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「ほら、バカシンジ!さっさと起きなさいよ! 」

今朝もいつものように二階から声が鳴り響く。

「エッチ!痴漢!変態!もう、信じらんない!」

何か重いモノが壁に叩きつけられる鈍い音と振動がダイニングまで響いてくる。しかし、既にそんなことには全く動じないヒゲメガネと若作りの中年男女が二人。

「早く娘になってくれると良いわね。」

「問題ない。碇家補完計画のスケジュールは2%も遅れていない。」

少しは息子の心配もしてやれよ。

碇家の朝は今日もいつもどおり平穏であった。







「無敵のアスカちゃま2」

リツコの挑戦!











というわけで、いつものごとくアスカちゃんはシンジくんを引きずって通学路を爆走中。

しかし今朝はシンジの寝起きが悪かったので(正確にはお花畑から帰ってくるのが遅かったので)、いつもより5分ほど家を出るのが遅かった。このままでは遅刻決定である。だがアスカの聡明な頭脳は瞬時に解決策を導き出していた。

「シンジ、行くわよ。」

「え、なに?」

シンジは未だ朦朧としているのかよく判っていない。

目標NERV学園3階2−Aの教室。目標をセンターに入れて……スイッチ。

「いっけえ〜!」 ブゥゥ〜ン

「うわぁぁぁ〜〜〜」





















所変わってこちらはNERV学園3階2−Aの教室。珍しく早く来ている綾波レイが鈴原トウジと喋っている。

「あれ、シンちゃんの叫び声が聞こえない?」

「ん、そやな。ちゅうことは今日は空からかいな。」

窓から外を見ると案の定何かがこっちへ飛んでくる。もちろんシンジくんだ。

「シンちゃん、おっはよ〜」

「…なあ、なんか高さが足らん思わんか?」「え?」

「うわぁぁぁ〜〜〜」 グシャッ

哀れ。目標を僅かに外れ、窓の下50cmにシンジはめり込んでいた。そのまま万有引力の法則に従い地上へと落下していく。本日2度目の気絶。今日もハイペースだ。

「…シンちゃん大丈夫かな?」

「あの程度やったら20分もすりゃ復活するやろ。どうやら惣流も来たようやし心配するだけ時間の無駄や。」

その通りだった。











「あ、おはようヒカリ。」

滑り込みで間に合ったアスカ。荷物が無くなった効果はあったわけだ。

「……おはよう、アスカ。」

遂に登場、アスカの親友にしてクラス委員であるイインチョこと洞木ヒカリ。何故にまじめな彼女がアスカと同じく遅刻すれすれの登校なのか。それは膨れた鞄と欠食ジャージメンに関わる秘密がある。

それはさておき。

彼女の目の前にはつい先程3階から落ちてきたボロボロの粗大ゴミ、もといクラスメートの少年が転がっていた。一応息はしてるようである。

「アスカ、本当にいい加減にしないと碇くん死んじゃうわよ。」

「大丈夫よ。こんな位で壊れるほどヤワな育て方はしてないわ。」

あんたが育てたんかい。

ともかく、アスカはシンジの首根っこを摘んで持ち上げる。

「さ、行くわよシンジ。」

「ふぁい。」

早くも復活しつつあるシンジ。トウジの予測を遥かに上回るスピードである。

「…なんか最近碇くんの不死身ぶりが人間離れしつつある気がするんだけど…。」

このとき彼女達を見つめる熱い視線があったのだが、彼女達は知る由もなかった…。











ここは理科実験準備室。別名『リツコの館』と呼ばれ、学園7不思議の1つに数えられている恐怖の部屋である。曰く誰もいないのに不思議な雄叫びが聞こえる、曰く夜中に何かが動き回る音がする、等々。

この中で一人の女性が熱い思いを抱いていた。そう、白衣の美女にして泣きボクロがチャームポイントのマッドサイエンティスト、化学教師赤城リツコそのひとである。ちなみに、彼女の前で『嫁き遅れ』や『三十路』などと口にした者には人体実験が待っている。

「ああ、シンジくん…」

断っておくが、別にショタコンというわけではない。

「あの再生力の秘密を解き明かせたら、きっと若いお肌を…」

そう、既に『三十路』の域に入ったのに未だ『嫁き遅れ』ている彼女にとって(…聞こえなかったよね…)、お肌の衰えはまさに死活問題なのだ。美貌を誇る彼女にとっても目元の小皺を気にせずにはいられなくなってきた。

「最後の一人にはなりたくないし、いい加減に決めないとね。」

実は現在お見合い17連敗中。その美貌故に相手には事欠かないのだが、MADな性格が災いし見合い相手が二の足を踏んでしまうのだ。だから、ホントはお肌とか気にしててもあんまり意味は無いのだが…。どうも本人は気がついてないようである。

「とにかく、どうやってシンジくんをゲットするかね…。」




















時は移りて放課後。

流れるような黒髪にグラマラスなボディの、道を歩けば10人中9人の男は振り向きそうな美しい女性が教室に入ってきた。この方こそ『酔いどれホルスタイン』の異名を取る葛城ミサトである。『歩くN2爆雷』惣流・アスカ・ラングレーに対抗すべく2−Aの担任として送り込まれた最終決戦兵器なのだが…火に油を注いでいるとのもっぱらの評判である。

「あら、洞木さんはもう帰ったの?」

「はい、何でも妹さんが風邪を引いてるらしくて。」

「そうなの、困ったわね。どうしょっかなぁ…と、あ、シンジくん、ちょっと。」

「はい、何ですかミサト先生。」

カモがネギ背負って近寄ってくる。

「ちょっち悪いんだけどさぁ、資料の整理手伝って欲しいのよ。いつもは洞木さんに頼んでんだけどもう帰っちゃったみたいだから。」

「はい、別に良いですよ。」

でも良くない人が一人。

「ちょっと、どうしてシンジが手伝わないといけないのよ!これからアタシと一緒に帰るところだったんだから!」

「あら〜、やきもち焼いてんの、アスカ?」

「な、何言ってんのよ。アタシはただミサトみたいなショタコンと二人きりだとシンジが危険だって言ってんの!」

そう、学園エヴァのご多分に漏れず、やっぱりミサトはショタコンだった。そんなのが中学教師やってて良いんだろうか?

「じゃ、じゃあさ、悪いけどアスカも僕と一緒に手伝ってよ。そうすれば早く帰れるし。」

「しょ、しょうがないわね。アンタがどうしてもって言うなら手伝ったげるわ。」

『チッ』

心の中で舌をうつミサト。やっぱり何か企んどったんかい。

そのときアナウンスが入った。

ピンポンパンポン。ピンポンパンポン。

『2年A組碇シンジ君。2年A組碇シンジ君。赤城先生がお呼びです。理科準備実験室にまで来てください。』(繰り返し)

「アンタ何かやったの?」

「え〜と、たぶんこの間のレポートのことじゃないかな。提出するの遅れたし。」

「しょうがないわね。行ってらっしゃい、シンジくん。じゃアスカ、手伝って貰うわよ。」

「え〜、どうしてアタシが…。」

「アンタ手伝うって言ったでしょ。ど〜せシンジくん待つんだから良いじゃない。」

「……はぁい。」

「じゃ、僕行って来ます。」











というわけで、ここは理科実験準備室。

「ちょっと座って待っててくれる。今コーヒー入れるから。」

理科実験準備室のはずなのだが…何故にコーヒーメーカーやデスクトップパソコン3台、あげくにベッドまで置かれているのか。もはや完全にリツコの個室と化している。

「砂糖は一杯で良い?」

「あ、はい、すいません。」

「で、この間のレポートでちょっと気になったんだけど……」

10分後。

シンジくんは心地良い眠りの世界へと誘われていた。

「うふふ、このリツコ特製の睡眠薬に掛かればシロナガスクジラでも一晩ぐっすりよ。」

さあ、シンジくんの運命やいかに。











所変わってこちらは職員室。先程まで狭い資料室で働いてたのだが、アスカのパワーと頑張りによって予想以上に早く終わっていた。これもシンジと一緒に帰りたい一心故か。

今はお茶を飲んでシンジを待っている。お茶菓子も出ているようだ。そこまでは良いとして、ミサトの右手にあるビール、そいつはいくら何でもまずいんじゃないか?

「……シンジくん来ないわね。手伝いに来てくれると思ったんだけど。」

「あいつは要領悪いから。もうちょっとしっかりして欲しいとこだけど。」

「あら、先に帰ったんじゃないかとか思わないわけ?」

「シンジがアタシおいて帰るなんて絶っ対にありえないもの。」

「…はいはい、ごちそうさま。それにしてもシンジくん本当に遅いわね。まさか、リツコ何かしてるんじゃあ…。」

「赤城先生はミサトと違ってショタコンじゃないでしょ。大丈夫よ。」

ニヤリと笑うミサト。

「そうかしら。確かにリツコはショタコンじゃないけど、この間もお見合いに失敗して結構焦ってるって話よ。そういうときにシンジくんみたいに可愛い子と一緒なら…。」

「………(ピク)」

「そういえばシンジくんて家事は万能だし、料理の腕は一流だし、性格は優しいし、年齢を除けば優良物件よねぇ。」

「………(ピクピク)」

「リツコは特許とか沢山持ってるしお金には困ってないから、シンジくんが働けなくても十分暮らしていけるし…。」

「………(ピクピクピク)」

「そういえばこの間シンジくん見て熱いため息ついてたし…。」

「失礼します!!」

バン!ピシャ!ダダダダダダダ…

「くっくっくっ、おもしろくなりそうね…。」

ゆっくりと職員室を出ていくミサト。やっぱり火に油を注いでいる。











再び理科実験準備室。既にシンジの体はベッドの上に運ばれ、上半身裸になっている。

「やっとシンジくんがこの手に入ったのね。でも綺麗な肌。もう傷が残ってないわ。」

断って置くがリツコはショタコンではない。シンジはあくまで研究対象だ。

「…本当に綺麗な肌ね。男の子とは思えないわ。」

くれぐれも断って置くがリツコはショタコンではない。

「すべすべして触り心地も良いし…ミサトの気持ちが分かるわ。」(サワサワサワ)

…本当にショタコンじゃないんだろうな。

「誰も見てないし…ちょっとぐらいなら良いかしら。」

良くない!一応禁止されてんだし、名前が色つきで出る様な人達ならともかくど新人が18禁をやってしまってはメゾンEVAを追い出される。頼むから止めてくれ!

ピーピーピー。この時警報が鳴り響いた。

「あら、もう来たの。予想よりだいぶ早かったわね。」

そう、ここで作者にとって救いの女神、アスカちゃんがたどり着いたのだ。

「フッ、ここの扉は厚さ10cmの複合素材で出来ていてクロサイ3頭の突進にも耐えられるわ。ATM(対戦車ミサイル)を5発は持ってこないと進入出来なくてよ。」

やたら説明的なセリフを述べるリツコ。どうして悪の科学者というのはこうも説明好きなのだろうか。

でも甘いぞ。アスカちゃんのパワーはアフリカ象5頭分に匹敵するのだ。…どうでもいいが動物での比喩が多いな、この話。

ドーン

一瞬にしてぶち破られる理科実験準備室の扉。そこでアスカが見たモノは…上半身裸でベッドに横たわるシンジの姿であった。

そして遂に アスカ VS リツコ の闘いが始まる。











アスカの先制口撃。

「このショタコン!シンジに何しようとしてたのよ!30過ぎて男の一人も居ないからって教え子に手を出そうなんて恥ずかしいと思わないの!アンタみたいな常識無しの変人でも一応教師なんでしょ!三十路の年増がシンジと釣り合うとでも思ってんの! シンジの最初の女性はアタシって決めてるんだからね! 男に飢えて中学生を襲うなんてホントに恥も外聞も知らない女ね! これだから嫁き遅れの中年女は油断ならないのよ! よく聞きなさい、シンジは頭の上からナニの先まで全てアタシのモノなのよ!アンタみたいなバーサンにやるモノなんてこれっぽっちも無いんですからね! MADで猫フェチなんだからバターでも塗って猫に舐めさせてりゃいいのよ!…………(まだまだ続く)」。

どうも本人も興奮して何を口走っているか判ってないようである(笑)。シンジが眠っていたのはアスカにとってラッキーだったというべきだろう。

とはいえ、こんな罵詈雑言を叩きつけられて笑っていられるほどリツコは穏やかな女性ではない。まして彼女にとって禁句と言うべき言葉が多分に含まれている。

「許さないわ…。」

リツコの右手が白衣の内側に走る。懐から取り出された右手には、トロリとした透明な液体が込められたコルク栓付き試験管が一本。

「はっ。」

気合いと共にアスカに投げつけられる試験管。

ボワッ!

理科実験準備室に炎の花が咲いた。

「フッ、お気に召したかしら。このリツコ特製ニトログリセリンの威力は。」

「あ、あんたアタシを殺す気?!」

危ういところで飛び退いたアスカが叫ぶ。

「大丈夫よ。死んでもちゃんと改造して生き返らせてあげるから。」

「よけい悪いわ〜!!」











戦場は理科実験室へと場所を移していた。

カエル・サンショウウオ・ネズミ・使徒(おい)のホルマリン漬けを次々投げつけるアスカ。

時速150kmで飛来するそれらをことごとくニトロで迎え撃つリツコ。

空中で咲き乱れる炎の花。見てる人がいたら結構綺麗と思うかもしれない。

いや、一人いた。炎の花見を楽しむ酔っぱらいが約一名。

「ギャハハハ、リツコもアスカも負けんじゃないわよ〜。」

とめろよアンタ、教師だろ…って、それはリツコさんもか。

ともかく、戦闘は膠着状態に陥っていた。ニトロに阻まれアスカは接近出来ないが、リツコも飛来物の迎撃に追われて有効打を放てない。いや、このままで行けば敗北するのは投げられる物なら何でも良いアスカに対し武器に限りのあるリツコの方か。

「ここは勝負にでるしかないわね…。」

懐から出された右手の指には4本の試験管が挟まれていた。











さて、ほんのしばらく前。

シロナガスクジラでも目覚めないはずの薬を飲んだにもかかわらず、早くもシンジくんが目覚めようとしていた。彼の再生力は留まることを知らない。

「あれ、確かリツコ先生に呼ばれて…どうしたんだっけ?」

そのまま起きあがりフラフラと歩き出す。理科実験準備室を出ると……そこは爆音とどろき炎が荒れ狂う戦場だった。

しかし毎朝懲りもせずアスカに叩き起こされているだけあって彼は寝起きが悪かった。しかもいつもアスカにつきあっているだけあってこの程度の騒ぎは日常茶判事なのだ。

かくして彼はろくに状況を把握せず、とりあえず目についたリツコの方へと近づく。だが、寝ぼけていた彼は足下のホルマリン漬けに気がつかなかった。転けかけてそのままリツコを押し倒すシンジ。しかも上半身裸。

「ちょ、ちょっとシンジくん?駄目よ、こんな所で!」

「バカシンジ!アンタ何やってんのよ!!」

「キャ〜、シンちゃんたら大胆〜。」

とはいえ、この状況下でそういう反応するか?やっぱりこの人達どっか変である。

さて、ここで15行前を思い出していただきたい。リツコの右手には4本ものニトログリセリンが挟まれていたのだ。この状態で不意に押し倒されたら…。

ドッガァァ〜ン!!

理科実験室に一際大きな炎の花が咲いた。






かくして、悪は滅びた。






 診断: 碇シンジ 全治一週間。

      赤城リツコ 全治一ヶ月。






さて、勝者の方はというと…、

「どうしてアタシが一人で後片付けしなくちゃなんないのよ〜。」

「しょうがないでしょ。リツコもシンジくんも入院中なんだから。」

「しくしくしく。これじゃシンジの見舞いにもいけない…。」






教訓:戦争は何も生み出さない。ただ悲しみが残るだけである。

合掌。






NEXT
ver.-1.01 1998+03/30公開
ver.-1.00 1997-11/28公開
ご意見・ご感想は b.cat@104.net まで!!


[後書き]

どうも、B.CATです。

アスカちゃま2』 VSリツコさん編 いかがでしたでしょうか。

これもまたリツコさんへの愛………う〜ん、他の部屋のお話と比べるとまだ壊し方が足りないかな?

では、(たぶん)『アスカちゃま3』でお会いしましょう。B.CATでした。


 B.CATさんの『無敵のアスカちゃま2』、公開です。

 

 不死身のシンジくんの周りは危険がいっぱい(^^;

 暴力的熱愛のアスカちゃん、
 ショタショタミサトさん、
 そしてまた1人・・
 マッドマーダマッディスト、リツコさん・・
 

 なんて強力な人達なんでしょうか(爆)
 

 いかに驚異的な回復力を持つシンジくんと言えども、
 その命は風前の灯火?!
 

 アスカちゃんの愛が献身的になれば・・・無理だろうなぁ(^^;

 ご愁傷様、シンジくん(笑)
 

 さあ、訪問者の皆さん。
 危険な愛を描くB.CATさんに感想メールを送りましょう!


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