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セラフの舞う瞬間

第6話 「大切な現実」


Written by Zenon





   フンフン・・・フンフンフーン・・・フンフンフン



「これでどうかな?」



やけに楽しそうな声が部屋に響いた。

鏡の前に立ち、自分の姿を入念に確かめている女性。

鏡の中の自分に向かって軽くウインク。



「OK!!これでシンジもメロメロねぇ〜・・・ん?・・・あぁ〜!!ここ曲がってるじゃないの!!」



部屋の主の惣流・アスカ・ラングレーは、まさにドレスアップの最中である。

何度も何度も鏡を見ては気になるところを直し、そして新しい服に着替え直す。

アスカはそんな嬉しい時間の中にいた。



女性に言わせれば、この時間は最も嬉しく、最も気を使い、最も自分が綺麗になれる時間と感じるらしい。



アスカの外見は4年前と比べ、それほど変わっていない。

アスカは元々大人びた雰囲気を持っていたので、変わって見えないのだ。



唯一変わったのは、髪型である。

アスカ自身は「訓練に邪魔だったからよ」と言っている。

実際は変化の少ない自分が嫌になり、長かった後ろ髪を肩の長さで切り揃えたのだが。



しかし、その髪を切り揃えたアスカは、より活発なイメージが強くなった。

そのイメージは「素敵なキャリアウーマン」という様な感じだ。



アスカは結果オーライでこの髪型を気に入っていた。



「うぅ〜〜ん・・・・・・困ったわね。着ていく服がないじゃないの・・・」



アスカの足下には、すでに多くの服が散らばっている。

しかも今日、すでに袖を通している。

アスカは約45分間もこんな事を繰り返していた。



「ホントにアタシって服の種類が少ないわねぇ〜」



部屋を見渡しながらそう言う。



「今度いっぱい買っちゃおう!!もちろんシンジに持たせて、その後はお礼にデートでも・・・・・・げっ!?」



アスカの視界に壁掛け時計が入ったのだ。

その時計は自分が予想していた時間よりも30分は進んでいた。



「やばい!!・・・どれにしよう・・・・・・えぇ〜〜い、これでいいや!!」



結局アスカは、一番最初に試した赤を基調としたやや大人し目のドレスを手に取った。

そして烈火の如き速さで着替えを済ませた。

そしてまた鏡の前に立ち、軽くウインク。



「OK!!これでシンジもメロメロねぇ〜」



先ほどと同じセリフを繰り返しながら、アスカは颯爽と部屋を出た。



「お待たせ〜、行くわよ、シンジ!!」

「・・・・・・」



リビングに戻ってきたアスカを待っていたものは、ソファーに横になって完全に眠り込んでいるシンジの姿だった。

それを見てアスカはピクッと反応した。



シンジの外見は全くと言っていいほど変わっていない。

しかしシンジの場合は、内面的な部分の変化の方が大きい。

元々物静かな雰囲気を持っていたシンジだが、今ではそれに加えて優しさ溢れる雰囲気が加わっている。



カヲルと似ているが、彼の様な何か近寄りがたい雰囲気ではなく、周りの誰もが安心できる不思議な雰囲気である。

それはまるで外見以上にシンジが成長した事を物語っているようだ。



「・・・・・・」



アスカはシンジの顔の方に立って、その寝顔を見る。

シンジは幸せそうに眠っている。

アスカは思い切り怒鳴るかと思いきや、そのままジッとシンジを見つめた。



『疲れてるのね・・・・・・長旅の後に、まだ日本に帰って来たところだから・・・』



しばらくその寝顔を見ていたアスカは徐々に赤くなる。

そしてゆっくりと目を瞑って自分の顔をシンジの顔に近づけていった。



しかし・・・



「アスカァ〜!!早くしなさ・・・・・・あっ・・・・・・」

「ミ・・・ミミミ・・・ミサト!!・・・・・・」



突然リビングに入ってきたミサトは、アスカのその行為をバッチリ目にした。

アスカはただ慌てている。

しばらくしてミサトはニヤニヤしながらも、アスカに近づいていて言った。



「アスカ、時間ないわよ。早く支度しなさい」

「う、うん」



ミサトが特に何も言わなかったので、アスカはホッとした。

しかしその瞬間、



「アスカ、相手が寝てるのにそんなことしちゃ駄目よ?」

「なっ・・・う、うるさいわね!!アタシの勝手でしょ!!」

「相手の同意も大切よ?」

「失礼ね!!アタシ達は・・・」

「なになに、アタシ達は!?・・・その続きは?」



ミサトは目をランランとさせてアスカに詰め寄った。

アスカは自分の失言に後ずさる。



「うっ・・・ミ、ミサトに言う事じゃないのよ!!」

「・・・うるさいなぁ・・・」



その大きな声にシンジがようやく起きた。

シンジは完全な時差ボケである。



「元はと言えば、シンジも悪いのよ!!そんなところで寝てるから!!」

「・・・・・・は?」

「あははははは!!」



ミサトはアスカの無茶苦茶な理論が分からないと言ったシンジの顔に大笑いした。





今日は別にシンジとアスカのデートの日ではない。

シンジ達のドイツ出張組が無事帰ってきたために、知り合いを集めてのパーティーだったのだ。

シンジも日本のみんなと会うのは、久しぶりだった。



『みんな変わってるかな?・・・トウジとケンスケは変わってないだろうなぁ・・・』



「ねぇ、碇君。今日は誰が来るの?」

「あれ?・・・レイは聞いてないの?」

「うん。知らない」



今、シンジ達はパーティーが行われるレストランに向かっている最中だった。

レイはシンジのマクラーレンF1の後部座席の1つに座っている。

隣にはアスカ、運転はシンジである。



この4年間で一番誰が変わったかと言えば、間違いなくレイだろう。



今のレイは髪を肩の長さくらいまで長く伸ばしている。

レイは髪をただ伸ばしているだけなのだが、少し癖のあるレイの髪はそれでも素敵な髪型になった。

今は自然なシャギーになっている。



レイは外見も変化が大きいが、内面の変化はもはや『革命』に近かった。



今まであまり人とも喋らずにいたレイだが、今はよく喋って笑う。

表情も生き生きとして、誰でもレイの純真な心に触れると感動さえ覚えた。



しかしドイツではそんなレイの人気は凄まじく、アスカを越えたとさえ言われ事もあったのだ。



「えっと、ネルフのみんなにトウジ、ケンスケ、委員長に僕たちかな」

「トウジ君達も来るのね」

「うん。あの3人こそ、本当の3年半ぶりの再会だね。父さん達は忙しくて来れないみたいだけどね」

「鈴原に相田はどっちでも良いけど、ヒカリには会いたいわね」

「あっ、それ酷いよ。アスカ」

「あはは、冗談よ」

「ふふふ」



3人がそんな会話を交わしていると、やがて会場のレストランに到着した。

つい最近出来たという大きなタワーだった。



「へぇ〜、こんなタワーが出来てたのね」

「大きいね、碇君」

「うん」



しばらく遅れて、ミサトのルノーがシンジ達の後ろに止まった。

そしてそこからは女性の魅力溢れるドレスに身を包んだミサトと、珍しくそれに見合う格好をしている加持が降りた。



「ホントにここなんですか?ミサトさん」

「そうよ。ここの最上階の回転レストラン『FREEDOM』に集合って言われたんだけど」

「・・・これじゃないの?」



アスカが見つけたタワー内の図を見ると、そのタワーには確かにその名前の回転レストランがあった。



「間違いないわね。・・・じゃあ、行きましょ」

「おい、葛城」

「何?」

「この格好疲れるんだがなぁ」



加持が自分の格好に文句を言った。

どうやら加持が自分で選んだ物ではないらしい。



「なに言ってんのよ。妻のアタシに合わせるのが、夫のアンタの仕事でしょ」

「いや・・・しかしなぁ」

「う・る・さ・い」



ミサトは、丁度2年前に加持と結婚していた。

名前は変えていないが、2人は正真正銘の夫婦である。

ちなみにネルフの面々はこの事を知らない。

ミサトは今日突然その事を言って、みんなを驚かすつもりなのだ。



「さあ、文句言わずに入るのよ!!」

「おい、葛城・・・」



シンジ達3人はミサトと加持のそんな姿を見て、笑いながらタワーの中に入った。





「久しぶりに会ってみるとお前ら変わったのう」

「そうそう。特に綾波が」

「確かにレイは変わったね」



パーティー会場のやや端でシンジはトウジ、ケンスケと話していた。

しかし久しぶりに会うトウジとケンスケも、予想より変わっていた。



「そうそう、それや。センセも綾波の事を名前で呼んどる」

「シンジも変わったって事か」

「そうかな?トウジとケンスケも変わったよね」

「そうか?」



シンジはトウジを見て、少し笑ってしまった。



「だって、トウジは絶対にジャージで来ると思ってたのに」

「だ、誰がパーティーにまでジャージ着て来る奴がおんねん!!」

「シンジ、シンジ。でも、普段はやっぱりジャージが多いぞ」

「やっぱり?」

「こぉら、ケンスケ!!余計なことぬかすな!!アホ!!」



シンジとケンスケが笑うのを、トウジは不機嫌そうに見ている。

ケンスケもシンジが笑うのが分かる気がする。

何とトウジがビシッと決めたスーツだったからだ。

しかも、結構似合うところが逆に笑えた。

ケンスケもそうだが、こちらは普通だ。



「しかし、さっきの『結婚しました』には驚いたのぉ〜」

「うう・・・ミサトさんがお嫁に行ってしまったぁぁ〜。グス・・・・・・」

「僕は当然の結果だと思ったけどね。でも、初めて結婚のことを聞いたときはビックリしたよ。突然だったから」



ケンスケは憧れのミサトが結婚してしまった事にかなりのショックを受けていた。

それでも心からミサトを祝った所などは、ケンスケらしい優しさだ。



「後は子供でも出来よったら忙しなるでぇ〜」

「ミサトさんが一児の母に・・・・・・想像できないな」

「えっ?・・・もういるけど」

「「えっ!?」」



驚きのあまり、トウジとケンスケの顔から表情が無くなった。

しばらく会話が止まる。

トウジとケンスケはお互いの顔を見合わせて、口をパクパクさせた。



「ほんまか、シンジ!!」

「う、嘘だろ!?」

「本当だよ。今はもうマンションで寝てるんじゃないのかな?」

「・・・・・・ほんまかぁ・・・それで、名前はなんちゅうねん」

「『葛城サトミ』。1歳半の女の子」

「旦那の名前は入っとらんのか?」

「うん。男の子だったら『加持』。女の子だったら『葛城』って決め手たみたいだよ。サトミちゃんていう名前は加持さんが付けたんだ」

「・・・しかし、驚いたの〜」



トウジは驚きを隠せない。

ケンスケはさすがに効いたのか、現実から逃げて無言で酒に走っていた。



ミサトと加持の結婚は、いわゆる『出来ちゃった結婚』だった。

婚約発表から半月後にはもう結婚式というスピード結婚だった。



「その事で面白い事が分かったんだ」

「なんや?」

「実はミサトさん子煩悩だったらしくて、毎日加持さんとサトミちゃんを取り合ってるんだよ。今じゃあ、ビールも止めて料理も勉強して良い母親だよ」

「ほぉ〜〜!!人は見かけに寄らんの〜」



「やけに楽しそうじゃないのぉ」

「あれ?相田君は?」



そこにアスカ、ヒカリが話に入ってきた。



アスカは赤い顔をして、手には日本酒を持っている。

かなり酔っている様子だ。



「何を話してたのよぉ」

「ミサトさんのこと」

「ミサトォ?・・・パーティーに来てまで話すことないじゃな〜い。ははは」

「・・・飲み過ぎだよ、アスカ」



アスカはケラケラ笑いながら、シンジにしがみつく。

完全に出来上がっている。

トウジはそんなシンジとアスカを見て、例のごとくからかいだした。



「そういえば、お前らはその後どうやねん?・・・将来でも約束したんか?」

「な・・・な・・・」

「その辺は私も興味あるわ」

「い、委員長まで何を言ってるんだよ!!」



トウジは分かるが、今回はヒカリもからかいに参加した。

シンジは赤くなりながら反論をした。

いつもならシンジと同じく言い返すアスカだが、今はいつもと違って意味ありげにニヤリと笑った。



「・・・シンジ。隠さなくてもいいわよ。どんどん言っちゃいなさい!!アタシ達の愛の軌跡を!!」

「はぁ?・・・酔いすぎだよ、アスカ」

「酔ってなんかないわよ!!言うからね、アタシは!!・・・そう、あの時のシンジは素敵だったわぁ」



アスカの爆弾発言に3人は固まった。

当のアスカは、あさっての方向を向いて瞳を潤ませている。



「「えぇーーーーーー!!!」」

「ちょっと待ってよぉぉーーー!!」

「だってとっても優しかったんだもん・・・・・・アタシ、感動しちゃった」

「シンジ・・・・・・良かったなぁ」

「・・・・・・まぁ、アスカと碇君なら当然そうなるよね」

「ふ、2人とも違うんだって・・・・・・何をデタラメ言ってるんだよ、アスカ!!」



シンジのその声にアスカはシンジを睨み付けた。



「何がデタラメよ!!アタシはホントに嬉しかったんだからね。・・・・・・今まであんなに大きなハンバーグ作ってくれたことないじゃない!!手早く出される料理・・・シンジのエプロン姿・・・素敵だったわ・・・ふふふ」



「「「・・・・・・・・・」」」



アスカは完全に酔っていた。





パーティーはおよそ2時間ほどで終わりを迎えた。

多くの者はパーティーが終わると同時に帰っていったのだが、なかなか帰れない者が2人いた。

シンジとアスカである。

シンジはアスカの酔いが酷いために、少し休ませてからでないと動かせないと判断したのだ。

レイも知らない間に大量の酒を飲んでおりへべれけになっていた。

それに見かねたミサトと加持が、すでに先に連れて帰っている。



シンジはアスカを休憩室で30分ほど休ませて、今ようやく帰る所だった。



「ほら、ちゃんと歩いてよ。アスカ!!」

「う〜〜ん・・・」

「だから言ったんだよ。飲み過ぎだって・・・」



シンジはもたれ掛かるアスカを必死に支えている。

酔いすぎたアスカは、そこらの酔っぱらいと変わらない。

しかしそれでも上気した顔が美しく見えるのは、さすがと言うべきか。



今回は車で来ていたために飲んでいないが、シンジは意外と酒に強い。

そんな風に見えないのだが、ウイスキーを好んで飲んだ。



「うぅ・・・・・・シンジィ〜・・・・・・吐きしょ〜」

「ち、ちょっと!!やめてよ、アスカ!!」

「へへへ・・・・・・嘘よ、嘘・・・ははは」



アスカは真っ赤な顔をしてフラフラと歩き出した。



「倒れるよ、アスカ!!」



シンジは倒れそうなアスカを再び支える。

先ほどからシンジは、アスカの身体の温もりを感じて赤くなっていた。

酔っているからとは分かっている。

だがそれでも赤い顔をして、潤んだ瞳をしてもたれ掛かってくるアスカに赤面してしまう。



『アスカって、小さいんだな・・・こんなに弱々しかったなんて知らなかった』



一方、シンジに支えられたアスカは、安心しきった顔で微笑んでいる。

その顔は幸せの絶頂にいるような表情だった。



・・・しばらくの静寂が2人を包み込む。



やがてアスカがゆっくりと瞼を閉じて語りだした。



「・・・シンジはいつも支えてくれるね・・・」

「えっ?」

「アタシが倒れそうになったら、いつもシンジが支えてくれる。・・・だからアタシは無茶できるのよ」



アスカは再び目を開けると、シンジをまっすぐ見つめてその胸に顔を埋めた。



「アスカ・・・」



シンジは少し戸惑いながらもアスカの肩をしっかりと掴んだ。



それを感じたアスカは再び瞼を閉じ、自分の耳をシンジの胸に軽く押しつける。



   ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・



「シンジの心臓の音が聞こえるよ」

「・・・アスカのも聞こえる」

「ホント?」

「うん」



再び2人は黙って抱き合った。

アスカにはシンジの鼓動に合わせるように鳴る、自分の鼓動が確かに聞こえた。



   ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・



2つの鼓動は同じリズムを刻み、共鳴し合うように鳴り合った。

シンジとアスカはそれを感じると自然と嬉しくなった。



「僕たち、一緒に生きてるんだね」

「そうよ。・・・一緒の時間を生きてるの」



再び静かになる。

シンジは静かに微笑んだままだが、アスカはシンジの次の言葉を待っていた。



しかしじっとシンジの言葉を待つが、シンジの口からは何の言葉も出なかった。

少しガッカリしながらもアスカは顔を上げ、シンジを見つめた。



「きっと勝とうね、シンジ。・・・・・・使徒になんて負けてられない・・・・・・」

「うん・・・負ける気なんてないよ。こうしてやっとドイツから帰って来れたんだからね」

「アタシ達の大切な現実を失うわけにはいかないもん・・・・・・」

「・・・・・・」

「アタシには・・・・・・今、この瞬間が・・・全てだから・・・」



アスカは一呼吸おいて、シンジの胸にもたれ掛かった。



「シンジ・・・・・・シンジにとってアタシは・・・どんな存在なの?」

「・・・えっ?」

「言って欲しいなぁ。・・・・・・アタシは・・・あんまり待てないよ・・・・・・」



アスカはそう言って微笑むと、また静かに瞼を閉じた。

シンジはそんなアスカを見て戸惑った。

アスカが自分のどんな言葉を待っているか分かったから・・・



「それは・・・・・・その・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・?・・・・・・アスカ?」

「・・・すう・・・・・・すう・・・」



アスカはシンジに抱かれたまま寝てしまった。

よほど居心地が良かったのか、まるっきりそのままの体勢で寝付いている。



シンジはそんなアスカを見て優しく微笑むと、アスカを抱き上げて自分の車の方に歩き出した。





   ガチャ・・・



扉を開けて中を見ると暗闇だった。

シンジは手探りで部屋のスイッチに手を伸ばす。

ようやく手が届いた。



「ふう・・・よいしょっと」



シンジはアスカを抱えたまま、アスカの部屋に入った。

そして優しくベッドに横たえる。

アスカは気づきもしないで幸せそうに眠っていた。



時折、アスカは寝言でシンジの名前を呼んでいる。

それを聞く度にシンジは嬉しいような、不思議な気になった。



『・・・・・・アスカは僕の事をどれくらい思ってくれてるんだろう?・・・』



シンジは立ち上ったままベッドのアスカを見つめた。



『さっきのアスカの言葉・・・・・・僕の気持ちはどうなんだろう?』



シンジは自問した。

自分の気持ちは分かっていた。



『僕はアスカが好きだ。・・・・・・これだけは嘘でも誤魔化しでもない。本当のこと・・・』



しかし、今はまだそれを言うべき時では無いような気もしたのだ。



『まだ僕たちには、もう少し足りないものがある気がするんだ。何かは分からないけど・・・』



シンジがアスカの部屋の扉に手をかけて部屋を出ようとした瞬間、アスカがまたシンジの名を呼んだ。



「・・・シンジ・・・・・・」

「・・・・・・」



シンジは再び振り返り、アスカにそっと近づく。

そしてアスカの顔に自分の顔を近づけて、優しくそっとキスをした。



「お休み・・・アスカ・・・」



シンジが部屋を出ると、どの様な夢を見ているのか分からなかったが、アスカは幸せそうに微笑んでいた。





ドイツから戻ったシンジ達は、4年前と同じく「コンフォート17」マンションに住むことにした。

もう少し住み易いマンションも用意されていたのだが、シンジ達にとってはここが本当の家なのだ。



そしてレイもここのマンションに住むようになった。

その事とミサトと加持が結婚したこともあって、部屋は1人づつに与えられた。

それが決まったのがつい一昨日のことだ。

もちろんミサトと加持、さらに娘のサトミは一緒に暮らす事になっているが。



多少の違和感はあったが、結局全員の部屋は隣同士なのでほとんど同じだった。



『今日は久しぶりにみんなに会えたな』



シンジは今日のパーティーの事を思い出して微笑んだ。



シンジは自分の部屋の前に立つとカードキーを差込み、扉を開けた。

しかしその瞬間、



「!?」



シンジは部屋の中に誰かが居るのを感じた。

しかもそれは人間ではない。

もっと感じにくい複雑な雰囲気を持った気配だった。



しかし扉は開いたが、何も起こらなかった。

かえって不気味でさえある。



『何だ・・・この気配・・・・・・』



シンジは慎重に部屋の中に入った。

足音や気配をなるべく消す。



「・・・・・・」



部屋の明かりは全くついていない。

しかしよく見ると、部屋の窓辺に1人の人影が見えた。

その人影は外を見ている。



「・・・誰だ」

「・・・・・・碇シンジか?」

「そうだ」



シンジは自分の身を隠すことなく部屋の中央に歩いた。

そこでようやく相手の顔が見えた。



肌の色などは分からないが、その整った顔立ちは見る者をはっとさせる。

年齢は20代前半だろうか。

長髪のやや背の高い男だった。



「僕はお前が誰だと聞いたんだ・・・答えろ・・・」

「・・・我の名はセラフ『ラファエル』。お前達が『使徒』と呼んでいる者・・・」

「使徒!?」

「命を頂こう」



ラファエルと名乗った男は、突然シンジの胸をめがけて手を突き出す。

その手からオレンジ色の光が放たれた。



   ブウゥゥン!!



「くっ!!」



シンジは間一髪で身体を反らせ、それを交わした。



   ズウン!!



さらに無言でラファエルは一瞬にしてシンジを蹴り上げる。

たまらず倒れるシンジ。



「・・・死ね」

「うっ!?」



ラファエルは手の平をシンジの身体に密着させて再び光を放とうとした。

シンジは全く動けなかった。

ラファエルの手が光る。

そして・・・・・・



   ビキィィーーーン!!



その音と共にシンジとラファエルの身体が離れた。



「・・・貴様・・・」



ラファエルはシンジの姿を見てそう呟いた。



シンジの身体はオレンジの光に包まれていた。

それは六角形を形作っている。



「『ATフィールド』だと・・・・・・」



シンジは普段からは考えられないような鋭い眼光をラファエルに向けた。



「・・・僕の大切な現実を潰す奴は許さない!!・・・大切な人達に手を出す奴もだ!!」

「・・・・・・」



この時、シンジが人の姿をした2人目の使徒に出会った瞬間だった。



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ver.-1.00 1997-12/01公開

ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!
次回予告  セラフの舞う瞬間 −第2部−  第7話 「僕の宝物」




あとがき



あいどうも、Zenonです!!(^ー^)〃

第2部の第2話(通算第6話)をお届け致します。



相変わらず、第5話に続いて煮詰まり気味であります。(^^;)

でもその割には、今回の話の出来はいい方なんじゃないでしょうか?

後から読み直してみると、あんまり苦しんで書いているようには見えなかったです。(笑)



さて、お話のことです。

ミサトさんが結婚してたんです。

さらに子供までいます。

名前は単純に「サトミ」ちゃんです。(爆)

・・・笑わないで。(笑)



今回のLAS。

何だか時間が止まったような甘い感じになりました。(^^;)

何でかな?・・・・・・?



さらにとうとうその姿を現した「セラフ −seraph−」。

タイトルにもなっているこの者は、旧約聖書では「神に仕える6枚の翼を持つ天使」。

「熾天使 −してんし−」。

「9階級の天使の中でも最高位の天使」という事になっております。

読み方は「セラフィム」、「セラーピーム」等々あるようですが、タイトルに合うように「セラフ」とさせて頂きました。



最後はやはりシンジ君でしょうね。

いきなり「ATフィールド」を展開しちゃって・・・。

珍しく、シンジ君が怒ってます。

いやいや、これこそが彼の本当の・・・・・・



使徒と戦闘状態突入のシンジ君。

次回では・・・



ではでは、また次回でお会いしましょう!!



 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第6話、公開です。
 

 ミサトさんが酒をやめた・・・
 ミサトさんが子育てしている・・・
 ミサトさんがお母さんしている・・・・

 う、うそだ・・ボクの中のミサトさんはそんな人じゃないやい!(笑)
 

 

 シンジの部屋にいた人の形をした使徒。
 シンジが見た2体目の人型使徒。

 1体目カヲル
 2体目はコイツ。

 間違っているぞ〜

 ホントの1体目はミサトさんなのだ(^^;
 だからコイツは3体目(爆)  

 

 

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