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『ここはどこだろう?・・・』


シンジは今、何もない静かな海を漂っていた。


『何だろう?・・・不思議な気分だなぁ・・・・・・凄く安心できる・・・』


シンジは海にゆっくりと漂いながら思考を走らせた。


『気持ちいいや・・・・・・それに懐かしい匂いがする・・・・・・』


その時になってシンジはようやく気づいた。


『そうか・・・・・・母さんか・・・・・・』


シンジは遙か昔の記憶に残っていた感触を思い出してそう思った。


『・・・母さん・・・』




セラフの舞う瞬間

第2話 「めぐり会う絆」


Written by Zenon





「・・・ん・・・・・・」



シンジはゆっくりと目を開ける。

その目に眩しい朝日が射し込んできた。

微かだが、鳥達の羽ばたきやお互いを呼び合う鳴き声も聞こえてくる。



『・・・朝か・・・』



シンジはまだ少し暗い部屋の時計に目を向ける。



「6時18分か・・・そろそろ起きなきゃ・・・あれ?」



シンジはその時になって、ようやく自分がユイに抱かれながら寝ていることに気づいた。

すぐ横にユイの寝顔があった。



『そうか・・・昨日は母さんと一緒に寝たんだ』



シンジは昨日、十数年ぶりに母に再会した。

それまでは『エヴァンゲリオン初号機』に取り込まれていたのだが、渚カヲルの力によってサルベージされたのだ。

それまでは誰が挑戦しても必ず失敗に終わっていた作業を、カヲルはいとも簡単にこなして見せた。



『あっ・・・カヲル君にお礼を言うのを忘れてた・・・今日こそカヲル君を探してお礼を言わないと』



昨日は感動の連続でシンジは結局カヲルにお礼を言うどころか、話をする暇もなかったのだ。



『そういえばアスカの母さんも帰ってきたんだ・・・・・・嬉しそうだったな、アスカ』



アスカの母のキョウコもユイと同じく『エヴァンゲリオン弐号機』に取り込まれていたが、それもカヲルのによってサルベージが成功している。



シンジはもう一度ユイの顔を見ると優しい極上の笑みを浮かべて、ユイを起こさぬよう気を付けながらゆっくりとベッドを抜け出る。

そしてすぐにリビングに向かった。



「おはよう、ペンペン」

「クゥー」



シンジはミサトが飼っている温泉ペンギンのペンペンに挨拶をして、手早くエ プロンを付けてキッチンに立った。

そのミサトは2組の親子に気を利かせて、リツコの所に泊まったので今日は居ない。

ミサトは一番シンジとアスカの事を心から喜んでいた。



シンジはミサトの心遣いに感謝すると朝食の献立を考え出した。

ちなみに弁当は、まだ学校が午前中で終わるのでいらなかった。



「母さんとキョウコさん。何が一番喜ぶかな?」



シンジはしばらくキョウコの事を考えて洋食にしようかとも考えたが、一番無難な和食にすることにした。



『よぉ〜し!!頑張って作って、母さんとキョウコさんに美味しいって言ってもらおう!!』



そして早速シンジは鼻歌を交えながら朝食を作り出した。

外はようやく人々が慌ただしく動き始めていた。





「まあ、美味しい!!凄いわ、このお料理!!」

「ホントね。シンジがこんなに料理がうまいなんて知らなかったわ」

「あ、ありがとう。母さん、キョウコさん・・・」



シンジは本当に嬉しそうに笑った。



「まあ、確かに不味くわないわね。何たってこの惣流・アスカ・ラングレー様が食べて上げてる位なんだから、そこそこいけるわ」

「本当ね。だって昨日アスカちゃんが『シンジの料理はすっっっごく美味しいんだから!!』って言ってたもんね」



それを聞いてアスカが料理を思い切り吹き出しそうになった。

そして火が出るのでは?と思われるほど顔を真っ赤にしながら、キョウコに猛烈な勢いで抗議した。



「ちょ、ちょっと、ママッ!!そ・・・そそ・・・それは言わない約束だったじゃない!!」

「えっ?・・・あぁ、ごめんね、アスカちゃん。ママ、すっかり忘れてたわ。昨日、『シンジに聞かれたら恥ずかしいから絶対に言わないでね』って言ってたのよね」

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」



アスカはキョウコのその言葉にもはや言葉は出ずに、ただシンジの視線から逃れるように爆発しそうな位に赤くなって俯いてしまった。



『マ、ママったら・・・な、何てことを言うのよ・・・・・・恥ずかしくて・・・シ、シンジが見れないじゃない・・・』



そんなアスカにシンジも過敏に反応して、それにつられるように赤くなった。



『・・・ア、アスカ・・・・・・』



キョウコとユイはそんな初々しい反応を見せるシンジとアスカを見て優しく微笑み、お互いを見て笑い合った。

しばらくしてキョウコがアスカに尋ねた。



「そういえばアスカちゃんはお料理は作らないの?」

「「えっ!?」」



シンジとアスカがユニゾンで答えた。2人とも顔がひきつっている。



「ア、アタシ?・・・アタシは・・・あ・・・その・・・」



シンジはアスカが困っていると見ると直ぐに助け船を出した。



「あ・・・アスカはよく僕を手伝おうか?って言ってくれるんですけど、僕がいつも断ってるから・・・」



『ナイスフォロー、シンジ!!』



そのシンジの言葉にアスカは感謝して、そのまま必死に話を続けた。



「そ、そうなのよ!!・・・ホントにシンジったら料理が好きだから・・・・・・あはははは」

「そうなんですよ・・・・・・は・・・はは」



シンジとアスカは必死に有ること無いこと喋りまくった。

それを聞いていたキョウコとユイはクスクスと笑っている。

実はこの2人、アスカが料理が全然駄目なことを知っているのである。

そしてユイとキョウコはまた先ほどのようにお互い顔を見合わせ、微笑み合う。



と、裏では少し事情は違ったが、それはそれで常に笑い声の絶えない楽しい朝食の時間になった。





「・・・・・・」

「・・・・・・」



ようやく日は高く上り始めた頃、シンジとアスカは学校に向かって歩いていた。

ミサトのマンションから学校まではそれほど離れてはいなかったが、今のシンジとアスカには永遠の時間のように感じられた。

2人は、先ほどからお互い一言も口を聞いていない。



『な、何か言いなさいよ、シンジ。・・・・・・気まずいじゃないの・・・』

『ど、どうしよう・・・・・・何て言えば良いんだろう・・・』



しかしこのままでは今日1日中このままになってしまうと感じたからか、2人は学校への道のりの半分を過ぎた頃にようやく口を開いた。



「「あの・・・」」

「「えっ!?」」



ダブルでユニゾンになるシンジとアスカ。

2人は驚いてお互いの顔を見ると、今までの気まずさが嘘のように笑った。



「ぷ・・・あはははは」

「ふふ・・・・ははは」



しばらく2人は仲良く笑い合った後、アスカの方からシンジに声をかけた。



「何やってんだろうね、アタシたち」

「うん・・・」

「あ〜あ、思いっきり笑ったらジメジメした考えなんて吹っ飛んじゃたわ」



アスカは大きく『のび』をすると、シンジの方を向いて嬉しそうに言った。



「よかったわね。手料理誉めてもらえたじゃないの」

「・・・うん。そうだね」

「ほらぁ、嬉しいんでしょ?少しは顔に出して喜びなさいよ」

「いや・・・何だかまだ信じられなくてさ。本当に帰ってきたんだね、母さん達」

「うん・・・実はアタシも夢みたいな気分なの・・・・・・でもこれは現実よ」



そう言ってアスカはシンジの頬を少し強くつねった。



「痛っ!!」

「ねっ?」

「・・・もう痛いなぁ、アスカは。もう少し手加減してよ」

「いいのよ。アンタ、鈍感だからそれ位しないと分からないのよ」

「酷いよ、アスカ」



そう言いながらもシンジは優しい笑みを浮かべている。

シンジは、心の底から平和になって良かったと感じた。

シンジはようやく本当の幸せというものを感じることが出来るようになったのだ。



「おうおう、『熱い』のう。この辺だけ気温高いんちゃうか?」

「いや違うな、トウジ。前を見ろよ。あの夫婦がいれば当然『熱く』もなるさ」

「おっ!!こら気ぃ付かんかったわ。熱の発生源がすぐ前におって発熱中やったんか?」

「おっ?またまた熱が上がったぞ、トウジ」



しかしそこにかかった声でシンジとアスカは固まった。

その声だけで相手が分かった2人は急激に赤くなったが、恥ずかしい思いのシンジとは違ってアスカは別の意味で赤くなっていた。

それを見たシンジは息を飲む。



『・・・トウジとケンスケがせめて五体無事でありますように・・・』



シンジはただそう願った。

しかしその願いは空しく引き裂かれた。

突然アスカが後ろを振り向いた。



「「ひっ!!」」



トウジとケンスケがユニゾンで短い悲鳴を上げた。



「・・・鈴原・・・相田・・・・・・処刑・・・」



『全く。・・・この2人も懲りないのかしら?』



横に立っていたヒカリはそう思うのだった。





シンジは今、NERVに向かって歩いていた。

学校はつい先ほど終わったばかりだが、それとほぼ同時にシンジの携帯電話が鳴ったのだ。



『・・・まさか父さんが僕に電話をかけてくるなんて・・・』



電話の手はゲンドウだった。

突然のことに動揺するシンジにゲンドウは短く言った。



『話がある。・・・これからネルフへ来い』



シンジが答える暇もなく電話は切れた。

しばらく呆然としていたシンジだったが、とりあえずアスカ達に話して先に帰ってもらい、自分はネルフに向かって歩いているのだ。



シンジの思考はさっきから無限回廊に迷い込んでいる。



『何で父さんが僕を直々に?・・・一体なんだろうか?』



答えを考えたところで出ないのだが、シンジはそれに気づかず考えていた。

ふと目の前を見ると目の前に指令室があった。

無意識だったが、ちゃんとここに向かっていたようだ。



「・・・・・・」



シンジは緊張しながらもドアを軽くノックした。



「父さん・・・シンジだけど・・・」

「・・・入れ」

「はい・・・」



ドアを開けたシンジはまず中を見た瞬間驚いた。

ユイとレイがいたのだ。

全く予想していなかっただけにシンジは狼狽えたが、それでも歩みを止めずに 進めたのはシンジの進歩の表れだろうか?



「・・・何?・・・話って・・・」

「・・・シンジ。お前はドイツへ行け」

「えっ・・・・・・」



シンジにこの言葉はすぐに理解できなかった。

シンジは理解した瞬間、表情が完全に固まった。



「・・・な、何て言ったの?・・・父さん・・・・・・」



弱々しい声で聞いたシンジに、ゲンドウは先ほどよりもハッキリと言った。



「お前はドイツへ行くんだ。・・・期間は4年。・・・目的は、ある組織の抑制とエヴァンゲリオンのテストなどを行ってもらう」

「・・・・・・」



シンジはガクガクと足が震えるのを感じた。



「・・・嫌だよ・・・父さん・・・」

「これは決定事項だ。・・・お前に発言権はない」



この言葉にシンジは何も考えられなくなった。

誰も何も言わない時間がしばらく続いたが、それを破ったのはレイだった。



「碇君・・・」



レイはゆっくりとシンジに近づくと、優しく手を握って言った。



「碇君・・・行くから・・・私も一緒に行くから」

「えっ?・・・」



シンジはレイのその言葉を聞いた瞬間、沸き上がる怒りを堪えきれなくなった。

それはまるで膿が破れ、血の塊が溢れ出たかのようだった。



「・・・てなんだよ・・・」

「えっ?」



シンジのその聞き取りづらい言葉に唯一反応したのはレイだけだった。

ゲンドウは眉も動かさずに動かない。



「どうしてなんだよ!!父さんは・・・父さんは今度は僕だけじゃなくて、綾波まで巻き込もうとするの?やめてよ!!もうこんな事やめてよっ!!・・・やっと見つけた幸せなのに・・・・・・やっと分かった幸せなのに・・・・・・もうこれ以上、僕から幸せを奪わないでよっ!!!」

「碇君・・・」

「シンジ・・・」



レイとユイはシンジの様子を悲痛な面もちで見つめている。

シンジは涙を流しながらゲンドウに訴えた。自分はもう戦いの道具ではないのだと訴えたのだ。



「・・・納得出来ないか?・・・シンジ・・・」

「出来るわけ・・・出来るわけないよっ!!!」

「・・・・・・ついてこい、シンジ」

「あなた・・・」



その言葉にユイがゲンドウに目で何かを伝えたが、ゲンドウは意見を曲げようとはしなかった。

それを感じたユイはシンジを見て、また黙り込んだ。



「分かったよ。行くよ・・・」

「碇君・・・」



レイはシンジの腕を掴んだままシンジの顔を見ていた。

やがて部屋を出ていったゲンドウの変わりに、ユイがシンジに声をかけた。



「シンジ・・・」

「母さん・・・」

「シンジ・・・父さんを理解してあげてね。・・・あなたの気持ちもよく分かるわ。・・・でも今一番辛いのは父さんなのよ・・・だから信じてあげて・・・・・・」



『・・・母さん・・・』



シンジには母の言うことがまるで分からなかったが、それでも母の辛い気持ち だけは痛いほど分かった。

そんなユイにシンジは少し表情を柔らかくして頷いた。



「うん・・・」



そしてシンジはゲンドウを追って部屋を出た。

何も飾り気のない通路の真ん中でシンジを待っていたゲンドウは、シンジが出てきたのを見ると何も言わずに歩き出した。



「どこへ行くの?父さん・・・」

「ついてくれば分かる」



ゲンドウはそう言ったまま黙り込んだ。





「ここだ・・・」

「ここは?」



シンジは全く知らない通路に案内されていた。

周りの通路は赤く錆びつき、とても触れるような状態ではない。

そしてどこか不快な匂いが立ちこめていて少し息苦しい。



ゲンドウはそんな中にある1つの古い電子ロックのドアの前で立ち止まってシ ンジを見た。

そのドアには辛うじて読めるほどの文字で、



  『EUTHANASIA  −DENGER− 』



と書かれていた。



「・・・ここは丁度『セントラルドグマ』の真上にあたる場所だ」

「『セントラルドグマ』・・・」



シンジも詳しくは知らなかったが、そこには『サードインパクト』を引き起こしかねないモノがあることだけは知っていた。

シンジ達はそれを守るために戦ってきたのだ。



シンジの様子をしばらく見ていたゲンドウだが、やがてドアに向かって何かの パスワードを入力し始めた。



   ゴォォォゥン・・・



そんな重々しい音と共にドアは半分まで何とか開いた。

ゲンドウが躊躇無く中にはいると、シンジも慌てて中に入った。



『寒い・・・なんて寒いんだ・・・・・・』



中はまるで巨大な冷蔵庫の中のように寒かった。

白い冷気が床から立ち上っている。

とたんに、シンジの吐く息が白くなった。

セカンドインパクト以降の年中暑い世界しか知らないシンジにとって、ここまで寒いと感じたことは殆どなかった。



ゲンドウは部屋の奥にある大きなカプセルのような物の前で立ち止まると、シンジに向かって言った。



「・・・シンジ。・・・これから話す事を知ってしまうと2度と後戻りできなくなるかもしれんぞ。・・・お前にその勇気がないのならば、即座にこの場から去ることを勧める」

「・・・いや、戻らないよ。僕はそれを聞いて父さんを理解出来るというのだったら、逃げたりはしないよ・・・」

「・・・そうか・・・」



会話が途切れたところで、ゲンドウはまた先ほどのようにカプセルに向かい、 ややゆっくりとパスワードを入力し始めた。

そしてパスワードは呆気なく入力が終わった。



   プシュー・・・



静かにそのカプセルが開きだした。

シンジは最初は中が真っ白で何も見えなかったが、しばらくすると徐々に中の物が見えだしてきた。



『何かな?これ・・・』



シンジは中の物に全く気が付かなかったが、カプセルが半分ほど開いたところで『それ』に気づいた。

シンジはあまりのことに声が出せなかった。

目を背けたかったが、視線が外そうとしても外れなかった。



「う・・・うあ・・・・・・」



シンジがうめき声のような声を上げた。

ゲンドウはじっとそのカプセルの中身を見つめ続けている。

カプセルの中には男性のものと思われる1体の亡骸が入っていた。

完全に凍ってはいたが、その亡骸の状態は酷かった。

肩の部分よりも右半身が全く無く、切れ目からは臓器がはみ出している。そして身体のあちこちには縫合をした後が無数にあった。

何よりも直視できないのは、頭部が目の下の辺りから大きく切り取られていて、 そこにあるはずの脳が無かった。



「・・・シンジ・・・シンジ!」



シンジは唖然となったまま動けなかった。

ゲンドウがシンジを呼んでいたが、シンジの耳にはまるで入らなかった。

そしてついにゲンドウが大声でシンジに叫んだ。



「聞けっ!!シンジ!!」

「・・・・・・」



その父に声にシンジはようやく顔をゲンドウに向けた。

シンジを呼ぶゲンドウの表情には明らかに悲しみが漂っていた。



「よく聞け・・・シンジ。・・・そして現実を受け止めるんだ」

「・・・どういう・・・ことなの?・・・父さん・・・」

「・・・この身体は元の私の身体だ」

「っ!?」



シンジは自分の耳を疑った。

いや、信じたくなかった。

しかしゲンドウは続けて言った。



「『セカンドインパクト』・・・・・・あの時、私もあの場所にいた。・・・ そしてこの身体は『セカンドインパクト』に巻き込まれて死に絶えてしまったのだ・・・」

「・・・・・・」

「しかし私は完全には死んでいなかったのだ。意識は確かにあった。・・・それを知ったある者たちが私の脳だけをバイオロイドに移植して生かしたのだ・・・」

「嘘だ・・・」



そう呟くシンジの肩をゲンドウが強く掴んで強い口調で言った。

シンジはゲンドウのそんな必死な姿を初めて見た。



「シンジよく聞け。・・・私はこのような情けない姿になってしまった。・・・・しかし人類を救うためにはそうまでして生きなければいけなかったのだ。・・・私が『セカンドインパクト』を深く知る数少ない1人だったのだから・・・・・・」

「とう・・・さん・・・」



ゲンドウは涙を流していた。



「分かってくれとは言わない。・・・しかし手を貸してくれ、シンジ!!今お前の力が必要なのだ・・・。お前の力が無ければ今度こそ『サードインパクト』が起きる。・・・人類が滅んでしまうのだ・・・・・・私にはこんな事を言う資格は無いのかもしれないが、お前には本当にすまないと思っている。・・・いつも冷たくお前にあたって、お前が接触を求めてきてもいつも拒絶して・・・。しかし、私は怖かったのだ。この事をお前が知ればどう思うのか。・・・・・・だから私はお前とは出来るだけ接触を避けた・・・いや、逃げたのだ・・・・・・」

「・・・父さん・・・」



シンジは今、初めてゲンドウの心の内を知って激しく後悔していた。

ゲンドウがこんなにも悩み、苦しんでいたとはまるで気づかなかった。

何故もっとゲンドウを理解しようとしなかったのだろう。

シンジは自分のことばかり考えていた自分が恥ずかしくなった。



「・・・シンジ。力を貸してくれ、シンジ。・・・もし出来るのならば私がお前に変わってやりたい。・・・しかしこれはエヴァに乗ることの出来るお前にしか出来ないことなのだ。・・・そして私の今までやってきたことを最後までやらせてくれ!!それが・・・それが1度死んだ私に出来る唯一の生きる道なのだ!!・・・人類に生きる場所を与えてくれ、シンジ!!」



ゲンドウは冷たい床に膝をつき、涙を流して訴えた。

その表情にはただ人類を死滅させないために、ただ大切な人たちを守るためだ

けに必死に生きているゲンドウの本当の顔があった。



「父さん・・・」



全てを理解したシンジにはそんなゲンドウの姿は眩しかった。

シンジは心からゲンドウに感謝した。

今までどれだけゲンドウが自分を捨てて、家族を捨ててまでも人類を救おうとしていたか分かったのだ。

シンジは人間がこれ程に優しく笑えるのだろうかというほどの笑顔でゲンドウに語りかけた。



「父さん・・・分かったから。全て分かったから・・・・・・だから立ってください」



シンジは優しくゲンドウの助け起す間、溢れる涙を堪え切れなかった。

ゲンドウもまた全てをシンジに伝え、そしてそれを理解してくれたシンジに対 して感謝して泣いた。



「・・・父さんも僕と同じなんですね。・・・苦しんでいたのは僕だけでは無かったんだ。・・・・・・僕は父さんの息子であることを誇りに思います。・・・だからこれからうわべだけでなく、心から呼ばせてください。・・・・・・『父さん』って・・・・・・」

「シンジ・・・・・・すまん、シンジ・・・・・・」



よほどシンジに冷たく接しなければいけないのが辛かったのだろうか。

ゲンドウはその事を詫びて、まるで幼い子供の様に泣いた。

シンジは長い間溝が出来ていた2人の親子の絆が、決して切れることのない強い絆になったと感じた。



NEXT

ver.-1.10 1997-11/09公開 改行方法変更
ver.-1.00 1997-11/03公開

ご意見・ご感想は zenon@mbox.kyoto-inet.or.jpまで!!
次回予告  セラフの舞う瞬間 −第1部−  第3話 「悲しみを癒やす者」



あとがき



ど〜も、Zenonです。(^ー^)〃

いやぁ〜、まいりましたよ。

今回の話のデータが完成後に1回飛んじゃって・・・(^^;)

一から書き直しで、もう大変だったんですから。

まぁ自分のミスですから仕方ないですよね。ははは。(自爆)



それはいいとして今回の話はどうですか?

いきなりラブラブな展開で始まり、後半はとてもシリアスに仕上がってます。



どうもシンジ君とゲンドウさんが理解し合えない話が多いので、こんな話にしてみました。(←理解し合える話はあっても、何故理解し合えたかの理由が明確に書かれてないものが殆どです。何故でしょうかね?)

う〜ん。実は正義の人ですね、ゲンドウさん。・・・でもバイオロイド。(笑)



話はラブラブ関係に戻りますが、1つ言い忘れていたので言っておきます。

私は基本的にはアスカ様×シンジ君信仰です。

でも、レイちゃんもかなり気に入ってます!!

お2人とも正反対ですが、とても大きな魅力を持ってらっしゃいますからね。

わたくしはどちらも好きなんです。はい。(^^;)



本当の父、ゲンドウを理解したシンジ君は果たしてどういう答えを出すのでしょうか?



ではでは、また次回でお会いましょう。



 Zenonさんの『セラフの舞う瞬間』第2話、公開です。
 

 ゲンドウのヒ・ミ・ツ・・

 まさか、死んでいたとは。
 まさか、生き返っていたとは。

 まさか人間でなかったとは。

 

 
 その秘密を知って
 ドイツ行きを受け入れたシンジ。

 ドイツでは何が待っているのでしょうか。
 

 置いてけぼり(?)のアスカと
 付いていくレイ。
 

 LASからLRSに移行か?!(^^; (;;)

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 アスカもレイも好きなZenonさんに感想メールを送りましょう!


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