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西暦2008年。
真っ白な雪が降り積もる冬の日。
今、その降りしきる雪の中をただひたすらに走る少女がいた。
「ママ!」
その少女の名は惣流・アスカ・ラングレイ。
紅い髪、蒼い眼、利発そうな顔立ちをしたまだ幼い少女。
この時わずか6歳。
少女が目指している場所はゲヒルン研究所付属病院。
彼女の母、惣流・キョウコ・ツェッペリンが運び込まれた場所。
この日、ゲヒルン研究所である実験が行われた。
被験者は研究主任でもある惣流・キョウコ・ツェッペリン。
既に日本で行われ、そして失敗に終わった危険な実験。
研究主任であるキョウコが何故そんな危険な実験の被験者に志願したのか、その理由は誰にも判らない。
多くの反対意見にも関わらず実験は強行され……そして再び失敗した。
「ママ!」
看護婦達に怒られながらも、ただひたすらに病院の廊下を走り続ける少女。
彼女が向かっているのは3階の一番西端の病室。
彼女の母が運び込まれた部屋。
「ママ!」
事故が起こり母が病院にかつぎ込まれたという事を聞き、押しとどめる祖父母の静止を振り切ってここまで走ってきたアスカ。
ただひたすらに走り続け……ようやく目的の病室にたどり着く。
部屋のプレートには『惣流・キョウコ・ツェッペリン』の名。
それを確認しドアを開ける。
「ママ、大丈夫!?」
だがそこでアスカが見たものは……精神汚染され、変わり果てた母の姿であった。
病室内。
ベッドの上には上半身を起こし、人形を抱いているキョウコ。
「……ママ?」
人形に話しかけているキョウコ。
「いい子ね、アスカちゃん。」
「ママ、それはアタシじゃないわ。」
キョウコは人形に微笑みかける。
「いつも構ってあげられなくてごめんね、アスカちゃん。」
「ママ、アタシはここよ。」
キョウコはアスカの方を振り向かない。
「今日からしばらく休みが貰えるんだって。久しぶりに一緒にいられるわね。」
「ママ、アタシを見て。」
キョウコが見ているのは人形。
「今晩はアスカちゃんの大好きなチキンのクリームシチューを作ってあげるわね。それともビーフシチューが良い?」
「ママ……」
そんな母の姿を見つめるアスカ。そして……
「メガネを掛けんかい、このド近眼!」
「えっ?」
スチャッ
「ああっ、どうしたのアスカちゃんこんなに小さくなっちゃって!」
「それは人形だぁ!」
「そ、そんな、アスカちゃんが人形になっちゃったなんて……神様、これが私がアスカちゃんを放っておいた報いだとでもいうのですか!?」
「人間が人形になるかぁ! アタシはこっちよ!」
「えっ? ああっ、アスカちゃんがそっちにも! そんな、勝手に二人に分裂するだなんて……ママはアスカちゃんをそんな風に育てた覚えはないわ!」
「人をアメーバみたいに言うなぁぁ! だから本物のアスカはこっち! アンタの手元にあるのは人形だってさっきから言ってるでしょうがぁ!!」
「えっ、そっちが本物のアスカちゃんでここにあるのは人形? っていう事は……
はっ、もしかしてこれが噂に聞いた“忍法変わり身の術”!? アスカちゃんの中に眠っていた日本人の血が遂に目覚めたのね。これぞまさに東洋の神秘! アンビリーバブー!!」
「アホかぁぁ! アンタが初めから間違ってるだけだぁ!!」
「……」
「……」
「えーと…」
「……」
「その…」
「……」
「……」
「……」
「アスカちゃん、ママと一緒に死んで頂戴っ!!」
「訳の判らん誤魔化しかたをすんなぁ!!!」
かくして、惣流・アスカ・ラングレイはわずか6歳にして自分一人の力で生きていくことを決意したのであった。
「一人で生きるだなんて……アスカちゃん駄目よ、そんな悲しいことを言っては。」
「誰のせいだと思っってんのよ(怒)!!」
(おしまい)
[後書き]
超短編 『母娘の形』 いかがでしたでしょうか。
反則気味に短いですが……復活のためのリハビリと言うことで。
この作品のテーマは“愛”です(おい)
惣流親子の深き愛の交流、そして私のキョウコさんに対する果てしなき愛をどうか感じ取って下さい(笑)
ではB.CATでした。
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