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NERV本部第2実験場にそびえ立つ黒い巨人。人類を破滅から守るという役目とは裏腹にその姿はどこか禍禍しさを感じさせる。昨日アメリカから到着したばかりのエヴァンゲリオン、その参号機である。未だその機体は命を宿していない。
その巨人を見つめる3人の男女がいた。
一人はこの場に全くそぐわない、眼鏡を掛け迷彩服を着ている少年。まだどことなく幼さを残しているその顔には抑えきれない興奮が見て取れる。
その隣に立つのは髪を金色に染めた美しい女性。白衣を着たその姿もこの場にはそぐわないはずだが何故かしっくりときている。少年とは対照的に冷たい無表情。
その斜め後ろに立つ制服姿のショートカットの女性。美しいと言うよりも可愛いという形容詞の方が似合う幼い顔立ちは今どことなく憂いを秘めている。
少年が口を開く。
「こ、これが俺の乗ることになるエヴァンゲリオン参号機なんですね?」
白衣の女性がその問いに答える。
「確かに今日これに乗ってもらうのは間違いないけれど、今後も乗ってもらうかは今日の結果次第よ。」
「判ってます。く〜、本当にEVAに乗れる日が来るなんて、まるで夢みたいだ。」
興奮で握りしめた腕を震わせている少年に白衣の女性は冷静に声を掛ける。
「相田くん、悪いんだけどそれほど時間があるわけではないの。」
「あ、す、すいません。え〜と…」
「赤木リツコよ。」
「す、すいません、赤木博士。」
「リツコで良いわ。」
そう言って少年を正面から見つめると、改めて話しかける。
「一応確認しておくわ。これよりテストを行い、その結果によっては以後このエヴァンゲリオン参号機に搭乗してもらうことになります。今日のテストの事は誰にも言っていないわね?」
「はい、もちろんです。」
「そしてテストの結果不適格と判定された場合も同様に他言無用です。理由は判っているわね?」
「はい、機密保持のためですね。」
「その通り。EVAのことを知りたがる組織は多いのだけれど、残念ながらNERVにはパイロットでは無い者にまで護衛を付ける余裕はないの。」
「判っています。それより早くEVAに乗せてもらえませんか?」
早くEVAに乗りたい、今の彼にはそれが全て。他のことはどうでも良かった。
「では、まずこれに着替えてくれる。」
黒いプラグスーツとヘッドセットが少年に渡される。
「マヤ、更衣室に案内して。」
「はい。」
マヤと呼ばれた女性の後をついて更衣室に向かおうとする少年に、リツコは初めて笑みを見せて言った。
「じゃ、頑張ってね。期待しているわ。」
「はいっ、この相田ケンスケ、誠心誠意頑張らさせていただきます!」
「相田くん、気分はどう?」
『特に悪くありません。』
リツコとマヤ、その他数名の技術者達が陣取る観測室。防弾ガラス越しに実験場の参号機が見える。
マヤの前のモニターにはエントリープラグ内のケンスケが写っている。LCLが注水されているが、予備知識が与えられているのと既に一度経験済みのため特に動揺はない。
「もう一度言っておくわ。今回のテストはシンクロ率…あなたとEVAの適合性を確認するためのものです。このシンクロ率が最低でも15%は無いと起動すらしないし、逆に高ければ高いほど戦闘力が発揮できるわ。これはある程度は訓練によって高めることが出来るけれど、根本的には本人の資質によるの。」
『つまり、今回のテストでそのシンクロ率と言うのが高い値を示せばいいわけですね。』
「そう言うこと。シンクロ率が高いと自分とEVAが感覚を共有する……EVAと一体になったような感触を受けるはずよ。」
『判りました。』
「ではこれより実験を開始します。」
その宣言に観測室内の動きが慌ただしくなり、端末を叩く音が響きだした。
「主電源接続。動力伝達順次行います」
「A10神経接続開始。思考言語は日本語を基調とします」
「神経節異常なし。頭部から5秒間隔で開放します」
「搭乗者に異常なし」
「全神経節開放。異常ありません」
「いよいよね…。」
問題はここから。彼がどれだけ参号機とシンクロできるか、それがこの実験の成否を決める。
「参号機シンクロを開始します。」
「シンクロ率現在0.5%。毎秒0.5%ずつ増加していきます。…シンクロ率5%突破、更に上昇を続けます。」
「順調な様ね。」
「…7%…8%…駄目です、シンクロ率8.3%で停止しました。」
『くそっ!』
(やっぱり俺はEVAのパイロットになれないのか…)
ケンスケの顔には自分に対する失望、悔しさ、そして憎しみすら見て取れる。
それをマヤの後ろからモニター越しに見つめるリツコ。だがこちらは起動に失敗したというのに焦りの色は見て取れない。
「相田君。」
『…どうして俺には…』
「聞いている、相田くん。」
『は、はい!』
「別にそんなに嘆かなくても良いわ、これは予想されたことだから。この参号機は特に何の調整もされていない機体だから起動しないのはむしろ当然なの。アスカやレイですら起動させるまでには時間が掛かったもの、初めてで8.3%ならそれほど悪いとは言えないわ。」
『そ、そうですか。』
モニター越しにもケンスケがホッとした雰囲気が伝わってくる。
「ただ、それほど悪くないと云うのは逆に言えば良くもないと云うこと。シンジくんの場合初めてでも40%を越えたのだから。まだあなたのパイロットとしての適性が確認されたわけではないわ。」
『は、はい。』
ゆるみ掛けたケンスケの表情が再び硬くなる。
「これから強制シンクロ装置による起動テストを行います。」
『“強制シンクロ”…ですか?』
「ええ。機械的な補助装置を用いてシンクロパターンを強制的に補正してEVAと一致させるの。パイロットに過度な負担が掛かるのと、シンクロ制御が極めて不安定で短時間しか保たないから実戦では使用されていないけれど、今回はあなたの適性確認とシンクロのイメージを掴んでもらうのが目的だから。ただし、このテストはやや危険が伴うから拒否することもできるわ。どうする?」
『勿論やります!やらせて下さい!』
「そう、いいのね。」
『はい!』
それを聞いているマヤの表情はやや硬い。
「マヤ、強制シンクロテスト開始。」
「……」
「マヤ。」
「……強制シンクロ、開始します。」
マヤが強制シンクロ装置の作動スイッチを押す。それと同時にケンスケは妙な違和感を感じる。まるで心が何か無理矢理鋳型に填められていくような、そんな妙な圧迫感。
「シンクロ率10%突破、12…14…ボーダーライン突破しました。参号機起動します。」
ケンスケは妙な感覚を感じだした。今自分の体はLCLの中でシートに座っているのに、手足を押さえられて直立している感じがするのだ。
(何だこれは?もしかしてEVAの感覚を感じているのか!)
「シンクロ率順調に上昇中。40…50…60…70…80…83.7%で止まりました。」
それを聞いたリツコの表情がやや険しくなる。
「相田くん、気分はどう?」
『座っているのと立っている感じ、液体の中にいるのと堅い鎧で締め付けられている感じが同時にしています。これがEVAとシンクロしているということなんですね!』
「そうよ。」
『シンクロ率もさっきまでの10倍以上。これで俺もEVAの…』
「相田くん、喜んでいるのに水を差すようで悪いけどこれでは不十分だわ。強制シンクロ装置を使用している以上最低でも100%は越えないと。」
『そ、そんなっ、じゃあやっぱりおれは…』
「いいこと相田くん、良く聞いて。シンクロというのはいわば自分を異なる存在と一致させる作業だから、本来の自分の感覚を意識しすぎるとどうしてもシンクロ率が低くなるわ。目を閉じて自分がEVAと一体となっている姿をイメージしてみて。シンクロ率が100%を越えたらほとんどEVAの感覚しか感じられなくなるはずよ。」
『よ、よしっ』
リツコに言われたとおりに目を閉じ、自分とEVAとが一つとなるイメージを浮かべる。
「シンクロ率再び上昇を始めました。…85…90…95…」
「その調子よ。相田くん、頑張って。」
彼は必死だった。なにしろEVAのパイロットになれるかどうかの瀬戸際なのだ。
(EVAと一つに…EVAと一つに…)
「100%突破しました。更に上昇中!」
感覚がより鮮明になってくる。目を閉じているのに、高い位置から実験室内の様子が見下ろせる。壁の中壁に位置する防弾ガラス越しにはリツコ達の姿も見える。
(EVAと一つに…)
「…120…140…160…まだ上昇中です!」
モニター越しに聞こえるマヤの声もどこか遠くからに感じる。既にLCLの中にいるという感触はない。今や実験室内の空気の流れすら感じられる。
「…200…250…300…まだ止まりません!」
「素晴らしいわ、相田くん。私の予想以上よ!」
『ははは、やった、これで、これで遂に俺もEVAに……』
「素晴らしいわ、相田くん。やはりあなたを選んだ私の目に狂いは無かったわ。あなたは最高よ。」
熱に浮かされたような瞳で参号機を見つめるリツコ。その顔には笑みが浮かんでいる。
対照的にマヤの顔は苦悩にゆがんでいる。
「……やっぱり、こんなの私には納得できません。絶対に間違ってます。」
絞り出すようなその声にリツコは参号機を見つめていたときとは打って変わった冷たい眼差しをマヤへ向ける。
「そう思うのならどこかの政府や人権団体にでも垂れ込んだら?子供虐待、人権蹂躙、命を弄ぶ神への冒涜。ただでさえ疎まれている怪しげな組織だからこれ幸いと乗ってくるわよ。」
今リツコの顔に浮かんでいるのは冷笑。
「その代わりあなたの経歴もそれで終わり。ここでやってきたことが明るみに出れば、あなたはもちろんのこと両親や親戚も一生まともには暮らせないでしょうねぇ。人間って云うのは自分達が正義だと思ったらいくらでも残酷になれるのだから。」
「そ、それは…」
「そしてNERVが十分に機能できなくなれば人類が滅ぶのは時間の問題。あなたに人を滅ぼすだけの覚悟はあるのかしら?」
マヤは拳を握りしめたまま俯いて答えない。
「あなたの手はもう充分汚れているのよ。今更自分だけ偽善者ぶらないで頂戴。」
そう言い捨てた後は最早マヤの方を見ることもなく再び技術者達に指示を出し始める。
その時ドアが開き一人の男が入ってきた。リツコは顔に再び笑みを浮かべそちらを向く。
「碇司令。」
「どうだ。」
「成功です。彼は見事我々の期待通り…いえ、期待以上に答えてくれました。これで我々は参号機を弐号機以上の戦力として運用することが出来ます。」
「そうか。」
自分を見つめるリツコの方にも、俯いて動かないマヤにも眼差しを向けることなく、ゲンドウは防弾ガラスの前まで歩み寄り、今や命を得た参号機を見つめている。
「パイロットの選定は?」
「相田ケンスケに兄弟はいませんが、一歳年下の従妹がいます。兄妹のように仲が良かったという事ですので特に問題はないかと。」
「よかろう。フォースチルドレンとして登録しろ。」
「はい。」
リツコはゲンドウの横に歩み寄り、並んで参号機を見つめる。
「さぞ彼も満足していることでしょう。あれほどあこがれていたEVAそのものになれたのですから。」
マヤの前のエントリープラグ内を映したモニター。そこには先程まで映っていたケンスケの姿はなく、ただ黒いプラグスーツのみがLCLの中を漂っていた。
(fin)
[後書き]
ちょっとダークな本編 if のお話 『俺もEVAに…』 お届けしました。
読み終わった後に何となく背筋に寒気が残る、そんなお話を描いてみたかったのですが筆力不足であまりそんな雰囲気を出せませんでした。いずれ機会があれば再度挑戦してみたいと思っています。
あこがれだけで後先考えずに飛び込むと思いがけない目に遭うことがあります。皆様も努々お気を付けを……B.CATでした。
B.CATさんの『俺もEVAの…』、公開です。
おめでとうケンスケ。
NERVの一員になれて。
EVAと関われて。
あんど、主役(?)を張れて。
主役ではないか(^^;
このパターンですと−−
TVの参号機には、トウジの妹が・・・
ダミーにバラバラに引きちぎられたのは、トウジの−−
ぐぁ
いろいろ考えれば考えるほど、来ますね。精神に−−
さあ、訪問者の皆さん。
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