「はい」
「えっ?」
何故シンジが前に出ていったのか全く分からなかった。
そして担任の声に耳を傾ける。
トウジ達も同じ状態である。
みんな唖然とした顔をしている。
シンジはある程度の反応は予測していたが、まさかこれ程とは思っていなかった。
そんな静寂を破るように1人の女子生徒が聞いた。
「えっ?・・・ド、ドイツ」
シンジは別に悪くないのだが、何か悪いことをして怒られているかのような感覚に捕らわれた。
アスカとレイの存在のために公になっていないが、隠れファンクラブまであるほどだ。
少し事情の分かる者はネルフとの関係やエヴァの事も知っていた。
シンジは自分たちを救ってくれた、まさに英雄なのである。
しかしそんなことは一言も言わずにいて、ただでさえ非凡な容姿をしているシンジに恋い焦がれるのは当然といえただろう。
みんなそこら中で話し合っている。
「あたしの気持ちはどうなるのぉ!!碇君!!」
「シンジ君・・・・・・」
「寂しくなるけど・・・でも、ようやくオレ達にも救いの手が伸びてきたぞ」
「寂しくなるが・・・うんうん、そうだな!!」
シンジはその中でも、特にアスカの刺すような視線を強く感じていた。
そっとアスカの方を見ると怒りで震えていた。
アスカの反応が怖かったのである。
しかしシンジは今の状況が、一番最悪だったことをその時に知った。
Written by Zenon
他にアスカ、ケンスケ、ヒカリもいる。
「お前なぁ。言っとかなあかんことと、そうや無い事くらい分からんのか!!」
「シンジ!!俺達の友情はその程度だったのかっ?」
「そうよ!!水くさいわよ、碇君っ!!」
「・・・・・・」
シンジはそんなみんなの反応に後悔していた。
やはりもう少し早くに言っておくべきだったのだ。
しかしハッキリと言った。
「!?・・・よ、4年やと!!」
「シンジ・・・お前・・・」
トウジ達は長くても半年くらいで帰ってくると思っていたのだ。
アスカを見るともはや赤を通り越して青くなっている。
ヒカリはアスカから2人の状況をよく聞いていたので、今シンジとアスカが離ればなれになってしまってはどうなるか分からない丁度微妙な時期なのだと知っていた。
しかしシンジの答えは予想したとおりだった。
「そんな・・・・・・じゃあ、じゃあアスカはどうなるのよ?」
長い沈黙が辺りを包み込んだが、シンジは先ほどと変わらない声で言った。
「!?」
シンジ達の他にもかなりの生徒がクラスに残っていたが、みんな黙ってしまった。
その瞬間、
吹っ飛ぶシンジにトウジは大声で言った。
「やめろ、トウジ!!やりすぎだ!!」
クラス中が慌ただしく動いた。
その時、
その後ろにカヲルが立っている。
再びクラスは静かになった。
「綾波・・・」
その場にいた者は恐らく初めて聞くレイの叫び声だっただろう。
トウジはそれを聞くとゆっくりと立ち上がり教室を出ていった。
ケンスケもそれについて出ていく。
レイはシンジにゆっくりと近づくと、腰を下ろしてシンジの肩に手を貸した。
「あぁ・・・ごめん。綾波にまで迷惑かけて。・・・トウジは悪くない。さっきのは僕が悪いんだよ」
「・・・そんなこと無いわ」
しかし、シンジの必死の説得にそれを断念していた。
シンジがゲンドウから今まで聞いていなかった事を何もかも聞いた時、レイが自分についてくることが良いことではないと分かったのだ。
驚くべき事に、NERV司令室での『シンジについていく』という言葉は、レイが自分の意志で言った事だった。
カヲルは優しく微笑んでいる。
「いや、これくらいは何でもないさ。それよりも決心したんだね、シンジ君」
「うん。・・・父さんに全てを聞いたから・・・僕に出来ることならするって答えたよ」
「ありがとう。僕からもそう言わせてもらうよ、シンジ君。キミが決心してくれないと、今ある計画はまる潰れだからね」
「いや・・・僕の方こそ母さん達を助けてくれた事のお礼を言わなくちゃいけないのに・・・」
「そのことはもう良いんだよ。僕の意志でやっただけのことなんだから」
「ありがとう・・・」
「・・・うん」
「大歓迎だよ」
ただひたすら走っていた。
今は全てから逃げ出したかったのだ。
そしてそのままの勢いで家の中に入って自分の部屋に駆け込んだ。
もう外は少し暗くなり始めていた。
相変わらずアスカはベッドに伏せていた。
部屋に入った足音は徐々にアスカの部屋に近づいてくる。
そしてアスカの部屋の前で立ち止まるとドアを軽くノックした。
「アスカちゃん?・・・」
「・・・ママ?」
「そうよ。どうしたの?アスカちゃん」
キョウコは訳が分からなかったが、優しくアスカを抱きしめた。
10分が経った頃、アスカはようやく泣き止んだ。
その眼は赤く腫れ上がっていてアスカがどれ程激しく泣いたのかが想像できた。
キョウコはゆっくりとアスカに泣いた訳を聞き始めた。
「・・・・・・うん」
「分かった。シンジ君と喧嘩でもしたんでしょう」
「違う!!そんなんじゃないの!!」
今2人の他に家に人はなく、明かりもついていなかった。
キョウコはとりあえず興奮状態のアスカを落ち着かせるためにアスカをベッドに座らせた。
そしてもう真っ暗になった部屋に電気をつけた。
「・・・うん・・・」
しかし先ほどよりは落ち着きを取り戻していた。
キョウコは紅茶を持ってすぐに戻ってきた。
そしてアスカと同じようにベッドに座りながら紅茶をカップに注いだ。
「・・・・・・」
アスカは素直にそれを受け取った。
「うん・・・」
香しい香りが口に広がった。
「・・・・・・シンジが・・・転校するの・・・」
「まあ・・・」
「それも・・・ドイツに・・・・・・4年間・・・」
「・・・そう・・・」
「シンジは・・・それをアタシに黙ってて・・・今日いきなり担任の先生から聞いたの」
「そういうことか・・・」
アスカはまた泣きそうになるのを堪えながらハーブティーを飲んだ。
「うん」
「アスカちゃんはシンジ君のこと好きよね?」
「・・・・・・・・・・・うん・・・そうだと思う・・・」
「なら話は早いわ。・・・ついて行っちゃいなさい」
「えっ?」
キョウコは悪戯っぽく笑ってアスカを見ていた。
キョウコはアスカの笑顔が戻ると思ったが、それに反してアスカはまた下を向いた。
「・・・違うの。その事もあるけど違うの・・・・・・」
キョウコはアスカの肩に優しく手をかけて言葉を待った。
再びアスカが話し始める。
「・・・そう・・・・・・アスカちゃんはその事で悩んでたのね」
「・・・そこまでは私にも分からないわ、アスカちゃん。・・・・・・でもね。これだけは言えるわ。・・・シンジ君は決してアスカちゃんを嫌いになった訳でもなければ、拒絶したわけでもないのよ。・・・アスカちゃんの話を聞く限り、シンジ君は何かをするために転校するんじゃないの?・・・そしてそれはとってもとっても大事な事なんじゃないの?あの優しいシンジ君がアスカちんを置いてまで行かなくちゃいけない理由が他にあるんじゃないの?」
「・・・・・・」
そして何となく分かったことがあった。
確かにシンジの行動には不可解な点が多い。
アスカはキョウコの顔を見た。
キョウコは優しく笑ってアスカを見守っていた。
「そうね・・・それがいいわ。シンジ君がアスカちゃんを嫌いになるはずなんて無いんだから、きっと事実は他にあるはずよ」
「うん。・・・でもママ。何でシンジが・・・その・・・アタシを嫌いにならないとかって分かるの?」
「ユイおばさまに?」
「そう、ユイさん」
「?・・・どうしてユイおばさまに聞けば分かるの?」
「あら・・・だって、あなた達は『エヴァ』に乗ったじゃない。・・・シンクロするってどういうことか分かる?」
「・・・も・・・もしかして・・・」
キョウコは微笑んでいる。
「・・・・・・・・・いつなの?」
「知りたい?」
「うん・・・自分じゃよく分からないから・・・・・・」
「最初からよ」
「えっ?」
「最初の戦い。あの空母の上で会ったあの時。あの時からアスカちゃんの心の中にはシンジ君がいつもいたわ」
「う・・・うそ・・・」
「本当よ?」
まさか自分がそれ程早くからシンジに惹かれているとは思ってもいなかったのだ。
「うん。そうする」
アスカの心は信じられないほど落ち着いている。
今まで気づかなかったが、電気のついていないリビングには綺麗な月の光が優しく入っていた。
「えぇ〜、今日は皆さんにお知らせがあります。・・・碇君こちらへ」
それまで全く授業など聞いていなかったアスカはハッとなって教卓の方を見た。
「今回、碇シンジ君が転校する事が急遽決まりました」
『ええぇぇぇーーーーーーーーー!!!!』
殆ど悲鳴となって、それは遙か向こうの廊下まで響きわたった。
「ど、どこに転校するの?碇君・・・」
『えええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!』
今度こそ本当に全校に響くのではないかと思われる程の声になった。
シンジ本人はあまり知らないが、シンジは女子生徒からの人気がかなり高い。
「こらこら、静かにしなさい!!」
担任がクラス中の生徒に注意するが、もはや教室は収まりの聞かない状態になっていた。
「しんじらんなぁ〜い、嫌だよぉ〜!!」
泣き叫ぶ者、シンジを見てさめざめと涙を流す者、狂喜乱舞する者、別れの会を計画する者などなど色々であったが、黙ったままシンジを見ている者が約6名いた。
『・・・アスカ・・・・・・ごめん・・・』
シンジは何度もこの事を言おうとしたのだが、いざ言うときになると言い出せなかった。
第3話 「悲しみを癒やす者」
「・・・さあ、ど〜ゆ〜事か説明してもらおか」
授業が終了したと同時に、いつに無く真剣な表情のトウジがシンジの机に手を置いて迫ってきた。
「・・・ごめん、みんな。・・・何度も言おうとしたんだけど・・・言い出しにくくて」
アスカはこの場にいることはいるが、黙ったままだ。
「・・・ごめん、みんな・・・」
そうとしか言わないシンジに3人は少し口調を和らげて聞いてきた。
「それで・・・どのくらいの間、向こうに行くんや?」
その質問にシンジはまた詰まる。
「・・・4年」
その期間の長さにトウジとケンスケは再び苛立ちを募らせた。
ヒカリはそれを聞いてアスカが心配になった。
「碇君!!・・・どうしても・・・どうしても行かないといけないの?」
ヒカリはシンジの前に立ち、シンジに問いつめた。
「うん・・・絶対・・・なんだ・・・」
その言葉にシンジはビクッと反応をした。
「・・・大丈夫だよ、アスカは・・・・・・僕よりも強いんだから、・・・僕なんていなくても大丈夫だよ」
アスカはそれを聞くと突然走り出して、教室を出ていった。
「アスカっ!!」
ヒカリはアスカが教室を出たのと同時にアスカを追って走った。
バキッ!!
トウジがシンジを思い切り殴りつけた。
「シンジっ!!お前は何で惣流の気持ちを分かってやらんのや!!あんな事言うたら惣流が傷つくんは分かっとったやろがっ!!」
ケンスケが止めるが、トウジは倒れたシンジの胸ぐらを掴んで揺さぶり続けた。
パシッ!!
乾いた音と共にトウジの動きは止まった。
「綾波・・・」
トウジに平手打ちをしたのはレイだった。
「やめて!!それ以上碇君を傷つけるのなら、いくらあなたでも容赦はしない!!・・・・・・それに碇君も悩んだ末に決めたことなのよ!!・・・親友なら何で分かってあげられないの!!」
レイは普段からは信じられない声を出して言った。
教室にはシンジ、レイ、カヲルとクラスメイトの十数人だけが残った。
「大丈夫?・・・碇君」
最初レイはシンジと共にドイツへ行くと言っていた。
シンジは立ち上がると自分の鞄を差し出してくれているカヲルに気づいた。
「あ・・・ありがとう、カヲル君」
そんな会話が途切れるとシンジはレイとカヲルに言った。
「一緒に帰ろうか?綾波、カヲル君」
アスカは走っていた。
『・・・シンジのバカッ!!・・・・・・アイツが転校・・・・・・何でこんなに苦しいの?・・・』
アスカは町の中を全力で走り抜けて、真っ直ぐにマンションへと帰ってきた。
『シンジが・・・シンジが行っちゃう・・・アタシから離れて行っちゃう・・・・・・イヤよ、そんなのイヤッ!!・・・やっと・・・やっと最近分かり合えてきたって思ってたのに・・・・・・シンジはただアタシに義理で合わせてただけだったの?・・・・・・そんなのイヤッ!!』
「イヤだよ、シンジ。・・・・・・シンジぃ・・・・・・」
アスカはそのままの格好でベッドに倒れ込み、外まで聞こえるかと思われるほどの声で泣いた。
『・・・・・・アタシ・・・シンジのことが好きなの?・・・そうなの?・・・・・・』
しかしそれでも悲しみは消えることはなく、むしろ大きくなっていった。
どれくらい泣いたのだろうか?
バタン・・・
アスカはその音にびっくりして、自分の部屋の鍵を慌ててかけた。
『・・・会えない・・・・・・シンジには会えないよ・・・』
アスカは扉の前に座り込むと膝を抱え込み、再び小さく嗚咽を上げ始めた。
「いやっ!!会いたくないの!!・・・どこへでも勝手に行きなさいよっ!!」
アスカはすぐに扉の鍵を開け、扉の外に立っていたキョウコに抱きついた。
「マ・・・ママーーー!!」
そして自分の胸で声を上げて泣くアスカの頭を優しく撫で続けた。
「どうしたの?アスカちゃん。こんなに泣いて・・・学校で何かあったの?」
キョウコはそのアスカの必死の形相に驚きながらも、その心の傷が予想よりも深いことを感じた。
「とにかくもう少し落ち着いてから話しましょう。今の状態じゃあ、話にならないわ。・・・お茶でも入れるわね」
アスカは小さく返事を返すだけだった。
「ハーブティーにはね、人の気分を柔らかくする効果があるのよ」
そしてカップを1つアスカに渡す。
「こぼさないように気を付けてね、アスカちゃん」
アスカはそう言ってハーブティーをゆっくりと口にした。
『人の気持ちを柔らかく・・・か・・・何だかシンジみたい・・・』
キョウコはようやくアスカがほぼ普通の状態に戻ったのを確認すると話をきりだした。
「何があったの?アスカちゃん」
キョウコは何故こんなにもアスカが落ち込んでいるのか、理由を知って納得した。
「それでアスカちゃんは泣いてたのね」
アスカは驚いてキョウコの顔を見た。
「どうしたの?アスカちゃん・・・・・・あぁ、私のことは気にしなくて良いのよ。ちゃんと暮らしていけるから。今日もネルフで働いてきたのよ」
アスカは再び泣き始めた。
「・・・今日初めて・・・シンジがアタシを拒絶したの・・・・・・今までどんなわがままを言ってもアタシを選んでいてくれたのに・・・・・・初めてアタシを選んでくれなかったの・・・・・・だからついて行くことなんて・・・できないよ・・・・・・うぅぅ・・・」
アスカは泣きながら頷いた。
「ママ・・・シンジはもうアタシがいらなくなったちゃったのかな?・・・・・・もうアタシはシンジには必要ないのかな?・・・」
アスカはそのキョウコの言葉を聞いて、今日のことを思い返した。
『シンジはどういう理由で行くかを言ってない・・・・・・それに凄く哀しい顔をしてた・・・・・・それに昨日、ネルフから帰ってきてからどこか様子が変わってた・・・・・・あの顔は・・・まるで『使徒』と戦う前のシンジの顔・・・・・・』
少し考えただけでもそれだけの疑問が浮かんだ。
「ママ・・・アタシ、シンジに本当のことを聞いてみる。・・・それから考えるわ」
キョウコはそのアスカの問いに満面の笑みで答えた。
「ユイさんに聞いたからよ」
アスカは赤くなってキョウコに聞いた。
「そうよ・・・アスカちゃんの気持ちや考え、思っていることも全て知ってるわ。たとえばアスカちゃんがシンジ君のことをいつ頃から好きになり始めたかとかね」
それを聞いてアスカは赤くなって俯いた。
『アタシ・・・そんな頃からシンジのことを・・・』
「さあ、アスカちゃん。元気を出してシンジ君から本当のことを聞き出しなさい。いくら気まずくてもそろそろシンジ君も帰ってくるでしょうから」
そう言ってキョウコはアスカをリビングに連れていった。
『あんなに悲しかったのに・・・・・・もうなんともない・・・・・・やっぱりママは凄い・・・』
アスカは改めてキョウコに感謝した。
どもっ!!Zenonです!!(^〇^)〃
この小説を書いていると親子の絆を再認識させてもらえますねぇ。(笑)
皆さんはどう思いますか?
さて話は物語のことですが、アスカ様とキョウコさんの会話が長くなってしまいました。
わたくしもこんなに長くなるとは思ってませんでした。
そのおかげで、凄い進行の遅さになってしまいました。(て、展開が極端にいうと学校とアスカ様の部屋しかない!!)
でもって、「どうせそんなに遅いなら、とことんまでアスカ様親子を会話させよう!!」ということになったのです。
これでアスカ様とキョウコさんのキャラクターを理解してもらえたのではないでしょうか?
えっ?知ってるって?それはすみませんでした。(笑)
う〜ん、それにしてもシンジ君は幸せ者ですね。うんうん。
次回はいよいよ第1部の最終話です。
みなさん気長に待っていてください。
ではでは、また次回でお会いましょう。
Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第3話、公開です。
ああ、ありがたきは母の愛・・・
シンジの一言で傷付いたアスカの心。
微妙なバランスの上にある二人ですから、
ここに母の一言がなかったら・・・
若いゆえに独り善がりに突っ走ることも多い二人ですから、
ここに母の支えがなかったら・・
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さあ、訪問者の皆さん。
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