「ほら、バカシンジ!さっさと起きなさいよ! 」
今朝もいつものように声が鳴り響く。しかし、その後が少しいつもと違っていた。
ビンタもエルボーもニードロップも来ないのを不審に思い目を開けると、ひっぱがした布団を持ったままアスカが石になっている。
「……どうしたの、アスカ?」
「……ムネ……」
「胸?」
前を見ると小ぶりながら形のいい膨らみが二つ。
「…………えっ?!」
そういえば毎朝はち切れんばかりに膨張しているはずのモノが今朝は感じられない。念のため触ってみるが…やっぱり無い。
「……これって……もしかして女になっちゃったってこと?」
「…………たぶん。」。
「どぇぇぇぇぇぇ!!!」
「無敵のアスカちゃま3」
シンジくんチェンジ?
どたどたどたどた。
いつもと違う叫び声に驚いたか一階からシンジの両親が駆け上がってきた。既にご存じと思うが、悪人面のヒゲメガネが碇ゲンドウ(48歳)、14歳の息子がいるとはとても見えない若作りの女性が碇ユイ(38歳)である。
部屋の入り口から涙を流してシンジを見つめる二人。手塩にかけて育てた一人息子が、こともあろうに娘になってしまったのだ。さぞショックが大きいのだろうと、自分が悪いわけでもないのに申し訳なさでいっぱいになるシンジ。ふっ、ぬるいな。
「よくやったぞ、シンジ。」
「えっ?」
「あなた、やっと私たちの夢が叶ったのね。」
「ああ。シンジ、おまえはこの時のためにいたのだ。」
実は感動の涙だったりするんだな、これが。
「な、何を言っているのかわからないよ、父さん!」
「フッ、いいだろう。説明してやる。」
言い放つゲンドウ。どうでもいいがやたら偉そうだ。
「ユイの研究のことは知っているな。魚類や両生類の中には成長の過程や環境の変化によって性別を変化する性質を持つ種類がいる。その研究の過程でたまたまユイが哺乳類の性別をも変化させる物質を見つけたのだ。ラットでの実験は成功したのだが、人間への応用となると下手な相手を実験材にするわけにも行かなくてな。」
「ま、まさか……。」
「フッ、おまえの考えているとおりだ。俺もユイも本当は女の子が欲しかったからな。」
平然と言うゲンドウ。これっぽっちも悪いとは思っていないようだ。
「シンちゃんも小さい頃は女の子の服も喜んで着てくれたんだけど、小学校に入ってからは全然着てくれなくて。母さん寂しかったのよねぇ。」
いるんだ、いくら女の子みたいだからって男の子に女物の服を着せて喜ぶ母親が。小さいから判らないと思ってるんだろうが、子供にとってはいい迷惑なんだぞ。
「…やっぱり僕はいらない子供だったんだ…。」
しくしくしく。部屋の隅でいじけるシンジ。
「ちょ、ちょっと待って。そしたらシンジはこれからずっと女の子のままなんですか?!」
ようやく硬直から解放されたかアスカが尋ねる。でもまだ少し動揺してるのか掛け布団を手に持ったままだ。
「あ、大丈夫よ。ラットでの実験結果から推測するとおそらく24時間もすれば元に戻るわ。だから、アスカちゃんがシンジのお嫁さんになるのには何の問題もないわよ。」
「な、何言ってるんですか!べ、別にアタシはシンジの事なんか何も…。」
「……悲しいわ、アスカちゃんがうちの娘になるのが嫌だなんて。いつかシンジの赤ちゃんを見せてくれるのを楽しみにしてたのに。やっぱりうちのシンジみたいな優柔不断の甲斐性なしは駄目なのね。」
「いえ、その、別にシンジが嫌いだとかユイさんの娘になりたくないとかじゃなくてですね、アタシ達はまだ中学生だからそういうのを決めるのは早いんじゃないかって……。」
いつもの会話を始めてしまったユイとアスカをよそに、ゲンドウはいじけているシンジに声をかける。
「シンジ何をしている。せっかく早く起きたんだ、さっさと学校へ行かんか。」
「……何言ってんだよ!こんなんで学校になんか行けるわけ無いじゃないか!」
「フッ、問題ない。ちゃんと学校には事情を説明してある。冬月の奴はユイには頭があがらんからな。」
ちなみに冬月コウゾウはNERV学園の校長にしてユイの恩師である。女房の恩師を平気で呼び捨てにするとはやっぱり外ン道だ。
「早くせんか。ちゃんとこの日のためにセーラー服も用意してあるのだ。」
「そ、そんなの着て行けるわけないじゃないか。いつも通り学生服を着ていくよ!」
「フッ、学生服は無い。全てクリーニングに出してあるからな。わかったらさっさと学校へ行け。言っておくがズル休みなど許さんぞ。」
この時シンジは確信した。『たまたま見つけたなんて絶対に嘘だ!最初から僕を女にする気だったんだ、全て計画ずくだったんだ!』
実はその通り。これこそ【碇家補完計画】の真実であった。え、どこでそんなの出てきたかって?ちゃんと『アスカちゃま2』でゲンドウが言っているぞ。
「ああ、シンジのセーラー服姿楽しみだわ。ホントはもっといろんな服を着せてみたいんだけど。さ、着替えるのを手伝ってあげるわ、シンジ。」
外道の女房はやっぱり外道。こちらも罪悪感のかけらもない。
こんな二人に当然シンジが逆らえずはずもなかった。
さて所かわって、道を歩くは黒いジャージに身を包んだ少年とカメラをぶら下げたメガネの少年。そういえば初登場だったな、このメガネは相田ケンスケ、以下略。
「……ちょっと待った。」
こら、地の文に話しかけるんじゃない。一応このお話はギャグじゃなくナンセンスコメディを目指してるんだから。
「そんなことはどうでも良いけど、どうして僕だけこんな紹介なんだよ?トウジや委員長だってもうちょっと説明しただろ、僕は訂正を要求する。」
ああ、わかったわかったうるさい奴だな。この少年は相田ケンスケ。ミリタリーオタクにしてカメラ小僧のストーカー、マンガ版ではアスカの下僕志願者である、以上。
「…くっ!」
「おい、なに空見上げてぶつぶつ言うとんのや。電波でも来とるんか?」
ここでやっとトウジのつっこみが入る。
「ああ、なんでもないよ。……ん、なあトウジ、あれ。」
ケンスケの指さす方には珍しく普通の登校時間に歩いているアスカ。しかしいつもと違いその隣にもう一人小柄な女の子が歩いている。
「……あれってシンジだよな?」
「……でもシンジにしては少し小さないか?髪の毛も少し長うなっとるし…。」
そんなことを言っているうちにアスカの方が気がついた。
「おはよ、三馬鹿の残り二人。今日も朝から馬鹿みたいな顔してるわね。」
「……おはよう、トウジ、ケンスケ。」
前からみると微妙に顔の作りが変わっているが、やっぱりシンジである。
「……やっぱりシンジなんか?どないしたんや、それ?」
「それが……。」
かくかくしかじか。
「そぉか、それは災難やったな。ま、そんなに気にすんな。」
「そ、可愛い女の子になってるんだし、良い経験だと思いなよ。」
二人とも口では一応慰めているが表情がそれを裏切っている。悪友なんてこんなもんだ。
「酷いよ二人とも、人事だと思って…。」
潤んだ目で上目遣いに非難するかのように(いや、非難しているのか)見つめるシンジ。見つめられて思わず動揺し顔を逸らしてしまうトウジ。
「ちょっと、なに顔赤らめてんのよ!」
「べ、別にワイは顔を赤らめてなんか…。」
「それよりさ、せっかく早く家を出たのに急がないとまた遅刻になっちゃうよ。」
「そぉそ、早く行こうぜ。みんなに早くシンジ見せたいし。」
「ううううっ…。」
「そんな、碇くんが女の子だったなんて!駄目よアスカ、女の子同士なんて不潔よぉ!!」
「……あのね、ヒカリ。だからシンジが女の子なのは今日だけなんだけど。」
というわけで、2−Aの教室。早速ヒカリが暴走している。
「…ねぇねぇ、やっぱり碇くんて…」
「…うんうん、女装したら似合うと思ってたけど…」
「…あんなに可愛くなるなんてねぇ…」
そうこうしてるうちにやっとヒカリが落ち着いたようだ。
「あはは、ごめんアスカ。」
「まったく、いくらヒカリがそういうの読むのが好きだからって変な誤解しないでよ。だいたい、ヒカリの好きなヤオイならちゃんとこっちにいるわよ!」
ビシッと指さした先にいるのは……鈴原トウジ!
「「「え〜!!!」」」
「ちょ、ちょっと待て!なんでワイが…。」
「あら、アンタさっきシンジに見つめられて顔赤くしてたじゃない。」
「あ、あれはちょっと動揺しただけや!別に顔を赤くなんかしてへん!」
「ふ〜ん、じゃちょっと試してみようか?」
まず、トウジの前にヒカリを座らせる。
「じゃ、ヒカリ。しばらくジッと鈴原を見つめてやって。」
10秒経過。20秒経過。
耐えきれなくなったトウジが顔を赤くし目をそらす。
「…24秒ね。じゃ、次シンジ。さっきみたいに見つめてやって。」
「…僕もやるの?」
同じようにトウジの前にシンジを座らせる。潤んだ目で上目遣いに見つめるシンジ。
『お、落ち着け、いくら可愛い見えてもこれはシンジ、シンジなんや!』
そんなことを考えてるから…。
「…8秒。これで決まったわね。」
「ちょ、ちょっと待て!これは何かの間違いや!!」
動揺しているトウジ。でももっと動揺しているのが一人。
「す、鈴原、アンタ本当に……。」
「ち、違う、イインチョ、違うんや!別にシンジの方がイインチョより可愛いとか、なんか上目遣いがやたら色っぽかったとかやなくて……」
墓穴をショベルカーで掘っていくトウジ。
「…ねぇねぇ、やっぱり鈴原くんて…」
「…うんうん、何か碇くんを見る目が怪しいと思ってたけど…」
「…アスカといつも喧嘩してると思ったら実は嫉妬だったのねぇ…」
「…そういえばいつもジャージ着てるし…」
「…体育会系にはホモが多いって言うしね…」
「ワ、ワイをそんな目で見んなぁ〜!!」
耐え切れずに教室を飛び出すトウジ。どうやら心に傷を負ったようだ。
そのまま夕日に向かって走り去っていく。(おいおい、今は朝だって)
「ワイはノーマルやぁぁ〜!!」
おお、魂の叫び。
『くっくっく、どうやらうまくいった様ね。でも、せっかくシンジがアタシのために心を込めて作ってくれたチョコレートケーキを食い尽くした恨み、こんなもんでは済まさないわよ。』
『お、思わぬライバルの出現ね。碇くんは料理は上手だし、家事は万能だし、おしとやかそうだし確かに可愛いし…まずいわ、鈴原の好みにぴったりじゃないの!手遅れにならないうちに碇くんをなんとか処分しないと……』
恋する乙女は恐ろしい、と言うべきか。
「……青春だねぇ。」
「う〜ん、ホントに女の子になっちゃったのねぇ。」
時は移りホームルームの時間。ショタのミサトにしてみれば狙っていたシンジが女の子になったのがちょっと不満のようだ。もっとも男も女も気にしないと言う噂もあるが…。
「あ、ところでトウジくんがいないみたいだけど…。」
「鈴原くんは碇くんが女の子になったのにショックを受けて帰っちゃいました〜。」
「ふ〜ん、トウジくんてそういう趣味だったんだ。」
哀れなりトウジ。ミサトにまで思いこまれてしまったら後がつらいぞ。
「ま、トウジの気持ちも分からなくも無いよな。今のシンジなら惣流や綾波すら上回れる可能性がある。期待してるぜ。」
朝からシンジの写真を撮りまくっているケンスケ。周りの男どもが結構うなずいていたりする。
「あの〜、それより今日体育があるんですけど。僕はどうしたら良いんでしょうか?」
今のシンジは心は男、体は女。
「う〜ん、体は健康なんだから休ませたくないし、どっちで着替えても問題あるし、かといって着替えの時間をずらしても変な奴に狙われそうだし…ちょっち困ったわね。」
もちろん皆の目はケンスケに向いている。
「しょうがないわね。今日は教師用の更衣室で私と一緒に着替えましょ。」
ちなみにミサトは女子体育教師。
「ちょっと!!何ふざけたこといってんのよ!!!」
トウジへの態度でも判るように今日のアスカは機嫌が悪い。何しろ朝から一回もシンジを殴れていないのだ。さすがのアスカもいかにシンジとはいえ小柄な女の子相手には暴力を振るえず欲求不満が溜まりに溜まっている。
「あら、アスカも一緒に着替えたいの?」
「そ、そんなわけないでしょ!ただ…」
「私は大丈夫よ、今シンジくんは女の子なんだし。襲われる心配はないわよ。」
襲うのはまず間違いなくミサトの方であろう。ちなみに、シンジの意見は聞かれる前から却下されている。
「と、とにかく、そんなことは絶っ対にさせないから!!」
「…ほ〜、おもしろいじゃない。勝負しようっての?相手になるわよ。」
『歩くN2爆雷』アフリカ象5頭分のパワーを誇る惣流・アスカ・ラングレーか、『酔いどれホルスタイン』伝説の酔拳を操る葛城ミサトか?NERV学園三巨頭と呼ばれる二人により今ここで『最強』の座が争われようとしていた(残りの一人はもちろんあの方)。ちなみに危険を察知したクラスメート達は既に全員退避している。
が、しかし!
突如として天井のスプリンクラーより吹き出る白煙。
『こ、これはリツコ特製の睡眠薬!』
そう、シロナガスクジラでもいちころと言われる睡眠薬により二頭の猛獣はあっと言う間に眠りの世界へと引きずり込まれた。
度重なる校舎の破壊により胃の内壁と懐の中身に多大なダメージを受けているNERV学園校長冬月コウゾウの命により、2−Aの教室には使徒が乱入しても鎮圧できる仕掛けが施されているのだ。
やがてガスが収まった頃、謎の黒服部隊が二人を運び出していく。かくしてNERV学園最大の危機は回避された。(すんません、この二人の激闘までやってたら話が終わらないもんで…)
というわけで体育の時間。結局シンジは教員更衣室で一人で着替えたようだ。
シンジが女なのは今日だけという事なので、授業は男と一緒である。服装はいつもと同じ、さすがのゲンドウもブルマーは準備していなかったようだ。とはいえ、胸は出ているし腰から下のラインもいつもと違うので周りの男どもは興味津々の視線で見ている。特にケンスケの動きが怪しい(笑)。シンジは針のムシロに座っている感じだ。
「なんで僕がこんな目に……(涙)。」
シンジには神も仏もついていなかった。だが心配するな、君には代わりに怪力無双の守護天使がついているのだ。
ブンッ……グシャッ
突如飛来したローラー(そう、グランドをならすアレだ)が、逃げ遅れたケンスケ(どうも妙な角度からの写真を撮ろうとシンジに忍び寄っていたらしい)を直撃する。これがシリアスなら内臓ぶちまけてスプラッタ死体になっているところだが、このお話はナンセンスコメディだからせいぜい大怪我で済む。良かったな、ケンスケ。
「……うぅ、ぜんぜん良くない……」
診断: 相田ケンスケ 全治三週間。
「はぁ、疲れた。」
ベッドに倒れ込むシンジ。あのあと、全校生徒がシンジを見物に来るわ(そう、ケンスケがメールで流していたのだ)、家に帰ったら帰ったでユイに着せ替え人形にさせられるわでずっと緊張状態が続いていたのだ。挙げ句の果てに、
「娘と一緒にお風呂に入りたかったのよね〜。」
などと言われたのだから堪らない。母親とはいえ未だ20代の若さを保っているユイの肉体に加え、自分の体とはいえ14歳の少女の裸まで見てしまったんだから。のぼせているどころではない状態である。
「ああ、でもやっと終わったんだ……」
些細な幸せをかみしめつつシンジはそのまま夢の世界へと落ちていった……。
「ほら、バカシンジ!さっさと起きなさいよ! 」
今朝もいつものようにアスカの声が鳴り響く。だが、しかし……。
ビンタもエルボーもニードロップも来ないのを不審に思い目を開けると、ひっぱがした布団を持ったままアスカが石になっている。
「……まさか……?」
不吉な予感を感じながら前を見ると小ぶりながら形のいい膨らみが二つ。
「…………もしかして?!」
念のため下の方も触ってみるが…やっぱり無い。
「治って無いじゃないかぁ!!!」
シンジくんの受難は終わらない。
[次回予告?]
[後書き]
ど〜も、『2』で予想外の△印に驚いたB.CATです。まさかこんなに早く貰えるとは…。
『アスカちゃま3』 シンジくん受難編 いかがでしたでしょうか。
シンジ = ナディア 説から思いついた今回の性転換ネタ。ちなみに副題は某マンガからお借りしました。(アレは双子が入れ替わるんだったかな?)
では、次はSS(あれ、『アスカちゃま』もSSだったような…)でお会いしましょう。
B.CATさんの『無敵のアスカちゃま3』、公開です。
MIBj[メン・イン・ブラック/ジャージ]鈴原トウジ。
彼は”そう”だったんですね(^^;
カヲルくんが登場するまでは”その”役をしていた彼。
やっぱりそうだったのか・・・・
いつの間にかシンジの周りにいる自分以外の女の子達。
追い払っても追い払っても、
いくら目を光らせても、注意を払っていても。
アスカちゃんは必死にシンジくんをガードしてきました。
それが
これからは男にも目を光らせないといけなくなっちゃった(^^;
もてる男をものにするのは大変ですね(^^)
さあ、訪問者の皆さん。
いつの間にやら連載しているB.CATさんに感想メールを送りましょう!