「はぁ....暇ね。使徒は来ないから私の開発した秘密兵器の出番もないわ...」
アンニュイな午後を過ごす金髪の女性、赤木リツコ。
自他共に認める世紀のMADサイエンティストである。
「洗脳...英語で言うとBrain Wash...素晴らしい響きね...」
あまりに暇なのであっちにイっちゃってるリツコ。
それを横目で見ていた伊吹マヤは、「また始まった」といった感じで今まで読んでいたLAS小説が表示されているCRTに目を戻した。
ちなみに彼女がよく利用するのは「Asuka N○vel Link」である。その選択眼、データ量の多さ、異常な更新のスピード等、ここを見ればみつからないLAS小説はない。と断言してもよいだろう。余談であるが。
こんな事をしていてもお給料が貰えてしまう。実に平和である。
が、その平和も長くは続かない。
今、赤木研究室に続く廊下を一人の男が歩いていた。
7−3に分けた髪、その陰険そうな、それでいて意思の弱い眼。
しかしながら彼の口元は歪んでいた。薄く笑っている。
そして彼はその部屋の前で足を止め、静かにその戸を開けた。心が急いていたせいか、ノックもしない。結構お行儀が悪い男である。
部屋の中で背を向けてあっちにイっちゃってるリツコの姿を確認すると、とりあえず社交的な表情を浮かべつつ静かに話し掛ける。
「いやぁ、御無沙汰ですなぁ、赤木リツコ博士」
その声に気付いたのか、ゆっくりと後ろを振り向くリツコ。
しばらく何か考えているような表情を浮かべ−
間。
「......誰?」
愕然とした表情を浮かべる男。しかし侮辱されたと勘違いしたのか、先程の穏やかな挨拶とはうって変わって怒気を含む口調になる。
「私だっ!日本重化学工業共同体、J.A開発責任者の時田シロウだっ!!」
「...あぁ、名前の元ネタが『愛と幻想のファシズム』だけど、その小説の中じゃ発狂してロクな扱いを受けなかった悲しいワキ役ね」
「くっ...説明的なセリフを並べやがって....」
「で、今日はなんの用?用がないなら帰ってちょうだい。私は忙しいのよ」
今まで暇をもてあましてたくせにぃ。
「用ならあるっ!J.A完成式典の際に起こった事故についてだっ!」
「J.A?あぁ、あの手をパタパタさせる事だけが生きがいの蒸気機関で動くポンコツね」
暇だったので毒舌が唸るリツコ。頭だけでなく口もMADのようだ。
マヤは我関せず、といった表情で相変わらずLASに夢中である。
時田はキレた。マジで切れた。
「な、何っ!?私が今までの人生の大半を費やしたあの愛すべきJ.Aをポンコツだとっ!?許せんっ!5分しか動けないガラクタ人形を信仰するお前等に言われるとは心外だっ!!」
切れたのはいいがもう少し言葉を選ぶべきであった。「ガラクタ人形」の所でその整った眉がぴくんと吊りあがる。
「......なんですって?よく聞こえなかったんだけど」
薄く笑ってはいるがその周りから立ち上るオーラに時田はビビった。
常人なら失禁は必至、と言える程の見えない迫力。
「と、と、とにかくっ!このままでは納得がいかん!一度そちらのEVAとやらとうちのJAを戦わせてみたいのだが」
虚勢を張る時田。ちょっとでも気を抜けばそこにへなへなと崩れ落ちてしまうだろう。
「...................本気?(キラン)」
リツコの眼が光る。
その表情はまさに新しいおもちゃを見つけた子供のそれであった。
それを見てちょっとだけ後悔する時田。
この場に居るのは得策ではないと踏んだのか、マヤがそそくさと出て行こうとする。
「あぁ、そういうわけだから、マヤ、準備するわよ」
それを聞いてがっくりと落ちるその肩。
15分後、ジオフロントの隅の広いスペースにて。
JAを運びいれ、その足元にて待機している時田。
その向い側、50mほど離れた場所にて待機するリツコ&マヤ。
それを遠巻きに眺めるネルフ職員によって構成されている野次馬。
「こちらの準備は整った!....おや?そちらの準備ができていないようだが?もしかして怖じ気づいたとでも言いますまい?」
「....ふふふふふふ」
不敵な笑いを浮かべるリツコ。
パチン、と指を鳴らす。
ガチャン。
突然辺り一面が真っ暗になる。ジオフロントの照明が落とされたのだ。
そしてリツコが立つ後ろから、EVA初号機が、ゆっくりと出てくる。
しかもライトアップされて、BGM付きだ。(『ナディア』でガーゴイルが出てくる時の派手なヤツ)
ライトの光で浮かび上がる初号機の凶悪な顔。
「うふふふ、我がネルフのォォォ、科学力はァァァ、世界一ィィィィィ」
カタルシス全開。
腕を大きく広げて叫ぶ、すっかりイっちゃった表情のリツコ。
「先輩....格好イイです...」
それをなぜか潤んだ瞳で見つめるマヤ。
掛け値なしに格好いい登場に、野次馬からはやんややんやと喝采があがる。
それを向かい側で眺めていた時田は、「田舎に帰ろうかな」と一瞬だけ考えたという。
初号機の全身が地上に姿をあらわし、拘束具がガチャン、と音を立てて外れる。
「さて...戦いを始める前に、一つだけ確かめておくことがあるわ」
そう言ってリツコは白衣のポケットから青い小箱を取り出す。
「せ、先輩!そ、それはっ」
そう、みなさんは前回を覚えているだろうか、あの悪魔の発明、「他爆装置」がリツコの手に握られていたのだ!
マヤが止める暇なくリツコはためらいもせずにその小箱についているボタンを「ポチっとな」と押した。
間。
「.....ふ、うふふ、うふふふふうふあは」
突然狂ったように笑いだすリツコ。いや、元々狂っているのかもしれないが。
「時田シロウ敗れたりっ!」
ビッと相手を指差すリツコ。ちょっとだけ狼狽する時田。50mも離れているのでリツコが何をしていたかよくわからなかったのだ。野次馬もまた然り。
「おやおや、突然何を叫ぶかと思えば、気でも触れましたかな」
半分くらい正解。
「ふっふっふ、あなたは科学者の風上にも置けない男ね。もちろん風下にも置いてあげるつもりはないけど」
「何っ!?どういうことだっ!」
「自爆装置もつけていない巨大ロボットなんて値打ちもないわ。ただのクズよ」
「??」
釈然としない表情の時田。仕方なくマヤが解説を(遠いので大声だ)入れる。
「あのですねー!先輩が持っている装置は(かくかくしかじか)」
聞いているうちに愕然とした表情になり、冷や汗を流す時田。
それをさらに遠くで聞いていた野次馬も「おいおいシャレにならねぇぞ」といった表情。
「(自爆装置、開発の最終段階で外しといてよかった....)」
おいおい。
「あなたの敗北は決定的なようだけども、それでもまだやるつもりかしら?」
その言葉で我に帰る時田。
「も、もちろんだっ!目に物見せてくれるっ!」
その言葉を聞いてニヤリと笑うリツコ。
「うふふふ、そうこなくっちゃね。それじゃ、初号機起動っ!」
「それにしてもシンジ君、よく乗る気になってくれましたね」
「え?彼、乗ってないわよ」
「ええっ!?じゃぁあの初号機、どうやって動いてるんですか!?」
「ふっふっふ、よく聞いてくれたわ、あれこそ私の人格を移植した、史上最強のダミープラグ、A・KA・GI仕様っ!!!!!」
マヤはこの時点で「うわ、終わった」と思ったという。
そして戦闘が始まる。
リツコと時田の真ん中あたりの位置でがっぷり四つに組むJ.Aと初号機。
僅かながら押される初号機。
「無駄無駄無駄ァァ!!」
叫ぶリツコ、それに呼応するかのようにじりじりとJ.Aを押さえこんで行く初号機。
だがそれを見ても動じない時田。
それどころか、不敵な笑みすら浮かべている。
「ふっふっふ、赤木博士、いいのですかな?ここでJ.Aを破壊して」
「何が言いたいのかしら?」
「まさか、あれの動力をお忘れになったわけではありますまい?」
「....蒸気機関?」
マンガのようにズっこける時田。
「違うっ!原子力だ!げ・ん・し・りょ・く!」
それを聞いたマヤ、それと野次馬の血の気が一斉にさっと引いた。
野次馬の中にはすでに逃げ出し始めている者もいる。
リツコならば、プライドのためにあたり一面を放射能まみれにしてしまうことも厭わないだろう。
しばらく何か考えている様子のリツコ。
その間にも初号機はJ.Aを組み伏せ、どこから破壊したものかと思案に暮れているようだ。
「さぁ、おとなしく負けを認めないと、このジオフロントが死の世界になりますよ?」
意地悪な笑みを浮かべる時田。
下を向いていたリツコの肩が小刻みに震え出す。
勝利を確信する時田。
「(やった!ようやくこの女に一泡ふかせることができたっ!)」
しかし、次の瞬間のリツコの行動に、時田は驚愕した。
「.....ふふ、うふふふふふふ、あーっはっはっは!」
再び気が狂ったように笑いだすリツコ。いや、元からか。
「な、何がおかしい?」
「あなたが浅はかだからよ」
「な、なんだとっ!?」
「これを見てもまだそのへらず口が聞けるかしらっ!!?」
そう言って右手を大きく掲げるリツコ。その手には何か機械が握られている。
「な、なんだ?それは」
「これこそ天才赤木リツコが3日で開発した、超高機能放射能除去装置(十徳ナイフつき限定品)、名付けて、『コスモ・クリーナー・D』ィィィッ!!!!」
・・・・まんまやないけ。
「う、そ、それは懐かしい...」
狼狽する時田。
マヤはこの時「うわ、版権までヤバい」と思ったという。
そもそもこのSS自体、版権もへったくれもないのだが。
「これであのガラクタを破壊しても安・心っ!!!そんなわけだから、やっちゃってっ!!」
すでに野次馬は全員逃げてしまっていた。
破壊する箇所を決め、リツコの指令待ちとなっていた初号機は、嬉々としてJ.Aに対し、拳を振り上げた。
(あまりにも凄惨な光景の為、お見せできません)
15分後。
そこには勝利の咆哮をあげる初号機と、ただの鉄屑&原子炉と化したJ.Aの姿があった。
「あぁ....私のJ.Aが...」
J.Aの前で泣き崩れる時田。
リツコは勝利の味に酔いしれている。
「...ま、あの原子炉はウチで有効利用しましょ。それよりも....」
何かを感じ取ったのか、ゆっくりと、恐る恐る振り向く時田。
「....そ、それよりも?」
「私の午後の優雅な一時を邪魔した罪は....重いわよ?」
にっこり。
う〜んらぶりぃ。
しかしそれを見た時田の背筋には冷たいものが走る。
「わ、私をどうするつもりだ...」
「んー、そうねぇ...ふふ、ば・つ・げ・え・む、って所かしら」
そう言ってリツコは白衣のポケットから笛のような物を取り出し、一気に吹く。
...説明しよう!この笛は普通の人間には聞こえない4万ヘルツ程度の音を出し、それによって常にリツコの近くで待機している特殊部隊を呼びつけるのだっ!(おいおい)
しゅばっ
「...お呼びでしょうか、親愛なるリツコ様」
「あら、今日はまっこう、あなたが当直なの。いつも御苦労ね」
「リツコ様のお役に立てるのならば当然でございます。今日は、どのような御要件で?」
ちら、と時田の方に目配せをするリツコ。
「....いつもの所へ運んでちょうだい」
時田の表情が凍る。さしずめその表情は「世界!不思議○見」でスーパーひ○し君を没収ートされた野々○真のそれ、と言った所であろうか。
「かしこまりました。あの部屋でございますね」
「ええ。頼んだわよ」
目を見合わせ、ふっと微笑するリツコと従者まっこう。
「リツコさーまのたーめなーら、えーんやこーら」
「いぃやだぁぁぁぁぁぁぁっ」
引きずられて行く時田を眺めつつ、リツコが呟く。
「ふふ、今夜も楽しくなりそうね」
こうしてこの日も、彼女の実験室から灯が消える事はなかったそうな。
あ・と・が・き
えっと、この度めでたくD04号室のカウンタが5000ヒットを突破しました。
これもひとえにみなさんのおかげです。ありがとうございます〜。(^^)/
今後とも、よろしくお願いしますね。
さて、今回で2回目となるわけですが....
だんだんリミッタを外すコツがつかめてきました(笑)
エヴァ登場シーン、「これで出てきたらものごっつう格好ええやろなぁ」(エセ関西弁)と普段考えていたシーンです。ちなみにベストな視点はリツコさんの正面、少し見上げる形になりますかね。パースは少しキツめに、といった所でしょうか(笑)
#マクロスプ○ス4巻のあのシーン、と言えばわかるかな。
うーむ、ガーゴイルの登場する時の曲名がわからん...「じゃーんじゃじゃじゃっ、じゃーんじゃじゃじゃっ、じゃーじゃーじゃーじゃーじゃーじゃーじゃーじゃ、じゃーっじゃじゃじゃっ....」って奴(長いって)なんですが。
廉価版も出たし、サントラ買おうかな。ううむ、すっかり乗せられてるような...
エヴァ人気にあやかって、商売ウマいよなぁ...>東○EMI
さて、問題の最後のシーンですが...
まっこうさんたっての希望で、今回登場となりました。
とっさに思い付いた設定にしてはナイスだ特殊部隊(笑)
しかも当番制にしてあるから他のりっちゃん派から「出せ」と言われても安心(笑)
さてさて、ここでマヤさんから次回予告(まだ続ける気か!?)のようですよ。
「あ、こんにちわ。伊吹です。えっと、先輩がMAGIの新しいやつを作っているみたいなんです。今からこっそり覗いて...こ、これは!ね...(むがむが)」
どうやらリツコさんに捕まってしまったようです。御愁傷様。
それでは次回は(おそらく)めぞんEVA40万ヒット記念でお会いしましょう。
さんごさんのD04号室5000hit突破記念御礼SS『リっちゃんと愉快な下僕たち』JA逆襲編、公開です。
いた・・・・いた・・・
リツコさん以外に自爆装置を考えていた人が、いた・・
その名は
時田シロウ。
最終段階で外すあたりにMADとしての限界を見せる男。
そんなことでは一人前のMADには成れませんよ!
常に一歩先を見越しているリツコさんを見習いなさい!
いや、ホントに見習わられても困りますが(^^;
敵対する者を楽しみながら徹底的にヤル・・
リツコさん、凄いっす!
がんばれりっちゃん! 突っ走れ!!
さあ、訪問者の皆さん。
捕まってしまったさんごさんの無事を祈ってメールを送りましょう!