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セラフの舞う瞬間

第4話 「別れと旅立ちと」


Written by Zenon





「ただいま・・・」

「遅い。何やってたのよ」



シンジはいきなり玄関に迎えに出てきたのがアスカであることにびっくりした。

シンジはもう絶対にアスカは口を聞いてくれないと考えていたから当然である。

そんなシンジを見て、アスカは早口に言った。



「何してるのよ。早く入りなさい。アンタのご飯を待ってたんだからね」

「う、うん・・・ごめん」

「ほら、早くしなさいよ」

「ちょっと、アスカ!!」



そう言っていつものようにアスカはシンジの手を無理矢理引っ張って部屋に連れ込んだ。



『・・・どういうことだろう?』



シンジはアスカが元に戻っているのが何故か考え込んでしまった。

リビングに上がるとミサト、ユイ、キョウコ、ペンペンがシンジの帰りを待っていた。

シンジは遅くなったことを謝ろうとして喋ろうとした瞬間、



「シンちゃん。謝るのはいいから早くご飯食べさせて・・・私、お腹が空いてもうダメになりそう」

「えっ?・・・でも」

「いいからいいから。ミサトもああ言ってるんだから早くご飯を作ってね」

「う、うん・・・分かったよ」



そう言ってシンジはキッチンに入った。

アスカはその姿を少し眺めていたが、やがて食卓に着く。

そこにユイがアスカに言ってきた。



「ごめんなさいね、アスカちゃん。シンジも今、辛いときだから」

「はい。・・・何となく分かります」

「ありがとうね」

「いえ、そんなこと無いです」



そう言ってアスカはユイに笑顔で答えた。

やがて料理は出来て、ミサトのマンションでのちょっと遅めの夕食は始まった。





『さてと・・・そろそろね』



ミサトは夕食を食べ終わるとユイとキョウコに目配せをした。

そして3人で頷きあう。



キョウコが帰ってくる者に順番にアスカとのことを話したので、3人はしばらくはシンジとアスカを2人だけにしようと先ほどから計画していたのだ。

当然、ユイだけはシンジの事詳しく知ってはいたが、ゲンドウに口止めされていた。

あのゲンドウの秘密を知る人間はユイ、レイ、シンジの3人である。

しかしそれ以外のことは話すことを許されていたので、ミサトとキョウコとで3人になった時点で話すことにしていた。



「あ〜あ、今日はちょ〜ち、いつもより疲れたかも」

「確かにミサトさんは今日、大変でしたから」

「そう言うキョウコさんもしんどそうだったわよ」

「あら、ユイさんこそ疲れた顔してるわよ」

「まぁまぁ、お二人とも。じゃあ、どうです。お疲れ会ということでカラオケでも・・・」

「そうね。いいわね」

「久しぶりに声帯がなるわぁ」

「OK!!というわけでシンちゃん留守番よろしくぅ!!」



   ブッ!!



シンジは会話の速さとその結果に思わずみそ汁を吐きかけた。

しかし3人はそんなことは気にもせず、さっさと玄関に行ってしまった。

ペンペンは既に冷蔵庫の中である。



「ちょ、ちょっと。・・・ミサトさん!!」

「ほんじゃ、よろしく」



そう言って玄関のドアは閉まってしまった。



「・・・・・・」



シンジは何も言えなかった。



『ア、アスカと二人きり・・・・・・今はまずいよぉ・・・』



しかしシンジもいつまでもそこに立っているわけにもいかないのでリビングに戻る。



そこにはじっと下を向いて真剣な顔で考え事をしているアスカがいた。

シンジは自分の椅子に座ると、まだ残っている料理に再び箸を付け始めた。部屋にする音はシンジが料理を食べる音だけしかしなかった。

今2人のいるマンションは、高級なほうのマンションなので防音設備が行き届いている。

周りの音は殆ど聞こえなかったが、窓を開けてあるので微かに外を飛行機の飛んでいる音が聞こえた。



シンジが黙々と料理を食べていると、ようやくアスカが口を開いた。



「・・・どうして、アタシに相談もしてくれなかったの?」

「えっ?」

「・・・転校の事」

「あぁ・・・ごめん。突然決まっちゃって・・・」

「そう・・・アタシに言う暇もないほど突然決まったならしょうがないわ」

「・・・・・・」



アスカはシンジの方を向いて話をしていた。

シンジもアスカの方は向いている。

アスカはシンジが嘘をつくときは目線をそらすという事を知っているので、これで嘘はついてもハッキリと分かる。

そしてさらに言葉を続けた。



「じゃあ、ドイツまで何をしに行くの?」

「そ、それは・・・・・・勉強のために・・・」



シンジは目線をそらした。

アスカの眉がピクッと動いた。



「嘘ね・・・」

「・・・・・・」

「本当のことを言えばいいのよ。難しい事じゃないわ」

「・・・ごめん・・・言えないよ・・・」

「どうして?・・・何でアタシに言えないの!!」

「・・・・・・それも言えない」



   バシッ!!



アスカの平手打ちがシンジに飛んだ。

シンジは頬を打たれたままの体勢でいた。

アスカは涙を流しながら訴えた。



「バカッ!!・・・どうしてなの?・・・どうしてなのよ!!何でアタシには教えてくれないの!!」

「・・・・・・」



シンジは何も言わなかった。



「言うつもりはないのね。・・・・・・分かったわ。・・・やっぱりアタシは騙されてたのね・・・」

「!?・・・ち、違うよ」

「・・・やっと・・・やっと・・・・・・分かり合えてきたと思ってたのに・・・シンジのことが分かり始めた所だったのに・・・アンタはもうアタシの事なんていらないのよっ!!」

「誤解だよ、アスカ!!」

「・・・何が誤解よ!!それならハッキリと説明してよ!!」



アスカは眼の中を涙でいっぱいにしながらシンジに向かって叫んだ。

シンジは焦っていた。

このままではアスカとの仲は確実に切れてしまう事態になってしまうからだ。

だから必死になって言った。



「違う!!僕はアスカを騙してなんかいない!!」

「じゃあ、何で本当のことを言ってくれないのよ!!」

「そ、それは・・・・・・」

「ほら見なさい!!・・・・・・やっぱりアタシのことが信用できないからなんでしょ!!」

「違う・・・・・・違うよ、アスカ。・・・それだけは本当だよ。信じてよ」



シンジはアスカに必死に訴え続けたが、状態は悪化する一方だった。

アスカはもはや普通の状態ではなかった。

シンジが最悪の態度をとったために、再びあの不安な気持ちが蘇ってきたのだ。

シンジはもはやこれ以上この事を隠せば、話しをするよりも早く破局を迎えることは確実だったので話すことを決意した。



「・・・分かったよ・・・・・・話すよ、アスカ。このままじゃ、黙ってる意味もなくなる」



その言葉にアスカは静かになった。

そしてシンジを見る。

今度は目をそらす気配はなかった。



「でも話す代わりに約束してほしい」

「・・・何?」

「絶対にアスカはここに残るんだ。・・・きっとアスカは話を聞いたら一緒についてくるって言うだろうから・・・」



アスカはしばらく考えていたが、ゆっくりと答えた。



「・・・分かったわ」

「じゃあ話すよ・・・・・・僕は訓練のためにドイツへ行くんだ」

「訓練?・・・どうして?・・・もう敵はいないんじゃないの?」

「カヲル君の話によると・・・まだいるらしんだ」

「・・・そんな・・・『使徒』がまだ」

「その使徒がやってくる4年後までにそれに対抗する術を持たなくちゃいけないんだ」

「それでアンタが?」



シンジは頷く。



「でも、今のままじゃあダメなの?」

「ダメらしい・・・そんな中途半端な奴らじゃないみたいなんだ」

「そう・・・それで訓練ていうのはどんなことなの?」

「・・・・・・『エヴァ』との本当のシンクロ実験とそれのための強化訓練・・・」

「本当のシンクロ?」



シンジは突然立ち上がり、そして窓の方に行って月を見た。

シンジは少し間を置く。

しかし、それでもまだ言いにくかった。

・・・月はいつもよりはっきりと見えていた。



「今のエヴァのシンクロは機械のサポートでやってるよね。・・・それをやめるらしい」

「?・・・どういうこと」

「生身での・・・エヴァとのシンクロだよ・・・」

「な、何をバカなこと言ってるのよ!!・・・そんなことしたら死んじゃうか、良くて取り込まれるだけじゃないの!!」



アスカはシンジのいる部屋に入ってシンジの背中を見た。

顔は見えない。



「でも、それを成功させない限り・・・・・・人は滅んじゃうんだよ・・・」



シンジはそう言いながら柔らかく微笑んでアスカを見た。

その瞬間、アスカは何故シンジがこの事を隠していたのかを知った。

シンジはあえて自分の身だけを危険にさらしすつもりなのだ。



そう分かった時、アスカはまた泣き出した。

しかし今度は悲しい涙ではなかった。

シンジが本当に自分のことを心配してくれていたのだと分かったから、心の底から嬉しかった。

しかしそれと同時に言い様のない不安が沸き上がる。



「・・・その実験は成功するの?・・・」



アスカの問いにシンジは一番悲しい表情をした。

アスカはそのシンジの表情を見て、答えは何となく分かってしまった。



「今まで・・・2人の人がやったけど・・・・・・どちらも失敗。・・・2人とも元々のシンクロ率が低かったから、辛うじてエヴァに取り込まれただけだったそうだよ」

「それ・・・もしかして・・・」

「うん・・・」



もうこの世にエヴァは何体も無い。そんな中でエヴァに取り込まれていた2人というのは限られた。



「母さん達は失敗したけど、それはシンクロ率が低かったかららしい。だから、十分シンクロ率を出せるように訓練してから最後にその実験をするみたいだよ・・・」

「でも、変にシンクロ率が高いまま失敗したら・・・」

「死ぬだろうね・・・」

「そんな・・・危ないじゃない!!しかも成功例が0なんてもの試す価値無いわ!!」

「でも成功させなきゃ・・・・・・どちらにしろ死んじゃうよ」

「・・・・・・」



長い沈黙が部屋を包み込んだ。

シンジはまた月を見る。

アスカは下を向いていた。



「・・・これで全部話したよ。・・・聞いたとおりこれは危険な実験なんだ。綾波もここに残るって約束してくれたし、アスカまで来ることないよ」

「・・・・・・アンタは・・・もう決心したの?」

「うん・・・・・・たとえ結果がどうなろうが、それはそれで僕は満足だと思うから・・・」

「そう・・・・・・アンタ意外と頑固だから、一度決めたら引かないもんね・・・」



シンジは心配になってアスカの方を見る。

アスカもシンジと同じように月を見ていたようだ。

ちゃんとしているようだが、表情は硬い。



「約束は守ってよ、アスカ」

「・・・分かってるわよ・・・・・・でも何でアタシを心配するの?他人事なのに・・・・・・」

「・・・それは・・・」

「・・・言ってよ。・・・・・・ハッキリ聞かせて」

「・・・でも・・・」

「じゃあ、アタシもついていこうかなぁ」

「なっ、何言ってんだよ!!・・・す、好きな子にこんな危険な事させられるわけな・・・・・・っ!?」



シンジの言葉は途中で途切れた。



『・・・ア、アスカ・・・・・・』



アスカはシンジに思い切り抱きつき、シンジの唇を自分の唇でふさいでいた。

アスカは泣いていた。

堪えていた涙が、次から次へと勢いよく溢れてくる。

そして2人はようやく長く熱いキスを終え、アスカが名残惜しそうに躊躇いがちに離れた。

アスカの涙はそれでも止まることなく流れている。



『・・・アスカ・・・こんなに綺麗なんだな・・・・・・』



シンジはそんなアスカを見て、心から綺麗だと思った。

シンジはアスカのことを可愛いと思うことはよくあっても、本気で綺麗だと思ったのは初めてだった。

自然と顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。



「シンジ・・・アンタさっきどんな結果になっても満足だって言ったよね?」

「え?・・・う、うん・・・」

「アタシは不満よっ!!・・・・・・だから・・・だから絶対に帰って来て・・・」

「ア、アスカ・・・・・・」



そう言ってまたアスカはシンジにキスをした。

2人の交わした2度目と3度目のキスは1度目とは違う、本当の意味でのキスだった。





次の日は朝からマンションにいつもの声が響いていた。

いつもの様な声で始まり、いつものように終わる。

なんでもない普通の日常だった。

しかしシンジにとっては日本でこのように振る舞えるのは今日が最後かも知れないのだ。

アスカはシンジにそんなことを考えさせる暇もないように喋りまくり、そしていつものように喧嘩した。

シンジは少しの間、先のことを考えないでいられることをアスカに感謝した。



しかし、いつもと違うことが学校で起きた。



「「な、なにこれ?」」

シンジとアスカはユニゾンで叫ぶと教室の変貌ぶりに驚いた。

そこには大きな段幕があり、『碇シンジ君 送別会』と書いてあった。



「おっ!!来たかシンジ!!・・・昨日はすまんかったな・・・ついカッとなってしもて・・・」



トウジがいち早くシンジを見つけて昨日のことを謝ってきた。



「謝る必要ないよ、トウジ。バカは僕だったんだから・・・あれだけ僕のことを真剣に考えてくれてる証拠だよ。・・・ありがとう」

「シ、シンジ。て、照れるやないか」

「へぇ〜、鈴原でも照れることがあるのねぇ」



アスカはトウジをからかった。

しかしトウジはアスカの姿を見て、信じられないという顔をした。



「な、なんや、お前ら!!仲直りしとったんかい!!・・・・・・全く、わしらがあほみたいや」

「どういうこと?」



トウジはシンジに迫って言った。



「ケンスケは昨日のことで何とかお前らを仲直りさせるゆうて、徹夜で『仲直り大作戦』考えとるし、いいんちょは昨日のことを気にして、あれは自分のせいちゃうか〜ゆうて寝込んどるんや!!」

「えぇっ!?」

「うそっ!!ホントなの、鈴原!!」

「嘘つくかいな、ほんまや。ほんま!!」



シンジとアスカは自分たちを呪った。

まさかそんな心配をかけているとは思いもしなかったのだ。



「まぁええわ。最悪の結果にならんかっただけでも儲けもんや。あとでわしが電話しといたる」

「ごめん、トウジ・・・本当に」

「ええんや。それよりも早よ入れ。みんな待っとるんやからな」

「う、うん」



中には確かにケンスケとヒカリを除くクラスの全員がいた。

そしてこちらに気づくと1人、1人が別れの挨拶をしてきた。



「碇!!元気でな!!」

「碇君・・・たまには帰ってきてね」

「うん・・・ありがとう」



シンジはそんなクラスメイトに感謝をして、1人1人に礼を言っていった。

そしてシンジは何やら恥ずかしそうにしている3人の女子生徒に気が付いた。



「い、碇君!!」

「聞いてほしいことがあるの!!」

「答えなくてもいいから、聞くだけ聞いて!!」

「・・・な、何?」



異様な雰囲気で迫る3人に、シンジは思わず後ずさる。

3人の目は真剣だった。

その様子にアスカは早くも嫌な予感がしていた。



「ずっと好きでした!!私はファンクラブNo.34です!!」

「私も大好きです!!No.6です!!」

「いつも碇君を想ってます!!No.21です!!」

「えぇっ!?」



シンジは呆気にとられて動けない。

しばらくしてからかわれているのか?とも考えたが、3人の目を見てそうでない事は分かった。

・・・一方、アスカは今まさにキレかけていた。



『・・・やっと捕まえたシンジ・・・・・・あんた達になんかに絶対渡さないわよ・・・・・・』



そんな危ない考えまで飛び出していた。

シンジが返答に困っていると、3人の内の一人が言った。



「ゴメンね、碇君。答えは出してくれなくても良いの。聞いてほしかっただけだから・・・ただ知っておいてほしかったの」

「・・・ゴメン」

「ううん、謝らないで。碇君は悪くないから」

「ドイツに行っても元気でね」

「ありがとう・・・」



シンジは1人1人と握手をして礼を言った。

3人の女子生徒は涙を流しながらも嬉しそうに握手していた。

アスカの方は、何とかキレずに我慢していた。



そしていよいよ残りはレイとカヲルのみとなった。

レイは花束をシンジに渡した。



「碇君・・・向こうでも元気でね・・・頑張って帰ってきてね」

「ありがとう、綾波・・・」

「シンジ君。寂しくなるけどきっと帰ってきてくれるよね。キミなら大丈夫だよ」

「うん・・・頑張るよ、カヲル君」



レイは信じられないことに泣いていた。

シンジは慌ててしまって、みんなに笑われる羽目になった。

しかし更に信じられないことにそんなレイをアスカが慰めて、トイレに連れていった。

これにはクラス中の全員が驚かされた。

しかし、シンジは特に驚かなかった。

アスカがそう言う優しい一面を持っている事を知っていたからだ。



そしてアスカにはレイの気持ちがよく分かった。

シンジは自分たちのことを思っているからこそ、ついてきてはいけないと言うのだ。

レイにはその事が人一倍辛かった。



「シンジ・・・お前の目ぇは間違ごうてへんかったな。・・・惣流があんな優しかったやなんて」

「・・・トウジは本当のアスカを知らないだけだよ」

「・・・・・・なんや、せんせは惣流の『全て』を知っとるみたいな言い方やのぉ」

「べ・・べべ・別にそう言う意味で言った訳じゃないよ!!」



しかしトウジは更にシンジを攻撃する。



「ほぉ、そう言う意味てどういう意味や?」

「・・・・・・」



シンジは完全に沈黙した。





午後

 

シンジ、アスカ、レイにカヲルは学校から直接ネルフに向かった。

こちらでもシンジの送別会と人事異動の発表が行われるのだ。

みんなはケイジに集まっていた。

みんなシンジとはしばらく会えないので、積極的に話しかけていた。

ようやく会も落ち着きだした頃、冬月が中央に立った。



「人事異動を発表するので静かに・・・」



冬月がそう言うと、みんな一斉に静まった。

相変わらずゲンドウは黙ってはいたが、シンジはこの会を開いてくれたのはゲンドウだとユイから聞いていたので、その心遣いに感謝していた。

冬月が紙を読み上げ出した。



「まず、碇シンジ。エヴァンゲリオンのテストのためにドイツ支部へ異動」

「はい」



「次に、綾波レイ。本部にて技術部のサポート及び緊急事態に備え本部待機」

「・・・はい」



「次に、惣流・アスカ・ラングレー。本部にて技術部のサポート及び緊急事態に備え本部待機」

「はい」



「次に、碇ユイ。技術部本部長に昇格。技術部の監督及び指揮」

「はい」



このユイの異動についてはみんなが驚いた。

まさか現役復帰するとは思っていなかったのだ。



「次に、惣流・キョウコ・ツェッペリン。技術部のサポート従事」

「はい」



「次に、葛城ミサト。碇シンジの保護者としてドイツ支部へ異動。なお、作戦部は短期凍結に入る」

「えぇっ!?・・・はい」



ミサトは別に嫌ではなかったのだが、今までの自分とのあまりの違いに叫んでしまった。



「次に、加持リョウジ。碇シンジの身辺警護と指導のためドイツ支部へ異動」

「了解」

「アンタも一緒なの?」

「何だ?葛城。俺とじゃ嫌か?」



ミサトは加持を無視した。

本当は嬉しいのだ。



「次に、赤城リツコ。技術部代表に昇格。技術部の総括及び監督」

「はい」

「出世ねぇ〜、リツコ」

「ただの肩書きよ、ミサト」



リツコは出世にはあまり興味はないようだ。



「次に、渚カヲル。ネルフ本部第2副指令に昇格。指令のサポート及びネルフの監督」

「大役、承らせていただきます」



『えぇぇーーー!!』



これにはゲンドウ、冬月、カヲル以外の全員が驚いた。



「カ、カヲル君が第2副指令・・・」



シンジはゲンドウがどれ程カヲルを信頼しているかの証だろうと考えたが、それでも驚いた。

全員が唖然となっている。



そして発表が終わったときには日が暮れていた。

そして、日付は次の日に変わった・・・





シンジは空港にいる。

最後の見送りに来た人たちに別れを告げていた。

その場に仕事の関係でアスカとレイはいなかったのは残念だったが、2度と会えないわけではない。

長期の休みはこちらに来ることもできるのだ。

シンジはそう言い聞かせて自分を納得させた。



「じゃあ、先に行ってて待ってなさいよ。シンちゃん」

「分かってますよ、ミサトさん」

「きっと成功させるのよ、シンジ」

「うん・・・母さんも元気でね」

「行ってらっしゃい、シンジ」



そしてシンジはゲンドウ、カヲル、の前に立った。



「行ってきます。父さん」

「すまんな、シンジ」

「いいんです。僕が自分で決めたことだから」

「そうか・・・戻ってこい、シンジ」

「はい。カヲル君も大変だろうけど頑張って」

「任せて置いてよ。シンジ君が帰ってくる頃にはちゃんと全ての準備は揃えておくよ」

「うん・・・じゃあ、そろそろ時間だから・・・」



そう言ってシンジはゲートを抜けた。

もうゲンドウ達からはシンジの姿は見えなくなった。





『地面が見る見るうちに小さくなっていく・・・・・・これで次に降りればドイツか・・・・・・』



シンジはアスカのことを考えていた。



『ドイツ・・・アスカの生まれた国・・・僕はうまくやっていけるのかな?・・・アスカは今、何をしてるんだろう?』



シンジがそんな事を考えていると、シンジの隣に1人の少女が座ってきた。

その時ほどシンジが驚いたということは言うまでもない。



「・・・ア、アスカッ!!」

「・・・えへへ、来ちゃった・・・」



シンジの驚きの声に、アスカは舌をペロッと出して言った。

シンジは思わず立ち上がってアスカに言った。



「アスカ、ついて来ないって約束しただろ!!」

「約束は破るためにあるのよ。それにアタシはあの約束した時からついて行こうって決めてたし」



平気な顔で言うアスカにシンジは声が出ない。

あの時、アスカがやけに素直だったのはそのせいだったのだ。

アスカはシンジを見て、さらに言った。



「・・・いいじゃない。・・・もしシンジが失敗したらアタシ達も死んじゃうんだから・・・。死ぬのが何日か早くなるだけよ。・・・それならアタシはシンジと一緒にいる」

「でもっ!!」

「うるさいわね!!・・・アタシにはシンジと一緒にいられない事の方が何倍も嫌よっ!!」

「・・・アスカ・・・」



アスカの眼には決して揺るがない信念が見てとれた。

シンジはそれアスカの眼を見て、自分の選択が正しいのか分からなくなった。



『僕は・・・間違ってるのかな?・・・』



明確な答えは出なかったが、正しくはないという事は分かった。

そして、シンジの心に押さえ込んできた本当の心が現れた。



『・・・・・・やっぱり僕も・・・やっぱり僕もアスカと離れたくない・・・・・・』



シンジは今までの選択をアスカのためと考えてきたが、それが正しくないと分かった瞬間にそう思った。

やっと分かったのだ。

正しい選択はアスカと共に進むことだと。



「・・・・・・ごめん、アスカ。僕が間違ってた。・・・今、分かったよ」



そのシンジの言葉を聞いた瞬間、アスカの顔が輝いた。

シンジはそのアスカの顔を見て、正しい選択はこちらだと確信した。



「じゃあ、一緒にいてもいいのね!!」

「うん・・・一緒に来て、アスカ。・・・そして、僕を助けてほしい」

「・・・うん・・・」



アスカはシンジの言葉に真っ赤になって頷いた。

その時、そんな2人に近づく少女がいた。



「あ、綾波っ!?」

「レイ!!」



その少女は間違いなくレイだった。

レイは決心すると、シンジを見つめて言った。



「碇君。・・・お願い。私も連れていって。・・・私も碇君と一緒に居たいの」

「綾波・・・」



レイは初めてわがままを言った。今までどんなことでも命令のままに行動してきたレイが、自分の意志でわがままを言ったのである。

シンジはその事に驚いたが、レイをそうまでさせた思いを考えると、とても拒否できなかった。



「・・・分かったよ、綾波。・・・綾波がそうしたいって言うなら、もう何も言わないよ。それは綾波が自分で決めたことだから・・・」

「碇君・・・ありがとう。・・・碇君ならそう言ってくれると思った・・・」



レイは自分の気持ちを理解してくれたシンジに感謝して微笑んだ。

アスカも先ほどの自分を見るようで、しょうがないわねとレイを見て苦笑した。

シンジはアスカとレイを見て新たな決意を心に誓った。



『・・・2人に悲しい思いはさせないよ。きっと成功させる。・・・いや、成功させよう。僕たち3人がいれば不可能はないよね・・・』



ようやくシンジは2人に優しく微笑み返した。



3人は今、再び人類の生きる道を創るために旅立とうとしていた。





再び空港・・・



「渚」

「何です?指令」

「・・・零号機と弐号機も輸送機に積み込んでおけ」

「おや?・・・バレましたか?」

「私は伊達にネルフの指令をしているわけではない」

「・・・はい。分かりました」



カヲルは嬉しそうに笑って言った。



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ver.-1.00 1997-11/11公開

ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!
次回予告  セラフの舞う瞬間 −第2部−  第5話 「4年」



あとがき



またお会いできましたね、Zenonです!!(^−^)〃

今回は長いですね。

ちょっと展開を急ぎすぎた所もありますが、そこはご勘弁ください。(笑)

次からようやく話も第2部に入り、この物語が本格的に始まります。



結局ドイツに旅立ったのはシンジ君、アスカ様、レイちゃんの3人。

この後はどうなるのでしょうか?

と、そこの話は色々と考えてあるのですが、書きません。

出来れば外伝として出していきたいので、そちらの方もよろしくお願いします!!



それにしてもアスカ様!!

大胆ですねぇ〜!!出だしは何だか怖いし・・・(^^;)

いや。これは情熱的と言った方がいいですね。(笑)

でも今回のことでシンジ君とアスカ様は、お互いに強くなれたのではないでしょうか?

わたくしはそう思います。



あとは渚カヲルNERV第2副指令!!(爆笑)

果たしてどういう結果になるのか楽しみですねぇ。

わたくしもこの事に関してはあまり先を考えてないんですよ。(笑)



さて次の話は一気に年代が進んで4年後ですが、次から発表スピードを落とさせていただきます。

今まで大体4日ペースでやってきましたが、7日ペースにさせていただきます。

ご了承下さい。



ではでは、また次回でお会いましょう。



 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第4話、公開です。
 

 お互いを思いやる気持ちが
 誤解さえ生みそうであったアスカとシンジ・・。
 

 二人きりの時間が、
 本当の気持ちが、

 優しく染み出し、伝わりました(^^)
 

 ドイツについて行くことになったアスカ。

 そうですよね(^^)
 そう来なくっちゃ(^^)(^^)
 

 レイも一緒ですからさぞかしドイツは大騒ぎになったことでしょう。

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 1部を書き上げたZenonさんに感想メールとご苦労様メールを送りましょう!


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