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「…今更何言ってんのよ。最初に言ったでしょ、このドイツが誇る若き天才、惣流・アスカ・ラングレーが来たからには必ず何とかなるって。」
病院の廊下を足早に歩く二人。
右側を歩くのは柔らかな金色の髪とサファイアの瞳を持つ白衣の女性。7年の歳月は美少女を順当に美女へと成長させたようだ。
「うん、そうだったね。アスカが来てくれたから全てうまくいったんだ。まさにアスカは僕らにとって幸運の女神というところだね。」
左側を歩くのはどこか中性的な印象を与える青年。身長はかなり高くなったが顔立ちは7年前とあまり変わっていない。そのため、本来は青年と呼ぶべき年齢なのだがむしろ少年の様な印象を受ける。
「そうよ、全てはあたしのお・か・げ。アンタはいくらあたしに感謝しても感謝しすぎるって事はないんだからね。だから、一生あたしへの恩義を忘れずに忠誠を尽くすのよ!」
「……あはははは。」
さすがにひきつった笑いを浮かべるシンジ。
「……でも本当に感謝してる。半分あきらめていたから、あのとき。アスカが来てくれなかったら、たぶん……だから、本当に、ありがとう、アスカ。」
そういって柔らかな笑みを浮かべるシンジにアスカはちょっと頬を赤らめる。
「そ、そんなに礼を言われるほどの事じゃないわよ。あたしは借りを返しただけなんだから。そんなことより、ちゃんと約束守ってたんでしょうね。」
その言葉にシンジはちょっとすねたような表情を浮かべる。
「守ってるよ、だからわざわざアスカを迎えに行ったんじゃないか。僕だって早く抱きたいんだからね。」
会話の間もずっと早足で歩いていた二人の歩みが個室の前でようやく止まる。その病室のネームプレートには『碇レイ』と記されていた。
「お待たせっ、レイ!」
病室の中では光の加減で空色に映える銀髪にルビーの瞳、透き通るほどに白い肌の女性が赤ちゃんに胸を含ませていた。小柄で細身のためかこの女性もどこか少女じみた印象を与える。
「あ、ごめん。ちょうどお食事の真っ最中だったのね。」
「…ううん、ちょうど終わったから。」
おっぱいから口を外した赤ちゃんの背中を軽くトントンと叩いてやるとクプッと可愛らしい声を上げた。愛おしそうに赤ちゃんをなでてやるレイ。
「ねぇねぇ、男の子なの?女の子なの?」
「女の子だよ。」
興味深そうに見つめるアスカ。その前に赤ちゃんが突き出される。
「はい、約束だから。」
アスカが二人と交わした約束、それは真っ先に(まあレイはしょうがないにしても)赤ちゃんを抱かせてもらうという、シンジにとっては意地悪な約束だった。律儀なシンジはしっかり守っていたのだが、アスカがなかなか来ないおかげで午前中ずっとお預け状態だったのだ。
いつも強気のアスカにしては珍しく恐る恐ると言った感じで手に取り抱き上げる。赤ちゃんは最初ジッとアスカの顔を見つめていたが、安心できる人間と思ったのか、お腹がふくれたためか次第にウトウトとしてきたようだ。その顔を微笑みながら見つめるアスカ。最初は恐る恐るだったのも今ではしっかりと抱き上げている。
「名前はもう決めたの?」
「うん、アヤナにしようかと思ってる。」
「ふ〜ん、無くなったレイの名前からもらったって訳ね。良かったわねぇ、愛されてるじゃない、レイ。」
「……そうね。」
アスカは、答えたレイがちょっと嬉しそうな、悲しそうな、妬ましそうな、そんな複雑な表情をかすかに浮かべているのに気がついた。
「?」
しばらくレイの顔を見つめていたアスカに突然レイが尋ねた。
「アスカ、今でも子供は欲しくない?」
「……正直に言うとまだ少し不安はあるけどね、やっぱりママのことが頭にあるから。でも……欲しいかどうかって言えば欲しいかな。リツコやアンタ達を見てると最近そう思えるようになってきた。でも、相手がいないとね〜、誰かさんはあたしを選んでくれなかったし。」
そういってシンジの方を見る。
「いや、その……ごめん。」
「バッカねぇ、自惚れるんじゃないわよ。冗談よ、冗談。アンタなんかよりもず〜と頭が良くてず〜とかっこいい相手じゃないとあたしには釣り合わないわよ。」
「あはは、そうだね。……でもさっきアヤナを抱いている姿を見てたらアスカって結構『お母さん』が似合ってると思うよ。たぶんレイもそう思ったからさっきみたいなことを聞いたんだと思う。」
それを聞いてアスカが微笑む。
「そ、アリガト。……じゃ、あたしそろそろ行くわね。」
「……もう行くの?」
「世界でも指折りの遺伝子工学者ともなると黙ってても勝手に仕事が増えていくのよ。あたしがいないと出来ないことも多いし。仕事が終わってからまた来るわ、レイ。じゃ、シンジ、お待ちかねの赤ちゃん。十分に抱き心地を堪能しなさい。」
赤ちゃんを受け取るシンジ。思いきり待たされただけあって本当に嬉しそうだ。
「じゃあね、シンジ、レイ。」
「また夕方、待ってるからねアスカ。」
「……またねアスカ。」
階段に向かう途中、アスカは親子連れに出会した。30代後半の男性だが遅くに生まれたのか4、5歳くらいの女の子を連れている。
「おや、アスカ来てたのか?」
「ホントは仕事が終わってから来るつもりだったんだけど、シンジの奴がうるさくって。しょうがないからちょっとだけ仕事を抜け出してきたのよ。」
「本当にあの約束を守らせてたのか。シンジくんも可哀想に。」
「こんないい女を振ったんだからそれぐらいは我慢してもらわないとね。あ、ついさっきお食事が終わったところだからアヤナちゃん今は寝てるかもしれないわよ。」
「おや、もう名前決まったのか?」
「え、あ、そっか、まだ聞いてなかったのね。あはは、加持さん、悪いけどあたしが言ったってことは内緒にしといて。ミサトちゃんもね。」
そのミサトちゃんはというと、恥ずかしいのか加持の後ろでズボンをつかんで隠れている。その背中を加持が軽く押す。
「ほら、ミサト、アスカお姉ちゃんに挨拶しなさい。」
「……こんにちは、アスカおねえちゃん。」
「はい、こんにちは、ミサトちゃん。」
ちょこちょこと出てきて挨拶したミサトちゃんだが、アスカがにっこり笑って挨拶を返すとやっぱり恥ずかしいのかすぐに加持の後ろに隠れる。しかし、アスカの方をちらちら覗いているところを見ると恥ずかしいだけで嫌っているわけではないようだ。
「ホントにミサトちゃんて照れ屋さんね。いったい誰に似たのかしら。」
「まあ、一番面倒見てくれてるのがシンジくんとレイだからなぁ。そんなことより、もう帰るのか?お茶ぐらい一緒に飲んでいけばいいのに。」
「なぁに、加持さんの今度のターゲットはあたしってわけ?」
「美人をお茶に誘うのは男の礼儀ってもんだろ。」
「加持さんに誘って貰えるのは光栄なんだけど今回は遠慮しとくわ。ちょっとやっておかないといけないこともあるし。」
ずっと笑っていた加持の表情がまじめなものに変わる
「レイにまだ問題が?」
「あ、ううん、そういう訳じゃないの。ただ、今回の遺伝子治療は前例のない奴だから、赤ちゃんの方も一応調べとかないと……。これ、二人には内緒よ。」
「ああ、わかってる。じゃ、すまないがよろしくな。」
「じゃあね、加持さん、ミサトちゃん。」
階段に出る。下に降りるつもりだったがちょっと気を変えて屋上に上がる。
屋上に上がると空には雲一つ無い青空が広がっていた。
アスカはこの青い空が好きだった。
あの日の後ほとんど日の射すことのなかった世界。
相変わらず無益な争いを繰り返す人間達。
自分たちのやったことは何だったのか、自分たちの選択は誤りだったのではないか、そんな想いが浮かぶこともあった。
だがやっと時折見られるようになったこの青空を見ると、自分たちは世界を救ったんだという実感がわいてくる。
アスカは空に向かって大きく伸びをした。
感じているのは例えようのない満足感。
誰よりも幸せになるべきだった友人達がやっと得られた幸せ、
自分がそれを友人達に与えることが出来たという喜び、
そして何よりもそれを素直に喜べるようになった自分が嬉しい。
「さ、今度はあたしの幸せを探さなくっちゃね!」
(fin)
[後書き]
最初にお詫びを。すいません、前回予告をはずしました。『4』が全然進まない(笑)。
さて、『青い空の下で』 いかがでしたでしょうか。
この話は一応『暗き道の向こうに』の後日談にあたりますが、たぶん読んでなくても問題ないでしょう。むしろ読んでいた方が訳が分からなくなるかも(笑)。アスカを書きたかったので、あれからどうなったかの説明をあえてカットしてますから。まあヒントは適当に放り込んでおきましたので興味があるという奇特な方は考えてみてください(笑)。“その日の後”のお話、他にもいくつか書いていくつもりですから。
少しまじめな話を。
本編では他人を傷つけることを厭わない、むしろ故意に他人を傷つけることで自己を保とうとする、最後にはそれ故に自分をも傷つけ壊れていく存在として描かれていたアスカ、正直見ていて辛かったんですよね。
というわけでこのような話となりました。救われるのではなく救う、過去を捨てるのではなく乗り越える、他人の不幸ではなく幸せを己の喜びとする、そんな私なりの強いアスカを書いてみたのですがどうでしょうか?
さて次回は……未定(笑)。どれが先に出来上がるか自分でもよくわからない。年内にもう一本はアップしておきたいと思いますが。
では、B.CATでした。
B.CATさんの『青い空の下で』、公開です。
アスカちゃん・・・
強くなったね(^^)
シンジとレイを
その子供を
その子供を抱くシンジを
優しい気持ちで見つめるアスカ・・・
強くなったね。
早くアスカちゃんの子供を・・・・
見たいような見たくないような・・・・
だってシンジくんはすでに別の女性と・・だから、
アスカちゃんの子供の親は・・・
LAS人としては辛いところだ(爆)
さあ、訪問者の皆さん。
私にジレンマを起こした(^^;B・CATさんに感想メールを送りましょう!
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