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「或はそれも幸福のカタチ」












第6話「First Attack」

























「.......................はぁ〜っ」

大きく今日5度目の溜め息をつくアスカ。







現在時刻は午後8時過ぎ。
普通の研究員なら今頃は家に帰ってゆっくり風呂にでも漬かっている頃だろう。

アスカの気持ちはよくわかる。

「...なんでアタシがこんな遅くまで残ってなきゃいけないのよっ!それにミサトもミサトよ、どこ行っちゃったのよあいつはっ!」

事の起こりは就業終了時間を間近に控えた午後4時半。昼からずっといなかったミサトさんが突然研究室に戻ってくるなり、「ごっめ〜ん、この前調合した奴の成分表にミスがあったらしいの。とりあえず、もう一度調合し直してくれる?」と言って去っていったことだ。

無論アスカは烈火の如く怒りだし、それをなだめるのに1時間を要した。

「ほ、ほら、アスカ、もう少し慎重に計量しないと...一応薬品なんだから」

とりあえず僕はなだめ役だ。
が、内心この時間に、研究室に二人きりというシチュエーションを多少嬉しく感じている部分もあった。
傍から見ると、多分僕は常にニコニコしているように見えるだろう。

「わかってるわよ。....??えらいアンタ機嫌良さそうね」

「えっ!?い、いや、そうかな?そうでもないけど」

さすがに「アスカと二人きりが嬉しい」と口に出すほど僕も大胆ではない。
そんな事を言うのはTVかマンガの中の人間だけだ。

僕だって恥は知っている。

調合を慎重に行っているため、時間はもう少しかかりそうだ。
僕としては何時間かかってもいいんだけど....アスカが時間に比例して不機嫌になりつつあるので、それは無理な注文というものだろう。
































「こちらL1。配置はどうか」

「こちらL2。全員所定の配置についた。『猟犬』を放ち次第化学班を残し撤退を始める」

「中の状況は確認できるか?」

「2つ3つ明かりのついている部屋があるようだが、目標との距離は離れている。問題はないものと思われる」

「了解。『猟犬』の状態は?」

「全て良好。今から操作を第2段階に移行する」

「失敗は許されない。なんとしてでも『リリス』を奪還しろ」

「了解」


































「アスカぁ、夕飯できたけど、どうする?」

「あ、今行くからちょっと待ってて、手が放せないの」

その声を聞きつつ僕は皿を小さな机に置いて行く。本来の机の用途とは違うのだが、それは運命と思って諦めてもらおう。

いい匂いが研究室の陰湿な空気を一掃していく。

「ふぅ、やっとここまで終わったわ。おまたせ」

「お疲れ様」

「...............」

一瞬、僕と皿を見比べ(?)るアスカ。

「...?どうしたの?」

「いや、なんか、新婚さんみたいねぇ〜っと思って」

にぃっと笑ってとんでもない事を言い出すアスカ。

ぐ!かはっかはっ、げほげほげほ、かはっ...と、突然何を言い出すんだよ!アスカ!」

丁度その時水を飲んでいたのでストレートに器官に入ってしまった。

「ぷっ、くくく、やだ、冗談じゃないの、何?本気にしちゃったの?あははははっ」

机の端をバンバン叩きながら大爆笑するアスカ。
僕は、その時ちょっとだけ傷ついた、と思う。

「.....」

「ちょっとシンジ、そんなに怒る事ないじゃない、ほら、ご飯ご飯!いっただっきまーす」

まだアスカは時々思い出したようにくっくっと笑っている。

「...いただきます」

憮然とした表情のまま、僕も食べ始める事にした。

食欲の前には、感情もへったくれもないのだ。

































「こちらL1。進行状況を伝えろ」

「こちらL2、現在警報装置の破壊工作中。あと1分で終了。『リリス』周辺のガードは固い模様。やはり『猟犬』に任せるしかないものと思われる」

「時間があまりない。急げ」

「了解」

































「ごちそうさまっ」

「...ごちそうさま」

僕が食器を片付け、洗っている間にアスカは作業を始める。

「さーて、再開再開、とっとと終わらして帰りましょ」

「え、あ、うん」

この分だと思ったより早く帰れそうだ。アスカの機嫌もこれ以上は悪くなる事はないだろう。

と、その時

『妙だ』

突然エヴァが話し出した。

人前での会話はバレる恐れがあるため、通常はあまり話さないようにと取り決めておいたのだが、あえてエヴァはそれを破ってきた。どうやら、よっぽどの事らしい。

「(どうしたのさ、突然?)」

『奇妙な気分だ。近くに何かの存在を感じる。よくわからない、が...これは、『懐かしい』...」

「(懐かしい?)」

しかしその会話は途中で中断される事となった。

素っ頓狂な悲鳴が耳に飛び込んで来たからだ。

「きゃぁぁっ!!」

素早くそちらに目を向けると、今まさにアスカが床のコンセントに足を引っ掛けて転ぶ所だった。(「実際よくあれでコケます」筆者談)

思わずあらら、という表情と共に苦笑する僕。

「あーあ、もう、アスカは..だいじょ.....!!」

倒れる先には何もなかったのが幸いだったが、その後が問題だった。その振動でアスカの頭上、机の上に置いてあるビーカーがグラグラと揺れている。

確かあれに入っているのは...強酸性の.......劇薬だ!!

躊躇している暇はなかった。

僕はアスカの体をかばうように覆い被さり、右手をビーカーに向けて広げる。そして一瞬でATフィールドを展開する。




右手の先に現れる八角形の赤い光の壁。




ビーカーは軽く弾き飛ばされ、こぼれた液体が床に落ちる。
アスカに被害は及ばなかったようだ。僕は安堵のあまり「はぁーっ」と大きな溜め息をつく。





しかしこの時、僕は、重大なミスをしていたんだ。









「アスカ...大丈夫?」

そう言って僕はアスカの方に目を向ける。とりあえず薬品からは守れただろう。

そこではっとなる。よく考えればこれは非常に大胆な体勢だ。
かぁーっと頭に血が昇る。

しかし、アスカは−

脅えたような目つきで僕を見つめていた。

「シンジ......今の、何?」

「(!!!しまった!!)」

致命的なミスだった。アスカは僕がフィールドを展開する様を一部始終見てしまったのだ。

「...え?な、何が?」

「何がって、今の光よ。あれって一体何なのよっ!」

アスカは依然として少し脅えた視線を崩さない。

「...そ、それは....」

もう隠しきれない。そう悟った僕は、全てをアスカに話してしまおうかとも考えた。
が、それを妨げる声。

『シンジ』

「(何だよ、こんな時にっ!)」

『問題が発生した』

「(問題?)」

『おそらく、シンジ以外の人間には阻止するのは不可能だろう』

「(何の事だかさっぱりわからないよっ!)」

『とにかく急げ。最優先事項だ』

初めて聞くエヴァの「焦る」声。その響きはいますぐにその声に従わないと、世界が破滅してしまうかのような−そんな危機感を煽るものだった。

「(....わかったよ。で、どうすればいいのさ?)」

『この部屋を出て61番通路の方角に走れ』



「...どうしたのよ?シンジ?ぼーっとしちゃって、早く説明しなさいよ」

「........アスカ....」

「え?」

「...ごめんっ!」

そう言って僕は研究室を飛び出し、走り出す。

「あ、こらっ!シンジっ!...もぉー、どうなってるのよっ!!」

後に残される憮然とした表情のアスカ。
























「こちらL2。予定より1分早いが、オペレーション『ヤペタス』、スタートする。『猟犬』はすでに放った」

「L1了解。失敗するな。化学班を除く全ての部隊は今より撤退を始める」


































僕は暗闇の中をエヴァの誘導通りに走った。

呼吸器系の改善により、息が切れる感じがさっぱりしない。

走りながらもエヴァとの会話は続く。

「もうっ、ちゃんと説明してよっ!一体なんだってのさっ!」

『....この感じ、間違いない。我々の「同胞」が近くにいる』

「同胞?他のE細胞が?」

『そうだ』

「でも、世界7ヶ所に保管されてるって...あ、そういえば、リツコさんは「奪われた」って言ってたな...」

『おそらくその7つの亜種の1つだろう』

「でもなんでこんな所にそんなのがいるのさ?」

『それは不明だ』

「...わからない事だらけだよ」

『...これは...やはりそうか!』

「何?」

『この同胞は...何かと「融合」しているようだな』

「僕とエヴァみたいに?」

『そうだ。しかし融合させられた側の「意思」が感じられない...』

「それって、「乗っ取られてる」ってこと....?」

『そうだ。あるいは...』






会話はそこまでだった。

61番通路に出る。70m程の長さを持つ通路。その端の部分に僕は立っている。

61番通路の先には研究員も滅多に近づかない「倉庫」があり、分厚い鋼鉄製の扉で固く閉ざされている。所長と一部の重役しか入れない場所であり、一生無縁だと思っていた場所だった。

なぜこんな所に連れてこられたのか、ここに何があるのか、不可解な事が多すぎた。


しばらくそこに立ち尽くしていると、通路の奥から「声」が聞こえてきた。

「倉庫」と僕のいる場所の丁度真ん中辺り。
それは「声」というよりは低い「唸り」とも言えた。全てを震わせるかのような低い旋律。

『気を付けろ、シンジ』

「えっ?何?そこに何か居るの?」

ただでさえ真っ暗で、明かりと言えば月の光だけ。
そこに突然奇妙な声、とくれば怖じ気づかない者はそうそういないだろう。

「ちょ、ちょっと、一体何が居るっていうんだよ?」

『先程言っただろう。「同胞」だ。だが、少なくとも「味方」ではない....その意思が感じられない.....どうやらこちらに気付いたようだな』

「えっ!?えっ!?」

確かに、その気配は少しずつ少しずつこちらに近づいてきている。
その度に低い唸り声も近づいてくるのがわかる。

そいつは、15mくらい離れた所で立ち止まった。
窓から差し込む月の光がそのシルエットを浮かび上がらせる。

「....!?ひぃっ!!」

それは、人間ではなかった。いや、人間だった−というべきか。確かにシルエットは人型に近い。

だが、決定的に異なる点...そう、首から上にあたる部分がない。
胸の辺りに顔らしき、仮面のようなものが見える。その2つの目−いや、穴なのかもしれない−は、漆黒の闇を灯していた。

顔の下には赤く光る光球。

肩はパッドのような物で覆われており、手と足は異常に細い。

それから一つ確実に言える事、それは、こちらにに好意は抱いてない、という事だ。




















シンジの、長い戦いの幕開けであった。



































つづく




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Version-1.00 1997-12/07公開
感想・叱咤・激励・「まだアスカの出番足りねぇぞ」等は こちらへ

あとがき

いやー、やっとアスカの出番増えました。LASを期待してたみなさん、お待ちどうさまでした。
え?まだ物足りない?...ごもっとも。でも、これからガシガシLASになっていく予定ですよん。あ、でも次回と次々回は戦闘もあるから....すいません(笑)

サキエルの姿の描写、難しいですね。
基本的にTV版の姿とまったく同じ、と考えてもらえればオッケーです。

あと、念のため言っておくと、「猟犬」=「サキエル」です。

以下余談。

前回、「まごころを、君に」のフィルムブックの事でうだうだと書いたわけですが、「Air」のフィルムブックにもちょっと...と思う所ありますので書きます。はい。

後半の某シーンでのゲンドウのセリフが、

「××××....」

となってるんすよっ!!
違う!違うだろっ!こんな重要なシーンのセリフをこんなへっぽこな書き方するとはっ!
ここはせめて「赤木リツコ君、本当に...××××....」と書くべきだろっ!
かなり絶望しました。「あぁ、これを書いた人はが足らねえな」とも思いました。
うーん、よくこんな手抜きが通ったな...

何度も言うようですが、のある本作りを希望します。まぢで。

今回執筆時のBGM−CD:「ROTTERDAM NONSTOP MEGA HARD MIX」

それでは、また次回お会いしましょう。


 さんごさんの『』公開です。
 

 アスカとシンジ二人きり(^^)

 LASLAS〜と、思っていたら・・・
 

 いきなりシンジの秘密が。
 アスカに怯えた目で見られるってのは辛そうですね・・。
 

 急展開ここだけに止まらず、
 なにやらあやしげな者達があやしい動きをあやしい所で(^^;
 

 敵意丸出しの相手をするのはシンジくん。

 心配ですね。
 

 
 さあ、訪問者の皆さん。
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