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「或はそれも幸福のカタチ」












第3話「Strange Claster」

























それは、唐突に襲ってきた。




「......っ!?ぐっ、...ああああっ!!!」

頭部に走る激痛。
あまりの痛みに声もあまり出せない。

どうしたらいいかわからずに床を転がり回るシンジ。

「くぅっ!.....ああっ....」

1秒が1時間に感じる苦痛の時。
なぜだ、どうしてだ、なぜ急にこんなことに!?

しばらくして、ぴたりと頭痛は収まった。

「.................??」

一体何が起こったのかわからずにただ唖然としているシンジ。

「....!?...あっ....」

激痛が収まったかと思えば今度は言葉には表せないほどの快感が全身を貫いた。
今まで味わった事のない恐ろしく甘美な感覚。

「くっ....ううっ....はぁっ」

気持ち良いのはいっこうに構わないのだが、それにしても不可解だ。
まるで誰かに神経を弄ばれているような−













「で、E細胞がシンジの身体に及ぼす影響は?」

「まず、神経系統の把握から始めると思われます」
















3分、いや、もしかしたら3時間かもしれない。時間の感覚が狂っていた。
先程の快感もぴたりと止み、後には荒い息を吐くシンジだけが残された。

「ちくしょう......一体何だっていうんだよぉ」

なぜか涙目のシンジ。

その後もありとあらゆる感覚が一度に襲ってきた。わけがわからないままのたうち回るシンジ。
この奇妙な現象は永遠に続くかと思われたが、1時間ほどで止んだ。
しかし苦痛を伴う1時間は体感的に何百時間という途方もなく長い時間のように感じる。

変化が、起こっていた。

ゆっくりと、確実に。






















そして日は昇り、全国的に朝が来る。
不安な夜を過ごしていたシンジもいつの間にか熟睡してしまっていたようだ。

彼の朝は早い。

朝6時を告げる目覚まし時計がその能力をフルに生かしたベルによる盛大なファンファーレを奏でる。
それを恨めしげな目で見つめ、意識がハッキリした所で時計の活動を止める。

と、時計に伸ばした右手の甲に何か違和感があることに気付く。

「.............?」

人差し指の付け根から小指の付け根にかけて赤い線のような模様がある。
じっと見つめていると、まるでそんなものは最初からなかったかのように、自然に、すっと消えてしまった。

「...??」

疑問符だらけの表情で右手を開いたり握ったりしてみる。

特にこれといって問題はない。

「気のせいか」

朝の忙しさにより、それは忘却の彼方に追いやられる事となる。
それよりも今はやらねばならないことが色々とあるのだ。

今朝は検査のために時間があまりないので簡単な朝食だ。
トースト、ハムエッグ、レタスとトマトのサラダ。
それを15分ほどで食べ終え、流しに食器を入れておく。帰ってきてから洗えばいい。













玄関のキーをロックして研究所に向かって歩きだす。
ここのキーはIDカード式、最新型だ。今はカード1枚でありとあらゆる事ができる。

研究所に向かっている間の20分。
シンジはこの時間が好きだ。朝の涼しい風が心地よく、なんとなくすがすがしい。
特に今日のような晴天の日は特にいい気分であった。
思わず微笑を浮かべつつ歩いてしまう。

と、その時

『....こ....げ..れで...』

「?」

誰かに呼び止められたのかと思い、思わず後ろを振り向く。

が、誰もいない。

元々この道は人通りが少ない上に、朝の早い時間である。

「???」

確かに誰かに話し掛けられたような...
けど周りには誰もいない。耳がおかしくなったかな?

その戸惑いの表情は研究所に着くまで消える事はなかった。
そして右手にうっすらと浮かぶ赤い模様も。


















「さて、検査の結果だけど」

リツコがカルテを片手に座っている。不安げな表情のシンジ。
じっと結果を聞くために黙っている。

それに対してリツコは、さすがに伝えづらいのか、カルテを上から下までまんべんなく眺め−そうすることによってこの事実が変わる事はないのだが−そういう仕草をしていた。

しばしの沈黙の後、リツコは思い切って口を開く。

「言いにくいことだけど...E細胞の生存を確認したわ」

シンジは、信じられない、という表情になる。

「えっ!?..だって、昨日は98%の確率で死滅するって.....」

卒倒寸前のシンジ。

「あの時はああ言っておかなければミサトも収まらないし、あなたもこの数字を知ったらその場で倒れたかもしれなかったのよ」

そう言って手元のキーボードのキーを押すリツコ。
画面に次々と図、数字が表示されて行く。その中には昨日見たDNA配列の図もあった。
そして画面の表示が急に止まり、CRTの左上に小さく表示される数字。
その数字を見たシンジはさらに驚愕する。

「こ、これって....」

そこには確かに『73.9962±0.0002%』と表示されていた。

「これがE細胞の生存確率。もっとも、現時点で100%だけど」

「で、ぼ、僕はどうなっちゃうんですか、もしかして死んじゃうとか...」

すでに半泣き。
彼の頭の中では、身体中に赤いポツポツができて喉をかきむしりながらゼイゼイ言って苦しんで死んで行く自分、というなんともB級ホラーな想像が駆け巡っていた。

「人体に投与した際の影響は未知数だわ。それよりも、何か変わった事はなかった?」

「え?.....あ、そういえば、昨夜....(かくかくしかじか)」

昨夜の奇妙な激痛の事を話すシンジ。

話終えると、リツコは何か考えているようであった。

「....やはりね」

「やはりね、って、じゃぁこうなる事を知ってたんですか!?」

「彼らはまず、自分達が今存在している世界、人体についての学習を始めるはずよ。多分その昨夜の現象は神経系統の制御系に触れた際の彼らの”実験”のようなものだわ」

確かに、それだと激痛や快感が一緒くたに来たのもうなづける。

「それと、これは最も重要なことだけど」

「何ですか?」

「E細胞は、あなたの免疫系、反射系、その他ありとあらゆる部分の再構築を行ったわ。多分遺伝子操作も可能なんでしょうね。特に免疫系は凄いわ。今後一切風邪の類はもちろん、ありとあらゆる病気にかかる事はないはずよ」

「えっ...それじゃぁ、僕の体は..」

「もうすでに、人間と比較できない構造になっているわね。ありとあらゆる数値が人間の基準で言う『デタラメ』になっているわ。もうすでにこれは神の領域ね」

すでにわけがわからないシンジ。

「えっと、それじゃぁこのE細胞って、いい細胞なんですか?」

シャレにあらず。彼にはそんな余裕のかけらもない。

「それはわからないわ。昨日も言ったけど、彼らは『知能』を持っているの。仮にシンジ君の脳とコンタクトを取って人間の存在を完全に把握したら....」

「...したら?」

「....やめましょう。推測ばかり言ってもどうしようもないわ」

「とりあえず、僕はこれからどうすればいいんですか?」

「んー、とりあえず口外は厳禁。機密事項よ。それと、今の所人体に悪い影響は出ていないので、少し様子を見ましょう。それと....」

「それと?」

「一応知的生命体なので、名前を付けましょう」

急なボケっぷりにズルっと椅子から落ちるシンジ。

「え、えっと、それじゃぁなんて呼ぶんですか?」

「そうね、その神に近い存在、それとE細胞の頭文字を取って、E・V・A−そうね、『エヴァ』と呼ぶことにしましょう」

「『エヴァ』?あの聖書に出てくる、アダムの妻の、ですか?」

変な所で博識なシンジ。

「そうよ。以後それで呼称します」

「...わ、わかりました」

「それじゃ、もう帰っていいわよ」

「あ、はい。それじゃ、失礼します」

「あ、それと」

「はい?」

「この事は、ミサトにも言わない方がいいわ」

「え?なんでですか?」

「人の口に戸は建てられぬ、ということよ」

なるほど、とシンジは苦笑した。あのミサトの事だ、絶対に秘密だ、と念をおして話した所で何日もつか。
少なくともアスカにはすぐに知れ渡ってしまうだろう。

そんな事を考えつつミサトの研究室に戻る。


















「あら、シンちゃん、どうだった?検査の結果は」

「あ、えっと、問題ないみたいでした」

「そーぅ、よかったぁー」

ほーっと大きく息を吐き出して安堵の表情を浮かべるミサト。
シンジの良心が、少しだけ、ちくりと痛んだ。

「あれ?アスカは?」

「あぁ、アスカなら今日は別の研究室よ。なぁに、シンちゃん、やっぱアスカが傍にいないと落ち着かない?」

ニヤニヤしているミサト。
シンジは途端に顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。

「いや、そんなんじゃなくて、ただ、その、どうしたんだろうなぁって....」

結局その事で30分もからかわれてしまった。
シンジが本気で怒りだす寸前で、さっと引くあたりがさすがと言えばさすがなのだが。








結局、アスカは5時まで姿を見せなかった。
さすがに一日に一度も見れないというのは少し寂しい。

白衣をロッカーに入れて帰宅の途に着く。

「それじゃ、お疲れ様でした」

「ほいほい、まった明日ね〜」

すでにミサトはビールを1本カラにしている。一年間さすがに見慣れた光景とは言え、思わず溜め息をこぼすシンジ。

すでに夕日が西の空を真っ赤に染め上げている。
その鮮やかな色はまるで血の赤だ。

今日のリツコとのやりとりを思い出すと、気が重くなる。
すでに人間でない自分、だけど外見は変りないし、こうやって普通に考え事もできる。
しかし、それにしても、自分には不可解すぎる。

「はぁ、これからどうなっちゃうんだろうなぁ」

全てをひっくるめた一言。





『問題は無い』






「!?」

確かに今声がした。近く、というよりはむしろ自分の中から湧き上がるような、頭の中に響く声。落ち着いた、よく通る声。

「えっ?だ、誰?」

それでもきょろきょろと辺りを見回すシンジ。見通しがよく効く道で、辺りに人影はない。

『ようやく、君の思考パターン、言語を把握した、この声が、聞こえているはずだ』

「えっ!!?も、もしかして、その、僕の中の...!?」

『そうだ』

「えっと、なんて言えばいいんだろ、その....」

















『そうだな、先程君達が命名した名前、『エヴァ』と呼んでくれればいい』




















つづく




Version-1.00 1997-11/16公開
感想・叱咤・激励・「アスカもっと出せ」等は こちらへ

あ・と・が・き

さぁ、やっと「あるカタ」(センスのカケラもない略し方)、第3話まで来ました。
まだまだ先は長いです。(^^;;

ようやく「エヴァ」を出す事ができました。どういう口調にするか悩んだのですが、まぁとりあえずこれで確定です。

私の書く文章ってのは細かい描写を割と省く傾向にあるので、その辺は深読みで補ってやってください。一応ちゃんとした文章を書こうと努力はしているのですが。


そうそう、書き忘れてましたが、シンジ達は研究所にいる間は基本的に私服の上に白衣を着てます。
まぁ、当り前のコトなんですが。

毎回感想を送ってくれる「Asuka Novel Link」管理者の(最近気付きました。よく利用しているのに(^^;;;;;)克美さん、ありがとうございます。(前回、名前を間違えちゃいました。すいません。へっぽこめ >俺)

以下、半分私信な話。

905のk-tarowさん、そのままイっちゃって下さい。毎回楽しみにしてるんです (^^;
A05の河井さん、アスカの出番これで減っちゃうんでしょうか(涙)
107のH.Ayanamiさん、立場的にはLAS派なんですが、2・Y・A好きです。はい。
C01のTAIKIさん、LASで終わる事を祈ってます(こらこら)

以上、最近一番注目してる作家さん達でした(笑)

今回執筆時のBGM−CD:「A NiGHTS REMIX」

それでは、次回もサービス、サービスぅ!(保証はありません)


 さんごさんの『或はそれも幸福のカタチ』第3話、公開です。
 

 シンジの中で知性を持ったEVA・・・
 

 や、やだなぁ(^^;
 自分の中に別の知性がいるなんて−−

 トイレもやだし、
 風呂もやだ。

 この先、シンジがアスカとむにゃむにゃな事になったとしたら(爆)
 EVAの知性と体力ですごいプレ(以下自主規制)
 

 今日一日いなかったアスカはどこで何をしていてたんでしょう?
 これも気になる〜

 

 

 さあ、訪問者の皆さん。
 さんごさんに感想を送りましょう! 「アスカもっと出せ」も(^^;


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