そして、それがカヲルの身体中を瞬時に駆け巡った。
「・・・・・・」
そのカヲルの表情に、ゲンドウは何かが起こったのだと直感的に感じた。
「指令、予定外の事態になりました」
「!?」
「お前が言っていた『セラフ』か?」
「おそらく・・・指令、僕が行きますよ」
「ここでシンジ君を失うわけにはいきません」
Written by Zenon
使徒ラファエルは、まるでシンジを観察するかのようにジッと見ている。
その表情から感情は全く読みとれない。
逆に何もかも見透かされるような感覚に陥った。
それはエヴァに乗って戦うような相手だったからかもしれない。
シンジはそれが人の姿をして、自分の目の前に立っているというだけで戦慄が走った。
渚カヲル・・・
しかし、彼とも違った。
ただその場に立っているだけで倒れそうになった。
「!?」
その目はまるで何かの宝物を見つけたかのように、さらにジッとシンジを見つめた。
「・・・・・・」
「く、来るなっ!!」
「・・・・・・」
胸をえぐるような、耐え難い激痛が走る。
ラファエルはその時を待っていたかのように、シンジの前に手を突きだした。
「!!」
身体全体がその息の詰まる様な空気を汲み取る。
カヲルは突然立ち上がる。
そんなカヲルに、その場にいたゲンドウが声をかけた。
「どうした、渚?」
カヲルはゲンドウの声にも答えることなく、その場に立ちつくした。
「・・・シンジ君・・・」
カヲルはそう呟くと、滅多に見せない真剣な顔で振り返る。
「・・・何があった?」
カヲルは間を置くことなく、ゲンドウに答えた。
「シンジ君が危険な状態です」
それを聞いてゲンドウが立ち上がる。
「シンジ君は使徒と交戦中です」
カヲルはそれだけを伝えるとゲンドウに背を向ける。
「・・・いいのか?」
カヲルの身体は、その場から瞬時にかき消えた。
第7話 「僕の宝物」
・・・シンジの部屋の空気は一瞬にして変わっていた。
シンジの目に映る者。
『これが・・・本当に使徒・・・』
シンジは堅く拳を握り、必死に立っていた。
シンジは今まで使徒からこの様な圧迫感を受けたことは一度もなかった。
『人の姿をしているから?・・・・・・そうじゃない。・・・この使徒は今までとまるで違う』
すでにシンジは、人の姿をした使徒を知っている。
『カヲル君はずっと使徒だって気づかなかった。・・・でもこいつは分かる。何か冷たいものが僕の中に入ってくるのみたいだ!!』
シンジは強い吐き気を感じる。
「・・・その力・・・・・・どこかで知っている気がする」
ラファエルがシンジに近づき出す。
シンジはラファエルが近づいた分、後ろに下がった。
「来るな!!」
シンジは声の限り叫ぶ。
シンジは自分の精神が食われていくのを感じた。
「やめろぉぉーーーーーー!!!」
シンジはATフィールドを発生させて防ごうとした。
・・・だがそれは全くの逆効果。
シンジの目の前でATフィールドは砕け、ラファエルの身体に吸収されていく。
それとともにシンジの声が出なくなった。
「・・・・・・!!」
「・・・・・・」
『嘘だ・・・うそだ・・・・・・こんなに無力だなんて・・・・・・そ・・んな・・・・・・』
シンジは命そのものを食われていた。
次第に意識が途切れ始める。
もはやシンジに身体の感覚はなかった。
『・・・・・・この力は奴の力か?・・・そうか・・・・・・くくく・・・』
その声はシンジの心に直接響く。
消えゆく意識の中で、シンジはこの覚を感じた事が初めてではないと感じた。
いつかは全く覚えていない。 しかし、確かに同じ感触を感じたことがあった。
『・・・生きなくてはいけない・・・何があっても』
『・・・・・・』
ビジョンの中の自分にに大きな光が舞い降りている。
それは何か心休まる優しい光・・・
『・・・駄目だ!!・・・そんな事したら、消えてしまう!!』
『希望の光になるんだ・・・・・・「あれ」はきっとまた遣ってくる』
言葉とともに目の前の光が小さくなり始める。
それを見たシンジの心に深い悲しみが広がった。
『駄目だ!!・・・・・・君には・・・君には・・・・・・』
『・・・・・・』
・・・・・・聞こえるのは優しく哀しい歌声・・・・・・
・・・・・・涙の・・・歌声・・・・・・
「シンジ!?・・・気が付いたの?」
シンジは周りの騒音で意識を取り戻しつつあった。
隣からシンジのよく聞き慣れた声が聞こえる。
「・・・・・・アスカ?・・・」
「そうよ。・・・分かる?」
「うん。・・・何とかね」
シンジは目を開けているのだが、周りの明るさに目を覆う。
しかし、それもすぐに元に戻った。
シンジは改めて周りを見渡した。
そこは見慣れた病室。
真っ白い壁の何の飾り気のない部屋だ。
隣にはアスカが座っていた。
「・・・僕はどうなったの?」
「シンジの部屋に使徒が入り込んで、シンジはそいつに取り込まれそうになったのよ・・・」
「そうだ。・・・そうだった。・・・・・・僕は生きてるの?」
「うん。・・・カヲルが助けてくれなかったら危なかったみたいだけどね」
アスカはシンジの顔を見て、少し安心したように笑顔を浮かべた。
「僕はどれくらい寝てたの?」
「まるまる2日。でも、身体に傷はないみたいよ」
「そうか・・・またカヲル君に助けられちゃったな・・・」
そう言って目を瞑ったシンジの手を、アスカが強く握った。
アスカは俯き加減でシンジを見つめている。
シンジにとっては一瞬の出来事だった。
しかし実際は2日も経っている。
「アスカ・・・」
「・・・無理するからこんな事になるのよ。・・・・・・心配したんだから・・・・・・」
「・・・・・・ごめん、アスカ」
シンジは自分の存在を確かめるように、アスカの手を強く握り返した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
部屋は完全に静かなわけではなかったが、気にならない程度の雑音しか聞こえなかった。
アスカの顔には明らかな疲れが見て取れた。
この2日間、ずっとシンジにつきっきりだったのだ。
ユイやレイ、ミサトがいくら休めと言っても、アスカは一向に聞こうとしなかった。
『シンジには怪我もないし、いつ起きるか分からない。・・・その時にアタシが居てあげたいから・・・』
そう言って断り続けたのだ。
「あのさ、シンジ。・・・お腹空いてない?」
「・・・そう言えば・・・」
シンジはアスカにそう言われて、自分がこの2日何も食べていないということに気が付いた。
シンジは照れ笑いをしながら頭を掻いた。
「ははは・・・凄く空いてる」
「・・・・・・アタシが何か作ってあげようか?」
「えっ、アスカが?」
「うん!!」
アスカはとびきりの笑顔でシンジに笑いかける。
「いいの?」
「・・・そりゃ、シンジほど上手くはないけど・・・でも精一杯作るから!!」
シンジはアスカに心から感謝して優しく微笑んだ。
「じゃあ、お願いしようかな?」
「任せなさい!!で、シンジは何が食べたい?」
「う〜ん・・・何でもいいよ。食べられたら」
「じゃあ、アタシにお任せね」
アスカは、さっそくやる気になって勢い良く立ち上がる。
そして上機嫌で病室の扉を開けた。
「少し待っててね!!ここの調理場を拝借してくるから」
「うん。焦らないでいいからね、アスカ」
「分かってるわよ。・・・・・・あっ!!カヲル!!シンジが目を覚ましたのよ」
「それは良かったよ。何ともないかい?」
「カヲル君」
アスカが扉を閉めようとしたちょうどその時、カヲルが見舞いに遣ってきた。
カヲルは病室のドアから嬉しそうな笑顔を覗かせて、シンジに声をかけた。
「ありがとう、カヲル君。何ともないよ」
「無事で良かった」
「ごめん、カヲル君。迷惑かけちゃって・・・。あ、こっちに入ってよ」
「じゃあ、お邪魔するよ」
カヲルはシンジのベッドの側の椅子に腰掛けた。
アスカはそれを見るとシンジに言った。
「じゃあ、すぐに出来ると思うから」
「うん。待ってるよ」
そんな声の後、扉が閉まるとカヲルがシンジを横目で見た。
「何のお約束だい?アスカ君、えらくご機嫌だけど」
「僕に料理を作ってくれるんだって」
「・・・なるほど。羨ましいね、シンジ君が。素敵な彼女じゃないか」
「ははは・・・」
シンジは照れて真っ赤になった。
カヲルはそんなシンジを優しい笑顔で見つめていたが、やがて真剣な表情になる。
「あまり無理は良くないよ、シンジ君。君はもう少しで取り込まれるところだったんだからね」
「うん・・・ごめん」
「今の君では、まだ彼らにはかなわないよ。・・・ここだけの話、僕が駆けつけた時にはかなり危険な状態だったんだから」
カヲルは厳しい顔をしながらも、優しい口調でシンジに聞かせた。
「君の力はまだ完全じゃない。・・・君は知らないかもしれないけど、シンジ君のその力はエヴァと訓練によって培われたモノじゃないんだよ」
「えっ!?」
シンジはこのカヲルの言葉に驚きの声を上げた。
シンジはそんな事を聞いたこともない。
「それは、どういうこと?」
「今は詳しく言えない。でも、君の力はレイやアスカ君の力とも違うんだよ。根本的にね」
「・・・・・・」
シンジはこの言葉に俯いた。
『なぜ、カヲル君はそんな事を知っているんだろう・・・』
シンジの頭の中は、そんな考えで一杯になってしまった。
カヲルは深く考え込むシンジの肩に手をかける。
「今は無理に考え込むことはないよ。その内、イヤでも知ることになるから」
「・・・・・・どうしてカヲル君はそんな事を知ってるの?」
「・・・・・・」
カヲルはシンジの問いに少し寂しそうに微笑んだ。
しばらくの無言の時が流れる・・・
「その答えは、シンジ君の『心』が一番良く知ってるよ・・・」
「僕の・・・心?」
「そうだよ。・・・人というモノはいつまで経っても、心だけは決して変わらないんだよ」
「・・・・・・」
「不思議だよね。心だけは何も変わらないんだから。僕も人のそんな所に惹かれたのかも知れないね」
そう言って、カヲルは声に出して笑った。
「出来たわよ、シンジ」
そんな時、アスカが入ってきた。
その手に持ったトレーには、病人食の定番『お粥』が乗っている。
「じゃあ、シンジ君。僕は退場させてもらうよ」
「あ・・・ありがとう、カヲル君。わざわざお見舞いに来てもらって」
「ははは、気にしないでよ。じゃあ、頑張って」
そう言ってカヲルは笑顔で部屋を出ていく。
シンジとアスカは案の定、いつものように顔を赤くしている。
しかししばらくして、どちらともなく微笑み合った。
「冷めないうちに頂くよ、アスカ」
「う、うん。・・・味はあまり自慢できないけどね」
「アスカが作ってくれたんだから、きっと美味しいに決まってるよ」
「そう言う風に、最初から言われるとますます不安になるのよね」
シンジとアスカはまた笑い合い、アスカはベッドの横に座った。
シンジはアスカからトレーを受け取ろうとした。
しかし、なぜかアスカはそのトレーを引っ込めてしまう。
「駄目!!アタシが食べさせて上げるんだから!!」
「えぇ!?」
シンジは予想外の事態に上半身を起きあがらせた。
「い、いいよ。自分で食べられるから・・・」
「だ・め・よ!!」
「でも、アスカに悪いよ」
「いいのよ。アタシがいいって言ってるのに悪いはずないでしょ」
「そりゃ、そうだけどさ」
「ぶつくさ言わないで、患者さんは黙って寝てりゃいいのよ」
アスカは嬉しそうにお粥を鍋から茶碗に移し、さらにそれをスプーンで掬った。
そしてシンジの口元に持っていく。
「はい!!」
「・・・・・・」
ようやく諦めたシンジは、アスカの言うとおりそれを食べた。
しばらくじっくりと味わう。
「あっ・・・これ、美味しい」
「ホント!?」
「うん。梅の味がサッパリしてて美味しいよ。・・・炊き加減も上手いし」
「よかった。・・・ママに聞いた甲斐があったわ」
アスカはホッとした表情でシンジにさらに食べさせる。
「わざわざキョウコさんに聞いてくれたの?」
「シンジに変なモノ食べさせられないもん」
「ありがとう、アスカ」
アスカは、美味しそうに自分の作ったお粥を食べるシンジを満足げに見つめた。
『あちらに奴がいる限り、事は簡単ではないのでは?』
何もない真っ暗な空間で声だけが重々しく響いた。
・・・その声は2つ。
『・・・奴の選択はもはや決まった。計画を実行に移すときだ』
『排除しか道は残されてはいないのか・・・』
『そうだ・・・』
『・・・・・・』
声は止まり、空間が大きく動き始めた。
光が射し込むように別の空間が流れ込む。
『排除せよ』
『・・・排除せよ』
どうも、Zenonです!!(^^)〃
いよいよ本格的なセラフの攻撃。
これからが正念場ですね。
頑張らなきゃ・・・
カヲル君が重要なポストを占めだしてます。
レイちゃんやゲンドウさんなどは、ほとんどにほったらかし・・・(^^;)
辛うじて耐えるアスカ様。
バランスがとりづらいですね。
未熟なわたくしをお許し下さい。(笑)
もっとシンジ君とセラフを戦わせようとも思ったんですが、無意味な遅延行為だと感じたので止めました。
今回の話でさらに謎が深まってしまった方、「ほーほー、そういうこと。なるほどね」と何となく謎が分かりかけてきた方。
色々おられると思います。(わたくしが完全な読む側だったら、全然分かりませんね。たぶん(笑))
わたくしの定義した分の謎は、全て明かそうと思ってますので色々と推理をお楽しみ下さい。
ではでは、また次回でお会いしましょう!!
Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第7話、公開です。
お粥はいいねぇ
病人食の、
初めての料理の、
食べさせて、あ・げ・る の(^^;
実に出来た料理です(^^)
いくらでも手抜きので切る料理に
梅をきかせたり、塩あんばいに気を使ったり・・・
見せつけられちゃった(^^)
シンジを思いやったもう1人、カヲル−
意味深なセリフをまき、
次回以降へ引きました。
ますます目が離せなくなってきましたね。
さあ、訪問者の皆さん。
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