言って胸をはだけシンジにもたれかかるレイ。断って置くが別にシンジを誘惑しているわけではない。ただ元々裸と云うものに羞恥心を持っていないのとシンジに対して無防備なだけだ。

「ちょ、ちょっと、綾波!」

とはいえ、純情かつオク手の14歳の少年に無防備すぎる少女というのは手に余る。しかもここは廊下。通り過ぎる人達の無遠慮な視線に慌ててレイを部屋の中に連れ込む。

「綾波、綾波ってば!」

すっかり寝息をたてているレイ。仕方なく布団を敷いてそこに寝かせる。

しかしそうすると、はだけた胸元が眼に飛び込んでくるわけで…

『見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ…』

しかしその思いと裏腹に目を離せないシンジ。やっぱり14歳の健全な少年、まして相手が気になっている少女となれば仕方がないだろう。

とはいえそこはシンジ、必死の思いで理性を振り絞って気を取り直す。

「と、とにかく何とかしないと…」

とりあえずレイの胸元を治そうと襟に手をかける。

と、ちょうどそこへ…

「シンちゃん、お風呂に来ないでどうしたの〜…………、シンジくん、何やってんの!」

部屋に入ってきたミサト達の目に映ったのは布団に倒れているレイとその浴衣に手をかけているシンジ。実際ははだけた胸を直そうとしているわけだが……見方を変えるとシンジが胸をはだけさせようとしているようにも見える。

「い、いえっ、違うんです、これはっ!」

「レイが酔いつぶれているのを良いことに手を出そうなんて・・・あたしはシンジくんをそんな風に育てた覚えはないわよ!」

ミサトがシンジを育てたわけではない。むしろ普段の生活を考えるとミサトがシンジに育てられていると言った方が正しい。

閑話休題。

普段の酔いどれ状態ならからかいモードに入ったかもしれないが、今回は温泉のおかげでだいぶアルコールが抜けている。まして後ろにはリツコとマヤもいるのだ。

「で、ですから誤解ですってば!別に変なことをしようとしてた訳じゃなくて…」

そのときミサトの後ろから冷たい目で見ていたリツコが白衣の懐から妙な機械を取り出した。ちなみにリツコは浴衣の上から白衣を羽織っている。何時如何なる時も白衣を纏う、それが正しいマッドサイエンティストの姿である。

「? リツコ、何それ?」

それには答えずシンジの服にその機械を近づけゆっくりと動かす、と内ポケットの辺りでその機械が反応を示した。そこに手を突っ込むリツコ。

「……シンジくん、これは何。」

取り出したリツコの手にあるもの、それはもちろん……“明るい家族計画”。律儀なシンジはせっかく加持が渡してくれた物だからと持ってきていたのだ。

「そ、それは…」

「もう言い逃れは聞かないわよ、シンジくん。」

ゆっくりとシンジに近づいていくミサト。その後ろでマヤが一言、

「不潔。」











その晩、布団でぐるぐる巻きに縛られた碇シンジという名の逆さ蓑虫が一晩中窓からぶら下がっていたそうな。

「しくしくしくしく……」

彼を救える唯一の少女はというと……

「……碇くん……ムニャムニャ。」

……幸せな夢を見ているようであった。

「誰か僕に優しくしてよ〜。」










三日後、碇シンジの自白により、加持リョウジという名の逆さ蓑虫がコンフォート17マンションにぶら下がっていたそうな。






(終り)


END

NEXT ver.-1.00 1998+01/29公開

ご意見・ご感想・苦情その他は b.cat@104.net まで!!

[後書き]

『命の洗濯を』 いかがでしたでしょうか。

冬ということでありがちな題名で判るとおりの温泉物、なのに温泉に行く前がメインという作品(笑) レイちゃん主演のシリアスコメディを目指したんだけど……こんなのになっちゃいました。

では、B.CATでした。


 B.CATさんの『命の洗濯を』、公開です。  

 恐るべし、綾波レイの一念・・・(^^;

 計算なのか、
 天然なのか、

 すさまじい破壊力・・
 

 ”さびしげ”な容貌を最大限生かした
 効果抜群のプレッシャー

 て、敵に回したくない(爆)
 

 ミサトはもちろんですが、
 シンジも、
 間接的にアスカも、
 さらにはリツコまでもが・・

 振り回されちゃいましたね(^^)
 

 最強キャラだ〜
 

 

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