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『MAGIからのプレゼント』








猫のイラストの描かれた置き時計が12時の時を告げる。


「30歳の誕生日をMAGIの相手をして迎えるか……今の私を象徴してるわね。」


赤城リツコは疲れたような笑みを浮かべつつ猫の絵柄のコーヒーカップに手を伸ばした。


「結局20代では結婚できなかったわね。」


彼女の数少ない親友である女性のからかう顔が目に浮かび、ため息をつく。




そして、彼女の愛人と言うべき男の顔が浮かび上がってきた。

彼女を欲望の対象とでしか愛さない男、いや本当は欲望の対象とすら見ていないのかもしれない。抱くのは役に立つ道具の使用料、利用価値が無くなればいずれは……。


「わかっているのに……、ホントに男と女の関係はロジックじゃないわね。」


もう一度ため息をつくと、再びMAGIにプログラムを走らせ動作チェックを行う。




カスパー。 バルタザール。 メルキオール。




彼女の母親が作り上げた最高傑作 MAGI system。作成者自身の人格が移植された世界最高の人工知能は、作成者の娘であり最も精通しているはずのリツコですら未だ完全に把握しているとは言い難い。

そう遠くない将来に予想される使徒の来襲に際しては、如何にMAGIを有効に活用出来るかが文字通り生死を分かつだろう。




信じられないような速度でキーを叩く指が動き、目まぐるしくモニターの画面が変化する。

おそらく一般の人間では認識すら出来ないであろう、そんな猛スピードでも赤城リツコの眼は僅かな違和感ですら見逃すことなくチェックを続けていく。


そんな作業を繰り返しているとき、リツコはメッセージが届いているのに気がついた。

本来ならあり得ない話である。MAGIのチェックの間、技術室のシステムは外部と切り離してある。そこにメッセージを送ってくるということは無理矢理MAGIを通じてということになるが……、リツコに気づかれることなくMAGIにハッキングするなど例えMAGIが10台がかりでも不可能だろう。


「これは……バルタザールから?一体どういうこと?」


モニターに写ったのは……彼女がよく知っている、しかし二度と会うことはないと思っていた人物であった。


「……母さん……」


「元気にしてるかしら、リツコ。あなたの30歳の誕生日に私達からプレゼントを贈ります。」


MAGIには確かに人格が付与されているが、自発的意志を持つまでには至っていない。

おそらくこれはリツコの30歳の誕生日に発動するようにプログラムされていたのであろう。


「それにしてもわざわざ30歳の誕生日を選ぶなんて……母さんも底意地が悪いわね。」


「私からのプレゼントは忠告。 『私のようになっては駄目よ。』 おそらく今のあなたにならわかるはずだわ。」

それを告げて映像は消える。


もしかして母にはわかっていたのだろうか?自分の運命を、そして娘が自分と同じ道を歩むであろう事を……。


「でも……もう遅すぎるわ、母さん。」


母の生きていたときには理解できなかった忠告。だが今なら確かに理解できる。だが、彼女はあまりにも知りすぎてしまっていた。もはや逃れることは出来ない、逃げても間違いなく消されるだけ。

そしてなにより……自分はもうあの男から離れられないことをリツコはよくわかっていた。

母の最後の姿が浮かぶ。自殺ということになっていたがリツコには薄々わかっていた。知りすぎた存在、MAGIが完成し利用価値が薄れたが故に処分されたのだろう。

あの母の姿は自分の未来の姿なのかもしれない。




心に立ちこめる暗い思いを振り払い、なおも作業を続ける。




「今度は……メルキオールからね。これは……MAGIの裏コード?!」

しばらくの後、再びMAGIより送られてきたもの、それはおそらく作成者しか知らないであろうMAGIの裏コードであった。おそらくNERVの総司令ですら知らないだろう。

これで男が自分を捨てられない理由がまた一つ増えたわけだ。

「ありがたく頂戴しておくわ、母さん。」




その後も作業を続けるリツコ。しかし、残るカスパーからは結局何も送られてこなかった。






その日リツコは久しぶりに家に帰った。

友人が誕生祝いに飲みに行こうと誘ってくれたが、ありがたく遠慮しておく。からかわれるのが目に見えていたし、何より久々に愛人と『男』と『女』として会える日だからだ。


「わざわざ誕生日に食事に誘ってくれるなんて……、少しは気にかけてくれているってことかしら。」


わかってはいるのだが高揚する気分を押さえることは出来ない。


家に入る時、小さなプレゼントの包みが郵便受けに入っているのに気がついた。見ると送り主は <カスパー> となっている。MAGIならば確かに店にアクセスし、任意のプレゼントを探しだして家に送ることも可能だろうが……遠い過去からこのような芸当を可能とする母の腕に改めて畏敬の念を覚える。


包みを持ち家に入る。シャワーを浴びようと思うが、やはりカスパーからの贈り物が気になる。他の物と違いわざわざ物を送ってきたというのが引っかかるのだ。


包みを開けると…………、リツコは笑いが止まらなくなった。

やはり母は最後まで『女』であったのだ。

全てわかっていたのだろう。自分がいずれ用済みとなり男に消されるということも、娘を自分の代わりとして男が抱くであろうということも。

自分を捨てた男への、ささやかな、本当にささやかな復讐。

「……いいわ、のってあげる、母さん。」

念入りにシャワーを浴び、身支度を整える。20代ではなくなったとはいえ、自分でも十分に魅力的と思える姿が鏡に映る。化粧をし、そして最後に母からのプレゼントを塗る。




男に会いに行く彼女の唇には、紫色の口紅が塗られていた。




(fin)


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ver.-1.00 1997-12/11 公開
ご意見・ご感想は b.cat@104.net まで!!

[後書き]

『MAGIからのプレゼント』 いかがでしたでしょうか。

母親、科学者、そして女…、それぞれの母からの思いを込めたプレゼント。うまく描くことが出来ているでしょうか?

しかしこの話を3週間前に思いついておけばタイミングがぴったりだったのに。既にリツコさんの誕生日が過ぎちゃってる。『後の祭り』と言う奴ですね。

さて次回はたぶん『アスカちゃま』になると思います。そろそろレイちゃんの話も書きたいだけど……。

では、B.CATでした。


 B.CATさんの『MAGIからのプレゼント』
 

 キリスト生誕の際に3人の賢者は
  貴金属・薬・   後もう一つ送った物はなんでしたっけ(^^;

    今さっき「TVチャンピオン」で見てパクろうとした知識・・・
    10分やそこらでもう忘れている自分が情けない(^^;;;;
 

 

 賢者達の名を冠したスーパーコンピュータから、
 そのコンピュータの制作者から、

 実に気の利いた
 とてもしゃれた、
 ピリッと毒気のある、

 プレゼントでした(^^)
 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アイデア溢れるB.CATさんに感想メールを送りましょう!
 

 

 

 

 

 3賢者からのもう一つのプレゼントは”香油”でした。
  もう一回言ってくれた「TVチャンピオン」さんありがとう(^^;
 

 

 ここまで書いて気が付いたのですが・・
  ”3賢者からの云々”はクリスマスのことでした(爆)


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