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毎朝7時30分、この部屋には天使がやってきます。

栗色の長い髪にサファイアブルーの瞳を持つ、それはそれはかわいい天使です。

でもただ一つ困ったことには、この天使はとっても狂暴だったのです。




「無敵のアスカちゃま」

その名はアスカ!






 






「とっとと起きなさい、バカシンジ!!」

その言葉と同時に少年は宙に投げ出され、そして床に叩きつけられる。

「イタタタ、せめてもう少し優しく起こしてよ、アスカ。」

もう少しとかいうレベルではないと思うが…。

もっとも、話しかけられた少女は真っ赤になって少年のある一点を見つめている。

「………あ!」

時既に遅く、虎をも倒すといわれる必殺のビンタが左頬に炸裂する。

バッチーン!! ズズーン! パラパラパラパラ…

「エッチ!馬鹿!変態!信じらんない!!」

そのまま少女は後ろも見ずに部屋を出て階段を駆け下りていく。

「すぐに着替えて降りてくんのよ!」

でもたぶんシンジくんには聞こえていないと思うよ。壁にめり込んで気絶してるんだから……。











「もう、せっかく起こしてやったのにどうしてまた寝てんのよ!」

結局8時前になっても降りてこないのに業を煮やしたアスカが再び部屋に戻り、壁際で寝ていたシンシを文字通り叩き起こして現在登校路を疾走中である。

まあシンジにしてみれば、『寝てたんじゃなくて、アスカのせいで気絶してたんだよっ!』って言いたいところであろうが、この状況でそんな発言をすればどんな目に遭うか経験上よく判っている。彼に出来ることは、

「……ごめん。」

と謝ることのみであった。

「全く、と、この先は……。」

前に見えるは見慣れた交差点。だがアスカの野生のカンは明確に危険を告げていた。 とっさに横を走るシンジの襟を右手で掴み急ブレーキをかける。右手の方から「ぐえっ」とかいう声が聞こえるが当然無視。

案の定目の前には飛びつくタイミングを外されて転けかける空色の髪の美少女の姿があった。

「ちょっとぉ、危ないじゃないの、アスカ」

「危ないのはあんたの頭よ、レイ!朝っぱらからシンジに抱きつこうだなんて、ちょっとは恥ずかしいとか思わないの!!」

「いいじゃない別に。減るもんじゃなし…って、もうこんな時間!悪いけど先行くわね〜。」

あわてて時計をみるアスカ。時は既に8時25分。

「シンジ急ぐわよ!」











午前8時29分、教師達がいつものように遅刻者をチェックするため校門で待機している。

「そろそろいつもの時間ですな……。」

予想された通り、美少女2人+おまけ1名が土煙を上げて突っ走ってくるのが見える。とりあえず今日は一般の通行人をはね飛ばしたりはしていないようだ。

「「おはようございま〜す。」」

「はい、おはよう。いつも言ってることだけど、もう少し早く来なさいよ」

「「は〜い」」

「……ところで、シンジ君が息をしてないように見えるんだが……」

「「えっ」」

そう、アスカに襟首を掴まれて引きずられてきたため、全身ぼろぼろのうえにしっかり窒息していた。既にチアノーゼを起こしている。

「ちょっとシンジ、死ぬんじゃないわよっ!」











朝のミーティング前の時間、シンジはいつものように彼の親友にして怪しい関西弁を使う謎のジャージメンブラック、鈴原トウジとしゃべっていた。

つい5分前まで亡くなったおばあちゃんとお花畑で会っていたとは思えない回復ぶりである。

「ねえシンちゃん、ほんとに大丈夫なの?」

さすがに心配なのか隣の席からレイがやってきて話しかける。

「うん、大丈夫だよ。いつものことだから。」

「しっかしセンセも毎日大変やの〜。さすがに同情するわ。」

遠くでしゃべっているアスカをちらっと見てからシンジが答える。

「まあしょうがないよ。アスカががさつで凶暴なのは今に始まったことじゃ無…」

「誰ががさつで凶暴よ!!」

どうやらしっかり聞こえていたらしい。

あわてて飛び退いたレイをかすめ、時速100キロで飛来した机が他1名を巻き込みつつシンジを直撃する。なんとかまだ息はあるようだ。

「な、何でワイまで……」











時は流れて昼休み。

アスカの机ミサイルでノックアウトされたにも関わらず、シンジはあっさり10分で回復していた。日夜アスカの攻撃を受けているだけあってシンジの不死身ぶりも人間の限界を遥かに超えているらしい。一方巻き添えを食ったもう1名は未だに保健室のベッドの上である。

「ねぇねぇシンちゃん、一緒におべんと食べよ」

ちなみに、学園でも5本の指に入るアスカの横にいるため目立たないが実はシンジも結構もてる。母親譲りの女性的で整った顔立ちに加えて全国大会クラスのチェロの腕前、更にアスカの虐待にけなげに耐える姿が母性本能をくすぐるらしい。

とはいえ、『歩くN2爆雷』の異名を持つアスカの前でシンジにちょっかいを出そうとする命知らずはほとんどいない。

ところが、1ヶ月前からその難関に敢然と立ち向かうチャレンジャーが現れた。綾波レイの名を持つ転校生である。ノーテンキで恐怖という感情を知らない彼女は、転校初日から格好のおもちゃを見つけたと言わんばかりにシンジにちょっかいを出し、アスカの逆鱗を逆撫でしまくっていた。

「ちょっと、レイ!あんたなにやってんのよ!」

「え〜、一緒におべんと食べよって言ってるだけじゃない」

「それで何でシンジに抱きつく必要があんのよ!」

そう、しっかりレイは後ろからシンジに抱きついていたのだ。

「ちょ、ちょっと、綾波離してよ!」

さすがにアスカの目を気にして叫ぶシンジ。とはいえやっぱり男の子、かわいい女の子に抱きつかれて嬉しくないわけはなく、あまり真剣に外そうとしているようには見えない。それに気づいたアスカの目が一気に険しくなる。

「バカシンジ!にやけてるんじゃないっ!!」

例によって必殺の鉄拳がうなりをあげる。シンジはいつものように微妙に体をずらしてダメージを最小限に押さえようとするが……いつもと違って今回は後ろからしっかりとレイに抱きしめられていた。へたをするとレイにまでダメージが及んでしまう。瞬時にそう判断した結果……

ドグシャッ!!

「きゃ〜、シンちゃんしっかりして〜!」

バッファローを一撃で殴り殺すと言われるほどの衝撃を100%受け止めたため、シンジは4時間にわたり保健室のベッドで過ごすことになった。











「あんな位で4時間も気絶するなんて。鍛え方が足らないのよ!」

「……ごめん。」

いや、シンジだから4時間程度の気絶ですんだのであって、普通の人間ならそのまま三途の川を渡っていてもおかしくないのだが。

心配でシンジの意識が回復するまでずっとつきそっていたアスカだが、シンジが回復したとたんにいつものように当たっている。

だか、さすがのシンジもまだダメージが残っているのか足取りがふらふらしていておぼつかない。アスカもそれに気づくと

「も〜、面倒かけんじゃないわよ」

とか言いながらも肩を貸す。ちょっと照れてるみたいだけど。

でもこう言うときにはお約束が出てくるものなのだ。

「男が女に肩を借りるなんて情けない奴。」

「そんな生っちろい男なんてほっといて俺たちとつきあわねえか?」

この場面で出てくるとは運の悪い男たちである。

「あたしはたった今、とっっっても機嫌が悪くなったわ。覚悟しときなさい。」

「ちょ、ちょっとアスカ、やめようよ…」

怯えたように言うシンジ。もちろんシンジが怯えているのは男たちに対してではない。これからアスカが繰り広げるであろう血の惨劇に怯えているのだ。

「へっ、偉そうなこと言うじゃねえか、お嬢ちゃん。」

だが当然頭の悪いチンピラどもにはそんな雰囲気は判らない。目の前で展開されるであろう凄惨な光景にシンジが絶望しかけたそのとき、シンジとチンピラどもにとって救いの神が現れた。

「てめえら、なにやってんでい。」

「あ、兄貴、この生意気な女が……」

しかし兄貴と呼ばれた男はアスカの姿を見た瞬間、がばっと土下座し額を地面にこすりつけた。

「も、申し訳ございません。姐さんがお怒りになられるのはもっともですが、どうか、どうか平にご容赦を…」

「あ、兄貴、なにを…」

「ばっか野郎!早くてめえらも土下座してお詫びしろ!この姐さんはなぁ、たった一人であの伊吹組を壊滅させたという、惣流・アスカ・ラングレー様なんだよっ!!」

「「げっっ」」

一瞬にしてチンピラ二人の顔が蒼白へと変わる。

「こ、このお人が破壊の帝王と呼ばれる…」

「通った後には廃墟しか残らないと言われるあの惣流・アスカ・ラングレー……」

「ば、ばかっ、おまえらなんてことを……」

アスカが俯いて肩を震わせているのに気づいた兄貴分が慌てて止めるが、時既に遅し……

「あたしはゴジラかなんかかあ〜!!!」

アスカちゃん、暴走。

「あ、アスカ落ち着いて、まずいよ殺しちゃ。」

「あたしの邪魔をするんじゃないっっ!!」

サイをも蹴り飛ばすアッパーキックがシンジのあごに炸裂する。

ドカァッ! ドーン! グシャッ!

「シ、シンジ!死んじゃ駄目よ!」

シンジ君本日5度目の気絶。










目覚めたとき、そこは見慣れた天井だった。

「いったいどうして…」

上体を起こすと全身が激痛に見舞われ、思わず苦痛のうめきが漏れた。

「ごめんね、シンジ。大丈夫?」

聞き慣れた、でも滅多に聞けない涙声。見るとアスカが今にも泣き出しそうな表情でベッドの側に座っていた。

周りを見回すと、そこは見慣れた自分の部屋。時計の針は既に10時を回っている。

「そうか、アスカが家まで運んでくれたんだね。でも6時間近くも気絶してたなんて。なんか全身が痛いし、やっぱりアスカの言うとおり鍛え方が足りないのかな。」

シンジは気づいていない。アスカのアッパーキックで道路に飛ばされた後、偶然通りがかった5tトラックにレシーブされ、更にダンプカーにアタックされたことを。さすがにアスカも慌てて家に連れ帰り手当したのだ。まあ意図した方法とは違うが、アスカがチンピラどもをぶち殺すのを無事防いだといえる。

やっと状況を把握して、ふと見るとアスカがまだ制服のままなのにシンジは気がついた。

「もしかしてずっとついていてくれたの?ごめん、心配かけて。ありがとう。」

「……どうして謝んのよ。なんでお礼なんか言うのよ。」

「……」

「いつもいつもあたしが悪いのに。いつもいつも私のせいで怪我してるのに。なんでいつもなんにも責めないのよ。なんでいつも笑ってられるのよ。」

「……」

「なんでそんなに優しいのよぉ…」

『アスカが泣くのを見るのなんて久しぶりだな…』シンジは思い出していた。『小さい頃、アスカをかばって大怪我したとき以来かな』

「…ねえアスカ」

小さくぴくんとふるえるがアスカは答えない。
「覚えてる?六つくらいの時だったかな。僕が大怪我したとき、『あたし、強くなって絶対シンジを守るから!』って言ってくれたんだよね。アスカが強くなったのは元々僕のためだもの、アスカは全然悪くないよ。」

「…シンジ…」

「それにアスカは本当はとても優しいんだって僕はよく知ってるから。つらいときも、困ったときも、落ち込んでた時もいつもアスカがついていてくれたよね。アスカが幼なじみで良かったって思うときはあっても嫌だなんて思ったことはないよ。」

気がつくとアスカはシンジの優しい笑顔を見つめていた。

「だからさ、笑ってよ、アスカ。僕はあの元気を分けてくれる笑顔が好きなんだ。ちょっとぐらい殴られても、アスカが笑ってくれる方がずっと嬉しいんだ。」

「…うん。」

いつのまにかアスカの顔には笑みが浮かんでいた。シンジにだけ見せるあの笑みが…。

と、次の瞬間シンジはアスカに抱きしめられていた。

「ア、アスカっ?!!」

なにしろグリズリーをも絞め殺すと言われる怪力で14歳とは思えない豊かなアスカの胸に押しつけられているのだ。天国と地獄を同時に味わうとはまさにこのことであろう。

「あたしもシンジの幼なじみで本当に良かった。」

「……ちょっと、アスカ……苦し……」(べきっ、ぼきっ)

「……あのね、シンジ……」

「……助け……」(ばきっ、ごきっ)

「あたし、ずっとシンジに言えなかったことがあるの…」

「………きゅう………」

「あたし、シンジのことが……って、シンジ、シンジ!」

シンジ君、ついに本日6回目の気絶。






   診断 : 胸部複雑骨折  全治3週間






「どうしてこうなるのよ〜!」

シンジ君が死ぬ前に手加減覚えましょうね、アスカちゃん。






(おしまい)


NEXT
ver.-1.10 1997-12/27修正・あとがき追加
ver.-1.00 1997-11/08公開
ご意見・ご感想は b.cat@104.net まで!!

[後書き]

皆様始めまして。B.CATです。

無敵のアスカちゃま』 いかがでしたでしょうか。


ホントはこの話には後書きを付けていなかったんですが、今回バージョンアップしたもんで付け加えてみました。あらためて読んでみると結構恥ずかしいものですね。


ではこれからよろしくお願いします。B.CATでした。


 93人目の新住人です(^^)
 四号館も埋まってきましたね。
 

 その93人目の御入居者、
 B.CATさん、ようこそ(^^)/
 

 第1作『無敵のアスカちゃま』
 

 ア、アスカちゃん・・・つ、強い〜

 組を壊滅させていたとは・・
 

 何だかんだとその鉄拳を受けるシンジくん。
 可哀想です (;;)
 

 超Sクラスの彼女を持つのですから
 このぐらいは許容範囲内?!
 

 もっと体を鍛えないと、
 ラブシーンも満足に出来ないシンジくんは
 やっぱり可哀想ですね(笑)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 新住人のB.CATさんに感想・歓迎メールを送りましょう!


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