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Another 'NEON GENESIS EVANGELION' EPISODE from One More FINALE
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アスカはただ茫然と見つめていた。予想もつかない最悪の事態。
建造中としか聞かされていなかった量産機が今、目の前を舞っている。

一方、発令所も大混乱であった。戦略自衛隊の進入、攻撃、破壊工作の対処に追われ、なおかつ地上では来るはずのない量産機が投下されたのだ。

その意味をただ一人知っている冬月は誰に言うでもなく呟く。

「まさか、ここで起こすつもりだったのか!」

ゼーレは知らないのだ。初号機によるゲンドウ、レイの殺害、そしてリリスの破壊。
人類補完計画の遂行はすでに不可能となっていた。
それはすなわちゼーレ側の補完計画も不可能になったということであり、その部分においてのみ冬月の安堵にも繋がっていた。

だが、補完計画なき今、エヴァはオーバーテクノロジーであり、人類にとっては危険すぎる存在そのもの。すべてを破壊しなければならない。
冬月の科学者としての判断であった。

「弐号機は量産機の殲滅を最優先させろ!必ずだ!」

発令所に珍しく冬月の声が響く。オペレータもしばし驚愕していたが、慌てて弐号機の通信回線から命令を送る。

「アスカ、副指令からの命令よ。最優先で量産機を殲滅。援護は....期待しないで」

通常兵器はN2爆雷の投下により、98%が破壊、消滅してしまった。
また子供だけに苦しい思いをさせなければいけないのか−

今までに何度も味わった歯がゆい思い。これで最後にしたい。マヤは願った。


「殲滅....ね。9体を相手に?無理言ってくれるじゃない」

アスカは笑っていた。いつものあのエヴァで戦う時の高揚感。死に近づけば近づくほど高まるギリギリの感覚、その実感。アスカは今、生きていた。

しかし、それにしても、今回は分が悪すぎる。相手は9体。
ちらりと横に目をやる。内蔵電源は残り3分30秒を切った。

「てことは..一体につき20秒しかないじゃない」

嬉しそうな薄笑いを浮かべるアスカ。追い込まれた人間は強くなる。その強さは狂気と紙一重。それはまた、非常に脆いもの。

「.........Gehen!

弐号機の行動は素早く、適確だった。量産機の着地を狙ったのだ。
雄叫びを上げつつそのうちの一体に突進して行く。

「でぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

まだ羽根をバタつかせていた量産機は完全に不意をつかれた形となった。

神の不在の中、使徒同士の、最後の争いが始まった。







 







 




 

第26話






な夜明け

 






































 

少年は、心を閉ざしていた。狂気を上回る恐怖。
父親を自らの手で殺した感触が、彼を再び正気へと戻した。が、その反動は大きい。

「もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ、もうイヤだ....」

何百回その言葉を繰り返しただろうか。彼の耳に入るのはノイズ交じりのオペレータの通信のみ。しかしそれに耳を傾けている余裕はない。

心を閉じる彼に干渉できる者がいるとしたら−それは彼自身のみ。

一人なのに、他人を感じる。この感じは−

























 

「だれ?」

「碇シンジ」

「それは僕だ」

「僕は君だよ。前にも言っただろう?人というのは常に2人でできている、とね」

「誰とも話したくないんだ」

「自分のしたコトがようやくわかったのかい?それで今頃罪の意識に悩むのかい?」

「うるさい!だって、どうしようもなかったんだ。ああしなければ僕が壊れてしまっていた。悪いのは僕じゃない、僕じゃない、僕じゃない」

「じゃぁ結局誰が悪いんだい?君は、友達を殺し、父親を殺し....」

「やめてくれ!」

「ほら、また逃げてる」

「もうイヤだ、イヤなんだよぉ....」

「そうやって悩んだフリをすることで自分を正当化しているとでもいうのかい?」

「(無言)」

「逃げつづけるのはね、無理なんだよ。特に僕みたいな卑怯な人間はね」

「(無言)」

「他人にすがらなきゃ、生きていけないんだよ。僕みたいに臆病な人間はね」

「(無言)」

「わかっているはずだ。今自分が誰かにすがりたくてたまらないのを」

「他人....」

「そうさ。他人に受け入れてもらいたいんだよ」

「....父さん....」
『帰れ!』

「綾波.....」
『さよなら』

「....トウジ」
『殴っとかな、気ぃすまへんのや』

「ケンスケ....」
『チクショウ、トウジまでエヴァに乗れるってのに....』

「ミサトさん....」
『あんたみたいな気持ちで乗られるのは、迷惑よっ!』

「ダメなんだよ、どこまで行っても僕は一人なんだよっ!」

「一人、忘れようとしていないかい?僕等が最も求めている他人を」

「..................アスカ」

「ほう、忘れていたわけじゃなさそうだね」

「...でも、僕には求める資格すらない。使徒に攻撃されてる時に助けられなかった。病院のベッドに衰弱して寝ているのを見ても何もしてやれなかった。無力だったんだ。そんな僕が今更助けを乞う所で、ますます傷つけるだけなんだ。でも....」

「でも?」

「.....アスカじゃなきゃダメなんだ!アスカと一緒にいたいんだ!」

「勝手だね」

「....」

「でもその事実に気がついただけでも上出来だ」

「僕は....」

「今、何をするべきか、わかったのだろう?」

「アスカを....救いたい。互いに助けあわなきゃいけない」

「彼女がそれを望んでいなかったとしたら?」

「っ........」

「しかし、もう悩んでるゆとりは無さそうだよ?」

「えっ....?」



























 

「ここは.....そうか、初号機の中....」

血の匂い。ノイズの交じった通信が聞こえる。

『弐号・・・活動・界まで・・・・・と、・・・1・・・・30秒・・・」

弐号機?まさか、そんなはずが....アスカ!?

だってアスカは....

『量産・・・・撃破・・・・残り・・・』

慌てて弐号機からの音声を拾う。「EVA-02 SOUND ONLY」の文字が書かれたウィンドウが目の前に開く。続いて入ってくるノイズ交じりの声。

『でぇぇぇやぁっ!・・負けるわけ・は・いか・・のよ・・・あん・・・ちに!』

この声、間違いない。

「アスカ....うぐっ」

聞きたかった。今までずっと聞きたかった声が、アスカの声が聞こえる。
つい嗚吶を漏らしてしまう。しかし、彼の声は今のアスカには届いていないようだ。

























「活動限界まで残り1分を切りました!量産機、6体活動を停止!」

マヤの悲痛な叫びが発令所に響く。
活動限界が先か、それとも量産機をすべて停止させるのが先か。

「でえぇぇやあああああああああっ!」

笑っている。

アスカは笑っていた。戦いは時として人を狂わす。
極度の緊張と恐怖の狭間で、心が壊れないように、心を奥へ押しやる。
結果、表面に出るものは、純粋な本能、衝動、そして心の壁。



ナイフを頭部に突き立てる切り裂く、そして引き千切る
返り血を一身に浴びつづける弐号機。すでに元々赤かったボディーがさらに赤く染まって行く。あと2体。

しかし、7番目の相手に気を取られてすぎていたのが迂闊であった。
相手には感情がない。捨て身でかかってきていることを考慮すべきであった。

8体目がいつのまにか後ろに回りこんでいた。
そのまま弐号機を抱くように全力で押さえる。そして彼は−笑っていた。

「!?しまった、離せ!離しなさい!こんのぉぉぉっ!」

プログナイフは7番目との戦いで突き立てたままだ。武器はない。
拳をひたすら叩きつける。叩く、叩く、叩く。しかし離れない、放さない。





 

そして、右手にロンギヌスの槍の様なものを持った9体目の悪魔が、笑った。

















 








 



ノイズ交じりの声を聞きながら、少年は泣いていた。

行かなければ。

「今度こそアスカを助けなければいけない。そう、逃げちゃだめだ」

ちらっと顔をしかめつつ右手を見る。

「この手で」

『弐号機・・・・界まで・・・あ・・・20秒・・・』

時間が惜しい。発令所との通信回線を開く。地上に早く上がらなければ....アスカ....

「早く、僕を、僕を、早く地上に上げてください!早く!」

突然の初号機との通信復旧に驚く一同

「シンジ君!?シンジ君なの!?」

「早く!時間がないんでしょう!弐号機が、アスカがっ!」

どうやら正気に戻ってくれたようだ。安堵の表情になるマヤ、冬月。
素早くウインチのセッティングをし、初号機がロックしたのを確認すると、できうる限りの最高速度で引っ張りあげる。

「アスカ....アスカ....」

地上に出るまでの何十秒が何時間にも、何年にも感じられる。
上がるまではなにもできないのだ。自分の無力さに歯噛みする。

突然身体中に寒気が走った。そしていぶかしむ暇もなくアスカの声が響く。

『いやあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』

「アスカ?アスカっ!!アスカぁっ!!」


チクショウ、早く、早く行かなくては!
そして地上に出た初号機−シンジが見たものは−
























 

−鈍く光る二股の槍





−残酷な笑みを浮かべる二体の悪魔




そして−

























頭部を槍で貫かれている弐号機

























 

「あ、あぁ、う、うああああああああああああああああああああああああぁっ!!!」
 



































残酷な再会。残酷な現実。残酷な光景。今、目に映るなにもかもが残酷だった。

嘔吐感を覚えて手で口を押さえる。
今すぐ、何もかも破滅してしまえばいい。今すぐ、消えてしまいたい。

「....アスカ、アスカ、アスカ、アスカ、アスカぁっ!!」

悲しみには慣れたはずだった。心の痛みにも慣れたはずだった。
だがこの光景は −彼の麻痺した感情を以ってしても− 残酷すぎた。




地上に現れた初号機を見るや、残る2体の悪魔は卑猥な笑みを浮かべたかに見えた。

刹那−

 

シンジの、そして初号機の表情が険しくなる。

「.....貴様らっ!!」

そして突風が突然吹き荒れる。
量産機の片方の腕が吹き飛んだ。初号機のATフィールドの力だ。

量産機は多少なりともATフィールドを中和していたのでよかったのだが、彼らの周りで監視行動をとっていた戦自の一個師団が一瞬にして壊滅した。

夏の日差しに照らされ加熱したアスファルトに真っ赤な染みがあちこちにできる。
蒸発した赤い液体があたり一面にむっとする匂いを放った。

初号機はその力で周りに風の壁を作り−それはシンジの心情を表していた。

「アスカ....こいつらに....こんな事って.....」

彼の中の何かが、弾けた。














殺してやる
 



















 






 

























 



殺してやる 殺してやる
 









 


















殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 











 















殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 




















 

殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる 殺してやる
 
 



















殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる












 









 





「.........殺してやる、殺してやる殺してやるっ!

シンジの目に再び殺意が宿る。初号機が咆哮をあげる。

全てを振動させ、破滅に導くかのようなおぞましい雄叫び。

発令所に生き残っていた面々もその叫びに顔面を蒼白にする。

 

−そして、それは初号機の頭上、何万キロか離れた月面で起こっていた。太陽の光を受け、鈍く光り地面に刺さっている赤い二股の槍。それが何者かの力によって−ゆっくりと抜け、再びもといた場所−地球に戻ろうとしていた。

「大気圏外より急速接近中の物体あり!....まさか....」

モニターにはっきりと表示される「SPEAR OF RONGINUS」の文字。

「ロ、ロンギヌスの槍です!」

再び発令所は混乱に陥った。以前零号機が投げた際の膨大なエネルギー量。それが今、地上に向かって猛進してくるのだ。大量の雲を蒸発させ、地上に激突する−

と思われたが、初号機の頭上に今までの落下速度を無視して停止する。

力強く、槍を握りしめる初号機。明らかに量産機は狼狽した。

しかし−

「.........っ!初号機周辺に新たな高エネルギー反応!量産機のS2機関です!」

あちこちで血塗れの量産機達がゆっくりと起き上がる。それを確認すると残されていた2体は再び有利な体勢と踏んだのか、唸り声を上げ、笑ったかのように見えた。

「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

シンジが叫ぶと同時に初号機が槍を構え、屈むような体勢になる。一陣の風が吹いた。
と思ったらすでに復活した1体の懐に飛び込んでいた。コアに深々と突き刺さるロンギヌスの槍。一瞬の躊躇もない。

「殺してやる、殺してやる、殺してやるっ!!!」

コアはすでにひび割れ、初号機の頭部に血の雨が降る。口をぱっかりと開けたまま、あるいは、断末魔の絶叫をするつもりだったのか、それも叶わず、量産機の体が崩れて行く。それもまた槍の効果だろうか。量産機の体は内部から崩壊していった。
内蔵も、血も、肉も、全てが崩れていった。

「くっ、次っ!うあああああああああああっ!!」

狼狽する(かのように見える)2体目の懐に飛び込む。
腕でガードするつもりらしいが関係ない。腕に刺さる槍。それを貫通してコアに辿り付く。無理矢理こじ入れるように槍をひねる。コアにギリギリと耳障りな音がして槍が切り込んで行く。

「ぐぅっ!あああああああっ!」

シンジの表情がより一層険しくなった瞬間、槍が量産機のコアと体を貫いた。
初号機が3体目に突進していく間に崩れ、そして全てが無に帰って行った。
後に残る僅かな肉塊。しかしそれもほんの束の間、例外を許されずに崩壊していく。

「死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねっ」

量産機も確かに応戦はしていた。だが力の差がありすぎる。
「なぜ」と考える「心」が彼らにはあったのだろうか、あったとしてもそれはすでに無駄なものであり、すぐに消滅する運命なのだ。
ロンギヌスの槍の絶大な力の前に、彼らはひたすら無力であった。

武器を持ち、応戦するモノもあった。しかし初号機が下から槍で武器をハネ上げる。

「うあああああああああっ!」

次の瞬間には深々と突き刺さるロンギヌスの槍。

無駄な抵抗。先程までは立場が逆だった。弐号機の頭部に突き刺さる槍がそれを証明していた。しかし現実が彼らを追い詰める。

初めて9体目の量産機は恐怖を感じた。純粋な恐怖。

人が、神に戦いを挑むのが無謀以外の何者でもないように、今この初号機にどのようにして挑めば良いのか。考えるだけ無駄とも言えた。

目の前で行われている殺戮に対し、彼はただ、無力であった。









殺意そのものを纏う槍を持つ初号機が、すぐ目の前に迫ってきていた。










































崩壊の音、そして静寂。

9体のシ者は崩れ、その形を見る事は出来ない。神によって産み出され、最後まで人に操られ無に帰る。悲しい生命であった。

そしてジオフロントの中央に静かにたたずむ初号機。

「う.....あぁ....はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

肩で息をするシンジ。先程の戦いの中でシンジは初号機と一つになっていた。
物理的にシンクロ率で言えば100%なのだが、その概念を超えた何かが感じられた。
力が、際限の無い力が槍から、初号機から伝わる。彼は今、神に近しい存在だった。

しかしその力も今やもてあますばかりだ。シンジは最後の行動に出る事にした。


今すぐアスカの元に駆け寄りたかった。今すぐアスカの声が聞きたかった。
今すぐアスカを救ってやりたかった。今すぐアスカの痛みを取り除いてやりたかった。



だが、まだすることが、できることがある。やらなくてはいけない。
自分で考え、そして自分で決めた事。

「......んっ!」

心を開放する。魂の上層転移が始まる。神の領域にまた一歩近づき−



初号機の周りの空気が歪む。

発令所で初号機の様子をモニターしていた青葉が驚愕する。

「しょっ、初号機の反応が消失しました!」

今、彼らの目の前のスクリーンには初号機が確かに映っている。

しかしそれはただそこに初号機が「見えているように見える」だけに過ぎない。

「あっ、初号機のエネルギー反応を確認!....!?どういうことだ?...信じられません。世界各地、13ヶ所に同時に現れました!」

「ゼーレの面々に自ら手を下すつもりか....」

今の初号機には、世界のありとあらゆる物理法則が通用しない。

意識を分散させ、世界13ヶ所に同時に出現させる。その一つ一つの力は分散前の初号機には到底及ばないが、それでも人間にとってみれば驚異以外の何者でもなかった。






 



世界に散らばった初号機はほぼ同時にゼーレの人間をその右手に掴む。















 





虚勢を張るもの、命乞いをするもの、ただ恐怖に脅えるもの、何かを悟ったような表情になるもの、無表情なもの....
様々な反応があった。


ただ一つ共通していたのは、それぞれが人間らしい反応であり、そして彼らはただの、脆弱な、「人間」であった。



そして−









世界の13ヶ所で、同時に、神の名に於いて、初号機による処刑が実行された。




































「世界各地の初号機の反応、消失しました。ジオフロント内に再び初号機の反応あり」

ぼやけた感じだった初号機が再びはっきりと見えるようになった。
神の力の行使は終わったのだ。

「これで、全て終わりだ。母さん....ありがとう。でも、もうお別れだね」

シンジは一人、初号機の前に立つ。そして、願った。エヴァ初号機の消滅を。

「もうエヴァで、人に辛い思いはさせたくないんだ」

咆哮する初号機。12枚の光の羽根が背中から生える。
そして、シンジが見守る中、初号機は無へと帰ろうとしていた。

エヴァは神の名にふさわしいいでたちで、天に昇って行く。

「エヴァ初号機、成層圏を突破!高度22万メートル!」









 

咆哮する初号機。



そして−







後の世に『サードインパクト』として語り継がれる事になる。

月軌道からさらに少し外れたあたりで、初号機は自らの命を手に持った槍で絶った。


























 





全てが光に変わり、吹き飛ばされて行く。
 




























 

世界中の空が真っ白に光り、やがて元の澄み切った青空に戻った。













「さよなら....母さん」





















 


 





NEON
GENESIS
EVANGELION

 
EPISODE 26'
  

   daisy,daisy 
 



































 

少女は、気を失っていた。














何か音が聞こえる。ギシギシと。

何かが外れる音。まぶしい。

頭部に痛みが走る。

生きている。

誰かを感じる。誰かいるの?この側に。

まだ視界はぼんやりとしたままだ。

見えない。

「.......カ、ア....カっ」

何か叫んでる。

「アスカっ、アス....」

アスカ?それは私だ。誰かが私を呼んでる。

視界が開ける。

最初に目に入ったのは学生服の真っ白なYシャツ。

ゆっくりと視線を上に動かす。














「..............................シンジ」














みるみるうちに少年の目に涙が溢れる。

「!....アスカ....」

アスカに飛びつき、声を上げて泣いた。

「アスカ、アスカ、アスカぁっ」

何を泣いてるんだろう、こいつ。

「.......気持ち悪い」

「アスカ、よかった、無事で.....本当に、よかった......」

『無事』?.....そういえば、何でエントリープラグなんかに居る.....

.....エントリープラグ?

アスカの脳を、記憶のイメージが駆け巡る。




[暗いエントリープラグ]


 

[母の面影]


 

[炎上するVTOL]


 

[血塗れの量産機]


 

[鈍く光る二股の槍]


 

そして−













 

「イヤ.......」

「え?」

シンジは顔を上げる。

「イヤ、イヤ、イヤ、イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

槍で突き刺された時の感情が再び彼女を押し潰す。

「アスカ、アスカっ、アスカ!」

「イヤっ、殺してやる、殺してやる、殺してやるっ」

「アスカ、僕だよ、アスカっ」

「イヤ、いやぁ、もうイヤ、もうやめて、やめてよう.....」

どうすれば、どうすればいい?

「アスカ.....」

ぎゅっとアスカを抱きしめる。暴れてもアスカのさせるままに。じっと耐えた。
それが、たった一つの冴えたやり方−

「イヤ、もうイヤぁっ!なんであたしだけこんな目に、あたしだけ.....」

これは僕の罪だ。アスカにまた辛い思いをさせた。アスカが必死に戦っている間、ずっと僕は自分のことばかり−

「イヤっ、イヤぁ....」

限りない自己嫌悪。

アスカの力無い拳がどんどんと胸に叩きつけられる。

「イヤ......」

今は、アスカをひたすら抱擁する。安心させてやらなければいけない。

人の温もり。

「...........」

アスカの顔を恐る恐る見る。いつの間にか気を失っていたようだ。

人の温もりで安心したのか、その穏やかな表情。

助けが来るまでは、しばらくこうしていよう。




























 

アスカは地下の医療施設にとりあえず収容された。

生き残った医師の診断によれば、命に別状はなし。だが、多少記憶の混乱が見えるとのこと。だが回復は時間の問題らしい。




















 





それからというもの、毎日、少年は少女を見舞った。常に一緒に居ようと努力した。


「嫌い」
 

「側によらないで」
 

「誰?アンタ」
 

「消えてちょうだい、今すぐ」
 

「付きまとわないで」
 

「あっちにいってて」
 

「ハッキリ言って迷惑なの」
 

「しつこいわね」
 


拒絶の言葉と罵声が今日も病室に響く。

だが、少年は微笑みながらその言葉を受け止める。

何を言っていようが、アスカは、生きているのだ。

それだけが、嬉しい。

日を追うごとに、罵声の量も減って行く。

「アスカ、面会の時間終わりだっていうから、また明日来るよ」

「はんっ!二度と来ないでちょうだい、この、偽善者がっ!」









 

そして、そんな日々がしばらく続き、アスカの体がそろそろ回復するというころ、少年はある決心をする。

全部、自分で考えた事。自分で、決めた事。







 


「アスカ、今日は、その....話があるんだ」

「.........勝手に言ってれば」

「あ、うん。この街を、あ、いや、もう街って言えないけど、えっと、その、離れることにしたんだ。多分、第2東京あたりに、その、住む事になると思う。」

「......」

「その、ネルフの許可は取ったし、エヴァが無い今、僕はその、いてもどうしようもないって事になるし、この場所には辛い思い出が多すぎるんだ。」

「......」

「いや、その、もちろん楽しい事もあったけど、でも、やっぱりここに住み続けるのは辛いし、エヴァに乗る以外の、何かやりたいことも見つけたいんだ。」

「................なんでアタシにそんな事話してるのよ」

「...................アスカ」

「何よ」

「アスカに、一緒にいてほしいんだ」

「...................何を言い出すかと思えば、あんたバカぁ?」

「アスカじゃなきゃ、ダメなんだ。ずっと一緒にいたいんだ」

「勝手なコト言わな...」

「僕と一緒に、行って欲しいんだ」

「..........」

「..........」

「あたしがアンタを殺したいほど憎んでるの、知ってるでしょ」

「かまわない。アスカじゃなきゃ、ダメなんだ」

「..........」

「..........」

「はんっ、言ったわね。一生つきまとうわよ。ずっとあんたにくっついてあんたの人生、全部台無しにしてやるわ。」

「うん......」

「あんたのコト殺すかもしれないわねっ」

「アスカに殺されるのなら、かまわない」




 

束の間の静寂。
 






「はんっ、バカバカしいっ」

少年の手に伝わる少女の手のぬくもり。

少年の顔に、ほんの少しだけ驚きの表情が浮かび−

そっと目を閉じる。

「あんたを一生怨んでやるわ。1年365日、24時間ずっと恨み言を言ってやるから、絶対に離れるんじゃないわよ、もし少しでも離れたら殺すわよっ!」

「うん......」

「ちょっと、わかってんの?バカシンジ!」

「うん.....わかってるよ、アスカ」


そして−ありがとう。








































時に、西暦2016年。
 
























 



世はすべて、こともなし。
 

























 







[終劇]
 























NEXT
Version-1.00 1997-12/18公開
感想・叱咤・激励・「それでいいんだそれで」等は こちらへ

あとがき

これが、あの劇場版に対する、俺の回答です。

.........あぁそうさ、どうせ俺はLAS者さ!(ヤケ)
アスカ&シンジらぶらぶ、最後はハッピーな話しか書けないのさ!

でもそんな自分も好きなんだ!(爆)
そうだ、僕はLAS者でありたい、LAS者でいてもいいんだ!
わーぱちぱちぱちぱちぱち、おめでとう、おめでとう、おめっとさん、めでたいなぁ.....

......とか言ってる場合でなくてさ、まぢで (^^;

好きなんですよ、こういう終わり方。

抱きつくとかキスするとか、そういうハデな幸せの表現でなく、さりげない、はっとするような感情表現、ささやかな幸せの表現がイイと思うんです。まぁそれは人それぞれですが。

ほんのりLAS、とでも申しましょうか。なにせハト派なもので(なんでやねん)
激甘なSSはなかなか書けません。だってそんな経験してないもん(正直)

めぞんへの初投稿が「My Desire」っちゅーゲロ甘なLASだったために、こっちが本当の芸風(なんだそりゃ)だと気付いている人は少ないようです(笑)

さて...次回20000ヒット記念、何やりましょうかね....ぐぅ...

.....Zzzzz....

...「或はそれも幸福のカタチ」もよろしく....むにゃむにゃ.....

(どうやらここで終わりらしいです)

 さんごさんの『もう1つの終局』後編、公開です。
 

 ホッと息を付けるエンドでしたね(^^)
 

 弱かったシンジは
 アスカを守る決意をして、

 傷付いていたアスカは
 素直でない言葉ですが目はしっかり。
 

 第2東京で始まる二人の新たなるスタート。

 暖かい物になって欲しいです。
 

 シンジにしても、
 アスカにしても、

 乗り越えなくてはならない事はあまりに多いですが、
 二人でなら、きっと、きっと・・・。
 

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
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