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今の海はとても静かだ。

波も穏やかで天候も良好である。

その海を1隻の貨物船が、日本に向かって航海を続けていた。



・・・しかし、それは突然起こった。



「船長!!前方に何かいます!!」

「何!?」



大平洋を航行中の貨物船の前方に、強く光る大きな光が突然現れた。

予想外の出来事に、船内は一気にパニックに陥った。



「何だ!?あれはっ!!」

「せ、船長っ!!凄いスピードでこちらに迫ってきます!!」



信じられない勢いで貨物船に迫った光は、両側からさらに大きな六角形の光を生み出した。

危険を察した貨物船のクルーは逃げまどった。



「うわあぁあぁぁーーーー!!」



そしてその六角形の光が重なった瞬間、全てが覆い尽くされるほど明るくなった。

そして辺りは大きな音を立て、一瞬にしてかき消えた。



セラフの舞う瞬間

第5話 「4年」


Written by Zenon





 西暦2019年 10/21  第3新東京市NERV本部司令室



「先日の原因不明の爆発について、ある現象が確認されました・・・」

「・・・・・・」



NERV司令室の中、技術部のまとめた報告書にゲンドウと冬月が目を通していた。

報告書を持ってきたリツコの表情は暗い。

冬月がリツコの顔をじっと見た。



「これを専門家の目から見て、キミはどう思うのかね?」

「・・・まず間違いなく、『ATフィールド』の一種だと推測します」

「・・・・・・碇」



そう言って、冬月は表情をやや固めながらゲンドウの言葉を待った。

ゲンドウは報告書から目を外すと、リツコを見た。



「至急、『セカンド壱号機』と『セカンド弐号機』を搬入しろ」

「・・・しかし相手に対して有効であるかは、今の時点では保証しかねます」

「かまわん。・・・何もないよりはマシだ」

「分かりました」



リツコはそう言って司令室を出ていった。

ゲンドウは未だに動かずにジッと一点を見つめていた。

冬月はそんなゲンドウを横目で少し見た。



「・・・予定よりも早いぞ、碇」

「分かっている。・・・今はとにかく、あの3人が到着するまで時間を稼ぐ」

「残念だな。もう少し時間があれば、事は今より楽になっただろうが・・・」

「上を見ればきりがない。・・・既に予定の床の上には立っている」



そう言ってゲンドウは立ち上がった。

そしてゆっくりと司令室のドアに向かって歩いた。



「ドイツへの連絡は任せる・・・」

「碇。・・・渚はこの事を予測していたのではないか?」



ゲンドウは少し立ち止まった。

そして、冬月の方に向き直った。



「・・・あぁ、恐らくはな」



・・・今回の事の発端は、あの貨物船の消滅からだった。



最初はただの爆発事故と思われた。

爆発の起こった場所は、日本から遠く離れた太平洋上だった。

その時は原因は不明だったが、日本への直接の影響もなかったので、それほど大きな騒ぎにはならなかった。



しかし、2度目の爆発は違った。

場所は第3新東京市から200kmほど離れた海上。

そこで再び原因不明の爆発が起きて、今度は、その周辺がおよそ10kmにわたって消滅した。



そこでのデータを元にNERV技術部が出した答えは、『相違空間と相違空間の互いの反応による爆発』だった。

すなわち、ATフィールドの展開が確認されたのだ。

しかし4年前の戦いで確認されていたATフィールドは、お互い中和するものであり、決して互いが反応し合うなどということは無かった。

そこがリツコに『ATフィールドの一種』と言わせた理由である。



そしてこの事が起こった瞬間から、運命の時は着々と動き始めた。





 同年 10月27日  NERV本部内テストルーム



「パルス及びハーモニクス正常」

「シンクロ問題なし」

「エヴァンゲリオンセカンド『壱号機』、『弐号機』正常に起動しました」



テストルームにそんなアナウンスが飛び交っていた。

ゲンドウ、カヲルとリツコが見守る中、3度目のエヴァセカンドのテストが行われていた。

リツコがマイクに向かって言った。



「気分はどうですか?」

『えぇ、大丈夫よ』

『前回よりも苦しくないわ』



リツコの声にユイとキョウコが答えた。

2人は今、セカンドの壱号機と弐号機のエントリープラグの中にいた。

それを聞いてカヲルがゲンドウを見た。



「これで後はシンジ君達の到着を待つだけですね」

「到着予定はいつだ?」

「今のところ未定です。・・・あちらもまだ実験を終えたばかりなので」

「・・・3日以内に呼び戻せ。それ以上は我々の敗北を意味する」

「分かっていますよ。すでに手は打ってあります」



カヲルは少し笑って、再びセカンド壱号機と弐号機に目を向ける。

2機の新しいエヴァンゲリオンは、問題なく動いていた。



「今回のエヴァは信頼性では今まででトップでしょう。完全な機械なので暴走の心配もありません」

「このエヴァは3日保てばそれでいい」

「十分保ちますよ。伊達に僕が造った訳ではありませんから」



カヲルは満足そうに笑いながら言った。

このエヴァには、カヲルが設計段階から開発に加わっていた。

カヲルの理論は常人のそれを遙かに越えており、完全な機械のみでの構成であの3機のエヴァに匹敵するものになっていた。

唯一の違いはATフィールドを展開出来ない所だが、今回の様な時の為に造られたこのエヴァに、攻撃の要素はそれほど必要ではなかった。



「・・・パイロットは安全なのだろうな」

「大丈夫です。それは保証しますよ」



   ビィー!!ビィー!!ビィー!!



カヲルがそう言った瞬間、突然警報が鳴り響いた。

ゲンドウは眼鏡に手をかけて、少し俯く。

カヲルは珍しく、やや真剣な顔をした。



『・・・ついに運命の時は動き出すか。・・・シンジ君。キミ達に全てがかかってる。・・・・・・始まりの鐘は、君達が打つんだ』



ゲンドウがカヲルの方を向いた。



「エヴァセカンドの出撃準備を整えろ」

「はい」



ゲンドウの声にカヲルは答えた。





 2日後・・・



「高エネルギー反応、さらに接近!!第一次防衛線を突破します!!」

「目標パターン。未だに不明!!推測できません!!」



「碇・・・これ以上はきついぞ」

「あぁ・・・分かっている」



マヤ、青葉、日向達の声に、いつものようにゲンドウの隣に立っている冬月がスクリーンに目を向けながら言った。

ゲンドウはいつものように受け答えるが、状況は芳しくない。

冬月の反対側にカヲルが立っているが、その顔にはまだ余裕があった。



正体不明の敵の攻撃は、もう2日も続いていた。

その都度、ネルフ側はあらゆる手を使って辛うじて追い返している状況だった。



「セカンド壱号機と弐号機の発進準備完了!!」



日向のその声にゲンドウがパイロットのスクリーンを見た。

そこにはプラグスーツに身を包んだユイとキョウコが映っていた。



「ユイ、行けそうか?」

『大丈夫です。止める事くらいできます』

『後は私たちが何とかしますよ』



スクリーンに映ったユイとキョウコは笑顔だった。

ゲンドウはそれを見て、大きく頷いた。



この2日間、敵を最終的に追い返していたのはユイとキョウコだった。

2人は敵をうまく罠に誘い込み、敵を一斉攻撃で追い返していたのだ。

しかし、このまま行けばいずれは負けることになる。



「エヴァンゲリオンセカンド壱号機、及び弐号機発進!!」



マヤの後ろに立っていたそのリツコの声で、2機の黒いエヴァが地上へと射出されていった。

カヲルがゲンドウに少し近づく。



「これくらいでは負けてはいられませんよ、指令」

「・・・まだまだ、小手調べと言うことか」

「彼らはこちらの力を見ようとしているだけです」



カヲルは中央のスクリーンをジッと見た。

スクリーンには、強く光る1つの大きな光の塊が映っていた。



しばらくしてスクリーンに、新たに2機の黒いエヴァが映った。



「ユイさん、キョウコさん!!取りあえず敵を本部から遠ざけてください!!」

『了解!!』



2機のエヴァは動けるようになると、すぐに走り出した。



今、直接の作戦指揮を執っているのはリツコ。

ミサトのいない今、リツコが代表である。



「セカンド壱号機、セカンド弐号機共に敵高エネルギー反応に接近!!」

「敵高エネルギー反応が停止しました!!」





「キョウコさん。敵がまた私たちを待ちかまえてるわ」

「私たちを試してるのよ」



ユイの言葉にキョウコがそう答えた。

しかし、ユイには何か引っかかるものがあった。



『この敵には意志が・・・実体が感じられない・・・まるでプログラムされた機械みたいに同じ事を繰り返してる・・・』



ユイにはこの敵が自ら考えて行動しているように感じられなかった。



「ユイさん!!一斉に仕掛けますよ!!」

「えぇ、分かったわ」



ユイはその事を気にしながらも戦闘に集中した。

敵は全く動こうとしない。



「これ以上は行かせない!!」



ユイの乗ったセカンド壱号機が、パレットガンを撃ちまくった。



   バスバスバスッ!!



敵はそのパレットガンを受けて、後ずさる。

そこにキョウコのセカンド弐号機がソニックグレイブで斬りかかった。



「やぁぁーー!!」



   キンッ!!



「くっ!?」



セカンド弐号機のソニックグレイブは簡単に弾かれてしまう。



そこに間髪入れず、セカンド壱号機が敵を思い切り殴り飛す。

しかし、敵は飛ばされながらも光の矢を何本も放った。



「キョウコさん!!素手の方が効くわ!!」

「了解!!」



壱号機と弐号機は同時に左右に分かれて矢を避けると、2機同時に蹴りを放った。

それがまともに敵に入る。



    敵はたまらず、徐々にネルフ本部から離れ始めた。





「おぉーーー」

「やったぞ!!」



そんな声が周りから上がった。

スクリーンを見ていた冬月が言った。



「さすがはユイ君だな。碇」

「・・・・・・」

「・・・どうした?」

「おかしい・・・」



ゲンドウは顔の前で手のひらを組みながら呟いた。



「・・・奴はエヴァをこの本部から遠ざけている」

「何?」

「僕にもそのように感じられます。あれは注意を引いているだけです。・・・指令。ここが危険です」



カヲルは真剣な顔で答えた。

ゲンドウは立ち上がって叫んだ。



「本部の守りを固めろ!!あれは誘いだ!!」



ゲンドウがそう言った瞬間、マヤが自分のディスプレイを見ながら叫んだ。



「本部上空に強力なATフィールドの展開を確認!!・・・・・・パターン青!!『使徒』ですっ!!!」

「何ですって!!」



リツコはマヤの横からディスプレイを覗き込む。

本部が一気に慌ただしくなった。



「・・・裏をかかれたか・・・碇」

「・・・・・・」



ゲンドウは無言で立っている。

しかしスクリーンを見るカヲルは、このような状況でもまだ落ち着いていた。



『この罠は今のこちらの状況ではどうしようもなかった。たとえ早くに気づいても、あの高エネルギー体を野放しには出来ない。・・・そして戦力を二分して本部にまわす戦力もない。・・・・・・どちらにしても危機は免れないか・・・・・・やってくれるね、セラフ(熾天使)達も』



カヲルは心の中で苦笑した。





「ユイさん!!あれを見て!!」

「・・・何、あれは・・・」



ネルフ本部の上空を何かが浮いていた。



その体は目の覚めるような白一色で、背中にはオレンジに光る6枚の翼。

人の形はしていないが、それに近い形である。



「あれは・・・ATフィールド・・・」



『本部上空に強力なATフィールドの展開を確認!!・・・・・・パターン青!!『使徒』ですっ!!!』



セカンド壱号機と弐号機にそんな声が通信で入った。



   ガスッ!!



「キョウコさん!!」



守りに入っていた敵高エネルギー体が、セカンド弐号機に突然襲いかかった。

キョウコは思い切り吹っ飛ぶ。

周りのビルが大きな音を立てて崩れ出した。



「きゃあーー!!」



ユイも足を掴まれて投げ飛ばされた。





その様子が本部のスクリーンに映し出されている。



「碇指令!!どうするんですか!!」

「碇・・・」

「・・・・・・」



リツコと冬月はゲンドウの指示を待った。

ゲンドウはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。



「セカンド壱号機とセカンド弐号機を呼び戻せ。・・・本部上空の使徒の殲滅が先だ」

「しかし、それではあの高エネルギー体が!!・・・それに距離が有りすぎます!!」

「使徒がここまで来れば全ては終わりだ。・・・何としても守り抜く。・・・他のことに構っている暇はない!!」

「・・・・・・」



リツコはゲンドウの言葉に黙り込んだ。

そんなリツコを見て、カヲルが進み出た。



「エヴァセカンド壱号機と弐号機は直ちに本部上空の使徒を殲滅せよ!!」

『了解!!』



カヲルの大きな声にユイとキョウコが返事をした。

ゲンドウはカヲルを見た。



「渚・・・」

「指令。指令の判断は正しい。僕でもそうするでしょう。・・・だから勝手に命令を出させてもらいました。これで今回の決定に関して、指令に責任はありません。・・・どのような結果になろうと僕の責任です」

「渚・・・・・・」

「指令。もう貴方1人が憎まれ役ではありませんよ」



そう言ってカヲルは優しく笑った。





「ユイさん!!先に本部へ行って!!」

「・・・分かったわ!!」



セカンド弐号機が敵を抑えている間に、壱号機が本部に向かった。



『急がないと・・・』



使徒はもう本部の横に降りていた。

6枚翼のATフィールドはもう消えている。

しかしそのかわり、その手に朱色に輝く剣が握られていた。



そして使徒はその剣を大地に突き立てた。



   ゴゴゴゴッッ!!!



凄まじい音と共に地面が揺れだした。



「・・・だめ・・・・・・間に合わない!!」



ユイがそう思った瞬間、使徒が勢い良く横倒しになった。

それと共に剣も地面から抜けて、辺りは再び静かになった。

そしてそこには3機のエヴァが立っていた。



「シンジ!!」





本部のスクリーンにも大きく映っていた。

上空には大型の輸送ジェットが旋回している。



本部の人間達が大きく声を上げた。



「エヴァです!!エヴァ初号機、零号機、弐号機、到着しました!!」



本部が歓声に包まれた。

ようやくシンジ達が間に合ったのだ。



「碇、ギリギリ間に合った様だな」

「あぁ・・・」



ゲンドウも少し落ち着きを取り戻して椅子に座った。

とりあえず、本部が無力という最悪の事態は去ったのだ。



カヲルは笑顔でシンジ達を見ていた。



『シンジ君達、間に合ったんだね』



そんなカヲルの心に直接話しかける声があった。



『あくまで我らに最後まで刃向かうつもりか。・・・最後の忠告だ。・・・・・・もう1度考え直せ・・・・・・』



そこで声は途切れた。

その途端にスクリーンに映っていた使徒が消えた。



「敵使徒、消えました!!・・・完全に消失!!」

「最初の高エネルギー反応も消えました!!」



本部は一気に静まり返った。

何が起こるか分からない。

・・・しかし何か起こる様子は何もなかった。



「・・・去ったのか?」

「あぁ、・・・何とか、しのげたようだな・・・」



ゲンドウはスクリーンを見ながら冬月に答えた。





カヲルは俯きながら呟いた。



「僕からも忠告だよ。・・・君たちも十分気を付けた方がいい。僕は君たちに対抗する力を再び手に入れたんだからね・・・」



カヲルはクスリと笑った。



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ver.-1.01 1997-11/27誤字訂正
ver.-1.00 1997-11/24公開
ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!
次回予告  セラフの舞う瞬間 −第2部−  第6話 「大切な現実」




あとがき



ど〜も、Zenonです!!(^−^)〃

いよいよ、第2部始動であります!!

第2部はシリアスに、謎を残しつつ、静かに始めてみました。



この話はかなり難産でした。

出だしから煮詰まってしまって、書き直しは3回です。(^^;)

ようやく納得のいく物が出来たので、ホッとしています。



そして今回の話のことですが、今回の主人公はズバリ、カヲル君です。

セリフは少ないですけどね。(^^;)

話の主体はカヲル君です。そう思って読んでもらえるとまた雰囲気が違うかも知れませんよ!!



あとはユイさんとキョウコさんが、なんとエヴァに乗って戦ってます!!

防戦一方で、2日間も戦い続けた勇気に拍手ですね。

この先も御二人には戦って頂きますので、ファンの方が居られたら是非応援して上げてください!!



無事にドイツから帰ってきたシンジ君達。

次の話では・・・?



ではでは、また次回でお会いしましょう。



 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第5話、公開です。
 

 「もうダメだ」
 その瞬間に登場するのは
 ヒーロー・ヒロインのお約束(^^)
 

 ユイとキョウコさんの奮戦空しく、本部が・・・
 に、
 なりそうでしたが、
 良いところで帰ってきましたね。

 3機のEVAと
 3人のチルドレン。
 

 言葉を発する今度の使徒はチト違う?!

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 新部に入ったZenonさんに感想メールを送りましょう!


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